2021年9月24日金曜日

【おすすめ】DANCE for Life 2021 篠原聖一 バレエ・リサイタル『アナンケ 宿 命』~ノートルダム・ド・パリ~ より

11月7日(日)、東京のメルパルクホールにてDANCE for Life 2021 篠原聖一 バレエ・リサイタル『アナンケ 宿 命』~ノートルダム・ド・パリ~ よりが開催されます。
2015年に大阪にて佐々木美智子バレエ団が初演、2018年の東京での初演に続く再演を当初は昨年開催予定でしたが、1年延期を経てようやく開催です。
多数のメディアでも取り上げられています。
https://eplus.jp/sf/detail/3487840001-P0030001P021001

https://www.jiji.com/jc/article?k=000000461.000013972&g=prt

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000461.000013972.html

大阪と東京公演両方を鑑賞いたしましたが、同じ原作のバレエはいくつもの版が上演されている中
怨恨、憎悪、嫉妬といった身分や性別問わず誰しもが持つときもある負の感情の襞を濃く深く
そして人間関係の結びつきから崩壊まで分かりやすく描いた名演出であると思っております。
私の中では、鑑賞した2015年2018年それぞれ年間上位6本に入る強き印象を残した作品です。下村由理恵さんが踊るエスメラルダの魅力は言うまでもなく
山本隆之さんのフロロはどれだけ心に刺さったことか。 聖職者である身分ながら恋に身を投じてしまう狭間で苦悩し、
やがて残酷な行為に走ってしまう姿に身震いが止まりませんでした。今回も待ち遠しいばかりです。
そして今回は元東京バレエ団の川島麻実子さんがフルール役での初登場も楽しみでございます。


2018年東京初演時のリハーサル映像



クラウドファンディングも始まりました!
https://camp-fire.jp/projects/view/487727?list=coming_soon


2018年東京初演時のインタビュー。作品作りの経緯や音楽選曲、大切になさっているポイントなどリハーサル写真も交え、篠原さんと下村さんが詳しく語ってくださっています。
https://dancedition.com/post-2720/


紹介してきた上記の記事とは全く異なり頼りにならぬ拙さですが、2018年の東京公演鑑賞時の感想です。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/httpwwwseiichi.html

2021年9月20日月曜日

郷里で発揮された菊地飛和さんの振付手腕  久富淑子バレエ研究所65周年記念公演 『シンデレラ』  5月23日(日)《北海道札幌市》





遡ること約4ヶ月前の話ですが5月23日(日)、札幌市教育文化会館にて久富淑子バレエ研究所65周年記念公演
菊地飛和さん演出振付『シンデレラ』を観て参りました。新国立劇場からは渡邊峻郁さん、菅野英男さんも客演です。
札幌でのバレエ鑑賞は2007年に下村由理恵さんと山本隆之さんが客演された日本バレエ協会北海道支部全道バレエフェスティバル『ドン・キホーテ』全幕、
新国立劇場より飯野萌子さん、渡邊峻郁さんが出演され『眠れる森の美女』3幕より抜粋では
オーロラ姫とデジレ王子として締め括られた2018年のニトリホール(旧北海道厚生年金会館)閉館公演ファイナルバレエ、
そして一昨年の新国立劇場の『くるみ割り人形』札幌hitaru公演、昨年の『眠れる森の美女』同会場公演に続き5回目でございます。
http://hisatomiballet.com/topics/detail.php?cat=115&no=115


久富バレエさんのインスタグラム。皆様の終演後のほっとした様子を始め、素敵写真がたくさんです。
他の投稿には継母達に気に入られ困惑?それとも実は嬉しがっている!?王子や、レッスン熱血指導な継母も笑。





久富バレエさんのフェイスブック
https://www.facebook.com/Hisatomi-ballet-104206440060362/

5月29日の投稿には、インスタグラム以上に多くの舞台裏写真を公開してくださっています。
カーテンコールの練習?にて階段の裏側から出番を待つシンデレラと王子に、
舞台袖で衣装を着けたシンデレラとダウンベスト着用で立派な腕をくっきりと出した王子が回転場面の確認をしている光景や
馬車に乗り込み出発直前のシンデレラなど、興味をそそられる写真多数です。
https://www.facebook.com/104206440060362/posts/1148366822310980/



新規感染者数は減少傾向にあるとは言え現在もまだ不安定な状況は全国規模で続いておりますが、この時期は特に札幌市がトップニュースで取り上げられる日も多く
東京より足を運んだ者による鑑賞記を綴るのも如何なものかと思ったものの、新国立劇場バレエ団所属で2021/2022シーズンより登録へと移行される
久富バレエ卒業生の菊地飛和(きくちあすか)さんが生徒さんとゲスト双方から魅力を存分に引き出し纏め上げた手腕に唸る
素敵な記念公演でしたので月日がだいぶ経過した遅い時期ではございますが紹介いたします。
また札幌文化芸術劇場hitaruでは10月、久富バレエ卒業生である熊川哲也さん率いるKバレエカンパニーによる熊川さん版『シンデレラ』上演を控えており
その前にとも思いましたので(無理矢理なこじ付けで失礼)この場を借りましてアップいたします。但しいつも以上に記憶が飛んでいる可能性もありますが悪しからず。

研究所教師の成瀬由子さんの挨拶文によれば、当初は昨年2020年7月開催の予定が度重なる延期を余儀なくされ
キャストも2、3度の変更を経て今回無事上演に辿り着けたとのことで 今は公演であれ発表会であれ毎度思いますが上演できて良かったと心から喜びを表したい思いです。

久富バレエ主催の舞台は初鑑賞ですが、前記事の愛媛県西条市の舞台感想でも何度か触れた、2018年の北海道厚生年金会館ファイナルバレエにて
宝満直也さん振付作品Winter Danceを宝満さんご本人と共に大人数で披露なさるお姿を鑑賞。出演者は宝満さん以外は皆さん久富バレエの方々であったかと思いますが
題名からして冬の銀世界の想像の先行に意表を突く、春の息吹を思わせるカラフルな世界が広がり、踊りの瑞々しさや伸びやかさにも驚かされました。
それまで久富バレエと言えば、伝統ある研究所で大勢プロのダンサーを輩出、そして熊川さん一辺倒なイメージでおりましたので
宝満さんのコンテンポラリーを踊る姿に惹かれるとは新鮮且つ衝撃であり、好印象を持った次第です。
以降研究所の舞台を鑑賞する機会は到来するのか、厚生年金会館は閉館しhitaruが開場して早2年半
偶然!?にもゲストの変更により白河の関を越えて北の大地への上陸を突き動かす方向へと導かれ、ようやくその時が訪れたのでした。

シンデレラは3年前にWinter Danceにも出演されていた生徒さんで、1幕では素朴な可愛らしさと懸命さが目に映り
個性炸裂な笑、継母や義理の姉達による大胆な接し方にも誠心誠意応えている姿に自然と応援目線になってしまいました。
淑やかで癖がなく、とても素直な踊り方をしている印象で、きっとシンデレラと同様に内面も綺麗な頑張り屋さんな性格であろうと想像できます。
舞踏会に現れ王子に出会ってからもドキドキとした胸の内が手に取るように伝わり、いきなり麗しさを押し出す雰囲気ではなく
奥ゆかしい様子がそれはそれはいじらしく、王子もどうにか心を開いて欲しいと懸命に尽くすのも納得です。

王子の渡邊さんは登場から仰々しいファンファーレ以上に輝きを発散されながら後方の階段中央に颯爽と現れ
私が勝手に男性主役の高難度華々登場場面上位3本に入るこの作品においても難なくクリア。
ちなみにもう2本は『ライモンダ』2幕のマントでジャンの帰還、『パキータ』リュシアンのゆったり対角線登場で
前者は今年6月に当ブログでも『今夜も生でさだまさし』の上を行く勢いで延々語り綴り文字量過多で途中脱落者大勢であったもようで(申し訳ございません)
後者は1月にニューイヤー・バレエ配信もありましたがつい先日、生で目にする機会もあり
骨抜きにされるほど洗練と凛々しい美の凝縮でございましたのでそれはまたいずれ。
とにかく男性主役黄金なる登場作品を同年に3本制覇の不思議な2021年でございます。

札幌に話を戻します。シンデレラを迎え出会うときの眼差しの深さはダイソン製掃除機開発者も驚く吸引力で2階から眺めていても感じましたから
間近で見つめられているシンデレラはよく卒倒しないと感心の域に到達。最初シンデレラがだいぶ緊張していた様子でしたが
何か語りかけたのかその途端にシンデレラからふと柔らかな笑みが零れ、王子の心の解きほぐしの術にも長けた頼もしさや
日常とは別世界である宮殿に降り立った緊張が和らいで徐々に心を開いていくシンデレラの内面の変化にも重なり
少しずつ盛り上がりを響かせていく音楽の抑揚とも呼応して寧ろリアリティのある効果をもたらしていたと捉えております。
パ・ド・ドゥでは息もよく合った丹念な作り込みで、2人の愛情がいよいよ深まっていくさまを
高揚する幸福感と時折切ない響きも醸す音楽にも自然と溶け合って体現していらした印象です。

面白く惹きつけられた箇所の1つがパ・ド・ドゥ前、はぐれたシンデレラを探す姿で、あちこち探し回る様子も、客人達に心当たりを尋ねる表情もいたく真剣な目で
前日に弟君拓朗さんご出演の刑事物サスペンスバレエを横浜で観た影響を引き摺っているわけではなく
まさに聞き込みの刑事そのもので、警察手帳が見えかけたのは気のせいか笑。
ほんの20秒もない場面であっても、恋に落ちた姫を見つけられず不安に駆られる心理が短時間に濃くおさまっていて
だからこそ無事再会して始まるパ・ド・ドゥの安堵と幸せに満ちた空気感がより強まったのでしょう。
また聞き込み調査に惜しまず協力していた客人役の大人のクラスの生徒さん達のしっかりとした反応も宜しく、
謎の美しい姫を探し歩く不安そうな王子を心配そうに見送ったりと単に問いに答えて終わりではなく
前後の流れを汲むように、ぶつ切りにならぬよう心を込めて表現していた点もまた、シンデレラと王子のハイライト場面を一段と後押ししていたと思います。

それからシンデレラが突如宮殿を後にして逃げるように帰ってしまう最中に落としたガラスの靴を拾って掲げ、必ずや見つけ出す決意を固めるところなんぞ
証拠物件を握りしめ一斉大捜索を陣頭指揮し捜査員を鼓舞する署長或いは出陣し探し出すまでは決して帰らぬと意思表示をする信念の強さで
熱血な幕引きでございました。それにしても、こんなにも真剣に愛を一身に受けるシンデレラの幸せなことよ。
菅野さん継母から好かれることに関してはそう嫌そうでもない!?どころか絡まれてもすぐに突き放さず興味を持って眺めているようにも見受け
接点によって小さな喜びをも節々から生じさせているとも思えた次第。 名前も非公開な王子で一歩違えば個性も見えにくい役柄であっても
優しくも真剣で、時にはシンデレラの継母達に翻弄され困惑するも一途に貫き通す信念の強さもあり、内側から多面性をも表していて
絵に描いたような貴公子ながらも人間味も備えた王子様でございました。札幌まで足を運んで良かったと今書きながら思い出しては再度感じております。

襷は付いていなかったものの白地に金のきらりと光を帯びた上着に胸元はレース状の装飾、中央には薄紫が入った衣装もお似合いで身体の線もよりすらりと見えました。
さて札幌でもやります、髪型観察。今回も二重丸で、前髪の整い方も自然で、今思えばほんのり明るめの髪色にもこの頃は見慣れてきた時期でした。

個性炸裂な継母は菅野さん。新国立劇場での『シンデレラ』では義理の姉は経験済みでいらっしゃいますが
そのときのような厚化粧ではなくよりナチュラルで、当時に実在した中産階級家庭を取り仕切る
ちょいと怖そうなマダムと言われても違和感皆無なほど嵌っていて驚愕でした。終盤の王子への靴試し履きアピールにおける
あと少しのところでシンデレラが持ち主と発覚した場面では、少しでも王子との時間を稼ぎたかったのか入り切らない靴が引っ掛かった足を左右に振ってじらし
王子の手に靴が渡らぬよう諦めぬ執念を見守りたくなる、愛すべきママっぷりでした。

姉妹は久富バレエ卒業生で東京シティ・バレエ団の石黒さんと久富バレエの教師もなさっている小野誠さんで
背が高く豪快な石黒さんお姉さんと飄々として夢見がちな小野さん妹の名コンビが楽しく痛快で、テンポの良いやりとりで嫌味がない、チャーミング姉妹です。
石黒さんは昨年2月でのシティ公演『眠れる森の美女』で見せてくださったゴージャスでノリノリなカラボスが未だ忘れられず
キャラクター系では最早安心感とワクワク感の両方を抱かせてくださるダンサーで、今回もやり過ぎずされど出るべき箇所では思い切り弾ける
絶妙な加減で何倍も面白みある舞台に繋げていらした印象です。
そういえば、2007年の北海道厚生年金会館での全道バレエドン・キホーテにて
エスパーダをなさっていた若き日の石黒さんを観ているはずが、この日ばかりはバジルばかりに注目してしまっておりました。
石黒さん小野さん共に、シンデレラに意地悪はしていても極端な陰湿は抑えめで
接し方は強気であっても何処かまろやかでソフトなところもあり、だからこそ見ていて辛い酷薄さは無かった点も好印象でした。

教師もなさっている方が務められた仙女は煌めきと透明感が合わさった神秘的な雰囲気が妖精のイメージにぴったりで、白と薄い青を重ねて輝く衣装や頭飾りもしっくり。
四季の精達も1人ずつながら各々のソロでは季節の特色を舞台一杯に表現していて見事で、ピンク、薄緑、オレンジ、淡い水色であったかと思いますが
じっと見つめるシンデレラも思わず頬が緩んで喜びを示し、加えて幼い頃の懐かしさをも思い出していたのかもしれません。

紺色や紫でシックにお洒落に整った星の精達の活躍もシンデレラの出発や舞踏会、結婚式まで優しく付き添う姿が眩しく
胸元に時計が大きく描かれた時計の精達のキビキビと刻む踊りも可愛らしく、また時の巡りの早さをも真剣に伝えているのであろう表情も説得力がありました。

オレンジの精はソリスト1人とコール・ド8名構成で、お小姓が持って来てお終いでも良いのですが、舞台全体を使っての見せ場があるのは嬉しいこと。
全員チュチュ着用、ソリストのみレースなどで飾られた異なるデザインで、温暖な異国からの贈り物をもたらしてくれました。
宮廷内には柑橘の良い香りが立ち込めていたことでしょう。

そして菊地さんの手腕にも拍手。『シンデレラ』全幕を約1時間半に短縮しても物足りなさ皆無。
大掛かりな全幕をこうも短くしても満足度が高かったのは2020年の日本バレエ協会が上演した、2時間におさめたヤレメンコ版『海賊』と同様の衝撃でした。
アシュトン版と同じく王子による靴の持ち主捜索の旅路で出会うスペインやアラビアの踊りは無し。
1幕前半の継母達のドタバタ騒動も大幅にカットしたと思われますが、その分1箇所1箇所を濃縮させ観客を沸かせるよう工夫を凝らしていて
例えば義理の姉達のダンスレッスンでは上手くできぬ娘達に教師以上に的確なアドバイス及び体当たり指導を継母が潔く行い
継母実はダンスで度々賞を受賞していたかと想像させる教師な顔と手本の見せ方で
加えて菅野さんの日頃の名バレエマスターぶりも垣間見ているようでもあり笑、ほんの一瞬であっても客席が沸いたひと幕でした。

またガラスの靴試しする義理の姉達の場面は周囲の王子以外の周囲の人々が音楽に合わせて頭を振り振り。
小気味よく履こうとするも挑戦する本人達は苦戦するギャップを全体で面白く表現していたと見受けました。
それから前半の記述と重複しますが、最後継母が意地でもガラスの靴を履こうとするも持ち主がシンデレラと発覚したときの
靴を脱がそうとする王子交わしのための時間稼ぎと継母による繰り返しの足振りも継母の執念はひたひた伝わり、全編通して工夫が散りばめられていた菊地さん版でした。
(他にも多々あったと思いますが、我が記憶力の乏しさとお許しください)

菊地さんと言えば、2020年の福岡雄大さんによるインスタグラムライブ 通称「雄大の部屋」にて、平日でしたが自宅待機日で対談を視聴。
ずっこけそうなほど面白く明るい人柄にびっくりで、日頃はコール・ド・バレエを踊りながらもアラジン母に抜擢され
舞台にたった1人で立ったときの大緊張な心境を熱弁されたりと視聴すればするほど込み上げてくる笑いの音量ばかりはどうにも堪えきれず
ちょうど在宅勤務中であった家族も何事かと不思議そうにしていたほどでございました。
中でも好きな役や作品についての回答では菊地飛和リサイタルを考えてきたとプログラムを発表。
確か2部構成で、1部最初が『眠れる森の美女』オーロラの登場でローズアダージオは無し。
とにかく登場箇所をやりたい、出迎えてくれる友人役も募りたいと意欲を示していらしたかと思います。
それからアシュトンの『ラプソディー』。これは前在籍カンパニーの監督熊川さんと、そして福岡さんと日替わり希望だったか。
締めは最も好きな『ロミオとジュリエット』3幕のパ・ド・ドゥで、誰と踊りたいか問われ、暫く時間を溜めて「私の理想のロミオは、ウエインなんです」と回答。
今やだいぶふくよかになったイーグリングさんですが、1984年収録のアレッサンドラ・フェリとの『ロミオとジュリエット』時代を経ても色褪せぬ名盤であり
「ならば、ウエインに節制してもらおう」と福岡さんがぽつり。それはともかく菊地さんリサイタル、実現したら足を運んでみたい気持ちにさせられた対談でしたので
舞台の構想が元々お好きなのかもしれません。菊地さんが手掛けた、生徒さんとゲスト全員から魅力を引き出し作り上げる全幕を鑑賞できたのは幸運でした。

カーテンコールには久富先生もゆっくりとした足取りで登場され、何度も何度も観客に感謝を表しながら嬉しそうな笑みを浮かべていらした表情も忘れられず。
65年の長い歴史の中でも、開催できるか否かぎりぎりまで決断を迫られる舞台は研究所開設以来初めてであったかもしれません。
現在はお孫さんでいらっしゃる成瀬由子さんが主宰なさっているようで、決断に悩んだときにはいつも久富先生が背中を押してくれた心強さを挨拶文に綴っていらして
長年研究所で多くの教え子を持ち、プロのダンサーも多数育て上げた久富先生の偉大さが感じられます。
全幕物は7年ぶりの挑戦である上、制約がある中でオンラインも駆使してのレッスンや振り写し
度重なる変更発生、延期後の本番当日が近づくにつれ世間の状況も再び雲行きが怪しくなる中、舞台に関わる方々全員が団結しての発表会公演双方の実現に
成瀬さんもどれだけの安堵で胸を撫で下ろされたか計り知れません。無事に2日間終えられ、心から祝福を申し上げたい限りです。
長年の伝統を引き継ぎ、これからもバレエを愛する生徒さん達が大勢集う研究所として発展していくことと思っております。






2018年北海道厚生年金会館ファイナルバレエ、2020年新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』に続いて3度目
ここ数年前から最早儀式と化している、札幌で心から大好きなダンサーの舞台を観た後に飲むサッポロクラシックは格別の美味しさ。
今回はホテルの部屋にて1人しんみり乾杯です。


※以下は、多量写真記録です。お時間のある方のみどうぞご覧ください。
ホテルすぐそば、或いは会場や帰りの通り道に絞っての1人飲食日記中心でございます。
多忙なシルバーウィークにそんなもの読んでいられぬとのお考えの方は恐れ入ります、次回更新予定これまた関東以北北海道以南日記をお待ちください。



時間軸戻りまして、前日の土曜日に横浜にてDAIFUKUを鑑賞後、会場最寄りのJR石川町駅からそのまま羽田空港へ向かい、新千歳空港へ。
空港から札幌方面へのJRに乗り換えたまでは良かったが、あろうことか鹿が追突して一時見合わせに。遭遇は初めての出来事で
そういえば滅多に邦画を観ない私が珍しく鑑賞した『ハナミズキ』にて、北海道が舞台であった冒頭で
同じ原因による運転停止場面があり、映画や物語の世界でしか起こらぬ話と何処か思っていたのかもしれません。
以下余談、なぜ観に行ったか。主役の新垣結衣さんがありきたりではない私と同じ名前のヒロイン役であった為で、
約2時間一定の空間にて決してよくある名前ではない我が名が飛び交う面白体験をしてみたかったからでございます。
新垣さんのような容姿がいたく美しいお方のお名前として捉えるともう響きが全然違い笑、煌めくような名前に思えるのですから不思議。
当ブログと同様で新垣さんとは正反対に、幼少期から存在感埋没な人生を送り続けている管理人もそう不自由はして参りませんでしたが
映画を目にし、容姿はあらゆる要素を左右すると再確認です。
ちなみに母親役が薬師丸ひろ子さん。(好きな女優さんの1人で、嬉しい配役)
そしてヒロインを巡って火花を散らし合うのが、若くひたむきな青年を生田斗真さん
立ち居振る舞いも洗練された大学の先輩に向井理さん。お2人に挟まれる展開でございました。(まあ、悪くはないか。失礼な物言いお許しを)
喜劇では全くない純愛作品のはずが、生田さん向井さんが新垣さんヒロインしかも下の名前を敬称略で呼ぶ度に管理人
摩訶不思議な感覚に襲われ笑いを堪えていた記憶がございます。複数の殿方に同時に好意を寄せられる状況なんぞ
このとき以前も以降もそして生涯無縁であるのは目に見えておりますから、束の間の異次元体験でございました。
しかし理想の板挟み状況といえば、このとき2021年5月下旬はまだまだ余韻に深く浸っていた新国立のプティ版コッペリア配信千秋楽キャストに
敵うものは無いと思い浮かべてはニンマリ。北の大地に来てまで何やっているんだか笑。妄想に耽るうちに電車は運転再開、少し遅れて札幌へ。



札幌駅に到着、しかし飲食店の閉店時間を過ぎ、ひとまず困った時のセイコーマートへ。
昼に鑑賞したDAIFUKU1人打ち上げ用の北海道産小豆使用の大福や、翌日終演後部屋に戻ってから乾杯するサッポロクラシック缶ビールその他家族へのお土産も購入です。
そしてチェックインすると驚き、コッペリウスの鍵にそっくりなレトロな部屋鍵!
羽田発の飛行機で津軽海峡春景色を越えても尚、益々余韻に浸ってしまうではないか笑。
配信千秋楽の、所作が洗練且つ自然なコッペリウスに敬意を表して、ティッシュでくるんでみたり
5月の感想でも触れたが、コッペリウスとはシャンパンパーティーを楽しみ、しかし結局は頬をツンツンしてくれたフランツの元へ帰りお姫様抱っこまでしてもらう
世界一幸せな小野さんスワニルダの気分で握って掲げてみたが、さまになるか否かはやる人によると反省。



午前中の大通公園。晴れ間が覗き、花々も咲き誇って散策が気持ち良い公園です。これまで寒い気候日
或いはファイナルバレエは9月の晴天でしたが日帰りであった為早歩きで公園内を通過。初めて春の木漏れ日を浴びてのゆったり散策、良い気分です。



今回も飛行機とホテルのパックでの北海道でしたが、幸いにしてお手頃な価格帯に惹かれほぼ即決したホテルから
徒歩2分圏内に必ず行きたいと計画していた飲食店があり。そのうち1店が、札幌に来たら外せないひげのうしのジンギスカン。3年連続の来店です。
ただ過去2回訪れていたすすきのの店舗がこのときは休業中で、また公演終演後は夜の営業時間に間に合いそうにないと思い、時短に伴って開始されたランチで本店を訪問。
ランチ時のメニューは3種類で、夜メニューのお気に入りであるおひとり様プランは無しでしたが
それでも3種を鉄板で焼いては味わうこの作業が幸せでたまらん笑。ボリュームがありそうであった為、注文時ご飯は少なめにしていただきました。



この後は今年の日本バレエ協会の異例プログラムであったクラシックとコンテンポラリーで紡ぐ眠れる森の美女に倣い、
グルメで紡ぐシンデレラストーリー。(呑気なことばかりに頭を使っている旨、ご了承ください)
2019年以降ジンギスカンの後はパフェと決めており、ホテルから徒歩2分圏内に必ず行きたいと計画していた飲食店その2 幸せのレシピ スイート。
締めパフェとして従来は夜以降の営業であった店舗も13時からの繰り上げ営業で対応していました。
注文にて、口にするのもちょいと恥ずかしい名称「季節の果実 舞踏会のパフェ」、シンデレラを彷彿です。旬の果物がたっぷりと盛り付けられています。オレンジもあり!
ヨーグルトのような爽やかなアイスも入っていて気分もすっきり。そして入店してこれまたびっくり、一角はお伽話の窓ガラスでシンデレラもあり。
開店直後で空いており、好きな席へどうぞと言ってくださった為すかさずシンデレラ前に着席です。
このあと、札幌教育文化会館で王子を目にできるのだ、と更に期待を膨らませていただきます。



グルメで紡ぐシンデレラストーリー  味の時計台ラーメン。時計台すぐそばです。時計が描かれた子供の生徒さん達の衣装がとてもお洒落でした。
そしてシンデレラの魅力は勿論のこと、あの12時が刻一刻と迫る慌ただしさもあったからこそ
王子は大捜索を指揮する刑事の如く凄まじい使命感を持って真剣に探し出す行動へ即座に踏み切ったのでしょう。
バターは味噌のスープに、私は王子に一段と蕩けました。

次行きます。



グルメで紡ぐシンデレラストーリー
翌日帰り札幌駅へ向かう道中にて、寿司店の四季花まる。四季の精達の場面展開、音楽含めて何度観ても好きです。



前日久々にたっぷり食べてしまい朝はコーヒーのみにしても昼は少し空腹になったぐらいでしたので単品で注文。
2階建帆立(確かこういった名称)、カニ、北寄貝。ネタが大きく、鮮度も良し。



札幌駅の駅舎。時計に星々が瞬き、その名も「星の大時計」とのこと。紺の色合いも合わせて星の精達が紺色系の衣装であった久富バレエシンデレラを想起。
駅ビル名はステラプレイスで、なるほど星のような場所、の意味のようです。
そして今夏は2年ぶりに新国立劇場でのバレエアステラスへ「熱心」に両日行き、理想を絵に描いたような騎士に再度うっとりしたわけでございます。



この時期旬のライラック。大通公園のあちこちで見頃を迎えていました。東京五輪のマラソン競技等の準備の為芝生が剥がれているのが何とも複雑でしたが
それよりも夏の札幌も暑く、東京でのコースも既に決まり暑さ対策も日々練られて準備も進んでいたはずが、
誰かの一声で札幌開催になったとされる経緯はどうも(以下略)。
2019年の新国立くるみ札幌公演時に北大を訪れた際、ちょうど札幌でのマラソンや競歩開催が決定した頃で、
事務総長がコース選定に来ていたところへの遭遇も忘れられません。ホテルで視聴した当日午後のどさんこワイド(北海道で放送の情報番組)でも大特集でした。
一番納得していなかったのは偶々ネットニュースを開いて知った瀬古さんであったようですが、そりゃそうだ。



帰り、新千歳空港で1つ購入したお菓子。ピスタチオクリームの文字に惹かれて急いで購入いたしました。
帰宅して食べようとよくよく見ると、あら??もう主語は省きますが笑、きりっとやや鋭い目眉が特徴が何処となく似ていらっしゃいます。
和菓子職人の格好もぴったりです。洋も和も絵になる稀少人物でいらっしゃいます。



グルメで紡ぐシンデレラストーリー 東京編
札幌では時間が足りず、札幌から東京にも進出したサムライカリーにてスープカレー。
つい最近までは所謂刀を持った侍の意味かと思いきや、運営会社の代表者川端さんの出身地北海道士別市が標津と響きが同じため
サムライシベツと親しまれていることに由来するらしい。所用で下北沢へ行った際に立ち寄りました。
大振りのかぼちゃが目を惹きます。それにしても毎度思いますが、かぼちゃを軽々運搬するシンデレラの腕力、なかなかです。
そしてアシュトン版シンデレラの馬車を2008年のバックステージツアーにて間近で目にした体験は宝で自慢でございます。



戻りまして帰りの上空。機内でのお楽しみ、座席備え付けのプレーヤーでの音楽鑑賞。早速クラシック一覧を覗いてみると、ストラヴィンスキーの『火の鳥』を発見。
渡邊さんが踊る一番好きな映像がトゥールーズ時代のベジャール版『火の鳥』リハーサル場面で、4年半前のお正月に見つけて以来何度再生したか数知れず。
タイムスリップできるなら上演当時の5年前へ観に行きたいほどです。しかも、飛行する機内で聴くのは格別でして、自身が鳥になってダイナミックに飛翔している気分を満喫。
機体が傾くと尚更で、飛行機で聴きたい曲や旅を空路を使っての旅を思わせる曲としてしばしば名が挙がる米米CLUBの『浪漫飛行』或いは
飛翔気分に間違いなくなる渡辺真知子さんの『かもめが翔んだ日』に並ぶ名曲であろうと聴き入った次第です。
次の北海道上陸はいつになるか。さらば、札幌また会う日まで!!


2021年9月10日金曜日

西条に根付いて四半世紀  板東ゆう子ジュニアバレエ25周年記念発表会  『ライモンダ』抜粋  ベジベジ村のウェディング ほか  9月5日(日)《愛媛県西条市》





9月5日(日)、愛媛県西条市にて板東ゆう子ジュニアバレエ25周年記念発表会を観て参りました。2007年に観始め、愛媛バレエまつりも含めれば今回で13回目の鑑賞です。
当初は昨年開催予定でしたが今年に延期。小品から大作『ライモンダ』2幕3幕を篠原聖一さん振付で上演し
新国立劇場からのゲスト山本隆之さんや福田圭吾さんを始め、四半世紀の節目に相応しい舞台が披露されました。
http://www.yukobando.com/板東ゆう子ジュニアバレエ25周年記念発表会.html


幕開けは『ミッキーマウスマーチ』から。お馴染みの歯切れ良い曲調で小さな生徒さん達がうきうきと楽しそうに踊り、
早速祝福感で満たしてくれました。カラフルなチュチュも可愛らしいデザインです。
続く『ピクニック』は口笛吹きの犬の曲に合わせて小さな籠を手に持ち、軽快でキュート。ピンク色の衣装が野に咲く花々のような広がりを見せていました。
そういえば、西条に来始めて早14年ながら名所である石鎚山へは初鑑賞の帰りのバス乗り場に選んだ石鎚山サービスエリア停留所しか立ち寄ったことがなく
(会場目の前に停まるパイレーツ号の存在を知らず、松山まで帰っていたら間に合わない云々と調べた結果
予讃線の伊予小松で降りてタクシーでサービスエリアに向かったものです)
ピクニック園地があるそうで、昨年今年は少ないかもしれせんが催し物も頻繁に行っているようです。
大人の生徒さん達によるWaltz Danceはルロイ・アンダーソン作曲『舞踏会の美女』に振り付けられ
パ・ド・カトルを思わせるピンク色のロマンティックチュチュで淡く長いリボンを持ち、優雅で幸せそうな姿を披露。
この曲、私の友人も昔踊っていて憧れたのも束の間、題名の麗しさに尻込みし、鑑賞側に回って正解と自身に言い聞かせた当時を思い出しますが
発表会の小品集にて人気の高いアンダーソンの曲の中では最も好きで、今回目でも耳でも満喫でき幸福度急上昇でございました。

『ドン・キホーテ』より〜夢の場から結婚式〜では、まず夢の場にて板東バレエの大きな魅力の1つであるコール・ドの美しさを堪能。
プロのバレエ団ではありませんから皆が皆が体型が均一では決してないながら、顔の上げ方や角度、動き出しや笑みが一層柔らかになるタイミングが
揃っている且つ機械的ではなく、音楽と共に呼吸しているような気持ち良さを与えてくれました。きっと各々声をかけ合って練習をたくさん積んできたと窺えます。
結婚式に移る前には、夢を見終わり倒れ込んでいるドン・キホーテを通りかかった福田圭吾さんバジルがちょいと観客に挨拶しつつ介助。
そしてバルセロナの街並みへと移り、結婚式の始まりです。
何度か板東バレエでも上演している篠原聖一さん版を踏襲したと思われ、バジルがドン・キホーテを助けるひと幕は篠原さん版の特徴の1つで
役同士が自然と絡む流れとなるためぶつ切りな印象を持たせぬ効果があると考察しております。
振り返れば、篠原さん版ドンキの初見は2007年2月。今は無き北海道厚生年金会館で(そういえば跡地はどうなったか?
2018年に同会館最後の公演で勿論篠原さんもご出演のファイナルバレエを観た者としては気になるところ。以降札幌には何度か行っていながら現地未確認、お許しを)
下村由理恵さんと山本さん主演公演でお2人が指導、ゲストとして所縁深い板東バレエの初鑑賞が同年2007年8月。
今にして思えば厚生年金ドンキは予兆であったのか、不思議な巡り合わせを思わせます。

さて、話を2021年の愛媛ドンキに戻します。
キトリはスタジオ生え抜きの生徒さんでほんのり色っぽく艶やかな美も兼備し、赤いバラがいたくお似合い。
福田さんはパ・ド・ドゥでは控え目にキトリを好サポートするも、ヴァリエーションでは西日本、或いは愛媛限定か、記憶が正しければ2019年の勉強会でも披露された
中盤部にて手を包丁のように見立てタメを効かせてのポーズに会場じわっと笑いを引き起こしていました。
東西双方にて福田さんの舞台を目にする機会が多く、関東でも四国でもお祭り男なお姿を拝見できた私は幸運なのでしょう。

バレエコンサート後半では女性ゲストによるソロも多彩に用意され、佐々木夢奈さん(佐々木美智子バレエ団)はガムザッティの執念が心の底から叫びと化して聞こえてきそうな
重々しい感情をのせた踊りが圧巻。エキゾチックで真っ赤な衣装も絵になり、いつか全幕で観てみたいと欲を刺激。
ただこのヴァリエーションはマカロワ版のみかもしれず(勉強と知識不足で失礼。私の人生初のバヤデール鑑賞は
英国ロイヤル来日でのマカロワ版であったのだが。熊川哲也さんがブロンズでした)
華麗な婚約式を終えて、宿敵ニキヤが息絶え、ニキヤ達の幻影がソロルの前に現れる影の王国の後に披露されるソロ。他に取り入れている版の有無、学んで参ります。
工藤雅女さん(NBAバレエ団)はDances at  a Gatheringにて紫色のシンプルなワンピース姿で軽やかに色気も放ちながら舞い、2倍の長さでも大歓迎な爽快なソロでした。
黄色とオレンジのグラデーションチュチュが珍しいながらよく似合い、ふわっと品良く纏めていらした角井志帆さん(佐々木美智子バレエ団)パキータにも見入った次第です。

また長年アシスタントもなさっている男性の生徒さんで、発表会で男性と組む踊りの初心者な生徒さんのお相手をいつも務めていらっしゃり
絶対出しゃばらずされどさりげないフォローも毎回優しく映り、今回は眠りの宝石や白鳥パ・ド・トロワでしたが
これまでの蓄積レパートリー数は何本に達するのか、頭が下がるばかりです。

コンサートのトリは板東先生と山本さんによるAndante Cantabile。ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲の第18変奏の曲で(恐らく)
黄色い光沢を帯びたシンプルなドレス状の衣装を付けた板東先生が上下黒で整えた山本さんに包まれゆったりと、
徐々に感情を昂ぶらせながらこの25年+1年の軌跡を確かめ合うように大事に大事に、大人の香りをも漂わせて踊るお姿の美しいことよ。
大海原が目に浮かぶスケール感に心を解され、手を合わせて拝んだのは言うまでもありません。

度肝を抜かれたのは3歳ぐらい!?の生徒さんも含む、子供大活躍のベジベジ村のウェディング。
佐々木美智子バレエスタジオで上演している旨は佐々木バレエブログにて目を通しており、野菜を模したユニークな衣装も気になっておりましたが
「母親」「お母さん」ではなく「おばちゃん」の役名からして大阪産作品な気はいたします笑。
人間のキャラクターや音楽、展開の大まかな基盤は『リーズの結婚』で、冒頭でにわとりさん達が羽をパタパタさせ、むすめちゃん、フィアンセ、おばちゃんが登場。
むすめちゃんをたいそう可愛がるおばちゃんですが結婚は既に承諾しているようで
式の前に晴れて新郎新婦となる2人に促され、おばちゃんによる木靴の踊りソロ版を披露し、会場を沸かせるとお野菜さん達が次々祝福に訪れる流れでした。
にわとりさん達とおばちゃんは下手側に腰掛け式を終始見守り、 そして兎にも角にも、お野菜さん達のめくるめく可愛らしさに頬が緩みっぱなし。
式の幕開け役を果たしたプチトマトは少し上級生な生徒さん達が務め、トマトな形のスカートが赤く鮮やか。
その後はダボっとしたワンピースで大きな蔕を頭には付けたおなすさん、ガチョーク賛歌「バナナツリー」の曲で登場したパプリカ
白いカリフラワーや傘状の帽子を被ったきのこちゃんに、プチトマトさん達に先導されて現れた
黄緑色のもふもふ鬘をつけた最年少チームのちびブロッコリーはたいそう微笑ましく、大舞台で一生懸命踊る姿には思わず大喝采でした。
どの役であったか、踊り終わって袖に入る際にちょこっとハプニングも生じましたがそこはおばちゃんが助け舟を出して解決。
個性豊かなお野菜さん達ですからむしろごく自然に映り、可愛らしい度合いも更に上昇したひと幕でした。
全観客、おばちゃん役の内田卓さんの優しさも身に沁みたに違いありません。

お野菜さん達の余興の後に、むすめちゃんとフィアンセのグラン・パ・ド・ドゥが披露され、むすめちゃんが蕩けそうなほど可憐な村娘っぷりで
パ・ド・ドゥは勿論、冒頭のおばちゃんとのやりとりからしても朗らかな性格で村の皆に愛されてすくすく育っていた背景が見えてくる魅力的なヒロイン。
個性派揃いの村民の中でフィアンセの張さんは好青年な雰囲気で、祝福に包まれる中で幕が下りました。
子供中心作品ですが、筋運びや使用曲、衣装の色合いと言いどの要素の起伏も富んでいて、客席のお子さん達の目にも心にも焼き付いた様子。
プログラムを開き、役名が視界に入ったときにはスープカレー店のトッピングメニューかと見紛う並びに驚きを覚えましたが、心身共に満腹です。

第4部はいよいよメインの『ライモンダ』抜粋、篠原聖一さんによる演出振付で、2幕と3幕が上演されました。全幕ではなくても、東西で2週連続ライモンダ日和です。
結婚式の3幕はしばしば目にしますが2幕の上演は発表会では珍しく、嬉しい限り。
あの格調高く背筋がすっと伸びてしまう宮廷の序曲、何度聴いても胸が高鳴るばかりでございます。
主な配役はライモンダは2幕が板東先生、3幕は生徒さん、ジャンは両幕共に梶田眞嗣さん、アブデラクマンが山本さんです。(以外アブ様、アブさん表記ばらつき生じますが悪しからず)

板東先生のライモンダは序曲での登場時から気高く美しく、アダージオではアブデラクマンの求愛と誘惑
加えて包容力に今にも魂を持っていかれそうな揺れ動く戸惑いをはっきり表現。
この場面の解釈もダンサーによって様々で、露骨に嫌がる姫もいればそのままサラセンに嫁いでしまいそうなほど
魅せられてしまっている姫もいますが板東先生は後者であったと捉えております。
金色で彩られた濃厚なブルーにピンクのチュチュを合わせた衣装を艶やかに着こなす姿にもうっとりです。

そして何と言っても山本さんのアブデラクマンには卒倒寸前で、雄々しくも芳醇な色気もムンムンと漂わせて眼力も頗る強く、余裕の中に覗く強引な一面と言い
このアブ様に対抗できる魅力を備えたジャンが果たして地球上に存在するのか、余程美しく清廉潔白且つ鋭い締まりが心身から漲っていないと魅力でも決闘でも勝ち目ございません。
(1人だけいるか。いや、今回西条でアブ様を拝見してやはり難しいかと帰り松山行きのアンパンマン列車内で1人想像するも、実現しないことには結論出せず)
そんな重圧があったであろう中、梶田さんは白い魅力を前面に出して対峙し決闘後のライモンダとのアダージオにおける安堵感も穏やかに醸して3幕へと繋げてくださいました。

全幕はなかなか上演機会が少ない作品ながら新国立劇場ではレパートリーにあり、今年12年ぶりに全幕上演されましたがそれ以前には頻繁に上演され
山本さんはジャンとアブさん両方を踊っていらっしゃいます。ただ、アブさんは2006年のみで(ゲネプロ、東京、大阪公演と私は幸い3回鑑賞できたのは今も自慢)、
2009年にも予定であったはずが直前の他のジャン役ダンサー降板により変更が生じてアブさんを踊らずに終了。
前日あたりにロビーの掲示で告知され、集まった人々の落胆する光景は今もよく覚えており
むしろ山本さんのアブさんが楽しみであったのにとのお声があちこちで飛び交っていた当時の様子は干支一回りした現在も忘れません。
また新国立劇場の『ライモンダ』は総じて好評ながら二大不評要素があり、1つはジャンの肖像画がお饅頭の騎士の如きふくよかな描画で
これ誕生日に貰ってライモンダ喜ぶかいと毎度突っ込みの嵐。もう1つがアブさんの衣装で
王族らしくない、豪華度控えめな装いで海賊のようなデザインがいただけず及び出番や見せ場も少ないのも難点でございます。
しかし今回西条ではボリショイに似た風味の渋い銀色に光る重厚な装いで、富も名誉も地位も手に入れ、後は愛しの姫を連れ帰るのみであろう王族なる姿で惚れ惚れ。
更にはスペインの一団に加わって一緒に踊る演出で、押し迫る求愛に腰掛けて眺めているライモンダは平静維持も困難であったことでしょう。

生徒さん、ゲストそれぞれの配役配置も秀逸で、幕開けを飾る貴族達は大人の生徒さん達が雅やかに宮廷の空気感を作り上げ、踊るのも立ち役でも大活躍。
友人は生徒さんとゲスト混合で、華を添えつつも品良く抑制の効いた踊り方に好感を持ちました。
従来はクレメンス、ヘンリエット(仏語ですとhは発音しないためアンリエットが正しいかも)、
ベルナール、ベランジェと名前の明記がありますが今回は女性友人のヴァリエーションを
別の方々が夢の場第1とクレメンス、ヘンリエット用を踊る演出となっていたためか明記なし。
ヴァリエーションのある女性友人はともかく、男性友人のほうはコーダ以外ソロもなく、この作品を劇場にて全幕鑑賞約25回に達していながら
未だ名前と役の判別つかず。お気楽体質な我が身を反省するも、まあ人生そんなものです笑。

サラセン軍団の序盤には子供の生徒さん達による軽快な踊り、続いて鈴を用いた細かなリズムが気持ち良い曲と続き
ただ淡々と踊るのではなくライモンダ側、そして結果としては観客を喜ばせようと全身の表情が豊かで見事。きっとアブ様にも可愛がられているのであろうと想像です。
そして出ました、出演者名お三方を目にしただけで濃厚なソースが匂ってきそうな笑、佐々木夢奈さん、嶺さん、工藤さんによるサラセントリオ。
ソ連時代のボリショイのキャラクターダンサーよりも濃く切れ味も申し分なく、言うまでもなく客席も大沸騰。
冗談抜きに巨匠グリゴローヴィヂも仰天するであろうレベルで魅せてくださいました。
スペインの結束もそれはそれは固く、アブ様を後方でがっちりと踊って支え、盛り立てる姿が頼もしく
いよいよライモンダが誘惑の窮地に立たされて行く過程により説得力を与えていた印象です。
決闘に敗れ、息絶える寸前まで瀕死の身体を引き摺りながらライモンダヘ愛を訴えるボスことアブ様を悲痛な面持ちで見つめるサラセン軍団、
全員が心から慕っていたと思うと婚約者のいる姫の連れ去り計画は許される行為ではないとはいえ悲劇な結末としか思えず。
佐々木嶺さん以外は全員女性構成のサラセン軍団が約10人がかりでアブ様を持ち上げ運搬する健気な光景も含めまことに劇的な幕切れで
またライモンダがきっぱりと切り替えてジャンとの結婚を喜び合う流れにも持っていきにくく
マリインスキーで上演されているセルゲイエフ版のようなファンファーレでめでたしめでたし!はいお次結婚式な展開も想像しづらく
だからこそボリショイと同様安堵のアダージオ挿入により徐々に心を落ち着けて行くライモンダの感情描写が一段と効果をもたらしていたと思っております。

さて、晴れて3幕結婚式では生え抜きのもう1人の生徒さんが威風堂々たるライモンダを踊られ、2010年の15周年記念にて板東先生が3幕を踊られた際にお召しになっていた
持ち衣装と思われる白地に金銀のやや渋めの模様で彩られた、胸元が平たい(中世ですから胸元のカッティング大事!)
二の腕から指先までを覆う袖のデザインも美しく決まっていてじっくり観察です。
男女共ふわっとした白い袖が靡くグラン・パ・クラシックも統制が取れていて、ヴァリエーションを踊ったお2人(通常夢の場第2とグランパ名物カエルジャンプな踊り)
音楽にぴたりと嵌った踊り方が実に清々しい印象を残しました。
順番戻って幕開けのマズルカ、チャルダシュは強弱の付け方も上手く、床の踏みしめや腰の入れ方もお手の物で、キャラクターダンスも水準高しです。

一部貴族衣装やジャンの兜が時代先取り感がやや無きにしも非ずでしたが、その時代に相応する衣装は業者にも少ない事情があるのかもしれませんし
杉原小麻里さんの毅然と取り仕切るドリ伯爵夫人を目にするうち気にならなくなり
それよりも古典の中ではややマイナー作品ながら「妄想」のみならば牧版とグリゴローヴィヂ版は全幕踊れるくらい(笑)に思い入れが強く
姫の夢物語にとどまらぬ、格式ある宮廷内にて引き起こる人間同士の生々しい衝突も描き、音楽も何処か渋味ある曲調の連なりに惹かれてやまない
バレエの中では一番好きな作品を節目に上演してくださり、板東先生の姫も拝見でき嬉しうございました。
最後はギャロップ大団円でお開きとなり、記念舞台が閉幕。フィナーレは板東バレエ名物花束投げが賑やかに行われ
ここまでの紆余曲折を考えるとただ楽しいだけでなく感慨深く、胸を撫で下ろす心持ちとなりました。

最初にも書いた通り、昨年開催予定が1年延期となった上に世間はむしろ向かい風状態となりギリギリまで会館も開くか否かの状況。
ただでさえ大きな舞台開催を控え、対策を講じての練習も緊張を強いられる中で
板東先生始め関係者の皆様は胃が軋む思いであったと察します。無事開催できて本当に良かったと安堵です。25周年おめでとうございます!
子供から大人まで、喜びに満ちた生徒さん達の姿を眺めるだけでも幸せな気分を共有できました。

板東バレエを観始めた2007年から早14年。今では地図がなくても道後から松山駅までさっさか徒歩移動、
昨年は伊予西条駅から港まで、4年前にはしまなみ海道を貸出自転車で快走したりと板東バレエのおかげで愛媛をどれだけ満喫していることか。
東洋のマチュピチュと称される別子の遺跡や道後温泉、松山城に萬翠荘、砥部動物園と観光した場所も何箇所も思い起こされ
自動改札が未だ設置されない松山駅や伊予西条駅、その他JR四国沿線は同様かもしれませんが
路面電車含め、愛媛特有のゆったり感はずっと残していて欲しい魅力です。

愛媛県内ではプロの公演が多くは上演されず(珍しく!?12日にスターダンサーズ・バレエ団ドラゴン・クエストが愛媛県民文化会館にて開催。ゲーム音痴でも楽しめてお勧め!)
しかも松山から特急で1時間は要する西条市で子供からゲストまで、古典からコンテンポラリーまで
多彩なバレエに触れる機会は実に尊く、ずっと継続して欲しいと願います。西条に根付きバレエを発信して早四半世紀、これからの舞台も楽しみにしております。





昼に食した鯛の煮付けの姿身がのった鯛そうめんランチ。
25周年、何かしら祝福感のある名物をと思い、ならば鯛1匹まるごと味わいたいとこちら決定。大街道にございます。
2014年のえひめバレエ祭りの前日に訪問以来です。
道後に荷物を預け、市電の線路を頼りに松山駅へ徒歩移動する途中で立ち寄りいただきました。
とっくりには鰹と昆布のお出汁、左側は鯛の濃い煮汁。好みでつけていただきます。
その他みかん寿司、刻みみかん入りしらすサラダ、じゃこ天、小鉢も。昼から愛媛三昧ノンアルコール1人宴会だ。



大街道にて昼食後、お濠沿を歩いていたら板に亀4匹がのんびり。



白鳥と亀発見。まるで2年前に訪れた諏訪湖の情景再び。(諏訪湖は竜宮丸と白鳥丸の船であったが)
白鳥さんは念入りに毛繕い、亀さんは板の上で日向ぼっこ。各々のんびり時間のようです。板東バレエ初鑑賞は白鳥全幕でございました。
亀さんは、新国立劇場バレエ団『竜宮』大阪公演9月23日開催を宣伝しているに違いありません。状況が許せば、愛媛の皆様も是非ご覧ください。
尚、9月12日にチケット販売は停止とのこと。私は昨年と今年合わせて8回観ておりますが、もっと観たいほどです。



伊予西条から松山までは遂にアンパンマン塗装列車に乗車できました。内部の壁や天井もアンパンマンと愉快な仲間達が描かれています。



ホテルにて、苦味強く濃厚なスタウトタイプの道後ビール(何種類かある)とみかんゼリーで乾杯。
この日のアブさんの魅力に勝てるジャン、なかなかいないと思われ、果たして存在するのだろうか?
そういえば、オレンジも十字軍の遠征によりヨーロッパに伝播したと読んだ覚えあり。
品種名が大阪で知り合った、そしてこの日も西条にいらしていたお優しい方と同じお名前で幸せ増幅でございます。



昨年も宿泊した道後やや。朝食の野菜が多種あり、まさにベジベジ村。トマト、パプリカ、きのこ、ブロッコリーもありましたので盛り付けました。
ベジベジ村の1人モーニング。ダイニングの奥には、野菜やみかんを漬けた縦長の筒型瓶のインテリアも。
北条鯛めしそして昨年は満腹で食べ逃したややカレーもいただきました。
チェックアウトまでは部屋で旅先のお楽しみである地域ローカル番組を視聴。愛媛CATVで健康番組が放送され、まついち体操を知りました。
愛媛のBリーグ所属バスケットチーム名称は愛媛オレンジバイキングスとのこと。何て分かりやすいチーム名。



みかんも種類色々。冬場はもっと増えます。



荷物を預けに行った朝と、チェックアウトの際もいただきました、蛇口からみかんジュース3種制覇です。



今回は観光もせずささっと帰りましたが、次回はまたゆっくり温泉に浸かりたいと思います。みきゃんのお菓子を眺めつつさらば愛媛、また会う日まで!

2021年9月5日日曜日

突如の事態を乗り越えた2日間 バレエアステラス2021 8月28日(土)29日(日)




8月28日(土)29日(日)、バレエアステラス2021を観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/asteras/


※初日は客席に着き、さあいよいよ開演を待つ中で突然スタッフが書類を手にピット近くに立ち、研修所関係者に発熱者が出た為研修生出演の演目は全て見合わせと告知。
リハーサルを一緒に行っていなかった他のパ・ド・ドゥ出演者は全ペア予定通り出演とは仰っていたものの
ホワイエに掲示する時間も無かったようで、突如の事態に観客も動揺を隠せず。中でも、後にも触れますが急遽最初に登場されたコッペリアの橋本さんと鷲尾さん
そして第2部登場の予定が、観客にも知らされぬまま第1部に繰り上げとなり、オーケストラピット内もそわそわとしていたほど対応に追われる中で登場された
ドン・キホーテの福田さん荒木さんはたいそう緊張されていたと察します。フィナーレ音楽も無しで、無演奏で拍手のみ鳴り響く中でパ・ド・ドゥ6組が登場し終演でした。
2日目は研修生演目全上演、フィナーレには恒例のポロネーズも演奏され、無事終演。初日は2009年に始まって以降前代未聞なガラとなりましたが
まだまだ不安が過る中での舞台開催。出演者やスタッフ、公演に関わった方々に敬意を表したい思いです。
そして発熱された方は陰性であったとの告知もあり、まずは安堵いたしました。誰しも起こり得ることで、どうか気を重くなさっていないことを願っております。



『シンフォニエッタ』(29日)
出演:新国立劇場バレエ研修所
菅沼咲希 渡邊拓朗(ゲスト)
第17期生・第18期生、予科生

牧阿佐美さん振付の研修所伝統作品でグノー作曲の交響曲第1番ニ長調第1楽章、第4楽章をアレンジしているとのこと。
何度か観ておりますが綺羅星の如く華やぐ旋律に再度聴き入り、研修生達の瑞々しさが広がるピュアなクラシックを堪能です。
幕開けに相応しい晴れ晴れしさもあり、上演を重ねて欲しい定番作品でございます。
研修所修了生の渡邊拓朗さんは4年前(入団直前?)のアステラスでもこの作品に出演され、貫禄の付いた存在感に舞台経験の歳月を感じます。
また4年前に比較すると髪型も自然なスタイルに。


『コッペリア』第2幕よりパ・ド・ドゥ(28日)
『海賊』より奴隷のパ・ド・ドゥ(29日) 橋本有紗★(カザフ国立オペラバレエ劇場)
鷲尾佳凛★(京都バレエ団/元ジョージア国立バレエ団)

初日は研修生演目3本カットである旨の開演直前告知によってまだ観客も動揺が隠せない重たい空気の最中、登場が急遽最初になりながらも優しい雰囲気を湛えて披露。
踊りづらい状況であったでしょうに、ほんわかと可愛らしさ全開の橋本さんと明るさを放つ鷲尾さんに救われた思いです。春めくピンク色で統一した衣装も目の癒しに。
2日目の『海賊』では一層本領発揮。盤石な技術からもしっとりと悲しみを零しながら踊る橋本さんグルナーラに対して
観客を市場にやってきた人々として見立てて引き込み、無背景であってもあたかもそこに商人達が集い賑わっていると思わせるほどに
取引のマイムや美女を連れてきたアピールも臨場感たっぷりな鷲尾さんランゲデムで、全幕を観た気分。踊りもパワーと伸びやかさを持ち
カーテンコールでも一歩下がった位置から橋本さんの美しさを観客に訴え、商売熱心なキャラクターを維持。たっぷり楽しませてもらいました。
橋本さんの、薄い緑色チュチュを彩る斜めに流す模様や布地にも思わず注目。


『人形の精』組曲よりパ・ド・トロワ(29日)
  出演:新国立劇場バレエ研修所
安達美苑
宇賀大将 石山 蓮(ゲスト)

安達さんの芯がしっかり通った安定感、大舞台で先輩ダンサー2人と組んでも物怖じしない落ち着きにも驚かされ今後が楽しみな逸材です。
宇賀さんの愛嬌光線放出なユーモアに笑いを引き出され、石山さんの見せ方の上手さやパートナーとの呼応も万全な実力も頼もしく入団後の活躍も期待大。


『海賊』第2幕よりパ・ド・ドゥ(28日)
  『パリの炎』よりパ・ド・ドゥ(29日)
上中佑樹★(元スロバキア国立劇場バレエ団)
塩谷綾菜(スターダンサーズ・バレエ団)

2021/2022シーズンより新国立入団の上中さん。次々と超絶技巧を決めて披露しまだ粗削りな部分はあれど
入団後はコール・ドからのスタートのようですから踊りのスタイルも変わっていくかと思われます。
塩谷さんはきびきび軽やかで、華奢であってもパワーも十分。お2人の息はなかなか合っていて、珍しい組み合わせを目にでき幸運。


『ドン・キホーテ』第3幕よりパ・ド・ドゥ(28日)
『白鳥の湖』より黒鳥のパ・ド・ドゥ(29日)
福田侑香★ 荒木元也★
(ロシア カレリア共和国音楽劇場)

初日は第2部から出演の予定が観客への告知も無しに第1部に繰り上げとなり、客席もそわそわした状態の中で登場。
しかも『海賊』の直後で、順序としても如何なものかと思わざるを得ず、橋本さんと鷲尾さんと同様大変踊りづらい心境であったかと察します。
しかし動じず手堅くおさめ、翌日は福田さんの濃厚であっても現地でしっかり仕込まれたのであろう
音楽をたっぷり使っての作り込みが丁寧な黒鳥に引き寄せられました。赤い模様だったか、流線形模様の付いたチュチュもいかにもロシアらしく、私の好みでございます。
荒木さんは体格の良さに最初は驚きを覚えましたが踊り出すとポーズ1つ1つが端正で脚先もよく伸び、サポートも安定。
そしてアステラスのお楽しみの1つであるロシアや周辺地域の地名勉強、カレリア共和国とは初耳の国。フィンランドと国境を接する国とのことです。
キジ島の平原に建つ木造教会群、いつか観に行きたいと旅情を誘われます


『Conrazoncorazon』より(29日)
出演:新国立劇場バレエ研修所
青山悠希・菅沼咲希・根本真菜美・山本菜月・中川奈奈
小野田陽斗・高橋隼世・竹花治樹
青木恵吾 石山 蓮(ゲスト)

振付はカィェターノ・ソトでバルセロナ出身。世界中で引っ張りだこな人気振付家とのことで、今回日本初上演。
音楽はトナ・ラ・ネグラの第2曲であるそうで、テレビの宣伝広告で耳にした記憶あり。薄い水色のジャケットに帽子を被り、
黒いソックスで乗馬を嗜む少年少女といった趣きの姿で軽快に走り去るように踊っていく作品でした。
純粋無垢な研修生達の持ち味を少し捻り面白可愛らしい魅力が前面に出たユニークな作風で、余りに短く観客もまさかの終了に時間が立っても暫く拍手も起こらず
あと5倍ぐらい長く観ていたかったほど。尚、バレエオータムコンサートでは全9曲中5曲を上演とプログラムに告知あり。ご覧になる方、お楽しみに。


『薔薇の精』
水井駿介★(牧阿佐美バレヱ団/元ポーランド国立バレエ団)
青山季可(牧阿佐美バレヱ団)

牧バレエの主演看板になりつつある水井さん、牧へは2019年からの入団でそれ以前はポーランド国立に在籍していたとのこと。
張りと余裕ある跳躍で踊りにムラも無く、吸い付く着地も柔らかく妖しさは抑え目でしたが安心感を与える妖精でした。
頭飾りが輪っか状であったのも幸いで、何かの写真で大振りの花びらを重ねて頭上に載せているダンサーを目にした際
薔薇の花びらではなく変色したキャベツに見えたことがございまして(申し訳ございません)、輪っかで安堵。
青山さんはほっそりとした肢体に淡い雰囲気でレース状の白い衣装も似合い、眼前に現れた妖精の姿に戸惑いながらも惹かれていく様子を儚く描写。
また水井さんの濃さ、青山さんの淡さはバランス良く、以前アナニアシヴィリとルジマトフが組んだ同作品を新国立の新潟公演にて訪れた新潟県民会館資料室で映像鑑賞したところ
2人とも歴史に名を刻む大スターであるのは分かりながらも存在感や持ち味が揃って濃厚で
濃度50倍の芳香剤を画面越しに噴射された心持ちとなったのは今も忘れぬ記憶。そんな過去もあり、バランスの妙も大切と思ったものです。


『タリスマン』よりパ・ド・ドゥ
大久保沙耶★(元オランダ国立バレエ団)
森本亮介★(ハンガリー国立バレエ団)

大久保さんの艶やかな美しさが目を惹いて着こなしが難しそうな白い短いスカートの衣装もよく絵になり
日本を拠点に移すと紹介文にありましたので幅広い役柄での登場を待ちたいところです。
森本さんは真っ直ぐな軸から繰り出す躍動感が光り、やり過ぎない点も好印象。大久保さん森本さん共に大阪出身だそうで、
紹介文を読む限り、大久保さんはオランダ国立バレエ、森本さんはオランダ国立ジュニアバレエ団時代が重なり、接点があったのかもしれません。


※あと1本と思いきや、ここから一気に長くなります。水分補給なり、小休憩をどうぞ。

『ライモンダ』パ・ド・ドゥ
  柴山紗帆・渡邊峻郁(新国立劇場バレエ団)

6月の全幕公演は平日昼間の1回のみであったペアがアステラスに2日間登場。大トリに相応しい品格、気品でフィナーレへと繋げてくださいました。
全幕公演時より一段と息も合う淑やか姫と勇ましい騎士なお2人で、ガラ特別版として全幕公演では2009年以降カットされている
アダージオ(2020年のニューイヤーではこの部分のみ抜粋を2組が披露した、他版での序曲の印象が強い壮大な曲)に
3幕のヴァリエーションと2人用に音楽も振付も再構成されたコーダ付です。
我が記憶が正しければ、2008年に高松と東京で開催された樋笠バレエ国際交流ガラにて牧バレエの田中祐子さん逸見智彦さんが踊られた曲構成と同じと思われます。

話を2021年に戻します。
全幕公演において、並びはとてもお似合いで慎ましく優しいライモンダと、普段は温厚そうであっても姫に危険が及べば豹変し身体を張って目に炎を滾らせ
相手を撃破して守り抜く騎士っぷりがまあ鳥肌ものであったペアでしたが1幕、3幕ともパ・ド・ドゥの呼吸が今一つ合わずであった点が心残りでした。
また全幕ではカットの、ニューイヤーでは呆気ない短さで不評であった謎のアダージオ挿入と予想し少々心配もありましたが
幕が開き2人で手を取り合う姿から杞憂で終わると確信。視線と心の通わせがぐっと深くなってどのステップも流れるようにしっくりと合い
前日あたりに激闘を制してからの結婚式であろうと想像できる、全幕の如く命懸けの試練を経た空気感も強く安定性を超越。
美しいフォルムを描きつつ、めでたさのみならず覚悟や決意も伝わるパ・ド・ドゥでした。
渡邊さんは2020年のニューイヤーにて米沢唯さんとこのアダージオ部分のみ踊っていらっしゃいますが、このときは全幕経験前であった事情もあるでしょうが
ひたすら姫にお仕えしている姿勢は申し分なく前面に出ていましたが、今回はお仕えに加えて
姫を守り切ったプライドが滲む逞しい質感がアダージオからも放っていた印象。管理人、今も尚思い出しても目が心臓印状態でございます。
さて夏の最後もやります髪型観察、今回も二重丸。やや明るめの色味にも目が慣れたのか、金と白地の衣装にも合い、前髪も自然な分け方でした。

グラン・パ・クラシックを編曲した2人用特別コーダではジャンの3連続跳躍が上げ下げ激化リフトに変更となり
渡邊さんの勇猛斬り込みジャンプを拝見できずであったのは残念でしたが、それに代わる姫君ダイナミック連続リフトもお手の物でしたので良しといたしましょう。
仮に作品の設定期である中世の時代に息づく様子も容易に浮かぶお2人で、深窓の淑やかな姫君と、華美を好まず毎日欠かさず道場、ではなく(武士ではないか)
戦闘の訓練に励むため練習場に通い、日々の鍛錬を怠らぬであろう凛然たる愚直騎士で2021年夏終了です。


【フィナーレ】(29日)
『バレエの情景』Op.52より第8曲"ポロネーズ" 
出演者全員

アステラスでの楽しみ要素の1つ、2日目のみとはなりましたが今年も聴けて嬉しいポロネーズです。格調高く華麗で祝祭感に満ちた旋律にのせて全員登場し締め括り。



※過去のフィナーレの様子
アステラス2016   58秒あたりご注目を。



アステラス2019   2分32秒あたりご注目を。




初日は突如の事態に会場にいる全員が動揺しての開幕となりましたが、2日目は研修生出演作品も上演でき、ほっと胸を撫で下ろしました。
昨年は中止となり今年は2年ぶりの開催で、現在海外で活躍中の日本人ダンサーだけでなく帰国して3年以内も対象とし募集枠を拡大。
また鷲尾さんも新国立劇場ホームページ掲載の挨拶文で語っていらっしゃいましたが、井田さんの指揮と東京フィルの生演奏で鑑賞できることも喜びで
お馴染みのドリゴやミンクスのズンチャッチャ系パ・ド・ドゥ(毎度大雑把表現で失礼)も生で聴けるのは格別です。
以前よりも小規模ではあっても満足度の高いガラで、来年以降も開催継続を願っております。



※先月末に発売のファッション誌25ansにて渡邊さんと小野絢子さんがジュエリーモデルを務めていらっしゃいます。
お2人が持つ翳りある神秘的な美しさが危うく色めいて響き合う、シックな誌面、映像です。リンク先の中間あたりの映像、是非ご覧ください。
渡邊さん洋装でのグラビアなる記事としては4年前に団内兄弟対談としてアイドル系ダンス雑誌にて掲載され、その誌面での写りはどこか素朴でございましたが(そこも魅力ですが笑)
3年前にはオペラシティの冊子の表紙を館内のベーカリーカフェにて撮影された写真で飾っていらっしゃり
写りは洒落たカフェよりも純喫茶が合う向田邦子ドラマに登場する古き良き時代彷彿の青年でしたが(そこも魅力ですが笑)
今回は思い切りスタイリッシュで隙の無い美をご披露。何処か古風な美しさも宿り
東宝ニューフェイスや高橋英樹さんがいた頃の時代の日活のブロマイド、小津安二郎映画に登場する美青年といった、銀幕のスターにも見えます。
周囲では中国映画の男前な俳優との印象もあるようで、そういえば古い上海映画の租界場面にてレトロな建築空間と調和しそうですし
三国志など歴史物の装束も似合いそうです。切れ長で力のある目が視界に入るたび、妄想が止まりません。
https://www.25ans.jp/fashion/jewelrywatch/a37276371/ballerinapearl-210828/



誕生日祝いとして先月鑑賞でお世話になっている方よりいただいたスパークリングワインで乾杯。
今年の夏最後を飾る、渡邊さんの凛然とした愚直騎士の余韻に浸りながらの終演帰宅後飲みでございます。
そしてある方の名言が再び脳裏を過ります。渡邊さんは武士にも騎士にもなれる、と。
いつも同じ場所での撮影で失礼。
それにしても濃い8月で、哀愁BTS(本編はしっとりエスメラルダ)、光GENJI系ハワイアンセンター、
アンドロイド、妖精王、騎士。7月も含めればサムライ太郎も再披露。個性色々キャラクター博覧会2021夏ができます。



柴山さん、井田さん、渡邊さんが揃って新国立劇場バレエ団のツイッターにも終演報告。見れば見るほど美しく勇ましい、男前なジャンでございます。
しかしいつまでも余韻に浸っている場合ではございません。そろそろ伊予の国の上空に差し掛かり、ここでお開き。
東京でジャンを堪能してからの翌週の今回はアブデラクマンの虜となって参ります。
舞台概要を知って以来共演対決実現を密かにずっと妄想。いや、実現が叶った暁には5月の配信ローラン・プティ版『コッペリア』千秋楽どころの興奮では収まらず
生死を賭けた場面であり、誘惑されたいでも助けにも駆け付けて欲しい願望の狭間で失神間違いない。妄想は横に置き、まずは心落ち着けて鑑賞して参ります。

2021年9月2日木曜日

夏の八王子に舞い降りた妖精達 BALLET NOW バレエ ナウ 発表会 8月25日(水)《八王子市》




8月25日(水)、八王子市芸術文化会館にてBALLET NOW バレエ ナウ 第14回発表会を観て参りました。2019年に続き、2度目の鑑賞です。
http://ballet-now.com/

発表会概要。新国立劇場よりゲスト出演。
  http://ballet-now.com/news_topics/news/post-3535



※バレエナウさんのインスタグラムより。皆様晴れ晴れした表情です。ライサンダーとディミートリアスが濃い笑。





第1部は小品集。計8作品で、音楽の分野もクラシックから久石譲さんの曲まで多彩。当日の状況にぴたりと合う、また好みな曲がいくつもあり全て満喫です。
小さなお子さんほど2作に出演したりと掛け持ちし、しかも皆最後までしっかり務めて大活躍。
幕開けは『海と真珠』よりパ・ド・トロワで、速水渉悟さんもご出演。丁寧に可愛らしく踊る2人の生徒さんを優しくサポートしつつ
豪快なジャンプには私の近くにいた小さなお子さんが大喜び。マリンブルーの斜めマントな不思議衣装も涼しげで猛暑の八王子にて嬉しい清涼剤です。
(後にも述べますが、近くにいた2人の小さなお嬢様、第1部から真夏の最後までじっくり堪能していた様子)
何しろ京王八王子駅に降り立ち暫く歩くだけでも明らかに私の勤務先や自宅周辺とは暑さのレベルが違い、そうだ冬は数段階寒く夏は暑い八王子であると
京王八王子駅から徒歩で移動しつつJR八王子駅前の、都内ですが一足お先に積雪です中継が冬の風物詩となっている広場に目を留め、思い出した次第です。

2曲目のポルカ、3曲目Summerはどちらも子供の生徒さん活躍でカラフルでお洒落な衣装姿で勢揃い。
後者は久石譲さんの曲で、夏の終わりのこの季節にこそ聴くとしんみりとした思いに駆られ、管理人この時点で既に八王子のイチョウホールにてどっぷり癒し時間。
やや長めの曲ながらあどけない生徒さんが4人だけでしっかりと踊り切る姿にも拍手です。
続いては葦笛はパ・ド・トロワ形式。木下嘉人さんが出演され、きっちりと端正、呼吸の合ったトロワで衣装がクラシカルであった点も一安心。
ゲストの皆様やバレエナウ版真夏…の振付者が所属する団では今年は年越し公演となる作品の演出に不満は申し辛いものの、この曲に蝶々は今も納得いきません笑。
大人の生徒さんでドン・キホーテのボレロに挑戦された方もいらっしゃり、能天気な余り人前で舞台に立つ心構えなんぞ一生かかっても身に付きそうにない私からすると
姿勢を見習いたいと感じるばかりです。貝川さんの好サポートもあって喜び一杯に披露なさっている姿が印象に残っております。

久石譲さんの曲はもう1本、『千と千尋の神隠し』のテーマ『いつも何度でも』ピアノ版に乗せて子供の生徒さん達が可愛らしい衣装で披露。
幼いながら並び方からしてきちんと順番を守る協調性に、大人の自身も学ぶべきことが多々ありでございます。
宮崎駿さんの映画は基本どれも好きですが、ラピュタやナウシカ、トトロといった飛行物が飛び交う作品を好むため千と千尋は劇場では観ておらず
4年前とある舞踊家へのインタビュー映像拝聴がきっかけでようやく鑑賞。日本と少し台湾の街並みをも取り入れた繊細な情緒に驚きを覚え、
劇場で鑑賞していなかったことを後悔。イメージで決めつけてはならぬとその映像のお話を教訓にしたいと思ったものです。
そして男の子3人でスキップからして元気一杯なHappy Boyも楽しく、ミラーボールの演出に思わず声を上げてしまうお子さんも多数。
私が絶叫マシン克服の契機となった浦安市の夢の国における水しぶき系の乗り物にて流れていた思い出深い曲でございます。
第1部最後はクラコビャック。マズルカ系の舞踊と思われますが(違ったらすみません)
キャラクターダンスもレッスンに取り入れていると前回2019年鑑賞時に知り、緩急自在に操りながら6人で躍動感と熱量溢れる踊りを見せてくださいました。

第2部は貝川鐵夫さん振付『真夏の夜の夢』。子供からゲストまで総出演で、4年前の上演に続く再演とのこと。
ゲストは少し入れ替わりオーベロンは渡邊峻郁さん、パックが福田圭吾さん、ライサンダーが木下さん、ディミートリアスが速水さん。
平日夕刻の八王子であってもこの布陣、オーベロン求めて管理人が行かないわけありません笑。

オーベロンの渡邊さんは序曲の最中、暗闇に照明が当てられぽっかりと出現した立ち姿からして溜息が零れるほどの美しさ。
何処を切り取っても彫刻の如き美が宿り、引き締まった表情も気高く、風格も十二分な妖精王でした。
王は王でも妖精であり、鷹揚とした威厳ばかりを示せば良いのではなくそれらを持ち合わせつつ素早い振付も随所で披露。
中でも序盤のスケルツォの部分は予想以上に目を見張り、高身長であっても持て余さずもったりするどころか
急速なテンポでも抜群のコントロール力で俊敏さを維持し、回転して予期せぬ箇所からの跳躍も余計な力み皆無で実に軽やか。そのまま飛翔しそうな浮遊感に感嘆です。
跳んだまま舞台袖へと入っていく場面なんぞ、そのまま八王子駅まで飛んで行ってしまいそうで
そしてちゃっかりパンか何かをお買い物して袋を手にふわっと戻ってくる姿も容易に想像がつく、骨の髄まで妖精さんでした。
目で語る力も強く、ある1点を見つめ一呼吸置いてからパックに向き直り指示する場面がいくつかあり
決して特別大きな目ではない、むしろやや切れ長ですから元々の瞳の力の強さもさることながら視線の運び方1つ1つに気を配っていらっしゃるのでしょう。
歯切れ良いテンポで進んで行くパックとのやりとりでも急かされている印象が無く余裕ある展開に思わせ、雄弁且つ品が香るマイムも美しや。
王であっても掴みどころがない点はご愛嬌なのか、夫婦喧嘩の末にインドの王子(いたく小さな子供が演じていて、落ち着いた舞台姿にびっくり)が妻側に渡ってしまうと
不貞腐れるだけでなく突如床に寝転んで拗ね、駄々っ子並に我儘な一面も。されどいざ再びインドの王子を前にすると思い切り頬を緩ませ
出迎える様子は保育士を超えまるでムツゴロウさん笑。威厳があるようで無いときも多し掴みどころ無き妖精王にお仕えするパック、これは大変な仕事です。

さて、スーパーエンジェルでは割愛しましたが八王子ではやります髪型観察、今回は二重丸。
ほぼ真ん中分けで、きらりと輝く輪っか状の頭飾りを装着した姿がまた眼福。アシュトン版やそれに似せた重厚な王冠ではなく
また衣装も葉っぱモシャモシャな装飾は抑えめにしたやや濃いめのエメラルドグリーンのすっきりとしたデザインでしたが
綺麗な線の持ち主である渡邊さんの耽美な魅力がより引き出され、また生地に金色の縦線装飾もあったためか森と宝石を掛け合わせた妖精にも見えむしろ嬉々として観察。
葉っぱモシャモシャ衣装は近い将来に実現と思いたい新国立劇場でのアシュトン版真夏初演の楽しみにとっておきましょう。
それから王に相応しいマント姿も喜ばしく拝見。ただ激しく踊る箇所多き役であり、牧阿佐美版『ライモンダ』における
装着時間およそ15秒限定の帰還でござるマントでジャン!場面とは違って終始装着ですから、長過ぎても困り物。されど短いとパーマン状態になりますから
なかなか難しいところですが踊っても鬱陶しくならず、加えてパーマンにも見えぬ、肩から膝下程度に伸びる絶妙な長さでございました。

タイターニアは生徒さんが踊り、優美な雰囲気で堂々たる大役。妖精達や蜂さん達からも慕われ、にこやかな笑みで見守る様子もエレガントで
光を帯びた淡い水色の柔らかな衣装もお似合いです。一見楚々としていますがインドの王子を巡っては目力オーベロンにも負けぬ芝居で引き寄せ、王妃の気の強い一面を明示。
また並びも絵になり、上品な空気を纏った王と王妃でした。

展開の要所を締めたのは福田さんのパック。手を広げてアピールする登場からして観客の心を瞬時に捉え、
オーベロンからの命令で花の汁を垂らして行く流れを観客にナレーションを同時に行っているかのように分かりやすく語りかけ、物語を動かしてくださいました。
何度も笑いを沸き起こし、特にボトムが変身したロバとの掛け合いにはドカンと沸騰。小さな子供の観客の笑い声もあちこちから聞こえたほどです。
怒ると怖そうな笑、堅物な王にもへこたれず忠実且つ剽軽にお仕えする姿も健気です。
ハーミアは主宰の川崎さん、ヘレナは生徒さんで、うっかりパックの失敗から引き起こる誤解し合っての争いも潔くエアービンタ大会で女の戦い白熱!
濃いキャラクター炸裂な怪しいライサンダーと少しチャラそうされど純情にも見て取れるディミートリアスと踊りも表現も対等に渡り合う光景に度々興奮いたしました。
ボトムは全世界見渡しても歴代最高身長であろう!?貝川さんが飄々と踊られ、木こりの男子3人引き連れ軽快な場面を描き出してくださいました。
ロバに扮してもスタイル映えるボトムさん。しかしとぼけてしまったのかパックとの咄嗟と思われる掛け合いにも大笑いで、会場沸きました。

それから心から讃えたいのは生徒さん達の表現の上手さ。2019年に鑑賞した発表会でも心底感じましたが、
きちんと踊っている更にその先を行く印象で、集団で何か表現する際も似たり寄ったりな様子が無く、いたく自然。
またゲストとの絡みでも臆することなく演じる光景の広がりは頼もしいばかりで、日頃の訓練の賜物かと思わせます。
とりわけ寝転んで駄々を捏ねる笑、お困り妖精王への対処に辟易するパックが妖精達に救助を頼もうとするも
拒絶され、自己解決するよう促される場面は妖精だけでなく人間の日常にこそしばしば起こり得ることで
妖精界でもトラブル続きは日常茶飯事なのだろうと説得力あるひと幕でした。

また貝川さんのセンスなのでしょう。配役配置も上手く、ゲスト一辺倒或いはゲストと生徒に壁ができ一方通行な舞台にならぬよう
程よく絡ませての展開描画にも感じさせます。結果として出演者全員で作り上げている感が伝わりました。
大人数構成ではなくても、楽しくぱっと華やぐ舞台に仕立ててしまう構想力にこの度も見入った次第です。
小さな子供の生徒さん達による蜂さんも、ただ出番増やしの為に作った役では全くなく、妖精さん達によるさりげない先導効果もあって
森に咲き誇る花々に集まる蜂と妖精達の仲の良い生活ぶりまでもが窺える微笑ましい様子に映ります。

音楽はメンデルスゾーンの曲を崩さず使っていらした点にも好感を持ち、3年前に観たコンテンポラリー版真夏にて他のバロックや映画音楽を挿入した演出を目にしたために
出演者は文句無しであったはずが心底満喫には至らずであった経験あり。オーベロンの威厳やタイターニアの気品、
妖精たちの囁きや浮遊がそのまま聴覚に訴え高揚感を誘う旋律が煌びやかに、時に重厚に連なる
作品として既に完成されたメンデルスゾーンの曲のみでの演出を昔から切望しているため、安心そして幸福に浸れる貝川さん版真夏でした。
補足として、これまでに観た他の真夏で自然と引き込まれた演出はバーミンガム来日のアシュトン版、NBAのウィールドン版、矢上恵子さん版(大阪)、キミホ・ハルバートさん版、
都内の沖田バレエスタジオや福岡の田中千賀子バレエで、どれも音楽はメンデルスゾーンのみで構成していたかと記憶しております。
英国ロイヤルによるアシュトン版は1992年の来日プログラムに含まれていながら、ラ・バヤデールしか鑑賞せず。観ておくべきだったと後悔。

それから、前半に触れた近くに座っていた2組の親子のお子さん達が最初から最後まで真剣に集中して楽しんでいた姿にも感激。
ジャンプの凄いお兄さんの印象が刻まれたであろう速水さんの海と真珠に始まり、ミラーボール演出にも喜んだり休憩時間には衣装の可愛らしさについてお母様に主張。
真夏では暗闇に妖精達の花冠の明かりが浮かんでくるとうっとりと驚いたようで、続いて福田さんパックが登場しただけでニコニコと嬉しそう。
渡邊さんオーベロンが袖へと飛翔していくと暫く目で追い、恐らくは本当に飛んで行ってしまったと思ったのかもしれません。
カップルの関係の拗れも、本気の潔いされどコミカルな争いに笑いが止まらなかったようで、仮に細かな設定は分からなかったとしても
眼前で起こっていることに鮮烈に反応して心から楽しんでいたようでした。
3歳ぐらいと6歳ぐらいのお子さんに見えましたが、テクニックや衣装、お芝居、演出とバレエが持つあらゆる要素を目一杯堪能する感性から学んだことは大きく
お2人のお陰で総合芸術であるバレエの面白さを再確認した思いでおります。
同時に小品集、真夏共に飽きさせぬ上質な構成であったこともお子さん達の忖度の無い正直で鋭い鑑賞眼が物語っていると思え、
川崎さんと貝川さんの舞台作りのセンスにも天晴れでございました。次回の八王子の夏も今から心待ちにしております。


※ご参考までに、2年前の2019年の発表会バレエナウさん初鑑賞時の感想。近くの席にかけていた、出演者のご友人で部活帰りと思わしき中学生くらいのお客様達とも
抱腹絶倒しながら楽しみました『長靴を履いたネコ』。悪役ながら子猫達や少女達のぬいぐるみ奪いの絡みでは保育士に見えた魔王、
悪代官風な曲(実はドニゼッティの曲)での登場時における突如の540繰り出しに大仰天、しかもだいぶ床スレスレのヒヤヒヤであったのはご愛嬌笑。
2019年鑑賞舞台の5本の指に入る「笑」撃作で、主人公ネコと魔王は同じキャストで、再演お待ちしております。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2019/09/post-77ba7a.html





京王八王子駅からの移動中、見つけた喫茶店の八王子珈琲。早退し慌ただしくしながら向かったため、一息入れようと暫しコーヒー時間です。
すっきりとした気分になる味わいで、ロートレックの絵が何枚も飾られた内装も素敵。



海と真珠の思い出。2012年、鳥羽水族館にて購入したラッコのぬいぐるみが女性2人のヴァリエーション最後の抱擁ポーズにそっくりで、
購入後目の前に浮かぶミキモト真珠島前にて周りの釣り人達からは不思議そうな視線を浴びつつ撮影。



自宅に保管しているSummerの楽譜。弾けませんが、何処か懐かしさが募る良い曲です。坂本龍一さんのエナジーフローも載っています。
余談ですが、坂本さんは同じ中学校の卒業生でいらっしゃり、勿論知り合いではありませんが、偉大な作曲家の誕生は喜ばしく学校にとっても誇りでございます。
話がずれました。プログラムの表紙を目にした途端脳裏に浮かんだスパークリング日本酒澪のラベル。夜空に星屑と花を散りばめたような煌めく色彩が重なります。
彫刻の如き美しさを備えながらもどこか間抜けで我儘で、子供を前にするとムツゴロウさん状態になってしまう
様々な魅力凝縮なオーベロンの夢の余韻に浸って乾杯です。