2021年3月30日火曜日

古典の格は崩さずに唸らせる山本隆之さんの解釈と切り口 吹田市制施行80周年・メイシアター開館35周年記念 第186回吹田市民劇場 『白鳥の湖』 3月21日(日)《大阪府吹田市》




3月21日(日)、吹田メイシアターにて吹田市制施行80周年・メイシアター開館35周年記念第186回吹田市民劇場『白鳥の湖』を観て参りました。
監修は大原永子前新国立劇場舞踊芸術監督、芸術監督・演出・改訂振付は新国立劇場バレエ団オノラブルダンサー山本隆之さんです。
http://www.maytheater.jp/series/2103/0321_ballet.html

オデット:米沢唯
ジークフリード王子:井澤駿
悪魔ロットバルト:宮原由紀夫
悪魔の娘オディール:伊東葉奈
王妃:田中ルリ
家庭教師:アンドレイ・クードリャ
王子の友人:石本晴子 北沙彩 水城卓哉
道化:林高弘



米沢さんは音楽を隅々まで使って透き通る美と強さを魅せ、オデットの羽ばたきは実に細やかで漣の如き揺らめきが哀しみを語っているよう。
内向きに蹲ったかと思えばぱっと羽を広げるように大胆さも表し、音楽のちょっとした間や余韻にも忠実な踊りで舞台を牽引なさっていました。
黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥでは珍しくフェッテで少し失速しかけてしまい米沢さんお得意のトリプル盛りのスーパー滑らか回転ではなかった点に驚き
恐らくは沸き上がる大阪名物な手拍子に呑まれてしまったかと推察。しかしさりげなく投げかける視線にすら妖気がすっと宿り
肌を静かに摩られている不穏な感覚が背筋を走って誘惑の罠に今にも落ちそうに。

井澤さんは2月公演『眠れる森の美女』を怪我で降板され、回復が心配でしたが、慎重さは見られたものの丁寧な踊りで場に華やぎを与え無事復帰。
王子の鬱屈感をより明示する演出を体現し、またパ・ド・ドゥでの視線の合わせ方はしっかりと、サポート時の手の置き方も一層落ち着いた所作に見えて
気持ちの込め方も宜しく、パ・ド・ドゥの師範な山本さんの指導も入った成果でしょう。
米沢さんと井澤さんが組んで新国立牧阿佐美さん版白鳥に主演されたのは2018年ですが、それ以前まで(正確には何年までであったかは記憶無く申し訳ない)は
残っていた、王子が過ちの許しを乞う湖畔の場での悲哀を重々しく引き摺るワルツが今回復活。
オデットと王子、そして群舞が交互に囁くように踊る静かな劇的展開を見せて行くワルツで、上演の短時間化における事業仕分けでカットされたであろう
この曲の復活は喜ばしい限り。離れてはくっつく2人の悲痛な叫びの呼応が伝わり、米沢さん井澤さんペアでようやく鑑賞できたのは嬉しい驚きでした。
井澤さんの見るからに王子な容姿は好評であったようで、大阪の皆様にも受け入れていただき初台で毎度観ている者としては一安心。
大阪ではなかなか踊る機会が無かっただけに満員御礼の吹田の劇場でのお披露目となり何よりです。
(記憶の限り私も足を運んだ2018年のクレオ中央大阪で開催されドン・キホーテハイライト3幕バジルやシルヴィア、
英国の水兵さん達がコミカルに踊る某作品にも出演された Ballet Studio Mさんの発表会は貴重な大阪舞台であったのでしょう)

王子の友人トリオの爽やかさも印象深く、快活で明るい石本さん、おっとり優美な北さん、華と安定感のある水城さんとバランスも好印象。
抜群の身体能力で軽やかさも満点な林さんの道化も場を盛り上げ、しかもただ技を次々繰り出すのではなく1幕ではワルツの人々、
3幕では貴族とも語らうように踊り宮廷を纏める活躍で、マイペースそうな王子の優しい相棒な存在感も微笑ましく映りました。
要所要所で場を引き締めてくださったのは田中さんの王妃。長い裾のドレス捌きもお手の物で、威厳ある気高いお姿で登場すると緊張感が走って空気は一変です。

上演前から何かと話題になっていた吉本興業所属のバレエ芸人こと松浦景子さん(けっけちゃん)の3幕道化は
ゴージャスな真紅の衣装に身を包み表情も濃く登場の瞬間から吉本オーラ発散。ただテクニックは盤石で脚力も強そうであり、小柄ながら全身を目一杯使い
舞踏会幕開けを盛り立て、そして宮廷に似つかわしい存在であるようやり過ぎにはしていなかった点も好ましく感じた次第です。
松浦さんは動画配信も多くなさっていて人気シリーズ「バレエあるある」も拝見し笑わせてもらったこともありますが、
最も印象に残っているのは成長期の無理なダイエットの危険注意喚起動画。お母様が熱心な余り学校へ持参のお弁当も
偏った食材且つごく少量であったりと非常に過激な減量を繰り返していたと告白され
ずんぐりむっくり酒樽体型な素人の私が言うのもおかしいかもしれませんが、近年はコンクールや発表会の写真や映像も目に付きやすくその度に感じるのは
成長期であるはずの年齢の生徒さんの細過ぎる身体に、月経不順や怪我の心配を募らせること。
勿論先生によってはきちんとした食事や規則正しい生活の重要性を教えている方もいらっしゃるとは思いますが
男性と組むパ・ド・ドゥやコンクールと諸々事情はあるにせよ、むやみやたらな痩身減量圧力や夜遅い時間までの練習も如何なものかと私個人は思っております。
一時だけは細く綺麗になったとしてもその後の人生のほうが長いのですから。松浦さんの注意喚起が広まればと願っております。

山本さん版白鳥の最大の特徴とも言えるのは、オディールの存在。挨拶文によれば、舞踏会で登場するだけの出番に疑問を感じていらしたそうで、
存在をぐっと強くするためプロローグからロットバルトと共に登場させて嘆き悲しむオデットと向かい合い、妖しい光で支配する流れを構築。
オディールのメイクは一見映画『ブラックスワン』かと見紛う色味に最初は度肝を抜かれたものの、よく見ると薄い青や白、赤を絶妙に重ねたアイラインで
睫毛も光を帯びて青っぽくなったりと過剰に邪悪にならず、頭に付けた羽飾りとの統一感ある色彩で角度によって様々な色合いが覗く工夫が凝らされていました。
メイクデザインは新国立劇場バレエ団の画伯の1人でTシャツも好評であった廣田奈々さんです。
またオディールは2幕の湖畔の場にも出没し、白鳥達の群舞に挟まれた状況に斬り込んでブルメイステル版などで踊られるソロを披露。
オディール役の伊東さんは技術達者でぶれぬ軸の持ち主で空間の使い方にも長け、白鳥達を惑わす不気味なオーラを漂わせダイナミックに支配し
白鳥たちは仲間が踊るときとは異なり顔や身体を背け、怯えや拒絶を体現するポーズへと変化して
オディールの怖さを魔力をくっきりと浮かび上がらせ、常時支配下にある設定が伝わるひと幕でした。
湖畔の場に突如オディールが入ってきたら幻想的な世界観が崩れるとお思いの方もいらっしゃるでしょうがそこは心配無用で、
橙色や水色が何層にも重なる万華鏡のような照明に切り替わってオディールと調和し、違和感が無し。
雪景色の中に突如ネズミ達が乱入して美しい銀世界が台無しに近い(までとは言わぬが)某国立の『くるみ割り人形』とは大違いなわけです笑。
(今年から来年にかけ大晦日と正月も通いますが)

尚、所謂「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」は米沢さんが新国立の妙にすっきりとしたオディールの衣装で踊り、
窓辺にオデットが現れ王子が混乱するときにはプロローグから登場しているオディールが出現し王子を益々惑わしてはさらりと消え去る展開。
王子でなくても目の前で起こっている現象を把握できぬ恐怖感に襲われる、背筋がぞくぞくと冷ややかさが走る演出で
終幕もロットバルトと共に最後までオデットと王子を追い詰めるも遂には愛の力に負け揃って倒されてしまうフィナーレまで
オディールに焦点を当てた斬新且つ古典の流れを崩さぬ切口が唸らせました。

焦点を当てていたのはもう1つ。王子の鬱屈した心や葛藤で、例えばパ・ド・トロワのアントレのワルツが終わり
そのまま平和なヴァリエーションに移るかと思いきや、席に腰掛けていた王子が立ち上がり、晴れ晴れと祝祭感に浸る人々とは正反対に不安そうな表情のまま
大概は1幕の終盤に踊られるソロを披露。薄暗い舞台上で1人きりではなくお祝いに訪れた人々までもが心配そうに見守る中での披露であるため
祝福どころではない鬱々とした内面が広がりを見せて行くような説得力のある演出でした。またトロワがただ登場して踊ってお終いな独立3人組ではなく
アントレの後に不穏な空気を纏って踊る王子を励ますようにヴァリエーションへと移るため人物関係が密接に、物語に一貫性があるとも見て取れました。
そして3幕舞踏会はファンファーレにて王妃とは登場せず、花嫁候補達の登場でようやく王子到着し大遅刻。
しかも王妃に促されながらも俯いた表情で半ば嫌々着席。リアリティがあって面白いと思えた人物造形です。
グラン・パ・ド・ドゥでは民族舞踊のダンサー達も皆立ち上がって前のめりになるように2人に釘付け状態となり、
宮廷全体が摩訶不思議な空間と化していく描写を後押ししていた印象です。

これまでに観た白鳥の湖で最たるレベルであろう照明の色鮮やかさもわすれられず。
オディールとロットバルトが佇む場面には深みのあるルビー色を帯びた色彩が輝き真っ赤な満月かと思わせる月が現れたり
白味が強い光で白鳥達の神秘性を引き立てたり、先述の通りオディールの斬り込みでは橙色と水色を重ねた不思議な色合いを当てるなど
色とりどりの変化に目を見張りました。背景画であっても岩や湖の描かれ方に奥行きがあり、
照明の当て方も加減が自在なのか立体画に見え、これまた驚きの連続。 舞台がそのまま自然の森の湖へと繋がっている錯覚すら起こさせたほどです。

それから、プログラムをよく読まぬまま開演を迎え、驚倒寸前となったのは幕が開き、視界に入ったのは馴染み深い衣装達。
殆どが新国立劇場で上演している牧阿佐美さん版の衣装だったのです。舞踏会の開幕は余りの豪華さに拍手が沸き
2006年11月の初演からかれこれ50回は観ているであろう牧さん版の衣装も見納めと言われている
来月の新国立劇場バレエ団初の東北公演である山形公演『白鳥の湖』を前に鑑賞できるとは、そして関西の方々の着こなしも美しく喜びが二重三重と増幅でした。
更には、1幕のワルツからして皆所属先が違うとは思えぬ一体感に感激。普段活動をしている場所は違っても、
山本さんを慕うお気持ちは共通で心を一つにさせたのでしょう。幸福感が零れる序盤から胸が熱くなった次第です。
大阪で知り合った方や、関西の何かしらの舞台で拝見した方々が舞台に勢揃いし、レッスンでたった1人標準語で喋る管理人にも優しくしてくださった方や
初級クラス受講ながらお上手で見惚れていた方、その他劇場やお食事の席で会話を交わした方やスタジオ公演のチケット申し込み時に
電話で対応してくださったと思われる方など、関わりのある方を目にしては嬉しさが込み上げたり
直接の顔見知りではない方でも関西の舞台で何度も拝見していると勝手に知り合いと思い込んでしまったり(身勝手ですみません笑。関西でバレエ観始めて早15年か)
遠方在住の親類縁者のような心持ちになってしまったのも正直なところです。

カーテンコールには山本さんもご登場。それはそれは爽やか高貴なお姿で「芸術監督」の登場でこうにも興奮したのは、
人生初のバレエ鑑賞である1989年のABT来日公演『白鳥の湖』におけるミハイル・バリシニコフ以来でした。
そういえばこのときも演目は白鳥で芸術監督であったバリシニコフ自らの改訂版。
後々上演の機会はすぐさま減ったようですが、山本さん版はこれからも上演を重ねて欲しいと願ってやみません。
コロナ渦の不安に覆われる中、無事開催しかも満員御礼での上演を心から祝します。
リモート指導に明け暮れるも来日が叶わなかった大原永子先生も、スコットランドのご自宅から祝福を送ってくださっているに違いありません。


2日間滞在しておりましたが写真は順不同でございます。



朝8時、青空を見上げ中之島公会堂を眺めながら目覚めのコーヒー。当日最初の入店客であったのか、暫くはテラス貸切でございました。
公会堂、フェスティバルホール、水路が同じフレームに入る構図で、大阪の建築、水運文化を見て取れるとても好きな風景です。
フェスティバルホールでは2回鑑賞しており、共に新国立の白鳥の湖。2008年にルンキナ、ウヴァーロフを迎えた牧阿佐美さん版、
2019年にセルゲイエフ版踏襲の子ども白鳥を観ており、特に後者は前日頃に公式発表があった急遽の代演王子が忘れられず。
主演変更を知ったのは公演前夜、新幹線の当日券購入して大阪へ行きましたが
地元出身ダンサーの代役として立ち、爽やか真面目な王子や、ええやないかと関西の観客から好評なお声が多々聞こえどれだけ嬉しかったことか。



公園のシンボル、太陽の塔。大阪万博での三波春夫さんが歌う世界の国からこんにちはは今聴いても名曲であると思います。


万博公園入口の床には白鳥の絵。早速吹田の白鳥さんが出迎えてくれました。



万博公園を散策、そして高所好意症のため行ってみたかった万博ビースト。時間ごとに人数を制限しての入場で、年齢問わずシニアでも可との記載あり。
近年は年齢不詳疑惑も益々加速し明治かそれ以前生まれと呼ばれることもあり、こうなったら幼き日の思い出深い出来事として大政奉還とでも言うておきます笑。
それはさておき、3段階の高さが設けられ、一番高い所ではマンションの4階とおおよそ同じ高さに張られたロープや組まれた足場、
ぐら付く場所をさっさか歩く管理人。運動神経皆無者でもお楽しみいただけます。
但し、当日は宿泊先の大浴場にてしっかりと浸かるも翌日は腕が上がらず腹筋が動くたびに痛みが走り笑、私のような年配者はお気をつけください。

ところで大阪でビースト、と言えば昨年末に神奈川県大和市での大和シティーバレエにて宝満直也さん振付『美女と野獣』に主演された
大阪府ご出身で同じスタジオで学んだ山本さんの後輩にあたる福岡雄大さんを思い浮かべるべきなのでしょうが
管理人の中で野獣と言ったら1人しか浮かばず(ここ大阪やでとの突っ込みは受け流します)
しかし!お二方とも作品の振付家の心を捉えたダンサーであること、そして来るべき5月にはローラン・プティ版『コッペリア』にて
山本さんコッペリウスと共演は共通!丸く収まった笑。



梅田にて、こぼれ寿司とハイボール。かっぱ巻の上にどっさりと海鮮が乗っかっています。



公演日の朝は白鳥ラテ。ラテアートが見事であるのはさることながら、苦味とまろやかさのバランスがこれまでに味わったカフェラテで一番好み。



宿泊地界隈に位置する浪花教会。古めかしい建造物が並ぶ閑静な街で、建築観察の案内が銀行の窓ガラスにも貼り出されていました。



公演帰り、大阪在住の方より教えていただいた梅田駅構内のジューススタンド。
階段の隅っこにあり、見逃してしまいそうで教えていただけて幸運でした。季節のあまおうジュースが爽やかで甘く瑞々しい。



公演の無事開催と成功を祝しドイツビールで乾杯。満員御礼で開催でき本当に良かったと心からの祝杯です。



ソーセージとプレッツェル。ビールが進みます。






遡ること12年前2009年5月、東京女子大学での公開講座に山本さんと酒井はなさんが招かれ、白鳥の湖について語る講座が開講されました。
佐々木涼子さんのゼミ主催だったかと思いますが、在校生や卒業生でなくても受講可とのことで私もトンジョ生の気分で
(東京女子大の愛称はトンジョだそうです。身内に卒業生がおります)行っておりました。
メディア取材も入っていて、雑誌『クロワゼ』には後日レポートが掲載されたかもしれません。
新国立バレエ及び日本バレエ史に名を刻む黄金ペアのお2人による
ほのぼの漫才な展開に司会者も受講者も頬が蕩け、それはそれは和やかな講座であったのは今も忘れられません。
踊っても語っても絶妙なパートナーシップでございます。 司会者からの質問で白鳥の湖を振り付けてみたいかとの問いかけに対し
こんな大作を演出するなんてとても、と山本さんは謙遜なさっていた気がいたしますがちょうど干支一回りした2021年、地元大阪にて見事実現。
幸運にも会場に居合わせ私も上演を見届け、人生分からぬものです。
その講座が開催されたのは2009年の5月下旬で新国立劇場では『白鳥の湖』公演が終わった頃、そして次回2009年6月公演の宣伝として
山本さんの後ろ辺りに貼られていたのが山本さんもフランツ役として出演されたローラン・プティ版『コッペリア』1度目再演のポスターでした。(新国立初演は2007年)

時間軸があちこち往来して失礼。干支一回りした2021年、講座のテーマであった『白鳥の湖』演出改訂振付を手がけられた舞台を大阪にて上演
そして今年5月久々の新国立復帰舞台がローラン・プティ版『コッペリア』コッペリウス役。
結果として12年後を予期する講座でもあったのか、不思議なタイミングの巡り合わせに興奮するほかありません。
最後受講者からの自由質問時間にて我が目の前に座っていたバレエサークルに入っている学生さんが挙手。酒井さんや山本さんの視線も当然こちらに向けられ
思わず管理人恥ずかしい余り頭を垂れ下げ、周囲から見れば授業中の居眠り状態な格好であったかもしれず
眠っておりませんお酒飲まされたフランツではありませんなどと心内で口走っていたのだが、
12年後、山本さんがプティ版のコッペリウスとして出演されるだけでなく初日と千秋楽に共演のフランツを思うと、
今考えれば予期する出来事であったのかと回想。干支12年の周期を侮るなかれ、人生分からんものです。

2021年3月23日火曜日

異国交差の歴史物で揃えた春祭り 牧阿佐美バレヱ団 プリンシパル・ガラ2021 3月13日(土)




3月13日(土)、牧阿佐美バレヱ団プリンシパル・ガラ2021を観て参りました。
https://www.ambt.jp/pf-principal-gala2021/
スパイス・イープラスに写真や出演者への。インタビューが掲載されています。大変読み応えある内容です。
https://spice.eplus.jp/articles/283466



ゲネプロ動画



「パキータ」第3幕より
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス
出演:阿部 裕恵
   水井 駿介


阿部さんは可愛らしさにきりっとした強さが加わり、試練を乗り越えて結ばれた経緯が見えてくるヒロイン。
ちょっとした角度の変化も絶妙な位置取りで、客席からの見え方を非常に細かく計算して舞台に臨まれていると思わせます。
水井さんは登場から大変堂々たる姿でいかにも将校らしい勇ましさ、軍服負けしない存在感も頼もしく映りました。
結婚式からの抜粋であっても阿部さんとの語り合いやようやく行き着いた儀式への喜びが聞こえてくるような踊りやサポートも好印象で
滅多に上演されぬ内容が無いに等しい(失礼)結婚式に至るまでの場面もこのお2人ならば成立しそうな気さえいたします。
一新された衣装は主役は白、ソリストとコール・ドは淡い青やピンクで整えられ爽やかな色彩。
それから振付も一部改訂され、2015年のNHKバレエの饗宴にて上演されたアレクサンドロワ・ダニロワと牧阿佐美さん改訂版とは異なって、
観ていて恐怖且つ振付に意味が見出せぬコール・ド一斉フェッテが無くなったのは大変宜しい。
当時に比較すると、おっとり気味ではあったものの呼吸も合って随分と優雅に伸びやかになっていた印象です。



「フォー・ボーイズ・ヴァリエーション」
振付:牧阿佐美
音楽:エドヴァルド・ヘルステッド
出演:坂爪智来、元吉優哉、中島哲也、細野 生

意外と言ったら失礼だが、華やぐ見せ場満載で楽しい作品で何かと勘違いしたのかレッスンウェアのような衣装で踊るかと思いきや
お洒落でクラシカルなデザインの衣装で一安心。 音楽は恐らくは『ナポリ』より抜粋で、跳躍しながらの脚捌きや素早く組むポジションといった、
音楽は豪快繰り出すテクニックは細かい技が多めで 歯切れ良い展開がなかなか爽快でした。
4人集合したポーズから個々のヴァリエーション、コーダののち再び集合で男性版パ・ド・カトルといった趣きです。



「ル・コンバ」
振付:ウィリアム・ダラー
音楽:ラファエロ・デ・バンフィールド
出演:クロリンダ 佐藤 かんな
タンクレッド 石田 亮一

牧バレエでの初演は1977年、暫く上演から遠ざかっていたそうで2005年以来とのこと。
2007年に新国立のバレエ研修所修了公演では修了生の1人大湊由美さんが踊っていらしたとは
耳にしており、イタリアの詩人タッソによる叙事詩『イェルサレムの解放』を元にした中世の歴史物バレエと知っていつか観てみたい作品の1本でした。
脳内に「脚本 ジェームズ三木」の文字が表示するかのような大河ドラマのテーマ曲を彷彿させる音楽が壮大に流れ、
騎乗姿と馬の脚を同時表現するため背筋は伸ばしつつ脚の痙攣が心配になるほどに軽快な動きを見せて行く振付から目が離せず。
佐藤さん、石田さんも背がすらりと高い上に脚も真っ直ぐで美しく、 顔は見えずとも思わずじっと見入ってしまいました。
クロリンダ、タンクレッド共に全編の殆どを兜を被っているため顔の表情では誤魔化せない難しさがある中であっても全身を隈なく使い
勇猛さや思いがけずの恋、決然と迎え討つ姿勢など物語の起伏を表していて、実にドラマに富んだ展開であるため
あらすじの知識を再度頭にしっかり入れた状態でもう1回観てみたい作品です。
そういえば、ヨーロッパにも大河ドラマがあるかは分からぬが、あるとするならばこの辺りの中世十字軍時代(だいぶ長く続いたが)が人気であろうと思った次第。
牧バレヱにはダラー振付『フランチェスカ・ダ・リミニ』もあるそうで、(ヒロインを大原永子さんが踊っていらしたようです)
チャイコフスキーによる、精神が歪んで破裂していきそうな重々しい曲調が好きであるため再演を待ちたいところです。



「ライモンダ」第3幕
演出・振付:テリー・ウェストモーランド(マリウス・プティパによる)
改定演出振付:三谷恭三
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
美術:ボブ・リングウッド
出演:
ライモンダ 青山 季可
ジャン・ド・ブリエンヌ 清瀧 千晴

牧バレエでの鑑賞は2008年に全幕、2012年の第1回NHKバレエの饗宴にて第3幕のグラン・パ・クラシック部分のみ鑑賞。
饗宴は上演作品のスケールや質が恐ろしいほどに高かった他の団体に比較すると不発失速に終わった感があり、ノーカウント状態にありますが(失礼)
全幕をゆうぽうとで鑑賞した際には全幕日本初演を遂げたバレエ団としての誇り感じさせ、まずまず良かった印象です。

青山さんは細身な身体であっても決めるべきところでしっかり決めるメリハリがあり、踊り込んでいる分、余裕すら感じさせる気高い姫君。
後にも述べますが、ライモンダの衣装とグラン・パ・クラシック女性陣の衣装の色味やデザインがほぼ同じで頭飾りも簡素なため
主役らしい存在感を示すのが困難なはずが、登場しただけで他を圧する輝きや貫禄をこれでもかと見せ、背中で引っ張る力が実に頼もしい姫でもありました。
清瀧さんはジャンにしては幼いイメージが先行しておりましたが心配無用で、跳躍も1つ1つに張りがあり青山さんと目を合わせながらの表情の付け方も宜しく
失礼をお許しください。1幕からの流れが無くいきなり結婚式であっても身体全体で晴れがましさを表していて心から拍手。
聴いているだけでも心が高揚せずにいられぬ潔い前奏曲に始まり、チャルダッシュやマズルカの人々がそぞろ歩きながら登場して整列する幕開けから壮観。
グラン・パのみならず3幕丸ごとの上演は大きな喜びです。コーダもバレエ団や版によって振付はまちまちですが、チャルダッシュからマズルカ、
そして主役もグラン・パも総登場で舞台を埋め尽くす振付を取り入れているため、何度観ても胸熱くなる光景でございます。
そういえば、アンドリュー2世とドリ伯爵夫人が『ル・コンバ』でヨーロッパとサラセンの戦乱の中での悲恋に身を投じる男女を踊られた石田さんと佐藤さん。
にこやかな笑みを湛えておしどり夫婦なご様子で登場され、似た系統の作品からの不思議な、しかし嬉しい流れに頬が綻びました。

先述の通り衣装はやや渋めの色を帯びたデザイン。装置は重厚でベルベットの質感が伝わる大掛かりなもので、幕開きは仰け反りそうになりました。
ただ1点気になったのは背景の騎士たちの集団戦画で、ジャンが1216年に始まった第五回十字軍に遠征した実在する人物である背景を考えると
絵に描かれている精巧なプレート系の甲冑がどうも目新し過ぎる気がしており、もっと後の時代の開発であろうと想像。
当時の時代にはより忠実であろうバケツ型兜に鎖帷子よりは立派な印象を与えると同時に
「十字軍」「中世騎士の時代」と大枠で捉えればまあ良いか。大河ドラマでもあるまいし、あれやこれやの中途半端な時代考証はさておき
今や過労が不安視される首都圏のバレエ界一多忙な冨田実里さんによる指揮も今回はとても気持ち良く感じられ
特に前奏曲が勇壮さと品のある響きが上手い具合に溶け合い、序盤から歴史絵巻の世界へと一気に引き寄せてくださいました。

公演名はガラでもパ・ド・ドゥ一挙上演ではなく民族舞踊も含めた丸ごと3幕や叙事詩を元にした作品まで、バレエ団が初演した作品や
国内では牧バレヱにしかないレパートリーもあり、自信を持って届けた
そして偶然なのか異国間の人や文化が交差する歴史物作品が揃った質の高い公演でした。





帰り、南仏の白ワインで乾杯。食文化もまた、十字軍時代にイスラムからヨーロッパに持ち込まれたものが多くあった歴史を思い出しつつの1杯でございます。

2021年3月20日土曜日

【待望の復帰】【奇跡の共演】新国立劇場バレエ団5月公演ローラン・プティ版『コッペリア』山本隆之さんコッペリウス役で登場!!!

※ご訪問いただきありがとうございます。公演は四キャスト分無観客無料配信となりました。詳しくはこちらからどうぞ!
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/coppelia/


先日、大変嬉しいニュースが発表されました。今年5月に上演される 新国立劇場バレエ団 ローラン・プティ版『コッペリア』に山本隆之さんがコッペリウス役で出演されます。
ダブルキャストで、もう1人は中島駿野さんです。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_019814.html





山本さんは久々の新国立復帰で、2014年の『シンデレラ』義理の姉以来。言わずと知れた、バレエ団で長らく主役を張っていらしたダンサーであり
昨年の『ドン・キホーテ』ではバジルが自前で6人登板するなど現在のバレエ団の主役級男性ダンサー大豊作な状況からは信じ難いかもしれませんが
10年ほど前まではどの作品でも自前で主役ができる男性ダンサーは山本さんお1人時代が長く続き、
シーズン通してゲスト契約を結んでいたデニス・マトヴィエンコを始めゲスト頼みな時期が続いていました。
古典からコンテンポラリーまで数多く主演を務められ、バレエ団への功績度は計り知れません。

プティ版のコッペリウスは初挑戦でいらっしゃいますが、コッペリア人形とのダンスやシャンパンでの乾杯、
フィナーレでの悲しみに暮れた姿がそのままで幕が下りたりとコッペリウスに焦点が当てられた演出であり
他の版とは一味異なる、軽妙ユーモアでありつつ洗練されたダンディな紳士な人物を造形されると思うと今から楽しみでなりません。
間違いなく絵になるお姿でしょう。
プティ作品では『こうもり』『コッペリア』どちらもバレエ団初演に携わり、プティさんから直接指導を受けられた経験をお持ちです。
こうもりのヨハンは名盤と呼ばれているらしいデニス・ガニオより色気たっぷりな伊達男でございました。

外部の舞台でのコッペリウスは何度か拝見しており、2016年のびわ湖ホールでの公演ではプロローグからコッペリウスの工房が現れ、
人形作りに勤しむ姿が絵本のページを捲るように物語の世界へと導いてくださいました。
そうかと思えばフランツとのバトルも迫力で、バーテンダーのようなシェイカー捌きでノリノリだったり睡眠薬注入が成功すると
運搬してきたベッドにきちんと寝かしつけるなど逆介護な展開にも笑わずにいられず。

徳島ではスターウォーズのキャラクターもたじろぐであろう特殊級メイクな老年男性で、端正な素顔が全く分からず大化けで笑
化学実験のような装備でフラスコ用いて薬作りに打ち込んだり フィナーレでは修理代が入った袋を受け取り市長がまだ持っている様子を目にするなり
欲しいとせがんで結果2袋入手する欲張りお爺さんでしたが、両公演とも、最後大団円ではバルコニーにてジョッキを掲げて祝杯を上げたりと
細部に至るまで笑いと哀愁の要素を詰められ、何倍にも面白く厚みある舞台にしてくださいました。

中島駿野さんの抜擢も嬉しく、『竜宮』時の案内人での力強く筋運びの鍵を握る姿や『ドン・キホーテ』若いが頑固なロレンツォお父さんも好演で
着々と力を付けてきている期待度の高さが窺え、新国立史上最年少のコッペリウスかと思います。実に楽しみです。

さて山本さんコッペリウス話に戻りますが発表当日、管理人宛には誕生日以上に祝福のご連絡そして生存確認連絡をいただきました。
山本さんがコッペリウス、待っていましたとの声がたくさん入り、まずは山本さんの待望の復帰の喜びを分かち合った次第です。
勿論、山本さんコッペリウスの登場だけでも嬉しいのですが、そうです。遂に願い続けてきた山本さんと渡邊さん奇跡の共演実現が!!
もう楽しみで楽しみでなりません!!!
写真の並びを見てはこれは私が勝手にホームページを操作したものではなく(出来るわけありません笑。あっ、エイフマン版アンナ・カレーニナでは
理想配役として我が携帯の中で1人黙々と切り貼りレイアウト作業はやりましたが)
吉田都監督の采配かと思うと、感激どころではありません。初共演ですが、役への入り込みや表現の深さ、インタビューではパ・ド・ドゥがお好きであると
仰っているなど共通項はいくつも浮かび、舞台上で生じる化学反応はいかに。同じ舞台に立たれる日が今か今かと待ち切れずにおります。
追加・それからそうでした、お二方とも雑誌きものサロンにて着物モデルもなさり(山本さん2014年、渡邊さん2018年)
山本さんは色気漂う明治の文豪、渡邊さんは大正か昭和初期の古式ゆかしい若旦那(朝ドラ出演も違和感無さそう)、といった趣きで
印象こそ違えどお二方とも渋く男前な着物姿を披露なさっていました。(心臓印)

ある友人からは「天地東西各方面に感謝して正しく暮らすように」との忠告も入り
仰る通り、極上の幸せを当日味わうためにもまずは自身の生活をしっかりせねばと背筋が伸びる思いがいたしました。
5月が近づいたら、私も気分高めてスワニルダ風に前髪切り揃えにするか、するわけないが笑。

山本さんは3回中2回が渡邊さんフランツと、もう1回は同じスタジオ出身の後輩福岡さん。ここ数年も共演舞台は関西や四国では度々拝見しておりますが、
新国立劇場となればやはり格別。阿吽の呼吸が更に増幅して楽しく濃い舞台となる予感大です。

ところで、2017年にテレビ放送された前回公演の『コッペリア』録画を先日見直しておりましたが、諸々懐かしく思い起こされ
そうであった、当時はまだひっそり虜になっていた渡邊さんを衛兵達の中から見つけようと人生初コール・ドの中からお目当ての男性ダンサー探しを行い
鍔付き帽子に全員付け髭で分かりにくかっただけ発見時の喜びといったら言葉では言い尽くせず。また周囲の殆どには黙っておりましたため
1人ひっそりロビーで手を合わせて嬉しさを噛み締め、力を入れ過ぎたのか強く押し当ててしまったために
目に双眼鏡の跡がパンダの如く付いてしまったことも良き思い出でございます。衛兵達の中でもスワニルダのサポート代表隊員な出番を始め序列はありそうで
恐らくは福田圭吾さんが隊長、中家さん渡邊さんは副隊長あたりかと想像を巡らせていた当時が脳内を過っていきました。

それにしてもフランツには人差し指で頬をツンツンされ終盤にはお姫様抱っこまで、コッペリウスとは一騒動起こしつつも素直に踊れば大いに喜ばれ
予期せぬ行動に出てもなだめてもらい終盤ではシャンパンラッパ飲み。 ぬぬ、2人に求愛される世界一幸せに違いない小野さんスワニルダよ!!!

話がシャンパンの泡の如く弾け飛び失礼。今週末まずは心を落ち着けて、山本さんが芸術監督を務められた大阪府吹田市での『白鳥の湖』観て観て参ります。
そういえば、私が初めて観た吉田監督の舞台は初台と同じ沿線に位置する東京都調布市で開催された1997年『コッペリア』でした。当時の話はまた追って
出演者欄には後に新国立に入団する方のお名前もあり、チラシも手元にあるはずですので5月公演の頃にでも紹介したいと思っております。

2021年3月16日火曜日

異例の企画に喜ばしい人選 日本バレエ協会 コンテンポラリーとクラシックで紡ぐ眠れる森の美女 3月6日(土)7日(日)




日本バレエ協会公演コンテンポラリーとクラシックで紡ぐ眠れる森の美女を2日間観て参りました。例年はこの時期文化会館での協会公演は全幕物上演ですが
今年は現況でも実現できる企画として、前半は遠藤康行さん振付コンテンポラリーLittle Briar Rose(いばら姫)、 後半は篠原聖一さんによる古典(オーロラ姫の結婚)を上演です。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2021都民芸術フェスティバル参加公演/

ダンススクエアに多数の舞台写真付きの記事が掲載されています。当たり前ですが当ブログより遥かに分かりやすい説明ですので、是非ご覧ください。
https://www.dance-square.jp/jbes1.html

プロの優れた執筆を読んだ後であっても素人の欠陥多数な文章を読む気力のある方は以下ご覚悟と忍耐の上、どうぞお読みください。


※キャスト等バレエ協会ホームページより抜粋

【第一部】 Little Briar Rose(いばら姫)

音楽:ピョートル・チャイコフスキー 他
振付・構成・演出:遠藤 康行
美術:長谷川 匠
音楽監修:平本 正宏
衣裳:朝長 靖子
バレエ・ミストレス:梶田 留以
アシスタント:原田 舞子

Cast
オーロラ:木村 優里
王子:渡邊 峻郁
カラボス<マジシャン>:高岸 直樹
梶田 留以 金田 あゆ子 木ノ内乃々
柴山 紗帆 原田 舞子 石山沙央理

石原 一樹 磯見 源 上田 尚弘 岡本 壮太 南條 健吾
小幡 真玲 南 帆乃佳 田代 幸恵
井後麻友美 海老原詩織 橋本まゆり


コンテンポラリー版いばら姫は、待っているだけでない能動的な姫と誠実そうな王子が出会い、
ローズアダージオとほぼヴァイオリンソロの間奏曲を使った濃密で長いパ・ド・ドゥを軸に出会い、試練を経て結ばれるまでを展開。
要所要所にカラボスや6人妖精も絡み、凝縮版として面白味のある作品でした。

オーロラ姫の木村さんはワルツを踊る人々の中へ序盤から好奇心旺盛な様子で入って行き、今回の版で遠藤さんが理想とする能動的な姫像をくっきりと造形。
大概の人ならばコスプレ大会での大コケ姿露呈状態となるであろう奇抜にもほどがある紫やピンクがかった三つ編みの鬘や
かぼちゃ型を模したパンツの衣装でも着こなせていたのは木村さんの生来の可愛らしく麗しい、抜群に長い四肢からなる容姿だからこそでしょう。
一瞬度肝を抜かれましたがフィギュアのようにも見え、それだけさまになっていたわけです。
コンテンポラリーはまだそう経験豊富では決してないはずですが、錚々たるダンサーに囲まれても埋没せぬ姿にも驚きを覚え
しなやかに動く身体が熱を帯びて観客の目を吸い寄せる魅力を示し、このオーロラと同様恐れずに飛び込んでいくチャレンジャー精神に天晴れでした。

渡邊さんは銀髪銀色スーツでこれまた大仰天でしたが、お詳しい方々曰く宝塚歌劇団で見られるようなデザインでも着こなす容姿は稀少であるとのこと。
(実は管理人、宝塚の舞台鑑賞未経験ですぐさま思い浮かばず。一昔前の歌謡歌手だの頓珍漢な例ばかり挙げており大変失礼いたしました)
衣装話はこの辺りにして、出演者の殆どが舞台上に集まり床に伏せた状態で始まる花のワルツ序盤から軽やかさと強さが共存し
手脚の長さを持て余さず無駄なく駆使していく身体の使い方と言い、抜きん出たレベルにいらっしゃると見て取れ
淀みない流れの中でいつの間にか跳躍し宙を舞っていた瞬間も多数。 トゥールーズのキャピトル・バレエ団在籍時代におけるコンテンポラリーも
大変経験豊かな方でありながら新国立劇場での公演では滅多にご披露の機会がなく、約40分踊り通しのお姿を拝見でき感激もひとしおです。

更にはただ身体能力を駆使するにとどまらず、今回の公演テーマの文字通りコンテンポラリーで物語を紡ぐ力にも驚倒。
勿論、バレエ団公演で好評を博している組み慣れた木村さんとの相性の良さもさることながら
オーロラ姫のほうが見た目も、古典とは違った役の解釈で重みが置かれていると思いがちな作品の中でも
姫との出会いにおける立ったまま向かい合っているだけでみるみると感情が押し迫るように高揚する様子が伝わり
カラボス達から逃れようと走っていく姿はなかなか独特のフォームでしたが笑、走行姿はともかく音楽に対して身体の反応がいたく敏感で
一瞬一瞬において残る鮮烈な余韻にも身震いするほどに感激。
混沌と入り乱れた設定の舞台上でも物語を牽引し突き動かす人物として確立し、古典のようにリラの精による舟の送迎もお膳立てもなく身体を張って立ち向かい
打ち負かされそうになっても尚めげすに突き進んでいく心理や状況描写も的確で
最初は目を疑ってしまった銀色スーツどころではもはやなくなったくらいです。

さて、協会公演でもやります髪型観察。今回は銀髪な異例事態となりましたが二重丸。
自然な分け目でペッタリ具合も無し、難しい色合いでもきらっとした銀がまた良かったのでしょう。
王子であり若く溌剌とした青年にも見え、『ロメオとジュリエット』パリスを除いては黒髪の印象しかない
しかもお醤油顔ながら銀でも映えるのは容貌がいかに端正であるか再証明しているといって過言ではないでしょう。

作品の核となっていた見せ場がローズ・アダージオとヴァイオリンほぼソロの間奏曲を用いた2つのパ・ド・ドゥ。
前者は出会って間もないオーロラと王子の距離感が一気に縮んでいくさまを壮大に描き、オーケストラの楽器総動員な仰々しいほどにスケールのある
本来は姫の友人や両親、求婚者達、貴族達、と立ち役含む大勢の出演者に囲まれた豪華な誕生会に似つかわしい音楽を
舞台上でたった2人であっても冗長さを感じさせずに作り上げた力量にまず賛辞を送らずにいられず。
しかも身体を濃密に絡ませたり、危険そうなリフトや構造が見えぬ複雑なサポートも多岐に渡る振付ながら木村さんが無防備に飛び込んでいったり、
どの場であっても盤石に受け止め場合によっては背中に乗せたままそのまま走る箇所も興奮が噴水のように溢れる王子の心の内側を覗かせるように
サポート姿でさえも渡邊さんは美しく魅せ、力んでのサポートや頑張って走っている感も皆無でお2人の実力と互いの信頼感の結晶と想像。
曲の起承転結といよいよ結ばれる姫と王子のときめき感が調和し、物語の流れの鮮やかな表現に息を呑むしかありませんでした。

間奏曲はライト版やウエストモーランド版、イーグリング版など英国系列の演出では目覚めのパ・ド・ドゥとして使用されていますが
混沌とした世界が過ぎ去った後の安堵と愛情を確認しあう空気感を柔らかく描き、古典におけるお2人の目覚めも過去に鑑賞しておりますが、
空間を大きくより自由度が高まった今回のパ・ド・ドゥも宜しく、最後は王子が姫を抱いたまま幕。そして第2部『オーロラ姫の結婚』へバトンを繋いだのでした。
ふと思ったが、渡邊さんならば新国立劇場エメラルド・プロジェクトで上演され高い評価を得ながらも一度も再演されていない
ドミニク・ウォルシュ振付『オルフェオとエヴリディーチェ』ができると思っており
第2幕には互いに目を合わせてはならぬ極限状態で踊る20分以上に及ぶ壮絶なパ・ド・ドゥが用意され
パ・ド・ドゥ名手の渡邊さんならば物語の世界やオルフェオの心理を深く描きながら出来ると確信しており、いつの日か観たい役柄です。


カラボスの高岸さんは元々の上背が威圧感と共に文化会館入口からも見えるスカイツリーの如き巨大な存在感。
黒く豪奢な衣装に負けぬ堂々たる立ち姿で、身体もまだまだ俊敏に動き、姫や王子に容赦なく試練を与える、誰も勝てそうにない強敵カラボスでした。
尚高岸さんの責任ではありませんが、マジシャンの呼び名の由来が今一つ分からずであったのが心残り。

妖精達の配置もユニークで、古典ではオーロラの赤子時代にしか勢揃いしない6人の妖精達がパ・ド・シスの音楽に乗せて、
オーロラに寄り添い、オーロラも興味津々に幸せそうに恵みを受け取るやり取りにも注目。
またただ魔法を優しくかけるだけでなく、カラボスの奇襲から逃れようと奮闘する姫と王子を囲い守る勇ましい戦士な役割も。(セーラームーンか笑)
リーダー格が紫であるのは古典からの踏襲で分かりやすく、それぞれ赤や緑、青など色とりどりのワンピース風衣装でお洒落な装いと映りました。
髪型も体型もそれぞれ自由で専門舞踊も皆異なっていても自然と和を保つ、不思議な魅力も堪能です。

それから最も危惧していた遠藤さんの振付名物、謎の長き静謐時間が今回は抑え目であったのは幸い。
2018年に新国立劇場で開催され遠藤さんが主に振付指導にあたっていらしたジャポン・ダンス・プロジェクト『夏ノ夜ノ夢』2幕の約半分が
無音の中で出演者が「ブハッ」と息つぎする展開で、コンテンポラリー不慣れな私がいかんのだが、せっかく心から虜になっているダンサー出演舞台
しかも間近で下着1枚衣装でありながら、本来ならば崇めて拝んで鼻血が心配な状態になろうはずがとても至らず苦行に近い鑑賞となってしまったのでした。
しかし今回も似た路線の場面はあったもののそう長くは無く、また上から降りてくる装置を各々取り外し
フラフープのように持っては床に倒れ顔にフェイスカバーのような布を被せるといった
意図は深くは理解できすとも、実体が未だ解明されずにいるウイルスによる支配や抑圧に苦しむ今の時代に語りかけているとも捉えられる展開で、
遠藤さんによる現代社会の鋭い描写が私の目や心にもすっと入り、集中して鑑賞。苦行と呼び失礼極まりなかった笑、3年前とは大違いでした。

※ご参考までに、当時の舞台の様子が気になる方はこちらをどうぞ。

オーロラ姫と王子の出会いに一捻り加え、眠りの御伽噺な世界観はそのままにチャイコフスキーと平本さんの音楽を切り貼り感なく合わせ
現代の問題を無理矢理ではなくさりげなく問いかけるような要素も組み込んで展開する
斬新でありつつも普段バレエを中心に観ている私のような客層も変に肩肘を張らず、すんなりと入りやすいコンテンポラリー作品でした。

ところで、このところ渡邊さんは今回の王子や、2月公演のデジレ王子にしても、戦闘能力が頗る抜群そうな王子とは言い難いのだが
過去には今回のプログラムの出演者紹介ページの舞台写真にも載っているベジャール版『火の鳥』や(新国立での写真を希望するお声もあるでしょうが私は嬉しい)
『海賊』スルタン、『美女と野獣』野獣など、近寄り難く豪胆な人物やいたく雄々しい役柄も数々踊っていらっしゃり
中でもスルタンは泣く子も黙るおっかなく冷酷な、素手でねじ伏せられそうな暴君で
これまでに観た歴代の悪役敵役ではボリショイのゲディミナス・タランダのアブデラーマンに並ぶインパクトで初めて映像を目にした日は大事件勃発な1日、
当時20代前半であったご年齢も到底信じ難い衝撃であったのは事実で貫禄や凄みをいかにして体現なさっていたのか疑問が絶えず沸き続いたのは事実です。
弱小ヒーロー(失礼)から正反対の一癖も二癖もある悪人まで、 役柄の引き出しが多く振り幅が広い魅力に再度興奮を覚えた次第でございます。




【第二部】 オーロラ姫の結婚

音楽:ピョートル・チャイコフスキー
振付・構成・演出:篠原 聖一
振付補佐:下村由理恵
バレエ・ミストレス:佐藤真左美

Cast
<オーロラ姫>  酒井 はな(6日) 寺田亜沙子(7日)
<デジレ王子>   橋本 直樹(6日) 浅田 良和(7日)
<リラの精>   平尾 麻実(6日)  大木満里奈(7日)
<フロリナ王女> 清水あゆみ(6日) 勅使河原綾乃(7日)
<青い鳥>    荒井 英之(6日) 高橋 真之(7日)
<白い猫>     岩根日向子(6日) 寺澤 梨花(7日)
<長靴を履いた猫> 田村 幸弘(6日)  江本 拓(7日)
<赤頭巾>     橋元 結花(6日) 清水 美帆(7日)
<狼>       荒井 成也(6日) 小山 憲(7日)
<王妃>      テーラー 麻衣
<フロレスタン王> 小林 貫太
<式典長>     奥田 慎也

<宝石の精>
大山 裕子 玉井 るい 吉田 まい ヤロスラフ・サレンコ(6日)
渡久地真理子 古尾谷莉奈 渡辺 幸 加藤 大和(7日)
<マズルカ>
青島 未侑 金海 亜由 金海 怜香 栗田 陽南
小林 由枝 染谷 智香 須貝 紗弓 中村 彩子
深山 圭子 細井 佑季 宮本 望 山内 綾香
石原 稔己 オリバー・ホークス 川﨑 真弘
草薙 勇樹 小林 治晃 高橋 開 竹本悠一郎
秦野 智成 安田 幹 安中 勝勇(以上両日)
加藤 大和 小山 憲(6日)
荒井 成也 田村 幸弘(7日)
<貴族>
大塚 彩音 小野田奈緒 佐藤 愛美
田代 夏花 寺坂 史織 野澤 夏奈
八木真梨子 林 彥均


古典版は第3幕「オーロラ姫の結婚」。3年前に札幌での旧北海道厚生年金会館(ニトリホール)閉館公演にて篠原聖一さんが国王役で出演された
結婚式場面を鑑賞しておりますが、篠原さんが関わっていらっしゃるためか似た路線の演出で、王道なる絢爛な式が繰り広げられました。

オーロラ姫の酒井さんは幕開けの登場時に腕を掲げたときから花を開かせるように艶やかな風を起こし、気品香り立つ姫君そのもの。
特に国王と王妃や貴族達全員に目配せをして祝宴を更なる纏まりへと繋げ、舞台の格を増幅です。
ただ、私が酒井さんのオーロラといえば舞台でも写真でもマリインスキー系の版で見慣れているせいか
今回のロイヤルスタイルはやや違和感があり、いつもの大輪の花の如き晴れやかなステップは抑えめであったかもしれず
ヴァリエーション冒頭でもパッセではなくダイナミックなアチチュードのポーズで引き込む姿が観たいと思わず欲が募ってしまったのは正直なところ。
そうは言っても先述の通り、宮廷の人々との視線の交わしや指先から幸せの花々が零れ落ちるような幸福感は酒井さんのオーロラの真骨頂。
至福のひとときであったのは間違いありません。光沢のある白い布地にピンクの薔薇が添えられた衣装もたいそうお似合いでした。

橋本さんのデジレ王子は昨年のバレエ協会全幕『海賊』に比較すると酒井さんとの呼吸の合い方に少々ずれを感じたのは否めずでしたが
からっと明るい王子を造形。貴公子系よりもキャラクターの濃い役の方が本領を発揮なさるタイプであるのかもしれません。

寺田さんのオーロラ姫は初見。すらりとしたスタイルに新国立きっての華やかな美貌の持ち主で、姫の中の姫も観てみたかったため期待を持ち過ぎてしまったか
内側からの煌めくオーラよりも不安や緊張な胸の内が露わになってしまっていた印象で、ハラハラと手に汗握る箇所がいくつもあり。
しかし天性の美しさから醸し長い腕が柔らかに描く優雅さや、威風堂々とはまた違うほのかな恥じらいも覗く愛らしさにも魅せられ、貴重な舞台を堪能です。

浅田さんは当初心配していた寺田さんとの身長差はそう感じさせず、パ・ド・ドゥにおいてサポートや立ち位置微調整が上手い対処の効果なのでしょう。
寺田さんの手が長い条件もあって、手先が床に付きそうな状態に一旦なってしまってから浮き上げて止めていた
誠にスリル満点なフィッシュダイブ以外は手堅く纏め上げていらっしゃいました。

リラの平尾さんは役の経験も豊富そうで、出から宮廷を司る妖精らしい統率力を明示。
マイムの間も絶妙で、挿入されたプロローグのヴァリエーションの滑らかに歌うような踊りに魅了され、対する大木さんはにこやかな笑みと長くすらりと伸びる手脚が描く軌跡の美で祝福感を後押し。
お2人とも紫と銀で覆われた豪華な頭飾りや細かい装飾で彩られた衣装もよく合って好印象です。

両日目を見張ったのは白い猫と長靴を履いた猫で、岩根さんと田村さんは登場から達者に繰り返すパ・デ・シャも見事なほんわか仲良しな猫ペア。
寺澤さんと江本さんは隙あればいたずらの応酬が止まらぬ仕掛け満載な楽しいペアでふと静まった瞬間も何をするか面白く観察し
両ペア共通していたのは、宮殿のソファやクッションにて寝転んだりじゃれ合っていそうな品を備えていたこと。
貴婦人や紳士を模した衣装を着るに相応しい猫さん達で、岩根さん寺澤さんは白鬘も違和感皆無な容貌でした。

宝石は玉井さんが頭一つ抜けた洗練された存在感で、力みのない 跳躍やダイヤモンドのカラットを思わせる立体感ある身体の見せ方も秀逸。
協会公演での毎度楽しみな方のお1人、渡久地(とぐち)さんの鮮やかできりりとした踊りも惚れ惚れいたしました。
宝石女性の衣装も宜しく、クラシックチュチュにきらりと光る素材が散りばめられた明快且つ派手過ぎずされど華やぐデザイン。
目は慣れてはきたが、某国立も参考にしていただきたいと願います。 (宝石より先に青い鳥が要早急案件ではあるが)

話が青い鳥の如くあちこちに飛びますが、冒頭で述べたように3年前に旧北海道厚生年金会館(ニトリホール)閉館公演にて篠原聖一さんが国王役で出演された
結婚式場面を鑑賞。概ね似た路線ながら今回篠原さんの改訂によって違う点もありました。
特徴として共通していたのは、国王と王妃や貴族達が童話のキャラクター達を出迎える前に披露するサラバンド。
王朝の栄華を悠然と漂わす効果大で宮廷世界への入り込みに一層繋がっていき、札幌以外でも是非取り入れた演出を観たいと願っていただけに嬉しい共通点でした。
対して異なっていたのはオーロラ姫とデジレ王子登場のタイミングで、札幌では最後の最後グラン・パ・ド・ドゥの段階になって
ようやくの登場でしたが(首を長く長くして待っていた当時を回想)
今回は幕開けに勢揃いしたところで登場。セルゲイエフ版などに見られる、新郎新婦が早々に登場して
赤頭巾ちゃんや青い鳥達始め客人達をお迎えする、私が好きな演出に少し近い形でこれまた喜びでございました。

それから札幌では宝石は女性のみで、シンデレラと王子の踊りが有り。(哀愁がじわりと滴るような曲調がいたく好みですが近年は省略が多く、少々残念。
近年の傾向である上演短時間化事業仕分け真っ先の対象となるのでしょう)
他にも細かな箇所で諸々あるとは思いますがそうでした、今回はアポテオーズにてオーロラ姫とデジレ王子がマント装着。
札幌でも装着ありで観たかったとの欲は尽きませんが終わってしまったものは仕方ない笑。
※札幌での公演の様子が気になる方は、ご参考までにこちらをどうぞ。 恒例旅日記付きでございますが、クラーク像のある羊ヶ丘展望台には僅か10分滞在、
徒歩ではなく基本小走りでないと間に合わぬ欲張りスケジュールでございました。このとき以降北海道は基本日帰りは無し、と心に決めたものです。

今回の話に戻します。昨年2020年は眠り初演から130年を迎えたためか、昨年から今年にかけて、国内団体による眠り上演が相次いでいる気もいたします。
毎度クラシックの全幕上演が恒例である2月や3月のバレエ協会公演と趣向を変え、例年にはない構成でしたがむしろ喜ばしい人選もあり。
現況だからこそ成し得る公演企画が結果として良い方向へ作用した公演で
しかもコンテンポラリーでは出会いと試練を、古典では結婚式を描き出し第1部からの流れを汲む物語進行形式は斬新で面白味も十二分。
発案に拍手を送りたい思いです。

来年3月の協会公演はユーリー・ブルラーカ版『パキータ』全幕を予定との告知あり。内容が無いに等しい1幕をいかにして描いていくか
15年前のパリ・オペラ座来日公演でラコット版全幕を鑑賞していながらいざこざがあった点やペンダントが鍵となっていた程度にしか
前半の内容は覚えておらず、今から心待ちにしております。




『いばら姫』カーテンコールには撮影時間が設けられ、両日発表会でいえばカメラマンさんが腰掛けるであろう辺りにに着席していながら
我が撮影技術の劣り具合が益々進行しているのか良作なかなか撮れずで悪しからず。舞台の様子の参考までに数枚紹介いたします。






遠藤さん、ご登場。






2日目はズーム中心。






2日間とも、客席開場前にはいばら姫の美術を担当された長谷川匠さんによるギャラリートークもあり。説明を踏まえて鑑賞するとより面白味が高まり
模型製作時は客席も作って観客からの見え方も計算している点や、出演者側からも見ても舞台の世界に浸っていられるよう
裏側まで立体感のある作りにしているなど(もし聞き間違いがあったらすみません)心掛けていらっしゃることを説明してくださいました。
プロフィールによれば1985年生まれとのことで、舞台芸術の美術担当をなさっている方の中では大変お若い年代であるかと思います。



2018年新国立劇場で開催されたジャポン・ダンス・プロジェクト『夏ノ夜ノ夢』パネル。パネル下部の写真、
オレンジ色の衣装を着ていらっしゃるのがライサンダーの渡邊さんです。



『夏の夜ノ夢』模型。きらきらと光る鏡板の吊るしは今もよく覚えております。当時は終演後、舞台装置のみ撮影時間が設けられました。
今回の展示も撮影自由で、長谷川さんが手掛けた昨年末に大和シティーバレエで上演された『美女と野獣』模型も展示されていました。



『いばら姫』模型。長谷川さんは大変気さくでチャーミングな方で、自らペンを手にサインしますと呼びかけていらっしゃり、私もいただきました。
名前も入れてくださるとのことで、苗字を申し上げたところローマ字で綴ってくださいました。
またジャポンも鑑賞していたことも伝えたところ喜んでくださり、そして質問を受けたわけでもないにも拘らず目当てのダンサーについて
つい話してしまい笑、プリンシパル昇格や今回も大活躍である旨を語ってくださり長谷川さん、この度はありがとうございました。
余りに好きな映像があるゆえに鑑賞を見送った昨年末の『美女と野獣』、再演時は美術含めじっくりと拝見いたします。
※今春、もしかしたら同名のバレエは関東外で鑑賞する機会があるかもしれず、その際は詳しく感想お届けいたします。




2日目開演前、上野駅アトレにてローズハイボール。脳内はチャイコフスキーの音楽のみならず、マイク真木さんの名曲も旋回です。半券の絵もロマンを誘います。




初日開演前、薔薇色に近いであろうと苺カクテルを注文。予想通り、薔薇が詰まっているような色彩です。



酒井はなさん、そしてコンテンポラリーを踊る渡邊さんにも興味を示し来場してくださったムンタ先輩と。
管理人のスパークリングワイン、表面張力で耐えうるギリギリまで注いでくださいました!



2021年3月11日木曜日

白河が生んだ偉大な芸術家 井上バレエ団2月特別公演 関直人を偲ぶ 2月28日(日)




2月28日(日)、井上バレエ団2月特別公演 関直人を偲ぶ を観て参りました。
http://inoueballet.net/information/index.php

ダンススクエアに、多数の舞台写真と解説が掲載されています。当ブログより遥かに分かりやすい説明ですので(当たり前だが)どうぞご覧ください。
https://www.dance-square.jp/isy1.html


ゆきひめ
曲:ワーグナー
原案・振付:杉昌郎
振付:関直人
指導:吾妻徳穂
バレエミストレス:鶴見未穂子

ゆきひめ:花柳和あやき
若者:荒井成也
雪の精:大長紗希子 野澤夏奈

小泉八雲『雪女』を下敷きにした作品。雪の夜に路頭に迷った若者を哀れみ、掟を破って殺すことをやめるだけでなく若者に対して恋心を募らせ、
出会いを内密にする約束を破った若者の命を再び奪おうとも躊躇するゆきひめの苦悩を切々と描いています。
ゆきひめを日本舞踊家が務める版とバレエダンサーが務める版両方が作られ、今回は前者。
ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』音楽を用いた和製ジゼル、日本を舞台にしたロマンティック・バレエといった趣です。
花柳和さんは滲む厳しさが次第に溶け始め若者に近付いていくゆきひめの心が所作の隅々から表していました。

白く透き通った打掛らしき衣(多分、名称違っていたら失礼)を両手に持ちひらひらとたなびかせていく雪の精達の連なりが
ぞくぞくと背筋を摩るようなワーグナーの音楽と響き合い、冷たさを誘いました。
上階席から眺めているとあると海月の揺らめきに見えたり、そうかと思えば早い切り替えで張りのある丸みのある形の一斉移動に驚きを覚えたり
ときには両手で広げた姿が『魅せられて』のジュディ・オングさんと重なったり、静けさの中にも恐怖感、美しさ、愛おしさと
様々な要素が融合した振付で飽きさせず。昨年上野バレエホリデイによる田中りなさん主演映像の配信も視聴いたしましたが
冷気が会場を満たす感覚を与えていくような生ならではの体感に感激いたしました。
2018年の大和シティバレエ公演では小野絢子さんと福岡雄大さんを主演に迎えて上演され、好評を博していたとのこと。
バレエダンサーであり日舞経験者でもある小野さんのゆきひめもいつか観たいと興味を惹かれます。

井上バレエ団理事長の岡本佳津子さんも嘗て踊っていらっしゃり、一昔前まで放送されていた『NHKバレエの夕べ』最終回(1989年)を飾ったのが
岡本さんそしてバレエ団創立者である井上博文さんによる『ゆきひめ』であったそうです。
ダンスマガジン2005年12月号の三浦雅士さんとの対談に登場された岡本さんが当時や井上バレエ団結成に至るまで事細かに語ってくださっていて、
ゆきひめの他ゼンツァーノの花祭り(1968年の写真ですから日本初演時かもしれません)の写真もあり。ご興味を持たれた方は図書館などでお探しください。
東京文化会館杮落し公演主演でのヒヤリとした逸話からご両親と井上博文さんとの関わりなど、ドラマに富んだお話満載です。

それにしても、オペラに詳しい方から先日ワーグナー音楽の特徴について窺ったが、『ゆきひめ』で観るにはちょうど良いものの仰ていた通り曲に終わりが見えず。
初のワーグナーオペラ鑑賞として『ワルキューレ』を今週末観に行く身内が休憩有りとはいえ果たして約5時間半耐えられるのか、少々心配でございます。



Chacona Dedicada
曲:民族音楽
振付:石井竜一

日本バレエ協会でのバレエフェスティバル(現バレエクレアシオン)にて2007年に初演、2014年3月に再演された発表した作品に改訂を加えて上演。
2014年再演の舞台も観てはいるものの最後を締め括った、先月の記録上映会でも鑑賞した
キミホ・ハルバートさん振付の秀逸作『真夏の夜の夢』に上書きされてしまい、今回ほぼ初見状態であったのは失礼。
入れ替わり立ち替わり生き生きと胸躍る展開で喜びも悲しみも全身で歌うように感情を発出する
目にも楽しい作品で、女性の髪型が各々自由度が高いようで面白く観察いたしました。
曲調からしてスペインの民族音楽かと思われ、分野は違えどもスペイン語詞のルネサンス歌曲が散りばめらた
ナチョ・ドゥアトの『ポル・ヴォス・ムエロ』好きな者として大変嬉しい選曲です。



クラシカル・シンフォニー
曲:プロコフィエフ
振付:関直人
バレエミストレス:鈴木麻子 萩原美佳

宮嵜 万央里 源小織 齊藤 絵里香
浅田良和 吉瀬智弘

プロコフィエフの古典交響曲をシンフォニック・バレエ化と知って居ても立っても居られず笑、今回一番の鑑賞の契機となった作品。
ソリストは爽やかな青、コール・ドは赤系で整えられ、清らかさと情熱が合わさった色彩美にまず感嘆。
細やかなステップや、うねりが出現したかのようなコール・ドによる座り姿勢から一斉に上体を上げてのポーズ、
予想もつかぬところから回転して舞台を駆け抜けて行くなどクラシック・バレエの技巧が詰め込まれています。
チラシによれば<1977年初演。日本で最初の本格的シンフォニック・バレエ>と紹介されていますが
今観ても古さを感じさせず。プロコフィエフの音楽にしては、『ロミオとジュリエット』舞踏会の客人達が帰り
バルコニーの場面に入る前の箇所でも使用されている3楽章ガヴォット以外は風変わりな曲調が抑え目で、独特の癖は薄め。
整理整頓された、道から一切外れず折り目正しい進行を思わせるプロコフィエフも珍しい味わいとクラシック音楽ド素人な管理人には鮮烈に響きました。

それからもう1つ作品に関心を持ったきっかけがあり、26年前に世田谷区民会館にて鑑賞した合同発表会にて、先にも触れたハルバートさんも所属なさっていた
岸辺バレエスタジオが同じ題名の作品を披露。岸辺先生による振付ですから関さんの作品とは勿論全く異なり、岸辺バレエでは生徒さんが大勢出演し
グループごと色違いのレオタードに巻きスカート衣装。音楽が古典交響曲であったか否かは記憶の彼方ですが
音楽はプロコフィエフと明記されており、同じ題名で気になっておりました。
菊池あやこさん、相澤麻愉子さんらのちに都内の大型カンパニーに入団する方々の名もあり、レベルの高い舞台であったのは確かです。

ところで関さんは若き頃から振付にも挑戦なさり、うらわまことさんによる今回のプログラム解説によれば
契機は1956年、小牧正英さんが設けた若手ダンサーに振付作品発表の場だったそうです。
先月に1957年か56年上演の横井茂さん振付『美女と野獣』について取り上げましたがまだ来日公演も殆ど無く、
日本で活動している状態で海外からのバレエ作品の振付や譜面の情報入手は
貝谷八百子さんのようにソ連へ出向いてブルメイステル版を自身のバレエ団に持ち込んだ(確か)など余程裕福な方でない限り困難な時代でしたでしょうから
国内でオリジナル創作が生まれやすかった事情はあると思うものの 今で言えば、新国立劇場のDance to the Futureや
東京バレエ団のコレオグラフィックプロジェクトといった各地のバレエ団が推進している企画を小牧さんがその頃から発案なさっていたとは驚きでした。
関さんの振付初挑戦作品『海底』は高い評価を受け再演を重ねるまでの代表作となったそうです。

実のところ、関さんのオリジナル振付作品をじっくり鑑賞したのは今回が初めてで、米国留学中にチューダーにも学んだ関さんと縁が深かった
スターダンサーズ・バレエ団2007年12月太刀川瑠璃子さんのお誕生日を記念した公演での小ピース中心の構成にて『陽炎』を上演。
しかしたった14年前の舞台にも拘らず管理人、シベリウスの『トゥオネラの白鳥』使用の重々しい作風の男女ペアの作品である点しか恥ずかしいながら記憶になく
当日にであったか直前に降板発表された『ロミオとジュリエット』バルコニーを踊る予定であった吉田都さん急遽のサイン会の盛況ぶりばかりが思い起こされ
只今記憶を掘り起こしている真っ最中でございます。ただ思えば、関さんのみならず長年スターダンサーズの監督を務めた遠藤善久さん版『火の鳥』
(フォーキン版が基盤ですが最後に火の鳥が勝利の象徴として舞台中央にいる点は好ましく、
フォーキン版も好きですが主役がフィナーレ不在であるのはいただけないと思っている)に
その頃マルセイユ中心に活躍されていたご子息の遠藤康行さんが改訂上演したりと振付家も錚々たる顔ぶれでした。

時間軸は戻りますが、関さんのインタビュー内容や紹介を拝読すると、郷土愛がお強いのでしょう。ご出身地の福島県白河の文字が繰り返し登場しています。
ご実家が映画館で子供の頃からバレエ映画やフレッド・アステアの作品をご覧になったり、スクリーンの前が舞台状になっていたため
終映後に踊って遊んでいたりと(アフタートークならぬ館主の子息によるアフターダンス!?)舞踊芸術とは接点があったようです。
戦時中は学徒動員で横須賀へ爆弾作りに出向き、終戦後は貨物列車で逗子から15時間かけて白河へ戻るときの心境や
新聞記事で見つけた『白鳥の湖』全幕日本初演を観たいと白河から5時間かけて東京へ行ったお話など、
戦後間もない当時の白河と関東間の交通事情も踏まえて語ってくださっている記事もありました。東北の玄関口と称され
栃木県と接する福島県南部の街ですが新幹線も高速バスもなかった時代、移動の大変さを思い知らされる内容です。

そして松尾明美さん東勇作さん、小牧さんが主要役を務める『白鳥の湖』全幕日本初演鑑賞後すぐバレエを始める決意をなさり、
小牧バレエ団入団後は瞬く間に頭角を表し1948年に貝谷バレエ、小牧バレエ、
服部島田バレエ、東京バレエ研究会が合同出演した『白鳥の湖』全幕では早速王子に抜擢される快挙。
7年前に日大芸術学部で開催された貝谷八百子さんの衣装展にて資料として展示されていた記事だったか
紹介記事には学歴も記され、目がくりっとした顔写真や踊りの特徴も合わせて白河中學出身と紹介されていました。
(昔は学歴明記が当たり前であった?太刀川瑠璃子さんは東京女學館、笹本公江さんは中野高女、と主演ではない方々にも明記あり。
そういえばだいぶ現代寄りで学歴とはまた異なるが、下村由理恵さんが福岡の川副バレエ学苑に通っていらした頃
将来有望な生徒として、フロリナ王女の衣装を着けてポーズを取った写真と通っている小学校名が発表会のプログラムに掲載されていました)
また手元の書籍には『眠れる森の美女』日本初演時の青い鳥、『グラン・パ・クラシック』日本初演にて踊る関さんの写真があり、
青い鳥は空中体勢、特にふわりと起こした上体の姿勢や掲げた腕、指先まで美しさを保っていて
話によればブリゼ・ボレを26回行ったとのことですから身体能力も抜きんでいたのでしょう。
しかも客席に視線をしっかりと送りにこやかな表情で観客と会話している印象すら抱かせ、残っていれば映像で観てみたいと殊更欲が募ります。
『グラン・パ・クラシック』はご本人曰く脚が曲がっていると仰っていますが、手の指先が柔らかで目を惹く写真です。

白河と言えば先述の通り東北の玄関口と呼ばれ、松平定信に所縁ある全国有数の名関所ですが、
学業不振に加え歴史勉強不足でそう意識せずに我が脳内では通過してしまい、
思えば日本のバレエ黎明期に関する記事や書籍をあちこちで読み始め、関さんの生い立ちを知った、20年少々前に実質初めて頭に入ってきた地名かもしれません。
次に白河に着目したのは2004年夏の甲子園にて、今季より大リーグヤンキースから東北楽天ゴールデンイーグルスに復帰した田中将大さんが当時在籍していた
北海道の駒大苫小牧高校が優勝し、優勝旗が初めて白河の関そして津軽海峡をも越えた「白河越え」報道が連日なされ
テレビでも新聞でも見聞きする機会が多々ありました。天城越えしか知らずにいた私は(歌えませんが)興味津々に新聞を眺めたものです。

そしてインターネットも発達し、歌と同様機械も音痴な私もどうにか駆使できるようになり、4年ほど前からは調べ物作業で
しばしば関さん及び白河の情報に到達する回数が増加。そうです、関さん以来の白河に所縁あるバレエダンサーでいらっしゃり
この公演の1週間後の週末に日本バレエ協会公演にて主要な役で大活躍された新国立劇場の渡邊峻郁さん。
モナコ留学から一時帰国中に行われた地元メディア取材にて「プロで活躍することとなれば日本バレエ界の牽引者である関直人さんに次ぐ」と
紹介されていたほど。白河の方々も心待ちになさっていたと窺え、現在の目覚ましく華々しいご活躍に、
そして弟拓朗さんも同じバレエ団でプロとして歩んでいることも含め皆様目を細めていらっしゃることでしょう。
福島は大変面積が広く、浜通り、中通り、会津地方と3つの呼び名が付いていながらも習慣や文化は更に地域ごとに異なっていると思われますが、
渡邊さんが一昨年の『ロメオとジュリエット』終演後シーズン期間中の異例なプリンシパル昇格は福島民報にも実に大きく舞台写真入りで掲載。
県全体に注目と喜びが広がっていると想像するとこちらまで益々幸福に浸ったものです。
この記事を読みたいがために販売局に連絡し、取り寄せ購入いたしましたが、突然の東京からの連絡にも拘らず
ご担当の方がそれはそれは丁寧に優しい対応をしてくださり、 まだ県内を数回しか訪れてはおりませんが都内での仕事でお目にかかった
白河、会津若松の親切な地域産業関係の方やいわき訪問時の郷土料理店にて和ませてくださった地元の方々を始め飲食観光にしても
以前から好印象しか持っていない福島が関さんの功績や渡邊さんのご活躍を拝見する度、更に良いイメージへと日毎に上塗りされていっております。

あちこちに話が飛びましたが、戦争が終わり混乱する中で日本のバレエ黎明期を支えてこられた関さんに心から敬意を表したいと思います。
白河が生んだ、偉大な芸術家です。




帰り道、会場から浜松町駅へ向かっていると右側の通りの奥に見えた日本酒立ち呑みバル。
劇場ロビーに似た、景色が見えるカウンターでの一杯は久々でございます。
フェアだったかハウス入荷だったか、お値段お手頃な旬のお酒をいただき、せっかくですから福島県の日本酒で乾杯。
グラスで出してくださり、劇場の気分をそのまま延長です。1杯300円少々とは思えぬ、上品で口当たりの良いお味でございました。

2021年3月8日月曜日

秋山さんのジゼルデビュー 東京バレエ団『ジゼル』2月27日(土)




2月27日(土)、東京バレエ団『ジゼル』を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2021/giselle/

※NBSホームページより抜粋
ジゼル:秋山瑛
アルブレヒト:秋元康臣
ヒラリオン:岡崎隼也


- 第1幕 -
バチルド姫:榊優美枝
公爵:木村和夫
ウィルフリード:大塚卓
ジゼルの母:奈良春夏

ペザントの踊り(パ・ド・ユイット):
岸本夏未-岡﨑司、加藤くるみ-玉川貴博、上田実歩-昂師吏功、髙浦由美子-鳥海創

ジゼルの友人(パ・ド・シス):
二瓶加奈子、三雲友里加、菊池彩美、酒井伽純、長谷川琴音、花形悠月

- 第2幕 -
ミルタ:政本絵美
ドゥ・ウィリ:金子仁美、中川美雪


指揮:井田勝大
演奏:東京交響楽団



秋山さんのジゼルは内気で可憐な少女で愛らしさの塊。登場シーン、扉を開けて見せた姿からして病弱そうな儚さと
期待を少し込めながら扉の叩き主を探そうと一生懸命な表情がいたく健気に映りました。
驚かされたのは目立つ粗が無く既に完成されている印象すら与え、空間の使い方が巧く存在が随分と大きく見えた次第。
1幕ソロの最中はアルブレヒトが不在で(ラヴロフスキー版のみ?)、時折不安げに遠くを眺めつつ同時に爪先立ちで対角線上を進む箇所もお見事でした。
狂乱は静かに静かに壊れ、我を忘れて頭を掻き毟るわけでもなく幸福な日々の一瞬一瞬を微笑みながら愛おしむように回想。
精霊の透明感や浮遊感も実に上出来で、溶けて消え入りそうな姿に微かな人間味を残したバランスも絶妙でした。

秋元さんは農民の格好をしてウィルフリードに対して上機嫌に浮ついた顔を見せたときは遊び人貴族かと思いきや
ジゼルに対しては鼻で嘲笑う様子もなく、花占いは至って真剣。純情派であると推察です。
ジゼルの命が絶えそうな状況ではウィルフリードに縋り付き、絶望感に襲われ脚も動かせぬ状態を思わせました。
2幕ではミルタに許しを乞う連続跳躍では繰り返す中で苦しみが最高潮に達するさまを腕や上半身でも語り、震え上がる恐ろしさを訴えかけていた印象です。

秋山さん秋元さんの共演は昨年9月の『ドン・キホーテ』で鑑賞しており、爽やかなテクニック合戦な趣で
劇的な熱さはそこまで到達していなかったと見受けております。ただ今回はすぐさま全身全霊での愛情表現が控えめであったからこそ
一途さや純粋な感情が少しずつ合わさっていくゆかしさが結果として何処までも純愛な物語として構築。胸にじわりと迫ったのでした。

岡崎さんのヒラリオンも目を惹き、子ども眠りでの台詞回しや間の取り方が抜群に上手いカタラビュートも記憶に新しいのですが
ただ闇雲に突っ走る森番ではなく場面展開の案内人のような役目も果たす人物。ジゼル達の甘酸っぱい恋愛模様に夢中な客席を一旦落ち着かせて
急展開する筋運びを示唆。またジゼルに対しても決して野蛮な振る舞いはせず比較的スマートな接し方であったため、
ミルタへの命乞いからの沼落ちが一層哀れに感じさせました。悪意は無けれどジゼルの弱い心臓には衝撃の強過ぎる暴露方法は
考え直すべきであったのかもしれませんが、人生順調に事が運ばぬものです。

村人皆の母親であろう存在であったのは奈良さんベルタの穏やかで懐の深い朗らかさ、人数を多めにして躍動感たっぷりに見せる
男女4組によるパ・ド・ユイットも作品に彩りを添えていました。

これまでとの最大の変化はウィリ達のライン。東京バレエ団『ジゼル』名物とも捉えていた、凛然と鋭い冷たさから
立ち位置の角度や肩の見せ方にも変更加えて柔らかさを出すようになりました。原点回帰の一環だそうで、
優しくあどけない少女達が精霊となっていきなり鬼のような形相や所作で男性を奇襲するとは考えにくく、柔らかな方が理に適う演出かもしれません。

ただ私個人としては、先に述べた通り緊迫感ある冷たさが宿るウィリ達も好みであり、どちらも各々魅力を備えていると考察。
ラインの出し方や解釈についてはミストレス佐野志織さんのインタビューで詳しく明かされ、大変説得力のある内容です。
https://thetokyoballet.com/blog/blog/2021/02/post-99.html

原点回帰であろう演出でなかなか不思議であったのは、百合の花束を手に墓参りに訪れるアルブレヒトが帽子装着であった点。
ベレー帽に羽が付いたデザインで、秋元さんに似合っていたかと聞かれたら失礼ながら回答は難しく
仮に虜となっている男性ダンサーによる、或いは稀に髪型判定三角なアルブレヒトであったとしても笑
この場面の歩き姿は帽子無しで、まずは表情が見たい思いに駆られることでしょう。

タイトルロールをシルフィードと並ぶ当たり役としていた斎藤監督が就任後初の上演で、得意なだけでなく
1996年12月公演『くるみ割り人形』での大怪我からの復帰作品でもあり思い入れも強く、指導にはさぞ熱が入っていたであろうと想像。
監督の著書『ユカリューシャ』は地元の図書館に入荷後すぐに借りて読み、
怪我直前の状況から1幕後半で雪の紙吹雪に滑り転倒すると立ち上がれず、王子役の高岸直樹さんが声をかけながらすぐさま袖に運んだ様子や
後半急遽代役を務めた井脇幸江さんも終演後病院に直行して手を取り合って涙していたなど、
うろ覚えな箇所はありますが切迫した光景が赤裸々に綴られ、一気に読み進めた書籍です。
時代や設定を大胆に移行変更しない限りこれといった改訂がされにくく、初演の基盤が今尚残り続けているロマンティック・バレエの名作を
ゲスト無しの団員のみで、原点回帰と新しい風の吹き込み双方を成し得た誇り高い上演でした。




開演前に、白ワインで乾杯。『ジゼル』ですから。



帰り、貴族の紋章らしき模様の花瓶を眺めつつ赤ワインで乾杯。『ジゼル』ですから。



斎藤監督が主演したジゼルは2006年に観ており、ゆうぽうとでの上演日には皇后美智子さま(当時)が2幕よりご覧になっていました。
2階席にいた管理人はざわつく1階の様子に何事かと思っておりましたら 美智子皇后がいらしている旨を観客同士伝言リレーの如く知った次第。
そしてあとにも先にも、バレエ公演のプログラムで最小サイズであった絵本型プログラム。



見開きは飛び出す絵本、ジゼルがくるくると回転します。ちなみにこのときのアルブレヒトはボリショイのセルゲイ・フィーリン。
バレエはそう多く観ているとは言い難いがされど長年生きている管理人の中で歴代1位の遊び人貴族なアルブレヒト造形で
内面はともかく外面は幼少期から不変の廃れ具合である我が身からすれば例え結婚の約束が嘘でも、
連日花吹雪のように称賛のシャワーを延々浴びせてくれた 意中の男性が二股真っ最中であっても 人生有頂天な幸福を味わっていたジゼルの心境や背景を思えば
アルブレヒトがジゼルに守られウィリに殺されず生還する流れには 大概は納得がいくのですが
からかうわ嘲笑うわな遊び上等であった(恐らくはそういった表現が詰まっていたと記憶)フィーリンのアルブレヒトだけは
早う沼に落ちてしまえとウィリの魂が乗り移ったかの如く怨念を送っていた覚えがございます笑。
しかしそれだけフィーリンの表現、解釈が非常にはっきりとしていたわけで斎藤監督の純朴さが更に引き立つ効果もあり、フィーリン作り込みは好みでした。

2021年3月3日水曜日

代替演目とは思わせぬ新鮮味を示した監督の手腕 新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』2月20日(土)〜2月23日(火)




2月20日(土)〜2月23日(火)、新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』を計4回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/sleepingbeauty/

2月20日(土) オーロラ姫:小野絢子
デジレ王子:福岡雄大
リラの精:木村優里
カラボス:本島美和
フロリナ王女:池田理沙子
青い鳥:奥村康祐

2月21日(日) 13:00
オーロラ姫:木村優里
デジレ王子:奥村康祐
リラの精:細田千晶
カラボス:寺田亜沙子
フロリナ王女:柴山紗帆
青い鳥:速水渉悟

2月21日(日) 18:30
オーロラ姫:米沢 唯
デジレ王子:渡邊峻郁
リラの精:木村優里
カラボス:本島美和
フロリナ王女:池田理沙子
青い鳥:奥村康祐

2月23日(火・祝)
オーロラ姫:小野絢子
デジレ王子:福岡雄大
リラの精:細田千晶
カラボス:寺田亜沙子
フロリナ王女:柴山紗帆
青い鳥:渡邊峻郁


※キャスト詳細は何処かのタイミングで明記予定。
※感想の続きは随時書き足して参ります。この1週間程度は内容追加が頻繁に発生するかもしれませんが、相変わらず更新が遅い点及び無責任な性分をお許しください。
※新国立劇場2021/2022バレエ&ダンスシーズンラインアップが発表されたばかりですが、『なまさだ』のさだまさしさんもびっくりであろう、
当ブログ恒例次シーズンの演目についてのあれこれ身勝手な語りは来週末あたりに行う予定でおります。
(ひとまず一言、大晦日も正月もオペラパレスフル稼働。オペラシティのHUBさん、正月に営業していたら箱根駅伝放送なさるだろうか。
時間帯からして直前にゴールを見届けから会場入りも夢ではない、そして管理人、ぐうたら正月とはおさらば笑)


小野さんオーロラ姫は幕ごとの闊達、静寂、威厳、それぞれの色味の体現に目が眩む変わりよう。
1幕は勿論気品はあるのだが大人しく読書や刺繍を趣味としてはなさそうな笑、両親もちょこっと手を焼く常日頃から宮殿の裏山を動物達と駆け回っているお転婆娘と想像でき
表情は満面の笑みを湛え脚捌きが素早く音楽に軽やかに乗り、王子達を見つめる目も天真爛漫で好奇心旺盛。
幻影では翳りと静けさを秘めた近寄り難い存在を示し、消え入るかいないかの瀬戸際を彷徨う神秘性を柔らかに表して
3幕の荘厳な姫たるや厳格なポジションを保ちつつも黄金オーラを放つ姿に恐れ入った次第。
オーロラの幕ごとの変化においては毎回鮮やかに見せてくださっている印象がありましたが、以前にも増して前へ前へと全身が歌うように躍動する姫君でした。

木村さんは主要キャストの中で最たる過酷日程であっただろう事情を全く思わせぬ力演。
登場時これまでは時々苦手な様子も覗いていた速い曲調にも軽やかに乗って手脚を持て余さず愛らしさ全開で
両親に駆け寄っては促されて王子達のところへ進み行く恥じらいの所作も自然に映り好印象。
ぼやけがちで魅せることが難しい幻影の場も、これまで以上にメリハリに富んだ踊り方となり、されど儚い美もしっかりと表していて
王子が追いかけたくなる行動に説得力を持たせていました。
結婚式における厳か且つ雅びやかな踊りも宜しく、目に見える深化に拍手です。

心技体全てにおいて充実の極みを迎えたであろうと思わせたのは米沢さん。
登場時の素早いテンポのソロからして正確で細かな、且つスケールのある踊りで可愛らしく魅了。
中でも息を呑んだのは2幕で、これ以上にない淀みない滑らかさで寸分の隙も無し。踊り1つ1つで語りかける流れを生み出し
静けさの中にもちょっとした顔の向け方や指先の仕草から王子に救いを求める感情もそっと覗かせていて表現も秀逸でした。
思わず息を止めてでも集中して見入ってしまう、繰り出される尊いまでの厳格な美の連鎖にも痺れ、
クラシック・バレエの教則本のようなお手本から煌きが放たれているかと見紛う3幕でした。

福岡さんのデジレ王子は出から他の者とは生きる次元が異なる身分を示し、真っ直ぐ見据えながら歩く姿も格高し。
帽子は最初から被らず脇に抱えていたと記憶しており(渡邊さんは被ってご登場。各自に任せた表現なのでしょう)
福田紘也さん務める知人ガリソンへの目隠し鬼命令も突き刺すような指示が大胆で、ほんの短い場面でも間の取り方、やりとりも面白みがありました。
3年前の眠り公演では小野さん福岡さんペアにしては珍しく3幕でひやりとする箇所がありましたが、今回は大盤石。
長年看板ペアとして再演演目ではより新しい魅力を出さねばと殊更重圧もあると思いますが、
香りが立ち上がるような高さのあるリフトや等間隔移動も見事でございました。
ただ私が単に何度も観ているためか、そろそろ違うペアでも各々観てみたい欲も益々募り、とりわけ木村さんと福岡さんが初ペアで主演臨む『コッペリア』は楽しみです。そしてソネットや、主演同士ではないが
『ロメオとジュリエット』でのジュリエットとパリス、『マノン』でのマノンとレスコーで互いに魔物が潜んでいそうな危うさをほのめかしていた
小野さんと渡邊さんの再びの共演も期待が高まり、軽妙な表現とはまた違った方向へ走りそうな予感大ですが笑
小野さんスワニルダと渡邊さんフランツにも注目したいと思っております。

代演とは信じ難く好調であったのは奥村さん。一時期よりも登場オーラや求心力が強まり、堂々と歩いて伯爵夫人に近づく姿から
直前から急ピッチで仕上げたとは思えぬ安堵感すら与えていました。
表現も奥行が広がり、基本人々とはにこやかに応対しながらもふと物寂しそうな表情へと変わりその対比をはっきりと示し、
リラに対して自身の身の上を語る様子も雄弁。オーロラに出会い、イーグリングさんお好みな笑、連続リフトも浮遊させるように決まった上に、
アダージオでも木村さんとの身長バランスが全然気にならなかった点も驚き。立ち位置や見せ方の工夫もあったかと思いますが、
むしろお伽話の姫と王子な見栄えがぴったりですっかり見惚れてしまったのでした。
3幕のヴァリエーションはいつにも増して勇ましく気品に豪快さも加わって6月の『ライモンダ』も期待が高まり、頼りになる騎士となりそうです。

渡邊さんは悩める姿からのソロや心情変化の表現が傑出。少々神経質そうな、時代は後になるがロダンも彫刻も驚愕するであろう
悩み始めるとじっと考え込んでしまいそうな憂愁を帯びた表情から吐露するように身体で語り、憂鬱な感情を広げていくソロも秀逸でした。
貴族達とのやり取りも会話が聞こえてくるような様子で作り込みが細かく右往左往だけの狩にならず、遠い目をして物思いに耽る姿の美しいことよ。
(この姿を眼前で観たいがために、3年前の千秋楽と同様執念でチケット購入、結果前回と似た席となり万々歳)
オーロラの幻影に恋せずにはいられない心の内や徐々に近付いてそっと触れていく過程も丁寧な描写で説得力があり、
演出の都合上リラのお膳立てで王子殆んど戦わず剣で2回茨をツンツンしてカラボス打倒はどうも納得し難いはずが笑、
この王子ならば愛と恋の力が増大で自ずと姫を引き寄せた結論が自然と浮上いたします。
威風堂々たる3幕のパ・ド・ドゥは王家の栄華そのもので、古風な和顔が髪の結び目にリボンを留めた西洋貴公子も絵になる不思議な魅力に夢見心地の極致でございました。
さて久々に行います、髪型考察。前髪を少しボリュームを出して固め、パックリ七三にならず自然な纏まり具合でリボン効果もあり、二重丸を掲げた次第です。
オーロラを起こすとき、布団をがばっと剥がさずにまずは気持ち折り曲げていた点が医師の回診にも見えかけ、ツボでした。
(福岡さんは一気に外していらして、各自に任せているもよう)

今回の最たる驚き収穫は木村さんと奥村さんの相性の良さで、急遽且つ初組み合わせとは思わせぬ、美しい純愛物語を描画。
目覚めにおける、夢うつつ状態からまだ抜けず互いにぼんやりした状態から
じっくりと愛を確信していく流れが音楽と優しく溶け合い何ともロマンティックで
2人の並びも麗しくお伽話の絵本を捲りながら眺めている感覚を与え、2018年夏に貝川さん振付作品『人魚姫』で八王子にて主演されていますが
新国立での他の全幕作品でも観たいペアであると声を大にして申したい限り。
夜公演に備えて気楽に観ようと鑑賞に臨むはずが全くそうはさせぬ、脇のフレッシュ感も含め鮮烈な驚きや歓喜に沸く昼の3時間半で
急遽の主演ペア公演を支え応援しよう、そしてこれまでには考えつかなかった組み合わせを見届けようと
舞台上と客席双方の集中度、熱量が恐ろしいまでに高かった印象です。

そして、様式美をひたすら貫く作品であるが故にドラマ性が生まれにくい印象の先行を覆したのは米沢さんと渡邊さん。
2幕にて序盤から磁力にように惹かれ合っていき、緻密なドラマを重ね塗りしていくかのように舞台に厚みが加わっていったのは明らかです。
目覚めでは目が合った瞬間から互いに確信をし合っていた様子で、余りに晴れやかな変容であったため太陽とニワトリ達が祝福する絵が浮かんだほど。
例えが宜しいか否かではございますが、高級家電ダイソンの掃除機よりも(管理人、家電量販店での勤務経験が有りおかしな例えをお許し願います)
遥かに吸引力がありそうな渡邊さんの力強い瞳がにこりと姫を見据え、どぎまぎするように米沢さんが蕩けるような表情で見つめる視線の交錯が
一気に恋が上昇するような喜びが零れていた印象。米沢さんが音楽の抑揚と渡邊さんに恐れず身を委ね幸福を高らかに歌っていた姿も忘れられず。
他の版でよく見られる、ファンファーレな目覚めも好む身からすると当初は唐突にも思えていたこのパ・ド・ドゥでありながら
今回は挿入効果をどのペアで観ても身に沁みて感じましたが、米沢さん渡邊さんは特出していた気がいたします。
驚きは3幕のグラン・パ・ド・ドゥでも続き、戴冠式(友人の表現を拝借)のような厳粛と華麗さが凝縮した世界が出現。
お2人が更に上へ上へと目指し徹底して作り上げたのは想像に難くないパ・ド・ドゥのフォルム、立体感、厚みが
重厚濃厚な舞台美術と新郎新婦の淡泊な白い衣装とのアンバランスな条件すら忘れさせる、目と心を震わす完成度でした。

木村さんのリラの精は昨秋の札幌公演時にも益々の貫禄の表れに驚かされておりましたが、今回は更に迫力増強。
本島美和さんカラボスといよいよ互角な対決で、並んで立っても遜色無く、また力任せに対決ではなくきりっとした強さと揺るがぬ優しさを合わせた対抗を見せ、
個性豊かな妖精達を従えた姿も背中から頼もしさが伝わりました。

完成され過ぎた感すら漂っていたのは細田さんで、抑制を効かせつつも音楽を奏でるような磨き込まれた踊りで会場を優しさで包んで満たし、
非の打ち所が無くもはや天女のような存在感。マイムの美しさにおいてもここまで魅せられる方には滅多にお目にかかれないと思わせる出色ぶりで
カラボスからぶつけられた怒りや憎悪はしなやかな優しさで撥ね退ける芯の強さも感じさせ、手を合わせて拝みたいリラでした。

初演から務める本島さんのカラボスは年々恐ろしさと美が増強。押し出しが強く瞬時に黒の世界に染める圧巻のオーラは勿論
恐怖感1つとっても様々なエッセンスを放ち、艶かしい笑みすら漂う高笑いから本気でおっかない凄みまで、変幻自在。
マイムから視線の運び、踊りに移る間合いも絶妙で魔力に平伏すしかなく、
リラと王子に倒されても何処かでしたたかに怨み節を唱えながら生存していると想像いたします。

初挑戦の寺田さんは冷徹さを醸しつつ突如悍ましさを表出する突拍子の恐怖感を与えるカラボスでこれはこれで恐ろしや。
蜘蛛の乗り物から降りて前に進み出る箇所では最初はすうっと冷たさを帯びていたかと思えば突然ニカッと表情が一変し、
予期せぬ変わり様もまた不穏な状況を増幅。本島さんとはタイプが全く異なる、冷ややかな妖しさ美しさが宿っていました。
2幕で正体を現した際の蜘蛛巻きが初回順調に行かなかったのはそれだけ扱いが難しいのでしょう。
2回目は蜘蛛の巣と共に怨念をこれでもかと放っていて悪役であっても無事を祝してしまったのは、
寺田さんの初挑戦を讃えたい気持ちが先走ってしまったためかもしれません。善と悪、両方できるのは強みです。
そして細田さんのリラと寺田さんのカラボスによる同期美女対決も夢の競演。
対峙や横並びの場面は、コール・ドとして入団された2005年から観ている者としては胸熱き瞬間でした。
いつか逆キャストで寺田さんリラと、インタビューでもカラボスを踊りたいとしきりに語っていらした細田さんカラボス対決も観たいものです。

プロローグ妖精ソリストがフレッシュなキャストも組まれたのは喜ばしく、監督の適材適所な采配が当たっていた印象。
中でも木村優子さんのにこやかな立ち姿、中島春菜さんの大らかな踊りが印象深く、また既に妖精の経験者でも違う役目の妖精であったりと
意表を突く配置も新鮮。小柄なダンサーが務めるイメージがある歓びの精を背の高い廣川さんが溌剌とダイナミックに踊ったり、
まさにパン屑をゆったりと振り掛けているような手の揺らめく動きも目を惹いた池田さんの寛容の精も好演でした。
一斉にがらりとは入れ替えず少しずつの若手投入の動きは嬉しく、この演目においては新国立でのセルゲイエフ版最後の上演であった2007年2月、
当時入団から約1年半のコール・ドであった寺田さんが抜擢されていた日が思い起こされます。
モンチッチと呼ばれ皮肉られていた笑、奇妙な鬘もロシア人と張り合えるレベルでお似合いでした。

フロリナ王女と青い鳥はどのペアも魅力が開花していましたが千秋楽の柴山さんと渡邊さんが持っていきました。
柴山さんは明瞭正確な技術で魅せるにとどまらず表情の付け方や以前よりも晴れやかさも増して会心の出来であった印象。
渡邊さんは踏切を感じさせぬ跳躍がふわりと弧を描き、双眼鏡を手にして眺めていると舞台鑑賞ではなく野鳥観察に来た感覚を呼び起こさせたほど。
(初台青い鳥の会か。ちなみに管理人愛用の双眼鏡は自宅に40年近く前から家族が所有していた本来は野鳥観察用らしい)
この作品における数ある不思議な衣装グランプリは決定であろう布地予算不足或いは材料誤発注とも疑いたくなる
透け透け鯉のぼりな爆死衣装でも原作のシャルマン王を彷彿する高貴な鳥で、時には誤解も生じつつ長年に及ぶ試練を乗り越え結ばれる
原作の物語がそのまま重なる、睦まじい語らいが聞こえてきそうな好ペア。札幌公演に続き心から満喫です。

赤ずきんには赤井さんが初挑戦。狼に怯えつつ、技術達者でサクサクと刻むエシャッペからふわっとポワントで立つ力みの無いバランスも爽快。
それから札幌と比較し大挽回したのは速水さんのゴールドで、冷や汗物のサポートが随分と改善され一安心。
ヴァリエーションも滞空時間が長く伸びやかで音楽をたっぷりと使っている点も好印象でした。
前髪のメッシュは相変わらず気になるが、チャームポイントとして捉えておきます。

全日貝川さんの国王は場をぐっと締め且つ平和な空気感を与え、プロローグはまだしも、その後の王家衰退を予見していたかと疑念を抱かせる
打倒王朝カラーな三色配置の変テコな1幕の衣装も、3幕は孫悟空な王冠と青い上着もさまになる救いっぷり。
太陽のような晴れやかな輝きで包む本島さんと、月のような涼やかな美をもたらしていた関さん両王妃とのやりとりも
額縁におさめたくなる宮廷画でした。本島さんは21日昼公演、急遽のペアであった木村さん奥村さんによる結婚式のパ・ド・ドゥが無事終わると
本気で緊張が解けたのかカタビュートにもしきりに語りかけ、人間味豊かな王妃の一面を覗き見た思いでおります。

ドイツ、ロシア、イタリア、スコットランドの4人の王子は貴重なセンス良き衣装で笑、繰り返しになりますが華やぎを備えつつ東洋人にも似合うデザインに2014年の初演時から注目。
特にロシアの中家さんが頼もしく、初日ローズアダージオにて小野さんが終盤に落としてしまった薔薇を中家さんさらりと拾って腰に挿し好対処。
時間を戻しまして、我こそ先にと姫と最初に踊る順番をドイツ王子を押しのけて前に出る箇所も立ち振る舞いが堂々と映りました。
王子達は入場時や姫を巡る競争心からしばしば互いに会話を交わし
何語で話しているか気になるところですが、全員フランス語の教養はあるのであろうと勝手に判断しております。
ただ再三の話になりますが、4人の王子で生涯忘れないであろう夢舞台が2017年公演で、白い羽やフリルが似合う井澤駿さんのイタリア王子と
韃靼風の衣装にやや切れ長の目元をした容貌が笑ってしまうほど自然な絵となり、馬に跨り草原を駆けて来たであろうと容易に想像がつく
渡邊さんのロシア王子の並びが強烈で、金閣寺と銀閣寺が同時出現したようなオーラに大興奮。
欧米のバレエ団でも求婚者のお国柄衣装がここまでさまになっている並びは未だ目にしておらず
この年の眠りは全公演求婚者達が入場する花のワルツ中盤からローズアダージオでエネルギー消耗していたとは言っても過言ではありません。
(何と言っても、渡邊さんが全日程ロシア王子であったのだ)何しに初台へ通っていたかとのご指摘は受け流します笑。
当時は周囲には殆んど打ち明けておらずひっそり黙って連日目を心臓印にしていたわけですが、再びの実現、まだ諦めておりません。

2014年の初演からかれこれ20回以上観ており目は慣れてきたものの振付からしても揃って一斉跳躍そして着陸とブルーインパルス(名付けは友人、リラ並に名手)な
カヴァリエの青やプロローグ妖精ソリストがティアラと胸元の色以外は皆一色である点を始め毎度突っ込みどころ満載な
不可思議衣装博覧会であるかの如く要改善衣装多数ですが、緊急事態宣言下において、22時近くに終演する夜公演も含め全公演完走できたのは大きな喜びです。
観客は定員50%制限がかけられ、S席を中心に販売していたのか1階はほぼ埋まっていましたが2階、3階席は寂しく、
初日の3階は中央ブロック中心に集約され約25名で売れていない公演のような物寂しさがあったのは否めません。
状況を察すれば仕方ないことですが、売ろうと思えば人気演目ですから完売に近い売れ行きであったと思うと、やるせない思いが残ります。
また今シーズンは眠り全幕は札幌公演のみの予定で、2月のトリプル・ビル 吉田都セレクションの代替として上演。
しかし思わぬ珍しい主演ペア誕生や三大バレエでは初めて組むペア、フレッシュな脇のキャストなど新発見の連続で
幻影のコール・ドもただ揃うだけでなく身体の角度や使い方、顔の向け方にも監督の指導が更に行き渡ったのでしょう。
より穏やかな息遣いが感じられ、花のワルツは人数少なめの構成ながら1人1人が一層大きく見えた点も喜ばしい収穫でした。
変更発生が当たり前になってしまったシーズン始動以降も 屈するどころか良き方向へと舵取りしてくださっている
吉田監督の手腕が今後も格段と楽しみになった、代替演目とは思わせぬ初台での眠り全幕でした。

※冒頭でも記した通り、また思い出したことがあれば随時書き足して参ります。
この1週間程度は内容追加が頻繁に発生するかもしれませんが、相変わらず更新が遅い点及び無責任な性分をお許しください。





幕間、マエストロで食した苺ミルフィーユ。生クリームとカスタードクリームが挟まり、苺は瑞々しく品ある甘さが誘います。
ただし集中力を要するケーキで、ナイフとフォーク両方を用いて慎重に 切らねばならず、複数人数で行ったとしても
蟹と同じく自然と黙食です。(今のご時世ちょうど良いか)



公演前に乾杯。眠りですからロゼでございます。
夜のデジレ王子プロフィール写真、いつ見ても男前です(心臓印)。



前菜、薔薇にも見える酢漬けでございます。



ゴルゴンゾーラとほうれん草のスパゲッティ。森の中を彷徨うような色彩で濃厚なチーズクリーム、2杯目の白のスプマンテも進みます。



3度目の訪問、カレー店青い鳥。新国立劇場から頑張れば徒歩で行けるかもしれません。2017年以降初台で眠り全幕を観る時期に毎度訪問しております。
ちなみに1度目は2017年、主演以外の主要キャスト発表を目にし、なぜ青い鳥に名前が見当たらぬことに不満を覚え(身勝手で失礼)、
発表を目にした職場の前でがっくり肩を落としそのまま直行。ただ当時は秘めやかに虜になっており
周囲には殆ど明かしていなかった為、ひっそり慰めた次第。(関東にとどまらず関西、四国でも喋り過ぎているその後は如何なものか笑)
2度目は2018年、念願の祝・配役で喜び勇んで訪問いたしました。

お店のコンセプト解説文を黙読していると、陰と陽の意味合いが込められた料理法らしく、
眠りで陰陽と言えばそうです前回2018年公演時初日終演後に開催された、きものSalon × 京都きもの市場特別企画読者イベント。※当時の記録はこちら。
雑誌きものSalonでその年に着物モデルを務められた木村さん、渡邊さんをゲストに迎えたトークショーが開かれ、
木村さんの第一声がこの日6月9日(土)における陰陽に関するお話で、独創性に富んだ切り口に我々参加者一同
そして一番驚いていらしたのはお隣で話す番を待っていらした渡邊さんでしょう笑。
ああ返す返すも、昨年のアリスでは米沢さん渡邊さんを迎えた着物イベントが企画されていただけにうう涙。管理人、この先着物に縁はもう無いであろう。



薩摩芋のココナッツカレーと大根のココナッツカレーの2種盛り。スパイスの調合が体内に馴染み、すっきりとした気分になります。
青い鳥さんのぬいぐるみやプリザーブドフラワー内には青い薔薇と青い鳥。



千秋楽自宅にて、青い鳥記念に撮影と乾杯



吉田都監督は『眠れる森の美女』は非常に思い入れの強い作品と思われ、ゲスト出演された新国立劇場開場記念公演やその前年には日本バレエ協会公演にも主演し、
遡ればサドラーズウェルズ時代の来日公演ではオーロラ姫とフロリナ王女を
(英国ロイヤル時代もオーロラは多々踊っていらっしゃるかと思いますが来日公演では務めていらしたかどうか分からず知識不足ですみません)
更には、英国ロイヤルバレエ学校卒業公演ではフロリナ王女に抜擢され、大役を果たし高く評価された写真入りの記事はこちらの書籍『バレエクラス』で
何度も繰り返し目にいたしました。青い鳥はエロール・ピックフォードさん。「吉田都嬢」との翻訳が時代を思わせます。イーグリングさんが踊る『アポロ』写真もあり!
サドラーズの来日公演での眠り主演はちょうど私がバレエを観始めた頃で、来日レポート記事としてバレエ雑誌の巻頭カラーで大々的に掲載。
1980年代後半にヨーロッパで活躍する日本人ダンサーの存在に驚きつつ、3幕グラン・パ・ド・ドゥと金色の紙吹雪を浴びるアポテオーズ写真を何度眺めたことか。
ちなみに表紙右下は1989年の日本バレエ協会『ドン・キホーテ』写真で客演したABTのスター、シェリル・イエガーと
新国立バレエ次回公演ローラン・プティの『コッペリア』で指導来日予定であるフリオ・ボッカ。
まだ予断を許さぬ状況が続いておりますが、指導者の来日含め、バレエ団としての次回公演も無事完走できますように。

2021年3月1日月曜日

【行って参りました】新国立劇場 舞台美術展で巡るオペラ・バレエの世界







順番前後いたしますが、こちらから。スカイツリータウンで開催された、新国立劇場 舞台美術展で巡るオペラとバレエの世界の展示会を観て参りました。
https://www.tokyo-solamachi.jp/event/1610/

スカイツリータウンにお越しの方々がふらりと立ち寄りやすい立地効果もあり、普段なかなか舞台に触れる機会がない方も大勢いらしていたと見受けました。
衣装はバレエが『竜宮』と『くるみ割り人形』、オペラが『ホフマン物語』と『こうもり』を展示し、模型も並んでいました。
竜宮は森山開次さんがインタビュー記事にて手になさっていたお手製の亀も訪問者をお出迎えです。
ご家族連れも多く、お子さん達には映像による掴みも良かった様子。竜宮の映像に真剣に見入りながら「浦島太郎とお魚さん達が踊っている」、
1幕フィナーレの一斉に駆け抜ける振付を、「タコさんもいる、みんなでヨーイドンしている!」と一生懸命に言葉で表現していた男の子や
『くるみ割り人形』では字幕も助けになったのでしょう。お父様と娘さんが一緒にロシアだ、蝶々だ、金平糖になったお姫様かな、と
画面から片時も目を離さず眺めていらっしゃる親子連れがいたりと、特にお子さん達が純粋に感激しながら
観ている姿が一層微笑ましく映りました。劇場御中、未来の観客育成のチャンスです。

衣装展示について、『竜宮』はプリンセス 亀の姫、浦島太郎、イカす三兄弟、タコ八。
『くるみ割り人形』はグラン・パ・ド・ドゥでの王子、ねずみの王様、雪の結晶がそれぞれマネキンに着用させて展示されていました。
浦島太郎は白い羽が想像以上に大きめでたくさん付けられており、白い羽募金を行った感もあり。新しい衣装ながら使い込んだ見た目をしていて
勤勉な庶民の青年である太郎の役どころに馴染むよう工夫が感じられました。
脚の作りが床を擦るほどに長く、操りが難しそうなタコ八に、耳の部分が厚めでヒラヒラする動きも本物そっくりであったイカす三兄弟もインパクト大。
目玉がピンポン球より更に大きく真紅に近い色味のねずみ王、そして布地の全てに細かな模様が入り煌々とした
シャンパンゴールドの王子の衣装は一昨年の握手会(出演者によっては管理人も参加)以来に間近で観察。色の重ね方も絶妙でした。

ミニコンサートも少し鑑賞し、大人から小さなお子さん達も一緒にのんびりと気軽に生の音楽に浸れる和やかな環境も素敵であると思いました。
ヴァイオリンとピアノ1台ずつのみで奏でながらも高音と低音の対比がはっきりとした演奏で
つい先日の舞台の記憶が過った『眠れる森の美女』花のワルツや、『誰も寝てはならぬ』の何箇所かの曲調の盛り上がり部分が、
一角で静かに流れていた約3分に編集の『くるみ割り人形』映像におけるグラン・パ・ド・ドゥやアラビアなど
極致到達リフトの箇所とタイミングが噛み合っていた光景もこの場ならではでございました。(題名からしてあらすじに通ずるものがある気もいたします)
他にも、ちょうどねずみ王と王子の衣装が客席を見守るように並んで姿勢正しく、直立状態でしたので例えマネキンであっても
仲睦まじく勤しむ会場係員にも見え笑、昨年末公演でのカーテンコールで怪しいほどに仲良く手を取り合い
平和が一番との声が聞こえてきそうであった初日と2日目の夜及び金曜日と翌日夜のねずみ王と王子(入れ替わりながらの組み合わせ)を思い出した次第です。

公式サイトでは今回余り宣伝もされていなかったようでしたが、スタッフの方々が地下鉄からの入口前でもチラシ配布を行っていらして、
立地効果もあったのか思いのほか賑わっていた印象です。
バレエやオペラをご覧になったことがない方々に興味を持っていただく契機となりそうで、定期的な開催を望んでおります。




竜宮の展示はいたく喜ばしく、鑑賞後ソラマチ内のお鮨屋さんへ。ソラマチ店特製も湯飲みの色が太郎の着物によく似ており、嬉しさもひとしお。
そしてお鮨がくるまで魚の漢字の勉強です。元祖海の日に近い生まれで海産物を好み、前世はアザラシと思っていながら読み書きできぬ魚に関する漢字多し。



タコやイカもございます。お味噌汁には管理人の星座である蟹もたっぷり。
それにしても昨夏にお目にかかった第三キャスト太郎、髷や着物、茣蓙が違和感無さ過ぎだ、漁師とお侍さんの両方に見える、松の木の背景も似合うと
大いに話題となっていた季節が懐かしく、再演を心より願っております。