2022年12月2日金曜日

酔い痴れた土曜の昼下がり 新国立劇場バレエ団『春の祭典』『半獣神の午後』 11月25日(金)~27日(日)





11月25日(金)〜27日(日)、新国立劇場バレエ団『春の祭典』『半獣神の午後』を計3回観て参りました。ともに平山素子さん振付作品です。
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/the-rite-of-spring/


平山さんがリハーサル中に出演者全員と2人で撮影された写真を連日投稿され、1人1人の魅力や特徴、印象の紹介文付き。愛情の深さに触れた思いでおります。
こちらでも全部掲載したいほどでございますがスペースの都合上困難ですので、例をお1人分挙げておきます。
ガシッと逞しく、射抜くような眼差しにも痺れます。こんなにも力強い瞳に覗かれたら、冷静さの維持が不可能となりそうです。





『半獣神の午後』

【演出・振付】平山素子
【音楽】クロード・ドビュッシー、笠松泰洋
【照明デザイン】森 規幸

奥村康祐、中島瑞生(25日, 27日)/渡邊峻郁、木下嘉人(26日)

福田圭吾(全日)

宇賀大将、小野寺 雄、福田紘也
石山 蓮、太田寛仁、小川尚宏、上中佑樹、菊岡優舞、樋口 響、
山田悠貴、渡邊拓朗、渡部義紀

3つの章からの構成なのか、最初と終わりに群舞の見せ場を設け、間に主役の2人が登場する展開で
暗転すると無音の中で群舞のダンサー達が歩きながら登場し、柔らかなうねりが覆う光景にまず着目。
初日こそまだ様子を窺うような硬さが目立ったものの2回3回と場数をこなすうちにすっかりこなれた印象を持ちました。
淡いエメラルドグリーンなハーレムパンツに上は茶色で整えたマーブル風な模様で、音楽の持つ微睡みそうな調べにもしっくり。
一見体操部かと思わすぐるっと回転リフトや組体操のサボテンポーズ(確かあった記憶)には舞踊ではない気もしながらも
迫り出した中劇場の舞台上に男性ダンサーが立ち、縦横無尽に入れ替わったり整列するかと思えば一斉に鼓舞するように踊り出す場面もあり変化に富んだ展開。
中でも群舞の長であろう福田(圭)さんの、人と人の間を辿りながらのしなやかな牽引力や宇賀さんの音楽に敏感に反応しての饒舌に語り出す身体、 そして渡邊(拓)さんの大枠は守るも、踊り方といいふとしたポーズの決め方といい
動き出す度に身体の振り幅の豊かさに自然と目がいきました。大柄高身長である条件のみならず、他者とは違う舞踊センスの持ち主なのでしょう。

続いて冒頭の群舞が去り、主役2人が登場して曲はシランクス(多分)。奥村さん(赤衣装)中島さん(紫衣装)組は中性的でさらっとした甘い香りが匂い立つ雰囲気で
絡んだりリフト時も綺麗な決まり方。初日はぎこちなかったためだいぶ手に汗を握るものでしたが(失礼)2回目は静動の付け方も進化していたかと思います。
渡邊さん(紫衣装)木下さん(赤衣装)組は何処を切り取っても妖しい可動と張りがあり、生じる化学反応の発火と刺激度の強さ、音楽をたっぷり使った
艶かしいリフトにも感嘆。とにもかくにも木下さんの背後から奇襲を仕掛ける渡邊さんの鋭くも舐めるような眼差し、
沸々と漂う雄々しい色気に魂を抜かれた昼下がりでございました。曲の構成上、静まり返る間が多々あれど実に滑らかな身のこなしで空間を捉え
ポーズからポーズへの過程や後ろ姿に至るまで粗が一切ない精度の高さ。何しろ我が携帯電話の待ち受け画面は変わらず渡邊さんの野獣でございますので、
キャラクターこそ違えど「獣」の文字が入った及びこういった一癖も二癖もある役柄にお目にかかれて舞い狂う思いに浸ったのでした。
どうしてこのペアが1回きりであるのか首を傾げるしかなく、もう1回観たい欲が止まらずおさまらず。
美形アイドルと少女漫画融合の低湿繊細水彩画な趣であった奥村さん中島さん組とは正反対な、
熱血刑事物に色味を加筆した高湿濃密油彩画といったところで、両ペアの味わいの異なりを満喫いたしました。

今までの新国上演コンテの類にはない、ただでさえ男同士で妖しく絡む主役2人の振付にどきりと胸騒ぎや衝動を覚えたのは良いものの、
大注目はひょっとしたら振付以上に衣装であったかもしれぬ主役2人。令和の初演作品とは思えず
『キャッツ・アイ』紫のルイ姉な総タイツと『タッチ』浅倉南な赤い新体操レオタードで昭和末期アニメの並列状態でしたが
それでも2組とも絵になっていたのは救いでした汗。(お若い世代の皆様、ご自身でお調べください)
昭和どっぷり世代な私からすれば衣装のコンセプトについて知りたい今日この頃でございます。
ともあれ着こなし可能者は少数と思われるものの、赤と紫が重なっては溶け合う怪異な世界観の描出には成功していたと思えます。
光の使い方も巧みで時折『風の谷のナウシカ』巨神兵の行進彷彿な影演出の場もありましたがなかなか面白く鑑賞いたしました。



『春の祭典』

【演出・振付・美術原案】平山素子
【共同振付】柳本雅寛
【音楽】イーゴリ・ストラヴィンスキー
【照明デザイン】小笠原 純
【美術作品協力】渡辺晃一(作品《On An Earth》より)

米沢 唯、福岡雄大(25日,27日)
池田理沙子、中川 賢(ゲストダンサー)(26日)

【演奏(pf)】後藤 泉、松木詩奈

さほど深く考えずに鑑賞に臨みましたがタイムテーブルが目に留まり、2人だけで40分踊る過酷さに驚倒。
米沢さんは序盤のソロから身体が全方角に自在に伸び、おどろおどろしい曲調の中で大地を支配するような踊りに心掴まれました。
後半は絶望の淵に追い詰められる凄みを、福岡さんの肉体のせめぎ合いや変形ポーズの連鎖で造形。
今にも歪みそうな振付が詰め込まれながら、どしっとした構えで受け止め身体をパワフルに躍動させていく福岡さんも見事でした。
池田さんは終盤までスタミナが途切れることなく、次々と降りかかる試練に挑むように踊り尽くす強靭な心身に脱帽。
中川さんの空間支配力に長けた俊敏な身のこなしで舞台全体のエネルギーが更に沸き立ち、どんな色になるか未知数であったペアでしたが
中川さんのリードで池田さんも皮が剥がれ、縮こまるどころか上下左右方向感覚も失いそうな突拍子もない振付をも鋭く決めていて
昨年のダンス・コンサート『Butterfly』よりも一層安心感を持って鑑賞できた気がいたします。

最後は床の布が奥の中央の穴へと丸々絞り込まれるようにして呑まれていく演出には息が切れそうになり驚愕。
2階から観ると、最初は小麦粉ぶち撒けた床模様かと思いきや展開していくと地球模様にも見え、
最後は隆起していく大地そして山脈の鳥瞰図に思え徐々に変化していく様子からも目が離せず。
1階で観ると2人と一緒に自身も果ての地まで呑まれていきそうな衝動が芽生え、何時の間にかピアノがのっていた奥側の台と踊っていたときの一段下にあったはずの床が
平らになっていく演出も(どちらがどう動いたかよく確認できず)大陸が動く現象にも見て取れ、観る位置によって生じる感覚の違いをも堪能いたしました。

クラシック音楽及びバレエ音楽に精通とは言い難いのはさておき、実は数ある音楽の中でも
我が三大苦手曲があり、うち2曲がそれこそ『春の祭典』『牧神の午後への前奏曲』。
前者は何回聴いても曲調分からず覚えられず、後者はバレエでも度々観ていながら冗長な印象がまさって眠りこけてしまうためでございます。
私の中で双方に共通するのが作曲家の中でいたく好む曲との落差があり、ストラヴィンスキーは『火の鳥』、
ドビュッシーは『神聖な舞曲   世俗的な舞曲』は心底聴き惚れる曲ながら どうにもこうにも春祭と牧神は苦手意識が強いまま今日まで至っておりました。
しかし牧神に関しては鋭くも舐めるような欲を眼の奥から露に、されど全身に神経を行き届かせ、吸い付くような妖しい美しさが宿る
紫マンの出現を目にした26日(土)を境に苦手意識は薄れていきました。人間とはかくも身勝手な生き物であると再確認です。

話が逸れますがちなみに三大苦手曲もう1本は『ダフニスとクロエ』。骨が無いとはでは言わぬがふにゃふにゃした(失礼)曲調が感性に合わず、
バレエ作品も11年前に生でアシュトン版を、8年前にシネマでミルピエ版を、17年ほど前には新国立劇場の資料室にて
2004年のバレエ団公演『スペインの燦き』でのニコラ・ムシン版を鑑賞しておりますが全作面白味を感じられず。
単なる知識不足である旨は承知しているものの、バレエ化成功例の存在を知りたいと以前から探っております。

中劇場でのコンテンポラリーのみ公演が瞬く間に完売したのは祝するべき事態で、以前なら想像もできなかったことでしょう。
バレエ団の初コンテンポラリー挑戦はいつごろであったか私も詳細は把握できておりませんが、2002年のJ-バレエ辺りの頃は客足が伸びずであったと聞き、またクラシックとのミックスプログラムであっても
たった8年前ビントレーさん任期時代での『暗やみから解き放たれて』『大フーガ』『シンフォニー・イン・スリームーヴメンツ』なんぞ
ホワイエが図書館か美術館かと勘違いさせるほど観客数はまばらであったときもありました。
苦戦のときを経て、まさかの発売日にはほぼ完売の事態に驚き嬉しいと同時にもう1回公演回数を増やして欲しかったと思えてならず。
近年中の両作品の再演、そして『兵士の物語』再演も心待ちにしております。





中劇場テラスで初ワイン。青空が広がる、気持ち良い天気でした。



まさに午後の紅茶。そしてクリアファイルも購入。黒をベースにしたシックなデザインです。使い道を考え中でございます。
そもそも題名からして、半獣神達は午後をいかにしてお過ごしであるのかも、気になるところです。



いつもの場所で、新メニュー登場。黒トリュフのコンビーフリエットとガリバタおさつフライ。お酒が進みます。



アルコール度数68%!(6.8%ではありません)名称は『天国への階段』。ウォッカよりも遅い、ゆっくりとした飲み方でいただきました。
それ以前に、土曜日は14時半頃には酔い痴れ昇天しかけた昼下がりでセカンド紫、艶かしうございました。
お顔立ちはお侍さん風でいらっしゃるのですが、とんねるずのコントにもなりかねない総タイツで
あの色気は咄嗟に出てくるのだろうかと考え耽けたものです。和装洋装ヘンテコ系、どれも絵になる稀なお方であると再確認。



初めて窓辺に座った東京オペラシティの丸亀製麺。新宿駅方面へと続く甲州街道や高速道路を見渡せる良き眺めです。
日頃からお世話になっている、昔から牧阿佐美バレヱ団も多くご覧になっている方と暫しうどん時間。
先日の公演ダンスヴァンドゥにおいて綴った、16年前の『ア ビアント』初演時の感想について詫びると理解を示してくださり安堵。
本当に、サッカーの場面しか思い出せずにいるのはW杯の時期だからではございません汗。

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