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2022年7月15日金曜日
ウィリーの冷気で暑気払い 東京シティ・バレエ団『ジゼル』 7月2日(土)
7月2日(土)、東京シティ・バレエ団『ジゼル』を観て参りました。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000782.html
ジゼル:清水愛恵
アルブレヒト:キム・セジョン
ヒラリオン:内村和真
ミルタ:平田沙織
ペザント:松本佳織 玉浦誠
ベルタ:加藤浩子
クールランド侯:青田しげる
バチルド:櫻井美咲
ウィルフリード:吉岡真輝人
清水さんは育ちの良さ感じる聡明なヒロイン。背がすらりと高く、『白鳥の湖』オデット/オディールやウヴェ・ショルツ振付『オクテット』のソリストといった
凛とした崇高な印象が強く可憐な少女のジゼル役をどう踊られるか楽しみにしておりましたが、落ち着いた品のある少女で好印象。
アルブレヒトに優しくされると暫しじっくり考え一呼吸置いてから反応を示す姿が何とも愛らしく感じさせ
無理に可愛らしく作り込まぬ点も好ましく、実に美しさの宿る村娘でした。
狂乱ではアルブレヒトの裏切りを受け入れられず心の整理がつかぬ混乱を花占いの仕草での振り返りや遠くを見つめる視線で静かに表現。
ウィリになってからの身体の線の美が一層引き立ち、背は高くても腕運びや脚先も大味にならず細やかな余韻を残す透明感に心惹かれるばかりでした。
木の上からアルブレヒトに百合の花を投げ入れる場では身体を大きく傾斜させ前のめりになり
消え入りそうな儚さがあってもアルブレヒトを愛おしみ何かを語りかけるような健気さが胸を打つひと幕。
キムさんは一見生真面目お坊ちゃまなアルブレヒトながら花占いにてジゼルが出した不幸な結果を
躊躇ない揉み消しに踏み切る様子から火遊び路線か純愛路線かはっきりせず。バチルドから真意を尋ねられても
取り乱しもなく手の甲に接吻し、ジゼルの混乱は益々深みに落ちていったに違いありません。
しかしジゼルの死を眼前にするとこれまでの冷静沈着ぶりが嘘のように絶望感に打ちひしがれ、ヒラリオンとの責任の押し付け合いも激情に駆り立てられた姿を露わに。
実のところ、序盤のアルブレヒトとヒラリオンの争いはさほど激しさはなく、僅かな口論程度であって随分控えめに思えていたのですが
2人が愛する少女の死は理性を喪失させる衝撃と悲嘆が一気に降りかかってきた出来事であったのだろうと説得力が増した気がいたします。
そして大変印象に刻まれたのは櫻井さんのバチルド。この役の描かれ方は演出によって様々で、高飛車な姫もいればジゼルに心を寄せる姫のときもあり今回は後者の系統。
ジゼルの話にじっくり耳を傾け、お互い幸せ一杯な状況を喜び共有する優しいお姉さんにも見て取れる姫でジゼルに触れるときもいたく丁寧な接し方でした。
狂乱の場ではジゼルを心配するも貴族である身分を意識し相手にできず手を差し伸べられぬ動揺も伝わり、婚約者がジゼルとも関係を持っていた事実や
更にはせっかく打ち解けたジゼルがみるみると乱れて行く光景にショックを受け、前面には出していなくても
バチルドもまた現実を直視できぬ苦しさに悩まされていたと推察いたします。クールランド公に促されて立ち去るときも重々しい足取りでした。
3年前に三鷹での発表会で拝見して以来注目しており、今回誠に喜ばしい抜擢です。
ペザント松本さんの溌溂で力みない、小柄な体躯を感じさせぬ飛距離の長さや住吉駅まで跳んでいきそうな勢いに驚嘆。
玉浦さんは軽快で幸多き踊りで、お2人のパートナーシップから繰り出す朗らかさも二重丸。
平田さんは厳かな冷気纏う女王ミルタで魅せ、恐怖感大でまだ7月上旬ながら日中の気温が35度超えであった異常気象を一時忘れさせたほど。
床から浮いたままであるかの如きすうっと流れるパ・ド・ブレや斬り込んでくる跳躍が大きくも軸が全くぶれぬコントロール力にも震え、
ウィリ達を呼び寄せるときの振る舞いの支配ぶりもおっかなさ十二分でした。
面白味ある演出と思えたのはウィリ達の登場の前触れ。ミルタ登場のソロの最中、後方の小さめの十字架が何本も立つ廃墟な墓地にて
ウィリ達が上体を上下させながら姿を覗かせ、管理人が通っていた小学校の林間学校での体験よりも遥かに恐ろしい、まさに真夏の肝試し演出。
平田さんミルタに続き不気味な恐ろしさに拍車をかける冷気の広がりで、バレエで暑気払いができたのでした。
衣装を手掛けられたのは小栗奈代子さん。抑えた色調で整えられ、派手過ぎずされど
収穫祭らしい賑わいやめでたさにも似つかわしいデザインで繊細なタッチの絵本を眺めている心持ちになりました。
シティの『眠れる森の美女』も柔らかなパステルカラーと渋めの色の組み合わせの妙がセンス良きデザインであったと記憶にございます。
1点心残りであったのは音楽が録音音源であったこと。昨今のバレエ団の事情を汲むと困難であったのかもしれませんが
1幕でのジゼルの家前での貴族達とのやり取りやテーブル運搬のあたりで舞台進行と音楽がずれが生じてしまっていたように思えた箇所があり。
もしオーケストラ演奏ならば舞台上の出演者達と指揮者が息を合わせての対応ができ、より自然な立体感のある舞台作りに繋がったかと思うと
また2幕のヒラリオンが追い込まれる嵐のような仰々しい曲が好きな者としては生死を彷徨う渾身の表現が光っていた内村さんと
容赦ない平田さんミルタを更に昂らせる対決を生のドラマティックな演奏に盛り立てられながら目にできたと考えると次回は是非オーケストラ演奏を心待ちにしております。
赤ワイン
ジゼルを鑑賞するとワインが飲みたくなります。そしてジゼル1幕衣装が青が好み。小栗さんのデザインは抑えた色調で整えられ、品が香るデザインです。
チーズ専門店にて。1人客でも、目の前でチーズをたっぷりハンバーグにかけてくださいます。瞬く間にチーズで覆われ、赤ワインと好相性でした。
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