2022年7月26日火曜日

燃え尽きた灼熱の3日間   東京バレエ団ベジャール・ガラ  7月22日(金)23日(土)24日(日)


22日(金)23日(土)24日(日)、東京バレエ団ベジャール・ガラを3日間観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2022/bejart-gala/


※キャスト等はNBSホームページより

ギリシャの踊り

音楽:ミキス・テオドラキス
The performance of this work is licenced by Schott Music Co.Ltd.,Tokyo on behalf of Schott Music GmbH&Co.KG.

Ⅰイントロダクション
Ⅱパ・ド・ドゥ(二人の若者):岡崎隼也-井福俊太郎(22日、24日)  岡崎隼也-鳥海  創(23日)
Ⅲ娘たちの踊り
Ⅳ若者たちの踊り
Ⅴパ・ド・ドゥ:足立真里亜-山下湧吾(22日)  足立真里亜-樋口祐輝(23日)   工桃子-山下湧吾(24日)  
Ⅵハサピコ:伝田陽美-ブラウリオ・アルバレス(22日)   上野水香-ブラウリオ・アルバレス(23日)  政本絵美-ブラウリオ・アルバレス(24日)
Ⅶテーマとヴァリエーション
ソロ:樋口祐輝(22日)  柄本  弾(23日)  池本祥真(24日)
パ・ド・セット:
金子仁美、中川美雪、涌田美紀、髙浦由美子、中沢恵理子、工 桃子、長谷川琴音(22日)
二瓶加奈子、三雲友里加、足立真里亜、加藤くるみ、安西くるみ、上田実歩、瓜生遥花(23日)
秋山 瑛、金子仁美、涌田美紀、髙浦由美子、中沢恵理子、安西くるみ、長谷川琴音(24日)
フィナーレ:全員


昨年のベジャール・ガラに続き鑑賞。静かな波音が響く中で群舞の並びが手脚をそっと上げる振付が穏和な幕開きを彩り、すぐさま海へと誘われました。
女性は全員レオタード、男性は裸体に長いパンツであるシンプルな格好が汚れなき海の景色を引き立てる爽やかさです。
恐らくはベジャール作品の中では最もクラシックの要素を押さえた振付と思われ、群舞もあればソロ、男女2人、男性2人の場もあり。
今回3日間連続で鑑賞しようやく気づいたのは男性と女性の群舞それぞれに全く異なる動き方を同時に配し、より立体感に見える構造である点。
優しくも哀愁を含んだ曲の数々にも聴き入り、緩急自在に歌うように響くギターの音色も魅力に富んで振付と音楽が溶け合う展開に度々心癒され
笛のような楽器も用いられていて、ギリシャの伝統楽器かもしれません。踊りの見せ場が淀みなく続き、
中でも足立さんの全身から放つ晴れやかな清涼感が目も心も満たされた思いです。
パ・ド・セットにおける女性ダンサー達の徐々に急速になっていく曲調と絡むように切り替え巧みなポワントワークや上体の捻りも見事で
やがて再び大勢が舞台上に集合し点在した状態で幕開けと同じ光景を描き出すエピローグが静かな余韻を残しました。
振付はしっかりとしたクラシックを基盤にしつつ自由度を与えて膨らませた清爽な気持ち良さに、
そして場面によっては裸足であるため砂浜の感触が肌を摩る感覚にも浸れる作品です。


ロミオとジュリエット

音楽:エクトル・ベルオリーズ

ジュリエット:秋山 瑛(22日、23日)   足立真里亜(24日)
ロミオ:大塚 卓(22日、23日)   樋口祐輝(24日)

こちらも昨年に続く再演。秋山さんの物憂げと熱情双方帯びた踊りに注目し、四肢が感情を柔らかく語って愛おしいばかり。
真っ直ぐで清らかそうな、ラインも綺麗な大塚さんロミオとはふと手を取り合う箇所までもが互いを慈しむような愛情が伝わり、深く優しい愛を描画していた印象です。
足立さんは愛らしい容姿はそのままに何処か大胆なリード力も見せ、ジュリエットの闊達ぶりを受け止める大らかな樋口さんと好相性。
抱擁やポーズ1つ1つがパワーに溢れ、強く熱く決然と愛を交わす2人でした。
再度唸らせたのは抗争場面挿入の上手さで後半部分では若者達の争いに囲まれ時として巻き込まれる状況までもが描写され、実質パ・ド・ドゥ構成ではない点。
大概ならば2人の愛の交わしの場面に相応しくないと感じ取りがちでしょうが、それどころか単に幸福を謳歌するだけでない
常に危険や犠牲と隣り合わせな、命懸けの恋に走る2人をより浮き彫りにしている描写と思える秀逸な構成で
2人の白い衣装は流血を伴う争いにも負けぬ純粋な愛を象徴しているとも捉えております。
両ペアの持ち味の違いも堪能でき、また観たい作品です。


バクチⅢ

音楽:インドの伝統音楽
シャクティ:上野水香(22日、24日)   伝田陽美(23日)
シヴァ:柄本 弾(22日、24日)   宮川新大(23日)


恐らく初鑑賞作品。シャクティとシヴァのパ・ド・ドゥを軸に展開する儀式的な振付で祈りを捧げたくなる、
お香が焚かれていそうな空間彷彿の摩訶不思議な音楽にのせて展開。響いてはすぐさま消える鈴の音色も緊張感を与え、
全員赤いタイツを始めぴたりとした衣装もユニークながら燃えるような色彩感に目を奪われます。
上野さんのラインから醸す妖艶さに惹かれ、稀にポジションの組み方でひやりとした箇所はあれど
浮世離れした雰囲気、繰り出す脚線による舞台支配は思わず背筋を伸ばしたくなる踊りです。
一方伝田さんは渋味を内包し突如鮮やかに舞う厳粛な姿から目が離せず。静寂した空間であってもふと滲む情念や
片脚立ちでもう片方の脚を絡めるポーズも凛然としていて手を合わせたくなったほどでございます。


火の鳥

音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー
The performance of this work is licenced by Schott Music Co.Ltd.,Tokyo on behalf of Schott Music GmbH&Co.KG.

火の鳥:池本祥真(22日、23日)  大塚卓(24日)
フェニックス:柄本 弾
パルチザン:
伝田陽美、三雲友里加、加藤くるみ(22日、24日)
金子仁美、中川美雪、平木菜子(23日)
宮川新大、樋口祐輝、岡崎隼也、生方隆之介、鳥海  創(22日、24日)
井福俊太郎 、樋口祐輝、生方隆之介、岡﨑   司、山下湧吾(23日)


「訳あって」5年半前に作品の虜となり、念願叶ってようやく初の生鑑賞。池本さんは初日こそ緊張気味ではあったものの
翌日は瞬発力や力を押し出す跳躍の張り具合も堂々たるもの。パルチザンの隊員を率いるパワフルなリーダーとして縦横無尽に舞台を駆け抜ける活躍でした。
大塚さんは技術やコントロール力は不安定な箇所あれど、冒頭の闇深い翳りの掴みは良く、
隊員同士正面を向いて手を取り合う箇所から苦悶を溜めては静かに吐露する表現にも目を見張って再演時の主演も楽しみ。
まだリーダー成り立てほやほやな様子で伝田隊長に発破をかけられている様子も目に浮かぶ初心さもこれはこれで魅力に映り
大役経験豊富な池本さんに対して昨年の2月公演『ジゼル』ではまだウィルフリードで以降子ども眠りや
全国公演での『くるみ割り人形』主演に抜擢され始めた大塚さんは個性もキャリアも全然違っているからこそ自ずと役に表れる各々のカラーを満喫です。

そして生で全編通して鑑賞しやっとこさ分かったパルチザンの見せ所。身体から静かに発される闘志の蠢きを重低音の中での膝を曲げた低姿勢と放散による体現に
冒頭から細胞が掻き乱される感覚が肌を伝いました。作品全体を見渡すと静と動のメリハリや火の鳥とパルチザンが呼応し合う展開にも唸らせ
まだ音楽が鳴り止んでいる間に集合して正面を向き手を繋ぐポーズで空気を変えてから音楽が始まる冒頭部分や
音楽が一気に変わる中間部分に入る前も無音の中でふたたび集合しては決意を新たにする場を設け、次の躍動感溢れる場面へと一気に突入する流れが痛快。
火の鳥が跳躍を繰り返し対角線上に突っ切る最中には互いに鼓舞するように曲と連動してパルチザンも畳み掛け
四方八方で時にはソロも用意。中でも伝田さんは今回私の中で最たる光なる存在で鋭く締まりある身体の使い方に目が行き、回転から急降下しての床への這いつき体勢や
そこから火の鳥を見据える眼差し、音楽がかかる前の冒頭にて両腕をさっと差し出し、決意をぐっと滲ませる牽引も痺れました。
同じパートを踊っていらした別日の中川さんの男前な勇ましさにも驚愕です。

ところで、繰り返しにはなりますが5年半前を機にどうしても生で観たいと願ってきたこの作品。
バレエは基本生で鑑賞派で劇場空間で出会う鮮烈な感性を大切にしたいとしてきた私が珍しく何度も再生し目にした『火の鳥』映像は
全体のあらゆる部分を摘まみ出した2つのリハーサルを織り交ぜた構成で音楽は
後半部分の躍動感溢れる箇所を使用しており(当記事最下部に貼り付けました)前半部分の静かな箇所は知らぬまま時が経過。
視聴しようと思えば東京バレエ団公演DVDの入手や動画にアップされているパリ・オペラ座バレエ団の映像もあったものの
いつか生で鑑賞したときまで楽しみはとっておきたいと思い、さらりと見た程度でした。
頼みの綱は東京バレエ団公演と願って早5年半。輪になって手を触れながらの誓いや火の鳥のゆったりとしたソロ
集合しての片手を掲げるポーズへの過程を始め、流れを把握できたのは大きな収穫でございました。
さらりと視聴していながらもオペラ座の映像では主演のバンジャマン・ペッシュよりもパルチザンの1人を踊ったアリス・ルナヴァンの
潔い立ち居振る舞いや俊敏な踊りが強烈に残り、そのパートの生鑑賞も楽しみでしたので伝田さん、中川さんのダブルキャストで鑑賞できたことも幸運です。

それから火の鳥と東京バレエ団は縁深き関係にあるようで、今回のプログラムに掲載されていた斎藤友佳理監督や飯田宗孝さん、
高岸直樹さんや首藤康之さんらが出演していた1990年当時の写真からふと思い出すのは『舞楽』やノイマイヤー『月に寄せる七つの俳句』初演の頃のベジャールのインタビュー記事で
世界各地のバレエ団で『火の鳥』がレパートリー入りし新鮮さが失われる事態を避けたいため10年は上演権を引き上げて上演を取り止めていたが
しかし10年経ってベジャールのバレエ団と東京バレエ団のみ(当時)上演を許可したこと。
それから本来は上品な鳥としてイメージしていたはずがどんどん荒っぽいものになってしまったが
東京バレエ団の火の鳥は本来のイメージと合っているといった内容であったかと思います。
そして2022年、池本さんと大塚さんはそれぞれ個性こそ異なれど、荒々しさは出さず、力強くも規範から大きくはみ出さずしなやかで品格ある鳥であった印象を私は抱いており
ベジャールさん本人がご覧になったらどんな感想を口になさるか、聞いてみたいと興味が沸いてきます。


ベジャールの様々な作品を一挙に鑑賞でき、目的はさておき人生初東京バレエ団公演全日程通い詰め、5年半前から願っていた『火の鳥』生での鑑賞も遂に実現。
燃え尽きた灼熱の3日間でございました。『火の鳥』再演時も足を運ぶ気満々でおります。





ロビー入口からすぐ。赤々とした花達と火の鳥の饗宴。初めて私もこの場所で記念撮影していただきました。
シャッターを押してくださった新国立常連の方に感謝でございます。



こんなお店もございましたので記念に訪問。自家製麺火の鳥。



辛口味噌ラーメン。焦がし唐辛子のトッピングもあり、香ばしい辛さとコシが強い麺も美味しく、体内から燃えて参りました。



公演前のお昼、公演初日前日に迎えた人生の節目をお祝いしてくださいました。ありがとうございます。
昨年夏のベジャール・ガラの終演後に1人で来たお店でゆったり寛げる空間が気に入っておりましたので、嬉しい再訪です。
そのときはアルコール出せぬ宣言が一時だけ解除された時期で、記録写真に写る白ワインがその証拠。
前月はベネチア料理店でワイングラスでブドウジュースをいただいたり 、翌々週あたりからはノンアルコールビールで
気分は浦島太郎な桶に山盛りなお刺身で節目祝いをした写真が残っており、まさにつかの間のアルコール外食でございました。
こちらは今回シェアしたスープ。器が立派で、顔を突き出しているのは獅子。管理人、生まれがあと2日ほど遅ければ
獅子座でございましたが百獣の王なんぞ似合わないとしばしば言われます。
パルメザンチーズで味を整えるのも変化があって面白く、そうだ昔親がスパゲッティ用に粉チーズを取り出してくると
すかさずパルチザンチーズと口走った管理人。あのときの親の怪訝な表情は今となって実に不可解な発言であったか思い知らされます。



トマトたっぷり、赤が眩しいピザ。少し辛めでスパークリングワインが進みます。偶然にも、会場の装飾生花と似通った色合いで
火の鳥ピザか或いは今年発売から55年にあたるはず、美空ひばりさんの『真っ赤な太陽』も脳内再生。耳に残る名曲です。



初めて東京文化会館のテラスへ、自分誕生日おめでとう笑。気温は高めでしたがそよ風に包まれる中で
青空や国立西洋美術館を眺めながらの赤ワイン、美味しうございました。
生で観たいと願って願って5年半、まさか日程が節目翌日から3日間となるとは、東京バレエ団さんからのお祝いと思って乾杯です。



3回公演全て鑑賞、我が鑑賞史において記念に残る東京バレエ団公演です。



バクチの音楽を聴いているとカレーを欲したため、駅構内のこちらへ。すぐ食に走る管理人、だから体型が(以下略)
しかし美味しく味わい健康でいることが一番でしょう。飲食飲酒三昧であった三連休明けの健康診断も無事終了いたしました。
(但し結果通知はまだこれからでございます。警告系の結果が出ていませんように)
さて話をカレーに。上野ですからナンにはターバン巻いたパンダちゃんの焼印です。
夏限定レモンチキンカレーが爽やかな酸味があり、すっきり。我が王道ほうれん草カレーはぎゅっと食感と旨味が詰まっていて好みでございました。
きっと10月公演『ラ・バヤデール』終演後も上野駅周辺にてカレーを味わう自身が今から目に浮かんでおります。



初台にも時々東京バレエ団のポスターが掲示されていますので、更には指導はこのときも小林十市さんが担当されましたので以下お許しください。
5年半前2017年お正月に発見し運命の分岐点の象徴となってしまったトゥールーズ・キャピトル・バレエ団のリハーサル映像。
2017年1月最初の当ブログ記事においても酉年の幕開けにちなんでさらりと紹介いたしましたが、本音はさらりどころではなかった5年半前のお正月です。
ご年齢からは想像がつかぬ渋い貫禄、内側から沸き上がる雄々しい力強さや熱さに大衝撃でごさいました。
うう、タイムスリップして観てみたい、或いはいつの日か観たいと願望が一層強まっております。

2022年7月24日日曜日

節目2022

毎年恒例の不要不急内容でございますが悪しからず。お急ぎの方は次回をお待ちください。管理人、先日人生の節目を迎えました。
世代につきましてはひた隠して早数十年!?話を始めるとここ最近は昭和初期どころか明治或いは
ぎりぎり大政奉還に居合わせた世代とも疑われ(ギネス長寿記録どころではないと思うのだが笑。私が生まれた頃にテレビはございました)

さて、ここ約1ヶ月の最たる衝撃な出来事は先月も触れましたが新国立劇場バレエ団公演を鑑賞した群馬県高崎市での宿泊先の大浴場にあった体組成計に乗ったところ表示された
体年齢が「18歳」。世間からみれば典型的運動不足人間ですし(その割には約800日ぶりに突如90分のレッスンを受講しても
その800日以前も年に1、2回の受講である特殊な回数でありながら全く疲れず
最初からもう一度受講したいと終了直後に考えが巡ってしまう、加えて筋肉痛とは無縁であったのは
案外自分若いんちゃうか。また一応はグランジャンプにて手本を見せてくださる講師つまりは
テクニックの中でも美しい浮遊感のあるジャンプを得意とする某お方と一緒に格好はともかく同じタイミングで跳べていたと
目撃証言を複数の受講者から入手したんやから、更には久々と言いながらも隠すべき体型であるにも拘らず
これ以上身体の線の隠しようがない格好で受講もできたんやし、と一時調子に乗りかけましたがその姿勢はあきまへん)
筋力も基礎代謝量も好数値とは思えず。機械の故障を疑い、結果を鵜呑みにしないようにしておりますが
我が齢の半分未満である18歳の頃をふと思い出し、高校3年生の頃の学校生活を振り返りました。
私が通っていた学校は都立高校共学の普通科でしたが制服無し髪型も色も自由で校則が皆無に等しい、外見も内面も個性大密集型校。
しかも進学校ではなく中堅校、はっきり申し上げてしまうと偏差値の面においては下から数えたほうが早い学校で
話によれば、進学校として定評のある学校では制服無し髪型も色も自由な学校は何校もあったそうですから我が出身校は珍しい校風を持っていました。

実は『不思議の国のアリス』コーカスレースの場面に差し掛かると高校生活をつい思い出し、髪型も服装も絵の具のパレットの如く実に色とりどり。
標準カラーが茶色状態で金髪も銀髪も赤髪も青髪もいて当たり前。この校風を先生方も誇りに思っていらしたそうで、
何年も内容未更新状態であったのだろう生徒手帳配布のとき、中に書かれていた標準服のページに触れ
今は標準服も制服も髪型や色の規定も無いと明言。用意はされていた校章バッチ配布時も、付ける必要はないから家の机の引き出しにでも入れておいてと一言。
そんな学校でしたから黒髪では寧ろ目立っていたほどで、現在もお洒落に無頓着な私は昔も変わらず校風に全く染まらず
約40名のクラスで女子は2人程度であった天然記念物と呼ばれた稀少な黒髪無化粧人間でございました。
現在も時々記事で目にする、悪しき慣習としか思えぬ、例えば事情で地毛が茶色がかっている色味であっても
黒に染め直すように言われる生徒も学校によってはいると聞く話に、少なくとも私が通っていた当時の高校の先生方は首を傾げるに違いありません。
なぜここまで自由な校風にできたのか、1960年代あたりから活発化していた学生運動の影響が公立高校にも及び
自由な風土の学校が増えたと耳にしたこともございますが、高校生の年齢で私が当時に居合わせたか否かはご想像にお任せいたします。
尚、私の卒業後は制服ができたそうで、恐らくはそれに伴い髪色の校則も増えたのではなかろうかと推察。

ところで高崎での出来事がきっかけで18歳、そして高校生を自然とキーワードとして意識していたのか今夏発見。
決してありきたりではない、私の世代では珍しい部類に属したであろう我が名前と漢字は異なれど同じ響きの女子高校生が主役であるドラマがあると知りびっくり。
連続ドラマなんぞ観る習慣がない私にもかかわらず渋谷駅にも大きなポスターやエスカレーターにも貼り紙がなされていた光景を目にし
しかも毎週木曜日放送ですから節目当日も放送。録画してちらっと視聴したところ
それはそれは美人でどこか翳りのある高校生で、しかも生真面目で鬱屈した教師と関係ができてしまうだいぶ危うい展開でございました。
当たり前ですが健全を絵に描いたような学校生活を送っておりました外見も地味校生であった私とは大違い。(同じでも困るが)
ただ興味を惹かれたのは、その女子高生は文章を書く行為が好きで家族に隠れて小説を書いている点で
親との関係にも悩んでいるようですから書く行為に走って心を落ち着かせているのであろうと他人事ながら見守っております。
もう1つ、運命の出会いなる場面なる音楽室にて、ピアノの下に隠れた状態からの出会いであったこと。
全くの別世界の作品で偶々のタイミングであったのは百も承知ですが、6月からずっと観続けていたバレエ作品も初対面ではないにせよ
主役の男女が舞台上の進行で初めて会う場面はヒロインがベンチに隠れた状態からひょいっと身体を出して驚かせる振付。
物陰からの姿の現しは喜劇悲劇や芸術の分野も問わず心を掴まれる要素が詰まっているのかもしれません。
6月以降計10回、しかも高校時代を振り返るきっかけにもなった高崎でも鑑賞した作品でしたから尚のことあれやこれや考えが脳内を旋回いたしました。

さて毎度の通り話があちこちに飛び続けましたが飛ぶと言えばそうです。東京バレエ団公演ベジャール・ガラが本日無事千秋楽を迎え
5年半前に「訳あって」作品の虜になったベジャール版『火の鳥』を念願叶って初めて生で鑑賞、3日間通い詰めました。
概要や日程が発表された瞬間に私の節目の翌日から3日間!と歓喜が止まらず、東京バレエ団からの贈り物として勝手に捉え大満喫。
時折置換しての想像もついしてしまいましたが、1つ年齢が増して最初に観る記念なる公演でしたのでお許しください。
うう、ドラえもんに出会えたらタイムスリップして2016年6月のフランスのトゥールーズに連れて行ってもらうことが私の夢です。

そんなわけであちこちにまた飛び散り収拾がつかなくなりました。当ブログは来年で開設10年。
相変わらず管理人自身と同様余計な脂肪分が多く、吸引や分解に努めるもすっきり且つ知性に富んだ記事には一向にならず年々アクセス数も低下を続ける中
それでも訪れてくださっている方がいらっしゃり、本当にありがとうございます。
いつの頃からか鑑賞と飲食がセット状態となり、延々と続く習慣となる勢いではございますが、今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。





こちらも毎年恒例オリジナルデザインケーキ、今夏も構想図を持参して予約して参りました。
店主からも、毎年海の日近くの時期になるとバレエのチラシを持ってやってくる客として顔を覚えられてしまったもよう笑。
緑のクリームはミント味でございます。そして海であろうとブラジルの森であろうとタニシとサザエはお供がしたくなるそうです。
この3日間全日程鑑賞した、或いは5年半前に目にした映像にて大衝撃を受け運命の分岐点の象徴ともなった火の鳥さん及びケーキ上のウーリーモンキーさんのように
管理人、もう若いとは言い難い年齢ですが大きく舞って飛翔できる年となりますように。

※ところで7月21日放送回であったか、誕生日を迎えた主人公の様子が描かれ、自身で用意したバースデーケーキで祝う場面もあり。
偶然の連続に驚き(1人で祝っているとその後に憧れの教師がやってくる展開はやや無理があったがまあドラマですから)更には
演じる女優さんのプロフィールを確認したところ出身地と血液型は同じ、身長もほぼ同じ。
そんな人大勢いるでしょうがとのご指摘は重々承知ではあるものの、勝手に親しみと嬉しさを覚えた管理人でございます。

2022年7月22日金曜日

平和を祈願 キエフ・バレエ・ガラ2022 7月18日(月祝)





7月18日(月祝)、八王子にてキエフ・バレエ・ガラ2022を観て参りました。
https://www.koransha.com/ballet/kyivgala/


ゴパック

5年前のキエフ150周年ガラ以来、女性も大勢登場する大掛かり版で披露。この後のプログラムではクラシックをきちんと踊る姿勢に再度感嘆した
キエフのダンサー達ですがそうです、民族舞踊の訓練もしっかりとなされていて足腰の強さも驚愕。
しかも体操にならず、音楽と戯れながら観客を楽しませ手拍子も促し、場所柄多めであった子供の観客も大喜びでした。
男女とも赤系の衣装で、女性の頭に花が連なったカチューシャも可愛らしい。


ラ・シルフィード
アレクサンドラ・パンチェンコ   アンドリー・ガブリシキフ

パンチェンコはすらりと背が高く、指先や脚先から艶やかな香りを放つ色っぽい妖精。粗さが一切無い澄み切ったステップにも魅せられました。
ガブリシキフは好奇心旺盛そうな青年ジェームズ。みるみるとシルフィードの虜となり嬉々とした表情で追いかける様子も微笑ましく、浮き浮き軽快な足捌きもお手の物。
キエフのラ・シルフィードで思い出すのは現在はキエフ・バレエ団副芸術監督を務め、
今回ウクライナと日本の架け橋として奔走され、この方なしには来日公演実現も困難であったであろう寺田宜弘さんがキエフの現役時代インタビューにおいて
25年程前のバレエ雑誌であったか、全幕でジェームズを踊ったときフィリピエワにとても助けられたと語っていらした記事。
両手を胸の前で交差した妖精ポーズでジェームズに何かを訴えるフィリピエワのシルフィードの愛らしさと
困り果てる寺田さんジェームズ青年の並びの舞台写真が今も忘れられずおります。


ディアナとアクティオン
アンナ・ムロムツェワ   ニキータ・スハルコフ

ガラでの王道パ・ド・ドゥの1本。華麗な技巧の見せ場たっぷりな振付であっても、お2人とも派手さに走らず格式高く、品良く踊って魅了。(これ大事)
ムロムツェワは一見クールそうですが全身を美しく伸ばし長い手脚を持て余すことなく強弱を自在に付けながらコントロール。
スハルコフはテクニックお披露目大会状態に決してせず(私の中では本当に大事な要素!) 端正でありつつほのかに野性味も醸し、張りと抑制の効いた跳躍も惚れ惚れです。

凛とした硬質な女神と忠実な狩人といったペアで本来のギリシャ神話の展開とは異なるのでしょうが、実に品格のあるパ・ド・ドゥを堪能いたしました。


海賊より  花園
メドーラ:カテリーナ・ミクルーハ
ギュリナーラ:アレクサンドラ・パンチェンコ

ミクルーハは溌剌とした愛くるしさ、パンチェンコは流れるような美の連なりを体現。抜粋ではしばしば上演される場ですが
お2人ともクラシックをきちんと踊りつつぱっと華やぐオーラも兼備。あとにも述べますが
クラシック・バレエがいかに美しく至高の芸術であるか、再度今回のキエフのダンサー達から教わった思いがいたします。


ひまわり

葉加瀬太郎さんの馴染み深い曲に寺田宜弘さんが振り付けた作品。パステルカラーの衣装を着けた男女のダンサー達が爽やかに清らかに憧れや夢を思い描くように踊り
ベースはクラシックでありつつ深いプリエや全身を音楽を目一杯使って時に潔く大胆に自由度高く表現。
振付に込めた意味合いとして、「戦争はいつか必ず終わる」「新しい未来に向けて歩み出す若者達」と(確かこういったお話であったかと思います)
アフタートークショーにて静かにされど力強く言葉にして発していらした寺田さんのお話が今も頭を過ぎります。
11歳の頃にはキエフバレエ学校に留学され、当時の寺田さんレポート記事が掲載された書籍は今も持っておりますが
1980年代のソ連にいかにして日本人の男の子がキエフにバレエ留学できたのか当時はまことに不思議であったと
一生懸命ジャンプをするあどけない寺田さんの写真を目にし、バレエに関心を持ち始めてまだ間もなかった私は思ったものです。
あとになって寺田バレエスクールとキエフバレエ学校の姉妹校提携について知ることになったわけですが
短期ではなく長期の留学を経てそのままプロとしての歩みもウクライナを生活の拠点にされてきた
寺田さんからすれば、胸が引き裂かれる思いでこの数ヶ月過ごされてきたと察します。若者達に平和な未来が訪れるよう、切なる願いが込められたのであろう作品です。


サタネラ
カテリーナ・ミクルーハ   マクシム・パラマルチューク

ミクルーハは盤石の技術を光らせた上で魅惑的な可愛らしさを品良く明示。余計な装飾をせず音楽に気持ちを寄せながら
一音一音を大切にステップに込めている踊りやパートナー、そして観客とも会話を楽しんでいる様子がたいそう好印象でした。
パラマルチュークは実に優雅で登場時は両腕をふわりと掲げたポーズで暫し静止。レ・シルフィードの詩人を彷彿させました。
ガラでは大定番のこの作品、男性の登場の仕方が千差万別で今回のような優雅なポーズもあれば
颯爽と飛び込んでくる場合もあり、或いは舞台袖カーテンから顔をひょっこりと表して観客に笑みを送る
突撃!隣の晩ごはん風なときもあり。サタネラを観るときの我がポイントです。


瀕死の白鳥
エレーナ・フィリピエワ

ウクライナの人々の嘆きを一身に背負い舞っているかのようで人間離れした腕使いに感嘆。胸に沁みいると同時に
関節の構造を覗き見たくなったほど雄弁で柔らかな動きに見入ってしまいました。
アフタートークでの「皆さんとウクライナの人々の痛みを分かち合いたい気持ちで踊った」とのお話も心を打ち、今も思い起こされます。
19歳でのシンデレラ役デビュー時からずっと好きなダンサーで、優美であたたかな踊りを録画映像で何度観たことか。
数年前監督に就任し来日公演を楽しみにしておりましたが世界規模の感染者増加で中止になり、今ウクライナは戦禍に。
大変な状況下、少人数であっても来日が実現し嬉しさで一杯です。


バヤデルカ第2幕より

ガムザッティ:アンナ・ムロムツェワ
ソロル:ニキータ・スハルコフ
黄金の偶像:アンドリー・ガブリシキフ
マヌー:カテリーナ・デフチャローヴァ
エリザベータ・セメネンコ   アナスタシア・トキナ
太鼓:タチアナ・ソコロワ  ヴィタリー・ネトルネンコ

全幕においては嫉妬や裏切り、欲望や憎悪が絡む作品ですが抜粋の今回はそういった負の部分を出し過ぎぬ仕上がり。
ソロルがふとニキヤを思い出し考え耽る場もガムザッティはそっと手を差し出して誘ったりと執念深い凝視は抑え目で
誇り高さや物怖じせぬ堂々たる強さを全員が前面に出していた印象です。
ムロムツェワは気高いガムザッティで、近寄り難い高嶺の花な存在感と隅々まで行き渡った美しさで大らかに魅せ
スハルコフは儀式に臨むに相応しい、戦士らしい勇猛さと端正な品もバランス良く備え、大技も誇示せずされど疾走感のある踊りで魅了。
ターバンの筋の入り方が我が席からは時々給食当番の帽子に見えた瞬間もありましたが、それはそれは崇高な姫と戦士な並びも目の保養でございます。

太鼓は太鼓無しであっても男性群舞付きで全員赤い衣装姿で歯切れ良い楽しさで沸かせ、マヌーは瑞々しい愛嬌を含ませた軽やかなトリオ。
全身を金粉で塗るわけにいかずでも(黄土色の総タイツな素材であった)ふわっと浮かび上がる跳躍で盛り上げる黄金の偶像も大活躍で
オウム隊やワルツ隊不在のためコーダはチュチュ組も太鼓、マヌー、偶像も全員集合。人数の都合とは分かっていても一体感があって良き演出でした。

八王子公演限定であったのか最後は観客が一斉にひまわり団扇を掲げ、客席を背景にダンサー達が並んで集合記念写真撮影。
最初は光藍社さん側のカメラマンによる撮影で、続いてガブリシキフだったか自前のカメラで観客にも撮影を願い出て勿論客席も快く反応し再びパシャリ。
休憩を挟んでトークショーも開催され、フィリピエワ、スハルコフ、パンチェンコ、寺田さんが登壇。
今回披露した作品について、また今冬の来日公演(オペラと管弦楽団も来日)に向けての意気込み等とても真摯な語り口でお話しくださいました。
全幕物は『ドン・キホーテ』上演予定で、私の勝手な思い込みではありますが決してバジルの想像が容易ではない!?スハルコフもバジル役で出演予定とのこと。
興味が沸き是非足を運んでみたいと思っており、その前に来月お盆過ぎに出演される東京都内での舞台も鑑賞予定でおり、心待ちにしております。

総じてダンサーは皆癖が無く派手さに走らず、美しく丁寧にクラシックを踊る姿勢が好印象。サタネラやダイアナ、バヤデールの婚約式等
王道の古典を堪能すると同時に民族舞踊の面白さも再確認。双方のきめ細かな訓練の賜物なのでしょう。
大変な情勢下よくぞ来日してくださったと思いますし、国外に避難し住まいやレッスン場は確保できているにしても
故郷の惨禍はどれ程精神に堪えていることか。家族や親族を国に残している方もいるでしょうし
また自らの意志で国に残る劇場関係者も多くいると耳にしております。戦争終結を一層願う舞台でした。






フィリピエワ



スハルコフ



ムロムツェワ



お昼は吉祥寺駅近くの間借りのウクライナ料理屋さんBABUSYA REYへ。



冷たいボルシチスヴェコルニク。美味しくいただきました!ウクライナも夏は場所によっては40度超えの日もあるそうです。
左はチキンキーウ。



チキンキーウの切れ目を拡大。バターがするすると流れ出てきます。
脂身がないお肉であるため後味にしつこさが無く、ビールともよく合います。
小さなお店で少人数での利用向けですが、スタッフの皆さんもとても親切です。次はペリメニ(餃子)メニューやデザートもいただきたいと思っております。



帰り、森の中にて出会いそうなお家の内装のお店にて。 ユニークなアルコールも豊富で、
飛騨のウォッカをソーダ水で割り、自家製ジンジャーシロップを混ぜたカクテルで乾杯。芳醇さと爽快感を行き来する味でした。

2022年7月19日火曜日

ガラにおける演目選定や人選の難しさ   ロイヤル・バレエ・ガラ【Bプログラム】7月17日(日)昼





7月17日(日)、ロイヤル・バレエ・ガラ  Bプログラム昼公演を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2022/royalballet/


※ロイヤルがお好きな方には大変申し訳ございませんが、重慶の火鍋並みに辛口となっているかと思います。 
私の鑑賞眼欠乏や無知識、及び好みがずれている点が原因でございますのでご了承ください。
尚、感想はそれぞれ大変短めですのでお急ぎの方もご安心ください。
  

                         
「ジュエルズ」より"ダイヤモンド"
振付:ジョージ・バランシン 
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
サラ・ラム、平野亮一

荘厳な空間にてクラシックの真髄を散りばめられた、しかも白い衣装で一切の誤魔化しが効かぬ作品で
女王と騎士のような並びを始め格式高さがあることが理想なのだが(私の中では)、理想を高く掲げ過ぎてしまったか今一つ心残り。
ラムの精細で静謐さを纏った踊りはまずまず、平野さんはもっと濃い個性が発揮できる作品のほうが向いていそうな気がいたします。


「不思議の国のアリス」より第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:ジョビー・タルボット
高田 茜、アレクサンダー・キャンベル

抜粋向きではない作品でしょう。劇中の殆どのパ・ド・ドゥや見せ場は前場面の余韻を持ち越しつつ始まって進行していく
区切りが曖昧な展開ですから抜粋では半端な開始感に首を傾げてしまい、作品選定ミスとしか思えず。
全幕では大規模な裁判での有罪判決を覆そうとジャックによる命懸けの訴え、そして周囲の心を突き動かすアリスとジャックの壮大な愛に包まれる場面ながら
いくら高田さんとキャンベルといった本家本元のダンサーが踊っても抜粋では伝わりにくい作品であろうと捉えております。


「アフター・ザ・レイン」

振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:アルヴォ・ペルト
マリアネラ・ヌニェス、リース・クラーク
ヴァイオリン:浜野考史  ピアノ:ケイト・シップウェイ

ヌニェスとクラークのパワフルな肉体美は堪能できたが、ちょいと長い演目。
ウィールドン作品でも、好みとそうでないものが私の中でははっきりと分かれると気づいたのは収穫かもしれません。


「精霊の踊り」
振付:フレデリック・アシュトン 
音楽:クリストフ・ヴィリバルト・グルック
ウィリアム・ブレイスウェル

ブレイスウェルに淀みない柔らかさが活きる振付。ただ事情はあるにせよ白タイツ物と上半身裸体な組み合わせの演目が2本続くのはいかがなものか。


「ウィズイン・ザ・ゴールデン・アワー」

振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:エツィオ・ボッソ、アントニオ・ヴィヴァルディ
サラ・ラム、マルセリーノ・サンベ
ヴァイオリン:浜野考史  ピアノ:ロバート・クラーク

光沢のあるキラキラとした装飾を散らしたセクシーな衣装にびっくり。(英国ロイヤルが近年上演した現代作品に疎い点、お許しください)
振付が面白いか否かは別として、全編観てみたい作品です。


「ラプソディ」
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:セルゲイ・ラフマニノフ

フランチェスカ・ヘイワード、アレクサンダー・キャンベル
ピアノ:ロバート・クラーク、ケイト・シップウェイ

もう少し情感や色気が滲み出た姿や音楽と優しく溶け合う踊りが観たかったが、健康志向な趣が近年は好まれるのかもしれません。
お2人の良さが出づらい作品であったとしか思えず。


「ドン・キホーテ」より第3幕のパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ
音楽:ルトヴィク・ミンクス
ヤスミン・ナグディ、セザール・コラレス

ナグディは3年前、知人の代わりに足を運んだバレエ団来日公演での代役キトリでしたので懐かしく鑑賞。色っぽい女性で奇を衒う風味はなく、エレガント。
コラレスはガラであるとはいえどもやや飛ばし気味な印象。超絶技巧は派手に次々と繰り出してはいましたが身体の軸がばらけてしまっていたように思えます。


「タイスの瞑想曲」
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:ジュール・マスネ
サラ・ラム、平野亮一
ヴァイオリン:浜野考史  ピアノ:ロバート・クラーク

ロイヤルのダンサーが出演するガラではしばしば上演されていますが初見。(鑑賞不足をお許しください)
お2人とも茶色かオレンジ色の衣装で渋い東洋趣味な頭飾りや装いに見え、
ラムの伸びやかなライン、平野さんの盤石なサポートで音楽とともに滑らかなパ・ド・ドゥをご披露。


「インポッシブル・ヒューマン」(世界初演)
振付:アーサー・ピタ
音楽:ベヴ・リー・ハーリング
エドワード・ワトソン

暗闇であってもワトソンの身体がいたくしなやかに雄弁に語り、確か急遽出演?であったとは思えず、もっと観ていたかった作品です。


「マノン」より第1幕(寝室)のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
ヤスミン・ナグディ、リース・クラーク

ナグディは成熟した色気たっぷりなマノン、クラークはプロフィール写真の印象よりも純朴な味もあり。髪は束ねた付け毛とおリボンもして欲しかったが。


「クローマ」
振付:ウェイン・マクレガー
音楽:ジョビー・タルボット、ジャック・ホワイトⅢ
編曲:ジョビー・タルボット オーケストレーション:クリストファー・オースティン
高田 茜、マルセリーノ・サンベ

高田さんとサンベの肉体が鬩ぎ合い、お2人が持つ身体能力の高さが存分に発揮された作品で私の中では今回の白眉。
重々しい緊迫感を帯びた嵐が押し寄せ吹き荒れるような音楽も耳に残りました。


「ロミオとジュリエット」より第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
    フランチェスカ・ヘイワード、セザール・コラレス

バルコニー装置が簡素に見えたがあっただけ良し。情熱と勢いが交じわる若さの突っ走りは伝わったが、良家の子女に見えず。
私の偏った好みやヘイワードは初見、コラレスはロイヤルの中で踊る姿は初鑑賞であるためか
見慣れた作品にはなかなか結び付かず、何もかもが新鮮に映り過ぎてしまったのも原因かと思います。


「グラン・パ・クラシック」

振付:ヴィクトル・グゾフスキー
音楽:フランソワ・オーベール
マリアネラ・ヌニェス、ウィリアム・ブレイスウェル

女王然としたヌニェスの貫禄、見せ方も圧巻。ブレイスウェルはややひやりとする箇所もあれど、
丁寧で優美、そしてヌニェスにひたすらお仕えする姿は似合っていました。
女性は白いチュチュ、男性は上下が黒に近い紺色で一見シンフォニー・イン・Cにも見えてしまい
無背景でシャンデリアも無しでしたから華やぐデザインのほうが尚大トリに相応しい豪華さも表れたかと思います。

フィナーレはエチュードの終曲。気分が高揚していくこの曲、とても好きでもし男性ダンサーになったら踊ってみたい作品の1つでございます笑。
不満や要望もあれこれ募ったとは言えども基本1人何演目も兼任で少人数構成であっても様々な振付家作品、ロイヤルが誇る名作品からの抜粋も用意して
何よりまだまだ不安な状況下である最中、東京での公演が無事上演でき嬉々たる思いでおります。
来年は『ロミオとジュリエット』とミックス・プログラムな構成のガラ予定であるそうで、楽しみにお待ちしております。




帰り、渋谷駅マークシティすぐそばのビル5階のパブにて、晴れ間が射す夕刻のテラスに腰掛けロンドンエールで1人乾杯。
演目選定や配役には色々疑問あれど、無事来日しての開催ができて安堵でございます。



お店名物のフィッシュアンドチップス。大きさや一見春巻きな色合いに驚きましたが、衣が薄く、カリッと揚がっています。チップスは多め。
しかしエールを飲みながらビネガーとタルタルソース両方で味わっていると瞬く間に完食。
管理人、この翌々日が健康診断。アルコールと油分過剰摂取の結果が出ませんように。もう遅いか。

2022年7月18日月曜日

バレエカレッジ  小林十市スペシャルトーク 〜ベジャール「火の鳥」のこと。そして、これからのこと。

7月16日(土)、渋谷で開催されたバレエカレッジ  小林十市さんスペシャルトークに行って参りました。
https://balletchannel.jp/event/23847






小林さんの生のお姿拝見やお話の拝聴は初。22日から開幕する東京バレエ団ベジャール・ガラを鑑賞予定でおり
また最大の理由である5年半前のお正月に「訳あって」(余りに繰り返し述べておりますので聞き飽きた方も多いかと存じますが)
虜になった、我が人生2度目の転換期の象徴でもある
ベジャール版『火の鳥』の知識を更に得たいと思い現地にて受講いたしました。
東京バレエ団でのご指導のお話や今回『火の鳥』で主演される池本祥真さん大塚卓さんを配した理由、
踊り込んでいらっしゃるからこそ次々と飛び出す作品の特徴や魅力に度々唸り、小林さんを慕っている様子が微笑ましい池本さん大塚さんのインタビュー映像もあり。
他にも海外公演特に野外舞台でのぶっ飛び話やジル・ロマンさんとの間柄、バレエチャンネル連載記事
「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」の連載依頼エピソードについても教えてくださいました。
豊富な写真と共にユーモアに溢れたあたたかな文章で綴られ、私も毎回心待ちにしているエッセイです。
https://balletchannel.jp/genre/juichi_kobayashi


編集長であり今回の司会進行も務められた阿部さん曰く、小林さんの締切厳守徹底の姿勢(一度も遅れたことがないそうです)を絶賛され、
すると小林さんも阿部編集長の存在を褒め称え、お互いの強固な信頼関係こそ継続の秘訣であろうと感じた次第です。

小林さんの語り口は穏やかで時折ふと面白い、くすっと笑みを発してしまう発言もなさって終始素敵なお人柄に触れた思いがいたします。有意義で笑い溢れる時間でした。
今後は大変重要なポスト就任も決定し生活環境も大変化なさる旨も発表され、益々のご活躍が楽しみです。
(SNS等に綴っても問題はないそうですが、小林さんがご自身のブログでも発表されるご予定とのことで是非そちらをどうぞ)

ベジャールさんのカンパニーで長らく活躍され、現在はフリーでダンサーとして、そしてベジャール作品指導を世界各地でなさっている小林さんですが
実は私が最初に目にした写真での小林さんはスクール・オブ・アメリカン・バレエ留学後まもない頃の時期で、1980年代後半のこと。
ベジャールのバレエ団入団決定の旨は書かれていながら、当時は今以上にバレエ知識が無いに等しかった管理人。
ベジャールとは何ぞや状態でしたので代わりに頭に焼き付いたのは題名未明記であっても恐らくは
最後のポーズを取るシンフォニー・イン・C第3楽章プリンシパル役及びナポリ?で跳躍する写真。
つまり私にとっての小林さんの最初の印象はバランシンとブルノンヴィルを爽やかに踊るクラシックなお姿でございました。
同時期、東京バレエ団の勝又まゆみさんへのインタビュー記事でもベジャールさんの名が登場するも
人名か作品名か結局分からず、バレエの知識以前に日本語理解能力が欠乏しており恥ずかしや。
あれから三十数年、ベジャールとは何ぞや状態にあった当時の私が諸々経てベジャール作品に惹かれるきっかけとなった公演に指導者として携わっていらした『火の鳥』が
企画名に含まれたスペシャルトークに足を運ぶようになるとは、人生何が起こるか分からぬものです。
まずは東京バレエ団のベジャール・ガラ、満喫いたします。

※講座当日、開場時間ちょうどに到着するとまだ機材の確認作業が続いていたのか廊下で少々待ち時間がございました。
すると機材確認や検温作業に追われていらしたスタッフの方々の代わり!?に小林さんご自身がひょっこりと廊下に顔を出され、待機者一同びっくり。
やや蒸し暑い空間であったため、お祖父様のものと仰っていたかと思いますが大きなお扇子を取り出して待機者の列を扇ぎ始め
ロイヤル・バレエの公演を本日ご覧になったか質問なさったり、渋谷の街の変貌に驚いたお話や
この日お召しになっていたお洒落なシャツの模様について等、雑談プレトークで楽しませてくださいました。
このお姿こそ、私にとって初めての生・小林十市さんでした。開始前から素敵なお人柄が表れたひとときをありがとうございました。




渋谷駅の利用は数知れずで店舗が入るビルの前を何度通過したか分からぬほどですが、
駅通路から見えてプロヴァンスの文字からふと思い立ち初めて入店したロクシタン・カフェ。
野菜をふんだんに使用したメニュー多し。トッピングとレモン味のドレッシングには黄色いイモーテルの花が使われています。
実は管理人、過去に物流センターの短期勤務時にロクシタンのハンドクリームの梱包業務を行った経験があり、決して無縁ではないのです。
懐かしく思い出しながら夜の渋谷の雑踏を眺めながら白ワインで乾杯でございます。

2022年7月17日日曜日

ようやく分かった発表会定番パ・ド・ドゥの位置付け  NBAバレエ団『ラ・フィユ・マル・ガルデ』 『ブルッフ  ヴァイオリン協奏曲』7月9日(土)夜




7月9日(土)夜、NBAバレエ団『ラ・フィユ・マル・ガルデ』 『ブルッフ  ヴァイオリン協奏曲』を観て参りました。
https://nbaballet.org/official/la_fille_mal_gardee/


『ブルッフ  ヴァイオリン協奏曲』

アクア:須谷まきこ  大森康正
レッド:浅井杏里  本岡直也
ブルー:福田真帆  三船元維
ピンク:山田茉子  柳島皇瑶


NBAで観るのはかれこれ3回目。序盤の重厚な曲が奏でられる中を左右から男女ペアのコール・ドが登場する光景が視界に入った途端に
NBAを観に来た気分に浸れる、私の中ではバレエ団の看板作品です。
ソリストはアクア、レッド、ブルー、ピンクと色分けされてながらも記憶違いでなければ音楽においてはピンク以外ははっきりとした区切りがなく
余韻を引き継ぎながら流れるように登場してくる展開も魅力。 中でもレッド浅井さんの色っぽく鋼の如き強い脚力に惚れ惚れし
福田さんの音楽を優しく包むような楚々とした風情にも癒されました。
静かな空気を一変させて潔く登場したピンク山田さんの高みに到達するヴァイオリンの鋭い響きと呼応するダイナミックな踊りや
技から技への繋ぎ目に至るまで巧みな素早さにも目が行き、今年入団で急遽高橋さんの代役を務めた柳島さんの伸びやかさも好感を持った次第。

会場に掲示されたキャスト変更の告知を確認せずに鑑賞に臨んだため
ピンクを予定していた高橋さんの不在を始めコール・ドにおいても相次ぐ変更に驚いたわけですが
一斉にリフトしながらの交差や背中をたっぷり見せる女性を男性が支える優美なポーズの並び、ソリストと調和しながらのフォーメーション描画もお手の物。
岩田さんや鈴木さんら中堅ベテラン陣が背中でがっちり頼もしく率いて引き締め、翻ると異なる配色が覗くチュチュも含め終始視界が麗しい色彩美で満たされました。



『ラ・フィユ・マル・ガルデ』

リーズ:野久保奈央
コーラス:新井悠汰
アラン:孝多佑月
シモーヌ:刑部星矢

ニジンスカ版は初鑑賞。ピンクを多用し、カラフルで可愛らしさ凝縮な絵本を開いたかのような美術にまず頬がとろり。
何より野久保さんのリーズがそれはそれはチャーミングで、ほんわか明朗な雰囲気を持ち且つ技術も芝居もきびきびこなして造形。
前半に着用していた、青色にしたら神戸屋レストラン風であろう薄緑色のギンガムチェックスカートな衣装もしっくりとくる姿でした。

新井さんコーラスの屈託のなさも魅力に映り、技術達者であってもこれ見よがし状態にならず
あくまで軸は盤石にしつつ柔らかで役の明るい息遣いが感じられる踊りが好印象。日程の都合上この回しか行けずであったとは言え
作品上演の発表時、コーラス観るなら新井さんを望んでおりましたので叶って嬉しうございます。

嵌りっぷりに驚かされたのは刑部さんのシモーヌ。予想以上にメイクは薄めで、糸車を回したりタンバリンを叩く仕草もエレガントでいたく綺麗なお母さん。
だからこそドタバタ慌てて娘を叱ったり、口論の果てに箒を袖へ向かって投げ飛ばしても(場内大笑い)嫌味に全くならず。
結婚を巡り衝突してはいても頬を触れ合わせるほど普段は仲睦まじい関係性をより打ち出していたためか、意地悪な風味も皆無。
リーズの監視も兼ねてシモーヌがタンバリンを叩きリーズが闊達に踊る、されど隙を見てリーズは脱出を図るもばれそうになって
シモーヌが一段と大袈裟に叩くタンバリン音にのせて何事もなかったかのように再び踊る流れのスリル濃縮な展開は手に汗を握るも笑いが零れてやまぬ見せ場でした。

大島さんと米津さんによる職人肌な技術の持ち主であるからこそ大胆で奇抜な踊りも浮き浮き楽しい気持ちにさせる
黄色いスカートや大きなおリボンも似合うゴシップガールズの物語先導や、自身は結婚成就とならなくても
リーズとコーラスの婚約を受け入れてお祝いの場ではお祭り番長な活躍で踊りでも盛り上げる孝多さんのアランも眩しく、全員で幸せを胸に抱く楽しい版でした。

そして今回の大きな収穫の1つ、発表会の大定番グラン・パ・ド・ドゥをようやく全幕の中で鑑賞できたこと。
恐らくは20回以上は観ていながら全幕ではいかにして組み込まれているか生涯知らず観ず終いになるかと思っていたものです。
リーズの出先で披露され、衣装もお召し替えで胸元は青いベルベットでスカートは金色も入る華やぐデザイン。
その上愛するコーラスと踊るのですから踊り方も少し澄ました少女な一面も見せ、首の角度や身体の傾け方も可愛らしいまさに恋する乙女になるのも納得で
コーダに群舞が加わっている点も初めて知り、新鮮味とひときわ祝福感も溢れました。弾むように幸せな感情が沸いてくる音楽は
とても好んでおり発表会のプログラムを開きこのパ・ド・ドゥが目に留まると喜んでおりましたが
野久保さんの浮遊力が長く高くも音楽の枠にぴたりと嵌め込む踊り方やスカートを摘みながら左右へ移動し刻むステップも大きく見せ
コーダでの新井さんが描く高らかで余裕たっぷり、幸も帯びた跳躍から繰り出す放物線も見事な輪郭で
栄光、ではなく結婚への架け橋かと見紛う披露。(作品中ではまだまだ試練が続きますが)
抜粋での上演が多いパ・ド・ドゥの全幕の中での位置付けを知る大切さに触れた思いでおります。

前日には日本全国に衝撃が走った事件の発生や私の利用地域では帰宅ラッシュ時における事故により電車の混乱もあり迂回しての遅い自宅到着となり
心身が休まらぬまま鑑賞に臨んだNBAのダブルビル。ブルッフの麗しさ、ラ・フィユの可愛らしい幸福に心癒された夜となりました。




帰りはこちらのビストロへ。何処か素朴で可愛らしい外観。



まずは白ワインで乾杯。



一生懸命バターを捏ねるリーズを眺めていたら、バターをたっぷりつけたパンが食べたくなりましたのでパンとバターの名称メニューを注文。
板状の入れ物の窪みにバターが詰まっています。胡桃入りのキャロットラペ、香ばしいパンとバターと共にワインが進みます。



チーズ入りミニオムレツ。ミニにしては十分な大きさで、シンプルだからこそ卵の滑らかさが舌に響きました。
次回は名物のココット料理やデザート盛り合わせも注文してみようと思っております。
1人でも入り易く(今回は運良く1席空いていたところに案内いただきましたが予約したほうが良さそう)良いお店をまた見つけました。

2022年7月15日金曜日

ウィリーの冷気で暑気払い   東京シティ・バレエ団『ジゼル』 7月2日(土)






7月2日(土)、東京シティ・バレエ団『ジゼル』を観て参りました。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000782.html


ジゼル:清水愛恵
アルブレヒト:キム・セジョン
ヒラリオン:内村和真
ミルタ:平田沙織
ペザント:松本佳織  玉浦誠
ベルタ:加藤浩子
クールランド侯:青田しげる
バチルド:櫻井美咲
ウィルフリード:吉岡真輝人



清水さんは育ちの良さ感じる聡明なヒロイン。背がすらりと高く、『白鳥の湖』オデット/オディールやウヴェ・ショルツ振付『オクテット』のソリストといった
凛とした崇高な印象が強く可憐な少女のジゼル役をどう踊られるか楽しみにしておりましたが、落ち着いた品のある少女で好印象。
アルブレヒトに優しくされると暫しじっくり考え一呼吸置いてから反応を示す姿が何とも愛らしく感じさせ
無理に可愛らしく作り込まぬ点も好ましく、実に美しさの宿る村娘でした。
狂乱ではアルブレヒトの裏切りを受け入れられず心の整理がつかぬ混乱を花占いの仕草での振り返りや遠くを見つめる視線で静かに表現。
ウィリになってからの身体の線の美が一層引き立ち、背は高くても腕運びや脚先も大味にならず細やかな余韻を残す透明感に心惹かれるばかりでした。
木の上からアルブレヒトに百合の花を投げ入れる場では身体を大きく傾斜させ前のめりになり
消え入りそうな儚さがあってもアルブレヒトを愛おしみ何かを語りかけるような健気さが胸を打つひと幕。

キムさんは一見生真面目お坊ちゃまなアルブレヒトながら花占いにてジゼルが出した不幸な結果を
躊躇ない揉み消しに踏み切る様子から火遊び路線か純愛路線かはっきりせず。バチルドから真意を尋ねられても
取り乱しもなく手の甲に接吻し、ジゼルの混乱は益々深みに落ちていったに違いありません。
しかしジゼルの死を眼前にするとこれまでの冷静沈着ぶりが嘘のように絶望感に打ちひしがれ、ヒラリオンとの責任の押し付け合いも激情に駆り立てられた姿を露わに。
実のところ、序盤のアルブレヒトとヒラリオンの争いはさほど激しさはなく、僅かな口論程度であって随分控えめに思えていたのですが
2人が愛する少女の死は理性を喪失させる衝撃と悲嘆が一気に降りかかってきた出来事であったのだろうと説得力が増した気がいたします。

そして大変印象に刻まれたのは櫻井さんのバチルド。この役の描かれ方は演出によって様々で、高飛車な姫もいればジゼルに心を寄せる姫のときもあり今回は後者の系統。
ジゼルの話にじっくり耳を傾け、お互い幸せ一杯な状況を喜び共有する優しいお姉さんにも見て取れる姫でジゼルに触れるときもいたく丁寧な接し方でした。
狂乱の場ではジゼルを心配するも貴族である身分を意識し相手にできず手を差し伸べられぬ動揺も伝わり、婚約者がジゼルとも関係を持っていた事実や
更にはせっかく打ち解けたジゼルがみるみると乱れて行く光景にショックを受け、前面には出していなくても
バチルドもまた現実を直視できぬ苦しさに悩まされていたと推察いたします。クールランド公に促されて立ち去るときも重々しい足取りでした。
3年前に三鷹での発表会で拝見して以来注目しており、今回誠に喜ばしい抜擢です。

ペザント松本さんの溌溂で力みない、小柄な体躯を感じさせぬ飛距離の長さや住吉駅まで跳んでいきそうな勢いに驚嘆。
玉浦さんは軽快で幸多き踊りで、お2人のパートナーシップから繰り出す朗らかさも二重丸。

平田さんは厳かな冷気纏う女王ミルタで魅せ、恐怖感大でまだ7月上旬ながら日中の気温が35度超えであった異常気象を一時忘れさせたほど。
床から浮いたままであるかの如きすうっと流れるパ・ド・ブレや斬り込んでくる跳躍が大きくも軸が全くぶれぬコントロール力にも震え、
ウィリ達を呼び寄せるときの振る舞いの支配ぶりもおっかなさ十二分でした。
面白味ある演出と思えたのはウィリ達の登場の前触れ。ミルタ登場のソロの最中、後方の小さめの十字架が何本も立つ廃墟な墓地にて
ウィリ達が上体を上下させながら姿を覗かせ、管理人が通っていた小学校の林間学校での体験よりも遥かに恐ろしい、まさに真夏の肝試し演出。
平田さんミルタに続き不気味な恐ろしさに拍車をかける冷気の広がりで、バレエで暑気払いができたのでした。

衣装を手掛けられたのは小栗奈代子さん。抑えた色調で整えられ、派手過ぎずされど
収穫祭らしい賑わいやめでたさにも似つかわしいデザインで繊細なタッチの絵本を眺めている心持ちになりました。
シティの『眠れる森の美女』も柔らかなパステルカラーと渋めの色の組み合わせの妙がセンス良きデザインであったと記憶にございます。

1点心残りであったのは音楽が録音音源であったこと。昨今のバレエ団の事情を汲むと困難であったのかもしれませんが
1幕でのジゼルの家前での貴族達とのやり取りやテーブル運搬のあたりで舞台進行と音楽がずれが生じてしまっていたように思えた箇所があり。
もしオーケストラ演奏ならば舞台上の出演者達と指揮者が息を合わせての対応ができ、より自然な立体感のある舞台作りに繋がったかと思うと
また2幕のヒラリオンが追い込まれる嵐のような仰々しい曲が好きな者としては生死を彷徨う渾身の表現が光っていた内村さんと
容赦ない平田さんミルタを更に昂らせる対決を生のドラマティックな演奏に盛り立てられながら目にできたと考えると次回は是非オーケストラ演奏を心待ちにしております。




赤ワイン
ジゼルを鑑賞するとワインが飲みたくなります。そしてジゼル1幕衣装が青が好み。小栗さんのデザインは抑えた色調で整えられ、品が香るデザインです。



チーズ専門店にて。1人客でも、目の前でチーズをたっぷりハンバーグにかけてくださいます。瞬く間にチーズで覆われ、赤ワインと好相性でした。

2022年7月14日木曜日

涌田美紀さんの全幕本公演主役デビュー   東京バレエ団『ドン・キホーテ』  6月24日(金)






6月24日(金)、東京バレエ団『ドン・キホーテ』を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2022/donquixote/index.html


※キャスト等はNBSホームページより抜粋
キトリ/ドゥルシネア姫:涌田美紀
バジル:秋元康臣
ドン・キホーテ:中嶋智哉
サンチョ・パンサ:海田一成
ガマーシュ:岡崎隼也
メルセデス:二瓶加奈子
エスパーダ:宮川新大
ロレンツォ:岡﨑 司

【 第1幕 】

2人のキトリの友人:加藤くるみ、中川美雪
闘牛士:ブラウリオ・アルバレス、生方隆之介、大塚 卓、安村圭太、
玉川貴博、鳥海 創、後藤健太朗、南江祐生
若いジプシーの娘:伝田陽美
ドリアードの女王:政本絵美
3人のドリアード:長谷川琴音、上田実歩、平木菜子
4人のドリアード:足立真里亜、中島理子、安西くるみ、中沢恵理子 キューピッド:工 桃子

【 第2幕 】

ヴァリエーション1:加藤くるみ
ヴァリエーション2:中川美雪

指揮:井田勝大
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

協力:東京バレエ学校



涌田さんは色っぽさ香る丁寧なステップで紡ぐキトリで、全幕本公演堂々の主役デビュー。
沖香菜子さんの代役登板でしたから緊張もさぞあるかと思いきや序盤から落ち着きを見せ、
プロローグにおける理容業務中のバジルとのドン・キホーテに対するいたずら?もとぼけた風味も出してとてもお茶目に映りました。
颯爽とした登場やタンバリンヴァリエーションでの勢いのある振付であっても決して荒っぽさを見せず、丹念な足運びや正確なポーズの連鎖にも魅了され
加えて首の傾げ方や肩の角度からほのかな色気も表出。お転婆だけでない品のあるキトリを造形され、ドン・キホーテがドルシネア姫と思い込むのも納得です。
秋元さんが何処か都会風で粋な青年っぷりであったためかバジルとは熱々よりも爽やかな恋愛真っ只中なカップルでした。

特に目を惹いたのは岡崎さんのガマーシュで、振る舞いに大袈裟な様子がなく至極シンプルながら
育ちの良いお坊っちゃまらしい品が備わり、指先の仕草が細やかに語ること!加えて、フィナーレではバジルに負けじと回転技に挑み
軸が妙に綺麗で不思議な魅力を振り撒き続けていらっしゃいました。 ロレンツォのお宿食堂でのワインの嗜みや楽しそうに語らうお食事の様子もつい観察。

伝田さんの情念宿るジプシーの娘にも見惚れ、重く訴えかけるようにぐっと溜めつつも瞬時に全身から熱さを迸らせるメリハリに富んだ踊りで沸かせてくださいました。
ジプシー男性陣の群舞も音楽にぴたりと合っての刃の如き鋭い跳躍連続で熱を帯びる迫力です。

後にに述べますがドンキの中でも好きな版で何度も鑑賞しておりますが、主役を囲む人々の生活感がよりくっきりと示されていた印象。
1幕にて、キトリやドン・キホーテ達が優雅なメヌエットを踊る場では子役の女の子がちょこっと背伸びしたようにお姉さんと澄まして踊っていて
大人びたことの真似をしたくなる年頃であろうと他の街の大人達と同様に微笑ましく観察。(下手側後方であったかと記憶)
そしてバジルが女性友人と接近してしまう微かな修羅場では女の子も一緒に目撃者として現場を見つめていたりと、街の活気や息遣いが楽しく伝わる光景でした。
ドン・キホーテ達がお食事の最中も誰かしらが酒瓶持って行ったり一緒に酌み交わしたり
食べ物の種類も2幕の酒場より豊富そうで、ロレンツォ食堂に私もいきたくなったほどです笑。

張りとうねりのある群舞も忘れられず。演奏がボリショイ寄りなのか速めに刻む曲調にもよく乗っていて
掲げた両腕の開閉や身体の角度の切り替えが揃っているだけでなく明朗さが次々と放出される爽快感もあるセギデリヤや
キトリの登場時であったか一斉に身体を反らせながらソロを引き立て盛り上げる振付も下手すれば態とらしく映りかねない場面でありながら
踊り込んでいる振付且つキトリを出迎える全員の心がまとまっていたのでしょう。
熱波が客席にまで押し寄せてくる感覚が身体に走り、序盤からエネルギーに圧倒された思いでおります。

さて、先述の通りドンキのあらゆる演出の中でも最も気に入っている版の1つで、群舞の振付は勿論のこと
結婚式やフィナーレの描き方が祝福感に満ちたお祭りな趣きである点も大きな魅力。
街の広場ではなく貴族の館での開催であっても新郎新婦と親しい間柄であろう街の人々や、何よりもドン・キホーテとサンチョのみならず
ロレンツォやガマーシュも臨席する式であるのは観ている者からしても祝福度が増幅。
街の人々も含め庶民だからといってどんちゃん騒ぎするわけでなく笑、館でのしきたりを尊重しているのか整然と登場し、
ロレンツォ達4人も隅に腰掛け談笑しながらも和を大事にしながら見守る様子で、一体感に加え全体に格高い雰囲気もあって好印象。
すっかり打ち解けて皆でキトリとバジルの結婚を時に興奮を抑えながら結婚を祝っているロレンツォ達ですがロレンツォにとっては猛反対していた相手と愛娘は結ばれ
ガマーシュからすれば婚約まで辿り着かず無念さもあったでしょうに、過去を背負わず心からの祝福を送る懐の深さにはつい感情移入。頬が緩んでしまいました。
それからフィナーレでは再びセギデリヤの音楽が流れる中でのバジルとのガマーシュの回転対決も見せ場で、高揚が最高潮に達したまま閉幕。後味の良い幕切れであると鑑賞の度に陽気な余韻に浸り帰途についております。
バルセロナの街並みを繊細で写実的に描いた舞台美術や品ある黄色やオレンジを配した街の人々の衣装も毎度嬉々として目に飛び込み
最初から最後まで熱く爽やかな息吹が感じられるワシーリエフ版。これからも観続けて参りたい版です。




帰り、上野駅前のスペイン料理店にてカバで乾杯。翌日からは猛暑となった前日の金曜日も既に真夏らしい気候で、よく冷えたカバでくいっと爽快です。
涌田さん、全幕本公演主役デビューおめでとうございます。



食いしん坊なサンチョを眺めていると食欲が増したものの、夜公演後でしたので軽くいただけるタパスを選択。
生ハムは欠かせません。じゃがいもが何層にも重なったスペインオムレツはずっしりボリュームございました。

2022年7月12日火曜日

高崎に映えたワンダーランド 新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』群馬県高崎公演 6月18日(土)19日(日)






大変お待たせいたしました。(白ウサギさんも蒸発するであろう長い時間が経過しており、お待ちくださっているのは2、3名にも満たないかと存じますが)
6月18日(土)19日(日)、新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』群馬県高崎公演に行って参りました。
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/concert_detail.php?key=649

群馬県でのバレエ鑑賞は2007年、藤岡市での高崎沼田バレエスタヂオ創立30周年発表会以来15年ぶり。
こちらのスタジオ、主宰の瀬山紀子さんが石沢秀子さんと親交があった関係で第1回発表会にはまだ若かりし頃の吉田都監督も出演されたとのこと。
瀬山さんのご息女でピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団で活躍なさる瀬山亜津咲さんが紀子さんからバレエの手ほどきを受けた後に
吉田監督が通われていた石沢さん主宰の国立バレエスタジオで学ばれたご縁もあるようです。
まさか2度目の群馬での鑑賞が吉田都監督が就任した新国立劇場バレエ団 の公演になろうとは、15年前の当時は想像もいたしませんでした。
2年前の2020年公演中止を乗り越え、高崎芸術劇場の少し遅れての開場記念なるバレエ公演が無事実施でき安堵しております。

※高崎編はさらっと短めにまとめるよう以下努めて参ります。

演出で大きく変更された点があり、1幕にてアリスが白ウサギと一緒に穴に入る場面。劇場の舞台機構の違いから穴が用意できず、
テーブルが高くなって上に置かれていた巨大なケーキに穴が空いてテーブルへ潜っていく演出となりました。
最初は何が起こったか分からず目を見張りましたが、不自然さはなく好感を持たせるアイディアでございます。

2日目は2階から見渡した限り(高崎芸術劇場大劇場は最上階が2階席)舞台の奥行きが狭そうな印象でしたが、ウサギとの穴の箇所以外の装置の置き方や振付は変わらず。
1幕にて、涙の海を模した手前から後方に向かって何重にも置かれた波の壁沿いを個性豊かな生き物達が横切って泳いでいく場も狭さを感じることなく展開され
続くコーカスレースもアリスが生き物達を上手くまとめて音頭を取り、溌剌とした走りで進行です。
途中順位が前後する辺りも後方までよく見え、そして今回も注目視したのは亀さん。
甲羅型のリュックを大事そうに背負い、ゆったりとした歩みで踏み締めながら進む姿が可愛らしく健気で、されどいざとなればくるりと素早い回転もお手の物。
毎度思うが、亀は決してドジでのろまではないと私は意見いたします。(その昔航空物ドラマで一世を風靡した作品があり
亀を例えに出した名台詞がございました。お若い世代の皆様はご自身でお調べ願います)
どの生き物達も人によっては判別不可能なほどメイクが奇抜で衣装は凝った模様が入った上質そうなものを着用で加えて分厚く重量感もりそうな装いであっても
闊達なレースを行い、また泳ぐ場も立ち泳ぎにしろ波役?達によるリフトされたときも身体を自在に解しながらの泳法でお見事でした。
そしてレース後に立ち去るときにおける真っ赤なドードーの高音の裏声奇声やフクロウさんのホーホー鳴き声は
いついかにして練習し上階まで響かせるまでに至ったのか、発生練習の過程を覗きたくなるほどです。

東京公演から特に飛躍を遂げていたのが速水さんで、動きや表現も1つ1つが細かくなり、見かけに反して(失礼)可愛らしいウサギさんとして活躍。
小野さんアリスとは高崎で初めて組むことになったわけですが、いたく勝ち気そうなアリスに言いくるめられてはしょぼんと気を落とすも対抗も怠らず。
また初日のイモ虫もくねくねした謎めいた軟体感や回転のスピード、音楽をたっぷり大きく使っての踊り方も前面に出ていた印象です。

マッドハッターの中島さんも東京ではやや遅れ気味に思えたタップが音楽と馴染んでいた印象を持たせました。
公演回数が多かった今回、お2人に限らず、変化していく様子を見届けることができたのは今期のアリスならではの醍醐味であったと思います。
少々心配になったのは2日目渡辺与布さんの料理女。カオスな台所で踊りも表現も吹っ切れ大いに沸かせてくださったのですが
テーブル上にてソーセージを首に絡めながら仰向け状態になったところから横に向かって落下。ソーセージを引っ張り合うときの
何かの弾みであったかと思いますが負傷していないか胸騒ぎがしたもののその後も何事もなかったかのように勢いはそのままに力演されていました。

そして高崎限定の配役で驚喜された方も大勢いらしたことでしょう、タルトアダージョに5月公演『シンデレラ』千秋楽第2幕の王子以来奥村康祐さんが復帰。
日を空けず連続公演回数が多かったがゆえに離脱者続出であった関係上緊急招集されたのか詳細は分かりかねますが
出番は少ない役であっても作品中の大きな見せ場に登場されたのは嬉しい瞬間でした。
また奥村さんのパートナー役を務め、終始動向を見つめていたのは関優奈さん。心から慕うように縋り付きながら接している姿が
いたく可愛らしく映り、臨場感たっぷりなお芝居で楽しませてくださるとは驚き嬉しいひと幕でした。
女王様の相手をする奥村さんを寿命が縮みそうな表情で不安視しては一喜一憂していた姿も忘れられません。
2日目は家臣の学級委員長なハートの2番に髙橋一輝さんが配役。別の位置は経験済みでいらっしゃいますがこの位置は初で、
強烈な木村女王に先陣を切ってしっかりお仕えし、無事大役を果たされました。

プロジェクションマッピングや装置転換は東京と変わらず、アリスが吸い込まれていく様子やトランプタワー崩壊といった大掛かりな要素も対応可能。
場面の転換においても、クロッケーからのトランプ群舞のように潔く変わる箇所もあれば
イモ虫からのフラワーのような前場面の余韻を残し切れ目が曖昧なまま持ち越しての転換と多様に富む面白味も存分に堪能できました。
巨大な斧が斜めに降下しての休憩告知も東京と同様壮大な仕掛けで毎度ぞくっとするスリル感。
高崎側のスタッフの方々が開場記念に相応しい作品として交渉を重ねてこられた経緯も納得な劇場でした。
尚時差退場の徹底はこれまで訪れたどの劇場よりも厳格で、まだ1階席観客の退出時間に2階席の客が出るような事態となれば
両手を広げた係員が立ちはだかる光景を目撃。まさにアリス達を通行止めするトランプ達の如き徹底ぶりでした。

さて初日の主役勢。東京に引き続きテンポの良い職人の如き舞台運びに一段と惹きつけられ、
中でも女王から追われるジャックを一時救助しタルト御盆リレーする箇所の素早いこと。
早送り映像を一字一句正確に体現していると見て取れ、しかも踊り方にしてもやりとりにしても、お三方とも実に立体的でダイナミックな鋭さが光り
慌ただしい場にも拘らず身体から台詞が整理整頓されながら飛び交っている光景はこれまた身震いする域へと達していらっしゃいました。

そして御盆リレー終盤、不意打ちに大跳躍する渡邊さんの軽やかなこと。上背があってもふわっと浮かび上がり
しかも危機感よりもアリスとの再会歓喜を全身から放ちながら駆け回っているかと思えば瞬く間にアリスの元へ戻りパ・ド・ドゥ突入も実に滑らか。
更には全編通して感情を描き出すパレットの色の豊富なこと。初演時に比較すると今回は東京公演も含め
庭師、ハートの騎士、現代の青年まで役どころそれぞれを丁寧に色付けジャックを造形なさっていたことは前記事でも述べた通りですが
ふと気づいたのは役どころによって体格までもが変わったかと思わせるほど違いを明瞭に表していらしたこと。
労働者庭師のときは食事も満足に摂らせてもらえていないであろう待遇を憂慮せずにいられぬほど痩せ細って見え、
されどハートの騎士では紅白歌合戦な色味もスタイリッシュに決まって違和感が無し。
最後現代のTシャツGパン青年ジャックでは一回り身体が逞しくなった感すら匂わせ、アリスに対する接し方がだいぶ強引路線であった点も影響したのか
主導権はジャックにあるカップルであろうとあれこれ想像。もしやイモ虫用の装置のきのこを踏むと途端に一回り大きくなるのか
スーパーマリオではありませんからそんなわけはありません。心技双方が充実すると自ずと外面にも表れるのでしょう。

今回東京も含め渡邊さんジャックを観ていると、アリスに比較すると影薄いと言わせぬ説得力に唸ると同時に
ジャックという人物に更なる興味を持たせたのか背景や行動についても深掘りが止まらず。
そもそも庭師として勤務しているはずがゲートボールの準備まで担っていたのは契約外の仕事も強要されていたのか
年齢は青年であっても丁稚奉公な働き方であったのか今でいう便利屋のような存在として他にも薪割りやら清掃等でもこき使われていたのか
リデル家で働く男性陣の中でも番長な執事を筆頭に序列がありそうですし、勤務形態や上下関係も気になるところです。

ただ、私くらいかもしれないが以前から疑問を投げかけていた、現代アリスが見る夢の中の出来事とはいえ
庭師が騎士となっていく展開も道理にかなっていると思えてきて、リデル家での忠実なお仕えぶりや
危険を顧みず1人の令嬢に愛を捧げるところは騎士へと繋がる伏線でもあるのかもしれないと想像が駆け巡っております。
そもそも、暴露たらタルト盗難よりも遥かに大罪になるであろう良家の令嬢と恋仲に近い関係の構築は常時危うい橋を渡りながらの勤務であったわけで
ジャックは内気な労働者ではあっても大胆で肝の据わった部分は少なからずあったと捉えております。そういえば、フーフーと息をかけて冷ますほどの焼き立て熱々タルトを
アリスの母に盗難容疑をかけられたときにすぐさま握り締めていましたから火傷も心配でございます。
他にもハートの騎士としてはどんな任務についていたか、決して屈強そうではないため護衛隊ではなく女王と国王のお世話係を担っていたか
格好はパリッと美しい紅白服ですから要人来訪時は目立つ場所に立って正装してマント付けて(我が目は心臓印)歓迎式典に臨んでいそう云々
それとも庭師のときの意外と大胆な行動力を思うと軟弱な騎士ではないかもしれぬと裁判での終盤逃亡時におけるアリスを庇いながらの駆けっぷりからも想像。
考えれば考えるほど時間を要してしまい、白ウサギさんがいよいよカリカリと神経を尖らせていそうですので次行きます。

東京でも高崎でも、初演時に比較するとアリスな撮影スポットや装飾は減った気もいたしましたが
その分であろうかアリスの世界の要素を服装や持ち物に取り入れた観客の皆さんのお洒落な装いが華やぎと物語の楽しさを一層もたらしていた印象。
フラミンゴのワンピースや赤スカートに白いブラウスで3幕ジャックスタイル、トランプのピアス、アリスの買い物袋や
ウサギさん或いは豚さんのぬいぐるみキーホルダー等、随所にアリスの仲間達が覗き、眺めているだけでもより物語の世界に浸れた6月公演でした。
尚管理人はそういった類の服飾品の工夫は一切行わず食に走り、現在ハンプティ・ダンプティ体型まっしぐらなわけですが、中止になってしまった2020年公演では
2018年の『眠れる森の美女』公演に続く第2弾として着物イベントが企画。終演後は当日主演ペアを招いてのトークショーも予定されていたのでした。
その企画が目に入ったとき、当日主演者及びトークショーゲストの名前に私も眠りに続き参加する気満々。申し込みもしておりました。
仮に実現していたならばレンタル計画を進めていた通り、真っ赤なハート柄の着物と濃いめの化粧で乗り込んでいたはずでございます。
薄紫の着物でアリス風か、迷っておりましたが眠りのときは白地にピンク系の薔薇の着物を選びましたので次は濃いめ路線で
ハートの女王が良かろうと構想を描いたのも束の間。(今だから申せますが、本島女王の写真を参考にしながらメイクも考えておりました)
残念ながら中止となってしまいました。余程の機会がない限り服装に力が入らぬ身であるとはいえ中止はやむを得ないこと。
着物を着る機会なんぞ七五三と成人式以外では生涯この企画しかないであろう管理人。いつか再び実現しますように。

以上、纏まっているのかいないのか、6月上旬からの『新国立劇場バレエ団不思議の国のアリス』シリーズ2022は終了。
3連休までに果たして更新できるのか。時計と睨めっこな神経質白ウサギさんを今度こそは蒸発させぬよう、新幹線には及ばずとも特急草津の速度を目指して参ります。
おっかない女王様に追いかけられても誰も助けてくれません。ハートの騎士は本来自身の任務で手一杯、これが現実でございます。



※以下写真多数ございます。関東に1泊しただけのはずが膨大な量になってしまいました。
お時間のある方のみ上州旅日記をご覧ください。お急ぎの方は恐れ入ります、次回をお待ちください。




いざ高崎!



高崎駅到着。ぐんまちゃんと高崎達磨が出迎えてくれました。ぐんまちゃんは我が好きなご当地キャラクター上位3名に入っております。
あと2名は福島県白河市のしらかわん(私の妹によく似ております笑)、愛媛県のみきゃん。



乗り換えまで時間に余裕があったためホテルに荷物を預けに行き、通り道にてヤマダ電機。
ホテル名が何度読んでも水前寺清子さんの代表曲が浮かんでしまう名称です。



まずは高崎駅から沼田駅へ。駅員ぐんまちゃんがお出迎えです。



沼田駅の穴に入って国境越えして英国へ、ではなくタクシーでロックハート城へ。管理人、自動車運転免許を持っていないため公共交通頼みです。



ハートに溢れる園内の小道。絵本に出てきそうな、そしてハートの女王が君臨していそうな世界です。



ロックハート城、堅固な造りです。スコットランドのお城を移築したらしい。
スコットランドと言えば、来年のゴールデンウィークの新国立劇場バレエ団公演は新制作『マクベス』!(もう1本は真夏の夜の夢)
翳りある苦悩の武将である主人公、この作品上演決定発表時から1名はすぐさま目に浮かんでおります。



このチラシの写真が馴染む空間



アリスとジャックの裁判パ・ド・ドゥ終盤、2人でハートの形を両腕で作る場面が思い起こされます。



ハートの自転車。行動派なハートの女王様が跨がって敷地内を走行していそうです。



高台から撮影した園内のウィリアムズガーデン。まさにアリスの3幕な庭園で、ここは本当に群馬県か?
沼田駅から電車で約1時間の高崎市での上演は必然であったと考えた散策でございます。



ほぼ貸切でしたので、3幕冒頭、庭師達とのスカート摘みながらの場面をひっそり再現。



手入れが行き届いた庭園。生垣からファーストジャック出現も夢見ましたが、現れるわけありません。



そんなわけで、1人静かにガーデンパーティー。地元吾妻郡高山村産のビーツを使ったピンク色が美しいマリア様のケーキ。



説明書き。タリスマン、ガラや発表会でもお馴染みなパ・ド・ドゥでもあります。元の話を読むとズンチャッチャ音楽にのせた
ただの超絶技巧お披露目であってはならぬと『ダイアナとアクティオン』や『海賊』にしても思います。
踊れぬズンドコドッスン素人な私があれこれ申すのもおかしいのですが、発表会でこういった王道パ・ド・ドゥを踊る生徒さん達は
果たして原作を読むなり作品の背景を知った上で踊っているのか、そもそも指導の先生がそういった説明をきちんとしているのか、毎度気になります。
パリの炎はパ・ド・ドゥ初挑戦者が踊る定番であるように思えますが、全幕の中の位置づけを知るか知らぬかで踊り方もだいぶ変わってくると思っております。
ジャンヌのヴァリエーション、ただ可愛らしく踊れば良いものではないはずです。



目が覚めたら本を抱えた格好で高崎のベンチに横たわり、隣でラジカセでファーストジャックが音楽鑑賞中
ではなく自力で庭園脱出してタクシーに乗ってJRに乗車して高崎駅へ。
行きと同じタクシーの運転手さんが高崎でのバレエ公演を観に来た関係で英国彷彿な観光地に魅せられ沼田にまで立ち寄った東京からの1人客を気遣ってくださり
地元についてあれやこれや楽しく穏やかにお話しくださり嬉しいひとときでございました。
昼食はぐんまちゃんカレー。食べるのが勿体無い可愛らしさです。チキンに香ばしい焼き色が付いていて、味も満足。




初日終演後、群馬名物水沢うどんのお店にて、渋く地酒と舞茸天ぷら。お猪口が洋食器のようなユニークな形です。
それにしても英国が舞台の作品ながら、解雇され立ち去る場面が小津安二郎映画の青年風であっても自然と溶け込み絵になる古風なファーストジャックよ。



コシ強くつややかな舌触りのうどん。



群馬名物焼きまんじゅうを水沢うどんを一緒に味わったカウンセラー友人のおすすめで購入。
パンのようにふかふかな生地に味噌だれをつけて焼き上げ、ボリューム大。香ばしく美味しうございます。



おはようございます。この日も気持ちはultra soulで参りましょう。
ホテルにてテラスで朝食。
ヤマダ電機全国総本店を眺めるテラスでございます。嘗て首都圏のいくつかの店舗にて勤務経験があり、嬉しい眺め。
高崎駅界隈では手頃なビジネスホテルに類する宿泊施設かと思われますがやや狭さはあっても大浴場もあり、朝食は無料。
コーヒーマシンも上質そうな物を使っていてブレンド、エスプレッソからカプチーノ等種類豊富。
夜のラウンジドリンクサービスや、部屋にも3種のお茶パック、女性棟には廊下にも3種類のドリンクバー(お風呂上がりに飲んだジャスミン茶が爽やかな喉越し)があり。
私からすれば至れり尽くせりでございました。ホテルお手製豆腐が特に気に入った。
納豆は自宅で食べる習慣がないため(家族に納豆が苦手な者がおります)、こういった宿泊の機会に嬉々として食しております。



せっかくですので、苺ジャムもたっぷり付けましょう。ジャムや蜂蜜等、瓶に入った甘いものを一度に多量摂取してしまうため、家族から毎度心配されている管理人。
今月半ばの健康診断、警報な結果が出ぬよう願います。



デッキから撮影、快晴の高崎駅。1週間後、この場所は日陰であっても40度超えであったもよう汗。



高崎駅にて、ぐんまちゃんショップ。



劇場カフェのテラスにて昼食。心地良い風が吹いていきました。果肉の食感がしっかり残るトマトソースボンゴレパスタに赤ワイン、美味しうございました。



ヤマトもぐんまちゃん。数ではアリス客はB’z客に到底及ばずであっても応援熱は同等です。
宿泊したホテルの共有空間で仲良くなったB’zファンの方々、お元気でお過ごしでいらっしゃいますように。
七夕にはきっと素敵な「ねがい」を短冊に綴られていたことでしょう。 この状況下では開催は難しかったでしょうが
もしホテルのラウンジにてB'zのライブ映像が流れていて宿泊者ならば誰でも参加自由な鑑賞会があれば、アリスの余韻に浸りつつ私も参加していたかと思います。
四半世紀前頃の曲しか知らずとも思い返すと知っている曲は何曲もあり、また違う分野の芸術愛好者の方々からの学びもきっと多いことでしょう。
(偏見な捉え方かもしれませんが、ホテルでも駅でも見掛けたライブ来場者の方々はロックファンにしては落ち着いた雰囲気であった印象もあり)
バレエ目当てに高崎入りしていた者に対して短時間ではあっても交流してくださったB'zライブご来場のお二方、その節はありがとうございました。



劇場カフェ前にて。アリスな置物達。



アリスな世界はここにも。



終演後、劇場レストランにてティーパーティー。ケーキのお皿に粉砂糖で模様を付けてくださいました。私が注文したチーズケーキにはトランプ模様!ハートを凝視。
優雅で洒落た内装や調度品も1幕冒頭の世界に重なります。



帰り、ぐんまちゃんビールでしみじみ乾杯。2020年の中止を乗り越え、無事2日間高崎公演を上演でき心から祝福です。
そして鑑賞の用事では人生2度目の群馬訪問、バレエも食も観光も目一杯満喫いたしました。
さらば高崎、また会う日まで!!




7月7日、七夕の新国立劇場バレエ団SNSより。
今年も曇り空な七夕となりましたが、皆様が込められた願いが叶いますように。 写真は昨年夏のこどもバレエ『竜宮』より。静かな星空の広がりが涼やかに視界を満たします。
渡邊さん、髷鬘が似合うを超越して美しい和風顔にしっくり。
その時代からタイムスリップしてきた人物にしか見えず、今夏はサムライ太郎に会えず残念でなりません。
昨夏は6月は騎士(マントで剣差してのジャン帰還は今思い返しても目が桃色心臓印にならずにいられず)、
7月は武士(と呼んで宜しいのかサムライ太郎)、夏の和洋大感謝祭2021でございました。
勿論、今夏のサンバなモンキーも心待ちにしております。