2022年6月23日木曜日

高崎で意気投合  B’zとバレエ





更新が滞り申し訳ございません。待っていらっしゃる方の数は一桁かと存じますが管理人、生きておりますのでご安心ください。
新国立アリスの感想は、相変わらず頭の働きが宜しくないためまだ時間を要しそうではございますが悪しからず。
既に高崎公演に至るまで綴ってくださっている方もいらっしゃいますので検索の上、そちらをどうぞお読みください。

さて少しバレエから離れる話も登場しますが、先日行って参りました新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』群馬県高崎公演での出来事です。
この期間、高崎駅周辺のホテルは随分前からほぼ満室。人気ロックユニットB’zのコンサートが高崎アリーナで開催される影響があったもようです。
ちなみに群馬県ご出身の新国立劇場バレエ団井澤駿さんも昨年のダンスマガジンや福田圭吾さん振付ロックバレエでのプログラムにてB’zがお好きと語っていらっしゃり
所属するバレエ団の初の地元公演と大好きな歌手の地元公演の開催が重なったことを果たしてどうお感じになっているか気になるところです。

駅周辺はライブTシャツをお召しになった来場者も多数、ホテルによってはロビーでライブ映像を流していたところもあったとのこと。
新国立アリスもTシャツがあれば私も勇んで着用し高崎入りしていたでしょうがいかんせんバレエには公演お揃いTシャツを着用しての鑑賞文化はありません。

私が宿泊したホテルも当然ながらB’zファンの皆様が大勢利用されていたようで、朝食会場でも着用された方を何名も見かけ、朝から気持ちも入っていらしたかと想像。
眺めているだけでも、分野は異なれどお互いに目当ての公演楽しみましょうと心の中で挨拶が止まらずでした。

B’zファンの方々と意気投合した出来事もあり。土曜日の夜ホテルの共有空間にて、会話からして
ライブ来場者であろうとは想像できましたが、ちょっとした接触の機会にお2人組が声をかけてくださったのです。
バレエ鑑賞趣味何十年の私であってもB’zは存じており、されど詳しいほうでは全くなく、
咄嗟に浮かんだ曲はlove me, I love youとLOVE PHANTOM。
いずれも四半世紀以上前の曲ですが、それでもライブに来たわけではない私が少しでも曲を知っていたことにその2人組はいたく喜んでくださり、曲の特徴及び
私の素朴な疑問である稲葉さんが30年以上容姿が不変な印象しかないと申すと、最近ライブで嘗てほどが跳ばなくなったそうで
まるでバレエ鑑賞愛好家同士でダンサーの話をしているときとそう変わらぬ話の展開に驚きを覚えたものです。
先述の通り、すぐさま思い浮かんだのはlove me, I love youとLOVE PHANTOMの2曲でしたが同じく20年以上の曲ばかりながら他にも 『今夜月の見える丘に』、Liar! Liar!、『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』、Real Thing Shakes等思い返すと耳に残る曲が次々と脳内を流れて参ります。
今夜、、、は主人公の女性が図書館勤務である点に惹かれて視聴したテレビドラマの主題歌で、エンディングに流れていたかと記憶。
ギターの前奏と、女性が出会った美容師の男性の包まれた仕事道具が机上に広がる光景がぴたりと合っていたと記憶しております。
全話は観ておらず、また出演者目当てでの視聴ではなかったため、木村拓哉さんの長年のファンであった亡き祖母は複雑な心境であったかもしれません。
Real、、、はある番組を録画したつもりが予約チャンネルを間違い、誤って録画してしまったドラマの主題歌であったため今も頭の片隅に残っております。

思えば大概は観客も叫んだり一緒に歌う類のコンサートは、基本静かに着席して鑑賞するバレエやクラシック音楽会よりも感染リスクが高く
随分と長く中止を余儀なくされてきたはず。昨年12月にはL'Arc~en~Cielがワクチン・検査パッケージを用いてのチケット販売を
政府や地方自治体と連携しての技術検証実施の取り組み報道も目にし、関係者の努力と観客の協力双方の結束が窺えます。
同じく先週末はさいたまスーパーアリーナでは福山雅治さんのコンサートが開催されていたそうで、もし高崎開催で福山さんファンの方と交流があったなら
HELLO、Message、桜坂しか知らずその3曲で押し通していたかもしれません。

ところで、今回のB’zファンの方々との交流でまず感じたのは、分野は違えど通ずるものがあること。
遠征して宿泊もして、心から好きな芸術を大きな会場で生で体感、堪能する喜びは共通でございます。

そしてもう1つ、特定の分野以外のことにも目を向ける大切さ。何度も繰り返しになり恐縮ですが私はバレエ鑑賞趣味歴は長いものの
決してバレエ「だけ」ではなく、特に25年前前後は比較的様々なものにも興味を持っており、その興味分野の1つが日本の流行音楽でございました。
日本バレエ界においては新国立劇場が開場した四半世紀前辺りで流行邦楽年表が止まっていると言われたらそれまでですが汗
一時期ではあっても関心を持ち敏感になっていたのは今思えは良き経験であったと捉えております。当時我が齢はいかほどであったか、
思春期に元祖の御三家に黄色い歓声をあげていたと思われがちではある管理人ですが(私の母校と同地区の学校がモデルとされる舟木一夫さんの高校三年生は名曲です)
動画サイトも無かった1997年前後はCDがよく売れた時代。B’zは勿論、小室哲哉さんが手がけた楽曲を始め
Mr.ChildrenやGLAY、スピッツ、サザンオールスターズ他にも実力者達が熱く鎬を削り、ミリオンセラー連発の時期でございました。
半ば無理矢理アリス繋がりで、1998年にはマイリトルラバーによるALICEも発売され、
宣伝映像広告だったかでよく耳にしたものです。しかし管理人はHello,Againのほうが好みでしたが、話が逸れる一方ですのでそろそろ次行きます。

そしてふと思い出したのは最近Kバレエカンパニーの主演にも復帰され、スクールでも指導をなさっている浅川紫織さんのインタビュー。
子供達を指導する上で大事にしていることとしてバレエ以外の事柄にも目を向け視野を広げる大切さを語っていらっしゃいます。
中でもバレエ以外を知らない子どもになって欲しくないとの言葉や親御さんの接し方についても強く響きました。
https://news.yahoo.co.jp/byline/miyashitasachie/20210203-00219894

私なんぞ子供の頃に習っていたとはいえプロのプの字は微塵も意識せず、踊るよりも観ること本で調べることのほうが好きな子供でしたから
仮に先生がバレエのレッスン一辺倒なお考えであったとしても聞き流していた捻くれ者な子供認定の可能性大ですが
過剰なまでに熱中するがゆえにいざ怪我等で躓いたとき、バレエ以外何も拠り所がないのは子供の心も闇深いものになってしまうと思います。
話が飛びますが一昨年映画『ミッドナイトスワン』を鑑賞したとき、主人公一果の親友でプロを目指す厘が怪我でバレエを断念しなければならなくなったとき
医師の前で母親が「この子にはバレエしかない」と訴えた場面があり、一番宜しくないパターンであろうと推察。
つまりバレエを抜いたら何も残らないと子供に対して言い放っているも同然で、厘は断崖絶壁に立たされる思いに駆られたのは想像に難くありません。

話があちこちに飛びましたが、目指すところは共通であるだけでなく色々考え耽ったB’zファンの方々との交流でした。

そういえば高崎滞在中、ホテルの大浴場に置かれていた体組成計測器に乗ったところ、思わず目を疑ったのは我が体年齢でまさかの「18歳」と表示。
未成年ですから飲酒不可か否かは横に置き、筋肉量や基礎代謝量等を基準に算出されるらしいのですが
昨年のお正月太りを反省し今年は年明けから肥満防止のために継続しているカエル逆足上下体操やら股関節ぐりぐり回転や肩甲骨山の字体操が
効果を見せ始めているとは未だ思えず、定期的な有酸素運動習慣もなくここ数週間糖分摂取量がかなり多めで健康管理不自由分な身でありますから不思議で仕方ない。
私で18歳ならバレエダンサーの皆様は測定不可能ではなかろうか。結果を鵜呑みにはせず、慎重に受け止めたいと思っております。
それはそうと一応は実年齢よりは多少身体は若年ではあるのでしょう。身体は若く、高崎で出会った2人組にも敬意を込めて内面はultra soulで今後も人生歩みたいと思っております。



※上の写真  B’zのライブ来場者向け看板にアリスも仲間入りさせてもらいました。ヤマトぐんまちゃんが可愛らしい。

2022年6月9日木曜日

アリスとお菓子

東京は梅雨寒が続いており、今宵も涼しい風が通り過ぎて行く気候でございます。
現在東京都の初台では楽しいお茶会が連日繰り広げられていますが、例によって管理人は感想を綴る行為が恐ろしく遅いため
2月の出来事及びやや場繋ぎな内容も絡んでおりますが悪しからず。

ここ何週間か英国の映像を目にする機会が多く、まずはエリザベス女王の即位70周年行事。盛大な祝賀パレードや女王とパディントンのお茶会まで開催されたとか。
お菓子とお茶で寛ぐ文化がこうもユーモアなお祝いにも発展するとは、驚くと同時に王室の出来事であっても何処かほっこりとする話題を目にした思いでおります。
『不思議の国のアリス』でもお茶会は欠かせぬ要素の1つですが、最近夜テレビをつけていたところ
英国でのアマチュアによる焼き菓子やパン、パイ作りのコンテスト番組『ブリティッシュ・ベイクオフ』を視聴。
シリーズ化もされているそうで、英国内では人気番組であるらしい。予選を勝ち抜いた実力者達がお題のお菓子作りの腕を競い合い
複数名の審査員の中には英国料理界のクロード・ベッシーを彷彿させる辛辣な批評をする方もいれば穏やかに励ます方もいて、視聴者の立場でも緊張をもたらされる番組です。
ダイジェスト映像を見ると英国の伝統菓子らしいものが揃い、アリスのお茶席を思い出してはお腹が鳴る食いしん坊の管理人です。






ちょうど先週の放送日はコンテストの舞台がコーンウォールの漁村マウゼル。この日は晴れ間が広がり、風光明媚な風景が覗く一方
波が鋭く荒涼とした海景色も映し出されては『トリスタンとイゾルデ』の舞台であると思い出させ、
2006年公開の映画も観に行ったほどこの話が好きな者としては胸を高鳴らせたわけでございます。(ワーグナーのオペラは長過ぎて観る自信が無い汗)
思い返せば1年前、新国立劇場6月公演『ライモンダ』上演期間中に開催されていたのがG7コーンウォールサミット。
連日報道映像でも目にし、映画版を思い出しては仕える王からも信頼される誉れ高く美しい戦士ながら王妃との禁断の関係から生じる苦悩が絶えぬトリスタンも
さぞ絵になり役としても嵌るであろうとお方が約1名初台に、と妄想が巡っておりました。どなたか英国版大河のような重厚感を帯びた全幕バレエ化してください。
地域は異なれど、まずは来年ゴールデンウィークの『マクベス』を待つことといたしましょう。

話を2022年に戻します。ブリティッシュ・ベイクオフを視聴していると料理の様子や審査のみならず料理の歴史を辿るコーナーも設けられ、
パイについては中世の宮廷ではだいぶグロテスクな見せ物な役目も果たしていたり、
やがては労働者の携帯食品として重宝されたりと発展の歴史は誠に興味を惹く内容でした。
そして思わず目を疑ったのはジョージ・クルックシャンクが描いたヴィクトリア時代の資本主義を批判する風刺画で
(以下文字化すると残酷な描写もありますがご了承ください)
ソーセージ製造機のような機械で人間をミンチにしてお金として出して行く風刺画でした。この絵を観て真っ先に浮かんだのは
現在初台で上演中の『不思議の国のアリス』料理女の場面で、製造機や後方の大鍋にも豚が丸ごとぶち込まれた美術や装置が毎度強い衝撃を与えていますが
話を戻しまして工業力を始めとして社会が発展していく一方労働者の過酷な環境や経済優先な政策が
いかに行き過ぎた面もあったか、クルックシャンクの風刺画に込められた皮肉は決して過剰な描写ではないと感じさせます。

さて私もいよいよアリス後半へ。お茶会は暫く続きます。英国な食、アリスな食にも出会えそうで、またこちらで紹介して参ります。




遡ること約5ヶ月前、吉田都セレクションが中止になってしまった日程にて、カウンセラー友人の提案で
アリス上演願掛けのため横浜でのアリスのデザートブッフェに行っておりました。薔薇がのったウェルカムドリンクと赤系デザートでまずは撮影。



うさぎさんや猫の肉球チョコレート付きケーキ、この他時計を模したチーズケーキもあり。
友人の3倍は食していたであろう管理人、胃袋はいつまでも成長期のままでございます。
アリスやジャックのパネルが置かれていたら更に気分も高まったかもしれません。
ひとまずは無事開幕し、安堵する日々でございます。



ファーストキャストジャックでない日は再演の今回もハートの2番!!女王様に命懸けでお仕えしているお姿、毎度注目でございます。

2022年6月3日金曜日

【速報】新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』初日





新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』初日を観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/alice/

初日カーテンコールの映像もあります。Gパンジャック、爽やかでございます。



公演は群馬を含めれば今月中旬まで続きますので簡単に。
2018/2019シーズン開幕作品としてレパートリー入りし、一昨年2020年には早くも再演が決まっていながら全日程が中止に見舞われ、待ちに待った上演となりました。
米沢さんは活発で好奇心旺盛で要所で濃いキャラクター達のリーダーシップを取りながらもジャックに包まれたときの可愛らしさといったら蕩けそうな少女っぷり。
全編通してほぼ舞台に出ている大変なスタミナを要する役であってもジャック救出大作戦をそれはそれは鮮やかな踊りで描き出し引き込んでくださいました。
そして主役であっても影が薄い、個性が乏しいと言われがちなジャックを場面ごとに見事な色付けで見せてくださったのは渡邊さん。
冒頭の勤勉労働者な庭師では階級社会に生きる厳しさとアリスとだけは打ち解けて心の安らぎを得ていたのであろう青年、
紅白歌合戦紅組優勢な組み合わせである衣装の着こなしも罰ゲームにならず寧ろ身体の整った線から繰り出すテクニックの隙の無さ美しさに見入りっぱなしに。
更に変則だらけなパ・ド・ドゥも実に滑らかで感情を自然にのせてアリスを優しく解していく様子に心を動かされ
カオスな裁判を浄化させる誠実味と勢いが覆い尽くす終盤のソロもただただうっとり且つ奥底まで沁み渡りました。
英国ロイヤルの来日公演で初めて鑑賞したときは、展開を目で追うことで精一杯であった点を差し引いても
エンターテインメント要素は強いがバレエ作品としては如何なものかと思っていた私も、渡邊さんジャックをきっかけに作品に対する印象が大きく変わったのでした。
無罪を証明できずアリス宅を泣く泣くあとにする帽子とジャケットを着けて鞄を持った姿は小津安二郎映画の青年を彷彿させる古き良き趣き労働者な庭師から
紅白ぱっくりハートの騎士、ブラウス、Tシャツとジーパンまでどれも絵になり、ジャックコレクション2022今回も堪能でございます。

職人肌に加えて吸い寄せるオーラと全体を締める活躍にも目を見張った木下さんの白ウサギや
マダムオーラの迫力や大胆に魅せる力も増した益田さんのハートの女王、大掛かりな仕掛けの数々からも目が離せず、ご来場の皆様どうぞお楽しみに。
タルボットの音楽がアリスの楽しくも機知に富んだ物語を緻密に描き、特に幕開けにおけるミステリアスな打楽器音から始まり徐々に音色がじわりと重なって厚みを増していく中で
アリス達が現れる流れは、本のページをゆっくり捲りながらヴィクトリア朝時代にタイムスリップしていく心持ちとなり、胸躍る幕開けです。
アリスとジャックのテーマ曲を始め繰り返されるフレーズも耳に残ります。
詳しい感想はまた東京公演が終了してから書いて参ります。



※忍耐力に自信のある方は、前回の新国立劇場バレエ団『不思議の国のアリス』総括感想です。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2018/11/post-084e.html




今年もキャラクター達のパネル登場。ジャックとアリス、3幕の舞台装置模型。



公演特別デザートとしてタルト登場。いちごジャムとブルーベリーの2種がセットです。
こってりな甘さではなく、お酒にも合います。ブルーベリーの果肉が特にしっかり生きています。
ここではタルトを食べても追い出されはしません。ご安心を。


2022年6月1日水曜日

バクランさんが指揮するチャイコフスキーで川口ゆり子さん最後のタチヤーナ バレエシャンブルウエスト『タチヤーナ』





5月28日(土)、八王子市にてバレエシャンブルウエスト『タチヤーナ』を観て参りました。作品の鑑賞は新国立劇場中劇場で開催された2006年公演以来16年ぶりで
ロシア、ウクライナでも上演され成功を収めたシャンブルが誇るオリジナル作品です。今回は川口ゆり子さんが最後の『タチヤーナ』として踊る公演でした。
http://www.chambreouest.com/performance_info/第93回定期公演「タチヤーナ」


タチヤーナ:川口ゆり子
オネーギン:逸見智彦
レンスキー:山本帆介
オリガ:吉本真由美
グレーミン:正木亮
母:深沢祥子
乳母:延本裕子



川口さんは1幕では椅子に腰掛け読書に耽る物静かな少女で、話しかけられてもちょこっと上の空な様子がいじらしい。
但し夢見がちなだけではなく、表情を見る限り登場人物の心の裏側にも迫って描写を味わっていそうな
非常に深く落とし込んで理解しようと真剣な目も印象深く、脳内お花畑ではない理知的な魅力もまた教養豊かなタチヤーナの特徴が引き立っていたと捉えております。
白地に青いリボンを付けた飾り気のないシンプルなワンピースもタチヤーナの内面の純粋な美しさや品位を効果的に表していました。
あからさまに感情を曝け出すのではなく少しずつ、ガラス細工が崩れていくような繊細な表現に寧ろ心をつかまれ
中でもオネーギンから手紙を返されたときの静かな落ち込みからの乳母(確か)に縋り付く姿は印象に刻まれております。
心優しさからオネーギンとレンスキーの争いになりかけた段階からワルツの最中も2人の身を案じたり
3幕でグレーミンの妻となっての華麗で凛然とした貴婦人ぶり、そして未だオネーギンへの想いも断ち切れぬ苦しみを一心に込めたオネーギンとの抱擁からの
グレーミンに身を捧げると決意した旨を伝える葛藤も嵐のような曲調と相乗していつまでも余韻が続いていた気がいたします。

逸見さんはソフトで上品なオネーギン。演出によってはもっと皮肉屋な捻くれ者青年も目にしたことがありますが
タチヤーナに対して小馬鹿にする様子はなく、あくまで自身には田舎暮らしが合わぬと淡々と悟っていると思えた次第。
タチヤーナから読んでいる本を見せてもらうときも嘲笑もせず、少々風変わりで不思議な性格な少女の存在を冷静に受け止めていました。

貴婦人となったタチヤーナに対しては一目見るなり衝撃の雷に打たれたようで、音楽の劇的な起伏と呼応して後悔そしてようやく募った恋心を示す姿も
身勝手に加えて時既に遅いとは分かっていながらも心を動かされそうになる訴えかけで表現。
それにしても赤紫系花柄ガウンを違和感なく着こなせる数少ない日本のダンサーかと思われ、ウォッカ片手に寛ぐオネーギンも目にしてみたかった気もいたします。

興味を惹かれた演出の1つがタチヤーナの夢にオネーギンが出現する場面。綺麗に腰掛けたのちにうとうと寝落ちする
『薔薇の精』少女や『ライモンダ』と異なって机に突っ伏して熟睡し、無我夢中で手紙を綴っていた行為から生じるためか
締切に追われるも睡魔に勝てず寝込んでしまった文筆業従事者にも見て取れ(気付けば雀が鳴き、編集者から催促される運命か)タチヤーナの人間味が伝わる場の1つでした。
またクランコ版ではオネーギンは夢にも黒い服装で登場し、首筋への接吻や大胆なリフトも多用しタチヤーナの官能への目覚めをも思わす魔力が潜んでいそうな夢に対し
シャンブルでは白いコール・ドも付き、オネーギンも白い衣装。ピュアで澄んだ夢世界を描画し、幻想性を前面に出していた点も比較が大変面白く映りました。

朗らかでちょいと軽率な一面も憎めないオリガを務められらたのは吉本さんで、見るからに活発で場を瞬時に明るく照らすオーラの持ち主。
レンスキーとはまさに幸福の絶頂な関係から薔薇色であろう内面が窺え、前向きな様子満々な部分に惹かれ遊びとは言えオネーギンが彼女に関心を抱くのも納得。
きっとお酒も入って皆の気分が高揚としていたであろう命名式の舞踏会ですから、オネーギンがタチヤーナにとって憧憬の対象であると分かっていながらも
ついくっついて踊ってしまうオリガの軽はずみな行為も恨めしいとは思えず
一旦の誤解が更なる誤解を招いて悲劇へと突き進む歯車の狂いの恐ろしさに触れた思いでおります。

山本さんのレンスキーの存在も物語の鍵となり、オネーギンと親友のような仲の良さを肩を組んで踊る振付で描かれていただけに
またオリガのみならずおとなしいタチヤーナに対しても優しく紳士的な振る舞いで接していただけに
(親族付き合いの未来も希望が持てる。婿にしたいとラーリン家が思うわけだ笑)
誤解が瞬く間に怒りの頂点へと達してしまい盟友と決闘する運命になろうとは、誰もが予期せぬ悲劇であったことでしょう。
オネーギンがレンスキーからの決闘の申し出を受け入れたときの音楽がマンフレッドの冒頭で
本来ならば友人同士であるはずがどちらかが命を落とす運命を呪うように張り詰めていく2人の苦しみを、より深々と表す効果がありました。

そして江藤勝己さんの選曲が秀逸で、既に様々なバレエで用いられているチャイコフスキーの音楽であってもそれぞれに場面にぴたりと嵌り、切り貼りした印象が殆ど無し。
実はこの『タチヤーナ』を初めて鑑賞した16年前は誠に恥ずかしい話、チャイコフスキーの音楽を使ったバレエは三大バレエぐらいしか鑑賞した経験がなく
テレビで僅かに目にしたバランシン作品も生では未見。クランコ版『オネーギン』エイフマンの『アンナ・カレーニナ』、マクミランの『アナスタシア』といった
三大バレエ以外のチャイコフスキー音楽で構成された大型作品初鑑賞こそシャンブルの『タチヤーナ』だったのです。
つまりは16年前当時はフランチェスカ・ダ・リミニもマンフレッドも知らず、タチヤーナを観て真っ先に浮かんだ感想は
オペラのポロネーズが使用されていた場面は華麗であった、程度の幼稚な一言にとどまっておりました。
あれから16年、鑑賞作品本数は格段に増え古典以外の作品も多々鑑賞。クランコ『オネーギン』やエイフマン『アンナ・カレーニナ』と同じ曲が数曲使用の点もまた耳も機敏に反応し
同じ曲でも例えばアンナではアンナとヴロンスキーの駆け落ち先のヴェネツィアでの束の間の解放された空間で響き渡る曲である一方
タチヤーナではオネーギンの後悔を竜巻のように沸き立て訴える舞踏会で使用。(曲名分からずで失礼)
同じ曲でも場面によってこうも染め上がる色味が大きく違って見える音楽効果を、チャイコフスキーの音楽の魔力を体感できたのはいたく幸運でした。
フランチェスカ・ダ・リミニにおいてはここ数週間連日聴き入っており、(夜に洗濯物を干しつつこの曲を鑑賞しているのは都内で1人いるかいないかでしょうが笑)
エイフマンでのアンナの精神の歪みを表す男性群舞でも、シャンブルでの終幕オネーギンの執念とタチヤーナの苦悩が
せめぎ合う場面どちらにもしっくりとくる曲であると度々思い返しております。

それから命名式での人間模様の描き方も味わいあり。中盤に民族舞踊団が訪れて披露する場が設けられ、
音楽はクランコ版での1幕の荘園を対角線上に突っ切る辺りの場面の曲で(曲名把握しておらず失礼)
急速テンポで勇壮さも含まれた曲調が耳に残りますが、ただ眺めているだけではなく舞踊団の女性に首ったけになってしまった
男性客人(恐らく土方さん?)と彼をこっぴどく叱るパートナーのやりとりに笑いが止まらず。
物語佳境である、オペラでも有名なワルツでは怒りのバロメーターが上昇していくレンスキーと、からかいを止めず
まだ軽い気持ちで戯れているオネーギンとオリガ、心配そうに見つめるタチヤーナ、後方では前方での一触即発寸前な人々とは正反対に
浮き浮きと踊っていた1人の女性客人がぎっくり腰となり、周囲の人々で集団介助。前方では修羅場、後方ではコミカルな事件が同時進行で描かれ
全く異なる要素でありながら双方曲調には自然と馴染みこれまたチャイコフスキー音楽の寛容な魅力を目にでき再度感心です。

衣装や美術は全編通して優美で爽やか、上品。まさに川口さん、シャンブルが作る物語によく似合い
紗幕に描かれた紅葉に彩られた森と遠方に望む黄金色の玉葱坊主な寺院が旅愁へと一層誘い込むデザインでした。
1幕での紅茶用のジャムを入れた器が木製と思われる黒地に赤や金色の民族模様な食器であった点も嬉々たる注目どころでございます。
(新宿のロシア料理店スンガリーにて似た食器を見た覚えあり)

それから、客席が特に沸いたのはウクライナ人指揮者で、シャンブルのウクライナ公演でも指揮をされ
新国立劇場バレエ団公演でもお馴染みであるアレクセイ・バクランさんが予定通りオーケストラピットに登場されたとき。
今夏来日予定のキエフバレエが政府からのチャイコフスキー曲の使用禁止令に伴って演目変更が生じている事情もあり、
ロシア文学の金字塔な作品且つ全曲チャイコフスキー構成の作品を振ってくださるか、そもそも来日可能なのか、直前まで心配が尽きずにおりました。
現在国外に避難なさっているとは耳にしておりましたがご無事でいらしたこと、そして踊るような情熱溢れる指揮姿はご健在。
薔薇の大きな花束を手に今村博明さんも登場された、川口さんに向けた特別フィナーレでは再度ポロネーズを指揮なさるために挨拶なさった舞台上から
大急ぎでピットに戻って指揮台に立ち猛スピードでスコアを捲って準備完了させる貴重なお姿も拝見です。
今回舞台に近いバルコニー側の席であった関係でバクランさん観察席としては最上級席で、喜びの余りつい細かい箇所まで観察に勤しんでしまいました。
ピットを去るときも演奏者達に対してぎりぎりまで労いのサイン?を送っていらっしゃり、観ているこちらまでもが幸せに浸るひとときでした。
(プログラム内の紹介欄はキエフではなくキーウで表記)

原作が生まれた地域にて、しかも現地を代表する文学作品でありながらウクライナとロシア両公演も成功させた実績は大変誇らしいことで
振付や演出、音楽構成も完成度の高さを証明していると思えます。次のタチヤーナをどの踊り手が務めるか重圧は相当あるでしょうが
継承してバレエ団のオリジナル作品として上演を重ねて欲しいと願っております。




鑑賞前、JR八王子駅すぐそばのこちらの喫茶店田園にて昼食。古めかしい造りが目を惹きます。店名がまたこの日鑑賞の設定を思わす響きです。



ボルシチセット。パンとスープ、サラダと飲み物付き。コクのあるタイプで、具沢山。
店内では時代もお国も様々なクラシック音楽が流れ、クライスラーやロドリーゴが流れたのち
ボルシチが運ばれてくる頃にはチャイコフスキー『くるみ割り人形』花ワルツ。



窓辺から射し込む光が気持ち良く、再度原作を読んでおりました。
文中に、タチヤーナについて「入ってくるなり窓ぎわにすわったほう」との記述もあり。
読書家とは言い難い私ですがプーシキンは好きで、特にオネーギン、バフチサライは瞬く間に読み進めてしまうほど
人間関係の絡みが面白く思えております。(長過ぎない点も良い笑)
オネーギンのロシア語版も借りてみたがやはり読めず諦めた汗。



JCOMホールが入る建物の3階には八王子博物館。写真撮影自由だそうで、機織り体験や
郷土芸能の1つである人形劇の体験もできるようです。そしてタイムリーにもこの日の夜にブラタモリにて八王子特集。



パネルも多数。八王子の歴史を学べます。八王子城趾からは貝殻が発掘されているそうで、
大森辺りからの運搬経路が整備されていた証であろうとの解説があったかと記憶。



終演後、当ブログを移転前の開設の頃からお読みくださっているお世話になっている方とワインで乾杯。
バクランさんの指揮姿を目にでき、川口さんが大切にしてこられた役の1つタチヤーナを見届けることができた喜びを語り合いました。
モッツアレラボールやアボカドのフリットもあり、お酒が進んだ八王子の夜でした。