2020年2月25日火曜日

【大変おすすめ】【只今折り返し地点】新国立劇場バレエ団2020年2・3月公演『マノン』

【重要】新国立劇場バレエ団『マノン』公演2月29日(土)、3月1日(日)は中止となりました。
誠に残念ですが状況を考慮した決断ですから致し方ありません。早い再演を心より祈ります。
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_017116.html


新国立劇場バレエ団で先週末2月22日(土)よりケネス・マクミラン振付『マノン』が開幕。
只今折り返し地点で、明日26日(水)よりまた公演が始まります。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/manon/
メディア情報
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/news/detail/26_017060.html


2012年6・7月公演以来約8年ぶりの再演。18世紀フランスの退廃した身分差及び格差社会で
蠱惑的な魅力で人々を惹きつけたのち壮絶な生涯を終える少女マノンと
マノンとの出会いにより恋に溺れ道を踏み外していく生真面目な神学生デ・グリューを主軸に
懸命に、時には犯罪にも手を染めざるを得なかった人々の生き様をリアルに登場させて
数あるバレエ作品の中でも人間に潜む醜い部分を抉るように描いた
欲情や憎悪が渦巻く綺麗事だけにとどまらぬ濃密で重厚なドラマティック・バレエです。

早速米沢唯さんとムンタギロフさん主演の初日と2日目を鑑賞いたしましたが
米沢さんは初挑戦とは思えぬ踊り込みで、流木の如く右へ左へ流されてしまうマノン。
前回2012年公演で観た小野絢子さんのマノンとは大分異なるアプローチであったかと思いますが
全てを受け止めるデ・グリューのムンタギロフさんと讃え合うパートナーシップ構築にも感激し
何よりこの状況下に予定通り来日してくださったムンタさんに感謝の念が尽きません。
身分差格差社会の露骨描写は胸を突き、甘美で時に残酷な旋律を奏でるマスネの音楽にも聴き惚れ再演を万々歳した次第です。
娼館マダム本島美和さんの支配力や、黒々嫌らしいされど内側から沸々と不敵な笑みを放っているようで
目を向けずにはいられぬ中家正博さんによるムッシューG.M.がもたらす厚み、そして細部まで凝りに凝った衣装美術も必見。

犯罪や身体を売る娼婦、闇取引、と品位が欠如した要素ばかりが詰まっていて足を運びづらい
進んで観たいとは思えない方もいらっしゃるかもしれません。しかし心配はなさらずに。
単なる退廃した社会、人間の負の部分を描いた作品にはとどまらずむしろどっぷり物語の世界に浸った心地良い印象すら残すのです。
時には身を売ってでも犯罪に手を染めてまでも生きるためにはそうせざるを得なかった人々の懸命さが胸を打つだけでなく
音楽もまた作品のスケール感を引き立て、場面ごとの情景をより鮮やかにさせ心に響かせる効果が実に大きいからであろうと再度推察。
オペラ『マノン』の音楽は一切用いずどれも様々なマスネの曲からの取り入れているにも拘らず
ヒロインマノンのテーマ曲もあり、作品の核となるパ・ド・ドゥも複数用意。
切り貼りした印象は皆無で、振付、それぞれの人物の感情、劇的な展開と驚くほどに溶け合っています。

少数派かと思いますが私が作品中で特に好きな場面や音楽は娼館でのどんちゃん騒ぎなワルツで
音楽自体は壮大で美しい旋律ですが、館の中から溢れ出す情欲、金銭欲、性欲といったありとあらゆる欲が混沌と渦巻き
レスコーや恋人、マダムから娼婦、紳士たちまで大勢の人々が次々と踊り狂う場面ながら
GMがお金をばらまいたりと細かな演出の組み込みもあり。マノンがGMからブレスレットを受け取り
はめた直後あたりから始まります。是非ご注目ください。


新国立劇場バレエ団 3分でわかるマノン動画


あらゆる媒体にてリハーサル動画やインタビューが掲載されたページが開幕前にアップされていますので
完全網羅ではございませんが紹介いたします。



米沢さんと井澤さんの対談。妙にほっこりするのは良きパートナーシップの築きの証か、29日も楽しみです。


◆スパイスイープラス マノン役小野絢子さん、デ・グリュー役福岡雄大さん、レスコー役渡邊峻郁さんへのインタビュー。
各々の役の捉え方や見どころを始め、兄妹であるマノンとレスコーの関係性や
物乞いや娼婦たちを踊るダンサーが役を落とし込むまでの苦労など
全体の様子についても語ってくださっています。そして、1幕終盤での見せ場である
レスコーによるデ・グリュー締め上げ場面が益々楽しみになるお話も笑。
(管理人がとりわけ心待ちにしている場面です。いよいよ明日ご登場!)
https://spice.eplus.jp/articles/265035


指導のパトリシア・ルアンヌさんのインタビュー。
マクミラン作品の根底にある要素や決して現代とはかけ離れた話ではない作品であること、
人々を惹きつける理由や作品指導の上で大事にしていることなど、大変分かりやすく話してくださっています。
https://spice.eplus.jp/articles/265183


公演限定マノンスイーツ、監修は米沢さんと小野さんがそれぞれ1種ずつです。
管理人、勿論2種とも食べました。食いしん坊万歳!
米沢さん監修の「マノンのドレス〜オペラ〜」は濃厚なチョコレートクリームや
コーヒークリームが何層にも重なった、コーヒーによく合う味。
小野さん監修の「デ・グリューの愛の詩〜カルヴァドス風味のサバラン」は
甘さを抑え、お酒の味もさほど強くなくマノンの魔力に徐々に惹かれていくデ・グリューの心を映していると勝手に想像。
https://spice.eplus.jp/articles/265451





◆バレエチャンネル(大変充実した情報量です)

https://balletchannel.jp/6093
主に小野さん組。全体を通しての様々な場面のリハーサル映像あり、主要な役柄名とダンサー名は字幕表示。
小道具のセッティングもあれば本を奪われあたふたするデ・グリューの姿そして
1幕でのレスコーのソロはほぼ丸々収録!明日が待ち切れん。


https://balletchannel.jp/6109
小野さん組のレスコーの酔いどれパ・ド・ドゥほぼ収録。明日が待ち切れん笑。
リレーインタビューは渡邊さん(レスコー)、速水さん(物乞いのリーダー)、木村さん(レスコーの恋人)


https://balletchannel.jp/6248
リレーインタビューは木下さん(レスコー)、中家さん(ムッシューG.M.)、寺田さん(レスコーの恋人)
中家さんによる説明が誠に明解で、ただの嫌らしい親父ではない点を示しつつ
悪役と捉えられがちな『ロメオとジュリエット』ティボルトとの大きな相違点についても言及。


https://balletchannel.jp/6187
衣装大特集。接写画像もあり、細かく凝ったデザインにうっとり魅せられずにはいられません。
特に娼館マダムの玉虫色が織り成す豪華さには目を奪われました。
小野さんが沼地のオンボロ格好で毛皮のマントを羽織り翻す貴重な一幕も笑。


https://balletchannel.jp/6270
リレーインタビューは小野さん(マノン)、福岡さん(デ・グリュー)


明日26日からの後半日程もどうぞご来場ください。滅多に上演できぬ作品、大勢の方にご覧いただけたら幸甚です。



※終了分も含め主要キャスト
【2/22(土)14:00】
マノン 米沢 唯
デ・グリュー ワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤルバレエ・プリンシパル)
レスコー 木下嘉人
ムッシューG.M. 中家正博
レスコーの恋人 木村優里
物乞いのリーダー 福田圭吾

【2/23(日)14:00】
マノン 米沢 唯
デ・グリュー ワディム・ムンタギロフ(英国ロイヤルバレエ・プリンシパル)
レスコー 木下嘉人
ムッシューG.M. 中家正博
レスコーの恋人 木村優里
物乞いのリーダー 福田圭吾

【2/26(水)19:00】
マノン 小野絢子
デ・グリュー  福岡雄大
レスコー 渡邊峻郁
ムッシューG.M.  中家正博
レスコーの恋人 寺田亜沙子
物乞いのリーダー 速水渉悟

【2/29(土)14:00】
マノン 米沢 唯
デ・グリュー 井澤 駿
レスコー 木下嘉人
ムッシューG.M. 中家正博
レスコーの恋人 木村優里
物乞いのリーダー 井澤 諒

【3/1(日)14:00】
マノン 小野絢子
デ・グリュー  福岡雄大
レスコー 渡邊峻郁
ムッシューG.M.  中家正博
レスコーの恋人 寺田亜沙子
物乞いのリーダー 速水渉悟


明日26日は待ち侘びたレスコー登場。新国立では初披露でいらっしゃるであろう色悪な役に胸が高鳴るばかりです。

2020年2月23日日曜日

行き届いたレジュニナの美意識 東京シティ・バレエ団『眠れる森の美女』2月16日(日)




2月16日(日)、東京シティ・バレエ団『眠れる森の美女』を鑑賞して参りました。
シティでの眠り全幕は40年ぶりの上演だそうです。

https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000532.html

特設サイト https://tokyocityballet.com/sleepingbeauty/


構成:振付[マリウス・プティパ原振付による]:安達悦子
振付指導:ラリッサ・レジュニナ
演出:中島伸欣

オーロラ姫:斎藤ジュン
デジレ王子:福田建太
リラの精:平田沙織
カラボス:石黒善大
フロレスタン国王:青田しげる
王妃:若林美和
カタビュット:浅井永希
優しさの精:春風まこ
元気の精:渡邉優
鷹揚の精:大内麻莉
カナリア:新里茉莉絵
勇気の精:且股治奈 ※3幕:山本彩未
フロリナ姫:飯塚絵莉
青い鳥:吉留諒
ダイヤ:石井日奈子
金:島田梨帆
銀:且股治奈
サファイア:三好梨生
白猫:庄田絢香
長靴をはいた猫:岡田晃明
赤ずきん:宮井茉名
狼:濱本泰然


斎藤さんの主役は初見。決して抜群のスタイルやラインを持っているわけでないながら
最も緊張するであろう1幕登場時からおっとり優しい空気を作り出し、ほんわかとしたオーロラ姫を好演。
ピンク色の小さなバラをあちこちに振り撒いているかの如き初々しさにも頬が緩まずにいられぬ魅力がありました。
2幕の消え入りそうな幻影、3幕での結婚式に臨む姿まで変化の色付けも明確で技術も安定。

福田さんの王子は登場の姿からは一見主役なオーラは控えめに思えてしまい
全てを備えたおとぎ話の究極な王子様像へやパートナーシップの盤石ぶりはもう一歩であった気もいたしますが
フレッシュ感のある踊りやオーロラの幻影を目にすると会わせて欲しいと
懸命にリラへ胸の内を全身で訴える表現も届いて好印象。経験を重ねていけば堂々たる主演を務められると感じさせる
全幕デジレ王子デビューでした。

特筆すべきは平田さんリラ。包容力と強さを備え、カラボスに対峙する凛然な立ち姿には
宮殿の人々にとってどれだけ救いになったか想像に難くなく、長い手脚と高い背丈をコントロールする力も見事。
腕を大きく広げたり例えば1つアラベスクポーズを取るだけでも空間が柔らかなリラ色に染まり
妖精たちを背中で統率するリーダーらしい格にも惚れ惚れいたしました。

圧倒する存在感で場を攫っていたのは石黒さんのカラボスで男性形マレフィセントといった趣き。
下手すればデーモン小暮さんと美川憲一さんを足して2で割った感のある妖精に至ってしまう装いやメイクでしたが
マイムや所作が雄弁且つ品も宿り、悪の精であっても惹きつけてしまう妖しさ。手振りだけでも覆い尽くす迫力で
勢い良く舞い上がるマント捌きも魔力を倍増させる立ち振る舞い。
何より、ご自身が楽しそうに演じていて敵役にも拘らず舞台が一気に締まって盛り上がったのは明らか。
これまでに観た石黒さんの役柄の中で最も見入った舞台でした。
昔でもないが、2007年には北海道厚生年金会館(のちにニトリホールに名称変更後2018年閉館)にて開催された
全道バレエフェスティバルサッポロ『ドン・キホーテ』全幕にてエスパーダ役も鑑賞しておりますが
今回のカラボスの方が遥かに強烈な印象です。

振付指導にはマリインスキーやオランダ国立バレエでも活躍されていたラリッサ・レジュニナさんが入り
基盤はセルゲイエフ版。レジュニナさんが10代の頃にファルフ・ルジマトフと組んで踊られた映像を度々鑑賞していた者としては
しかも私にとって初めて触れた、『眠れる森の美女』の基礎要素を知る契機となった映像や
手引き書として今も愛読している昭和の時代に出版された書籍の舞台写真にて主役として写っている
イリーナ・コルパコワから学ばれた経緯を綴られた挨拶文を読み、尚のこと感慨深し。
プロローグでのカヴァリエ不在やリラの精のコーダ部分、女性のみ4人の宝石や
フィッシュダイブのないオーロラ姫と王子のグラン・パ・ド・ドゥの振付からして
見て取れる、セルゲイエフ版の香り漂う演出でした。

ただ丸ごと踏襲ではない点は嬉しく、1つは衣装。東洋人のダンサーに合うよう配慮が行き届いた色彩で
特に息を呑むセンスの良さに驚嘆したのはリラの精、リラのお付きの妖精たち、プロローグ妖精ソリストで
パステルカラーを用いつつぼやけて見えぬよう同系色の渋めの色を胴部分に組み合わせ
体型がより綺麗に締まって見えるデザインでした。模様や装飾も、頭飾りの形も役柄毎に異なる凝りようで
双眼鏡を通しての観察も楽しく、遠目で眺めても全体が淡さと濃さがバランス良く共存している光景が広がっていたく眼福。
宝石もシックな色と淡い色、そして派手になりすぎずされど各々の宝石で彩られて華やぎも十二分にありました。

またセルゲイエフ版では4人の求婚者が同デザインの色違いの衣装である点に対し、シティではお国柄が分かる衣装を導入。
太陽が描かれて分かりやす過ぎるフランス、タータン模様のイギリス(スコットランドかと思うが)、ロシア、インドの構成でした。
濃いめのメイクに髭面であったロシアの濱本さんが誠に立ち姿が美しく長身も映えていた上に
お顔が新国立劇場バレエ団の井澤駿さんにそっくり笑。メイク効果か定かではありませんが
瓜二つに近く何度も双眼鏡で観察してしまったほどです。アポテオーズではリラや宝石のみならず、プロローグの妖精たちも総登場。
貴族の人数は少なめであったものの舞台面積を考えれば程よい数で、
中でもつい先日スタジオカンパニー生からアーティストに昇格された櫻井美咲さんのデコルテの見せ方や隙のない歩き方は目を惹く姿でした。

面白みのあった場面の1つが、2幕終盤カラボスとは直接交わっての対決が殆どない王子に代わって
率先して前に出ていたのはリラの精とリラの妖精たち。妖精たちが囲い込みしながらカラボスや手下たちを追い詰めていく展開で
つまりはリラの方が王子よりも格段と勇ましや。俄然平田さんの威厳やダイナミックな強さが生かされたリラに繋がっていたわけです。

舞台背景は恐らくは全編通してグリーンの同じベルベット地のカーテンが掲げられていて
後方にカーテンといえば現在NBAバレエ団芸術監督の久保紘一さんやキエフの至宝エレーナ・フィリピエワが入賞した頃の
80年代のモスクワ国際バレエコンクールが脳裏を過ぎり、チャイコフスキー三大バレエ全幕では如何なものかと
当初は首を傾げておりましたが心配は無用。照明によって自在に色が変化し、予算云々な勘ぐりをさせぬ立派な舞台背景でした。

マリインスキーのセルゲイエフ版を踏襲しつつもシティの持ち味であろう階級問わず高い技術レベルや
カラッとした明るさを生かした、そして型やラインをしっかりと魅せるよう心を砕くレジュニナさんの美意識が行き届き
熟慮を重ねてデザインされたと窺える凝った衣装効果もあって上質なおとぎ話の全幕バレエを鑑賞。
カーテンコールではレジュニナさんも登場されて歓喜したシティの新制作全幕眠りでした。



昭和に出版された、我が眠り手引き書。求婚者たちにリフトされているのはコルパコワさん。
この本に目を通し、青い鳥や赤ずきんといったバレエにおける眠れる森の美女の特殊な展開、キャラクターの知識を蓄積。
セルゲイエフ版の全容を辿れる書籍です。後半ページにはソビエト(当時)の新鋭からスターダンサーまでが紹介され
コルパコワ、アナニアシヴィリ、アンドリス・リエパ、ベスメルトノワ、ムハメドフ、ルジマトフ、
タランダ、アスイルムラトワといったバレエ史に刻まれる方々を掲載。
うっとり眺めてソビエトバレエを憧憬しておりましたが瞬く間にソ連崩壊。
報道番組が連日赤の広場とゴルバチョフ一色になっていたと記憶しております。



もう少し余韻に浸りたいと思い、こちらのバーその名もライラックへ。



注文したのはFourRoses、シティ眠りでは求婚者たちが持つ薔薇は赤色である
ローズアダージオを彷彿させるバーボンのロックで平田さんリラ
そしてシティでは40年ぶりとなる眠り全幕に乾杯。

2020年2月21日金曜日

宝満さんが灯す夜 NBAバレエ団ホラーナイト『ドラキュラ』1幕『狼男』 2月15日(土)夜



2月15日(土)、NBAバレエ団ホラーナイト夜公演を観て参りました。
https://www.nbaballet.org/performance/2020/horror_nights/


狼男
振付:宝満直也

a man:高橋真之
a girl:勅使河原綾乃

一昨年2018年6月に初演した同じく宝満さん振付『11匹わんちゃん』と似た路線かと思いきや全く異なるアプローチ。
耳装着やあからさまな遠吠えもなく具体形を前面に出さず、一斉にじわりと追い詰めて行く内面や不気味さを露わにした作品で
狼の怖さよりも寂しさや孤独感、不安感を募らせていた印象です。
床を這うような振付を床に吸い付くぎりぎりの体勢で自在に踊る、主軸を務めた高橋さんと勅使河原さんはもとより
男性のみならず女性ダンサー達の高い身体能力も堪能。ベージュの襟付きワンピースの裾から縦のブルー模様が覗く衣装もお洒落。
声を出し歌う場面があったものの、座席位置の関係か曲が聴き取れずであった点のみ心残りで
当方には蛍の光に聴こえたが正解はいかに。いずれにしても宝満さんの次回作が今から楽しみです。

※宝満さんへのインタビュー
https://spice.eplus.jp/articles/264668


ドラキュラ 振付:マイケル・ピンク

ドラキュラ:宝満直也
ジョナサン・ハーカー:大森康正
ミーナ:竹内碧
ヴァン・ヘルシング:三船元維
レンフィールド:佐藤史哉
3人の女バンパイア:猪嶋沙織/菊地結子/阪本絵利奈

2014年の全幕初演をゆうぽうとにて鑑賞しておりますが、新国立中劇場効果か後方席であっても
今回の方が人物も堅固な装置もよく見え、遥かに楽しめたのは驚きでした。
大作映画を彷彿させる装置の豪華さには目を見張り、大阪の巨大映画遊園地内にある
魔法使い物語の領域以上に忠実に再現していると思わせます。
宝満さんのドラキュラは中性的で掴み所ない冷ややかさで背筋を凍らせるキャラクターで
一見線は細そうであっても通り過ぎるたびにぬめっとした冷風を吹かせ
ハーカーから落ち着きが取り払われてしまい暴れ回るのも納得。大森さんの体当たりな演技と
ドラキュラが覆い被さるようにしてハーカーと踊るパ・ド・ドゥも、おどろおどろしい空気が充満し
暖房が効いた会場内であっても寒気が止まらぬ展開でした。

凝って作られた銀の頭飾りや白い衣装が美しいながら怪しさや恐ろしさを押し出していた女ヴァンパイア達や
フォークダンスを踊りそうな可愛らしい民族衣装な姿の村人達も、淡々と儀式に励んだり
かと思えばパワフルに踊り出したりと見せ場の盛り上げに貢献。
今夏新国立劇場オペラパレスでの全幕再演が待ち遠しく、期待を寄せております。

ホラー作に焦点を当ててのバレエ公演企画は珍しく、斬新な二本立て。
しかも1本目は振付を、2本目にはこの回は主演を務めた宝満さんが灯す世界を満喫した一夜でした。



帰りに立ち寄った鹿児島料理店にて狼焼酎を発見。ロックでいただき、
文字の迫力からすると意外にも飲み易いお味でございました。
もう1種、名前に惹かれて飲んだ黒騎士はガツンと迫る味で一口含んだだけでもほろ酔いに。
女性だけでなく男性も正統派貴公子のみなず、白黒両面を表現できる方に惹かれると再度思い返した管理人でございます。

2020年2月18日火曜日

8ヶ月ぶりのレッスン

先月中旬の話に遡りますが1月19日(日)、昨年4月末以来8か月ぶりにレッスンへ行って参りました。
バレエは鑑賞や座学の講座受講が中心で通う距離など諸々事情がありレッスン受講は
ここ数年は年1回程度にとどまっており、もはや習っているとは言い難い現状でございますが
心身の健康に良く、先生の目が届きやすい贅沢な約8名のクラスでのびのび受講。
天井は高く綺麗なリノリウムが敷かれたスタジオで環境にも恵まれ、身体を存分に動かせた次第です。

ブログ移転後でのレッスン記事執筆は初のため、子供の頃のレッスン状況について今一度紹介いたしますが
通っていた幼稚園の放課後の空き部屋を使用していたため天井は低く面積も狭き空間。
幼児の頃はまだしも、小学校高学年ともなれば学力はさておき身長の伸びだけは早かった管理人は
横に動けば積み木の箱や飾られている園児達の製作物に、腕を掲げれば天井の装飾に激突寸前。
破損しかけそうになったことも1度や2度ではなく、最たる危機は端午の節句の時期で
どう気をつけてもポワントで立つと天井から吊るされた鯉のぼりに手が当たってしまい、
勉強会の練習でジャンプしながらの横移動も多い振付であった関係で先生の頭を悩ませ
生涯に1度の経験になるであろうヴァリエーションながら、迂回路での練習を余儀なくされたのは
今もよく覚えております。ちなみに『眠れる森の美女』プロローグ元気の精でした。
(踊ったとは言い切れぬ、そして元気とは言えぬレベルで
天に向かってプティパとチャイコフスキーに心から詫びるしかなかったが)

以上の経緯から、7年前の再開以降お世話になっているスタジオの広さそして
今秋の来日公演が今から待ち遠しいボリショイ・バレエ団が日本では8年ぶりに全幕上演する
グリゴローヴィヂ版『スパルタクス』縦長リフトにも対応可能な高さのある天井は、
訪れる度に感激の声を発してしまうほどです。

名誉ある賞を多数受賞なさり偉大でいらっしゃりながら初級者にも優しくゆっくり教えてくださる先生に学んで
幸福に尽きる時間を過ごし、ピアノ伴奏付きであることもまた幸運で『ライモンダ』スペインや『マノン』寝室、
『パキータ』グラン・パの幕開けに『ラ・バヤデール』3幕パ・ド・ドゥ、
『シンデレラ』ワルツ等情景が浮かぶ音楽に耳を傾けると殊更うっとりするしかありません。

さて、日々専ら鑑賞中心でここ数年はレッスンは年1、2回に対し、鑑賞は年間平均80回で講座やシネマも加えば
もはや数える気力すら起こらぬバレエにおいては鑑賞及び調べ事オタクがレッスンを受講するとどうなるか。
髪はシニヨン、Tシャツは一切着用せずレオタードにショートパンツという
再開以降まずは形からと言わんばかりにせめて見かけだけはレッスンに溶け込もうと努めているものの
毎度お馴染み困ったもので、ピアニストさんが演奏してくださる数々のバレエ音楽が耳に入ると
幸せに包まれると同時にまずは順番覚えなあかんと分かってはいても途端にバレエ場面を脳内再生。
(管理人、レッスンで考え事をする際はエセ大阪弁でございます。大阪周辺地域に所縁ある皆様、判定はお手柔らかに)

今回は幸いにして、一度に演出複数種類同時再生なる事態には至らなかったものの
(近年分かってきたがラ・バヤデールとライモンダは要注意で、
牧阿佐美さん版、グリゴロさん版、ヌレエフ版が同時交錯しがちである)
先生がお考えになったアンシェヌマンで、劇場で目にした振付が少しでも重なると
あかんこっちゃ、ヒロインの気分でニンマリ浸ってしまう自身と順番覚えられへんと沈む自身が同居。
今回はセンターレッスンにて、バヤデール3幕影の王国のパ・ド・ドゥアダージオの音楽に乗せて
ニキヤとソロルがシンクロして踊る部分によく似た箇所があり、気分はニキヤ。
昨年新国立劇場で鑑賞した柴山紗帆さんの折り目正しい静けさを纏ったヒロインがすぐさま浮かび
老体まっしぐらな我が身をガクガクさせつつ、ソロルが背後なり傍らにいると無謀にも程がある想定をして
管理人、無事とは言えずだがどうにか完了。先生が提示してくださるアンシェヌマン1本に集中して
すぐさま身体が覚える日は訪れるのだろうか、太陽が西から昇り東に沈む事態に至る可能性と良い勝負でありましょう。

ところで、外見からして運動不足の類に属するのは明らかで地元のスポーツクラブ入会を身内からも勧められるほど
心配されている今日この頃の管理人でございますが、先日昼休みの職場にて出張健康測定会が開催されたため興味本位で参加。
すると、機械の設定が間違っていないか何度も確認いただいた上での結果だったのだが
基礎代謝がグラフからはみ出る寸前な値で、つまりは実年齢にしては恐ろしく良好らしい。
検査員から、運動や筋力トレーニングの習慣はあるかと尋ねられるも駅まで片道10分の自転車ぐらいで何もせず
サウナやヨガも未経験で、暴飲暴食はしないが食事飲酒摂取制限とも無縁。そういえば昨年大阪を訪れた際に
鑑賞で手一杯なためレッスン回数が少ない旨について再度話した際、お世話になっている方より救いのお言葉をいただき
夢の中で踊っているでしょうから、との励ましでした。バレエ愛好者を自称して早30年超、
日頃は専ら鑑賞と座学の講座受講であっても注ぐエネルギーは身体を健康な方面へと誘導しているのか
心に響いた舞台の情景は精神のみならず身体にも好影響を及ぼしそして就寝後も自ずと体内をバレエ熱が
電流の如く駆け抜けるなりして代謝促進を行っているのか。医学的観点から検証してみたいものです。




帰りはスタジオ近くに位置する毎度の海鮮居酒屋にて多趣味な文化人なる受講者の方と昼食兼宴会。
昨秋の新国立劇場バレエ団こども白鳥の湖直前降板登板劇が生じたフェスティバルホール公演に出先から駆け付け
当日券でご覧になった当ブログでも時々ご登場いただいている方でございます。 文化人なる人生の先輩はお車ご利用のためノンアルコールビールをお飲みでしたが
こちらの延々と続くバレエ話にこの度もお付き合いくださいました。深謝。
レッスン後の一杯に升酒を堪能しているバレエ愛好者、世界中探してもガラスの靴の持ち主以上に見つかりそうにない笑。

さて、当ブログは来月末で移転前含めて開設7年を迎えますが、移転前から隅々まで読んでくださっている
バレエへの造詣が誠に深いとある関西在住の方から管理人自身では気づいていなかった法則をズバリとご指摘。
男性に限ってだが、一発で読めない名前の人を好むこと。
漢字の難易度関係なく、そういえば一発で読み方を正解するのは難しいお名前でございます。
現在の鑑賞体制になってからは3年以上が経過していながら、第三者の指摘で気づくとは
自己流に定めず様々な読者の方からのご意見に耳を傾けることは非常に重要であると胸に刻みたい思いでおります。

2020年2月16日日曜日

指揮者福田一雄先生による「ピアノで奏でるバレエ講義」「海賊・ライモンダ大研究」



2月9日(日)、バレエスタジオAngel R 表参道校にて指揮者福田一雄先生による講座
「ピアノで奏でるバレエ講義」「海賊・ライモンダ大研究」受講して参りました。
2月11日(火祝)Angel R MIXED PROGRAMでの『ライモンダ』3幕上演を前にした予習も兼ねて開講されたようですが
バレエ作品で最も好きな『ライモンダ』、そしてちょうど日本バレエ協会『海賊』鑑賞翌日でしたのでいたく旬な心持ちで受講。
今回もこれまでの常識を覆される逸話が次々と飛び出し、喫驚仰天の連続でした。
新国立劇場でも活躍されていた井口裕之さんが前回に続き、進行助手としていらっしゃいました。
https://www.angel-r.jp/whats-new/workshop/other-workshop/26559/


前半は『ライモンダ』から。福田さんが取り出された、年季の入ったロシア語のピアノスコアに
管理人、この時点で胸熱し。ご入手経路は失念してしまいましたが遡れば東京バレエ学校関連だったか。
ロシア語表記ですのでRはP、未だロシア語アルファベットはとっつきにくい印象がございますが誤読要注意です。
曲目はセルゲイエフ版のCD収録リストを元に解説してくださった点も嬉しく、
何しろ所有しているCDで愛聴しているため、話の進みが早い場合でも
どの曲を指していらっしゃるか瞬時に分かり助かったのでした。

先述の通り、噴水のごとく溢れ出る仰天話や音楽知識の宝庫な福田さんだからこその独自のコンクール選曲斬りに
参加者一同笑いの渦と化したのも1度や2度ではありませんが、何度も耳にしている曲ながら特に驚いたのは
ライモンダによる1幕夢のヴァリエーションの挿入。マズルカと同様、
元々はグラズノフが『ライモンダ』とは別に発表していた『バレエの情景』の中の1曲であるのは知っておりましたが
ライモンダの踊りに相応しいと自身が判断して取り入れたのではなく
セルゲイエフが改訂振付時に勝手に挿入してしまったそうです。
意図せぬ挿入にグラズノフそして肩を組んで振付にあたったプティパはどう考えているか
アルコール依存症が死因であったとされるグラズノフは生前の行いにも懲りず、納得いかんと言わんばかりに
天上でもどっぷり酒浸り生活を送っていた可能性は重々あり得そうですが
セルゲイエフの身勝手な行動はさておき、後からの挿入とは思えぬほど場面にも調和し
ジャンに恋い焦がれ心を寄せるライモンダの感情を優雅に表現した振付、音楽と捉えております。

3幕のマズルカも『バレエの情景』からの挿入ですが、この曲で思い出すのは一昨年2018年のバレエ・アステラスで鑑賞した
英国ロイヤル・バレエ団の高田茜さん、平野亮一さんが披露されたリアム・スカーレット振付「ジュビリー・パ・ド・ドゥ」。
ライモンダのマズルカの音楽を用いつつも古典のパ・ド・ドゥな仕上がりに胸を躍らせて観ておりましたが
プログラムの曲紹介ではライモンダについては触れずあくまで『バレエの情景』を強調していたかと記憶しております。

それから昔からの疑問がようやく解決でき喜ばしかったのは、グリゴローヴィヂ版での3幕で踊られるジャンのヴァリエーション。
他の版では管楽器が高らかに奏でる曲が大半であるため、(グリさん版では1幕で披露)何処の曲か長年謎でおりましたが
元来は子どもの踊りとして作曲されたとのこと。金田一少年の如く、謎は全て解けたの一言に尽きます。

またグラズノフはハンガリーの伝統楽器ツィンバロに出会った経緯もありハンガリーに造詣が深かった点や
牧阿佐美バレエ団による全幕日本初演で男性4人のヴァリエーションが揃わずの笑いエピソード等々
ひっくり返るようなお話も沸き出て楽しい学びとなる時間でした。
確かに男性4人のヴァリエーションで揃っている姿を観た回数は少なく、先月の英国ロイヤルシネマにおいても斜め発射と着陸不成功多発。
これまで観た最もきちんと揃っていたのは2009年大阪にて鑑賞したKチェンバーカンパニー(Kバレエスタジオ)公演で
4人の中には現在新国立劇場バレエ団所属の福岡雄大さん、福田圭吾さん、福田紘也さんのお名前も。揃うのも当然か。

福田一雄さんが疑問視なさっていたことで私も長年同じ思いを抱いてきた点は
コンクールにおいて、ライモンダのヴァリエーションとして夢の場の踊りばかりが選ばれる傾向にある点。
先述の通り本来プティパやグラズノフが意図して作ったものではなくセルゲイエフの好みで挿入されてしまった事情に
複雑な感情を持たずにはいられないと察しますが、他にも美しいヴァリエーションがふんだんにあるにも拘らず踊る人は殆どおらず
ローザンヌでの影響であろうと仰っていました。(この日もコジョカル救済隊員の1人として
講座会場から一駅の場所で踊っていらしたハンブルグバレエ団の菅井円加さんが2012年のローザンヌで1位受賞した際のことかと推察)
極めて同感で、キトリやオディールに比較すると振付と音楽ともにシンプルで見栄えがしないためか不人気な様子。
私個人としては、2幕で披露される前半はホルン主旋律によるゆったりめながらも空間を切り裂くようなヴァリエーションは
脚力の強さに自信のある方にはぴったりかと思いますし終盤にピケターンもありますので
ライモンダの中では見栄えする振付に類する気もいたしますがそもそも知名度が低いのかもしれません。
他、独断と偏見なるヴァリエーション解剖をしていきますと1幕ワルツの合間のピチカートは
これは簡素過ぎてコンクールには不向きかもしれぬが、寂しさと可憐さが同居した魅力ある振付でございます。
夢の場の前のヴェールを持った踊りも繊細で素敵な場面ですが短時間であり
加えて扇子やタンバリンは可でもヴェールはコンクールで許されるか、主催者次第かもしれません。
夢の場はもう割愛で、3幕はさすがに重厚感があり過ぎる且つパ・ド・ブレ中心は辛いか。
1つ1つ考えていくと、夢の場ばかりが脚光を浴びるのも頷ける気もして参ります。(ホルンのところはどなたか踊ってくださることを期待)

さて長くなって参りましたの後半は短めに。『海賊』は作曲者混在でヴァリエーションの作者はもはや暗記不可能なほどですが
バレエ協会『海賊』初日に酒井さんが踊られた、マリインスキーの来日公演ではロパートキナも披露していた
可愛らしくも歌えない曲調のヴァリエーションは元々はシェル男爵が作曲した『シンデレラ』の中の1曲であったそう。
どうやら海賊のパ・ド・ドゥ(パ・ド・トロワ)はアダージオとコーダはドリゴが作り
ヴァリエーションは各々好みの曲を持ってきていたとか。
そんなわけで、『海賊』上演の際は作曲者として誰の名前を挙げるべきか主催者を悩ませ続けるのでしょう。

日本で初めてパ・ド・ドゥ部分が披露されたのはフォンティーンとヌレエフだったとのこと。
当時フォンティーンが踊った曲についてもお話しくださり、原曲の題名と作曲者も分かってこれまた謎が解けた金田一少年の気分。
確かロンドンで収録した1960年代頃の映像がのちに『華麗なるパ・ド・ドゥ』として纏められテレビ放送されたのは
録画して何度も視聴いたしましたが(フェリとイーグリングのロミオとジュリエットや
コルパコワとベレジノイの眠れる森の美女、ハーヴェイとバリシニコフのドン・キホーテといった王道のみならず
バッセルとコープのパゴダの王子やAMPの白鳥などマニアックなものも収録)
フォンティーンが踊ったヴァリエーションが『ドン・キホーテ』森の女王で少々不思議であったものの
エレガントで上品な持ち味にはよく合っていると見入ったものです。長袖のふわりとしたチュチュも記憶に残っております。

記事のボリュームに偏りがあった点や話が二転三転した点は失礼。
今回もバレエ音楽の仰天話を多々知ることができたのは大きな収穫でしたが、これまでと違ったのは
会場がバレエスタジオであった点。こういったバレエ作品関係の講座受講の度に感じていたのは
舞台で踊る方や指導者にこそ参加いただきたいこと。中でも指導している方々は
例えば教え子が発表会やコンクールでヴァリエーションを踊る際、その役柄の全幕における位置づけや設定のみならず
果たして本当にこのキャラクターのために作曲されたのかそれとも実は作曲者自体異なっているのか、
歴史や経緯に至るまで調べ上げておく必要があると思うのです。
そうは言っても増え続けるコンクールとその需要も高まっているらしく
通っていたバレエ教室ではコンクールのコの字も話題にならず、プロを目指す人のみに関係すると受け止めていた
管理人が子供の頃の時代とは大違いである模様。近年は出場者の低年齢化も著しく(小学校低学年での出場は早過ぎる気もするが…)
先生方も休む間もなく指導続きであるのも分かりますし、そして踊らぬ踊れぬ私のようなド素人が
あれやこれや口走るのは実に不躾であるとも承知しておりますが、基本バレエを踊る方々が集まるバレエスタジオでの定期開催は
一鑑賞好きとしても大変嬉しく思えた次第です。私1人だいぶ浮いた受講者であったものの
切り口を変えれば受講者の恐らくは9割以上が普段から踊っていらっしゃる方々であったのはむしろ喜びにも感じたAngel Rさんでの講座でした。
帰りがけ、受付前の画面で流れていたのは10周年記念発表会『ドン・キホーテ』全幕の3幕冒頭のワルツ。
仕事と両立させながら通い、晴れの日を迎えた友人の舞台姿を再びじっくり眺め、殊更清々しい気分でスタジオを後にいたしました。


※もしグラズノフが誠にお好きな方がいらっしゃいましたら、機会があれば
深川秀夫さんの作品『グラズノフ・スイート』を是非ご覧ください。
2017年12月に川上恵子バレエスクールの舞台で鑑賞し、大勢の女性で踊られる
『ライモンダ』や『四季』の曲が随所に散りばめられたお洒落な作品で
ハンガリアンポーズを多く含んだ振付、デザインは同じながら色とりどりの膝丈の衣装
多色が柔らかに入り混じった万華鏡のような照明、そして音楽、と全ての要素の美しさにうっとりいたしました。
記憶している限りではありますが使用曲は『ライモンダ』より夢の場のパ・ド・ドゥ音楽で幕開けして全員出演し
(2017年から18年にかけての東急ジルベスターカウントダウンでザハロワとロヂキンが踊った曲)、
夢の場の第1ヴァリエーション、第2幕クレメンス(多分)のヴァリエーション、第3幕グラン・パ・クラシック女性のパ・ド・トロワ
夢の場のワルツ、1幕の夢に入る前に友人4人が踊る曲、グリゴローヴィヂ版では3幕でジャンが踊るヴァリエーション
同じく深川さんの振付で2017年に新国立劇場バレエ団にもレパートリー入りし
ソワレ・ドゥ・バレエでも使われた『四季』より秋などです。
フィナーレは2幕のライモンダと友人4人のコーダに乗せて全員が登場する壮大な幕切れで
通常2人で踊られる曲を群舞で踊る光景や男性ヴァリエーション曲を女性が踊る姿は新鮮でしたが不自然さがなく
ダンサーの技術、そして振付と音楽双方の魅力に触れた思いがいたします。
グラズノフ好き、『ライモンダ』オタクにはたまらぬ作品でした。


※変り種では、吹奏楽で聴くライモンダも面白味あり。定期演奏会や普門館でのコンクールでも人気は高いようです。
曲目や編曲は多種存在し、アブさんの誘惑アダージオを1曲まるごと演奏するところもあれば
序奏とフィナーレ、アポテオーズと至極シンプルな展開もあり、まちまちです。
私が聴いた中で最もすっと耳に入ってきたのは15年ほど前に図書館で借りたCDに収録されていた演奏で
楽団など失念してしまいましたが序奏、スペイン(打楽器出番増やしのためか取り入れている編曲多し)、
ピチカートヴァリエーション(弦楽器の代わりにクラリネット主旋)、フィナーレ、アポテオーズ。
バレエとは多少順序入れ替えはあるもののスムーズそして変化に富んだ構成で妙な違和感は無し。
ご興味のある方は色々お探しになってみてください。



セルゲイエフ版ライモンダCD。こちらの解説書を辿りながらの説明でした。
但し、踊るテンポでは収録されていないため曲によっては非常に遅い笑。
特に1幕ライモンダの登場、2幕アブさんの登場は随分ゆったり。
ペテルブルクの雰囲気を帯びているのかスペインはやや品が良過ぎる感があり、この曲に関しては
ボリショイ劇場管弦楽団以上にドカンと一発な勢いのあるモスクワ放送交響楽団の演奏が一番気に入っております。
(図書館で借りて何度も聴き比べてしまった)前半にはシェヘラザードが収録されています。


帰りはスタジオすぐ近くに位置する、以前から気になっていたハンガリー料理店ジェルボーへ。
どっしりとしたチョコレートが織り成すジェルボーセレトケーキととハンガリー産のチャペルワインで乾杯。

思えば、先月の英国ロイヤルシネマでの『ライモンダ』3幕でのバッセルによる
ロシアとハンガリーを混在させながらの解説に耳を疑ってはしまったが
決して聞き心地が宜しくないとは言い切れなかったのは、私が11年前に新国立劇場バレエ団ボリショイ劇場公演鑑賞で
モスクワ公演へ行った際に宿泊したホテルがブダペストホテル、だったためかもしれません。(ホテル名の由来は不明)
ビザ代行発行に伴いホテルは旅行会社が提示した宿泊施設限定、選択の余地もない状況でひとまず劇場から徒歩圏内
且つ一番安価(私からすると目が飛び出る価格だったが仕方ない)だからと申し込みましたが
大手とは違い機能的ではない点がむしろ気に入り、赤を基調とした温もりと古めかしさのあるロビーや重厚な外観
淡いグリーンで整えた広過ぎない朝食ルームといった内装や従業員の穏やかな対応も好印象。
ロビーはジェルボーの内装ともどこか似ており、来店し腰掛けた瞬間から懐かしさが込み上げました。

ところで、Angel Rさんの敷居を跨いだのは2度目。1度目は表参道校でのレッスンを受講している友人のクラス見学のため
2度目は友人も出演していた10周年記念発表会『ドン・キホーテ』2日目の回に足を運んだ際にいただいたプログラムに付いていた
無料体験レッスンチケットを利用して体験レッスンを受講。入門、チャレンジ、初級等初級者向けのクラスのみでも多種用意され、
自身のレベルに当てはまるクラス選択に迷いそうになったものの、申し込みの電話口にてスタッフの方が
大変親身になって案内してくださり安堵。Angelへ行くのも、平日仕事終わりにレッスンへ行くのも初体験でしたが
担当の先生のゆっくり進めてくださりバレエ用語を多用せず噛み砕くように教えていただけて
レッスンは年数回である私も緊張が解れ、リラックスして受講できたことは今も覚えております。
今や年1回にとどまりつつあるレッスンを先月中旬、再開以降お世話になっているスタジオにて受講して参りましたので
その話はまた次回。

2020年2月13日木曜日

花盛りの酒井はなさん 日本バレエ協会『海賊』2月8日(土)



2月8日(土)、日本バレエ協会『海賊』を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2020都民芸術フェスティバル参加公演「海賊」全幕/

※スタッフ、キャストは日本バレエ協会ホームページより抜粋

指揮:オレクセイ・バクラン
演奏:ジャパン・バレエ・オーケストラ
原振付:マリウス・プティパ改変版による
再振付/演出:ヴィクトール・ヤレメンコ
振付補佐:タチヤナ・レべツカヤ
音楽:アドルフ・アダン
バレエ・ミストレス:テーラー麻衣、角山明日香、奥田慎也
総監督:岡本佳津子

※素人が重箱の隅をつつくようで恐縮だが、音楽はアダンの作品以外にも多々入っています。


メドーラ:酒井はな
コンラッド:橋本直樹
アリ:高橋 眞之(NBAバレエ団プリンシパル)
ギュルナーラ:瀬島 五月
ビルバント:川村海生命
ランケデム:ヤロスラフ・サレンコ
セイード・パシャ:イルギス・ガリムーリン
オダリスク:佐々木夢奈、清水あゆみ、古尾谷莉奈


酒井さんのメドーラは登場の瞬間からほっそりとした肢体が紡ぐ清らかな輝きが絶品。
タイトなデザインの上下薄いブルーで揃えた衣装がよくお似合いで
膝丈のスカートが翻るさまに至るまで美しさが宿っていたと見受けます。
脚を差し出すときには床に語りかけるような丹念さに、仕草1つにしてもエレガントな空気がふわっと香り立ち
音楽を慈しみながらのステップは繊細で緻密。音と音の間の静寂さですら
華やぎと優美さが舞い上がっているかのようで、芳醇な世界で満たされるばかりでした。
追加された、コンラッドと出会ってから洞窟へ逃げ込んだ際に披露する
『シルヴィア』パ・ド・ドゥアダージオの曲に振り付けられたしっとりしたパ・ド・ドゥでは
旋律と呼応しながら身体が自在に伸び、喜びを体現。
橋本さんの豪胆且つ品もあるコンラッドとは息も外見バランスも合い
安心して思い切りコンラッドのもとへと飛び込んでいく姿も印象に刻まれた場面の1つです。

優しく頼りになるかと思いきやまんまと罠に嵌って居眠りしてしまうちょびっと間抜けな笑
コンラッドを起こそうと懸命に揺すって慌てふためきながら奮闘する場面はいたく健気に映り、
変わって花園では白地に銀色模様で彩られたチュチュをまとって大らかに踊られ、香しい百合を彷彿。
そして極めつけはパ・ド・トロワで、他の版と異なり花園のあとに踊る演出で物語も終盤に差し掛かり
体力分配が非常に難しい流れのはすですが、疲弊なんぞ些かも感じさせず
何とも伸びやかそして艶やかさにも仰天するしかありません。
フェッテに至ってはご年齢を考えれば、そして古典全幕を踊られる機会の頻度を考慮すれば
ピケターン或いは省略版でも十二分に満足であるとの勝手な思い込みは誠に失礼であったと詫びたくなるほど
滑らかで美しい32回転且つ後半になるにつれてぐらつきを不安にさせるどころか観客と会話するかのように笑みが益々零れ余裕綽々。
最後は観客の反応を愛おしく両手で掬って胸に手を当て、アリの旋回が控えていたとはいえ心を込めて素早くレヴェランスして袖へ。
研ぎ澄まされた身体のしなやかなラインに加え深まる表現力、衰えとは反比例で更に磨き上げられた技術を目にし
仮に現在の新国立の公演で全幕主演しても何ら違和感なく、
酒井さんは令和の怪物ではなかろうかと圧倒され続けたメドーラでした。

奴隷としての生き様を貫いていた高橋さんのアリも登場のたびに自然と目が向き
ドラマ性を濃く描写するメドーラとコンラッドを主軸に展開するためどうしても出番は少なめでしたが
感情を抑えての忠誠ぶりや、ヴァリエーションにおいても規範を厳守して妙な小技も入れず
コントロールしながらの踊り方でありつつ決めポーズや音楽の高揚と調和して迫力を出すべきところではとことん出し
メリハリがあって好印象。物語と品を大事にするヤレメンコさんの方針なのでしょう。

見せ場はふんだんに組み込まれており、序盤での海賊の男女たちによるキャラクターダンスは張りがあって生命力に溢れ
後半の花園前に持ってきたオダリスクは渋めの金と水色を合わせた独創的な色調にも見入り
3人とも恵まれた体型で着こなしもしっくり。中でも佐々木さんは一際華やぎオーラを放っていた印象です。

上演時間は休憩1回の全2幕2時間で実にコンパクトな構成でしたが見せ場の要部分は残し、
しかしある人物が絶命して物語が急展開する箇所やマイム部分はスピーディーに明快に繋いで行く振付。
そして最たるオリジナル振付はロンドンにて回想する『海賊』作者である
詩人バイロン(コンラッドが兼任)をロマンティックに描いたプロローグとエピローグで、
予習不足で実のところ当初は理解に至らず終いでしたが後から知ると確かに
紳士淑女然としたシックで上品な服を着用した男女が行き交い、中にはメドーラの姿も。
現実と夢世界を往来しているのであろうバイロンが浸るロマンに思いを馳せたくなる場面で
設定を把握した上で再度観たい場面でございます。

尚、メドーラやギュリナーラはダンサーによって衣装デザインも異なっていたとのこと。
例えばパ・ド・トロワでのメドーラは酒井さんは藤色の膝丈スカート、上野水香さんは濃いブルーのチュチュ、と
形状も色彩も様々。(加治屋さんのデザインが気になるところ)
写実的で陽光降り注ぐ、モスクも眺める爽やかな港風景の背景美術も序盤での賑わいを引き立てる効果大でした。

感慨深かったのはヤレメンコさんとレベツカヤさんのプレトーク。
何しろ私が最初に触れた『くるみ割り人形』の王子がヤレメンコさんで、
昭和の時代に書籍で、そしてNHKで放送された昭和女子大学人見記念講堂での来日公演映像で何度も見たキエフのスター。
ときめいたかは横に置き、当時はまだ若手で大先輩リュドミラ・スモルガチョーワに恭しくお仕えする初々しい王子でした。
この書籍と映像を通して知ったキエフのくるみが基盤となり、翌年頃には
心からのめり込んでしまったアルヒーポワとムハメドフが踊るボリショイのグリゴローヴィヂ版に越されてしまったとはいえども
くるみのあらすじや登場人物、音楽構成といったいろはを学ぶきっかけになったのは
紛れもなくヤレメンコさん主演のキエフバレエ公演だったのです。

バレエ協会のチラシを手に取り、当時の面影を求めるにはやや難しくはあったものの
そしてヤレメンコさんの話題が通じる人が果たして周囲にいるか不安もございましたが1桁人数はいましたため安堵。
体型は随分とふっくらされていましたが(自身も人をどうこう言える立場及び外見ではないが)
バレエ愛に溢れたお話にじっくり耳を傾け、思えばプロローグの設定と似通ったのか
約30年前に遡って若き日のヤレメンコさんの姿を脳裏に浮かべながら話に聞き入ったプレトークでした。
度々来日されコンクールでも訪れたため日本は大変愛着のある国で
一番お好きな役は試験やコンクール、そして公演でも幾度も踊ったバジルとのこと。
実際の映像を幕間のロビーで流して見せてくださった企画には感謝するばかりです。




バレエに興味を持ち始めた頃から愛読しているキエフ・バレエ『くるみ割り人形』書籍。
写真と解説ともに豊富でシェフチェンコ劇場の内部やバレエ団のリハーサル密着の記事もあり、
今や振付家として大活躍中であるラトマンスキーが将来を嘱望された新鋭として紹介されています。
アンナ・クシネリョーワのレッスン写真が載っているのも嬉しく
お好きだった方、いらっしゃいましたらご一報くださいませ。姫がよく似合う典雅な雰囲気に惹かれておりました。
NHKで放送された『眠れる森の美女』でヒロインを務め、年始に最後の全幕白鳥を踊ったフィリピエワが妖精ソリストの1人だったと記憶。



写真左:『ドン・キホーテ』は若き日のヤレメンコさんとレベツカヤさん。幕間には嘗てお2人が踊られた映像が流れ、ロビーにて鑑賞、
今見てもスタイル宜しく品格と情熱を合わせ持った正統派キトリとバジルで
奇を衒わぬ、お手本のようなクラシック・バレエの技術に驚嘆した次第です。
写真右:向かって右側のスタンドはバレエ協会2018年公演『ライモンダ』。十字軍の時代にふわふわ羽飾りの兜など
時代考証の面では疑問符が付く衣装が何点かあったが、全幕上演の機会は少ない中での新制作上演に歓喜。



酒井はなさんファンの方々、生徒さんたちが贈られたフラワースタンド。
ハート型とピンクがまさに生ける花園での温もり溢れるメドーラのイメージにぴったりです。



帰りは当ブログレギュラームンタ先輩と上野駅の文化会館反対側の魚介料理店にて乾杯。
海賊ですので、海の幸をたっぷりいただきました。ボリュームも鮮度も文句無しでディルの香りも爽やかに効いたカルパッチョ、
塩加減も絶妙なグリルの鯛でワインも進みます。
一昨年のバレエ協会『ライモンダ』にて酒井さんの虜になったムンタ先輩、今宵もご満悦でした。

2020年2月10日月曜日

座長の怪我で急ごしらえ救済プロジェクト アリーナ・コジョカルドリームプロジェクト2020 Aプログラム 2月5日(水)




2月5日(水)、お世話になっている方の代理でアリーナ・コジョカルドリームプロジェクト2020
Aプログラム初日を観て参りました。コジョカルが座長のガラは初鑑賞、
出演者と演目双方直前に大幅変更が生じ波乱な幕開けでした。
https://www.nbs.or.jp/stages/2020/cojocaru/


※キャスト表はNBSホームページから抜粋

演奏:シアターオーケストラ トーキョー
※ABC、エディットは録音音源


― 第1部 ―

「バレエ・インペリアル」
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
指揮:井田勝大
ピアノ:今泉響平


ヤスミン・ナグディ - フリーデマン・フォーゲル

中川美雪
宮川新大 - 生方隆之介
金子仁美 - 秋山 瑛
東京バレエ団


作品の鑑賞はマラーホフの贈り物ファイナル以来7年ぶり。ヤーナ・サレンコとマラーホフ主演でした。
「インペリアル」の響きからすると、数あるバランシン作品の中でも特段豪華絢爛かと思いきや
曲調は明快でもなく、フィナーレを予期させつつもその後にアダージョが続いたりと終わりが見え辛く
掘り起こす限り想像以上に地味めな作品であったと記憶。久々に観ても印象は変わらずでした。
恐らくは1989年のABT来日公演プログラムで度々目にした、赤系の模様やラインストーンをも散りばめた
ゴージャスな写真の印象が刷り込まれているからでしょう。(モノクロ写真の主役女性は恐らくスーザン・ジャフィー)
ピンチヒッターのナグディは最初こそ緊張な様子はあったものの品位ある姿で主軸を務め、見事な代役。
ナグディは昨夏の英国ロイヤル来日公演で祖国凱旋全幕主演公演となるはずであった高田茜さんの代役を務め
何の縁なのか昨夏の英国ロイヤルも今回のコジョカルガラも、私がともに知人の代理で観に行ったNBS公演で
日本国内で絶大な人気を誇るダンサーに代わっての主演に居合わせ、
きちんと務め上げる舞台を鑑賞すると応援したくなるダンサーでございます。

大きな作品の主演で組むパートナーは変更し、パ・ド・ドゥも1本加えて踊った
今回のプロジェクト最大功労者であろうフォーゲルはナグディへの語りかけるような視線や誠心誠意のサポート、
そして中盤にてコール・ドに訴えかけるも拒絶されるジゼルへの敬意が込められていると思わせる場面においての
ふわっと匂い立つロマンチックな風情といいまさに別格でした。序盤、まだまだ空気が重たかった会場が
徐々に柔らかくなったのはフォーゲルの力が大きかったと捉えております。


― 第2部 ―

「海賊」
振付:マリウス・プティパ
音楽:リッカルド・ドリゴ

菅井円加
オシール・グネーオ

急遽の出演菅井さんはテクニックは申し分なく、派手なことはせずともちょっとした繋ぎの部分もクリアに描き出され
ぐらつきが微塵も感じられぬ盤石ぶり。ただ直前の依頼で急ピッチな来日であったのは承知の範囲だが
明るいターコイズブルーのチュチュが似合っていたとは言い難かったのは正直なところです。
そうは言ってもパワーと鮮やかさが合わさった菅井さんの魅力が発揮されていたと見受け
昨夏大和市で鑑賞した『ドリーブ組曲』よりも遥かに好印象。
グネーオはバランスを取ったポーズからそのままの跳躍を始め小技大技をとにかく盛り込んで
沸かせようと張り切ってはいた様子でしたが、詰め込み過ぎてかえって窮屈に映ってしまったもよう。
スーパーでよく見かける、野菜や果物詰め放題で無理やり押し込んだ結果
袋をテープで留められずにんじんや茄子がはみ出た状態を彷彿です。
音楽のテンポはこれまでに聴いたアリのヴァリエーションの中で最速でした。
『海賊』に関しては、繰り返しになるが我が脳内は昨夏8月末におけるセクシーで野性味も醸して強さとしなやかさが共存し
視線や腕の運び方更には決めポーズでの間の取り方云々全ての要素がバランス良く備わっていた浦安伝説が色褪せず
綴り出すと当時の会場近くの夢の国の乗り物待ち時間並みに当分前に進めそうにないため次行きます。


「エディット」 - 新作世界初演 -
振付:ナンシー・オスバルデストン
音楽:エディット・ピアフ

ナンシー・オスバルデストン

初見のオスバルテストン、ピアフに扮しての粘り気のあるパワフルな踊りで
ピアフの歌声と持ち前の身体能力が響き合い、「バレエ」とはまた趣きは違ったが
近年観た自作自演の中では許容の良作に入る出来栄えと感じます。
大きな声では言えないが、随分前に観た自作自演で駄作(失礼)としか思えぬ舞台にお目にかかった経験あり。


「ABC」
振付:エリック・ゴーティエ
音楽:フィリップ・カニヒト

ヨハン・コボー

2018年のマリインスキー・バレエ来日公演にて私が観た日にはザンダー・パリッシュが踊った
基本ポジションを繰り出していくバレエ101のアルファベット版。
Aならアラベスク、アルブレヒト、アリ、とABCDE…のアルファベット順に
次々と言葉が音声で案内され、意外と言ったら失礼だがコボーが切れ味宜しく言葉通りに再現。
古巣デンマーク王立バレエでの活躍を思い起こすブルノンヴィルネタまであり
そういえば新国立劇場でラ・シルフィード初演時は吉田都さんとゲスト出演なさっていたのでした。


「マノン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ

アリーナ・コジョカル
フリーデマン・フォーゲル


やっとこさ座長コジョカル登場。入魂(しなければ観客に目も向けられないであろう)のパ・ド・ドゥで
無邪気でされど危ういふわふわ感でデ・グリューを蕩けさせ、傾けるバランスを始めこのパ・ド・ドゥを観る限りは
怪我を思わせず。何よりフォーゲルのデ・グリューが手紙にペンを走らせる姿やマノンに向き合った際の喜びようからして
物語に没入し、後脚が伸びやかで美しいポーズの数々に頼もしいサポートと至れり尽くせりのパートナーリング。
全幕を観ている気持ちにさせられました。30分以上にも及ぶ主演作品ではパートナーが直前に変更して初共演のナグディを支え
更にはパ・ド・ドゥも1本追加で踊って座長を守り切ったフォーゲルは先にも触れた通り今回最大の功労者でしょう。


「ドン・キホーテ」 ディヴェルティスマン
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス

ナンシー・オスバルデストン、菅井円加
オシール・グネーオ、キム・キミン、玉川貴博

〈東京バレエ団〉
木村和夫、森川茉央
中島理子、瓜生遥花、長谷川琴音、花形悠月、本村明日香、吉江絵璃奈、前川琴音、米澤一葉


座長不在のドンキ。オスバルデストンがグラン・パ・ド・ドゥのキトリとカスタネットのヴァリエーション(早過ぎる着替えに驚嘆)、
菅井さんがキトリの扇子のヴァリエーション、グネーオが1幕トロワと一風変わったヴァリエーションのバジル、
キムがグラン・パ・ド・ドゥとヴァリエーション(確か)バジル、
玉川さんがサンチョ・パンサの布陣。玉川さんはキャピトル・バレエやルーマニア国立バレエ、オーストラリア・バレエなど
各地で活躍された経緯をお持ちで現在はフリーのダンサーでいらっしゃるとのこと。
東京バレエ団の木村さん(おかっぱのガマーシュ?)、森川さん(ドン・キホーテ)と3人仲良く中央後方にて腰掛け
にこやかに舞台を見守っているかと思えば踊り出すと実に身軽なサンチョ・パンサ、ぱっと明るく沸かせてくださいました。

一点の曇りのない且つコントロールしつつダイナミックな技術を披露したキムを始めとして
世界各地から集結した主役級のダンサーたちですから個々の実力は申し分ないレベルでしたが
ぶつ切りな印象が残ってしまったのは惜しいところ。
誰かが登場しては踊ってはい次、と個々のパフォーマンスで手一杯な構成に問題があったかと思われます。
加えて当初は主演予定であった座長コジョカル不在の影響も大いにあるでしょう。
急遽の出演者も含め心をこめて全員一丸となって最大限の力を発揮していたのは紛れもない事実ですが
音頭を取る座長が直前降板により舞台上に不在、及び急ごしらえの粗が露骨に表れてしまっていたのは明らかでした。
また近年はアナニアシヴィリのガラや世界バレエフェスティバルでも『ドン・キホーテ』よりハイライト集なる演目は披露機会も増え
観客も見慣れている企画なだけあり、本番数日前に出演決定者がいた点や
全体練習の時間は実質1日程度しか確保できなかったであろう事情を加味しても物足りなさは変わらず。
世界バレエフェスティバルガラではないためコジョカルが後方で花売りする、フォーゲルが給仕を務めるなど
過剰なおふざけ企画は無理であったとしても構成にもう一工夫あったら、
特に場面と場面の繋ぎの部分に一捻りあればと思えてなりませんでした。

幾らか不満も書き連ねましたが、座長コジョカルが『マノン』寝室のパ・ド・ドゥのみの出演であっても
全幕を思わせる舞台披露。そして何と言っても、パートナー変更にパ・ド・ドゥ追加のフォーゲルの尽力を筆頭に
企画当初から出演予定であったダンサーも直前に依頼を受けたダンサーも急遽の事態に即対応。
コジョカル救済プロジェクトの無事完了を見届け安堵した公演でした。





帰りは当ブログレギュラーであるコジョカル好きな大学の後輩とオーチャード近くのお店へ。
コジョカルのインペリアル観たさにチケットを購入したそうで、肩を落としていないか心配であったが
『マノン』だけでも鑑賞できて良かったと話していて一安心。
舞台近く席であったそうで、キムのサポートの特徴など近距離ならではの感想に先輩は興味津々でございました。
先輩管理人は後輩が購入したコジョカルファイルを眺めつつコジョカルの母国ルーマニアの赤ワインで乾杯。
見た目は薄めの色ですが味はしっかり強さがあり。
もしコジョカルを知らなければルーマニアに対する印象と聞かれても
挙げるのはコマネチ、ドラキュラぐらいであったことでしょう。

そういえば、譲ってくださる方よりチケットを引き取ったのは公演5日前の都内の主要ターミナル駅。
その後駅ビル内の中華料理店にて一緒に食事をしていたときのこと、
クラシック音楽が流れていて心地良いとは感じていたのだがふと耳をすませてみると
何とピアノソロバージョンの『白鳥の湖』ジークフリート王子のヴァリエーション。
同じ駅ビル内の飲食店にて以前『白鳥の湖』パ・ド・トロワが流れていたときも驚いたものだが
情景でもなくワルツでもなく王子のヴァリエーションしかもピアノソロとは、
レッスンCDでもなかろうにと互いに興奮を隠せず。ここザンレールなどと口走りつつ
目の前に置かれた炒飯定食、そして何処へ行ってもバレエと縁がある喜びを噛み締めた一夜でございました。



さて以下は余談。ご多忙な方はお飛ばしください。
今回は代役登板続出公演であったため振り返って印象に残っている代役登板の舞台をいくつか。
予定通りの出演が望ましいものの生身の芸術である以上怪我や体調不良は時に生じるもので、これまで観た舞台でも
当初の予定と異なる演者が登場した舞台は何本もありました。中には本番中に変更が生じたときもあり。
3本挙げるなら
◆2006年4月パリ・オペラ座バレエ団来日公演ヌレエフ版『白鳥の湖』
プロローグでオデット役のダンサーが怪我、湖畔の場面で登場したのは別人で
いくら鑑賞時のマナーとして話し声を立てないのは常識とは言えこのときばかりは客席のあちこちから
明らかに体型が違う、別人ではないか、と動揺がの声が広がっていました。
当日は別の役を踊る予定であったダンサーが急遽着替えて登場までは良かったが衣装がぶかぶかで気の毒でした。
そして王子役のダンサーともペアを組むのは初だったとか。
救いはヌレエフ版特有の王子とロットバルトが近距離でくっつきそうになりながら踊る振付が用意され
その場面の際に降板の詳細や代役について2人で話し合って策を練っていたらしいと風の噂で聞いたが
何処までが真実かは未だ分からず。いずれにしても意味合いは違えど映画『会議は踊る』が浮かばずにいられぬ降板登板劇でした。

◆2008年12月新国立劇場バレエ団『シンデレラ』
2幕にてシンデレラは登場しワルツは踊ったが、モロッコの子供に2人が手を添えて行進しオレンジを贈る場面にて
シンデレラが不在で王子しかおらず。そういえば王子はヨハン・コボーでした。
何かあったに違いないと観客の予測の通り、シンデレラ役のダンサーが怪我。
ひとまずコボーが王子のヴァリエーションだけ踊ってそのあとパドドゥの音楽が流れ出した途端幕が下りて舞台監督登場。
事の経緯を説明して15分程度の休憩を挟み、大急ぎで準備した新国立ダンサーのペアが登場し最後まで務めました。
カーテンコールには私服姿のコボーが控えめに登場して挨拶、笑みを絶やさず新国立ダンサーを立てていた姿は今も忘れられぬ姿です。

◆2019年9月新国立劇場バレエ団こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』
本番前日に会場ホームページにて告知があり、地元凱旋公演及び現地でも知名度の高く
宣伝にも力が入れられていた主演ペアが双方降板。
翌々日に長野で同演目に主演するダンサーが急遽大阪入りして主演。
開演前こそ「誰や??」と掲示板を目の前に呟く観客は多かったが幕間にはお2人への賞賛も多々聞こえ
大阪でお世話になっている方々からも溢れるお褒めのお言葉の数々に管理人、目が潤う寸前でございました。
我ながら、よくもまあ代役を知ってすぐにチケット確保し翌日には気づけば東京駅から新幹線で大阪入りしていたと
好きなダンサーの応援に都道府県境は関係ないと言わんばかりの行動をすぐさま取っていたと今も思い出す出来事です。

それから、今回偶然にも『バレエ・インペリアル』、作品の写真で脳裏に刻まれているジャフィー、『海賊』、と要素が揃ったため
過去に遡って観てみたい代役登板劇について。40年近く前のABTオープニングガラにて
バリシニコフと『海賊』を踊る予定であったゲルシー・カークランドが薬物の影響で踊れず当日降板。
(楽屋で倒れていたと確か記されていた)
代役を務めたのは偶々お手伝いに来ていたまだ無名の10代であったジャフィーだったそうで
15年ほど前のダンスマガジンインタビューにてジャフィーが語っていたのだがその書籍が見つからず
記憶と正確性が欠けている点は悪しからず。ただ舞台は大成功を収めたそうで、時空旅行が可能なら居合わせたい舞台の1本です。

2020年2月3日月曜日

英国ロイヤル・オペラ・ハウスシネマシーズン2019/2020 コンチェルト/エニグマ・ヴァリエーション/ライモンダ 第3幕




シアタス調布にて、英国ロイヤル・オペラ・ハウスシネマシーズン2019/2020
『コンチェルト』『エニグマ・ヴァリエーション』『ライモンダ』第3幕を観て参りました。
http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=concerto


「コンチェルト」  【振付】ケネス・マクミラン
【音楽】ドミトリー・ショスタコーヴィッチ
【美術】ユルゲン・ローゼ
(第1楽章)アナ=ローズ・オサリヴァン/ジェームズ・ヘイ
(第2楽章)ヤスミン・ナグディ/平野亮一
(第3楽章) マヤラ・マグリ、 アナ=ローズ・オサリヴァン/ジェームズ・ヘイ、 ヤスミン・ナグディ/平野亮一
ピアノ:ケイト・シップウェイ


マクミランにしては珍しいであろうシンフォニック・バレエ。小林紀子バレエシアターによる上演は
NHKバレエの饗宴含め何度か観ております。衣装の細かな点はバレエ団に任されているのか合わせているのか
小林バレエではブルーを基調としていましたがロイヤルは黄色や赤といったはっきりとした色彩を採用しているようです。
パートによって色は異なるが男女ともシンプルなレオタード姿で
プロが普段着用しているレッスンウェアよりも全身のラインが露わとなり、バレエ学校の生徒並み。
解説映像でダンサー達が語っていた通り誤魔化しが全く効かない恐ろしい演目とも言えます。
第1楽章のオサリヴァンが音符1つ1つを刻むかの如く正確で音楽にぴたりと合う踊りで気持ち良く
ピアノのタッチとステップが吸い付くように調和していて見事。
今夏新国立劇場バレエ団客演時のアリス役では果たしてどんな姿を見せてくださるか。
相手役の新国ジャックに相応しいヒロインであるか、「確と目を光らせ」鑑賞したいと思っております。
安定感抜群であったのはマグリで、決して大柄ではない体躯ながら
終盤に向けて力強くひたすら歩み続ける群舞を牽引する頼もしさがあった印象です。



  「エニグマ・ヴァリエーション」  【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】エドワード・エルガー
【出演】エドワード・エルガー:クリストファー・サウンダース
キャロライン・エルガー夫人:ラウラ・モレーラ
ヒュー・デイヴィッド・スチュアート・パウエル:ポール・ケイ
リチャード・バクスター・タウンゼンド:フィリップ・モーズリー
ウィリアム・ミース・ベイカー:リース・クラーク
イザベル・フィットン:ベアトリス・スティクス=ブルネル
アーサー・トロイト・グリフィス:マシュー・ボール
ウィニフレッド・ノーベリー:ロマニー・パイダク
A.J.イェーガー(ニムロッド):ベネット・ガートサイド
ドーラ・ベニー(ドラベラ):フランチェスカ・ヘイワード
ジョージ・ロバートソン・シンクレア:アクリ瑠嘉
ベイジル・G・ネヴィンソン:エリコ・モンテス
レディ・メアリー・ライゴン:イツィアール・メンディザバル


映像含めて初見作品。大袈裟な所作は無くても気分を沈ませている佇まいに寄り添いたくなるサウンダースのエルガー、
そっと静かに励まし愛を紡ぐモレーラのエルガー夫人、とクラシカルで品ある演劇を眺めている心持ちにさせられました。
次々と現れる個性豊かな人物たちに引き込まれるのはさることながら、最たる驚きはエルガーの音楽。
『威風堂々』と『愛の挨拶』ぐらいしか知らずにおり、1幕物のバレエ作品が成り立つほどに存在する
実にスケールのある楽曲の数々に触れられたのは幸運でございました。



  「ライモンダ 第3幕」 
【振付】ルドルフ・ヌレエフ (原振付:マリウス・プティパ)
【音楽】アレクサンドル・グラズノフ
【出演】ライモンダ:ナタリア・オシポワ
ジャン・ド・ブリエンヌ:ワディム・ムンタギロフ
チャルダッシュ イツィアール・メンディザバル、リース・クラーク
第1ヴァリエーション 金子扶生
第2ヴァリエーション ミーガン・グレース・ヒンキス
第3ヴァリエーション クレア・カルヴァート
パ・ド・トロワ アシュリー・ディーン、イザベル・ガスパリーニ、ロマニー・パイダク
パ・ド・カトル アクリ瑠嘉、セザール・コラレス、ヴァレンティノ・ズケッティ、ジェームズ・ヘイ
第5ヴァリエーション ワディム・ムンタギロフ
第6ヴァリエーション ナタリア・オシポワ


ヌレエフがロイヤルのために3幕のみ上演用に再振付・構成。同じ衣装と装置を採用して
少し振付や音楽構成を変更した版は2015年に小林紀子バレエシアター公演にて鑑賞しております。
(Kバレエカンパニーでもロイヤルと同じ3幕ヌレエフ版を上演していますがこちらはまだ観ておらず。
大阪のKバレエスタジオもよく似たデザインの衣装を採用)
幕が上がると黄金色に彩られたタペストリーの背景に息を呑まずにいられぬ
衣装装置ともに金と白を基調にした重厚な趣きです。
オシポワのライモンダは優雅な深窓の姫には全く見えなかったが(失礼)、 押しの強さが前面に出た(出過ぎた)潔さを備え技術も盤石。
ジャンの代わりにアブさん打倒をやってのけたであろうと容易に想像させる姫君でした。
ムンタさんのジャンは柔和な印象がまさって十字軍から帰還した騎士には全く見えなかったが(失礼)
恐らくは財も潤い人材も豊富な軍であったため、役職クラスは前線に赴かずに済んだためでしょう。
或いは内勤業務で備品発注や給与計算していたか。『ラ・バヤデール』ソロルにも通ずる妄想はこの辺りにして
予定通りパリ・オペラ座のヌレエフ版『ライモンダ』に客演していたら、どんな人物を造形していたか気になるところです。
女性のパ・ド・トロワ男性のパ・ド・カトルは、バレエ団の中間層の充実ぶりが如実に表れる場であると思われるが
両者ともなかなか冷や汗な仕上がり。前者は三角のフォーメーションが崩れ
後者は譲り合いの精神を見せるためか否か観る度に首を傾げ未だ振付の意図は謎だが
エレガント化したダチョウ倶楽部の如く順番に向かって右側の人に片腕を横に差し出したところで
1人ずつ始まるザンレール連発で、斜めロケット発射そして着陸失敗の連続。見かけ以上に難易度は高いのでしょう。

ヴァリエーションで目を惹いたの金子さんで、見映えするゴージャス感に反し
踊りは精緻で正確。真珠を転がしたような繊細な音楽に溶け合う踊りから幸福感を与えられた思いです。
フィナーレ(ギャロップ?)は主役、グラン・パ・クラシック、そしてチャルダッシュも全員総登場な演出であるの嬉しく
続々となだれ込んでは交差したり、縦横きっちりフォーメーションを描きながら舞台を覆って圧巻。
演出によってはチャルダッシュとマズルカのみで行われたり(記憶が正しければグリゴローヴィヂ版)
フィナーレ無しでめでたしのアポテオーズに突入する版もある中、総登場は観る者を高揚させ壮観な舞台となる効果大です。

概ね満足した作品ではございますが、違和感を覚えた点もあり。
1点は解説にて、字幕の読み逃しが無い限り一度たりともフランスのフの字も出てこなかったこと。
ハンガリーとロシアの繰り返しで、どうやらロイヤルではライモンダもハンガリーの王女として捉えている様子でした。
これまで見聞した資料や話ではあくまで舞台は中世の南フランスで、ライモンダはフランスの令嬢だが
(姫や令嬢、貴族など人物紹介は文献によってまちまち)
ジャンとの結婚式では、ジャンと共に出征した或いは仕えているのかハンガリー王アンドレイ2世への敬意を表して
ハンガリーの味わいを帯びた振付で踊られるとの見解は違ったのか、気になるものです。
もう1つはロシア帝国の連発。恐らくはプティパが振り付けた最後の大掛かりな 全幕古典バレエの世界を堪能いただきたいとの呼びかけであると受け取りましたが
余りに繰り返されるため仮に初鑑賞の作品であったならロシアの話と思い込んでしまいそうになった次第です。

それから音楽の構成。3幕のみ上演となれば全幕上演時よりも見せ場を増やしたい気持ちは分かるものの
ヴァリエーションに夢の場面の曲が用いられているとどうもしっくり来ないのです。
例えば誰がどれを作曲したかもはや混沌状態となっている『海賊』や『パキータ』ならまだしも
(アダンやドリゴ、プーニ、ミンクス達から天罰が下りそうな表現だがお許しを)
作曲家グラズノフと振付家プティパが1場面1場面入念な話し合いを重ねながら制作したバレエですから
夢幻の世界を描写した曲を突如ハンガリー色の濃い重厚な結婚式場面にて披露されても気持ちがついていけず
特に今回は「ハンガリー」主張が解説でもインタビューでも強かっただけあり殊更感じたのは否めません。

そうは言っても黄金に煌めく格調高い舞台を映像にてじっくり鑑賞できたのは大きな喜びであるのは変わらず。
女性の頭飾りが大ぶりで、ウルトラマンシリーズのウルトラの母のヘルメットを彷彿とさせてしまった点も小林バレエでの鑑賞に続き気にかかったが
オシポワのライモンダならば「3分」で敵を薙ぎ倒しそうな強さを備えた正義の味方な姫君であったからまあ良いか。




鑑賞後シアタス調布近くにて。ライモンダはプロヴァンスの姫だった気がするが、と考えを巡らせ耽りながら南仏のワインで乾杯。
ちなみに管理人は小学3年生のときに発表会での『ライモンダ』3幕にてチャルダッシュを踊った経験あり。
人数が少ない教室で、最初で最後の群舞経験でした。
『白鳥の湖』や『コッペリア』と異なり冒頭から晴れやかで終盤の怒涛の勢いからなる曲調に聴き惚れ
当時からバレエは鑑賞や書籍閲覧を遥かに好んでいたとはいえ、グラズノフの音楽で踊れた幸せは今も覚えております。
ギャロップフィナーレもあり、しかし中盤の複雑交差はカット。
主役やグランパの上級生たちは終わりに近づいたところでようやくなだれ込んでくる流れであったため
それまでは大人1人と小学生約10人のチャルダッシュで場を持たせる羽目に。
生徒も観客もわくわく楽しめ、少人数でも舞台が華やかに見える振付を
創意工夫して考えてくださった先生には感謝が尽きません。
会場はシアタス調布からも、そしてこの店舗からも目と鼻の先に位置する調布市グリーンホールでございました。

2020年2月1日土曜日

バレエ・カレッジ主催 福田一雄さんによるバレエ音楽の歴史②バレエ・リュスからローラン・プティの時代まで〜20世紀のバレエ音楽〜




1月22日(水)、神保町ブックハウスカフェにて開催されたバレエカレッジ主催の講座
バレエ音楽の歴史②バレエ・リュスからローラン・プティの時代まで〜20世紀のバレエ音楽〜を
受講して参りました。講師は指揮者の福田一雄さんです。
https://balletcollege.amebaownd.com/posts/7568606

音楽知識の宝庫でいらっしゃる福田さんのお話は今回も噴水の如く溢れ
時間制限がなければ永久に続いたかもしれぬと思わせたほど。息つく暇もない濃縮した内容で誠に学びの時間となりました。
『白鳥の湖』や『パキータ』の誤解、『ショピニアーナ』が『レ・シルフィード』と呼ばれる経緯まで
常識の覆しや気になっていた点も解決。
聞き間違いの可能性もある旨を前置きし、一部紹介いたしますと『白鳥の湖』スタンダードな黒鳥オディールのヴァリエーションは
(ブルメイステル版などでのオーボエの妖しげな主旋律の曲ではない、軽やかな方の曲)
チャイコフスキーのピアノ曲の1本である『悪戯っ子』。
オディールのために本来作曲した妖しげな曲ではなく勝手に誰かが引っ張ってきてしまったようで
チャイコフスキーは天国で憤怒しているであろうとのこと。
但し管理人、「イタズラッコ」の響きから想像せずにいられなかったのはこちら
身体の柔らかさや愛嬌がある点はオディールと共通しているとも言え、お許しください。

それからマリイスキーバレエが一昨年の来日公演ガラにて上演され、パステルカラーと優美な踊りが織り成す夢見心地な舞台で好評を博し
記憶にも新しい『ショピニアーナ』。ロシアとそれ以外の国で呼称が異なると思っておりましたが全くそうではなく
妖精な印象を持たせると誰かが感じて羽根を付けた衣装に変え、すると前奏曲として演奏していた『軍隊行進曲』は相応しくない。
しかし時間がなく、ならば女性ヴァリエーションの1曲であるプレリュードをそのまま前奏曲に持ってきて演奏、になったもよう。
ちなみに、2018年12月から2019年1月にかけて幸運にも2ヶ月の間に
マリインスキーの『ショピニアーナ』新国立劇場での『レ・シルフィード』両方の鑑賞に恵まれた管理人。
観客の眠気防止と景気付けやおめでたさ強化の面からすると、
例え妖精の世界であっても冒頭は『軍隊行進曲』のほうが好みであると結論。
実際新国立劇場ニューイヤー・バレエでの公演では、正月明け1週間仕事をこなした観客が大勢を占めるであろう3連休開催で
プログラム最初を飾る演目ながら、演奏もいたく繊細でしっとりしていたためか居眠り者続出だった印象です。

順番前後して、コンクール選曲でも人気が高い『パキータ』ヴァリエーションは、
実はパキータではない曲もあるのは想像はある程度できておりましたがうち1曲、鉄琴であろう楽器がポロンと奏でる曲は
私の中ではアンナ・パブロワの写真の印象しかない『アルミードの館』の中のヴァリエーションが正しいそう。
コンクール指導なさっている先生方への注意喚起をこの度もなさっていました。

他にも大作曲家グラズノフのお酒に塗れた晩年、そしてガラでも大人気『グラン・パ・クラシック』が世に広まった理由は
振り付けたグゾフスキーのアルコール依存により著作権管理の行き届かなさであった皮肉なる点にも言及。
バレエの知識の溢れんばかりな飛び出しはまさに開けてびっくり玉手箱で
鑑賞愛好者のみならず、バレエ指導者や舞台に立つ機会が多い方にも聞いていただきたい講座です。
また定期的に開催さるようで、また最近福田さんは都内の大手バレエスタジオAngel Rさんのスワンスクールにて
講義もなさっています。会員以外の方やバレエは鑑賞専門な方も歓迎であるそうで、ご興味ある方は是非ご参加ください。



依存症にならぬよう気をつけようとは思っていても、偉大な作曲家への思いを馳せながら赤ワインで乾杯。