2024年3月25日月曜日

2時間弱にまとめて復刻  日本バレエ協会『パキータ』 3月10日(日)夜




3月10日(日)日本バレエ協会アンナ=マリー・ホームズ版『パキータ』夜公演を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2024tominfestival/


パキータ:米沢唯
リュシアン:中家正博
イニゴ:高橋真之





米沢さんはロマ姿であっても頭1つ抜けたキラリとした品を宿すパキータで、デコルテや腕にかけてのラインもいたく綺麗で色香もあり
身につけた立派なペンダントも含め周囲は何とも思わなかったのか不思議なほど。
音楽と空間をたっぷり使ってのソロも花が開くように艶っぽく、人々に愛されている様子が窺えます。

中家さんのリュシアンは見るからにまもなく昇進しそうな逞しい軍人で、軍服が違和感なく似合うお姿。歩き方や腰掛け方は威風堂々。
パキータとの一目惚れな出会いではハッとする衝動をお互い周りに気づかれないよう恋心を静かに抑えて秘めていたのは健気に映りました。

鮮やかなテクニックを駆使して集団を率いていたのは高橋さんのイニゴで、とにかく見せ場が多く
グラン・パでお馴染みなパ・ド・トロワをイニゴとパキータ友人との構成にして1幕で披露したり、一方で悪事を企てたりと大忙し。
しかし技術も芝居力も確固たるものをお持ちで、中身があるようで無いあらすじ(失礼)を浮き立たせて伝えてくださいました。

2幕は結婚式まではだいぶ芝居中心でしたが、リュシアンから命を奪おうとするイニゴの悪事計画を消滅させようとパキータがあの手この手で大奮闘。
卓球台のようなテーブルに向かい合って座る2人を前にして、わざとパンを落とした隙にコップをすり替えたり寝たふりをするようリュシアンに命じたりと
機転を効かせた作戦で挑んでいました。大舞台で長らく活躍しているこの3人だからこそ、場も持たせて楽しい掛け合いに展開したと思われます。
忍者屋敷のような回転扉な仕掛け、及びイニゴに苛立つ(確か)リュシアンが誰もいない間に格闘技の技を1人ひっそり繰り出していたのはびっくりしたが笑。
そういえば大山倍達さんは、バレエダンサーの身体能力で格闘技をされたら敵わないと、インタビューで語っていた記憶が過ぎりました。
加えて中家リュシアンとの対戦ならば試合前から勝ち目なさそうです。
パキータとリュシアンの結婚式グラン・パは大人数編成のコール・ドはよく揃っていて、隊列変化も見事。
米沢さんはクリアな踊りで涼やかなフェッテも爽快。1幕序盤の友人達との戯れや恋に落ちた場面から、打倒イニゴ作戦、
そしてテクニックフル回転な結婚式まで卓越した描写力で舞台を引っ張っていらっしゃいました。
衣装が白地に銀だったか、頭飾り含めてガムザッティのようなデザインであったのは惜しく思え、誰が見てもパキータと思わせる何かがあれば尚望ましかったかとも感じます。

『パキータ』全幕は18年前にパリ・オペラ座バレエ団来日公演でラコット版を観ておりますが記憶が彼方で、
パキータがスワニルダのように機転を効かせていた点とグラン・パしか覚えておらず。
ちなみにこの年はNBSにおけるラコット年だったようで、4月にパリ・オペラ座『パキータ』、
5月にボリショイ・バレエ『ファラオの娘』、11月に東京バレエ団『ドナウの娘』と続きました。
3作品とも観ている者としてはファラオは古代エジプト歴史浪漫をボリショイのハイレベル技術に裏打ちされた人海戦術でこれでもかと見せつけられ
バレエ団好きとしては喜ばしく3回も足を運んでしまったが、オペラ座パキータは記憶がうっすら、東バドナウに関しては横断幕のセンスに言葉を失い汗、以下は略。

それは横に置き、ホームズ版パキータは中身があって無いような話を削ぎ落として休憩1回の2時間弱にまとめ、
ケープダンス(ロマの女性、それから女性達が闘牛士に扮して踊っていた)キャラクター舞踊も充実させて活気ある場面を設けてなかなか面白く、見飽きぬ仕上がり。
リュシアンがグラン・パ以外は腰掛ける、歩く、加えて芝居中心で踊りの見せ場もう少し有れば尚望ましく思えましたが
全幕上演で目にする機会が滅多にない演目を新制作しての披露には拍手を送りたい思いでおります。




帰りは頼まれていたパンダグッズを購入後に上野駅アトレで赤ワインで乾杯。
食べてみたかったかつサンド、メニューの見本写真の倍はボリュームがある印象でしたが
食べ始めたら1人でもスルリといただけました。肉汁ジュワリ。チョコ柿ピーやナッツ類はチャージに含まれ、これまた止まりません。

2024年3月22日金曜日

全員の進路に幸がありますように エトワールへの道程 2024-新国立劇場バレエ研修所の成果- 3月9日(土)




3月9日(土)、エトワールへの道程 2024-新国立劇場バレエ研修所の成果を観て参りました。研修所の卒業公演は2018年以来2度目の鑑賞です。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/24etoile/


※プログラム等は新国立劇場ホームページより

『トリプティーク~青春三章~』

振付:牧 阿佐美
音楽:芥川也寸志
出演:研修生、予科生、上中佑樹(ゲスト)
菅沼咲希、根本真菜美、山本菜月、下川佳鈴(ゲスト)

重厚で哀愁や危うさを宿した曲調がいたく好きでアステラス等研修所が関わる公演では毎回楽しみにしている作品です。
ただ上演回数が多過ぎているせいか、単に私の中で新鮮味が失われ始めたのかこれまでのような感激は減少。研修生達の持ち味を生かしてはいるのでしょうが。
ただ研修生達の瑞々しさや真っ直ぐでピュアな姿勢をシンプルで飾り気のない衣装姿がかえって引き立たせ、
ノンストップの清流のように踊り続ける振付をきっちり端正にこなしていた清々しさは丸でございました。
研修所OGで現在はブルガリアの劇場で活躍中の根本さんがすっかり艶っぽくなっていて、
このあとの眠り3幕貴族でも目を惹く存在感。


『海賊』よりパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ
音楽:リッカルド・ドリゴ
出演:榎本志結、趙 載範(ゲスト)

抜擢の榎本さんは少し緊張も見えましたが、丁寧にしっかりと踊っていて伸びやかさもあり。
まだ額縁の中で一生懸命な印象はあれど、趙さんの安定サポートで更に花開きそうな部分も予感させました。


『Conrazoncorazon』より
振付:カィェターノ・ソト
振付指導:新井美紀子
出演:研修生、予科生、上中佑樹(ゲスト)

アステラス2021では非常に短時間抜粋だったため、全編ではなくてもたっぷり目にでき満足。
全員騎手のような格好で、可愛らしいユーモアと捻りが効いた振付の連鎖に笑みがこぼれ続けました。
カルディコーヒーファームの店内で流れていそうなラテン系のノリと気怠さが混在した歌曲もあったり、音楽の面でも満喫。


『眠れる森の美女』第3幕より

振付:マリウス・プティパ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
出演:

オーロラ姫:堀之内咲希
デジレ王子:浅井敬行
ほか
堀之内さんは福岡の須貝りさクラシックバレエスクール出身で、昨年末に博多座にて開催された地元オーケストラ演奏との共演舞台『くるみ割り人形』を鑑賞しており
そのときは出演されていなかったためどんな方か楽しみにして参りました。
大変堂々としたオーロラ姫で技術もカチッと綺麗、ポーズも角度をよく捉えた決め方で好印象。ゲストの王子より堂々と引っ張っていた印象すら持たせたほどです。
そして宝石とフロリナ、青い鳥はイーグリング版の本公演衣装よりセンスが宜しい汗。
バクランさんの、後方席までも伝わる愛情深い指揮にも心洗われた爽やかな3幕上演でした。

最後は卒業生達の挨拶。滑らかに話す人もいれば少しつっかえたり、涙したり、されど素直な内面が表れていて心から拍手。
中間部にて上映された研修所の生活を見ると、実技のみならず美術(好きな絵を説明するプレゼンテーションもあったもよう)や
バレエ史、音楽史、栄養学等々密度の恋人カリキュラムに再度驚き、めまぐるしい日々であったのは容易に想像できます。
前所長の牧阿佐美さん系列の教師が多く、指導に偏りがないか勝手ながら心配もありつつも、体制が今後大きく変わるようで、その辺りも注目か。
ともあれ、卒業生全員の進路に幸がありますように!




終演後、若人達の幸を願って乾杯するビールカルテットな大人達。 バレエや音楽を習うことの面白さから、
先月末の『ホフマン物語』回顧まで、短時間滞在ながら話題目白押しでございました。
この時期限定セントパトリックデーにちなんだグリーンビール、色がキラリと鮮やかな緑色です。

2024年3月20日水曜日

【7月開催】M.ムソルグスキー生誕185周年記念コンサート




少し先の話になりますが、7月1日(月)銀座の王子ホールにてM.ムソルグスキー生誕185周年記念コンサートが開催されます。
※ムソルグスキー、3月21日がお誕生日らしい。

まだホームページ等に掲載されていませんが、チケットや問い合わせは電話かメールにて株式会社ロシアン・アーツ宛へとのこと。
これまでに『信長』やバレエの美神等の舞踊公演の他、映画や演劇、美術展といった多岐に渡るロシア芸術のイベント開催に携わっています。
http://russian-arts.net/

何と言っても山本隆之さんが出演され『展覧会の絵』の曲で日本舞踊の藤間蘭黄さんと踊られるとの文字に大変心躍り、楽しみでございます。
2016年に山本さんが日本舞踊家の西川祐子さんと共演され『井筒』にて美しい在原業平を披露された舞台が今も記憶に刻まれており、
今年は藤間さんとの共演。藤間さんはバレエ公演にも足繁く通っていらっしゃり私も何度も見かけております。
しかし藤間さん山本さんがお2人が並んだ舞台での光景はまだ目にしておらず、7月が待ち遠しいばかりです。
舞踊の『展覧会の絵』としては2008年夏の大阪にてK★CHAMBER COMPANY  Kバレエスタジオの舞台にて矢上恵子さんの振付で鑑賞しており
音楽と群舞を最大限に生かし、ブルーを基調とした(記憶が正しければ)めくるめく展開や、
卵からかえった雛の部分を子供達がランドセルを用いたユニークな格好で踊り進めて行く
非常にエネルギッシュな作品で、見終えた後は放心状態になったほど。元々好きな曲であり
思い出深い曲でもあるため、今年7月の演奏と舞踊の化学反応も心待ちにしております。

2024年3月17日日曜日

二・二三リンドルフ事件 新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』2月23日(金祝)~25日(日)







更新と感想がだいぶ遅くなりましたが2月23日(金祝)〜25日(日)、新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』を計4回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/hoffmann/

速報と重複する箇所もございますが悪しからず。いつのまにかバレエ団の来シーズン演目発表も大阪府の枚方公演も(当方は出向かず)、エトワールへの道程も、
日本バレエ協会『パキータ』もスタダンのオール・ビントレーも終演してしまい、東京は桜の開花日も近づいている頃でございますが
当方1週間後の今頃は本州におらず、(間に合えばバレエの饗宴は宿泊先で観るか、しかしすぐ近くは飲食店街。饗宴2022放送時に大阪滞在であったときと同様に夜遊びに勤しむか笑)
急ぎ目で更新していく予定でおります。


ホフマン:福岡雄大(23日、24日夜)  井澤駿(24日昼)   奥村康祐(25日)

リンドルフ/スパランザーニ/ドクターミラクル/ダーパテュート:
渡邊峻郁(23日、24日夜)  中家正博(24日昼、25日)

オリンピア:池田理沙子(23日、24日夜)  奥田花純(24日昼、25日)

アントニア:小野絢子(23日、24日夜、25日)  米沢唯(24日昼)

ジュリエッタ:柴山紗帆(23日、24日夜)   木村優里(24日昼)  米沢唯(25日)




渡邊リンドルフさんが通る。(はいからさんかい笑)天国と地獄の曲にのせて、4変化を遂げながらご通行中です。
特に2役目、白鬘スパランザーニでの両手をヒタヒタ動かしながらの歩き方にご注目を。見るからに怪しい笑。



福岡さんのホフマンは幕開けは自信たっぷりなモテる男性ぶりで、客やメイド達ともにこやかにテーブルで語らう様子もこなれている人気者。
初演時は特に気になっていた、ウッチャンナンチャンのコントかと見紛う老けメイクはすっかりなくなって今回はナチュラルな中年男であったのも安堵です。
※初演、再演はやや抑え目になったものの全ホフマンのあの老けメイクは疑問でしかなかった。
1幕の黄色メガネ姿はのんびりとしたお坊ちゃんで、あとにも述べるがホフマンの行動に対してあれこれ口煩い
世話焼きママ(オカン!?)なスパランザーニを避けようともがく様子もいじらしい。
オリンピアへの恋が止まらない衝動を、メガネ越しでも分かる弾ける表情や踊りで体現なさっていました。
2幕、アントニアとの恋は混じり気のないピュアな愛情を交わして ピアノを弾いているときに現れたアントニアとの視線の通わせが微笑ましく、まさかこの後、医師免許所有すら怪しい医者によって(無免許診察!?)
何もかもを破壊される修羅場の到来なんて知る由も無い場面でございます。
後ほどまた述べますが、ドクターミラクルに力技でも抗えず、魔力で封じ込まれる攻防の激化からのアントニアの死はこの公演期間中のハイライトであったかと思います。
3幕はダーパテュートからの膝お触りに耐えながら(こんなシーンがあったとは)
ジュリエッタを目にしたときの衝撃に混乱し、快楽と理性の間で苦しそうにしながらも次々とアクロバティックなパ・ド・ドゥを展開。
リンドルフにステラを掻っ攫われた上に指差されながらの悲しい結末にて、
魔力からは離脱できぬ恐ろしさを思い知らされて悔しそうに悲嘆に暮れる最後も焼き付いております。

井澤さんは初演時は本当に若く、プロとしてのキャリアも非常に浅い段階での抜擢であった2015年から早9年。2018年の再演でも主演されていますが
今回は格段に3世代分を雄弁に語るホフマンであった印象です。幕開け、カフェの常連客として楽しそうにワインを飲みながら寛いでいる様子や
店主とのやりとりもごく自然に映り、ピンクジャケットの世間知らずそうな青年ぶりも宜しく
オリンピアとのダンスで不意打ちのビンタをくらいながらも笑、輪郭美しい踊りで喜びを明示。
2幕は殊に冴えるテクニックと芝居で世代を跨ってのホフマン披露されました。
米沢さんアントニアとの舞い上がるような幸せを一緒に歌うかの如く踊るパ・ド・ドゥも息がぴたりと合って見応え十分。

初役の奥村さんは実に綺麗に年齢を重ねている感のあるホフマンで、冒頭終盤は朗らかな交流の中心で
晴れやかに会話している姿から若者達に人気なのも大いに頷ける中年男性。見かけは哀愁感よりも若々しさがまさっていましたが、
飲み方はちょいと猫背でリラックスしたりとやさぐれた感じで中年風。
ただリンドルフからの突如のおびき寄せには即座に不安そうに反応し話の展開は分かっていてもただならぬことを予期させました。
1幕ピンクの上着に黄色メガネは想像を更に上を行くアイドル超越な似合いっぷり。
2幕にて小野さんアントニアと組む幻影は2021年の『ライモンダ』全幕を思い出し、騎士に見えたか否かはさておき(失礼)
あのときの夢の場における小野さん奥村さん組のいたく幻想的な浮遊感は未だ頭に刻まれており
再びコール・ドを従えての純クラシックな場面での2人を目にできたのは幸運に思えました。

池田さんのオリンピアはカクカクとした動きがより人形らしさを後押しして、しかもオリンピア自身は意図していなくても
無意識のうちにホフマンを不幸へと落としてしまう可愛らしくも残酷な無機質感もあって強靭な軸から繰り出すステップも思わず凝視。
奥田さんは軽やかで仕草や脚先も上品で、音楽が聴こえてきそうな踊りにも着目。

小野さんのアントニアはピアノに打ち込むホフマンの姿を見ようとカーテンから覗く姿からして生き生きと恋する可憐な少女。
ピアノ弾くホフマンが後ろを向いたときの目との見つめ合いを始め、無邪気で愛らしく喜ぶ様子に蕩けてしまうほどでした。
父親に叱られるときの、の、悲しみには少々反抗心も見えかける強さもあり、病弱に負けまいと闊達に生きようと日々懸命に過ごしていたと推察。
対してドクターミラクルからの魔術には一旦ぐっと堪えるも抗えぬ誘惑にからどうにか脱出しようと試みる姿ですら気高くしたたかで美しや。
幻影の場では誰も寄せ付けない崇高な出で立ちで、悲哀が込められた静かなソロは2021年のライモンダ3幕思い起こさせる物音一切許されぬような神々しさで場を支配なさっていました。

米沢さんは儚い透明感を覆いながらの登場で井澤さんホフマンとの抱擁や顔の寄せ合いもいたく優しげに映り、澄み切った美がすっと通る抜ける踊り方にも惚れ惚れ。
ドクターミラクルからの催眠術迫りでは今にも全身から涙がこぼれそうな不安感が漂い、弱っていくさまがまた哀れこの上ない様子でした。
バレリーナに変貌するとまずアームスの大らかさ、優雅さに包み込まれこの日は上階末端席におりましたが舞台に摩訶不思議な力で吸い寄せられそうな心持ちに。
この場面のパ・ド・ドゥは3組とも大変な息の合い方で、音楽とゆったりと呼応しながら高々と持ち上げるトーチリフトや
平行四辺形のように重なり合う最後のポーズ含め、互いの手脚の伸びやかさも十二分。
コール・ドとの調和も実に綺麗に取れていて、上出来な場であったと思います。

初挑戦柴山さんのジュリエッタは、初日は少し抑え目な気もいたしましたが2日目はこれ見よがしでない
内側からの色気も香って気づくと誘いに乗ってしまいそうな高嶺の花なヒロイン。
これまで柴山さん渡邊さんによる幕物作品ペアと言えば、シンデレラと王子、淑女と騎士、妖精の女王と王、といった不健全とは無縁な配役同士でしたから
ダーパテュートと行うホフマンに対する共謀誘惑作戦における迫りでの弄るようにホフマンを追い詰めていく危うい2人に仰天。

前回残念ながら鑑賞叶わずであった(前回の千秋楽日は管理人、京都で観劇)木村さんは
光も美術もカラフルな魔窟の中であっても出の瞬間から艶かしい華やぎを与えるインパクトで支配。
思えばジュリエッタは女性客人達とさほど変わらぬデザインの衣装であるはずが、
スモークに同化しないどころか益々自身の色で染め上げて行くオーラで満たす誘惑も濃密でございました。
男性客人達にリフトされたときにスカートの裾から覗く脚の線も高らかな美を空中にて描画。
中家さんとの悪どい共謀作戦も余りに楽しそうでホフマンには申し訳ないと思いつつ笑、2人してうねっての誘惑にホフマンも目を覆いたじろぐしかないのも納得。

米沢さんはかけ持ちのアントニアの影はすっかり消え去り、鋭い怖さと色っぽさを放つジュリエッタ。
ホフマンを誘い込む序盤のソロからして手脚が描く大きなフォルムやダイナミックされど乱れぬポーズの連続にも感嘆でございました。

早速ですが長くなります。小休止をどうぞ。

渡邊さんのリンドルフ(他計4役)は恐怖の圧、剽軽、怪奇、妖しさ、と色が異なる4役を踊り分けてホフマンを追い詰め、敵役の食品成分表を隈なく網羅。
天井を貫通するような狂気で全幕を支配なさっていて、何度背筋に戦慄が走ったことか。
国際バレエアカデミア『シェヘラザード』に続き変わり者を承知で申すと、『ホフマン物語』再演があるならば
渡邊さんはホフマンではなく、敵役として4役変化するリンドルフを務めて欲しいと懇願しておりましたので、
発表時にホフマン役欄にお名前明記が無いと確認したとき、もしやと期待。そして万歳した私でございます。
あの腰掛けて視線を真剣に送り続ける箇所も、素っ頓狂な人形師も、後半での大胆な誘い込みも、いかにして静動のメリハリを効かせていかれるか楽しみでなりませんでした。

そして初日。まず、2月23日のキャストにお名前があった、これだけでもう我が寿命が伸びた汗。
そして幕が開いた、舞台上にいらっしゃる。これでまた我が寿命が伸びた。大袈裟な言い方をしていると思われるでしょうが1年前がそれだけ悲しみに包まれていたのです。
カフェの客として下手側の椅子に腰掛けた姿が、頭が少し動く程度で極力身動きせずあとはぴたりと静止そして冷徹な空気をぴりりと放ち、
プログラム解説文に書かれているとおり邪悪な議員である設定にも納得。上手側の椅子に腰掛け、客やメイド達との睦まじく語らうホフマンを
穴でも空ける気でいるかのように目を凝らしながら見つめ、額に死守、瞳に奪還、後頭部に独占、頭上に執念と、
太い筆字による熟語が見えてくるほどにホフマンに対する屈折した愛が感じ取れる腰掛け姿でした。
カフェの主人とは顔馴染みなようでワインもおかわりなさっていたが険しい表情は変わらず、
客として身を置いているだけでゆったり味わうよりもホフマンの独占作戦をひたすら練っていると思われます。
ところで昨今の国内の報道を見聞しているとリンドルフの設定「邪悪な議員」の定義が気になるところ。
ラ・ステラのお付きを財力で揺さぶろうと企み背後からそっと手渡す金銭は自腹なのかそれとも今話題の(話題でも困るんだが汗)裏◯なのか。
邪悪とは言ってもこれまで手を染めてきた悪事の内容を探ってみたい深掘りしたいと欲を突かれるのは、会計文書の虚偽記載どころではなさそうな闇が覗けてくる
或いは所属派閥もなく懇親会にも行かず、孤独に議員職に従事していそう等と想像が膨らむのは、幕開けから数分経過しただけでも
リンドルフが放つ異様で不気味なオーラに鷲掴みされる心持ちになったからこそでしょう。
全身黒っぽい格好で顔の表情はほぼ変わらぬ強面のままであっても立ち居振る舞いが雄弁で、
ステラお付きへの唆しからの身を翻してカフェの奥へ入って行く立ち去り姿がカフェのほんわかした雰囲気を一気に切り裂くような変化をもたらす存在感でした。

そこから数分後にはおてもやんメイクな顔立ち、実験に失敗した感のある爆発白頭での人形師スパランザーニとして登場され、
オリンピア人形製作真っ只中。腕部分を差し込む工程からして目が何処かへ行ってしまいそうな狂おしい視線で取り組み、召し使い達の取り仕切りも楽しく忙しそう。
しかしただのヘンテコキャラクターにはならず、踊り出すと爪先から手先まで神経行き届いてコントロール力も抜群で
特に針のように先端がシュッと伸びた爪先を突き出しての音楽を隅々まで掴むようにして披露する美しいアレグロに驚嘆。
やがてホフマンが登場すると、愛情が過剰に出てしまって行く手をいちいち阻んではあれこれ口煩く指示するオカン状態となり
福岡ホフマンの初心な造形も見事だった点も合わさって2人が一時親子関係にも見えたほどです。
ホフマンがオリンピアの沼に嵌っていくところを見る度に見せるガッツポーズも、
遂にはオリンピアが人形と知って落胆するホフマンを見下ろしながら高笑いする顔も憎めず笑。

ハイライトと思えたのは2幕で、医者として歩いての登場から近寄り難いおっかないオーラを醸し出し、鞄を置く所作も恐ろしや。
そして何と言っても昨年2月に叶わずであった全幕において主役級の役同士として
小野さん渡邊さんが組む共演を「客席から」目にでき、うう感激。『コッペリア』と違ってカップルではなく敵同士な関係性ではあったものの
怯えるも我を通そうと藻掻くアントニアと、黒く冷たく呑まれそうな色気を宿す魔力で静かにされど強引にアントニアを封じ込め
やがて水晶玉を近づけながら迫って催眠術の罠に嵌めらせるドクターミラクルとの間に生じる、美と緊迫感が凝縮する危うい化学反応に凍傷しかけたほど。
替え玉アントニア(本物のアントニアは早替え中のため)と後方に立ち、アントニアの夢世界が始まるまでを待つ翳りある佇まいもまた危険な香りを残し
のちに待ち受ける悲劇を予感させる恐ろしさを匂わせたまま幻影の場へと繋げて行くお姿でした。
※ちなみに3年前の今日この発表があり、大勢の方から祝福をいただきました。
いつまでも引き摺るなと指摘を受けるかもしれませんがこのとき有観客上演していたら、と今でも思ってしまいます。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_019814.html

2幕の中でも舞台熱量が最高潮へと達したのは福岡ホフマンとの攻防戦。抗うホフマンを魔力で押さえ込んで
鋭く高く跳び上がりながら後方へ押し切ったかと思えばピアノに投げ飛ばして座らせ、
アントニアを踊り狂いの果てに死へ至らせるためにホフマンの肩掴んで力づくで演奏をさせる誘惑展開で、
勢いで落ちかけた楽譜を手で押さえながらホフマンに顔に一層寄せて執念深く極限まで追い詰める行為がそれはそれは悍ましや。
その横では恋人と医者が繰り広げる修羅場の事情も知らずに幸せを噛み締めながら激しく踊るアントニアの姿がありますから、幸福と争いが同時進行で展開。
音楽もいよいよ重厚さを帯びて恐怖の極致に到達し、ドクターミラクルが発光する
相手の身体をも貫通するようなダークな狂気に射抜かれて魂を根刮ぎ奪われそうな残酷さがございました。
この場面における福岡さんと渡邊さんの真っ向勝負、私の中では今回の『ホフマン物語』公演の中で、ハイライトの中でも最頂点の場面であったと捉えております。

3幕は幕開け、ダーパテュートとして下手側の寝台で仰向けに寝そべりながらのお寛ぎ姿に、(顔にマントの布をふわりとかけていたかも)
そして花籠頭に乗せた奇怪な少年ぽいお小姓を侍らせながら戯れる光景に仰天。このシーンの記憶は初演再演ともに残っておらずでした。
マリインスキーのシェヘラザードの金の奴隷をスキンヘッドにして半魚人化したような摩訶不思議な頭飾りや衣装であってもコスプレ大魔王にならず
露出した筋骨隆々とした肉体美の刺激の強さに骨抜きにされた私でございます。
妖艶でカラフルな衣装や万華鏡のような照明に溢れる魔窟の空間であっても身体の使い方や手を差し出す振り上げる仕草1つで
場を瞬時に取り仕切り、空気を潔く一変させる支配力にまたもや呑まれそうになりました。
ホフマンの信仰を捨てさせようと隣に座らせてホフマンのお膝をすりすり撫でている行動も恐ろしくもありながら
1幕のオカンなスパランザーニ、2幕の悍ましいドクター、と通して観るとそう容易には諦めがつかない、物流梱包用強力ガムテープを超える粘着質な性格と窺え納得。
柴山さんジュリエッタとはホフマンの身を滅ぼしそうな勢いでの共謀誘惑のパ・ド・ドゥもリフト多彩な振付を遠心力を繰り出してぎりぎりの淵まで大胆に魅せていて
ジュリエッタは長いスカート、ダーパテュートは魚風の頭飾りやマントで衣装の都合上リフトしづらい、動きづらい作りであっても
舟歌の盛り上がりと呼応しながら駆け抜け、腰の入れ方も深々としていて益々ホフマンから理性を失わせようと企む2人に心臓がぞわぞわと衝撃を受けた思いがいたします。

エピローグではプロローグの終わり頃に向かった店内の奥から戻ってすぐさま再びリンドルフ議員に。元のお席に腰掛けて気難しい表情でホフマンを眺めるも、
何食わぬ顔でラ・ステラを攫って最後の最後までホフマンから幸運を奪っては取り憑く悪魔な姿に、
また絶望して1人取り残されたホフマンに対して指差しで冷徹に追い詰め、地獄まで追っかけていきそうな闇に落とすほどの怨念に震え上がるしかございませんでした。
黒い衣装や黒手袋、シルクハットも絵になっていて、ドイツの歴史ホラー映画に登場しそうな自然味であったのも忘れられません。

このあとにも述べますが、前回の再演時に中家さんが踊られた舞台を観て踊りも芝居も見応えある役と印象が変わったわけですが
渡邊さんの場合更に凄みや内側から放つダークな色気に圧倒され、また悪役とは言っても品を損なわず
品格と悪のせめぎ合いをすれすれの箇所まで引き伸ばした状態で描写。
可愛らしいお茶目な要素で楽しませるときもあれば、怖いときは徹底して猛毒のような棘を眼光に宿し身に纏いながらの攻撃もあり、
踊りはそこまで無いながら場を持たせる難易度が高そうな2幕での鋭く冷徹な色気といい、全編通して振り幅の広さにも期待を遥か上をいく造形でした。
急速にキャンバスに色付けして仕上げるように1本の作品の中で全く異なる役への4変化を魂を丸々変えて生き、
幕ごとに様々な人物の橋渡しをする司令塔な存在に今回は一段と思えました。配役されて欲しいとはずっと願っていたものの正直ここまで魅せられるとは思わず。
絶えず人々に囲まれてる人気者なホフマンに嫉妬を募らせ、何十年にも渡って人生を賭けてあらゆる人物に変身しながら
ホフマンを脅かし続ける運命共同体な存在に身を焦がされるような多幸なる衝撃が止まらぬ、2024年の二・二三リンドルフ事件でした。

2018年の再演時に初役で登板され、俊敏に畳みかけるテクニックや様々な主役級女性と組むパートナーリングもスムーズで作品全体を掻っ攫っていた印象すら持たせ
リンドルフ(他)のイメージを一新された記憶が今も残る中家さんは、パワーの押し出しが強く、
また今回は強面な場面であっても仄かに愛嬌宿り、ホフマンの横取りが一段と楽しそうで、プロローグで腰掛けているときはじっと見据えて真剣に作戦を練っている様子。
召し使い達と踊るスパランザーニの踊りは豪快に刻んで素早く、太い線で急速に軌跡を描いてはふと茶目っ気たっぷりに召し使い達にあれこれ指示。
オリンピア人形に差し込む腕部分の扱いも滑らかで、そして案外几帳面なのか人々が大勢入ってくる間は横に
置いたオリンピア人形のスカートの裾を入念に整えていて細かい箇所まで目が離せず。
2幕では対抗してくるホフマンをガシッとねじ込み、ただピアノ椅子に座らせたホフマンに嫌々ピアノを弾かせる下りは立ち姿勢を保ちながら押さえ込む作戦で、
ホフマンの肩を掴む手先から伝っていく握力の強さでみるみるとホフマンは追い詰められていった印象です。
後にも述べますが、お小姓2人と怪しく戯れる冒頭から未成年禁制な世界まっしぐらであった3幕は
ジュリエッタと組むと先程のお小姓達とのおふざけな様相は消え去り、複雑なリフトも易々と披露して華麗にジュリエッタを見せ、
理性を失うまいと奮闘するホフマンを叩きつけるように誘惑。井澤ホフマン、奥村ホフマンともに
泣き出しそうになるのは無理もなく、可哀想な姿が更に助長された場面でした。

何度か申し上げているように私はこの作品、2015年のバレエ団初演時から好きで
当時は新国立劇場観劇歴史上最も初台に情熱を注いでいない時代であったにもかかわらず(失礼。元祖王子は西側に拠点を移され、新鋭王子は出現前)
つまり作品自体がすぐさま気に入ったのです。新国立での一新上演における作品印象底上げに貢献したのが2002年に鑑賞した、
既にレパートリー入りして旧ソ連公演でも上演していた牧阿佐美バレヱ団公演での鑑賞でしたが、
とにかく全体が暗鬱としていて記憶にあるのは舟歌の曲が流麗だったくらい。衣装はもっとゴテゴテしていたかと思いますが(記憶が彼方)
当初新国立バレエがレパートリー入りすると聞いたときはぞっとしまして、
2002年サッカー日韓W杯の年に観たあの暗いバレエの新国立での上演決定に口あんぐりしたものです。
しかしいざ初演舞台を観てみると印象一変、衣装はお洒落で明るい色使いな場面も増えて
幻影や魔窟も通して観ると全体が洗練された統一感で纏まったと安堵したのでした。
3幕の魔窟男性衣装はちょいと横に置くとして笑、前田文子さんデザインの衣装効果や照明、美術の影響は印象を大きく左右。
それでも、新国立初演時の不人気は否めず。周囲からも、バレエ名場面貼り合わせ作品やら、好意的な意見が聞こえづらかったのは事実です。
再演も客入りは非常に伸び悩んでいたかと思いますし、売れ行き伸び悩みを見越して回数も少なめの3回にとどめておいたのではと思うくらいです。

ただ今回大幅に印象を良い方向に変えた要素もあり、最大の1点はプロローグとエピローグにおけるホフマンの描き方。
これまでだいぶ老けメイク老け髪型(加えて初演時は浮浪者な雰囲気が汗)であったのがとてもナチュラルな風貌に変更。
思えば若い友人がいて、客達やメイドさん達からも人気者なモテ男ホフマンで常に誰かに囲まれているのですから清潔感は必須で
幕開けのカフェシーンからしてこれまでと全く異なる張りの良さでございました。青年期から年齢を綺麗に重ねた延長にあることがよく窺える造形です。

コール・ド・バレエや群衆の描き方も幕ごとに味付けがらりと変わって面白く、1幕若きホフマンとオリンピアの場面は
女性男性共に1人1人デザインが異なる明るく色鮮やかで瀟洒な衣装に身を包んでパレード或いはショーダンスな賑やかさで登場。
上から見ると斜め対角線上にシャキシャキ歩いていたかと思えば縦2列になって交差しながら隊列を変化させたり、
椅子にお行儀良く腰掛けて見物真っ只中のちゃっかりスパランザーニと挨拶交わす人もいたり笑
これといって創意工夫な振付ではなくてもワクワクと胸躍らせてくれる場面です。
新国立初演時この場面を初めて観たとき、暗鬱なだけの作風ではないとどれだけ胸を撫で下ろしたことか笑。
1人1人異なる衣装を眺めてはお気に入りの1点を見つける楽しさもございました。

2幕アントニアの夢の場面はトリプル・ビル等で抜粋にて上演して欲しいほどにコール・ドと照明美術の完成度が高し。
シックでクラシカル且つ男女ペアがしっとりと紡ぎ、ただ揃っているだけでなく
全員の優しい息遣いが徐々に射し込んでくる光と調和して、溜息がこぼれる幻想美な空間が出現。アントニアやホフマンを迎え入れる導きも息を呑む美しさです。
女性チュチュの膨らみにボリュームある丈や繊細な黒に流線形の模様で彩ったデザインも、
光に当たるたびに色彩が変わるように見え、よく練られた色味であると唸らせます。
今回気づいたのはコーダの途中、曲変化とともに照明が変わり、カタカナのコの字から鳥居型へ拡張する床照明の凝りようで、演出の細かさに再度驚かされました。
アントニアがバレリーナ姿になって現れる夢の場面への遷移がぶつ切りにならぬよう
ドクターミラクルによる呪いの催眠術でドクターとアントニアが一瞬袖へ引っ込むもすぐさま舞台にアントニアが現れ(実は別人が扮していて本物のアントニアは早替え中)
俯き或いは後ろ姿で立つのみならず、極力顔を上げないようにしつつドクターと踊りながら暫し場面の移り変わりを待つなかなかスリルある演出で
最初観たときは仕掛けが把握できず。いつ何処でアントニア着替えたのか理解するまで時間を要したほどで、
単なるアントニア着替えの時間稼ぎのための止むを得ない演出ではありません。それだけ夢の場面への移り変わりがスムーズなのです。

3幕は有名な舟歌で始まり、音楽も振付も小舟に乗ってゆったり揺らぐような情緒深さがあり、全体を覆うスモークも神秘的。
青や紫、オレンジ色もあったか、ステンドグラスや万華鏡を彷彿させる照明がひときわ綺麗で、そのまま迷い込みそうな不思議な色彩美でございました。
町中華風なランタンも吊るされていてダーパテュートは東洋趣味があるのだろうと脳内を巡らせつつ
照明やぼんやり眺める全体の光景にほろ酔いになったのも束の間、男性客人衣装にはこの度も度肝を抜かれ、勝手気ままに付けた名称をそのまま書き綴ると
当ブログはお若い層の読者様もいらっしゃいますため青少年の健全な人格形成に支障が出そうですので控えるものの笑
誰一人として恥じらい出している人がおらず、堂々とアピールしていましたからこちらもどんと構えて観るしかございません。
中家さんダーパテュートとお尻を突き出しての小姓2人の戯れ方にぎくりとするも、
令和のコンプライアンスが通じぬサロンと想像笑。決して不適切な描写ではないのでしょう。
まあ、令和のつい4、5日前だったか、どこかの議員さん達が踊り手達を宴に呼んで文字化も躊躇するサービスやら行為やらを多様性云々口実にして行っていた件とは違って
ダーパさんの魔窟はあくまで物語の世界での出来事でございます。

オペラのホフマン物語は一部分しか観ておらず勉強不足であるのはお許し願いたいところですが
歌無しであってもキャラクター達の声が明瞭に聴こえてきそうな編曲で、オリンピア登場のワルツでの星屑が舞い落ちるように節々でキラリと輝く軽やかな旋律もあれば
3幕では快楽まっしぐらにホフマンの理性をかき乱す熱量充満な曲もあり、
2幕でのホフマンがアントニアとの時間を互いに愛おしみながら歌うように展開する曲調も毎度聴き惚れておりました。
ピアノの音色が前半は幸せに満たされた潤いの粒が流れ落ちるように聴こえるも、
幻影の後はドクターミラクルが踏み切った暴挙からのホフマンへの追い詰め、アントニアの死の押し迫りに恐怖を思わすものへと変わり
アントニアの静かな最期が重たく引き摺られたまま3幕へと繋がっていた気がいたします。
ホフマンにとっては、アントニアと交わす愛情の象徴でもあったピアノが結果彼女を死へ至らせる残酷な楽器となってしまったのは悲運としか言いようがありません。

どうも劇場の広報不足なのかSNS等も発信はしていたものの、作品の取っ付きにくいイメージを払拭する勢いは感じられず。
1点1点見つめたくなるお洒落な衣装や『白鳥の湖』ロットバルトとは大違いの、見た目も魂も丸ごと4変化しながらホフマンを追い詰めるリンドルフの存在、
幻影の場面とはいっても女性のみの『ラ・バヤデール』や『眠れる森の美女』と異なって女性男女ペアで紡ぎ、装置照明との溶け合いに息を呑む幻影コール・ド・バレエ等
過去の映像や写真と説明付きで詳細に告知する等もう少しアピールできることはあったろうにと思います。
千秋楽は恐らくはこれまでのホフマン史上最も客入りが良かった印象で、残席の少なさに一安心いたしましたが
次回の再演時は公演回数も増やせるよう(くるみがドル箱であるのは分かるが)、望みが繋がりますことを切に願います。




キャスト表。お名前あります!!!



マエストロにて。今回のメニューはホフマンとリンドルフのサイン入り。この2役、運命共同体だからでしょう。



ベルリン風田舎オムレツホッペルホッペル。



鰯と新玉ねぎのアーリオオーリオ。しっかり渋めの赤ワインが進みます。リンドルフさんはカフェで何杯お飲みになっていたのでしょうか。



バイエリッシュクレーム  フルーツ添え。1幕のイメージでしょうか、可愛らしいパフェです。



2幕、幻想的な光景写真。とても好きです。



夜公演前のマエストロ。前菜の盛り合わせ、いつも明るい色合いです。



ペンネ。唐辛子が効いています。しかしこのあとはこの唐辛子以上に猛烈な刺激で襲いかかる悪魔にお目にかかるのでございます。



赤ワインも味わいました。



いつまでも胸に刻まれる舞台にダンケー!!バレエ版ホフマン物語の評価が前回より上がっていて(気のせいではないはず)、
新国バレエ初演時から作品好きな者としては喜ばしい限り。



そしてオアシスへ。また赤ワイン。



友人が選んでくれたケイジャン枝豆がスパイス効いていて益々ワインが進んでしまった。友人は何かのソフトドリンク。
今年は昨年とは大違いで、このお店で笑みが咲き誇る2月になって宜しうございました。
この作品中で最も観たいと思っていた役に配されて、出演もされて、
従来の役のイメージ打ち破る衝撃を心の奥底まで走らせてくださって。
2024年は私の2月、無事且つ幸せに終わりました。
ちなみに2月24日からちょうど1ケ月後は今度は異なる悪魔さんの魔術にかかる予定でおります。(もう来週やないか)
2ヶ月連続、悪魔な月になりそうです。

2024年2月28日水曜日

純白な恋を紡ぐ2人  パリ・オペラ座バレエ団『マノン』 2月18日(日)








2月18日(日)、パリ・オペラ座バレエ団『マノン』 を観て参りました。前日の大阪フェスティバルホールでの鑑賞を終え、1泊して新幹線でそのまま上野へ直行。
奇しくも、6年前のハンブルグ・バレエ団『ニジンスキー』鑑賞と似た流れとなりました。
(そのときは京都で石井潤さん作品公演を鑑賞後に1泊してそのまま上野へ直行。
京都の前日と前々日は東京で新国立劇場バレエ団ホフマン物語鑑賞。振り返ると恐ろしいスケジュール笑)
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/parisopera/manon.html


※NBSホームページより
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
オーケストレーション・編曲:マーティン・イエーツ
原作:アヴェ・プレヴォ「騎士デ・グリューとマノン・レスコーの物語」
装置・衣裳:ニコラス・ジョージアディス
照明:ヤコポ・パンターニ

パリ・オペラ座バレエ団初演:1990年11月9日

指揮:ピエール・デュムソー 演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

マノン  ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー  マチュー・ガニオ
レスコー、マノンの兄  アンドレア・サリ
レスコーの愛人  エロイーズ・ブルドン
ムッシューG.M.  フロリモン・ロリュー
マダム  ロール=アデライド・ブコー

第1幕
第1場
パリ近郊の宿屋の中庭
レスコー、 レスコーの愛人、 デ・グリュー、
ムッシューG.M.、 マダム、 マノン

乞食の頭 フランチェスコ・ムーラ

乞食
ラム・シュンウィン、 ルーベンス・シモン、
サミュエル・ブレ、 ナタン・ビッソン、
ミカ・レヴィーヌ、 レミ・サンジェール=ガスネール
ディアーヌ・アデラック、 リサ・プティ、
リュシアナ・サジオロ、アナスタシア・ガロン

高級娼婦
カン・ホヒョン、 オーバーヌ・フィルベール、
ビアンカ・スクダモア、 ニーヌ・セロピアン

3人の若い紳士
アレクサンドル・ボッカラ、 ニコラ・ディ・ヴィコ、
イサック・ロペス・ゴメス

紳士
レオ・ド・ビュスロル、
アレクサンダー・マリアノフスキー、
エンゾ・ソガール、ケイタ・ベラリ、シリル・ショクルン、ポール・マイヤラス

娼婦
セリア・ドゥルイ、 アンブル・シアルコッソ、
桑原沙希、パティントン・エリザベス・正子、
  ルナ・ペニェ、イゼ・ブルティニエール、
イロナ・カブレ、 カミーユ・カラザン、
リサ・ガイヤール=ボルトロッティ、
オルタンス・パジョレール、グロリア・プボー、
ニノン・ロー、山本小春

老紳士 ジャン=バティスト・シャヴィニエ

第2場
パリ、デ・グリューの下宿
マノン、 デ・グリュー、 レスコー、 ムッシューG.M.


第2幕
第1場
高級娼家でのパーティー
マダム、 紳士、娼婦、 デ・グリュー、 レスコー、
レスコーの愛人、 ムッシューG.M.、 マノン

高級娼婦
カミーユ・ボン、 カン・ホヒョン、
オーバーヌ・フィルベール、 ビアンカ・スクダモア、
ニーヌ・セロピアン
男装した娼婦 ルナ・ペニェ

第2場
デ・グリューの下宿
マノン、 デ・グリュー、 ムッシューG.M.、 レスコー

近衛兵
ラム・シュンウィン、ルーベンス・シモン、
ナタン・ビッソン、サミュエル・ブレ、
マニュエル・ジョヴァーニ、
オジリス・オナンベレ・エヌゴノ、
レミ・サンジェール=ガスネール

第3幕
第1場
ニューオーリンズの港
高級娼婦、娼婦、 マノン、 デ・グリュー
看守 アルチュス・ラヴォー

兵士
ラム・シュンウィン、ルーベンス・シモン、
ケイタ・ベラリ、ナタン・ビッソン、
サミュエル・ブレ、マニュエル・ガルリド、
ミカ・レヴィーヌ、ポール・マイヤラス

市民
ディアーヌ・アデラック、リュシアナ・サジオロ、
ロドリーヌ・ショール、山本小春、
アナスタシア・ガロン

第3場
沼地
マノン、 デ・グリュー、これまでの登場人物

協力:東京バレエ団



ウルド=ブラームのマノンは無垢に輝く天使で、派手さ無くても手脚の隅々迄しっとりした動きに溜め息。
馬車から飛び出しての登場ではふわりと優雅な風が吹くような走り方で、自身の魅力には気づいていないと思われ
何の混じり気のない笑みを湛えてレスコーに駆け寄っていた印象です。
GMからネックレスを受け取ったときは不思議がりながらそっと手を添えて一呼吸してから価値を考えていた様子で
すぐさま欲を露わにする人もいる一方、自身がどこか渦巻く世界へと導かれて行く不安と期待を静かに抱いていたと見受けます。

表現が過剰はなくいたくシンプルでありながら品を保っていたのはウルド=ブラームならではと思われ、
娼館にやってきたときはすっと澄ました顔で登場し、殿方たちを虜にしている自身の魅力をよく分かっていないのか、チヤホヤされても気にしていない様子で
そっと歩く姿がまた美しい。貧困から抜け出そうとがむしゃらに挑むのではなく、あくまで欲はそこまで持たず
だからこそ持ち前の美しさに気づかぬうち、これ見よがしに誇示もしないままあれよあれよと騒動に巻き込まれていってしまったのでしょう。
ルイジアナでボロボロの姿になっていても天性の美は全く失われず、犯罪であるのは重々承知だが、看守が惚れてしまうのも頷ける美しさでした。

ガニオのデ・グリューは登場時から高貴な容貌で、奥の方にて見えかけた鼻筋からして庶民や苦学生には思えぬ美貌でしたが笑
結果としてウルド=ブラームのマノンとは好相性で、周囲から異質なほどに浮く純白な恋を紡ぐ2人として説得力あり。加えてデ・グリューは貧しくはあっても美しさはあって欲しいと勝手に理想づけております。
2人もベテランの域に達していて全盛期な踊りっぷりではなかったのは否めませんが
威勢よくアクセントを付けず荒っぽくならず、代わりにしっとりと丁寧に四肢を操り
沼地のパ・ド・ドゥも、多量の結び昆布な吊るし美術の中であっても(食料品売り場でおでんセットを見るたびに思い出す笑)
2人の姿は尚美しい光を放っていて、デ・グリューの腕の中で息絶えたマノンは苦しそうでは決してなく
愛する人の温もりの中で最期を迎えた安堵が顔に表れていた気がいたします。
『マノン』の濃密な作風を考えると幕間は赤ワインを飲むかと思いきや、
この2人の出会いと寝室のパ・ド・ドゥを観た後は心が白色に純化されたのか白ワインな気持ちになったものです。
サリのレスコーはあくまで好みの問題ですがもう少し色気があれば尚良かったかと思ったものの、
冒頭ソロの脚の蹴り上げ方のシャープで盤石に繰り出すバランス、愛人のブルトンも力強く歯切れ良い音楽に乗せたソロにおける刺すような強さのあるポーズも目に残ります。
ムッシューG.M. は若い描かれ方で、ロリューが端正な顔がみるみると厭らしさを帯びながら
脚触りをしている仕草が毒々しく笑、ベテランが演じるイメージが先行していただけあって鮮烈でした。

衣裳装置はこれまでオーストラリア・バレエ団製作のデザインしか生では観たことがなく
ニコラス・ジョージアディスが手掛けたデザインをようやくこの目で鑑賞できたのも大収穫。
細部まで凝った、特に2幕は緻密で重厚な、異なる色味の赤を組み合わせた美術が壮観で、馬車の細かな錆や朽ちた部分も実にリアル。
娼婦たちの赤茶な鬘と赤系で整えた衣裳も豪奢で、何度も双眼鏡で観察いたしました。

音楽構成の妙にも再度唸り、様々な作品からの寄せ集めとは到底思えず。幕開けのレスコーの佇み、
マノンのテーマや3つのパ・ド・ドゥ、レスコーや愛人の欲がぶつかるソロ曲も耳に残ります。
全編の中でも、娼館のワルツは集う人々の歓喜と苦悩、欲望が渦巻き昇華するような旋律にこの度も胸を揺さぶられ、
快楽と現実の狭間をうねるように彩り心を抉るマスネの曲に蕩けた夜でございました。

本家本元は英国ロイヤル・バレエですが、映像で一番脳裏に焼き付いているのはパリ・オペラ座で(公式販売はしていないが)
ベラルビのレスコーとピエトラガラの愛人の香り立つ翳ある色気にどれだけ酔いしれたことか。
今回初めて生でパリ・オペラ座マノンを鑑賞でき、英国ロイヤルとはまた違った、
退廃な箇所はぐっと押し出し、一方で美しさをとことん強調するされど仕草も踊りもあくまでエレガントにこなしていた魅力があったと捉えております。




幕間に白ワイン。『マノン』観て、赤ではなく白の気分になるとは思いもいたしませんでした。
そして会場では多くの方々から「(大阪から)お帰りー」と声をかけてくださりありがとうございました。
思えば昨年のオペラ座・ガラは鑑賞後に夜行バスで大阪に向かい、その旨を会場であった方々に話すと「いってらっしゃーい」。
2年連続、大阪とパリ・オペラ座来日公演は隣り合わせらしい。
さて管理人は現在、ベラルビさんのレスコー以上に!?鋭く冷たい色気放つフレンチメソッドの悪魔に未だ耳元で囁かれていそうな感覚が残り、
そうこうするうちに明日には2月も末日。今年は閏年でございます。

2024年2月23日金曜日

【速報】【大変おすすめ】新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』初日




2月23日(金祝)、新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』初日を観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/hoffmann/

初日の様子
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_027363.html


カーテンコール



リハーサル映像。やる気満々、目が勝負師なスパランザーニがいます!






3幕、娼館。



この作品、切り貼り型であるとの意見が大半なのか?人気今ひとつですが、私は2015年のバレエ団初演時からとても好きな作品です。
同じダレル版でも2002年に牧阿佐美バレヱ団で観ておりますが、(22年前か。サッカー日韓W杯の年です)
牧ではより陰鬱な色味が後押しされていて、色鮮やかな衣装の数々に彩られた新国立での上演とは印象がだいぶ違っておりました。
音楽はオッフェンバック。オペラとはほぼ同じ流れと思われ、星空を描画するような浪漫に満ちた旋律もあればおどろおどろしい快楽が走る曲もあり
聴き惚れてしまう音楽構成で、特にオリンピアのワルツと、アントニアの心情が高らかに奏でられる曲を私は好んでおります。
全幕バレエでは珍しく男性が主役で、しかも主役ホフマンを1人が3世代分踊り演じる面白さ、そして幕ごとにがらりと変わる世界観にも魅力を感じます。
衣装がとにかくお洒落で洗練されていて、3幕はご意見様々ですが笑、 明日は昼夜、明後日は昼に上演ありますのでお時間許す方は是非ご来場ください。
内容とは反してそこまで重たい作風ではなく、未だルイジアナの沼地から抜けられずにいる方も心配なさらずに初台へお越しください。

それはそうと今回は昨年の二・二三事件から1年、まず予定通り幕が開きました、監督からの詫び挨拶も無しで一安心でございます。
バレエ団初演時から務めていらっしゃる福岡雄大さんホフマンの幸福から急転直下する悲哀感、
彼の恋模様を色付けてきた1幕オリンピア(池田理沙子さん)、2幕アントニア(小野絢子さん)、3幕ジュリエッタ(柴山紗帆さん)、
プロローグエピローグのラ・ステラ(木村優里さん)の競演も見所です。

そして、もしかしたら実質の主役は悪魔の化身リンドルフ/スパランザーニ/ドクターミラクル/ダーパテュート(本日は渡邊峻郁さん)で、
幕ごとに色味が全く異なる4役に変化しながらホフマンにつきまとい追い詰める重要難役。
今月上旬の『シェヘラザード』に続き変わり者を承知で申すと、渡邊さんで観るならホフマン役よりも、
敵役4変化するリンドルフ(他)役の方が私はやって欲しいと願っていたため今日は感無量でした。
恐怖で冷徹な圧、剽軽、怪奇、妖しさ、と色が異なる4役を踊り分けてホフマンを追い詰め、
敵役の食品成分表を隈なく網羅。突き抜けた狂気で全幕を支配なさっていた印象です。
プロローグは着席姿のみであっても周囲とは距離を置いて悪巧みな威圧感を静かに醸し
1幕の急速テンポでの踊り狂い、2幕は佇まいから棘のある色気を内側から放出したかと思えば福岡ホフマンをいよいよ極限状況へと追い込む肩揺らしが悍ましい悪魔、
3幕娼館での半魚人風の衣装姿やジュリエッタとの共謀も妖気が凄まじい。
全編通して、幕ごとに魂から大化けする凄みに呼吸が止まりかけたほどでした。ダブルキャストの中家さんとの比較も大変楽しみでございます。

本日は福岡ホフマン目当てにいらしていた福岡さんの出身スタジオKバレエスタジオさんはじめ、
大阪からの観客の方々からも私の顔を見るなりひょっとしたら福岡さん以上に⁈褒め言葉多々いただき、嬉しうございました。
福岡さんを追い詰める役ですから嫌われないかと心配もありましたが吹き飛び、立ち姿で色気あんなん出せるんかー等、胸が一杯です。
明日明後日、是非『ホフマン物語』ご覧ください!

昨年の二・二三事件の悪夢から1年、時の流れは早い。



無事2月23日!



可愛らしいデザートも。シャンパン飲んでいらしたお二人組も話しかけてくださり、目に留まったようです。

2024年2月21日水曜日

オーケストラ演奏付きでオディールの存在と白鳥コール・ドもたっぷり  (公社)日本バレエ協会関西支部・関西バレエカンパニー公演  第50回バレエ芸術劇場 山本隆之さん版『白鳥の湖』再演   2月17日(土)《大阪市北区》





2月17日(土)、大阪フェスティバルホールにて山本隆之さん改訂振付『白鳥の湖』を観て参りました。
2021年の吹田市制施行80周年・メイシアター開館35周年記念公演に続く再演です。今回は井田勝大さんオーケストラ演奏付きで上演されました。
大阪フェスティバルホールは2008年のボリショイからスヴェトラーナ・ルンキナとアンドレイ・ウヴァーロフを迎えた新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』公演、
そして忘れもしない5年前9月の新国立劇場バレエ団こども『白鳥の湖』における直前の主役2人変更で急遽予定外に出向いて以来3回目でございます。
http://balletkansai.com/2023/02/06/ballet_kansai_50th/

オーディションの様子。山本さん、樫野隆幸さん、振付補佐の真忠久美子さん、石川真理子さんにお姿も。
http://balletkansai.com/2023/09/05/第50回バレエ芸術劇場「白鳥の湖」全幕の出演者選/

照明下見の様子。
http://balletkansai.com/2024/01/30/20240130/



オデット:北野優香
ジークフリード王子:水城卓哉
悪魔ロットバルト:青木崇
悪魔の娘オディール:椿原せいか

指揮:井田勝大
演奏:関西フィルハーモニー管弦楽団


オデットは京都バレエ団の北野さん。2017年のバレエ団公演『くるみ割り人形』全幕や2度の京都バレエ団ガラにおける『眠れる森の美女』、
『ゼンツァーノの花祭り』でも拝見しており、毎回優美な魅力に惹かれておりましたが
オデットでの腕使いの柔らかさ、弧を美しく描くラインにもうっとり。華奢なタイプながらも悲しい可哀想なばかりでなく確固たる軸から繰り出す強さも覗いて
上品且つ白鳥達を率いる凛然とした姿も目に刻まれております。王子との出会いはマイムでの経緯説明がなくても
踊りから感情を醸しながら王子へ切々と訴える悲しみが伝わり、キラリと雫が光るような表情にも見入ってしまいました。
オディールは悪女になり過ぎないようあくまで黒い衣装を付けたオデットに近かった印象。
その中でふと隙を突いて妖しい笑みを流したり、あとにも述べますが椿原さんのオディールと
さらりと入れ替わって王子を益々翻弄させる恐ろしさが伝っていたと捉えております。
髪をセミクラシックになさっていたこともあってか、また目がくりっと愛らしい点と着用衣装の流線形な模様が似通っていたのか
斜め後ろから見るとお若い頃の森下洋子さんに似ていると観察。ぱっと目を惹く華やチャーミングな品が想起させたかと思います。(褒め言葉として受け止め願います)

王子の水城さんは、一昨年の貞松浜田バレエ団とスターダンサーズバレエ団の共同制作作品Malasangre   マラサングレの東京公演にて、
古典の貴公子のイメージを一変させる次々と大胆に斬り込んでいく身体能力の高さにたまげた記憶は未だ残っておりますが今回は正統派な王子様。
牧阿佐美さん改訂版『白鳥の湖』に似たブルーのベルベット生地に金糸で彩られた衣装で登場され、朗らかな王子様で場を楽しませてくださいました。
音楽をゆったり吸って掴むような丁寧な身体の運び方や、オデットにみるみると心惹かれていく様子、
オディールの罠に嵌って遂には結婚を誓ってしまい嘆きっぷりも哀れな様子で、王子の混乱ぶりをくっきりと体現なさっていました。

王子の心理により迫ったリアルな描写も見どころで、ユリア・レペットさんによる王妃と一緒には登場せず1人遅刻して
ぎりぎり花嫁候補達のお披露目に間に合うも、王妃からは身分を弁えるよう警告の眼差しを食らってしまう箇所は
王家の取り決めとはいえ舞踏会に行く気分にならず、重い腰がなかなか上がらなかった本音が行動にそのまま出たと窺えるひと幕でした。
そして跳んで弾けてだけではなく王妃王子親子を気にかけ、玉座の台に体育座りのようにしてちょこんと腰掛ける道化の末原さんの健気なこと。

青木さんのロットバルトは高い背丈を生かしての悍ましい羽ばたきや眼もパワーがこもっていてオデットと王子2人揃って呑み込んでしまいそうな迫力。
3幕では黒い衣装に赤色で彩られた元祖・セルゲイエフ版を思い出させるデザインで
観客の間でも呼び名が色々上がり、デーモン小暮或いは私はシャ乱Qと思い浮かべましたが
(御堂筋線とお好み焼きが好きな東京人である管理人、大阪エレジー好きでございます。お若い方はご自身でお調べください)
仰天メイクや頭飾りを付けたオディールの父親であるのも納得なお姿でございました。

初演時に山本さんは、突如舞踏会でのオディール登場に違和感を覚えていたと仰っていて、疑問点をナチュラルな展開に仕立てたセンスにもこの度も唸りました。
1幕の幕開けからオディール登場させてオデットを脅かす力の存在を示し、また湖畔では拒絶する白鳥達との静かな対立も自然に映り、
オデットとオディール双方がソロ(オディールはオーボエの曲のソロ)を踊る流れもスムーズ。
オディールの登場やソロのときは照明の切替効果も鮮やかで、朝焼けのような朱色の光と水色が交じり合った光が摩訶不思議な空気を後押しし、
湖畔にオディールが出現したら静かな白い世界観が壊れてしまう心配を忘れさせるほど説得力があると唸らせました。
3幕2場も白鳥コールドの見せ場たっぷり。そういえば近年ご無沙汰していた悲しみを引き摺るワルツも取り入れ
白鳥達が悲嘆を体現しながらフォーメーションを作り上げていく光景の中でオデットが王子を許して愛を確認しあうパ・ド・ドゥを展開し、
最後までコール・ドも一緒に丹念に積み上げていく流れから、愛の勝利で締め括る終盤をより引き立ててスケールの大きな幕切れへと繋がっていた気がいたします。
前回以上にコール・ドの精度が高くなっていた印象で、各地からの選抜ですから背丈や体格もばらばらなはずが
踊りも呼吸も全員が丁寧に行う意識が自ずと広がって、身体のラインの見せ方も美しや。実によく整っていたと思わせました。

そして今回はオーケストラ演奏付き。所々乱れかけた箇所もあったような記憶が走りますが、
井田さんの指揮による演奏で山本さん版白鳥全幕を鑑賞できたのは喜びもひとしお。
東京の公演では度々目にする井田さんを大阪しかもフェスティバルホールで拝見する日が来るとは思いもしませんでしたが安心感を持つ指揮者でいらっしゃいます。
井田さんといえば公演の指揮のほか、一般向けのバレエ音楽関連講座での講師も頻繁に務めていらっしゃり私も受講経験は5回以上はありますが
語り口は明るく楽しいもののだいぶ早口で笑、入門者には難易度少々高い内容を一気にまくし立てていくなかなか強者でございます。
しかし深入りした内容も知ることができ、毎回楽しみな時間です。実技だったら全滅でしょうが笑、
バレエの「座学」なら多分私は上級クラスもいけるのかも笑。いや、調子に乗ったらあきまへん。
それはそうと思えば12年前に三重県四日市で開催されたトヨタ二大クラシックバレエハイライトにて
四日市のオーケストラや地元のバレエ教室そしてゲストダンサーとの共演公演にて指揮をなさっていたのがまだ駆け出し!?であった井田さん、
そしてほぼ全幕な演出であった白鳥の湖にて王子を踊られたのが山本さん。
ロットバルトが宮尾俊太郎さんで大変珍しい顔合わせであった公演でもあり、初の鳥羽水族館訪問も合わせて懐かしく思い起こされます。

衣装は前回はほぼ全て新国立劇場バレエ団の牧阿佐美さん版衣装を借りての上演で今回は叶わずであったものの
1幕の宴の衣装は落ち着いたトーン且つカラフルで品があり、線の細いお城や山道の描画はセルゲイエフ版を思い出させました。
湖畔は青みがかった繊細ですっきりとした背景美術、そこへロットバルトの脅威を表すときには燃えるように真っ赤な照明が入り、変化にはっと驚かされる演出です。
レペットさん王妃が舞踏会でお召しになっていた金色の獅子が描かれたドレスも煌びやかで豪華。

衣装については1点だけ、3幕舞踏会の民族舞踊にて、チャルダッシュが可愛らしいデザインながら『コッペリア』村人のように思えてしまい
マズルカは白地の高貴な雰囲気のあるデザインだっただけに心残りでございました。
そうはいっても関西にしては⁈ドヤっとならず全体に品良い纏まりで、山本さんの魅力がそのまま投映されている味わいに思いました。
客席やカーテンコールでの山本さんの変わらぬ爽やかな品あるお姿、やはり素敵です!

それから東京人の素朴な疑問で大阪のバレエ界の方々は何とも思わないかもしれませんが
プログラムに掲載された主要役の方々の紹介顔写真が舞台メイクで、だいぶ古風に思えた次第。
大阪の老舗である法村友井バレエ団が今もチラシ写真を見ると舞台メイク顔写真を使用していて、その伝統かもしれませんが
せっかく今回の白鳥のチラシの写真はナチュラルメイクなお顔で北野さんにしても水城さん、椿原さんにしても皆さん綺麗。
プログラム用とはいえ、プロフィール欄の顔写真に舞台メイク写真を載せる必要性について考えてしまうと同時に
関西と関東の文化の相違点について考察する面白さを更に見出すきっかけとなりました。
私が高校生の頃に書いた人生初の大阪上陸であった修学旅行の文集のような締めになりましたが
大阪の舞台芸術の殿堂であろうフェスティバルホールにて山本さん版『白鳥の湖』全幕をオーケストラ付きで鑑賞できたのはたいそう幸運。
視点や切り口の面白さに再演触れ、上演時間縮小の傾向がある近年の傾向から離れてあえてしっかりと終盤のコール・ドも見せる、音楽も聴かせる、
しかも舞台に引き寄せられるためか時間が長く感じず、寧ろグランド・バレエを心から堪能した心持ちになれる演出でした。またの上演お待ち申し上げます。





行ってみたいと思っていた太陽ノ塔洋菓子店へ。看板上部に、まいどおおきに、と記されています。府内に何店舗かあるようです。
そういえば、2021年の山本さん版白鳥初演は太陽の塔がある吹田市の市制記念としての公演でした。



お目当ては、スワンケーキ!ロールケーキにホワイトチョコレートで作られた頭と首、
羽はメレンゲ、胸元にはおリボンらしきクリームもあるお洒落な白鳥さんです。
とても丁寧に作られていて、スポンジの質感はしっかりされどふわふわ。ちなみにブラックスワンもございます。(但し茶色)
ピンク色のマグカップにお花や果物が描かれているのも可愛らしい。カトラリーはアンティークゴールド。優雅な所作を心掛けたくなる色彩、形です。
コーヒーの深みある挽き方も嬉しい味わい。そして内装にも注目。



額縁から白鳥さんが飛び出してきました



「ワテも山本さん版白鳥観たいさかい」と語りかけたかったのでしょう。
或いは「だいたいなあ、チャイコフスキーさんとサンサーンスさんが白鳥は優雅な生き物って勝手にイメージを作りはって
ほんまはワテらはガーガー鳴くわ、ガニ股でバタバタ歩くわ、賑やかな鳥やねん。
あの湖畔のアダージョなんて7分も持たへんわ。気性に合っている曲は2幕湖畔のコーダの4羽の白鳥さんらが
ジャガジャジャンガ、ジャガジャジャンガと勇壮にケンケンしていく曲くらいやで。白鳥を優雅に静かにできはるのは人間さんだけやから」とでも訴えたかったとか。
(管理人、今年で大阪での観劇は18年、訪問回数は70回を超えておりますが、未だきちんとした大阪弁を話せません)

着席すると真横に白鳥さんの圧。ふかふかのぬいぐるみな作りです。レジ近くにはオデットらしきバレリーナ人形もあり、是非足をお運びください。



昨年9月にも行きましたが、心斎橋パルコのどんぐり共和国。この場面、トトロ達のプリエが見どころ。深いところからの引き上げができているのです。
いわゆるジューシーなプリエ、でしょう。




猫背なカオナシ。私も気をつけます。



千と千尋な世界、迫力あります。この日の山本さん版白鳥出演者の中に、千と千尋の神隠しが大好きな知人が出演。
白鳥コール・ド登場にて、先頭を走りながら頼もしく仲間達を率いていました!
1年前の2月、初台で落ち込む私をオペラシティのオアシスにてずっと励ましてくれた優しいお方でございます。
せっかく大阪から東京まで観劇に来たにもかかわらず地元の人間の励まし慰め係を担うなんて思っていなかったでしょうが、優しさの塊な人柄なのです。



どんぐり共和国はしご、梅田のルクア店。あなたはだあれ、の場面を思い出します。気分はメイちゃん。



オーロラ姫を目覚めさせるデジレ王子のいる角度。どんぐりもいっぱい。



魔女の宅急便、グーチョキパンもありました。お届け物の依頼をしましょう。
天候とカラスには左右されますが、(身代わりジジ、手に汗を握りました)渋滞の心配はなさそうです。
パンも美味しそう。宅配の申し込みのついでにたくさん買ってしまいそうです。



お昼は会場近く、歴史ある建造物ダイビル本館1階にあるドイツ、オーストリアなカフェへ。カフェアマデウスだったか。レリーフな模様が美しい。



ビールグラスの模様が中世の写本に描かれていそうな絵でとても素敵。季節外れな温暖気候であったためぐびっと呑んじゃいました。
ハムやザワークラウトも塩っぱ過ぎない味で、お勧め。デザートも何種類かあるようです。



淀屋橋から眺めるフェスティバルホール。大阪府の中でも特に好きな景色の1つ。川と重厚な建築、ビル群が調和した穏やかな風景です。



フェスティバルホール、快晴です。



宿泊先は会場すぐそば。お1人様で2人部屋プランなるものがありました。お布団を敷いて就寝する部屋で、エアウィーヴだからかふかふかで気持ち良し。
お風呂とお手洗いが別々であるため(入浴時寛げるので嬉しいのです) チェックイン後に大きなバスタブでゆったり入浴し、
サスペンスドラマの再放送を見ながら柔らかなお布団でつい昼寝笑。



大階段



夜になると蝋燭が灯されるロビーのテーブル。



終演後は北新地の鉄板焼きお好み焼き屋さんで乾杯。西日本中心にあらゆるバレエ公演や発表会でお馴染みの女性カメラマンさんと語り合いました。
こちらのお店、終演後でも営業していそうなお好み焼き屋さんを事前に何店舗か調べていた中で候補にあげていたお店でしたが大当たり。
お値段はそこまで高くもなく、しかし牡蠣炒めや牛すじ炒めにしてもタコ玉のお好み焼きにしても
味付けが変なコッテリ感がない上にふわっとした焼き上がり。上品な味付けでした。ああ、山本さんなお好み焼き鉄板焼きだ、と感想一致。



とん平焼き。まず東京で食べる機会がないため注文。薄くのばした具をこれまた丁寧に包んでいて、注文して正解でした。
広々した店内で席の作りも間隔に余裕があり、お店のスタッフの方々もさっぱりと朗らかな方ばかり。寛げる雰囲気です。
今回の白鳥や、都内のバレエ団の大阪公演鑑賞感想から健康維持の秘訣もお聞かせいただき実りある時間となりました。
私の観劇生活についてもたくさん聞いてくださり、救われる言葉も多々いただき、励まされっぱなしでございました。
加えて、大阪のバレエにおけるメイクの濃さの疑問もぶつけてしまい、あのオデコや耳前にクルクルカールを描くのは何やねんと
失礼極まりない質問だったかと思いますが汗、でも長年の疑問なんです。うどんのお出汁とは逆で、バレエメイクは関西(大阪)は濃く関東は薄い。



夜の肥後橋。



おはようございます。題名のない音楽会を視聴したり(趣味においてはクラシック音楽三昧な環境に身を置いているせいか
この日の番組テーマであった、耳に馴染みはあっても曲名や作曲者が分からない特集にて、サンサーンスの白鳥やラヴェルのボレロが取り上げられていてびっくり)
チェックアウトぎりぎりまでエアウィーヴのお布団にくるまっておりました。自宅ではないねん笑。
しかも夜には東京の自宅に着く前にパリへ行くんやで。そんなこんな、晴天に恵まれ、梅田まで徒歩移動。



切りかけてしまいましたが梅田にて食べてみたかったピスタチオクリームトースト。
パンにさくっと染みていて美味しい。コリコリしたピスタチオの食感も散りばめられています。



梅田のヨドバシカメラで見つけた阪神タイガースポテトやチーズ包みおかきと、アサヒリッチビールで乾杯。
山本さん、この度は再演おめでとうございます!そして昨年は阪神優勝おめでとうございます。
王妃様のドレスに獅子が描かれていたことも思い出しつつ、この後は上野へ直行パリ・オペラ座『マノン』です。
さらば大阪、また会う日まで!!

2024年2月15日木曜日

オルガンとバレエが出会ったヨコハマフランス祭り オルガンavecバレエ 2月10日(土)《横浜市中区》




2月10日(土)、神奈川県民ホール小ホールにて、オルガンavecバレエを観て参りました。
中田恵子さんのパイプオルガン演奏と遠藤康行さん振付の舞踊が合体した、これまでにお目にかかったことがない形の企画で
オルガンの無限な可能性と舞踊との好相性に気づかされた大変面白い公演でした。
https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/avec_2023

https://ontomo-mag.com/article/interview/organ-avec-ballet/


※県民ホールホームページ参考

企画・演奏:中田恵子
振付:遠藤康行
舞踊:渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花
照明:櫛田晃代
照明チーフオペレーター:成久克也
舞台監督:藤田有紀彦
プログラム:
第1部
『ロバーツブリッジ写本』(14世紀)よりエスタンピー・レトローヴェ
渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

A.ヴァレンテ(ca.1520-1581):松明の踊り
三宮結、田中優歩

M. ヴェックマン(1616-1674):第1旋法による5声の前奏曲※

J. パッヘルベル(1653-1706):カノン
遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

J.S. バッハ(1685-1750):小フーガ  ト短調   BWV578 ※

G. ボヴェ(1942-):ピンクパンサーのフーガ
周藤百音、斉藤真結花

G. ガーシュイン(1898-1937):アイ・ガット・リズム
渡邊峻郁

J-L. フローレンツ(1947-2004):「賛歌」作品5より、第7曲 光の主
渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

第2部
P. チャイコフスキー(1840-1893):「眠れる森の美女」より、第1幕 ワルツ
渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

C. サン=サーンス(1835-1921):白鳥
遠藤ゆま

F. メンデルスゾーン=バルトルディ(1809-1847):ソナタ 第1番より、アダージョ ※

C.V. アルカン(1813-1888):《ペダルのための12の練習曲》より、第4番
三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

C.ドビュッシー(1862-1918):牧神の午後への前奏曲
渡邊峻郁、遠藤ゆま

C-M. ヴィドール(1844-1937):《オルガン交響曲 第5番》より、トッカータ
渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

※オルガン・ソロ



中田さんや、神奈川県民ホールで制作に携わっていらっしゃる中野さんの投稿にて、リハーサル写真や舞台写真も多数掲載されています。


遠藤康行のインタビューをお届け!『オルガン avec バレエ』

DancersWebさんの投稿 2024年1月23日火曜日



〈オルガンavecバレエ〉終演しました。 難曲になるとなぜか自分も一緒に緊張してしまい。 特に前半は、普通の演奏会でもバレエ公演でもない公演にお客さんと一緒にドキドキしました。後半はほぐれて拍手がたくさん。こういうものなんだと、やる側も観る...

中野敦之さんの投稿 2024年2月10日土曜日












まず私はオルガンの知識が皆無に近く、オルガンと聞いて思い浮かべるのは教会やコンサートホールにあるパイプオルガン、
或いは小学校の教室に置かれ音楽の授業で先生が弾く中型のもの、あとはバッハ、といった印象。
殊にパイプオルガンに関しては、教会の礼拝にしてもコンサートにしても荘厳に奏で、
奏者は後ろ向きであっても口を真一文字にした険しい表情が背中からも表れて大真面目に弾いている印象しかございませんでした。
(オルガン業界の皆様、偏重なイメージをお許しください)
そんなわけで、オルガン1台の演奏とバレエが共演と聞いても想像ができず、更には曲目を見るとガーシュインや映画音楽もあり
神聖で厳粛な空気を壊さぬよう奏でているお堅い印象しかないパイプオルガンでジャズ要素を盛り込んだ軽快な楽曲をいかにして披露されるのか
バレエでもお馴染みな『眠れる森の美女』花のワルツやサンサーンスの『白鳥』、
ドビュッシーの『牧神の午後』の編曲やバレエとの相性、構成も含め誠に失礼ながら不安すら過っていたのです。

ところがどっこい。様々な不安は幕開けから吹き飛び、まず中田さんの色彩感豊かな演奏に驚愕。
自在に色付けするかの如くキラリと光を放っていくような演奏で、最初の数秒間でこれまで抱いていたパイプオルガンの偏重な印象は消え去っていったのでした。
またバレエとの相性の良さにも驚かされ、決して一方通行にならず、演奏とバレエが瑞々しく溶け合って昇華していき
舞台真正面に聳え立つパイプオルガンは堅固な舞台装置も兼ねていた印象もあってか
堅苦しさは無いものの何処か神聖な香りと清らかな余韻が残っていく、そんな心地良い空間を味わえた思いでおります。

中でも印象深かった曲がいくつかあり、1本はガーシュインのアイ・ガット・リズム。
昔から好きな曲であり、まさかオルガンで聴く日が到来するなんて夢にも思いませんでしたが
お洒落な空気を軽快に表現なさる中田さんの演奏と、意外と申したら失礼ですが渡邊さんの品良くも飄々とした軽やかな乗り具合がぴたりと合わさって
演奏前に渡邊さんが手を差し出してのどうぞ~、の掛け合いも楽しく映った次第です。もう舞台からはみ出そうな心配も演出のうちなのか笑
所狭しと跳び回って魅せる術に音楽目当ての観客も沸いていた様子で、開始と同時に
突然客電もほぼ明るくなる仕掛けも含め、あっと驚く洒脱な味わいが詰まったプログラムでした。

もう1本は牧神の午後への前奏曲。下手すればぼんやりしがちな微睡むような旋律を音の1粒1粒から柔らかな輝きが弾けるような中田さんの演奏が
大きな優しいベールとなって包み込まれるような心持ちとなる中、遠藤ゆまさんの若い大胆さと
情熱を秘めながら包容する渡邊さんのワイルド且つ穏やかな力が絡まってのパ・ド・ドゥから目が離せず。
予測不可能な身体能力での造形美なる競演で、ゆったりした曲調の中で芽生える刺激の張り合いにも釘付けになりました。

バレエで馴染み深い『眠れる森の美女』花のワルツはオルガン1台であっても大編成のオーケストラとさほど違和感無く、躍動感たっぷり。  
2021年に東京文化会館で観た、渡邊さんも出演された日本バレエ協会公演における遠藤康行さん振付コンテンポラリー『いばら姫』幕開けを思い出しつつ
文化会館大ホールとは面積も見え方も全く異なる間近で聳え立つパイプオルガンの演奏と共にパワフルに弾け散る踊りを鑑賞するのは鮮烈な体験でした。

オルガンの構造からしてイメージを覆されたのが『ペダルのための12の練習曲』。
そもそもピアノと違ってペダルそのものから音が出ることすら知らずにおりましたので、ペダルのみで曲を奏でていく様子に仰天でございました。
しかも椅子の両脇を両手で掴みながら脚を腿上げ運動のようにしてペダルを押す姿は
バレエダンサーやスポーツ選手も驚きを隠せないであろう、強靭な腹筋や背筋が不可欠。オルガンとバレエの脚技競演で中田さんの身体能力にもたまげた1曲でした。

序盤から中田さんの色彩豊かな演奏に驚かされ、プログラムは古楽から映画音楽までも用意した変化に富む構成で、オルガンのド素人な私が
パイプオルガンと聞いて咄嗟に思い浮かべる、小フーガト短調もあれば(NHK名曲アルバムでのドイツの教会と険しい顔したバッハの像が映し出される映像も)
これでオルガン⁉と意表を突く選曲もあったりと飽きさせない曲構成に楽しませていただきました。
全曲解説掲載付きで、古楽から歴史を辿り舞踊は抽象的にまとめた第1部に対して
第2部はより具体性や物語性を強めた演出で、全編通して演奏舞台の世界へとスムーズに入り込む大きな助けとなりました。
遠藤ゆまさんら若手女性ダンサー達の踊りの巧さ、フレッシュな魅力にも背中を押されるようなパワーを感じさせ、1人1人少しずつ異なる編み込みヘアもお洒落。
何より、渡邊さんが洒脱系から魔物系まで切替巧みに万華鏡の如きコンテパワーを全開にして何曲も踊られるお姿を、
時には衝立或いは楽器の作りを生かしてオルガンの下の辺りからひょっこりと登場なさるなど
登場からして斬新な振付を間近で鑑賞できた喜びは、当日会場すぐ隣の昼下がりの時間帯におけるの横浜港を照らす晴天の青空を突き抜ける勢いでございました。

それから、遠藤康行さんの振付も実に入り込みやすく、我が脳内で疑問符が一切なく進行していったのは初かもしれません。
あくまで私の視点ですが大概1箇所は突っ込みどころがあり、無音や無に近い音響の中で延々と床でごろごろ寝転がる振付が今回は無く一安心した次第です。
いかんせん、2018年に新国立劇場で開催されたジャポンダンスプロジェクト夏ノ夜ノ夢にて
せっかく渡邊さんが踊るコンテンポラリーを念願叶って初鑑賞、しかも第2幕は下着一枚姿でいらしたにもかかわらず
音楽構成といい、特に2幕でのひたすら息継ぎオンパレードな振付といい受け入れ難さがまさってしまったのは今も脳裏に焼き付いております。
2021年のいばら姫でも、発砲スチロールだったか用いながら床でゴロゴロ、もあったはず。
しかし今回はまずは中田さんの演奏ありきで、また演奏目当てに来場の観客も多数いることが良い意味で制約になったのか!?
音楽を目一杯生かして斬新過ぎる調理はしない路線が吉と出たのか、最初から最後まで疑問符の出番は無し。
オルガン演奏とバレエの醍醐味を最大限に味わえるように、またそれぞれの初鑑賞者も
距離感を抱かないよう、工夫が行き届いた振付演出であったと捉えております。

終演後はアフタートークもあり、中田さんと遠藤康行さんによる歯切れ良くも穏やかな対談を拝聴。
第1部と第2部の構成での工夫や、お互いにフランスで長らく仕事をしていた共通点、
また大学生のときにバレエを始め数年間レッスンに通われた中田さんが語る、オルガン演奏に役立つバレエの体幹鍛錬の好影響話も出たりと
楽しさ満載なトークでした。今回ダンサー達に合わせて中田さんもバレエな衣装で演奏されたことについて
非常に動きやすいと感激なさっていた様子であったため、今後の演奏会の衣装が変わってきそうですねと遠藤さんも引き続きの着用を推奨。
この日も東京はパリ・オペラ座来日公演祭りで『白鳥の湖』昼夜両方完売な盛況でしたが
中田さんに遠藤さん、そしてプロとしてのキャリアをトゥールーズのカンパニーで開始され、
10代の頃より古典からコンテンポラリー作品まで幅広く務めてこられた渡邊さんトリオが主軸となって実現した今回の企画は
東京のパリ・オペラ座来日公演や会場近くの中華街を爆竹や獅子舞で賑わせていた春節にも負けぬ、横浜における盛大なフランス祭と位置付けております。再演を熱望です。
 


※急遽カーテンコールは撮影可能と中田さんが舞台上から告知してくださいました。真正面席に着席していながら我が写真撮影の腕の下手っぷりはお許しください。
写真も下手、バレエも下手、絵も歌も下手、工作も下手、楽器演奏も下手、学業運動芸術全般駄目人生どうしたものでしょうか。
そう自覚して何十年も経過しておりますが。



出演者と振付家全員横並び。



「礼」の姿も美しや。こちらまで自然と背筋が伸びます。



きゃ!



顔出しパネル撮影スポット



この日は晴天に恵まれ、開演前には会場隣の山下公園を散策。いかにも港のヨーコの横浜港らしい風景です。
この後はこの青空以上に爽やかなダンサーを間近席で鑑賞いたしました。目は終始心臓印。



横浜大世界。辰とパンダ。



帰りは中華街の飲茶へ。春節真っ只中で、爆竹の音と匂いが街中で賑やかな祝福感を強めていました。
友人が予約してくれたお店、今年で創業35周年らしい。私の観劇歴(劇場でのバレエ鑑賞が趣味であると自覚してから)と同じ年月です。



紹興酒で乾杯。ああ、幸せな時間です。横浜で大好きなダンサーを観た後に中華街で飲む紹興酒は格別の美味しさです。
(札幌ではサッポロクラシック生、山口県ではひれ酒と、全国各地で似た発言しております私でございます)



前菜3種。海月の歯応えが面白い。



小籠包、香菜入り牛肉焼売アスパラのせ、大根ぎょうざ。大根ぎょうざのしっかりとした食感とさっぱり感の合わせ技が新鮮。
立て掛けてあったメニュー裏側の絵も人間味が感じられて素敵です。



チャーシュー入りクレープ、海老のウエハース巻き揚げ。お茶はジャスミン茶です。



ふかひれ入りスープ



大海老と春雨のピリ辛サテー風味



小柱入りチャーハン香港えび味噌風味!



なめらか杏仁豆腐。



ビントレー版『アラジン』より一足お先に本物の獅子舞!商店街を練り歩いていて、店舗にも立ち寄るらしい。
あの音楽が脳内旋回!!色鮮やかで滑らかな足運びでした。
1月の山口県防府市に続いて今年2度目のかぶりつき鑑賞後にお獅子さんからのかぶりつき。良き年になりますように。