2022年12月20日火曜日

2人の振付助手の手腕発揮   NBAバレエ団『眠れる森の美女』 12月17日(土)昼《埼玉県所沢市》




12月17日(土)昼、NBAバレエ団の新制作『眠れる森の美女』全幕を観て参りました。眠りを全幕で上演するのはNBAとしては初とのことです。
https://nbaballet.org/official/sleeping_beauty/


オーロラ姫:野久保奈央
デジレ王子:刑部星矢
リラの精:浅井杏里
カラボス:古道貴大
王様:三船元維
王妃:吉川風音
カタラビュット:佐藤史哉




振付助手の安西さんと岩田さん。全幕しかも『眠れる森の美女』に携わる緊張や注目ポイント、
久保監督からの高い要求に悩まされた日々、そして助言に救われた出来事も丁寧に語ってくださっています。



野久保さんと勅使河原さん。2人のオーロラ姫が作品の魅力、難しさを睦まじく語ってくださっています。



野久保さんは登場からまろやかな愛らしさですぐさま魅了し、オーロラ姫役のダンサーにありがちなひやりとする緊張が一切見当たらず、軸の強靭ぶりや安定感にも脱帽。
ほのかに頬がバラ色で、にこやかな笑みも零れ踊りは軽やか。花が舞うような空気に満たされた思いでおります。
イメージとしてはダイナミックな踊り方が持ち味と思っておりましたが全身に朗らかな品を行き届かせていて姫に似つかわしい振る舞いも好印象。
溌剌としていても乱雑さは皆無で、中でも結婚式では一層スケール大きく魅せる姿にすっかり見入っておりました。この度のプリンシパル昇格、おめでとうございます!

刑部さんは、通常の狩猟での戯れる場面も鹿仕留めましたの下りバッサリカットされた2幕にて幕が開くと孤独感を募らせなが舞台に出現。
身体のラインや歩き方が綺麗で、唐突な登場であっても妙な違和感もなく森の世界へと観る側も入り込んでいけた気がいたします。
夏に鑑賞したノリノリ且つエレガントな品もある、しかし箒を舞台袖へと放り投げたりと会場を大笑い状態にした
大胆なママっぷりが忘れられない『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』シモーヌや
春には小野絢子さんと共演された『ロミオとジュリエット』ロミオまで、幅広い役柄対応型ダンサーでいらっしゃると再確認。
NBAに移籍されて本当に良かったと思います汗。そういえば、ラフィーユでは母と娘の関係であった野久保さんとは
今回は王子と姫。両作品ともに並びがバランス良く感じられたのもまた、お2人の役造形の上手さに参りました。

リラの浅井さんは包容力は勿論のこと、強い背中についていきたくなるリーダー。振付はセルゲイエフ版を踏襲しているのか
プロローグでの登場が何時の間にか中央にいる流れで(セルゲイエフ版やロシア系では定番なのかもしれませんが)
曲調ががらりと変わって高揚するところでの登場こそ望ましいと毎度思うわけですが、半端な登場であっても
舞台中央でお付き達に囲まれながら上体を豊かに使って場を包み込む姿は大輪の花が徐々に開いていくさまそのもの。
カラボスに対しても弱味を塵1つ見せず、跳ね除けるされどやんわりと包むメリハリに富んだ魔法の表現も目を惹きました。
2幕の森の場は他の団に比較すると簡素な趣で大道具も見当たらず、舟もなし。つまり王子とリラは徒歩移動でお城へ向かうのです。
会場最寄りの隣駅の発車や到着音楽からも伝わる、世界に誇るお化け達にゆかりある所沢であるため妖精も王族も歩くの大好きどんどん行こう精神であるのか
リラ王国は経費節減に邁進中で造船予算案が通過しなかったか、事情は分かりかねるものの
時折見掛ける船舶免許必須であろう無駄に大きな舟がなくても(どこの団とは言わないが笑)音楽にも歩み寄るように
やがて待ち受ける運命へと一歩一歩足を踏み入れていく後ろ姿が観る側を舞台の奥へ奥へと引っ張ってくれている効果が生じていると感じさせました。

今回の新制作の大きな特徴がダンサーが2名振付助手として関わったこと。1人は安西健塁さんで、上にて紹介した動画インタビューによれば
最初に手をつけたのがプロローグでのカラボスと手下達の場面であったそうです。
手下達には低い重心を用いず四方八方に俊敏に飛び交う怪しくもスタイリッシュな黒集団として斬り込ませ、興奮を刺激し斬新に映る展開に見て取れました。
古道さんのカラボスがまたざくざくと妖艶に踊り、長い裾のドレスであるとは思わせぬ颯爽機敏な身動きにも仰天。
視線の使い方も巧みで流し目からの凝視は上階に腰掛けた私までもが仰け反りそうになる迫力を帯びていて、王様王妃様始め宮廷関係者はどれだけ怯えていたことか。

そして振付助手のもう1人、岩田雅女さんが手掛けた森の場面におけるオーロラと王子の愛の深まりが自然な説得力で
通常はオーロラのソロとして踊られる曲をオーロラと王子の心が近づいていく様子を描画したパ・ド・ドゥに変更。
音楽と溶け合い、流れるようでいてダンサーの四肢が多方向にすっと伸びていて上の階から観ていても立体感が見事でした。
オーロラのソロとして定着している曲であっても、追いかけるように掛け合いながら徐々に膨らんでいく曲調ですから確かに2人の会話にも聞こえ、
但しオーロラは幻影ですからやり取りの表現に力を込め過ぎてしまうと生々しくなってロミジュリ状態にもなりかねず
しかし一方通行な心の流れはいただけない難しい振付場面であったかと思います。
いかにして姫と王子を美しく、狩猟場面が全カットの森の場にて2人の恋模様を繊細に体現させていくか見せ場として焦点を当てつつ
岩田さんが心を砕いての創意工夫の賜物でしょう。野久保さん刑部さんのお2人も音楽に気持ち良くのって互いの存在をそっと静かに探るように細やかに丁寧に表現。
プロローグやオーロラ姫16歳の誕生日会で既に疲弊し時には観客も睡眠時間と化す場面ながら、今回は最も目が冴え渡る場面として鑑賞いたしました。
小品の1作ではなく全幕作品の一部の振付を担当されるとなると前後の流れにも意識を向けながら臨まねばならずしかも三大バレエの眠り。
更には安西さん岩田さんともに作品への出番も多く、両立させながらの取り組みは大変な労力を要したことと想像いたしますが成功へと導かれ、大きな拍手を送りたい思いです。

お2人が語っていらした、カラボスの敗北演出はこれまでに目にしたことのない展開で、リラと森の妖精達が集団で追い詰めていくとカラボスがリフトされた状態となり(確か)
崩れ落ちたかと思ったら邪悪な魔法も解けたのか人の姿に戻り、頭を抱え慌てふためきながら走り去って行く演出でした。
大変なスピード感の中で何時何が起きたか把握できぬほどで、映像や恐らくは大道具も使わず人力のみでやり遂げるアイディアと力量にびっくりしたものです。

全体を通してはマリインスキーの版を踏襲した王道路線な演出で、奇を衒わずされどNBAの独創性をも取り入れ、休憩1回を含む約2時間20分の濃縮版。
頑張ってあちこちをカットした感がなく、見せ場をぎゅっと盛り上げる工夫がなされていました。
その昔、あるバレエ団にて眠り全幕にしては短めの上演時間で不思議に思いつつ足を運んだところ
森の場はハワイアンダンサーズのような衣装の妖精が通過してほぼおしまいの演出もあり、いくら短くしたとは言えこれはいただけないと思ったものです。
NBAの場合は他にも宮廷内部が出現する前段階に赤ちゃんの誕生に歓喜する王妃や、怪しげに作戦へと突入しようと目論むカラボスが
序曲の最中に現れるのも序盤から対立を示唆する展開で面白みある工夫もあり。妖精達のパ・ド・シスはアダージョ部分は無しにして短縮し、
姫は100年の眠りにつくのであると予言するリラに宮廷全体が安堵して一旦幕が下り、そして16歳のオーロラ姫の登場の幕への舞台転換が恐ろしく早い!想像する限り、
テレビ朝日の長寿生放送音楽番組で歌手の出番ごとに装置が変わるミュージックステーションより早いと思わせました。
所沢にてこの急速舞台転換に先日居合わせ、思い出したのは四半世紀以上前のこと。相川七瀬さんが番組の拡大版に出演されたとき
初登場の前週にスタジオに見学に来たら、歌手たちと司会者のタモリさんとの談話中に装置転換を猛スピードでこなすスタッフ達の動きに大衝撃を受けたとのお話で
生放送ですから許されぬ遅延に神経をすり減らして臨む姿勢に震え圧倒されたご様子でした。
バレエも生、しかも映像越しではなく目の前に観客がいる状態ですから益々遅延も許されず、
今回の所沢NBA全幕眠りにおける前半の急速舞台転換の様子、別モニターで見てみたかったと好奇心をくすぐりました。

話を戻します。衣装はアトリエ公演や夏の公演とほぼ同じかと思われますが、パステルカラーで整えた衣装もキュート。
リラ以外も色は各々異なり(本来は当たり前であると思うが笑)、模様や頭飾りの形状も全員違うデザインで背中には小さな羽がつき、おとぎの国の妖精さんそのものな愛らしさです。
リラが登場し人々を安堵させる場における淡い紫を帯びた照明も美しく、目に残る光の膜でした。
衣装は新制作せず既存の物を採用と思われますがオーソドックスなデザインで取り揃え、新たにヘンテコな衣装を大量生産されるよりはずっと好ましいでしょう。
狼がシベリアンハスキー風のもふもふ明るめグレーで腕には事務員さん風のもふもふカバーも装着していてほっこりしてしまいましたが
考えてみれば管理人、2009年にモスクワに降り立ったとき、シェレメチェボ空港の敷地内で野生のシベリアンハスキーに遭遇いたしまして周囲に人もおらず
とにかく願った念を送った、克つては生類憐みの令が制定された国から来た者ですとがくがくと立ち震え、抽出に失敗した狭山茶以上に苦い記憶がございます。

それからもう1つ嬉々としたのは、徳島県の清水洋子バレエスクールの舞台で度々拝見していた荘野千尋さんがコールドのあちこちで踊っていらっしゃり大活躍であったこと。
手元のキャスト表や掲示も見るなり鳴門海峡の渦潮鑑賞帰りに、眉山帰りに、時期によってはすだち盛り放題であった
徳島駅前のセルフうどんやまにて食事後に(ローカルな話が尽きず笑)、駅前での催しに偶然居合せ県のマスコットすだちくんと記念撮影した日もあった
訪問10回は超える阿波の思い出は語り出すと止まらずそれはさておき、徳島県内のホールで何度も観ているあの荘野さん!?とびっくり嬉しい瞬間でした。
急遽リラのお付き役でも出演され、堂々と滑らかで上品な踊り方や肩のラインが抜群に綺麗で妖精としての立ち姿も目をぐっと惹きました。
パ・ド・シス妖精達のソロの時、上手側列の最前列にいらしたかと思います。スタジオカンパニー生の欄にお名前があり、これからも注目して参りたいと思っております。

恒例の久保監督によるプレ漫談(失礼)ではなくプレトークは今回も楽しませてくださいました。
ただ昨年5月の『ドン・キホーテ』での舞台でバナナを食べる人を探してみてください案内や
今春の池袋『ロミオとジュリエット』での行きつけの近場のお蕎麦屋さん等の和やか内容はなく笑
クラシックバレエの最高峰の全幕を遂に上演しかも初日の初回でしたから「緊張します」と本音を吐露。
無事成功を収め、野久保さんはプリンシパルに昇格、めでたい初演となり心より祝します。
早くも再演が待ち遠しく、願うならばオーケストラ演奏での上演も検討いただけたら幸いに存じます。来春の創立30周年記念公演バレエ・リュスガラも今から楽しみです。





往路の西武線。6000シリーズは今年で30周年らしい。来年はNBAバレエ団が創立30周年!



最寄りの航空公園駅。所沢のご当地キャラクターと日本が世界に誇るお化けさん。並びを眺めているとトコろん トトロ〜と歌いたくなります。
所沢はとなりのトトロゆかりの地域、所沢駅の列車到着や発車音楽は『さんぽ』と『となりのトトロ』です。
森の中に昔から住んでいるトトロの森(塚森)にも行きトトロに会いに行きたいところですが、今回はオーロラ姫が眠る森へ参ったのでした。
市の鳥のひばりと航空発祥地としてプロペラ、首には狭山茶カラーのスカーフを付けたトコろんについては
こちらをご覧ください。所沢の名産等を全部取り入れたのか笑

https://www.city.tokorozawa.saitama.jp/iitokoro/tokoron/index.html




所沢の会場横のイーフォレストカフェにて、チーズケーキ。しっとり品のある甘さです。おすすめでございます。コーヒーはブレンドを選択。
緑の植物が窓辺に飾られ、店名の通り森を訪れた気分です。この後はオーロラ姫へ会いに眠れる森へ移動。



帰り、所沢駅の西武にて、ビール工房所沢。1階にあります。



岩田さんのお名前も振付助手欄に記載されていました。嬉しうございます。関東の大きな全幕公演で振付に携わる日が到来するとは、後日たこ焼きでお祝いやー笑。



狭山茶ビールとサクサク軽やか食感な唐揚げ。お茶の旨味を感じるビールでございます。ビールと唐揚げは黄金の組み合わせです。
そしてご当地の名物を飲食せずに帰れぬ性格は来年も続くことでしょう。皆様、お付き合いのほど我慢願います。
東京以外での舞台鑑賞予定は今年は残すところあと1本のみです。



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