2022年7月14日木曜日

涌田美紀さんの全幕本公演主役デビュー   東京バレエ団『ドン・キホーテ』  6月24日(金)






6月24日(金)、東京バレエ団『ドン・キホーテ』を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2022/donquixote/index.html


※キャスト等はNBSホームページより抜粋
キトリ/ドゥルシネア姫:涌田美紀
バジル:秋元康臣
ドン・キホーテ:中嶋智哉
サンチョ・パンサ:海田一成
ガマーシュ:岡崎隼也
メルセデス:二瓶加奈子
エスパーダ:宮川新大
ロレンツォ:岡﨑 司

【 第1幕 】

2人のキトリの友人:加藤くるみ、中川美雪
闘牛士:ブラウリオ・アルバレス、生方隆之介、大塚 卓、安村圭太、
玉川貴博、鳥海 創、後藤健太朗、南江祐生
若いジプシーの娘:伝田陽美
ドリアードの女王:政本絵美
3人のドリアード:長谷川琴音、上田実歩、平木菜子
4人のドリアード:足立真里亜、中島理子、安西くるみ、中沢恵理子 キューピッド:工 桃子

【 第2幕 】

ヴァリエーション1:加藤くるみ
ヴァリエーション2:中川美雪

指揮:井田勝大
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

協力:東京バレエ学校



涌田さんは色っぽさ香る丁寧なステップで紡ぐキトリで、全幕本公演堂々の主役デビュー。
沖香菜子さんの代役登板でしたから緊張もさぞあるかと思いきや序盤から落ち着きを見せ、
プロローグにおける理容業務中のバジルとのドン・キホーテに対するいたずら?もとぼけた風味も出してとてもお茶目に映りました。
颯爽とした登場やタンバリンヴァリエーションでの勢いのある振付であっても決して荒っぽさを見せず、丹念な足運びや正確なポーズの連鎖にも魅了され
加えて首の傾げ方や肩の角度からほのかな色気も表出。お転婆だけでない品のあるキトリを造形され、ドン・キホーテがドルシネア姫と思い込むのも納得です。
秋元さんが何処か都会風で粋な青年っぷりであったためかバジルとは熱々よりも爽やかな恋愛真っ只中なカップルでした。

特に目を惹いたのは岡崎さんのガマーシュで、振る舞いに大袈裟な様子がなく至極シンプルながら
育ちの良いお坊っちゃまらしい品が備わり、指先の仕草が細やかに語ること!加えて、フィナーレではバジルに負けじと回転技に挑み
軸が妙に綺麗で不思議な魅力を振り撒き続けていらっしゃいました。 ロレンツォのお宿食堂でのワインの嗜みや楽しそうに語らうお食事の様子もつい観察。

伝田さんの情念宿るジプシーの娘にも見惚れ、重く訴えかけるようにぐっと溜めつつも瞬時に全身から熱さを迸らせるメリハリに富んだ踊りで沸かせてくださいました。
ジプシー男性陣の群舞も音楽にぴたりと合っての刃の如き鋭い跳躍連続で熱を帯びる迫力です。

後にに述べますがドンキの中でも好きな版で何度も鑑賞しておりますが、主役を囲む人々の生活感がよりくっきりと示されていた印象。
1幕にて、キトリやドン・キホーテ達が優雅なメヌエットを踊る場では子役の女の子がちょこっと背伸びしたようにお姉さんと澄まして踊っていて
大人びたことの真似をしたくなる年頃であろうと他の街の大人達と同様に微笑ましく観察。(下手側後方であったかと記憶)
そしてバジルが女性友人と接近してしまう微かな修羅場では女の子も一緒に目撃者として現場を見つめていたりと、街の活気や息遣いが楽しく伝わる光景でした。
ドン・キホーテ達がお食事の最中も誰かしらが酒瓶持って行ったり一緒に酌み交わしたり
食べ物の種類も2幕の酒場より豊富そうで、ロレンツォ食堂に私もいきたくなったほどです笑。

張りとうねりのある群舞も忘れられず。演奏がボリショイ寄りなのか速めに刻む曲調にもよく乗っていて
掲げた両腕の開閉や身体の角度の切り替えが揃っているだけでなく明朗さが次々と放出される爽快感もあるセギデリヤや
キトリの登場時であったか一斉に身体を反らせながらソロを引き立て盛り上げる振付も下手すれば態とらしく映りかねない場面でありながら
踊り込んでいる振付且つキトリを出迎える全員の心がまとまっていたのでしょう。
熱波が客席にまで押し寄せてくる感覚が身体に走り、序盤からエネルギーに圧倒された思いでおります。

さて、先述の通りドンキのあらゆる演出の中でも最も気に入っている版の1つで、群舞の振付は勿論のこと
結婚式やフィナーレの描き方が祝福感に満ちたお祭りな趣きである点も大きな魅力。
街の広場ではなく貴族の館での開催であっても新郎新婦と親しい間柄であろう街の人々や、何よりもドン・キホーテとサンチョのみならず
ロレンツォやガマーシュも臨席する式であるのは観ている者からしても祝福度が増幅。
街の人々も含め庶民だからといってどんちゃん騒ぎするわけでなく笑、館でのしきたりを尊重しているのか整然と登場し、
ロレンツォ達4人も隅に腰掛け談笑しながらも和を大事にしながら見守る様子で、一体感に加え全体に格高い雰囲気もあって好印象。
すっかり打ち解けて皆でキトリとバジルの結婚を時に興奮を抑えながら結婚を祝っているロレンツォ達ですがロレンツォにとっては猛反対していた相手と愛娘は結ばれ
ガマーシュからすれば婚約まで辿り着かず無念さもあったでしょうに、過去を背負わず心からの祝福を送る懐の深さにはつい感情移入。頬が緩んでしまいました。
それからフィナーレでは再びセギデリヤの音楽が流れる中でのバジルとのガマーシュの回転対決も見せ場で、高揚が最高潮に達したまま閉幕。後味の良い幕切れであると鑑賞の度に陽気な余韻に浸り帰途についております。
バルセロナの街並みを繊細で写実的に描いた舞台美術や品ある黄色やオレンジを配した街の人々の衣装も毎度嬉々として目に飛び込み
最初から最後まで熱く爽やかな息吹が感じられるワシーリエフ版。これからも観続けて参りたい版です。




帰り、上野駅前のスペイン料理店にてカバで乾杯。翌日からは猛暑となった前日の金曜日も既に真夏らしい気候で、よく冷えたカバでくいっと爽快です。
涌田さん、全幕本公演主役デビューおめでとうございます。



食いしん坊なサンチョを眺めていると食欲が増したものの、夜公演後でしたので軽くいただけるタパスを選択。
生ハムは欠かせません。じゃがいもが何層にも重なったスペインオムレツはずっしりボリュームございました。

0 件のコメント: