2020年6月30日火曜日

マイ ジゼルとは何ぞや


テレビ画面の貼り付けは宜しくないとは思いますが、迷宮状態なためお許しください。


突如不可解な記事名で失礼いたします。本日までは勝手にジゼル週間でございます。前回と異なり短めの内容ですのでご安心ください。
当ブログでは度々話題となっておりますボリショイ・バレエ団グリゴローヴィヂ版1989年収録の『くるみ割り人形』映像、
元々はレーザーディスクで所有しておりましたが随分前から機材も故障し修理にも出せず、2009年のモスクワ滞在時にグリシコで購入したDVDを今も時々観ております。
ウェアには興味を示さず、DVDそしてお店に置かれていたロシアのバレエ雑誌をもっと読みたいと片言にもほどがある英語で伝えたところ
裏からバックナンバーを何冊も持ってきてくださり、全冊購入。変わり者と思われたでしょうがそれはさておき
雑誌のある号には、ちょうどその約2ヶ月前にモスクワ国際バレエコンクールでペアを組み銀賞を受賞した、 現在ロイヤルシネマにてリラの精の予定のはずが主役の当日降板により急遽代役でオーロラ姫を踊り大成功を収めた話題沸騰英国ロイヤル・バレエ団の金子扶生さんと
東京都内のバレエ公演再開の弾みとなればと願う7月下旬開幕の新国立劇場バレエ団新作『竜宮』のトレーラー映像に浦島太郎役で登場された
奥村康祐さんの写真も掲載されていました。お2人ともまだ大阪を拠点に活動なさっていた頃です。

さて話を戻します。くるみのDVD主演はナターリア・アルヒーポワとイレク・ムハメドフ。『くるみ割り人形』役以外は恐らくは子役無しで
おもちゃの兵隊たちとネズミ軍団の戦争場面は『スパルタクス』さながらの男性群舞が大活躍。
また通常は2幕から登場する各国のお人形さんたちが不気味な真夜中の場面からクララと共に怯えたり、
戦争がおさまったときには喜びを分かち合ったかと思えば雪が降ってきたらはしゃいだり
2幕では花のワルツへの場面転換を誘導するかのように盛り上げクララと王子の結婚式のお手伝いや付き添いもこなすなど繋がりを色濃く描いた演出も特徴です。

そのDVDにはボーナストラックメニューがありつい先日初めて再生してみたときのこと。
Ballet's trailerとしてグリゴローヴィヂ版作品シリーズとして同時期に発売された映像の一部分が数分程度収録されています。
『イワン雷帝』、『石の花』、『ロミオとジュリエット』、『眠れる森の美女』、『ジゼル』、『愛の伝説』、『ライモンダ』、
ここまでは分かるのですが、最後の8本目に記された文字は MY GISELLE。マイ ジゼルとは何ぞや、と疑問を持たずにはいられません。
先に挙げた『ジゼル』はグリゴローヴィヂ版でナターリア・ベスメルトノワとユーリー・ヴァシュチェンコ主演。
勿論市販化されレーザーディスクは我が家にもございました。しかしMY GISELLEとは誰にとってのMyであるかも分からず。
再生してみるとグリゴローヴィヂ版ではなくラヴロフスキー版のようで、舞台美術や衣装もだいぶ色彩感が異なり
ジゼル役は可憐で愛らしいリュドミラ・セメニャカ。(先週のシネマでのラトマンスキー版における肝っ玉母さんも素敵でしたが笑)
決して上質とは言い難い不鮮明な映像ながら、1幕ワルツでの全員一列で両端にジゼルとアルブレヒトの姿が見える場面が収録されています。
説明の文字からして1990年の映像と思われますが、ただこの頃にはグリゴローヴィヂ版も発表されており、1990年の来日公演でも上演。
私も鑑賞予定でしたがベスメルトノワの舞台化粧に対する苦手意識が働いたのか発熱して断念。教訓としているのか以来体調不良による鑑賞断念はございません。
ひょっとしたらこの時期は両方をレパートリーとして現地では上演していたのかもしれませんが真相は分からず。
ともあれどなたかセメニャカご贔屓のバレエ研究者が携わった経緯からであるか、市販化映像にはより詳細な内容が収録されているのか気になるところでございます。

それにしても当時の連なる指導者たちの名前には興奮を覚え、ウラノワ、コンドラーチェワ、セミョーノワそして1週間ほど前に逝去したニコライ・ファジェーチェフまで
歴史に名を刻むダンサーばかりです。こう言ってはなんだが、映像では何度か目にしているご子息アレクセイ・ファジェーチェフよりも
モノクロ写真でしか触れていないニコライ・ファジェーチェフのほうが印象に残っているのは不思議でございます。
特にウラノワとのジゼル1幕で腕組みしてのジャンプだったか、微笑むジゼルににっこり笑いかけている場面は幸せに満ちた躍動感が伝わる写真でした。
ああ、ミルタ役はグラチョーワ。強い念力や情念を備えていそうで、想像だけでも胸が高鳴らずにはいられません。
一昔前の『ジゼル』、現代の『ジゼル』、魅力はそれぞれに詰まっており
ましてや管理人版「マイ アルブレヒト」なんぞ始動すれば語りが止まらなくなりそうですのでこの辺りでお開きといたします。
このままですとボリショイ街道まっしぐらブログと化すのは目に見えているため、次回はまた違うお国へ行って参る予定でおります。
日本で特に絶大な人気を誇るバレエ団でファッション関連を始めメディア登場も多しカンパニーにも拘らず
ロシア系に比較すると我が鑑賞回数は格段に少なく更に学びを広げていきたいと思っております。

2020年6月28日日曜日

ボリショイ・バレエ in シネマ Season 2019 - 2020『ジゼル』

約3ヶ月ぶり劇場鑑賞復帰第一弾は映画から、6月24日(水)ボリショイ・バレエ in シネマ Season 2019 - 2020
アレクセイ・ラトマンスキー改訂版『ジゼル』を観て参りました。
https://liveviewing.jp/contents/bolshoi-cinema2019-20/#information

スパイスイープラスでの紹介
https://spice.eplus.jp/articles/270675


音楽:アドルフ・アダン
振付:アレクセイ・ラトマンスキー
台本:テオフィル・ゴーチェ、ジャン・アンリ・サン=ジョルジュ
出演: ジゼル:オルガ・スミルノワ
アルブレヒト:アルテミー・ベリャコフ
ハンス(ヒラリオン):デニス・サーヴィン
ミルタ:アンゲリーナ・ヴラーシネツ
バチルド:ネッリ・コバヒーゼ
ベルト:リュドミラ・セメニャカ
モイナ:クセーニャ・ジガンシナ
ズルマ:アナスタシア・デニソワ
ペザント・パ・ド・ドゥ:ダリア・ホフロワ、アレクセイ・プーチンエフ


ボリショイ劇場ホームページより収録当日の詳細キャスト
https://www.bolshoi.ru/en/performances/7095/roles/#20200126180000



ダイジェスト映像




リハーサルやインタビュー


スミルノワのジゼルは登場時から快活で朗らか。上背もあり孤高崇高な姫のイメージが先行し村娘役はなかなか想像し難かったのですが
夢見る不思議ちゃんな趣で、目をパチパチさせながらアルブレヒトを探し回る健気なところや
アルブレヒトが懸命に話しかけても上の空な表情を浮かべるなど、掴みどころのない愛らしさがありました。
身体が弱いからと大事に大事に育てられ、外との交流も余りなかったであろう事情を思えば他の娘たちとはだいぶ異なる風変わりな魅力があった点も納得。
狂乱は静かに静かに、目を見開いたかと思えば虚ろな目つきで壊れていくさまに痛々しさが募りました。
ラインの美しさは絶品の一言で、アルブレヒトと戯れるときも精霊となった後も指先から脚先に至るまで神経が行き届き微塵も崩れず。

ベリャコフのアルブレヒトはジゼルに対して純粋な反応を見ては喜びされど花占いでは元気付けようと必死に励ましたり遊びか純情か序盤では見え辛かったものの
ジゼルの死を眼前にしたときの行動が圧巻。農夫たちに何度も取り押さえられながらも突き放してはジゼルに縋り付き
常日頃から力仕事に従事する農夫たちも仰天の怪力男である設定か否かはさておき、それだけジゼルへの執念が凄まじかったと見て取れる1幕終盤でした。
惜しむらくは髪型で、中途半端に長く且つぱっくり真ん中分けで角度によってはルネッサンスと杯を掲げるネタで知られるお笑いコンビ髭男爵のひぐちくんを彷彿。
恐らくは制作側からの指定かと思いますが(初演時のアルブレヒト像かもしれぬ)その点を除けばプロフィール写真など素顔はそこまで古めかしくないのだが
舞台上ではいわゆる少女漫画系ではなく一昔前の銀幕の世界に登場しそうな古風な容貌に均整のとれた抜群のスタイル
雄々しくも品性を持ち合わせた踊りといい深く熱が迸る表現といい『ライモンダ』でのジャンに引き続き我が好みのツボをだいぶ押された次第でございます。

3月のシネマ『ライモンダ』にてスミルノワとベリャコフは見た目は中世の宮廷歴史絵巻に相応しい美女美男で誠に宜しいバランスと惚れ惚れしましたが
崇高で凛然とした姫と懸命に尽くす騎士なるお2人で心震わす感情の通わせがあったかと聞かれたら2幕後半のあわや誘拐な緊急時における救出劇以外は大きくは頷けず。
舞踊絵巻な作品ならば良いのでしょうが、ドラマ性が濃い『ジゼル』でのパートナーシップはやや不安もありました。
しかしいざ観ると心配無用、1幕序盤でのアルブレヒトが捕まえようとしてもすり抜けてしまうジゼルのやりとりでは
会話が聞こえてきそうなほどはしゃぐように戯れていて、高身長の2人ですから容姿と行動の対比にも殊更微笑ましく頬が緩んでしまいました。
2幕では度々ジゼルの墓から離れようとせず、従者の催促に見向きもせず後悔の念に駆られるアルブレヒトを
空気に溶けて消え入りそうに儚くもそっと優しく包み込むように接して細やかな感情の行き来が見え、しかも2人とも一瞬一瞬が絵になるフォルム。
ドラマ性の強い作品においても予想に反してお似合い且つ化学反応も香り立つペアでした。

舞台をビシッと引き締め盛り上げたのはハンスのサーヴィン。『パリの炎』ジェローム(2017年来日公演で観て感激)や
シネマでの『くるみ割り人形』における軽やかな身のこなしで見せ場を作っていたドロッセルマイヤー、長過ぎる『海賊』で辛うじて目を開けていられたのは
サーヴィンのビルバントの存在があったからこそ、など舞台に登場すれば必ず厚みと面白味を加える
名前が目に入ると鑑賞を何倍にも楽しみにさせてくださるダンサーで今回も期待以上。
やや濃い目のメイクのせいか遠目で見ると博多華丸さん風にも見えなくもなかったが笑、
序盤から木陰に立って「ハンスは見た」な立ち位置でアルブレヒトとウィルフリードの会話を聞き逃すまいと覗き見る姿や
アルブレヒトの身分暴露の機会を窺いまずは証拠の剣を落ち葉で隠す行動から粗暴そうであってもジゼルに尽くす情熱、不正を許したくない正直過ぎる性格は誰にも負けず
もう少しジゼルに歩調を合わせてそっとアプローチをしていたならば恋は成就したであろうにと思えてならずでした。
2幕、音楽と呼応するようにウィリたちからの囲い込みに狼狽える姿から劇的に盛り立て突き落とされる最期に至るまで劇的に盛り立てる活躍です。

そして最たる嬉しい配役の1人がコバヒーゼのバチルド。当ブログのプロフィールに明記しているほど好きなダンサーであり(虜になってかれこれ15年目)
出演だけでも喜びが込み上げてくることに加え事前に読んだ情報によればジゼルとも交流をしっかり行う姫君である設定と知り
ぴたりと嵌りそうと想像しておりましたが神秘的な美しさを秘めたお顔立ちに醸される性格も含め絵になり過ぎる姫君。
明るめのブルーのドレスを纏い、本物の白馬に跨って登場する姿からしていよいよ中世ドイツのおとぎ話の絵本の世界に迷い込んだ心持ちにさせられました。
ジゼルと出会い、もてなし準備のために一旦引っ込んだジゼルの印象を雄弁なマイムで何と可愛らしい少女と感激しきりな様子でクールランド公に伝え
その後はジゼルと仲睦まじくお互いの婚約者について語らいのひととき。見間違いもあるかもしれませんが
バチルドは背景画のお城に向かって手を掲げ、結婚式の日には踊りを披露に来て欲しいとジゼルを招待する意向を示していたほどで
ジゼルを妹のように可愛がる優しいお姉さんにも見えました。ベルトに止められてももう暫く話をさせて欲しいとまで訴えていましたから
余程ジゼルが愛おしくて仕方かなかったのでしょう。聞き上手でジゼルの婚約者自慢の話にもじっと耳を傾け
間近に迫ったお互いの結婚を我がことのように祝福し合う光景に、まさか婚約者が同じ男性であるとは本人たちは知る由も無く、結末が分かっているとはいえ
2人が会話に花を咲かせ仲睦まじくなればなるほど切なさに押し潰されそうになりました。
アルブレヒトの二重婚約発覚後も戸惑いはあっても露骨に怒りは見せず、それよりも仲良くなった愛おしいジゼルが発狂し苦しむ姿に胸を痛め
狂乱の様子も顔を時折覆いつつ手を差し伸べたくても出来ずもどかしさや悲しみを募らせていた印象です。
初演時の振付通り2幕最後は憔悴しきったアルブレヒトを皆で迎えに訪れ慰める中で幕。2人にとってジゼルは束の間の幸福をもたらしてくれたのは紛れもない事実で
きっとこの慈悲深いバチルドとアルブレヒトならばジゼルの月命日には必ず花を手向けに墓を訪れ祈りを捧げるであろうと想像いたします。

そして往年のバレリーナであり現在は教師を務めるセメニャカによる母ベルトも忘れられず。ジゼルにウィリの悍ましさを語る場面がたっぷり時間を取る演出で、
ジゼルの経験に裏打ちされた悲哀と冷たさが宿るポーズ1つ1つに説得力をもたらしていました。
セメニャカがジゼルを踊る写真はボリショイ劇場ホームページにも掲載され、異次元の美しさです。

眺めているだけでも恐怖感とひんやり冷風に包まれそうになったウィリたちの群舞も見事。
衣装の柔らかな素材やデザインの影響もあるのか一層軽やかで幽玄な雰囲気と化し、ジゼルが登場後急速回転を行った直後に一斉に移動して十字架の形を作り
ジゼルが交差部分に入る仲間入り儀式の流れは身の毛がよだつ恐ろしさでした。
パ・ド・ドゥ直前には復刻曲なのか厳粛で弾みのある音楽に乗せてジゼルとアルブレヒトを追いかける場面もあったかと記憶。
唐突に思えたのはほんの僅かで、新米ながら規定に逆らいミルタに刃向かうジゼルとすぐさま殺めたい対象であるアルブレヒトを追い詰める効果大でした。

改訂振付、演出を手掛けたアレクセイ・ラトマンスキーはかなり初演時の舞踊譜や史料を読み込んだようで、
音楽も振付共にもはや改訂しようがないのではと勝手に思い込んでいた作品ですが初演時の振付や音楽を違和感なく取り入れ、
幕間の解説によればソ連寄りであった傲慢冷酷な貴族のイメージ解釈をヨーロッパ寄りに戻してバチルドとジゼルの仲睦まじい関係を描いたり(聞き間違いがあったら失礼)
マイムを多用したりと新鮮且つ古色蒼然に見せぬ上質な舞台でした。以前目を通したシリル・ボーモントの著書
『ジゼルという名のバレエ』を再度読み、初演時からの変遷を紐解いて学ぼうと思います。
1つ欲を言えば、墓参りの場面は薔薇の花束を持ちウィルフリードの肩にもたれかかりながらではなく1人で百合を持って登場いただきたかった思いもいたしますが
従来の演出の印象先行による望みですし従者との関係性もより覗ける演出も宜しいかと考えを転換。
男性目線であると捉えるご意見もあるかもしれませんが、終幕ジゼルがアルブレヒトに対してバチルドのもとへ行くよう促し
戻ってきたアルブレヒトをバチルド優しく赦す演出にも私はいたく納得。
明らかに遊び人なアルブレヒトならば疑問を投げかけたくなるでしょうがジゼルにも本気で愛情を注いでいたとするならば
結果として三角関係になってしまったもののお互いを尊重し合う仲に発展していた女性2人は見捨てたり復讐に燃える行動には走らないと思うのです。
別れの場面はお墓ではなく、反対の上手側前方の茂みに横たわったジゼルが離れたがらないアルブレヒトの手を握りつつ
安堵の笑みを浮かべながら消え行く流れは胸を締め付けられそうになりながらも浄化される余韻を残しました。

また主要キャスト4役(アルブレヒト、ハンス、バチルド、ベルト)が現在のボリショイの中では我が脳内で描く『ジゼル』理想の布陣だったこともあり、
特にボリショイの男性ダンサーでは即座に名前を挙げたくなるベリャコフとサーヴィンの熱い対決は夢の共演実現でしたしそこへコバヒーゼが絡んで並び
セメニャカも出演。前回のボリショイシネマ『ジゼル』には足を運ばず今回もキャストが分かるまでは鑑賞する気はそこまで進んでおりませんでしたが
発表された途端脳内花畑。先に挙げた4方の嵌りようは勿論、スミルノワの空想好きそうな少女っぷりも響き
今までに観た海外のバレエ団やダンサーの『ジゼル』で生、映像含め一番心に刻まれる公演でした。再上映があれば是非ご覧ください。
名物司会進行のカテリーナ・ノヴィコワさんの登場シーンにも驚かされるかもしれません笑。



余談
※ベリャコフについて、ボリショイ・バレエ団2020年来日公演ジャパンアーツ特設サイトの写真や来日公演チラシ掲載写真は端正で知的な風貌が大変素敵なのですが
ボリショイ劇場ホームページの写真が風に吹かれた怪しい兄さんな写りで、誰が掲載を決めたのか知りたいものです笑。(プロフィール写真、大事)


※ここ最近はバレエを映像で満喫する習慣が身に付き、せっかくですから予習も兼ねてベリャコフの映像を辿ってみたところ驚愕。
初めて海外のダンサーのファンの方が運営のSNSを覗いてみると、写真のみならずいかにして映像を入手そしてアップしたのか分からぬと考える隙も与えぬほど
多岐に渡る映像満載。まとめられているため検索も不要で20本程度は映像があったかと思いますが、驚きに拍車をかけたのが務めてきた役柄の幅広さ。
『白鳥の湖』王子とロットバルト両役の経験は知ってはおりましたが、グリゴローヴィヂ版『ロミオとジュリエット』でもロミオとティボルト両方務め、
(ラトマンスキー版ではロミオのみ)白と黒両方で惹きつけることができる大変魅力あるダンサーであると再確認。
他のボリショイ男性プリンシパルのレパートリー事情はよく調べていないため詳細は分かりかねますが(失礼)
昨年夏頃プリンシパルに昇格したばかりとは思えぬ主役経験の豊富さに仰天いたしました。(リーディングソリスト昇格時は2階級飛び級だったらしい)
しかも古典のみならず『明るい小川』でのシルフィードに扮した生真面目姿には深夜に大笑いしてしまい
ロシアの報道番組内で放送されたらしき、マクシモワとワシリエフの共演が刷り込まれている『アニュータ』でのしっとりしたパ・ド・ドゥも視界に入り
ノイマイヤー版の『アンナ・カレーニナ』ではヴロンスキーを務めたようですがお若い年齢にしては貫禄があり過ぎ、カレーニン役のダンサーが気になります。
そういえば、何年か前には『じゃじゃ馬ならし』では先輩クリサノワのカタリーナを娘に持つ設定のお父さん役でした。
マイヨーの要望だったのでしょうが今思えばよく若手に託したと思います。
3月のシネマ『ライモンダ』直後に少し調べただけでも驚いたものですが、
既に主役のツム(ボリショイ劇場隣の百貨店。赤の広場のグムより使い勝手が良さそうな印象)
到達かと思わせ今回は映像も多々目にできたこともあって、ロシアバレエ界の噴水の如き自由な映像放出事情にはおそロシアと呟くしかありません笑。
そして来日公演の実現を願い、『スパルタクス』やガラのみならず平日昼公演の『白鳥の湖』にも足を運ぼうと思っております。




平日の昼間にこの場所へ来たのは初、青空を背景にゴジラがお出迎え。



タイムスケジュール。観客は200人収容の会場に20人程度でした。



スタジオジブリ作品の上映もあるようです。



帰りはこちらへ。3ヶ月ぶりの劇場鑑賞後の一杯はドイツ居酒屋へ。



陶器に入ったビールとバワンレバークネーデル(肉団子のきのこソースかけ)料理で乾杯。開店早々であったため、貸切状態でした。
それにしても、3ヶ月ぶりに公共の場で芸術鑑賞しかもこれまでのボリショイシネマで最も終始集中してじっと見入る映像で終映後にはたっぷりのビール飲み干しと
久々の行為に身体もついていかなかったのでしょう。酔いの回りが早く、帰宅後早々に就寝。自宅で焙じ茶飲みながらの鑑賞に慣れ切っていた管理人でした。



レジ近くにあった貴族を描いたと思われるレリーフが美しい瓶。写真どうぞと言ってくださり、喜んで撮影。



※ところで、実は3年前から疑問の不思議なジゼルの法則がありましてこの度もびっくり笑。
今回は映画ですが、東京で観た印象に残るジゼルの公演3本が全て6月の3連続日に集まっております。
※愛媛のジゼル(2009年2018年)は殿堂入り


2020年は6月24日


2006年は6月25日


2017年は6月25日、26日

偶然か周期があるのか分かりかねますが、毎年6月24,25,26日はジゼル感謝祭としてドイツのお酒を嗜む日にしようと制定。
そして奇しくも本日6月28日は『ジゼル』パリ・オペラ座での世界初演の日。当初の予定では今頃は群馬県高崎市に滞在していたはずですが
都内から出ぬ1日、『ジゼル』の映像や写真を眺めながら過ごしたいと思っております。

2020年6月21日日曜日

【お茶の間観劇】ミュンヘン・バレエ団 ガラ Gala mit Stars des Bayerischen Staatsballetts

バイエルン州立劇場(ミュンヘン・バレエ団)から配信中の2017年1月上演のガラ
Gala mit Stars des Bayerischen Staatsballettsを鑑賞いたしました。バレエ団の公演は初鑑賞です。
様々な時代の作品が組まれたプログラムで現在も配信中ですので(恐らくは6月27日まで)是非ご覧ください。感想は短めですのでご安心を笑。
https://t.co/3d08gwEOJE



レッスン再開の様子。



Der Nussknacker - Grand Pas de deux
Choreographie Vasily Vainonen
Musik Peter I. Tschaikowsky
Tatiana Tiliguzova, Dmitrii Vyskubenko
Vladislav Dolgikh, Konstantin Ivkin, Wentao Li, Erik Murzagaliyev

『くるみ割り人形』よりグラン・パ・ド・ドゥ。但し女性1人に男性複数人の構成で見覚えのある振付と思ったらワイノーネン版。
衣装が本家マリインスキーのメルヘンな趣からはかけ離れたすっきりスタイリッシュなデザインであったため
また男性も白い丸みある鬘も無く違和感は拭えなかったものの、名物鯱リフトも決まりお見事。
芸術監督がゼレンスキーだからこの振付を採用と思われるが詳細は分からず。


Parting
Choreographie Yuri Smekalov
Musik John Powell Assassin's Tango
Maria Shirinkina, Vladimir Shklyarov

一昨年2018年のマリインスキーバレエ団来日公演にてエカテリーナ・イワンニコワとコンスタンチン・ズヴェレフ組で観て気に入ったスメカロフ振付『別れ』。
純朴で愛らしい印象が先行していたマリア・シリンキナが驚くほどに色っぽく、身体の線がよく見える腰までスリットの入った赤紫のドレスもお似合いで
大胆な開脚で絡む流れも嫌味を感じさせず。永遠の少年とどうしても思ってしまう(失礼)ウラジーミル・シクリャローフがタンゴの曲で踊る姿も新鮮。


Schwanensee - Weißer-Schwan-Pas de deux
Choreographie Marius Petipa, Lew Iwanow
Musik Peter I. Tschaikowsky
Prisca Zeisel, Erik Murzagaliyev

アダージオであってもプリスカ・ザイセルのオデットは実にダイナミック、特に肩から腕、背中にかけての筋肉も立派で王子よりも遥かに強そうでオディールも観てみたい。
ムルザガリエフはぱっと目を惹く華は控えめだが勤勉そうな雰囲気に軍服衣装がよく合います。


Raymonda - Grand Pas de deux
Choreographie Marius Petipa, Ray Barra
Musik Alexander Glasunow
Ksenia Ryzhkova, Alexander Omelchenko
Luiza Bernardes Bertho, Antonia McAuley, Vera Segova, Freya Thomas
Vladislav Dolgikh, Konstantin Ivkin, Wentao Li, Dmitrii Vyskubenko

レイ・バラ版『ライモンダ』よりグラン・パ・クラシック。セルゲイ・ポルーニン客演時にダンスマガジン2019年2月号にてカラーで大きく報じられていたため
記憶の片隅にございました。(随分と野性味がある印象だったが)
ライモンダは嘗てモスクワ音楽劇場バレエ団に在籍していたクセーニャ・リシュコワ。そういえば2015年の来日公演時はゼレンスキーが芸術監督を務め
入団2年目ぐらいの新進気鋭ダンサーとしてプログラムで紹介されていたと思い出しました。
まろやかで上品な踊り、少し憂愁を帯びた神秘的なお顔立ちにも自然と惹きつけられる姫君です。
ジャンのヴァリエーションは新国立劇場にて毎年夏開催のガラ公演バレエアステラスフィナーレで馴染み深い『バレエの情景』Op.52 より第8曲 ポロネーズを使用し
格調高く力強く気分が高揚する曲調で聴くたびに惚れ惚れする曲でまさかヴァリエーションでの使用には驚かされましたが舞台を一気に盛り立てる効果大。
衣装は全員薄めの金色とオフホワイトと合わせ、太い縁取りがアクセントになったデザインで
中世(とは言っても時代はまちまちだが)らしく胸元が平たいカッティングである点も嬉しく結婚式の場面だけでも全編通して観たいと思わせます。


Spartacus - Pas de deux Aegina-Crassus
Choreographie Yuri Grigorovich
Musik Aram Chatschaturjan
Prisca Zeisel, Erik Murzagaliyev
そうでした、グリゴローヴィヂ版『スパルタクス』をミュンヘン・バレエ団でも採用しているのでした。
エギナのザイセルはオデットよりずっと生き生き。ギラついた陽性オーラを放ち、全幕で群舞を従えても負けぬ存在感があると想像。
ムルザガリエフは茶色いクルクルカールの鬘無しであったためか健全クラッススに見えたが、エギナにお仕えしている感はなかなか良いかもしれません。



スパルタクス上演時のゼレンスキー、グネーオ、ザイセルへのインタビュー。



Frühlingsstimmen
Choreographie Frederick Ashton
Musik Johann Strauß Frühlingsstimmen-Walzer
Mai Kono, Javier Amo

アシュトン振付『春の声』。英国ロイヤル・バレエ団以外でも採用されているとは知らずにおりました。
2006年の世界バレエフェスティバルでの初鑑賞時に登場時の振付から「花咲かコジョカル」と勝手に名付けた記憶がございます笑。
花びらと共にほんわかと幸福感を振り撒き、スパスパっと素早いポーズの切り替えも含め河野舞衣さんがいたくチャーミング。


Le Corsaire - Pas de deux
Choreographie traditionell
Musik Adolphe Adam, Léo Delibes
Maria Shirinkina, Vladimir Shklyarov

ここはマリインスキーの誇りを示したかったのか、シクリャローフはブルーのパンツ。謎の網襷も無く、腰部分の煌めく装飾も二重丸。(私の中でアリといえばこれです)
シリンキナは一見ロシアのものではなさそうな、抑えたゴールドで整えられたデザインで2人のバランスが今ひとつでしたが各々は似合っていましたから良いか。
ヴァリエーションはシェル男爵作曲『シンデレラ』の中の1曲、何度聴いても歌えない曲調です。シクリャローフのヴァリエーションカットの理由は不明。


Romeo und Julia - Balkon-Pas de deux
Choreographie John Cranko
Musik Sergei Prokofjew
Ksenia Ryzhkova, Jonah Cook

クランコ版『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ。リシュコワのジュリエットはロミオとの再会に高鳴る鼓動を必死に抑え
徐々に心を解放していく表現が実に細やか。同性でも蕩けそうになり、品位ある舞台姿も好印象。全幕を観ているかのようでした。
『ライモンダ』でも『ロミオとジュリエット』でも全幕主演舞台を鑑賞したいと感じさせたダンサーです。
ドラマティックな表現はダンチェンコ時代によく訓練され培われたのかと思います。


Don Quijote - Grand Pas de deux
Choreographie Marius Petipa
Musik Ludwig Minkus
Ivy Amista, Osiel Gouneo
Irina Averina, Luiza Bernardes Bertho, Shuai Li, Antonia McAuley, Vera Segova, Freya Thomas

イヴィ・アミスタのキトリは輪郭がはっきりとした鮮やかさで魅了。勢い任せにせず、ポーズも1つ1つ丁寧に描き出していました。
ボリュームのあるチュチュで、表は白地に緻密な金色レース模様ですが裏側は赤。翻る度に赤色が覗き、明るさやめでたさが倍増です。
グネーオのバジルは胸元が開き過ぎる衣装が気になって仕方なかったが笑、2月のコジョカル「救済プロジェクト」で鑑賞したときの『海賊』とは異なり
決してステップを詰め過ぎず過剰なバランスも取らずあくまでシンプル路線。


冒頭ではプログラムと一覧と共に夜の灯りと雪に包まれたプリンツレーゲンテン劇場の光景が映し出され、ミュンヘン旅情にも浸れます。どうぞお楽しみください。


余談:自宅でも旅気分と思い、以前にも触れましたが焙じ茶を飲みながらサスペンスドラマの再放送をよく観ております管理人。
昨夜は渡瀬恒彦さん主演の『タクシードライバーの推理日誌』を視聴していたところ、舞台は広島県尾道市。
2017年夏に愛媛でのバレエ鑑賞後すぐに瀬戸内海に浮かぶ大三島に移動し、翌朝からしまなみ海道を自転車で走り
途中からは船で渡り降り立った場所で何かしらバレエを思い出す日々でございます。
県外移動が解禁されても暫くは都内から出ぬ日は続きそうで、バレエ映像や2時間サスペンスで旅気分を味わいたいと思っております。

2020年6月17日水曜日

【お茶の間観劇】ペルミ・バレエ団 ミロシニチェンコ版『ラ・バヤデール』

ペルミ・バレエ団が配信していたアレクセイ・ミロシニチェンコ版『ラ・バヤデール』を鑑賞いたしました。
バレエ学校のドキュメンタリーは見たことはありましたが(リュドミラ・サハロワ先生が恐ろしかった印象ぐらいしかないが)初めて鑑賞するバレエ団です。
ミロシニチェンコは映画『マチルダ』での振付も担当していたバレエ団首席振付家とのこと。



メイキングドキュメンタリー。主演者へのインタビューやインド人エキストラを交えたリハーサルの様子も映されています。


ニキヤ:ナタリア・オシポワ
ソロル:ウラディスラフ・ラントラートフ
ガムザッティ:マリーヤ・アレクサンドロワ


オシポワは失礼ながらニキヤのイメージが当初は沸かず、半ば恐る恐る鑑賞いたしましたが(失礼)
抑えてはいても反骨心露わな表情が前面に出ていてこれはこれで魅力ある強者舞姫。かえって大僧正の心をくすぐってしまうのでろうと推察です。
しかしガムザッティとの修羅場では身分財力全てにおいて勝ち目がないと俯きなら悟り、瞬時にして悲哀感に包まれた姿に祈る思いで見入ってしまったほど。
花籠は随分とブンブン振り回していた印象ですが、とにもかくにもパワフルで四肢の可動の激しさがそのまま執念の滲みに繋がっていたもよう。
影となったあとも儚さは無く、弾むように鋭く踊り熱や体温を感じさせ続けていた姿は寧ろソロルを引っ張っていた何処までも頼もしいニキヤでした。
順番前後して登場時、被っていたベールが頭から外れてしまい冷や冷やしましたが肩に乗せたまま維持。
顔が見えぬよう真下に折り曲げ、状況を察した大僧正も肩から力を込めて取り外し、ニキヤが顔を上げるのを今か今かと待ち侘びる心も伝わり見事な咄嗟の判断でした。

ラントラートフのソロルは登場時からお人好しそうな雰囲気でもう少し見るからに戦士らしさがある方が好みですが
強気過ぎる女性2人の板挟みになる姿が絵になるのも説得力があると言い聞かせた次第。
記憶が正しければガムザッティとに対面時に剥ぎ取った虎の皮らしきものを肩から掛けていましたが
米国アニメ版の熊の物語のキャラクターな色合いで思わず笑いが込み上げ、
その後ニキヤが舞を披露する1幕後半では隅っこの壁に隠れて項垂れている有り様で、情けなさに更なる拍車をかける効果がありました。(笑)
白っぽい衣装であった点も猛々しい戦士ではなくすっきり品のある人物に見せていたのかもしれません。

大きな見どころであったのがアレクサンドロワのガムザッティ。ただ怖い、意地悪ではなく将来は藩をしっかり治め繁栄させるであろう
知性や政治能力にも長けていそうな女性で、登場での美しさを見せびらかそうとせず落ち着いた足取り、表情で現れる姿から明らかでした。
赤い模様を彩った衣装や蝶を模した金色の髪飾りも似合い、最前列からでも見え辛い画廊に展示されているサイズ館の小さ過ぎるソロルの肖像画を目にしても
いかに魅了される男性であるかと全身で表現。観客に伝えてくださいました。
2幕冒頭ではピンク色の長い裾のある衣装でメイクも濃いめでまさに『ムトゥ 踊るマハラジャ』あたりに登場するインド映画の王女様。
その後はチュチュに着替え、久々に大作にてクラシック・バレエを踊るアレクサンドロワを目にでき
嘗ては天を突き刺すような潔い脚先に驚愕したイタリアンフェッテを始め技術は少々衰えは否めなかったものの
場の支配力や絢爛な空間にて祝福されるに相応しい王女っぷりは健在。感激もひとしおでした。
ニキヤのソロではガムザッティは姿勢崩さずじっと見据え、ソロルは下げたままの顔を上げられず笑。2人の力関係が明確過ぎます。

立ち役の従者やニキヤのお付きにインド人エキストラを採用した点も話題になったようですが、
映像のせいかさほど気に留まらず。ただ生で劇場で鑑賞したら壮観であったかもしれません。それよりも、インド人の視点からこの作品の感じ方を知りたいのだが笑。
(2006年のボリショイ来日公演では近くにインド系のご家族の観客がいらしていたが、時々笑いながら鑑賞していました)

気にかかったのはパ・ダクションと影たちの衣装がよく似た形状、色合いでもう少し違いがあれば尚良かった印象。
チュチュは全体が大きく膝にかかりそうな丈でプティパ作品の世界初演時代を彷彿させ、ボリュームがあり過ぎる気もいたしました。
影の群舞は手に汗を握らせるダンサーやばらつきもかなりありましたが、チュチュの雲海と化した光景はなかなかの迫力。

2006年のボリショイ来日公演におけるガムザッティ役でアレクサンドロワの虜となり早14年。好きな海外の女性ダンサーと聞かれたら最初に名を挙げ
プロフィールにも明記しているほどの存在になるきっかけとなった役柄を2014年以来久々に鑑賞でき、幸運でございました。
またオシポワのニキヤに対抗できるダンサーは恐らくは数少なく笑、アレクサンドロワとマリアネラ・ヌニェスぐらいでしょう。
そして先述の2006年におけるアレクサンドロワのガムザッティ日本初お披露目当時はコール・ド・バレエに属しながらも
影のヴァリエーションで頭角を現していたオシポワ(他にも影トリオにはニクーリナやクリサノワ、コバヒーゼと宝庫状態であった)が
火花を超えて火山級の対決の実現映像の鑑賞にも喜びに浸った次第です。


インドの踊り(太鼓の踊り)ソリストをエンジン全開で務めていた宮原詩音さんのブログより、衣装の作りがよく分かる写真を載せてくださっています。
くす玉の例えに思わず納得。
https://ameblo.jp/miyahara-shion/entry-12430065365.html

2020年6月14日日曜日

【お茶の間観劇】1984年6月11日収録 アメリカンバレエシアター アットザメット ミックス・ビル




1984年6月11日に収録された、メトロポリタンオペラハウスでのアメリカンバレエシアターミックス・ビルを紹介いたします。
動画サイトにも作品ごとに経緯不明なるアップがされていますが、DVDもまだ何処かでは入手できそうなため少しでもご興味を持たれましたら購入して損はありません。
かれこれ30年ほど前から繰り返し観ているやや古めながらも今観ても色褪せない魅力が凝縮した映像で、どこかの機会で綴りたいと思ってはおりましたが
劇場での鑑賞や講座受講など日々充実していたため市販化された映像の紹介にまでは手が回らず。
この機会に、また開催が36年前の3日前でしたのでこじ付け感がある点は目を瞑んでいただけますと幸いでございます。
是非ご覧いただきたいお勧めの映像ですので紹介は簡潔に済ませますが悪しからず。但しいつも以上に独断と偏見が多いかもしれません。





『レ・シルフィード』
振付:ミハイル・フォーキン
音楽:フレデリック・ショパン

マリアーナ・チェルカスキー
シンシア・ハーヴェイ
シェリル・イエガー
ミハイル・バリシニコフ

シルフィードたちが巧者集団で、妖精らしい軽やかさがありつつも凛然として揃っているクールな雰囲気。
1978年のガラとは衣装が変わり独立提灯袖となったため、肩から腕の部分が見えるようになった点も
華奢なフォルムの一層の引き立ちに効果をもたらしたと思えます。
微笑みを湛えて大らかに舞い、パステル画を彷彿させるマリインスキーの『ショピニアーナ』と比較するといたく面白く
音楽構成と振付は同じであってもあたかも全然違う作品を観ている心持ちにさせられ、
どちらが良いか否かではなく各カンパニーの持ち味や表現はそれぞれで、双方甲乙付けがたい魅力があると感じ入ります。
チュチュのたなびきと連動しての柔らかに弧を描く腕運びが見事なチェルカスキー
派手な技巧は無しでも、音楽と溶け合うようなロマンティックな趣きも似合うバリシニコフにも引き込まれます。
恐らくは3、40年前のABT得意演目で節目やミックスプログラム時には頻繁に上演されていたのか完成度が実に高く、私の中では『レ・シルフィード』の決定版。
ー 演奏が澄み切った空気の中を流れるように細やかで清々しく、誠に上品な点も気に入っております。
冒頭では夜のメトロポリタンオペラハウス前のライトアップされた噴水や内部の煌々と輝くシャンデリアも映し出され、METに入場した気持ちで鑑賞できる点も嬉しい。


シルヴィアーパ・ド・ドゥー
振付:ジョージ・バランシン
音楽:レオ・ドリーブ

マーティン・ヴァン・ハメル
パトリック・ビッセル

派手な要素を求めず振付、音楽に忠実に踊るハメルの折り目正しさが目に胸にじわりと響き、お手本を眺めているかのよう。
ビッセルは『ドン・キホーテ』におけるバリシニコフのバジルとガンを飛ばし合いながら笑、火花を散らしていたエスパーダの印象しかありませんでしたが
やや前のめりな音取りが一瞬気にはなるものの気づけば演奏とぴたりと合い、ダイナミック且つさらりと端正。
パートナーシップも頗る良く、特にアダージオ後半にてハメルが斜めに身体を傾けながらの回転では
遠心力までもが音楽がぴたりと噛み合いビッセルのサポートの上手さが光るところの1つ。
ブルーを基調にピンクの小花や銀色模様に彩られたゴージャスで煌びやかな衣装も必見です。
何度も観ているパ・ド・ドゥですが、ダンサー、踊り、衣装、音楽すべてが調和していてこれまた私の中の決定版でございます。
1996年の第1回マラーホフの贈り物にて、アマンダ・マッケローとマラーホフが踊っていますが、すっきりしたデザインの衣装を着用していました。
後に劇場で鑑賞したアシュトン版やビントレー版、ノイマイヤー版も良作であるとは思いますが、
轟いていた雷鳴がおさまり打って変わって寄せては返す漣を思わせる曲調へと変化したところでクラシカルな装いの2人が登場する
独立したグラン・パ・ド・ドゥ形式が管理人、この映像を初めて観たときから好みでございます。


トライアド
振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

ロバート・ラ・フォス
ヨハン・レンヴァル
アマンダ・マッケロー

2人の双子の青年と1人の女性の三角関係と取り巻く青年たちを描いているらしいがすぐさま明確には分からず。
しかしプロコフィエフの劈くヴァイオリンの音色が渦巻く思惑や良からぬ関係性を暗示していると窺え
身体を思い切り傾けたり、手を真っ直ぐに繋いだ青年の腕に干された布団の如くパタリと身体を折り曲げた状態で引き摺られたり
人体綾取りと名付けたくなる複雑に絡みながらの造形といったマクミラン特有の振付が散りばめられ、陰鬱な作品であっても気づけば堪能。
衣装はシンプルで、マッケローはピンク色のレオタードに切り込みの多いスカート、男性陣は赤系マーブル模様の総タイツです。
気まぐれなのか鬱っぽさがあるのか掴みどころのない女性をマッケローが好演。


パキータ
改訂振付:ナタリア・マカロワ
音楽:ルートヴィヒ・ミンクス

シンシア・グレゴリー
フェルナンド・ブフォネス

レスリー・ブラウン、スーザン・ジャフィ、シンシア・ハーヴェイ、ディードラ・カーベリー

タイトルロールのグレゴリーの型を厳守した踊りにこれまた恍惚と魅了され、とにかく肩から腕にかけてのラインが崩れず
また余計なことはせずとも深紅のバラがぱっと花咲くような舞台姿、経過年月問わず記憶に残り続けると確信。
ブラウンの軽やか達者で抜群のコントロール力に、間延びを一切思わせぬ音楽を全身でたっぷり魅せるジャフィも唸らせ
ハーヴェイの優雅さを持たせつつ豪快な跳躍や軸のぶれぬ安定感から繰り出す職人級の連続回転も圧巻でした。
カーベリーの伸びやかで音楽にぴたりと嵌る踊りも心躍らせ、凄腕揃いであった1978年の『テーマとヴァリエーション』に比較すると
群舞はばらつきが目立ってはいたものの舞台を華々しく盛り立てていた印象。
対角線上に女性陣が勢揃いした中を堂々ゆったり登場するブフォネスも場に相応しい華や品、躍動感とエレガント魅力を備え
当たり前であるとは重々承知していてもグラン・パのリュシアンは相当な人物でないと務まらないと再確認。
来年2021年1月に新国立劇場バレエ団が18年ぶりに再演を予定しており、配役が今から気になるところです。

※ケース記載の順番と異なり、私が観る限りヴァリエーションの順序は1ブラウン、2ジャフィー、3ハーヴェイ、4カーベリーに見えましたが
違っていたら申し訳ございません。


いつも以上に勝手な気ままに綴りまして失礼いたしました。同時期の1980年代から1990年頃にかけて鑑賞した
テレビ放送録画を含む映像も当時から紹介したいものは山々ございますが、いかんせんその頃はインターネットも無く
またちょうど就労もせず学校へも行かずな時期でしたので鑑賞の感想を語り合う知り合いもおらず、30年の時を超えて現在に至ってしまいました。
当ブログでもまだ触れていないながら何処かでの紹介を考えている映像としては、ベスメルトノワやヴァシュチェンコの『レ・シルフィード』や
ムハメドフの『スパルタクス』抜粋上演したボリショイのロンドン公演や、キエフバレエのアンナ・クシネリョーワ主演『眠れる森の美女』
ガリーナ・メゼンツェワとコンスタンチン・ザクリンスキー主演レニングラードバレエ(当時)『白鳥の湖』など色々ございます。
ただそうこう言っているうちに管理人の劇場鑑賞復帰(但し映画)も近づいて参りましたので、タイミングを見つつ紹介して参りたいと思っております。

2020年6月10日水曜日

アリス事件ー下巻ー

今月に入って以降電車通勤者も増え、分散ではあっても学校の授業も再開されつつ
映画館や美術館図書館、習い事の教室なども制約を設けながらも営業再開の様子が伝わってきます。
映画館においてはパリ・オペラ座『真夏の夜の夢』や私も3月に鑑賞したダンスの饗宴、マシュー・ボーン版『ロミオとジュリエット』やロイヤルシネマシリーズ、
英国ロイヤル・バレエ団『ロミオとジュリエット』再映も始まりご覧になった方のご感想を楽しく拝読しております。
しかし管理人、映画においてはバレエ関連作品も多々公開されているにも拘らず未だ足を運んでおらず
平日の出勤はほぼ通常通りで電車利用は何ら問題ありませんが、3月中旬以降休日は自宅周辺徒歩圏以外には出向かぬ習慣が根付いてしまい
毎週末のように劇場通いしていた日々が遠い記憶状態でございます。勿論バレエ公演再開後は劇場へ足繁く通う予定でおりますが
『雄大の部屋』も終了し、まだ暫くの間の週末昼下がりは焙じ茶を飲みながらバレエ映像そしてサスペンスドラマの再放送を視聴する生活が続きそうです。

さて文庫本でもシリーズを度々読み、時刻表を用いたり目的地へのありとあらゆる移動手段を絞り出しては捻った経路を導き出したりと日本各地を巡る
旅情に浸れる作風や十津川警部と亀さんこと亀井刑事のコンビぶりも好みで先週末も毎度のように西村京太郎トラベルミステリーを視聴していたときのこと。
映し出された駅を見ると上野駅の公園口そして群馬県の高崎駅!前者は東京文化会館目の前の改札で下車回数は数知れず。下半期は可能なら何度も通いたい駅でございます。
後者は今年上半期の最後を飾る予定であった新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』千秋楽の地であり初の群馬公演会場である高崎芸術劇場の最寄駅で
駅看板には群馬県のキャラクターぐんまちゃんが描かれご当地感も十二分。ちなみに舞台となった特急列車名は「あけぼの」で
『眠れる森の美女』や『コッペリア』を彷彿させ、一見バレエに絡みがなさそうな作品であっても常に身近にご縁のある芸術であると再確認です。

ところで事件と言えば、今年の年明け早々に紹介したアリス事件ー上巻ー。早5ヶ月が経過いたしましたが
本来であれば初台にて連日『不思議の国のアリス』の世界に入り浸りな時期ですので下巻も綴って参ります。
身内絡みの話のためお急ぎの方は次回のお茶の間観劇更新をお待ちください。

遡ること2年前の11月、WOWOWのバレエ・プルミエールにて新国立劇場バレエ団によるアリス初演特集が組まれ放送されました。未加入のため複数の友人より
感想をお寄せいただいたりその後は録画を見せていただき(感謝)、自宅で堪能できた次第です。
主要な役を務めた4人のダンサーが出演し、アリス役の米沢唯さん、ハートのジャック役の渡邊峻郁さん
白ウサギ役の奥村康祐さん、ハートの女王役の本島美和さんが集まり、大貫勇輔さんと本田望結さんによる司会進行で楽しいお話が繰り広げられました。
各々のキャラクターになりきって1人ずつの登場で、放送当時は公演の終了後でしたので舞台を思い起こしながら鑑賞。
そして聞き取り調査を行ったお互い(1人のダンサーの対して他の3人がそれぞれ回答)印象を大貫さんが発表なさり
米沢さんは鉄人(確か)、本島さんは女優、奥村さんは動物が似合い絵が上手(新国立画伯の先駆け)、渡邊さんは知的エネルギー溢れる真面目スーパージャンパーだったか
他にも多数の印象が語られていたと曖昧な部分もございますが記憶しております。

特に面白かったのが盛り上げ係なのか奥村さんのお話。渡邊さんに対して、見ての通り真面目であること。またスーパージャンパーだが
ジャンプが得意な人は割とちゃらんぽらんな人が多い!?と発言なさり笑、しかし渡邊さんは例外であると主張する奥村さんは跳ぶときの渡邊さんを
真剣な顔つきで(恐らくは奥村さんにとって精一杯の渡邊さんの顔真似であると思われる笑)「ウー、ッハー!!」な感じですと、椅子に掛けたまま口頭で再現。
この光景には隣で見ていた母も大笑いし、真面目なんだねえ、きっとお侍さんのような人なのであろうと捉えておりました。(間違ってはいないと思う)
映像は最初から一緒に見ており、渡邊さん登場時は名前の漢字が読めないとの一点張りでしたが(このときは字が読めない人)、
本島さんの美しさやハートの女王の嵌りっぷり、同年のNHKバレエの饗宴『くるみ割り人形』2幕にて
奥村さんのネズミ王がいたく気に入っていたため楽しいお人柄にも感激していた様子でしたが
すぐ近くにいる長女が同年の『眠れる森の美女』着物イベントへ出かけたお目当てとは知る由も無く
真面目ジャンパーを再現したウー、ッハー発言には笑いたい放題でございました。

最後視聴者に向けたメッセージとして、米沢さんの「新国立劇場は… … 初台駅のすぐ近くです」発言にも出演者一同笑い転げ米沢さんも壁側に逃亡笑。
我が家も笑いに包まれましたがただ笑っただけではなく、妹が東京都で最も交通の便が良好そうな学校の卒業生で
学校説明会に参加した際にもらった案内に最も目立って記されていたのが「アクセスナンバー1」の文字。
公立の進学校ですしそこまで強調せずとも入学希望者は集まるであろうと思うものの
妙に感心してしまった不動産業者の如き宣伝と米沢さんの思わぬ発言が重なる部分も大きく、勝手に親しみを感じていたのでした。
すかさず大貫さんが「雨に濡れずに行けます!」と救いの手を差し伸べ、番組終了。
再演のアリスは全公演中止になってしまいましたから振り返れば誠に貴重な映像と思います。

さて、事件は翌日に発生。前夜見たアリス特集が余程面白かったのか平日の慌ただしい朝にも拘らず、母が話題にしておりました。

「米沢さんの不動産屋さん発言面白かったねえ」
「本島さんは舞台でなくても美しかったねえ」
「ネズミの王様の人、良い人そうだったねえ」

(管理人の心境、あと1人!)

「あら、もうこんな時間」

(管理人、椅子からずり落ちた。母気づかず…)

まあ仕方ない。それに翌年1月は長女が目的は伏せたまま突如オペラに行くとの話に観たいと言い出し
藤原歌劇団『椿姫』初日を別席で鑑賞しテレビ放送も視聴。(放送録画を視聴時も字が読めなかったらしい)
加えて3月には『ラ・バヤデール』3月9日(土)昼公演を1階前方席で鑑賞し、ソロルも好印象だったようですし帰宅後にアリスや椿姫闘牛士を思い出したのか
字の難しい人だ!と繋がったもよう。今年に入ってからは配信の『ロメオとジュリエット』を通りすがりにチラッと見た程度でしたが
果たして記憶の片隅にあるのか分かりかねますが、まあ良いか。

そして本日は言いたい放題をお許しください。予定通りであれば本日6月10日は『不思議の国のアリス』東京公演日程で最も待ち望んでいた日でございました。
新国立ダンサーペア主演且つ2018年『眠れる森の美女』でも参加した、きものサロン主催のイベントに今回も参加予定でおり、
要項を目にしたときから着物や忍ばせる役柄、モチーフを考えていた管理人でございます。
舞台の余韻に浸りつつ花が咲き誇るお庭付きのまさにアリスが住んでいそうなお洒落な洋館を改装したお店にて食事を堪能しつつ、
また当日主演のお2人がゲストとして登場されお話を聞くことも心待ちにしておりました。ううう。
ただ忘れてはならないのは、参加予定者よりも遥かにお辛い思いをなさっているのは主催元の関係者やレストランの方々。
日程調整、お店の確保、参加者の募集や連絡に会の進行プログラム、料理のメニュー決めなど大型の催しですから企画の段階から大変骨の折れる作業であり
レストラン側はこのイベントにとどまらず結婚式や歓送迎会なども何件もの予約がキャンセルとなっていると思われ
誰が悪いわけでもなくお互い開催したい気持ちは山々ながら中止せざるを得ない事態にはお気持ちを察するばかりです。

長くなりましたが、ご参考までに2018年『眠れる森の美女』初日終演後に行われた着物イベントの様子です。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/post-1.html

参加者は約70名で筋金入りの新国立ファンは3人。ゲストにとっても我々筋金入り!?にとってもアウェイ空間でしたが
(そして着物着慣れていないのは管理人1人であったと思うが)同じテーブルの日本舞踊好きな方々とも会話が弾み
何よりバレエの魅力を工夫しながら伝えてくださるゲストお2人のお話や目の前でのマイム再現にも感無量になった、和やかな雰囲気の催しでした。
時間を要するとは思いますが、再びこういった催しが開ける日が戻りますように。




偶然ですが、2018年『眠れる森の美女』着物イベント公演日は『不思議の国のアリス』バレエ団初演のチラシが初めて配布された時期でした。
薔薇の花が重要なポイントであるのは共通である点から、着物を入れて記念に撮影。気分だけでも本日に置き換え、想像を巡らせたいと思います。



当日に着用した着物の上前部分。レンタル店のホームページにて白地にピンク色の薔薇模様が視界に入り
イーグリング版『眠れる森の美女』のイメージに合うと即決でした。黒みがかった色彩は追ってくるカラボス!?

※次回はお茶の間観劇再開です。36年前の明日、つまりは1984年6月11日にメトロポリタンオペラハウスで収録された
アメリカンバレエシアターのミックスプログラムです。本日ジャック役で舞台にそしてトークイベントのゲストとご登場予定であった
渡邊さんが昨年のニューイヤー・バレエに向けて参考になさっていたとインタビューで仰っていたバリシニコフ主演の『レ・シルフィード』が収録されています。
バレエに興味を持ち始めた頃からかれこれ30年繰り返し観ている思い入れの強い映像でございますが、週末あたりをお待ちくださいませ。

2020年6月7日日曜日

新国立劇場バレエ団2020/2021シーズン開幕公演『白鳥の湖』から『ドン・キホーテ』に演目変更

新国立劇場バレエ団2020/2021シーズン開幕公演演目がピーター・ライト版『白鳥の湖』に代わり『ドン・キホーテ』上演決定の発表がありました。
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_017511.html

ホームページも更新されています。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/donquixote/



2013年公演動画 3分でわかるドン・キホーテ


吉田都舞踊芸術参与(次期舞踊芸術監督)のメッセージ。就任最初の演目変更に心境を察しますが
ダンサーたちに寄り添いながら一丸となって成功させたいお気持ちが伝わってきます。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/news/detail/26_017520.html

新国立劇場における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドラインも発表されています。定款や約款並に膨大な内容ですが観客も必読。
https://www.nntt.jac.go.jp/common_files/pdf/20200605_guideline.pdf


海外での準備を伴う新制作の上演はもしかしたら厳しいかもしれないと予感はしており、
万一変更の場合は再演を重ねている古典作品且つ劇場で保管している衣装や装置で対応可能な演目であるとするならば
今年のゴールデンウィークに上演を予定し、上演可否が見えぬ中で練習を重ねながらも中止となってしまった『ドン・キホーテ』が理想であろうと思い描いておりました。
何よりも幕を上げること、公演を行うことがまずは大事ですから変更しての上演は大歓迎です。

また吉田次期監督が大原監督の思いを汲み取っての決定にも頷き、2019/2020シーズンガイドブックにおけるラインアップについてのインタビューで大原監督は
<『ドン・キホーテ』は私の思いで(笑)、6回公演を主役は6キャストで上演します。><ぜひ毎公演楽しみにしていただけたら。>と配役を熱弁。
特別演劇要素の濃いわけでもなく、ボリショイの演出振付で話も音楽も明快なズンチャッチャ系統ですから大原監督が心底好んでいらっしゃる作品ではないと思いますが
バレエ団の層の厚さを証明したいお気持ちで今だからこそ可能な、しかもゲスト無しの自前でキトリ5人バジル6人のバレエ団史上最多に組んだキャストは
とりわけの以前シーズンラインアップ説明会でも仰っていた男性ダンサー強化を目標に掲げた
大原監督の集大成の1つとも窺えていただけに速水渉悟さんの主役デビューも含め、年内の実現に繋がって安堵もしております。
キャストはそのままスライド、小野さん福岡さんペアが1日増える日程となりました。

ピーター・ライト版『白鳥の湖』は来年秋に延期とのこと。新制作の上演に向けて準備を進め
またご自身も主演経験のある吉田次期監督の任期最初を彩るに相応しい演目での開幕とはいかなくなりましたが
これまでにない厳しさに直面しているダンサーたちに寄り添い、公演を成功に導いてくださると思っております。
再演を重ねてきた、何もかもがスカッとしそうな明るい陽気な作品で無事来シーズン開幕できますように。気を緩めずこれまでと同様感染防止に努めて参りたいと思います。
来シーズンの開幕、序奏が終わり陽光降り注ぐバルセロナの港町に切り替わった瞬間込み上げてくるものがありそうです。

開幕演目変更やシーズンチケット中止、払い戻し作業など対応が山積みで終わりがなかなか見えぬスタッフの方々の労苦は想像に難くなく、敬意を表します。
劇場再開後は一層感謝の思いで、通い詰めたいと思っております。

ところで気になるのは2021年4月に延期となった山形公演。当初は牧阿佐美さん版『白鳥の湖』上演の予定でしたが
来年への延期に伴い新制作のピーター・ライト版を上演予定と発表されました。しかし本拠地初台において2021年秋の初演予定となりましたから
それ以前に山形での上演はまずないと思われます。そうなれば、山形交響楽団との共演も話題を呼んでおりましたし
『白鳥の湖』の演奏リハーサルも進んでいた点を踏まえると、当初の予定通り牧さん版『白鳥の湖』上演となりそうな予感がしておりますが
管理人の勝手な予想ですのでどうぞ発表をお待ちください。

牧版上演だそうです。

2020年6月4日木曜日

【お茶の間観劇】新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』

新国立劇場より、巣ごもりシアターシリーズとしてバレエは第3弾ケネス・マクミラン版『ロメオとジュリエット』が明日6月5日(金)14時まで配信中です。
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_017336.html

スパイスイープラスにて巣ごもりシアターの見どころを紹介してくださっています。
https://spice.eplus.jp/articles/270063


収録は2016年11月4日公演、主演は小野絢子さん福岡雄大さんです。
これからご覧になる方もいらっしゃることと思いますのでこの場ではあれやこれや語りはいたしませんが(但し自信はない)
第1弾の『マノン』と同じく著作権が厳しいであろう2本目のマクミラン作品配信に発表時は誠に驚きました。
劇場スタッフの方々の交渉の賜物そして事態が事態なだけにマクミラン財団側も許可を下したのかと想像いたします。大変嬉しい配信です。

この年の『ロメオとジュリエット』小野さん福岡さん主演日は1度しか観ておらず、また米沢さんムンタさん日を含む鑑賞した3回全て上階末端席でしたので
アップ映像で表情や装置美術の細部まで観察できるのは喜ばしいこと。映像ならではの魅力でしょう。
舞踏会にやってきた福岡さんロメオがジュリエットを見るなり、恋に落ちましたと言わんばかりのマスク越しでも火照った表情であった点や
娼婦長田さんの大胆で気風の良い踊りも懐かしく思い出しながら鑑賞いたしました。明日6月5日(金)14時まで配信中ですので是非ご覧ください。


以下はお時間の許す方のみお読みください。お急ぎの方は恐れ入ります、次回のお茶の間観劇まで今暫くお待ちください。
さて、本題渡邊さんのパリス。(主役やないねんとの突っ込みは流します)昨年2019年の小野さん福岡さん主演日にも渡邊さんはパリスを務められ
容姿は耽美な貴公子ながら3幕では約束が違うと怒りを滲ませていく表現が秀逸で腕組みした後ろ姿のみでも高圧的な態度に背筋を戦慄が走るなど絶賛いたしましたが
私の鑑賞眼の乏しさを物語る恥ずかしい話、同じ役柄であってもこの2016年公演当時は好印象一切持てず心にも響かずでございました。
当時の感想を前ブログで読み返しても、パリスについては出演者一覧の明記のみ。
茶髪が不自然に思え、また七三分けの髪型の古風を超えた不自然さが真っ先に目に飛び込んだまま
ジュリエットへの接し方云々に我が目が行き着く間もないまま終演。(当時の自身が恨めしい)
きちんとご覧になっていた方によれば小野さんジュリエットと米沢さんジュリエットに対してそれぞれ異なる役作りで臨んでいたとのちに聞いて驚きを覚え
気にも留めずにおり、また普段から醸す雰囲気だの打ち震わす表現力だの諸々連ねながらも結局は容姿、
しかも同一人物でも写真にしても舞台姿にしてもそのときによって脳内で気ままに印象を変化させている我が単純な性格を思い知らされたわけでございます。

公演映像配信開始早々、このときのパリスは好みではないと勝手過ぎる私の感想を知るお世話になっている複数の方々が
パリスの印象情報をノーブルで表情も素敵だから、訴えるものがあるからと文面にて送ってくださって
とにかく早う鑑賞するべきと助言をいただき、先週末に鑑賞した次第です。結果、正面から見るとどうしても先にも述べた
髪型メイク共に自然であった点も合わせて昨年の名演渡邊さんパリスと比較してしまいましたが
横顔、中でも1幕のジュリエットとの初対面時に手をそっと取って甲に口づけし、何か語りかけようしている高貴な表情や立ち姿にうっとり。
そういえば、偶々通りかかった家族も作品は知ってはいてもパリスの役どころを忘れていたのか
一瞬王子であると勘違いしたほどです。(そして我が家全員ファンである本島さんキャピュレット夫人を観るなり、ああ姐さんと大興奮笑)
そして舞踏会でのゆっくり優雅に滑らせるサポートにも見惚れ、3幕拒否の姿勢を崩さぬジュリエットに困惑と少し怒りも込められた表情で迫る姿
特に横顔の真剣な眼差しには予想以上に心臓を射抜かれました。
思えば1幕、結婚相手としてパリスに初めて会ったときのジュリエットは嫌がってはおらずむしろ興味津々な様子。
恥ずかしがって乳母のもとにすぐ駆け寄ってしまっても視線はパリスに向けられていたりと優しそうなお兄さんが突如目の前に現れ
驚きや喜びが交錯した状態で見つめていたのでしょう。この場面の小野さんジュリエットがいたくあどけない無邪気な少女で同性から観ても頬が緩みっぱなしです。
もしジュリエットがロメオに出会わずこのまま予定通りパリスと結婚していたら、両家の決め事であったとはいえ
兄のように慕う新婦と妹のようにたいそう可愛がる新郎の姿を妄想いたします。

そして可愛がるといえば、菅野さんティボルトがパリスと一緒にジュリエットを眺めるときだけは束の間の緊張中和時なのか実に仲睦まじい光景。
お互い親族関係になる将来を喜び合っているとも思えるほのぼのとしたやりとりでした。
この年の末頃に発売された『ダンススクエア』に菅野さん渡邊さんが対談インタビューで登場され、
前にも新国立ダンサーが掲載されていた旨は知っておりましたため試しに手に取り開いたところ アイドル雑誌に団内でとりわけ似つかわしくないお2人の登場は違和感あり過ぎでしたが(褒め言葉)、個性の強い役も好きと語る菅野さんのお話や
チキン南蛮弁当の楽屋持ち込みを迷った渡邊さんのエピソードが思い起こされます。
本屋で雑誌を見つけたのが2016年末、この時点での渡邊さんに最も惹かれたお姿はおけぴの柴山さんとのシンデレラ初主演リハーサル写真で
パリスとは別人か!?と目を疑う大人の貫禄や渋めのオーラにほんの少しときめきましたが、
大晦日から数日後の衝撃お正月火の鳥事件勃発はまだ知る由も無いダンススクエア立ち読みでした)

話を戻します。全体を通して映像は既に2回は鑑賞しており、より胸を高鳴らせた大きな理由の1つがテレビ画面に映しての鑑賞であったため。
携帯電話上のYoutube等動画の画面をテレビに映す機械の購入については以前記事でも紹介いたしましたが、
新国立劇場の配信はホームページに埋め込まれた形態のためテレビでの鑑賞は断念しかけておりました。
機械にある程度精通している方ならばさっさか可能にするのでしょうが、いかんせん嘗ては「化石」と呼ばれていた管理人。
『マノン』、『ドン・キホーテ』は携帯電話画面での鑑賞で満足できたものの『ロメオとジュリエット』はどうにかテレビ画面で鑑賞できぬものかと
願望を募らせるも機械操作の研究を伴う作業は半ば諦めておりました。しかし執念に突き動かされたのか調べに調べたところ
携帯電話上の操作をそのままテレビ画面に映すアプリケーションなるものを知り、利用してみると
Youtube等を映す機械と連動するのか見事、テレビの大画面にて再生成功。但し画質は少々粗めで音は携帯電話からしか発しないため
テレビ画面とはややずれて聴こえてくるものの、渡邊さんパリスがしかも全幕版でテレビに映ったのですから万々歳!
2016年のパリスは何も響かなかったと言い走っていなかったかとの突っ込みは受け流します笑。
時々様子を眺めていた家族も、スマートフォンの扱いすら怪しい私の行動に対して妙に感心してくれたのか『マノン』『ドン・キホーテ』は携帯で観たが
『ロメオとジュリエット』はテレビ画面に映したいと思って調べた事の成り行きを話したところ、真相を未だ知らずにいる家族から一言。

思う念力岩をも通す

これで何度目の呟きか、人間とはかくも身勝手で単純な生き物でございます。




2016年当時の公演プログラムを再度眺めながら久々の一杯。主要役での出演者による直筆(勿論印刷です。井澤さんはこのときは怪我で降板、昨年ロメオデビュー)
メッセージが添えられ、「一文字入魂」精神で懸命に書いていらっしゃるパリスの姿が目に浮かびます。

2020年6月3日水曜日

【お茶の間観劇】アメリカンバレエシアター 1978年リンカーンセンターガラ

リンカーンセンターから配信されている1978年のアメリカンバレエシアター(ABT)ガラを鑑賞いたしました。情報提供いただいた方に深謝。
スターたちが大競演、タイムスリップして観に行きたい公演の1本です。指揮は遠藤明さん、長らくABTの指揮をなさっていたそうです。



リンカーンセンター制作のステイホーム映像


『レ・シルフィード』
レベッカ・ライト
マリアーナ・チェルカスキー
イワン・ナジー

ABTの『レ・シルフィード』といえば、少しあとにバリシニコフ主演で映像化された公演の空気と舞っていそうでありつつも
毅然とした妖精たちの印象が強く残っておりますがこの公演ではより柔らかでふんわり。
フォーキン時代の作品ながら、ゆかしいポーズの取り方やおっとりとした風情といい
ロマンティック・バレエ全盛期へ時空旅行した気分となりました。特にチェルカスキーの夢見心地な表情と滑らかな腕使い、
今にも宙に浮きそうなポワントワークにうっとりするばかり。見間違いでなければ、
コール・ドにエレイン・クドウさん(バリシニコフ主演ドンキでのキトリ友人、青いほう)らしき方の発見も嬉しうございます。


『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ
ナタリア・マカロワ
フェルナンド・ブフォネス

マカロワが赤紫と黒を重ねた独特の衣装で登場。小柄な身体から放つパワー、オーラの強さに照明が何倍にもなったかと思わせるほど。
ブフォネスの奇を衒わず規範からはみ出ず、跳躍も高いが力みがなく品のある踊りが好印象。グレゴリーとの『パキータ』、また観ようと思います。
そしてマカロワの自伝、もう1度読もうと決意。



先月5月21日にマカロワ版『ラ・バヤデール』初演から40周年を迎えての映像。マカロワからのメッセージもあり。


『テーマとヴァリエーション』
ゲルシー・カークランド
ミハイル・バリシニコフ
※前記事にて書いておりますので割愛しますがゴージャス且つコール・ドの技術、呼吸の合い方も宜し。プリンシパル2人は文句の出ようがない。


『火の鳥』(フォーキン版)
火の鳥:シンシア・グレゴリー
イワン王子:ジョン・ミーハン
王女:レスリー・ブラウン

幕開けから、衣装は新国立劇場バレエ団で採用と同じデザインに懐かしさが込み上げ、
上下が赤く同色の三角帽子で小さな塔のような塀を登って登場するイワン王子のサンタクロースぶりを突っ込むのはお決まりとして笑
そうこうするうちに火の鳥登場。グレゴリーの研ぎ澄まされた肢体、鳥だからと言って過剰に手をヒラヒラバタバタさせずとも
音楽と躍動して孤高で絶対的な存在感。煌めきを抑えつつも装飾多き真っ赤なチュチュよく映え、フォルムの美しさにも身震いがいたしました。
実はグレゴリーは私の鑑賞の原点で、人生初バレエ鑑賞の主演ダンサー。1989年のABT来日公演『白鳥の湖』で
いわゆる可憐系では全くないすらりと背が高くきりっとした佇まいに今回も平伏し、グレゴリーが最初のダンサーである鑑賞歴を誇らしく思えた次第です。
ブラウンのチャーミングで吸い込まれそうに大きな瞳のある姫が愛らしく、侍女たちのりんごキャッチボールも成功と見えたもよう。

近年はベジャール版や(リハーサル場面映像中心ですが)中村恩恵さん版を目にする機会がありましたがフォーキン版は久々に鑑賞。
カスチェイの登場あたりからは舞台を人が覆い尽くし、複数のグループで交互に踊りながら徐々に熱気を帯びていく流れや
中間部からの曲調変化場面における足踏みしながら一斉両手掲げと言いロシア民話の絵本そのままの色彩感と言い、大所帯作品ならではの醍醐味も堪能いたしました。
大人数が必須であるためコール・ドの中にもソリスト投入の事態にもなったと想像。思えば新国立での初演時は
入団間もない菅野さんや米沢さん、他にもソリスト級の方々もコール・ドに入ってのご活躍であったと記憶しております。

昔は良かったとの表現は好ましくありませんし、現在のABTの状況を私が把握していないだけで魅力あるダンサーが今も揃っていることと思います。
しかしそれにしても、この時代の綺羅星なダンサー競演、しかも余所からのゲスト出演や参加ではなく生え抜きのスターが揃っていた時代は
100年が経過してもバレエ団の歴史に刻まれているに違いありません。のちにプリンシパルとして活躍するシンシア・ハーヴェイやシェリル・イエガーも
当時はコール・ドに名前があり、層の厚さにも仰天。ハーヴェイがキトリ、イエガーがキューピッドを務めた
バリシニコフ主演『ドン・キホーテ』が収録から約40年経っても色褪せぬ名映像であるわけです。