2021年11月26日金曜日

【大半は不要不急内容】【以前から気になっている】バレエ鑑賞での消費カロリー





実は以前から気になっている事柄がありまして、自身で踊るときではなくバレエ「鑑賞」での消費カロリーはいかほどかであること。
ざっと目を通したところミュージカルでは何年か前に実証実験がなされたようで、1回の鑑賞でエクササイズ30分程度に相当したようです。
ただ当方の調査不足もあり、実験にて採用した作品の上演時間や相当するエクササイズの具体的な種類までは把握できず。
ともあれ、有酸素運動ではなくてもまずまずの消費量である点は間違いないのでしょう。
それならばバレエ鑑賞は如何か。台詞や歌声を浴びることはない分ミュージカルほどは消費しないのか
それとも視覚作用がより働いて寧ろ大消費しているのか、気になるところでございます。

コンサートでの実験結果は随分前に目にした記憶もありますが、但し静かに腰掛けて鑑賞するクラシックではなく
所謂団扇や光る棒(世間ではペンライトと呼ぶのであろうか)手に黄色い歓声を上げる類でしたので比較対象がだいぶ違ってきそうです。
またバレエの中でも作品は多岐に渡り、上演時間は同じ2時間半から3時間程度の作品であったとしても
例えば『シンデレラ』と『ラ・バヤデール』であれば後者の方が怨恨や憎悪、欲望渦巻く修羅場の沼にどっぷり浸かり、エネルギーもより消耗しそうな気がいたします。
また作品や出演者に対する鑑賞者自身の思い入れも作用するでしょう。(これが一番の肝かもしれぬ。つくづく身に沁みて感じております笑)

何年も前から疑問には思っておりましたがとりわけ意識したきっかけは昨年の4月から6月末頃までの時期。
東京都内も劇場が閉鎖されて公演は軒並み中止となり、外出も極力しないよう日々行政からもお達しもありましたので
休日は自宅で過ごすようになりました。仕事はどうしても在宅勤務が不可能な業務であるためほぼ通常通り出勤しており、つまりは過ごし方が大きく変わったのは休日のみ。
当時は国内外問わず世界各地の劇場から配信が活発となり、普段なかなか鑑賞する機会のない団体の公演映像の視聴は
面白くも学びの時間となって今も関係者の方々への感謝は尽きずにおります。
ただ配信映像を観た後に、劇場での鑑賞後と同様に一杯引っ掛けたいかと聞かれたらそうでもなく愛飲していたのは焙じ茶。
やはり生で観た後のアルコール一杯に勝てるものはございません笑。
そんな心境から飲酒量は激減。また外食もしなくなって甘味も含め、食事量も随分と減った時期でもありました。
ところが飲食摂取量は大幅減少にも拘らず体重は増加が止まらず、人生最重量級時代ほどには辛うじて至らなかったもののだいぶ冷や汗な増量発生。
原因を辿りあれこれ巡らせていくと、前年と(正確には2020年2月末まで)大きく変わったのは劇場での鑑賞が無くなった点のみで
スポーツジムにも行かずレッスンは2019年と2020年合わせても3回にも及ばず(これで良いのかとのご指摘、おありかと重々承知しております)
前にも後にもこれといった有酸素運動の定期的習慣もありませんから、鑑賞回数の急激な減少に身体が対応しきれなかったことが原因としか思えなかった次第です。
当ブログを以前からお読みの方は呆れ返っていらっしゃるかと存じますが、前々から観劇後には1人であってもアルコール1杯は欠かせず
或いはたらふく飲食、加えて日によっては感想談義及び妄想膨張語りが定着していたわけですから
着席しての静かな鑑賞とは言えども消費エネルギーは飲食摂取量を上回っていたのかもしれぬと昨年春から初夏にかけての増量事件が生じて初めて気づかされた思いがいたします。

先ほどNHKのチコちゃんに叱られるを視聴していたところ、宇宙空間体感実験の為よみうりランドにて
絶叫マシンや高所アトラクションにスタッフが乗っての実験が行われていましたように
管理人も随分前には、高所「好意」症な性分が意欲を募らせ、ジェットコースターに乗った際の脳の働き云々を調査する実験には参加経験がございます。
ただ乗っても絶叫もせず、仏頂面で満喫していた身でしたので期待されていた効果は出ていなかったかと存じます笑。
バレエ鑑賞中の脳の動きや消費エネルギー等の実証実験がもしなされたら、結果を知りたいと興味津々でございます。何なら参加も喜んで。

さて閑話休題。基本出演者は舞台に立ち、観客は静かに腰掛けての鑑賞が基本であるバレエですが、時には出演者が客席にやってくる演出もあり。
そのうち1本が10年前に新国立劇場で観たナット・キング・コール組曲。中盤に差し掛かると
男性ダンサーのお一人が客席にやってきて、投げ接吻だったかお花渡しであったか、そんな粋な演出がございました。
ただ現在は状況を鑑みると困難に思え、演出変更がなされるかもしれません。10年ぶりとなる再演、この週末堪能して参りたいと思っております。





配信はそこまで興奮しないと2020年は新国立劇場からの『ロメオとジュリエット』パリス出演部分を除けば感じておりましたが、2021年これは別格。
ゴールデンウィークにおけるプティ版『コッペリア』千秋楽。視聴後シャンパン摂取が止まらず
祝福のご連絡も多数いただきながら早寝してしまった管理人でございました。




上記の配信視聴後(それ以前もだが)、そして後日制作されたダイジェスト映像を視聴するたび主要キャストはそのままに
運命を狂わすドラマティック作品でも観たいと妄想止まらず。
何しろカレーニンとヴロンスキーが互角に魅力がないと成立せぬエイフマン版の演出、もうこのお2方しか想像できず。管理人、実現はまだ諦めておりません。
つい先日も夜にこの映像を視聴し、想像の翼をはためかせ心掻き毟られ魂揺さぶられておりました。
新国立での再演お待ちしております。
私の中では、チャイコフスキーの弦楽セレナーデはバランシン振付の『セレナーデ』よりも
アンナがヴロンスキーと出会い運命が狂い始める不倫の号砲を象徴する曲としての印象が今や強まってしまったほどです。

2021年11月22日月曜日

小牧正英さんの得意役を辿る構成 国際バレエアカデミア  バレエ・リュス・プログラム 11月14日(日)





11月14日(日)、国際バレエアカデミア(旧東京小牧バレエ団)  バレエ・リュス・プログラムを観て参りました。
『火の鳥』には新国立劇場の木村優里さん、奥村康祐さんが客演。国際バレエアカデミアの公演は
2018年10月のモンゴルとの共同制作ボストンバレエ版『くるみ割り人形』以来の鑑賞でございます。
http://www.academia-ballet.jp/



『牧神の午後』

アルタンフラグ・ドゥガラーさんがコロナの状況下にて入国不可能となり、ビャンバ・バットボルトさんが代役。
この作品自体鑑賞が久々で、恐らくは2006年の東京バレエ団による上演以来。バットボルトさんからのムンムンと漂う官能的な色合いは抑えめでしたが
悠然とした横向きの動きで紡いでいく振付は今観てもよく思いついたものであると考えさせられます。


『薔薇の精』
NBAバレエ団の高橋真之さんがタイトルロール、少女を蛭川騰子さんが踊り、序盤はお2人の身長差がやや気になったものの
高橋さんのふわっと舞い上がる跳躍や妖精らしい浮遊感、ねっとりとなり過ぎず湿度低めな雰囲気もちょうど良く
蛭川さんは夢の中での不思議な出来事に戸惑ったり妖精に惹かれていったりと心の移り変わりもしっかり表現し、後半には気にかからなくなりました。
この作品観て毎度思うのは、猫脚のソファーやらクッションやら、装置小道具に力が入っている点で
例え手に取ったり腰掛けたりはしない場合でも配置必須なのか、フォーキンに聞いてみたいところです。


『火の鳥』

フォーキン版を上演かと思いきや、チラシの解説によれば小牧バレエ団で出身でアントニー・チューダー薫陶を受け米国にて活躍した佐々保樹さん版とのこと。
幕開けから茶色と灰色系の総タイツな衣装姿をしたカッチェイの手下?達が舞台を覆い
その中の1組の男女が(男性は新国立の山田悠貴さん)中央にて漢字「命」なるポーズで立ち、不気味さを放っていきました。
火の鳥の木村優里さんは鋭く威厳ある鳥で、濃い朱色の衣装も似合い羽ばたく仕草だけでも吸い寄せられる摩訶不思議な美を明示。
対角線上を大きく跳躍しながら飛び込んでからのポーズもふんだんにありながらここ最近の軸や体幹強化の成果がこの役でも見られ
静止に至るまでの過程も盤石且つ腕が翼と化したかの如く指先までしなやかに野性味も香らせながら躍動していました。
登場しただけで空気がぴりりと締まる貫禄も眩しく、女王のように君臨。

奥村のさんイワン王子は冒険心一杯で、思えばメラメラに燃え盛る火の鳥を興味本位で捕まえようとする行動がまず変わり者なわけですが笑(火傷しないのやろうか)
民話であるとは言え無理な設定をも忘れさせるほどいとも楽しそうに、火の鳥に怪訝な表情で拒絶されてもめげずに嬉々として接する姿に微笑ましさまで募らす王子でした。
また離れて飛び立とうとする火の鳥と追いかけ抱き止める王子の切迫感あるやりとりも音楽の珍妙な起伏をもしっかり掴みながら披露。
木村さん、奥村さんそれぞれが持つ技術の高さが窺えるひと幕でした。 金子綾さんによる愛らしく気位の高いツァレブナには恋心をすぐさま持ちつつもひたすら礼を尽くし
意気揚々と恋する若者らしさと王族としての品の両方が垣間見えた気がいたします。
フォーキン版よりは踊る箇所が多く用意され、カッチェイや手下達から追い詰められるときには広々と跳び回ったりと意外にも見せ場豊富。
小牧バレエ時代からバレエ団で受け継がれている伝統の衣装でしょうから注文まではいかずとも、王子の赤い帽子が水泳帽に見えてしまったのは致し方ない笑。
新国立劇場でのフォーキン版ではサンタクロースの呼び名が付いておりました。帽子の形状の調整、なかなか難しいようです。

火の鳥の出番が中盤は少なく、曲調が一変する箇所辺りからはカッチェイの手下達が次々と登場しては縦横無尽に駆けていく振付。
フォーキン版のイメージ先行も一因でしょうが、舞台を埋め尽くすほどの大所帯を鼓舞していく展開を予想してしまった為
主人公であり対決を率いる火の鳥が不在であったのや寂しい印象が拭えずでした。
フィナーレはフォーキン版と同様火の鳥不在で王子とツァレヴナの結婚式。音楽も壮観ながら守り神な活躍をした火の鳥が
この場に居合わせない点は新国立劇場でのフォーキン版上演時も違和感を毎度覚えておりましたが
2007年にスターダンサーズバレエ団での太刀川瑠璃子さんバースデー公演にて鑑賞した遠藤善久さん(遠藤康行さんのお父様)版は
終幕火の鳥が中央後方部で見守る演出で、めでたさや荘厳さがひときわ強まって好印象でした。
そしてだいぶ設定、描かれ方は異なりますが、ベジャール版も最後火の鳥が中央にて身体を反り上げて君臨する生命力溢れる幕切れで、いつか生で観てみたい版でございます。
そういえば、来年1月には東京シティ・バレエ団が今回と同じ新国立劇場中劇場にて山本康介さん版を上演。
恐らくはクラシック路線かと想像できますが、フィナーレでの火の鳥の出番含め、鑑賞を大変心待ちにしているところです。

バレエ・リュス作品に絞ったトリプル・ビルが上演される機会は今は少なく
上海バレエ・リュス時代の小牧正英さん得意役を辿る、バレエ団の強みが生かされた構成を堪能できました。




バレエ・リュス作品、しかもロシア民話を題材にした作品でストラヴィンスキーの音楽を聴くと、欲するのはウォッカ。
メニューを眺めているとクランベリー入りの赤色ウォッカドリンクを発見。
甘みはあれど、ウォッカが十分効いております。次は久々にロックでいただいてみます。
それにしても『火の鳥』の音楽、何度聴いても、特に訳あって2017年のお正月以降は一層魂を揺さぶられっぱなしでおります。
火の鳥聴きたさにプロアマ問わず演奏会にも何回か出向き、ロシア国立管弦楽団が来日しストラヴィンスキーの遠戚にあたる指揮者がオペラシティで振ったときも行きましたが
3年前の3月半ばの季節外れな大雪の日に聴きに行った、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の来日演奏は
演奏会不慣れな私にも拘らず色々込み上げ、未だ忘れられぬ1日でございます。

2021年11月21日日曜日

分かりづらくも見入る新作3本 日本バレエ協会 Balletクレアシオン2021 11月13日(土)





11月13日(土)、日本バレエ協会のBalletクレアシオン2021を観て参りました。2週連続メルパルクホールでございます。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/r3balletcreation/
※プログラム未購入及び一切予備知識無しで鑑賞に臨みましたため、コンセプト等理解に至らぬ部分が多々あり「大変」短め感想でございます。
※キャスト等は日本バレエ協会ホームページより


「sinine」

振付:松崎 えり
音楽:BALANESCU QUARTET、 Max Richter 他
バレエ・マスター:坂田 尚也

キム・セジョン
赤池 悠希 坂田 尚也

青木 茉鈴  伊藤のどか   岸 優里
小林 汀   佐藤 鴻   清水祐紀凪
田代 夏花  常田 萌絵  寺島 名織
土佐林理子  長瀬 瑠依  中谷 夏葉
福田つぐみ  細井 佑季  堀越 美保
吉田 七海

光と影の効果を用いながら、静かな音楽に包まれつつ、予測不能なダンサーの配置、登場させる振付でした。
終盤あたりであったか、真紅の花びららしきものが散らされる演出にはっとさせられ、撒かれ方も変に固まらず綺麗に舞い落ちていた点は好印象。
私の貧弱感性及び理解力不足により作品解釈に至らず申し訳ない限りですが
怪しげに広がりを見せる光と影の演出は2階から眺めていても吸い込まれそうな不思議な魔力を思わせました。


「The Overview Effect」

振付:福田 圭吾*
音楽作曲:平本 正宏
映像デザイン:高岡 真也
バレエ・ミストレス:横山 柊子

米沢 唯*  福岡 雄大*

木下 嘉人*  宇賀 大将*  小野寺 雄*  
福田 紘也*  廣田 奈々*

池ヶ谷 奏  石川 遥香  石橋沙也果
今村 夏乃  小幡 真玲  鈴木 夢生
田代 幸恵  千葉 涼火  中野 百花
新名かれん  古尾谷莉奈  森 加奈 
 
*印 新国立劇場バレエ団所属

渋谷駅前のスクランブル交差点に1人佇む米沢さんが時空を超えて降り立ち、そのまま抜けて現れるような冒頭にまず引き寄せられました。
泳ぐような映像の巡りも、滅多にはやらぬがシミュレーションゲームの世界に迷い込んだ気分となり、地球は青かったとの名言が脳裏を過ぎらずにはいられぬ
宇宙から見た地球も大きく映し出された映像も壮大。「2021年」宇宙の旅と思わす近未来空間や映像、
ダンサーの緩やかさとスピード感が自在に盛り込まれた連なりが舞台一杯に広がりました。
皆白い衣装で統一し、米沢さんの孤高な存在と吸い付くような柔らかさが目に気持ち良く入り
廣田さんが醸す不思議な美しさもSFな世界観によく合い、自然と引き込まれる魅力十二分。
中盤から鹿やその他何種かの動物の頭の被り物をした登場も用意され、環境問題の訴えであったのかもしれませんが
先の作品鑑賞時と同様に我が貧弱感性と理解力不足により考え込んでしまった次第。
映像のめまぐるしさが時折刺激過多で、映画『天空の城ラピュタ』終盤にて目を覆うムスカ状態となりかけましたが
遥かなる宇宙を思わす空間にわくわくとしながら身を置いたひとときでした。


「思いの果てにある風景」

振付:島地 保武
演奏・作曲:藤元 高輝
音楽:モーリス・オアナ、ヨハン・セバスティアン・バッハ、
アルベルト・ヒナステラ、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェ
藤元 高輝
バレエ・ミストレス:酒井 はな

五十嵐結也
池田 武志
猪野なごみ
大木満里奈
大宮 大奨
岡本 優
梶田 留以
島地 保武
五島茉佑子
フルフォード佳林
宝満 直也
堀江 将司

お好きな方には申し訳ないのですが以前から島地さんの振付作品は得意なほうではなく
ダンスであれば台詞回しは最小限で良いのではなかろうかと思うことがございました。
また個性炸裂な人材集結で、大御所揃いあるいは実力者ばかりであるのは概ね想像できても作品として纏まるのか開演前は首を傾げておりましたが(失礼)
ただ独創的展開でもバレエ、コンテンポラリーダンス、それぞれの強みが生かされ、台詞の部分や藤元さんの演奏との呼応も面白く
結局はきちんと収まりを見せていたのは島地さんのセンスかと思います。
繰り返しにはなりますが約2時間3作品全てにおいて私の貧弱感性及び理解力不足を思い知らされた公演でしたが
しかし趣きはどれも異なる新作を一挙に鑑賞できたのは喜びであり、次の機会も楽しみにしております。
1階席はまずまず埋まっている様子でしたが2階席は30人前後で、山野博大さんも綴っていらしたように創作物での集客の難しさは変わらず、今後も課題になってきそうです。




帰り浜松町駅に向かう通り道の店舗にて、今年発売の綺麗な缶デザインビールで乾杯。
ダンス公演にも多数足を運んでいらっしゃるお3方とご一緒させていただき、お話を聞きながら大変楽しくそして学びとなりました。
こちらのビール、軽い口当たりで肝臓に優しそうな味わいで缶にはロンドンの名所が描かれています。
いつかは行ってみたい街ですが、滞在中は連日パブ通いのビール三昧な日々を過ごす自身が目に見えております。

2021年11月19日金曜日

人間の善良性と残酷性の双方に光を当てた大作   DANCE for Life 2021 篠原聖一 バレエ・リサイタル『アナンケ 宿 命』~ノートルダム・ド・パリ~ より 11月7日(日)





11月7日(日)、DANCE for Life 2021 篠原聖一 バレエ・リサイタル『アナンケ 宿 命』~ノートルダム・ド・パリ~ よりを観て参りました。
2015年の初演(大阪の佐々木美智子バレエ団による上演)、2018年東京での再演に続き3回目の鑑賞です。
当初は昨年上演予定でしたが1年延期を経てようやくの開催となりました。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000461.000013972.html

演出・振付:篠原聖一
原作:ヴィクトル・ユゴー
音楽:R.グリエール   M.グリンカ  A.ハチャトゥリアン   C.プーニ  A.グラズノフ  A.メリコフ

エスメラルダ:下村由理恵
フロロ:山本隆之
カジモド:佐々木大
フェビウス:今井智也
フルール:川島麻実子
グランゴワール:浅田良和
クロパン:檜山和久
マリ:大長亜希子
ルイ11世:小原孝司


下村さんのエスメラルダは1度目の再演以上に少女度が増し、登場時の艶やかな中にも可愛らしさ、無邪気な魅力が覗く驚異のヒロインで
真っ赤なスカートを翻しながら縦横無尽に踊って駆け抜け、広場の喧騒の何処にいても照明がいくつも増加したようなオーラを発散。
とりわけ揺るぎない、生涯衰えそうにない技術の達者ぶりにも仰天し次々と急速なステップを刻みながら魅せていく姿に再度虜となりました。
奔放そうにグランゴワールをからかっていそうでも、ロマの掟から彼を守ろうと恋愛成就ではなくてもひとたび婚約者となれば睦まじい仲となって
身を委ねて乙女な姿に変貌。フロロが嫉妬し欲情に駆られるのも無理もありません。
醜い風貌であるが故に皆がなかなか近寄らないカジモドに対する、分け隔てない愛情深い接し方も胸に響き
中でも鞭打ちに処された痛々しいカジモドに誰よりも真っ先に駆け寄って慰める姿は、汚れのない愛情がひときわ伝わる場面でした。
最後、無実の罪を着せられ処刑台に向かう足取りは重々しくも、表情は毅然としていて全てを受け入れる覚悟に胸が詰まらずにいられず。

佐々木さんのカジモドのひたむきさも初演、再演と重ねて格段と胸を打つものがあり
周囲から蔑まれても理不尽な仕打ちを受けても、変わらぬピュアな心の持ちようにどれだけ揺さぶられたことか。
エスメラルダと打ち解けていく場面では、この2人が結ばれたらと一瞬願いが過るもフロロの益々恐ろしい逆襲が目に見え、歯車は理想通りには回らず運命とは皮肉なものです。
エスメラルダがフロロにより強引に処刑された直後、忠実に仕えていたフロロ突き落としを決意するたった数秒の間でも
拾われ育ててくれた恩人への愛情と、立場を利用し次々と恐怖弾圧を辞さぬ身勝手さへの恨みの両方が入り混じった
フロロに対する複雑な胸の内が伝わり、壮絶さに震えが暫く止まらなかったほどです。

そして物語を劇的に動かしてくださったのは山本さんのフロロ。大聖堂の中からの両手を前で組んでの厳かな登場からして身震いさせる冷ややかさを漂わせ
今回分かったのは扉から出てくる際、先に映し出されていた影だけでも不穏な空気を醸し緊迫感を与えていらしたのです。影でも語るお方は初めて目にした気がいたします。
聖職者の立場でエスメラルダに恋してしまった苦しみはずしりと胸に刺さり、エスメラルダとグランゴワールが戯れる微笑ましい様子に嫉妬の炎を燃やし
やがて恋の苦悩の募らせと欲望の闇が心をいつまでも掻き乱したほど。 そして物語がいよいよ急展開を迎える
寝室に忍び込んでナイフをきらりと客席に見せてからのフェビュスの刺殺事件。大変な重罪行為であるのは承知しておりますが
一段と嫌らしくも黒い内面が露わとなり、火曜サスペンス劇場でも土曜ワイド劇場でも、こうにも官能色が覗く犯人は、十津川警部や浅見光彦シリーズ
山村美紗原作の京都物等の旅情系2時間ミステリー好きな私もお目にかかったことございません。

更にフロロの心が歪んでいき矛先が本当は愛するエスメラルダに向かっていく悍ましさが全身から滲ませ背筋に戦慄が走ったのでした。
民衆に嘲笑されたカジモドを守ろうと連れ帰ったりと冷酷な中にもふと見える優しさと言い、危険行為真っ只中であっても伝う色気と言い
善悪双方が見事なまでに共存して重厚な物語を動かす存在感と言い、再度申し上げます。
山本隆之さんは偉大だ!

因みにフロロサスペンス劇場の刺殺場面、刺される側の今井さんフェビウスの芝居効果も大きく、大袈裟になり過ぎずしかし苦しさを引き摺るように息絶える様子を描写。
勇ましく颯爽と登場し、危機に瀕していた(実際にはフロロの策略であったのだがフェビウス本人には知る由も無いこと)エスメラルダを
救出していた雄々しい近衛隊長と同一人物とは思えぬ、哀れな最期でした。

新キャストである川島さんのフルールは優雅でほんのり色っぽさも香る美しい令嬢で、白いドレス風な衣装がたいそうお似合い。
しかし婚約式の最中であってもフェビウスの浮気にすぐさま疑念を持ったりとただ夢見がちでお花畑状態なお嬢様ではない人間性も示し
二股した挙句に呆気なく命を落としたフェビウスの運命を後々に知ってどう捉えたか気になるところです。
東京バレエ団時代の公演も度々鑑賞し、中でも『スプリング&フォール』の優美さは忘れられず。
退団後の舞台もこうして鑑賞する機会が訪れ嬉しいひとときでございました。
浅田さんによるグランゴワールの変化も鍵となり、お人好しでオロオロしていた素朴な青年が終盤にはエスメラルダを助けようと立ちはだかる権力にも屈さず
嘆願書を持って必死に無実を訴える姿に、仮婚約でも心から慕っていたと思うと退けられたときの悲嘆に暮れる姿に苦しみを覚えるばかりでした。

初演、1度目の再演は舞台近くの席で鑑賞しフロロを間近で拝めたのは忘れられない幸福体験でしたが
大人数が出演し、装置も大掛かりな大作ながら全体像が見渡せませんでしたので今回はあえてやや離れた席から鑑賞。
すると、冒頭からロマの群舞の入り組んでは散らばり奥底から1人1人が発するエネルギーが強いのみならず統制の取れた構成に驚愕。
あくまでクラシックバレエですからある程度の制限はあっても 一生懸命揃えていると言わんばかりの揃い方では臨場感に欠け
しかしロマだからと各々自由気ままに発散させて踊れば良いものではありません。
今回全体を観ていると身体に染み込んだ振付をごく自然に体現している上にある程度は揃っていながらも沸々と湧いたエネルギーを鮮烈に放っていると思わせ
実に賑やか且つバレエとしての統制も抜群な冒頭の広場でした。大阪の佐々木美智子バレエ団に比較するとパワーの物足りなさを感じてしまった
2018年上演時よりも遥かに、弾圧に負けじと奮闘する民衆のエネルギーが充満していた印象です。

また、私が篠原さん作品で共通して惹かれる演出の特徴の1つが照明の妙技。今回全体が見える席から一段と効果に感じ入り、
1幕でのエスメラルダとグランゴワールが仲睦まじくなっていく様子と、2人に嫉妬し悶え苦しむ孤独感を募らせながら踊るフロロを交互にスポットライトを当て
余りに何度も当て過ぎると目がチカチカしてしまい、しかし一方にずっと当てていては3人の感情の起伏が見え辛くなってしまうでしょう。
篠原さんは実によく計算なさっていて、例えばそろそろフロロの苦しみはいかにとふと思った矢先にフロロに光が当たったりとタイミングが絶妙に思えたのでした。
3人それぞれの語りが聞こえそうなほどしっかりと感情の動きを見せつつ急かさない照明の当て方に再度膝を打った次第でございます。

エピローグにおけるスモークに包まれる中でエスメラルダを担ぎ上げるカジモドの2人に光が当てられた演出も実に効果的であると舞台全体を見渡せる席だからこそ気づき
始まりも終わりもエスメラルダとカジモドであり、プロローグにおける大聖堂の前に捨てられた赤児の2人が
幾多の困難を経ても最後まで繋がり続けた宿命を目に心に焼き付ける幕切れであったと捉えております。

出演者も少しずつ入れ替わっての再演となりましたが初演からの主要キャストである下村さんエスメラルダ、佐々木さんカジモド
山本さんフロロが揃い中世パリの極限な修羅場を体感いたしました。一見奔放でグランゴワールをからかってみたりするものの
人々が近寄りたがらぬ風貌のカジモドに愛情を注ぐエスメラルダ、冷酷で時には身勝手に思えるフロロも
カジモドを引き取り育てた優しさが隠れてしまった経緯まで知りたくなる人間味があり
最後は恩人フロロを突き落とす行為へと走るカジモドを恨めるかと聞かれたらそうもいかず。
人間の善良な面と残酷さや負の面の両方が丁寧に深く描かれ、最後は悲しくも安堵で心が満たされる大作です。
今後も上演を重ねて欲しいと願っており、勿論他の篠原さん作品や新作上演もお待ちしております。
これまで観た中ではオスカー・ワイルドの原作を土台に人魚と漁師の恋を描き、淡い光が降り注ぐ海の揺らめき演出もたいそう美しかった
2015年に福島県いわき市にて鑑賞した「The Fisherman and His Soul」もまた観たい作品です。

それから私の空耳でしょうが、1幕序盤にてロマ達が一斉に賑やかに踊る場面にて流れる曲が光GENJIの『ガラスの十代』に聴こえかけました。
ただ私も世代ではなく(フォーリーブスの方が詳しい、そんなわけないか笑)明らかに空耳でしょう。

来年3月には日本バレエ協会がユーリ・ブルラーカ振付指導と記された『ラ・エスメラルダ』を上演。
ブルラーカによる復元版はボリショイでも採用されているかと思いますが、今から大変楽しみでございます。
アナンケでは優雅で理知的なフルール役を好演された川島さんが、2日目昼公演にてエスメラルダ役を踊られることにも注目です。


※ご参考までにこれまで2度鑑賞した感想でございます。2015年の初演。大阪の佐々木美智子バレエ団による上演でした。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/830-4198.html

※2018年東京での再演の感想。地域性の違いもまた興味を持たせた上演でした。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/httpwwwseiichi.html




帰り、浜松町駅前のハイボールバーにて重口赤ワインで1人静かに乾杯。この作品を観ると、毎度赤ワインが欲したくなります。
そしてコースターの絵を見ると、思い出すのは山本さんの名演舞台の一つ、欧州のダンサーよりダンディで色気放散であったプティ版『こうもり』ヨハン。



中落ちカルビのサイコロステーキをいただきます。プログラム解説内の「フロロの肉欲」、なかなか重たい響きです。

2021年11月15日月曜日

完成版を楽しみに 東京バレエ団『かぐや姫』第1幕『中国の不思議な役人』 『ドリーム・タイム』11月6日(土) 




11月6日(土)東京バレエ団『かぐや姫』第1幕、『中国の不思議な役人』 、『ドリーム・タイム』を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2021/kaguyahime/cast.html



※キャスト等はNBSホームページより


「中国の不思議な役人」
振付:モーリス・ベジャール
音楽:ベラ・バルトーク

無頼漢の首領:鳥海 創
第二の無頼漢―娘:宮川新大
ジークフリート:ブラウリオ・アルバレス
若い男:伝田陽美
中国の役人:大塚 卓


東京バレエ団で再演を重ねていながら初見作品で音楽を事前に聴いた限り、暗黒の中で繰り広げられる不気味そうな展開の曲調からして
好みそうな作品を想像。筋運びは一見難解でありつつも 主軸を踊る役人大塚さんの、周囲の騒動にも動じぬ謎めいた魅力を放つ存在感や
どっしりと構えたポーズも決まっていて、惹きつけられるものがありました。
鳥海さんの無来頼の首領がドスの効いたおっかなさで舞台を覆い、追い詰める群舞は序盤はやや小綺麗でさらりとした印象もあったものの徐々に毒味を帯びていき
2回、3回と観続けてようやく魅力を体感できそうに思いますので、再演時にはまた鑑賞したい作品です。


「ドリーム・タイム」
振付・演出 :イリ・キリアン
振付助手:エルケ・シェパース
音楽:武満徹 オーケストラのための「夢の時」(1981)
装置・衣裳デザイン:ジョン・F. マクファーレン
照明デザイン:イリ・キリアン(コンセプト)、ヨープ・カボルト(製作)
技術監督、装置・照明改訂:ケース・チェッベス

沖香菜子 三雲友里加 金子仁美
宮川新大 岡崎隼也

こちらも初鑑賞。ゆったりと不思議な旋律が続く中、夢遊に浸っている間に終わってしまった感があり
それだけ静謐な作風に魔力が溶け合うような美しさを描き表していた証でしょう。時々催眠術にかけられそうな曲調に危うく自身が夢の中状態にもなりかけましたが
(興味本位で図書館で借りた、脳のα波活性化なるCDの音楽に通ずるかと記憶) 沖さんの腕のしなるような表情、
金子さんのしなやかな身体の語りが特に訴えかけ、静かな中に宿る詩情の豊かさが沁み入りました。


「かぐや姫」第1幕 世界初演
演出振付:金森穣
音楽:クロード・ドビュッシー
衣裳デザイン:廣川玉枝(SOMA DESIGN)
美術:近藤正樹
映像:遠藤龍
照明:伊藤雅一(RYU)、金森穣
演出助手:井関佐和子
衣裳制作:武田園子(Veronique)
テクニカル・コーディネーター:夏目雅也

かぐや姫:秋山 瑛
道児:柄本 弾
翁:飯田宗孝
緑の精:伝田陽美、二瓶加奈子、三雲友里加、政本絵美、金子仁美、中川美雪
    加藤くるみ、髙浦由美子、榊優美枝、中沢恵理子、上田実歩、中島理子、最上奈々、鈴木理央、菊池彩美、
    瓜生遥花、長谷川琴音、大坪優花、花形悠月、松永千里、平木菜子、長岡佑奈、中島映理子、相澤 圭
童たち:工 桃子、安西くるみ
    岡崎隼也、井福俊太郎
村人たち:加藤くるみ、榊優美枝、上田実歩、長谷川琴音、平木菜子、中島映理子
     樋口祐輝、生方隆之介、大塚 卓、和田康佑、玉川貴博、鳥海 創、山田眞央、海田一成
秋見:伝田陽美
従者:生方隆之介、大塚 卓、和田康佑、玉川貴博
黒衣:岡崎隼也、海田一成


金森穣さん演出振付による全幕作品世界初演として話題沸騰な中、初日の幕開け。まだ第1幕のみの披露ですのでざっくりと綴って参ります。
かぐや姫の秋山さんは活発なあどけなさ、雅やかな淑やかさ両面を体現。特に姫のお転婆な面は絵本等でも馴染みがなく
竹から生まれた後は箸より重い物は持たされず大切に大切に育てられているイメージが先行しているためか
突如桃太郎のように飛び出して現れ、はしゃいでいく姿に違和感すら覚えたものですが
道児と出会った後のしっとり大人びた踊りや、やがて竹を模したであろう淡い緑色の着物を纏い雅な趣きで去って行く流れを見せ
早く第2幕そして完成版を観てみたい心持ちとなりました。貞淑に仕えていた秋見の伝田さんも良い味を出して活躍。

緑の精達の衣装の色味が濃過ぎる気が否めず、実際の竹の色からは離れるとは言えどももう少し抑えた色彩であれば
妖精らしい柔らかさやそよぐような浮遊感も出たかと想像。また上階から観る限り、振付が平坦な印象も拭えず。
『白鳥の湖』の湖畔や『くるみ割り人形』の雪ほどの変化に富む振付は求めませんが、もう一工夫あればとも思えました。

ドビュッシーの音楽はどの場面にも自然と嵌り、題名そのものと言えばそれまでですが月の光に優しく照らされる場面にて流れる「月の光」、
童達との溌剌とした戯れでの「子供の領分」も納得の選曲です。 ただ場面それぞれに合っていただけにぶつ切りな印象を与えられてしまったのは惜しく
切り貼りした感もあり。曲の余韻が次の曲に被さるように、場面展開や曲と曲の間隔等が噛み合えばより滑らかな進行になると思わせます。
全くの個人の趣味趣向ですが、ドビュッシーの中で私が最も好きな、何もかもが溶けて浄化されるような曲調の
「神聖な舞曲 世俗的な舞曲」は2、3幕で用いられるのか注目もしております。

伝統美とモダンな要素を上手く合わせながらもどっちつかずに感じる点もあり、今後全幕版完成に向けて手直しもなされることでしょう。
2幕か3幕で恐らくは描かれるであろう、求婚者達が集まり、姫から無理難題が出される場面は
眠りの「ローズ・アダージオ」ならぬ「バンブー・アダージオ」なる華麗な演出となるのか
それともより面白味ある構想が既に練られているのか、全幕版の完成を待ち侘びております。




日本の古典を題材にした作品を目にし、熱燗で乾杯。梅ささみでさっぱりと。このお店は4年ぶりに来店、その間に酒場放浪記でも紹介されたそうです。

2021年11月11日木曜日

31日を境に好みに転じた荘重な版  新国立劇場バレエ団ピーター・ライト版『白鳥の湖』 10月23日(土)〜11月3日(水)





10月23日(土)〜11月3日(水)、新国立劇場バレエ団ピーター・ライト版『白鳥の湖』を計7回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/swanlake/




10月23日(土)
オデット/オディール:米沢 唯
ジークフリード王子:福岡雄大
王妃:本島美和
ロットバルト男爵:貝川鐵夫
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、飯野萌子
ハンガリー王女:廣田奈々
ポーランド王女:飯野萌子
イタリア王女:奥田花純

2021年10月24日(日) 14:00
オデット/オディール:小野絢子
ジークフリード王子:奥村康祐
王妃:本島美和
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:福田圭吾
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):飯野萌子、廣川みくり
ハンガリー王女:細田千晶
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥

2021年10月30日(土) 13:00
オデット/オディール:米沢 唯
ジークフリード王子:福岡雄大
王妃:盤若真美
ロットバルト男爵:貝川鐵夫
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、池田紗弥
ハンガリー王女:廣田奈々
ポーランド王女:飯野萌子
イタリア王女:奥田花純

2021年10月30日(土) 18:30
オデット/オディール:小野絢子
ジークフリード王子:奥村康祐
王妃:盤若真美
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:福田圭吾
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):飯野萌子、廣川みくり
ハンガリー王女:細田千晶
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥

2021年10月31日(日) 14:00
オデット/オディール:木村優里
ジークフリード王子:渡邊峻郁
王妃:本島美和
ロットバルト男爵:貝川鐵夫
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):飯野萌子、廣川みくり
ハンガリー王女:細田千晶
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥

2021年11月2日(火) 14:00
オデット/オディール:柴山紗帆
ジークフリード王子:井澤 駿
王妃:本島美和
ロットバルト男爵:中島駿野
ベンノ:福田圭吾
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):奥田花純、広瀬 碧
ハンガリー王女:中島春菜
ポーランド王女:根岸祐衣
イタリア王女:赤井綾乃

2021年11月3日(水・祝) 14:00
オデット/オディール:木村優里
ジークフリード王子:渡邊峻郁
王妃:盤若真美
ロットバルト男爵:貝川鐵夫
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、池田紗弥
ハンガリー王女:廣田奈々
ポーランド王女:飯野萌子
イタリア王女:奥田花純


※速報でもない速報と重なる箇所も複数ございますが悪しからず。


米沢さんは整った踊りが美しく連なるオデットで、内側から滲む悲哀が更に切なさを誘う姫。
状況明示のマイムははっきりとしていながらも、王子に心を開きつつ支えられてのポーズの際には一層背負った重い運命をぶつけるように身を委ね
短時間で心情の起伏を巧みに表現していらっしゃいました。オディールは見るからに悪女ではない、ほんのり黒い魅力を放つ造形。
その分、少しでもニカッと笑みを見せるだけでもゾワっとさせられる姫でございます。
王子への許しは共に悲しみを分かち合うように接し、包み込む優しさに触れた思いでおります。

小野さんは崇高なオデット。傷が微塵もない陶器のように滑らかな踊りで魅せ、且つ冷たさも帯びた姫。
抑えた中から少しずつ哀切さを帯び、王子へは静かに経緯を語り、ソロでの静寂な湖に神々しく佇む姿から音楽と溶け合っての四肢の繰り出し に恍惚と惹かれた次第です。
オディールは日によって造形が異なり、1回目は序盤から魔力炸裂で目も瞳もギラリと光る毒を撒くような悪女。
2回目はしばらくは無邪気な笑みを湛え、アダージオ中盤以降怖さ沸々と醸し、いずれにしても
仮にオデットではないと気づいたとしても罠に嵌ってしまうのも頷ける棘を宿す艶かしさでした。
4幕での詫びに来る王子に対しては悲運を見せず毅然としていて胸を打つ気丈な接し方。これまでに幾多の困難な運命に翻弄されてきた強さをも感じさせる場面でした。

柴山さんは端正で悲劇性強いオデットで、持ち味である正確な技術が光り、閉ざされた心を丁寧に表出。
オディールは決してあからさまな悪女にならず、しかし進行するうちにアダージオに入ってからは王子の耳元での囁きで
みるみると不気味な笑み、鋭い視線を見せつけ、王子も益々大混乱であったことでしょう。
全幕においてはライモンダやニキヤ、シンデレラといった耐え忍ぶ要素が描かれる役柄がぴたりと嵌るタイプと思っており
オデットは初挑戦の2018年時に比較し、心の底から悲しみを訴える表現の色もはっきりと出てきて、されど強みである崩さぬ型は維持。
中でも激しい羽ばたきの振付においても首から肩にかけての線を綺麗に見せている折り目正しい踊り方にはっとさせられます。

木村さんはNHKバレエの饗宴での『パキータ』から更に型がカチッと整い、技術も冴え、気高く生命力のあるオデットを造形。
止まる箇所やキープする箇所もぐらつきや変にしなってしまうことも無く、それらをクリアした上で王子への訴えや白鳥達を守ろうとする強さを見せていた印象です。
以前は明快に毒気を放っていたオディールでは今回は序盤はクールに作り、表情もきりり。
その分折り目正しさが増した踊り方で進め、格高く仕上げていた点も好感を持ちました。

福岡さんは宴への登場時から堂々とした姿の王子で、この時点では将来の国王の片鱗を思わすも、この後に待ち受ける運命の恋の嵐を彷徨うとは人生分からぬものです。
昂る感情を前面に出す王子で、3幕ヴァリエーションを踊っている最中は微笑む程度であった表情が
最後は両手を胸に当ててありったけの心を捧げるような終わり方で締め括る脳裏に残っております。
4幕では過ちを悔いて深い悲しみを切々と訴え、前述の通り気持ちを共有するように包む米沢さんオデットと寧ろ愛が強まったかにも見て取れる2人でした。
米沢さん、福岡さんはお2方揃って申し分ない技術の持ち主で2013年の『ドン・キホーテ』では超絶技巧炸裂ペアとして大盛り上がりな舞台が今も記憶にありますが
時を経て今年の『ライモンダ』では優雅さが加わり、そして今回の白鳥では物語を紡ぎ上げる力も増幅。
特に4幕パ・ド・ドゥでの重々しい悲しみを引き摺りながら謳い上げるように踊る姿に、もっとお2人が組む舞台も観てみたいとも思えたのでした。

奥村さんはやるせなさとあどけなさの配分がいたく自然に映る王子で宴を眺める様子のやや冷めた視線が、気分の乗らぬ心境が淡々と伝わりました。
宴の最中に王妃が訪れたときは曇顔にはそこまでならず、大好きなママ笑に対して示す愛嬌もまだ残る可愛らしさもあり。
またオディールとの結婚をすぐさま決意し伝えるときも、歓喜の声が聞こえそうで笑、王妃の頬が緩むのも分かるひと幕でした。
4幕の懺悔っぷりは真骨頂で、太字の字幕がそのまま頭上に現れてもおかしくない、涙浮かべて全身から謝罪の言葉を叫び放つような状況に。
喜劇では全くないはずが余りの懸命な姿に笑ってしまうこともあったほどです。

小野さんとの相性は6月の『ライモンダ』以上に良好で、互いから魅力を出し高め合う印象。
『ライモンダ』においては夢の場での終わりが見え辛いテンポも取りにくいふにゃふにゃしたアダージオとは感じさせぬ
小野さんを水晶のように輝かせて高難度リフトであっても2人の呼吸が合い遊泳するように踊る様子に舌を巻いたのは記憶に新しいところ。
2幕も含めればいかにもな騎士、な外見とは言い難かったものの(そうは言っても夢の場の幻想的な世界観の描画は断トツであった)
今回の純粋でまだ未熟さも残る王子と凛とした美のオデットの組み合わせのほうが、役柄や筋運び両方においてぴたりと嵌っていました。

井澤さんはおっとりお人好しそうな温厚王子で、大らかな性格の余り王妃が危機感を抱くのも無理はないとこれはこれで説得力あり。
宴の開催がばれそうになると俯いてわなわな震える様子も、常日頃から母親には一切抵抗できぬ状況を想像させます。
珍しくヴァリエーションはスピード感宿るテクニックも見せ、恋に恋して周囲が見えなくなっている王子のはやる心がそのまま全身から表れていたもよう。
柴山さんと井澤さんは新国立劇場における全幕でペアを組んでの主演は初。ただ同じスタジオご出身で発表会等ではよく組んでいたのでしょう。
劇的ではなく抑え目に内側を表していく波長が合っていると見受け、背丈バランスも良い具合。なかなか宜しいペアでございました。


※以下、長くなります。東京都においては季節外れな温暖気候が続いたのち、今度は寒波到来とか。水分補給及び小休止をどうぞ。

渡邊さんの王子は幕開けの葬列から視線をちょこっと逸らしたり真っ直ぐ見据えたりと悲壮と将来の不安の両方滲ませる歩き姿で
紗幕も黒、衣装もマントも黒一色で数秒の横切りでも闇状態と化した王家の悲劇に引き込まれたほどです。
そして渡邊さん初登場まで初日から計4回鑑賞していながら、葬列場面では王子がマント着用と初意識。
勿論それまでも気づいてはいたものの、さまになっている云々考えながらの鑑賞ではなかった為、国葬から始まる演出も宜しいかもと
憂え翳りある歩き姿や例え黒系で統一の舞台でもくっきりと絵になるマント姿が視界に入り、31日は即座に思えたのでした。
人間とはかくも身勝手な生き物であるとこの度も1回目の再確認です。

最も驚かされたのは1幕や3幕での着席中の様子。重圧と常に向き合い、心配事も多き心の鬱々とした波動を目線や仕草
また友人らの戯れに対し微かに喜びを見せるに至るまで緻密に示して伝え、感情の空模様描写の名手です。
しかも1幕も3幕も椅子が映画監督が腰掛けていそうな黒い簡素なものであっても手にメガホンは見えず笑、カットの声も聞こえず(当たり前だ)。
少し時間軸戻って、冒頭の宮廷にてめでたい賑やか音楽に鬱鬱とした王子の登場に違和感を感じていたが、直前に葬列があるので納得できた上に
渡邊さんの場合葬列にて将来を案ずる様子が分かりやすく伝わり沈痛な悲壮感と将来の不安両方滲む歩き姿であったので一層説得力あり。
更には王子はもとより王妃や貴族達も黒系衣装、背景はくすんだグレーな色彩で、内面の闇をいかにして立体的に浮かばせ伝えるかが肝で
物語の色付けを左右する鍵であると思いますが、渡邊さんはそれが抜群に長けていたと見受け
だからこそ宴は開催で周囲は楽しく興じているため覆い尽くすような単調な暗さはないが、その中でも喪中の身分をはっきりと示しているのでろうと繋がりました。

踊りも頗る好調で品位と力感備わる踊りで先導され、中でも3幕ヴァリエーションはただ跳躍が伸びやかで高いのみならず(牧版と異なり、最初から演奏も振付も飛翔度強し)
周囲の心配をよそにオディールをオデットと信じ込んで奥底から沸き上がる最高潮に達した幸福と一体となっての披露。
ジークフリート王子にしては満面過ぎる笑みかとも思ったのも束の間で、ロシアの版では重きを置かれているのであろう王子としての格式美も大事だが
単に闇や陰の部分にのみならず内面の未熟さやうぶな部分もうやむやにせずごっそりありのままに描いているのがライト版の特徴、魅力であろうと考察。
だからこそ、オデットと思い込んだら疑いもせずにこやかにまっしぐらで、結婚相手が決まったと王妃へ報告の際も嬉々とした声が鳴り響くようにも感じたのでした。
この場面、特に奥村さんと渡邊さんがあからさまに嬉しさを表し、「ママー!!」との声が聞こえてきそうに駆け寄る奥村さんに対し
一応城主であろう王妃の前のためか渡邊さんはほんのり抑制が効いて振る舞いが一瞬大人になり、「母上ー」と叫んでいるように思えた次第です。
王妃への呼び方想像はさておき、重圧の苦悩や恋の歓喜と絶望、ロットバルト兜奪取の猛然豹変まで渡邊さんは王子の物語を終始明示され
立ち居振る舞いやサポート、ソロも更に磨かれ、記者会見でのご発言通り「踊り方改革」の実行と成功にも心より拍手を送りたい思いでおります。

初日から同じ布陣でいけばもしやと期待していた1幕中盤における、ワルツの男性から王子への弓贈呈担当と握手の交わしを
渡邊拓朗さんが全日程(恐らく)務め、舞台中央での兄弟接触も実現いたしました。拓朗さんの、仲間達からの贈り物であることを振り向きながら示すマイムや
贈呈する仕草も風格と品があり、重要儀式における代表任務をこなすに相応しいお姿はたいそう頼もしく映った次第。王子、殊更嬉しそうでございました。
余りの微笑ましさと念願叶っての並びに、一部の客席からは笑いも漏れていたほどです。

さて、2021/2022シーズンもやります恒例の髪型考察。今回は二重丸。リハーサルの映像から前髪がやや長くなられたようで
赤い鉢巻(ではなく実際はバンダナだが笑)で使用なさっていたため本番での纏め方に注目し、ほぼ中央での分け目で不自然さ無し。
前回2018年5月の初台での本公演全幕白鳥ではトロワの日はふわっと自然であったはずが主演日はハーフアップと申すべきか
古式ゆかしい髪型へ変化を遂げていらっしゃいましたが、今回は2回ともナチュラル且つさっぱりと整えた感もあり。安堵でございます。
2018年5月公演当時のプログラムやキャスト表にすら明記されていない、ルースカヤの付き人役での
渋い容姿と護衛官並みに鋭い表情にも惹かれた懐かしさが思い出されます。
万一ファーストソリスト時代にこのライト版が取り入れられたならば、王子の他、枢機卿なり大使あたりも精魂込めて演じていらしたのだろうかと妄想です。

木村さん渡邊さんはこれまでに全幕で何度も組まれパートナーシップには定評ですが、どっしりと重たい悲劇で一層の強みを発揮。
中でも4幕は人間に戻れぬ運命を背負ったオデットと、過ちを犯した王子の崖っぷち状態にいる2人の危うさを表していると推察できる
オデットが斜めギリギリの体勢で王子のサポートを受ける箇所での美しさもさることながら
悲嘆と絶望がずしっと交錯する心が静かに、されど刻一刻と雷鳴の如く重々しく鳴り響くパ・ド・ドゥの音楽と調和し
身体中の細胞が痙攣を起こしているかのような身震いを見た思いがいたします。
当初2020年秋上演時に組む予定であった小野さん渡邊さんペアですと化学反応はいかに、とも興味津々。いつか実現を切望いたします。

終幕、セルゲイエフ版の羽捥ぎ取りの結末が好きな者としては嬉しい、王子によるロットバルトの兜奪取も迫力もの。
意外にもこうも潔い場面があるとは、ワールドバレエデーでの4幕舞台稽古配信にて驚き、ほんの少しライト版に対して前向きな印象も持ち始めるきっかけとなりました。
福岡さんは威勢良く奪い猛然とした様子を見せ、悲劇にも幸せにも両方に取れる結末へまっしぐら。
奥村さんは全身から懺悔の感情を吐き出し、渾身の力を振り絞っての奪取。叫び声が聞こえるかのようにオデットのもとへと突っ走る劇的展開を見せていました。
井澤さんは力で押し付けながら奪い、両手で上から投げる様子でサッカーのスローインなフォルム。
渡邊さんは目をギラギラにして狂気沙汰の如く大豹変し、ほんのりと6月のジャンを再想起。
下から転がすように投げるボウリング状態で、四者四様で面白みある結末の一端に思えたのでした。

ロットバルトも個性が活きた布陣で、貝川さんは恐怖感の中にも剽軽なおどろおどろしさが潜む掴みどころがない男爵。
最期兜を奪われたときのホラー映画を彷彿させる、みるみると崩壊する表情には寒気すら覚え、ロットバルトの絶命に残酷な一節を添えていらした印象です。
中家さんは支配力が悍しく、閻魔大王系のおっかなさ。中でも初回の小野さんオディールとの共演は毒気最強クラスで(褒め言葉)、威圧感も恐ろしや。
中島さんは兜の内側からも美形な容貌が覗き見える男爵で、3幕でのオディールと示し合わせを行う際の
不気味な笑みへの急変は、背筋が冷たいもので撫でられるような感覚を引き起こしました。

そして主演と同等に重要なベンノ。話には聞いていたものの道化が不在な分、この役がいかに作品の鍵となるか7回通して思い知らされました。
特に木下さんは代役を含めれば多数日程をこなされ、しかも他日はワルツにチャルダシュに枢機卿も兼任。ひょっとしたら今回の新プロダクション最大の功労者かもしれません。
葬列から城の広間へと舞台が移り、誰もいないところに登場されただけで宴の幕開けがピリッと引き締まり
更には常日頃から宮廷に出入りしている人間らしい振る舞いも優雅で上品。
王子に対しては仲良しな友人、理解者でありつつも立場の違いを弁え、1歩引いた様子が絶妙な距離感でした。
3幕での王女のソロが終わるたびに王子へ一生懸命推薦したりと王子思いでお見合いに付き添ってくる保護者のような面も端で見せ
その甲斐もなく王子は上の空。そのあげく待ち受ける悲劇の第一発見者と思うとやるせないばかりです。
福田圭吾さんは場をほっと和ませるベンノで、にこやかな表情、気遣い細やかな性格に、王子は毎度救われていたと想像いたします。
王子を元気付けようとクルティザンヌを連れてくるときの朗らかな様子や、トロワでの大らかな踊りもほっとさせる魅力が零れました。
国王が急死して王家は財政再建真っ只中なのか事情は分かりかねますが、人件費抑制のためか召使いや給仕係もおらず、ベンノは宮廷御用達便利屋も兼任か。
中央後方のテーブルに置かれた飲み物の管理も行っていて、今でいうホテル宴会場スタッフのような働きぶりにも驚かされました。
返す返すも、王子に、王家にこれだけ尽くしていながら王子の遺体第一発見者になるとは、やりきれない思いに駆られます。

暗いだけではない演出と徐々に思えたきっかけの1つが王子とベンノのやりとりで、そこが決まらないとただの闇深い王子がじっと居座る暗い物語と化。
ベンノ次第で舞台進行全体をどうにでも左右する、予想以上に大事な役柄であると分かり、木下さん福田さん共に貢献なさっていました。

3幕に登場する花嫁候補達であるハンガリー、ポーランド、イタリアの3王女も見所。各々の王女にその土地の舞踊団が応援隊として
付き添っている設定でNBAバレエ団の版も踏襲している演出かと記憶しております。
王女達では高貴で艶っぽい細田さんのハンガリー王女がそれはそれは美しく、指先脚先から余韻をふわりと漂わせつつメリハリに富むポーズで決めて見せ
絹のような質感、肌触りを思わす優雅で格式高い踊りに恍惚と魅了されるばかりでした。
頭全体を覆う太い線のティアラもお似合いで、パリ・オペラ座のライモンダに似通ったゴージャスなデザイン。まさに高嶺の花なる王女でございました。
贔屓目がベンノの心持ちと重なり、渡邊さん王子にお辞儀する最初にソロを披露した細田さんハンガリー王女の構図が視界に入ると
王子のすぐ後ろに腰掛けて儀典長と一緒にしきりに王女を推薦するベンノにすっかり感情移入し
エントリーNo.1の王女と結ばれて良かろうにと見守ってしまいました。

イタリア王女の奥田さんの柔らかでクリアな脚運びにも見入り、根岸さんの肩の使い方1つではっと唸らせる粋な魅力やスケールある踊りと
衣装負けせぬ貫禄、流し目からの晴れやかな顔の付け方も太陽な輝きを持つポーランド王女にも仰天。
押しの強さからか大きな羽根つきの頭飾りが兜にも見えかけ、貴い女戦士にも感じられる姫君でした。
花嫁候補の王女達の、1人1人デザインは異なれど古美術風なゴールドの色調で揃えた豪奢な衣装も双眼鏡で繰り返し観察。
最初の登場では3人が並ぶため静かな修羅場と化し、火花の散らし合いも見ものでした。
3幕全体が壮麗な衣装行列の連続で、貴族女性陣の小林幸子風(お世話になっている方のご発言を拝借)巨大衣装や
各国の枢機卿や大使達の歴史絵巻やゲーム彷彿な大掛かり衣装も見どころで、目が足りないほどです。
牧さん版では至極シンプルで物足りなさがあったオディール  衣装は複雑な流線形状のティアラに黒系グラデーションを重ねた見栄えするデザインも嬉しく
約10年前だったか雑誌クララにて掲載された佐久間奈緒さんのオディール写真を目にしたときから引き寄せられた衣装です。

民族舞踊団の衣装が絢爛ながら私の認識の甘さからかお国柄が読み取りづらく、広々大きな頭飾りからしてハンガリーがロシアにしか見えず
赤と茶色、金で彩られルネサンス期のイタリア貴族かと思えたポーランド、女性の黒い帽子とスタイリッシュなスカートが時代先取りパリジェンヌ及び
男性の帽子がは浦安市の夢の国主人公にしか見えずであったスペイン、と理解までに時間を要したのでしたが我が感知力に問題ありと考察。
儀式も重んじていて大使や王女と共に一団となって次々と現れては王妃に挨拶してそのまま王子に向き直り
重圧のうねりが一点集中。王子が益々結婚をためらうのも無理ありません。

尚、ファンファーレが流れては各国の一団が現れまたファンファーレ、の順序にはラッパのマーク正露丸の宣伝映像を
延々再生されている気分にもなりかけましたが最も胃腸を落ち着けたい心境にあったのは王子でしょう。
王女達の人数も程よく、例えば6人位が各々全員ソロを披露となると冗長な流れに転じてしまう可能性は高く
初演時やいくつかの版では花嫁候補たちのワルツと全員のソロ、コーダが挿入されている振付もあり
(現在では改訂されていそうだが、キエフバレエ団がタチヤナ・ボロヴィク主演でフィリピエワがパ・ド・トロワや花嫁候補を踊っていたNHKの映像ではあったかと記憶)
また昔の日本バレエフェスティバルでは10代の頃の草刈民代さんや藤井直子さんら当時の新鋭ダンサーらが集結し
『グラン・パ・ド・フィアンセ』としての披露が恒例だったようで、2010年には衣装はそのまま変えず
新国立のニューイヤー・バレエにて更には同年同月末の兵庫県三田市における新国立クラシックバレエハイライトでも披露されましたが東京も兵庫も案の定盛り上がらず。
いつの時代の日本バレエフェスティバルであろうかと私なんぞ首を傾げっぱなしでございました。
そんな経緯から、だれない展開維持のためにも3人に絞っての披露は適度な人数であろうと考えております。仮に6人もいて全員ソロありならば
王子の緊張の増幅が目に見えており、それこそ王子はファンファーレの度に正露丸服用が必須となりそうです。

そして作品の核をなしているのはコール・ドの白鳥達。一人一人が囚われて魔法に掛けられ、重い運命を背負った王女の設定だからか
牧さん版に比べるとより翳りと立ち向かう強さの両方を備え、放っているように思えました。中でも霧の中から現る4幕白鳥達の幻想美にも釘付けとなり
嘆き悲しみを重く引き摺るように踊りつつTの字や左右対称半円形からの整列等に至るまで変化に富む進行を見せていく術も見事。
2羽の白鳥での、ダイナミックな横山柊子さん、しっとり物憂げな中島春菜さんの大型コンビも魅せ
従来のライト版よりも人数大幅増強してに総勢30羽が羽ばたく姿やロットバルトを集団で固まった状態で攻めていく様子や
現れたベンノに王子が飛び込んだ湖を一斉に指し示す姿も壮観で、新版に変えてもコール・ドの強みを生かした演出です。

リアリティを求めているとは言え1幕においてはトロワが娼婦であったり、めでたい曲調で喪に服す設定に当初はしっくりといかず、また喪に服しているからと
黒を基調とした美術や衣装に首を傾げておりました。しかし物語の背景を事細かに分解し辿っていけば国王の死後すぐの段階でお祭りわっしょいな平和な成人の祝宴こそ
違和感を覚えるのかもしれないとも捉え、時間軸を追うと腑に落ちてきたものです。
また娼婦も一見王女風な衣装で、金色のティアラにオペラ型チュチュであった点も安心材料となり、宮廷に似つかわしかったのは好感を抱きました。
1幕ワルツは前半は男女計12人、後半は少人数となりワルツも貴族も男性祭りで女性はクルティザンヌ2名のみとなる構成に
まさかグリゴローヴィヂ版でないクラシックの白鳥で女性少数の幕があるとは想定外で男祭りでつまらん、暑苦しいとまでぼやいたこともございましたが(失礼)
将来を見据えてはいると同時に危機感もあるが、結婚よりまだまだ男友達と遊びたい盛りな王子の一面を描写しているのであろうと思うと弓を贈られた王子が
喜び勇んで皆で狩へ行こうとする流れも自然。また「日によって」は前列で王子が杯手にして男性陣を率いて決然と踊る様子にうっとりでございました。

暗い、陰鬱な印象が先行していた為ウエストモーランド版を除く英国系の白鳥はこれまで避けて通り、2019年夏の吉田都さん引退公演時に発表されて以来
ライト版白鳥導入には反対派で葬列の幕開けやトロワの娼婦設定なんぞ受け入れ難い云々とぼやき、苦手意識が止まらず。
2019年夏以降これまでの移転前の記事を含めざっと振り返ってみても、ライト版受け入れを不安視する内容が度々あり。それだけ拒絶反応を起こしていたのでしょう。
しかし「2021年10月31日」を境に、ただ暗いだけではなく王子の未熟な部分含め内面をとことん掘り下げ明暗双方にじっくり焦点を当てた名演出であると魅力に気づき
王子とベンノを主軸に細かなやりとりが自然且つ鬱屈した感情描写に長け表現に立体感があればいくらでも面白くなり、今は好きな白鳥の演出の一つに仲間入り。
これまでの偏屈な思い込みを覆され、凝り固まった幼稚な我が思考を渡邊さんは打ち砕いてくださいました。
まさかライト版白鳥が荘重な趣で好きときっぱり言える日が到来するとは予想もせず。人間とはかくも身勝手な生き物と再確認です笑。


※米沢さん福岡さん主演日のテレビ放映も予定されていますので是非ご覧ください。





ダブルキャストであった王妃役で、艶のある美が凝縮していた本島さんとは全く違うタイプの
威厳や険しさを醸し女帝の如き存在感で舞台に厚みを加えてくださった盤若さんのプロフィール。
(新国立劇場バレエ団初期のプログラムより)
大阪府生まれで法村友井のご出身であるのは中家さんの、そしてモナコ王立バレエ学校に留学され、渡邊(峻)さんの先輩にもあたるお方です。
新国立開場当時からシュタルバウム夫人やベルタ役で活躍されてきたそうです。



今回11月2日、3日の幕間にレストランではなくまずはテラスにてデザートとソフトドリンク販売を再開。白鳥黒鳥シュークリームが登場です。
以前こども白鳥のときは三羽の可愛らしい小さな白鳥シューでしたが今回は黒鳥さんも登場。
それぞれクリームが2種入り、作りも精巧。マエストロさん渾身の作でしょう。



千秋楽開演前、大人は黙って黒ビール。昭和45年頃、三船敏郎さんによる男は黙ってサッポロビール、の宣伝が一世を風靡しました。



2018年の牧さん版白鳥の帰りに立ち寄ったお店と同系列の店舗にてこの度も白鳥ビールで乾杯。
グラスとコースターデザインがお洒落です。しかも創業は新国立劇場と同じ1997年である点も嬉しい。



秋季限定パンプキンエール。ほのかな甘さが伝う味です。これまたグラスが白鳥さん!
この日は11月2日でしたが、話の大半は10月31日の内容に偏ってしまい、ご一緒してくださった方、すみません笑。
加えて中世ドイツを舞台にした作品を観た帰りのはずが、近郊地帯が所縁の地域である京王線沿線にポスターが多数貼られ宣伝されている映画『燃えよ剣』の話にもなり
電車内で流れるコマーシャルだったか私も何度か予告映像を目にし、道場の場面のでも何処かしらに現れても全くおかしくない等々語り出してしまい
そうこうするうちにこの日のオデット/オディール役の柴山さんの話になりつつも、5ヶ月前に遡って『ライモンダ』に移り
あの淑やかで奥かしそうな姫君には、性格に軽さやチャラさが微塵も無さそうな愚直騎士、ぴったりであった云々振り返り。そして武士と騎士、両方絵になると再結論。
しかも白鳥の期間中にはジャンと浦島太郎の写真が売店に並び、再納得!

次行きます。



前半日程にて、当ブログレギュラーで薔薇(しかも棘抜きで心優しい)の花束の如き華やかな容姿の後輩とオペラシティへ。
(彼女が薔薇ならば、私は切り落とされ人目につかなくなった棘といったところでしょう。まあ人生そんなモンダ)
後輩は昼のみ鑑賞、私は昼夜鑑賞のため近辺で乾杯。全編通して楽しめたようで安心。



マエストロにて、この日の主演ダンサーサイン入りでございます。かれこれ2年以上、偏屈な思い込みと幼稚な思考で好みとは到底言えずにいた私に
ライト版を好きな演出にさせたこの日の王子、只者ではございません。喜ばしい記念です。



前菜。魚介類が豊富です。前世は恐らくアザラシである管理人、食が進みます。



浅利と生海苔のクリームソースペンネ。まろやかでお出汁も効いていて白ワインが進みます。



無花果と柿のミルフィーユ。カスタードクリームもたっぷり、カットした柿も挟まっていて日本の秋の風情が盛り込まれています。
法隆寺の鐘も鳴っていたことでしょう。奈良も歴史ある都ですが、この4日後は中世パリへ行き(正確には東京タワー近辺)ノートルダム大聖堂の鐘も響き渡りましたのでまた後日。



1989年、私が人生で初めて手にしたバレエ書籍。32年前にサドラーズウェルズの団員として来日し、オデット/オディールを踊る吉田監督の姿がございます。
他ページにはオーロラ姫の写真もあり。
本のページを開いてそのまま載せるのは宜しくないのは承知しておりますが
是非ご覧いただきたい且つだいぶ年月も経過しているためお許しください。
尚切り抜きがありましてオディール写真の下部は前ページのハンブルク・バレエ団の写真が覗いておりますが悪しからず。
管理人、まだまだバレエの知識が皆無に近い段階でしたが素敵な日本人バレリーナがイギリスで活躍なさっていると尊敬の目で見入った記憶がございます。
同時期に様々なバレエ関連書籍を眺めるようになり、映像にも触れるうち白鳥はソビエト系を好むようになりましたが
今思えば人生初の目にしたバレエ書籍しかもカラー掲載で出会ったライト版白鳥。いずれは好きになる演出となる予兆であったのかもしれません。
まさかこの平成が始まって間もない時期に写真で目に焼き付けたオデット/オディールの日本人バレリーナが
のちに率いる国内のバレエ団による上演の鑑賞がきっかけで、しかも最大の契機が本を入手して以降毎日のように目を通すうちに早1年が過ぎた頃の夏に産声を上げられた
現在では華々しい活躍をなさっているお方の主演によって心底好む演出になるとは、人生不思議なものです。



当時の記者会見写真記事、ライト卿のお姿も。迫力あるシンシア・ハーヴェイ(恐らく)の隣で嬉しそうにはにかむ吉田監督、
母国で踊れる喜びを満面の笑みで表していらっしゃるように見受けます。舞台写真での孤高な姿とはまた違った
親しみやすそうなご様子にもすっかり心惹かれていた、バレエ鑑賞が趣味となって間もない頃であった32年前の管理人でした。



ご発言、似ていらっしゃる。しかも記事の題名や見出しに用いられていますから、王子の物語である点にも重きを置いて捉え、造形なさっていたのでしょう。
思えば今年はこのDVDが収録された、牧さん版白鳥初演の2006年以来、新国立バレエが2つの版の全幕白鳥を同じ年に上演した年となりました。
(2006年は1月にセルゲイエフ版、11月に牧さん版。2021年は4月に山形で牧さん版、そして10月11月にライト版)

2021年11月3日水曜日

清泉ラファエラ・アカデミア   バレエへの招待  2021年春期






2021年春期も清泉女子大学にて生涯学習ラファエラ・アカデミア  守山実花先生が講師を務めていらっしゃるバレエへの招待を受講いたしました。
https://rafaela.seisen-u.ac.jp/lecture/detail.php?lecturecd=20211503

今期はパリ・オペラ座に焦点を当て、初回は更に遡って19世紀以前のバレエの歴史、変遷を辿り、パリ・オペラ座の誕生やバレエ学校の設立に触れ
ロマンティック・バレエの誕生やドガの絵についても学んでいきました。歴史上の事件も絡めつつ当時のフランスの様子と合わせてのご説明で大変勉強になりました。
またスターダンサー誕生について、マリー・タリオーニがイタリア人であることは知っておりましたが
ファニー・エルスラーがオーストリア人であったとは初耳。一時期パリ・オペラ座はフランス人絶対主義な採用の印象もありましたが
19世紀において一世を風靡したスターバレリーナは外国人であったのは意外でございました。
ロマンティック・バレエとして誕生し、現在も人気の高い作品の1本として『コッペリア』への民族舞踊挿入について触れる一方
今や埋もれてしまったロマンティック・バレエ作品も取り上げてくださり、そういえば東京バレエ団が2006年にピエール・ラコット振付演出によって復刻上演するも
再演を一度も行っていない『ドナウの娘』、この先上演の機会はあるのか気にかかるところです。鑑賞はいたしましたが
私の鑑賞眼の欠乏も一因ではあるものの面白かったか否か感想を求められても回答が難しい作品でございました。
それから『ラ・ヴィヴァンディエール』も同時代の作品と初めて知り、現在ではマルキタンカと呼ばれる部分のみ
発表会等ではしばしば上演されている程度かもしれません。5人ぐらいが1箇所に集まって
一斉に高さ違いなアラベスクをして脚が千手観音の如き状態になる振付であったか、一度だけ鑑賞したことがございます。

後期はヌレエフ時代のパリ・オペラ座がテーマ。現在のオペラ座にも魅力溢れる人材が揃っているとは言え、時間が止まりかけている管理人は
今も尚、パリ・オペラ座と言えば1980年代から90年ヌレエフ世代が即座に浮かび、ただでさえフランスバレエに疎い身であるため
いかにして黄金期を築き上げたか知識を得て参りたいと思っております。

昨年は全講座中止、そして今年は例年より回数を減らしての開講で、しかし前期は緊急事態宣言延長により延期に次ぐ延期で
初回が7月初旬、2、3回目を10月に実施の異例事態。感染防止対策を行ったりと学校側も対応に追われていたことと察します。
オンラインではなく現地で学べることは大きな喜びで、学校関係者の方々の尽力に感謝が尽きません。本当にありがとうございます。



清泉女子大学へ行く楽しみの1つ、地下の清泉カフェでのデザートセット。
300円代とは思えぬ美味しさです。7月は夏らしくぶどうゼリー。



大きなガトーショコラ。生クリームもたっぷりです。コーヒーが濃いめ淹れ方で、どっしり凝縮したチョコレート味のケーキにによく合います。



レアチーズケーキ。甘さを抑えた爽やか味です。


ところで、ガトーショコラを食したとき、お皿の隣のコーヒークリームに描かれたハナミズキに目が留まり、9月のとある記事でも取り上げましたが
約10年前に同名の邦画を鑑賞。昭和生まれでは珍しいであろう私と同じ名前のヒロインを新垣結衣さんが演じられ、
加えてヒロインを巡って異なる年代、性格ながらも魅力ある2人の男性が対立する構図で話は進行。
生涯我が身にはあり得ぬ状況と思うと失礼ながら上映中も笑いが止まらず鑑賞しておりました。
近年理想の三角関係が描かれた舞台と言えば、ロマンティック・バレエ時代から人気を維持し、20世紀に入り軽妙洒脱な味付けもなされた版が発表され
今春ゴールデンウィークに国内のバレエ団が配信した『コッペリア』千秋楽のキャストがすぐさま浮かびます。
近所のお店でもテレビ等でも『コッペリア』の音楽を耳にするともうこのトリオしか脳内を巡りません笑。