2022年9月4日日曜日

名プロデューサーな田北志のぶさん   The 1st BALLET EDUCATION(第1回 バレエ・エデュケーション)8月17日(水)《東京都葛飾区》





8月17日(水)、田北志のぶさんプロデュースThe 1st BALLET EDUCATION(第1回 バレエ・エデュケーション)を観て参りました。
田北さんのオープンクラスを受講されている方々が中心で全体のレベルは高く
生徒さん達は田北さんの指導の下、基礎を見直し固めた上で派手な技巧に走らず、
丁寧で美しく、上体でも語る踊りを追求しているのであろう姿勢にも大変好感を持ちました。
http://www.shinobutakita.com/balleteducation/be01/be01.html


第1部は『コッペリア』3幕。新国立劇場の根岸祐衣さんと渡邊峻郁さんが組んでの主演が珍しいペアの実現で心待ちにしておりましたが
お2方とも貫禄ありながら、結婚式冒頭の皆に迎えられての登場にて目線の合わせ方からしてとろりと蕩ける可愛らしさが発生。
平和な温もりを届け広げてくださいました。また観たいと思わせる組み合わせでございます。
根岸さんは職人肌な技術の持ち主でひけらかすことは一切なく、されど顔の傾け方や視線の送り方といい見せ方を心得ていて
これといった見栄えする振付ではない、寧ろ粗が出やすい作品でも隙のない踊りから大らかな幸福感を滲ませああ眼福。
渡邊さんは爽やかな品が覆い尽くすフランツで、根岸さんスワニルダそして参列者への目配りも優しく、温水シャワーを浴びていた思いでおります管理人です。
ヴァリエーションやコーダにおいての高さと張りのある跳躍の連続では舞台面積がやや狭く、
本気を出したら会場目の前ではなく反対側の北口にも位置する黄金の両津勘吉像まで跳んでいったに違いありません。
また3年前に拝見したときの白地に金色模様で彩られたきらりとした衣装姿に再びお目にかかれたことや
パ・ド・ドゥのみ抜粋ではなくコッペリウスや市長不在を除けば3幕丸ごと上演の中でのフランツご披露にも喜びに一段と浸らせました。

戦いの踊りをいわゆる野性味全開な衣装や振付ではなくよりクラシカルな演出への変更や
通常は2幕のコッペリウス工房で行われるコッペリアの踊りを取り入れた以外はオーソドックスな展開で
時のワルツからあけぼの、祈り、仕事も含め総勢約20人構成、それぞれの質が高く息も合い纏まりのある3幕でした。

少し蛇足ですが、赤や青い屋根の家並みがすっきりと描かれた舞台美術に観客としてではない立場で見覚えがありまして
ひょっとしたら太古の昔に私が出演した発表会と同じ背景かと観察。会場の収容人数もほぼ同数の規模のホールでした。
そう頻繁に舞台美術を次々と新製作するとは思えず、ただ大昔の話ですから正確性には自信がございません。
仕事とコーダの写真は購入していたと記憶していたと思いますが埋没状態にあり(子供の頃の自身の姿なんぞ目にしたくない笑)
発掘したとしても白黒写真の時代ですから色味の確認は取れぬか否かはさておき
私が行うとくるくるパーにしか見えぬ或いは怠惰の踊りと化していた仕事やら、コーダで祈りの上級生と組んでひと踊りしてから
スワニルダとフランツを迎えたときに視界に入った風景に重なった舞台美術であったのは事実です。
もし写真を発掘し同じ美術であると確認が取れましたら、数十年後に巡ってきた舞台美術の運命として
コーダにてスワニルダか誰かを見つめながら立っている(確か中央部分は写っていなかったためフランツか、祈りか、誰を見ているかは分からぬはずだが)
当時小学生であった我が視線の先辺りの場所の真上からこの度2022年8月に東京の亀有に現れた
世にも爽やかで紳士然としたフランツの写真を貼り付けておきたいと密かに計画中でございます。

第二部、第三部はバレエ・コンサート。程よい長さでヴァリエーションやパ・ド・ドゥ、トロワをバランス良く飽きさせぬ構成で時間の経過が早い早い。
時々見かける、謎な珍配役も無く(発表会ではそこまであららな割り当てはないものの、代表格が世界バレエフェスティバルや今夏のロイヤル・ガラです笑)
生徒さんの個性や魅力が十二分に引き出された演目ばかりでした。
オダリスクはちょっとした余韻までもが呼吸がぴたりと合って、優美さも十二分。

そしてこの日最大の驚喜!?演目が『海賊』グラン・パ・ド・ドゥで、谷桃子バレエ団に入団された、長身で抜群のスタイルと美貌をお持ちの田山修子さんと
降板されたキム・セジョンさんの代役として渡邊さんが急遽登板。キムさんの状況を思うと手放しで喜んではならないのかもしれませんが
バレエ・アステラスに引き続き亀有でも渡邊さんのアリを拝見できるとは、まずは素直に喜んで鑑賞に臨もうと決意。
田山さんはエメラルドブルーや金色、クリーム色を合わせたチュチュに頭飾りは湾曲したラインが引き立つルイザ・スピナテッリさんデザインを彷彿とさせるセンスで
細身のスタイルとギリシャの「娘」ではなく姫君または女王な風貌と艶かしい雰囲気に口あんぐり(褒め言葉)。
渡邊さんはキムさん用の衣装をそのまま引き継がれたのか、上半身の上部分は隠れる、茶色系で整えられた衣装でしたが
忠実なお仕えぶりと秘めやかに滾る覇気の双方備わり奥行きな造形に骨抜き状態。
赤を帯びた背景照明で『海賊』にしては珍しく映ったものの、頭飾りの石が赤黒っぽい色合いで
尚且つ赤照明に負けぬ野心や情熱、鋭い眼差しも滲むアリでしたから心をガツンと持っていかれました。
コーダにおける下手側での高速減速混合回転ドリルもアステラスに続いて目にでき、サイコロが容易に乗っかりそうなほどに鍛え上げられた
筋肉隆起な肩甲骨が見えない衣装だ云々感じながらも、出番増加や田山さんとのペア実現と、珍しい嬉しさの連続に打ち上げ花火止まらず。暑くて熱い今年の8月です。
※葛飾の花火大会は3年連続で中止らしい。来年こそは実施できますよう願っております。

第三部では『眠れる森の美女』パ・ド・シスも上演され、根岸さんが優しさの精を好演。ヴァリエーションではゆったりテンポである上に跳躍や回転が1回もない、時間も短いため
手をヒラヒラさせて体力有り余ったまま呆気なく終了してしまいがちな振付であっても、柔らかく包み込むような魔法をかけられた心持ちに。
6人の纏まりも吸い込まれるような優雅さで、ベッドで眠る赤ちゃんオーロラが見えたのは幻ではないはず。
チュチュ部分が白いレースで覆われたデザインも可愛らしいお洒落なセンスでした。

大トリは田北さん、ニキータ・スホルーコフさんによるウィンナーワルツより寝室のパ・ド・ドゥ。
披露前の暗転時に椅子やらソファーが急ピッチで用意され、(舞台近くの席でしたのでスタッフの皆様の働きぶりも観察でき、私にとっては嬉し楽しみな光景)
故郷が戦争の惨禍となり、どうにか来日を果たし7月のキエフ・バレエガラにて品格を崩さずされどパワフルな要素も持ち合わせたソロルとアクティオンを披露され
好印象を持ったスホルーコフさんが亀有に、しかも大先輩の田北さんと踊られると知り、待ち侘びておりました。
譜面らしき用紙を手に取ったり、互いに近づいては離れたりとワルツの抑揚にのってエレガントに駆け引きをしたりと色っぽい味わいも生じるパ・ド・ドゥで
田北さんが以前にも増して美しくチャーミングな踊りに仰天。最後に拝見したのは2013年3月の東日本大震災復興祈念チャリティ・バレエ“グラン・ガラ・コンサートでの
ジゼルと瀕死の白鳥、その前には2008年のキエフ・バレエ来日公演『ライモンダ』にてエレーナ・フィリピエワさんの代役主演で、
このときの友人役の1人が現在新国立劇場バレエ団バレエマスターを務める菅野英男さんでした。
長年キエフにて活躍されてきた田北さんの経歴は存じ上げながらも姫や妖精役では今ひとつな印象を持ってしまい(失礼)
もっと遡れば、まだ情報が現在のように容易に入りづらかったソ連が崩壊して間もない頃における
ボリショイ・バレエ学校在学中にパキータのヴァリエーションを踊られた学内コンサートのレポートや、ゴロフキナ校長(当時)が食糧確保が最大の心配と
生徒達の生活基盤すら不安定である様子を語るインタビューも書籍を通して読んでおり、大困難な状況下で研鑽を積んでいらしたことに驚きを覚えたものです。
そのまま年月が過ぎたわけですが、今回のパ・ド・ドゥでの内側から踊る幸福を歌い上げるようにしなやかで流麗な舞台姿にすっかり虜となりました。
プログラム挨拶文によればお2人にとって思い出深い作品とのことで、 当時もぶっ飛ぶほど楽しかったと一見冷静そうな田北さんから想像つかぬご発言にこれまた驚くも
亀有で観ても、心を浮き立つ愉悦感に溢れるパートナーシップにこちらまでもが胸をきゅっと吸い上げられる歓喜に誘われた次第です。

フィナーレは『シルヴィア』グラン・パ・ド・ドゥコーダ曲に合わせて全員登場。これまた工夫が凝らされ、本来のこの作品における振付と
全員登場の賑やかさ、今回披露された役の振付それぞれに重なる演出がなされ、ただ踊って通り過ぎるだけではない演出で楽しませてくださいました。
特にパ・ド・シスが踊ってから去るときにリラだけ僅かに遅れて立ち去る振付は
役どころにも、本来のシルヴィアのコーダ振付双方にぴたりと嵌り膝を叩く思いでああ納得。
根岸さん渡邊さんは『コッペリア』衣装にお着替えしての登場で、再度の心溶かす大人可愛いオーラに私は全身垂れ下がり笑
そしてまだまだ終わらぬ亀有サービス、最後の最後には『シルヴィア』コーダ最終盤と類似し、
前方に渡邊さんとスホルーコフさんが並んで力強く連続回転大披露。まさかこの2人が並んで踊る日が来るとは、
盆と正月までとは言わないが(それは昨年5月の新国立劇場配信コッペリア千秋楽だ)盆と有給休暇が同時到来したかの如く驚倒し歓喜いたしました。

田北さんのプロデュース力に唸り感激した真夏の夜の亀有。田北さん、そしてオープンクラスに通う方々が
田北さんからの指導をしっかり吸収して臨むきちんとした舞台作りに大変好感を持ち
平日夕刻開演のためこれまた職場からぎりぎりで駆け付けてしまいながらも構成もよく練られ
終演後は特に楽しめた部分の思い起こしが止まらず。瞬く間の3時間でした。
それにしても根岸さん渡邊さんの主役ペアが実現し、渡邊さんは代役で『海賊』も再び踊られ、最後はスホルーコフさんと前方に2人並んで大回転。
もう夏の運を使い果たしたかに見えますが、8月内だけでも祭りはまだまだ続く2022年でございます。




亀有といえば、両さんこと両津勘吉。改札出てすぐ、北口側の黄金の両さん像。




こちらはホールが位置する南口側。お三方集結です。



掲示にびっくり。前週末の東京シティ・バレエ団『白鳥の湖』を降板されたキムさんが予定通り出演されるのか
気にはなっておりましたが、代役に急遽渡邊さん。2022年8月はまさかの海賊3発。



お世話になっている方より帰り道に教えていただきました、亀有の亀さん。
亀有でも心惹かれるアリであったと亀に伝える管理人。興奮が続き、地名と人名が混在混乱状態です。



帰り、ささっと白ワインで乾杯。思いがけずな2演目のみならず、フィナーレに至るまで構成に工夫が行き届き大満足な舞台でした。



お洒落なお通し。



ガーリック入りトマトソースたっぷりなブルスケッタも美味しうございました。



亀有の亀を教えてくださった方より、開演前に立ち寄られたお菓子屋さんにて購入されたお土産をいただきました。
『竜宮』、またの上演を再度願います。

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