2022年9月22日木曜日

いにしえの都への旅 牧阿佐美バレヱ団『飛鳥』9月4日(日)




9月4日(日)、牧阿佐美バレヱ団『飛鳥』を観て参りました。
https://www.ambt.jp/pf-asuka2022/





春日野すがる乙女(かすがのすがるおとめ):中川郁
岩足(いわたり):水井駿介
竜神:菊地研
黒竜:田切 眞純美
竜神の使い:ラグワスレン・ オトゴンニャム
竜剣の舞:阿部裕恵


中川さんの春日野すがる乙女が雅やかな舞で率い、花を両手に持ちながら着物風の衣装の靡も含め天女を思わす軽やかさ、儚さに見入りました。
一方で岩足と結ばれぬ運命の嘆きや竜神への不安感は人間味を増した表現で募らせ、時に生々しい感情の曝け出しに
押し込んでいた心の内側に潜む悲しみの塊がいかに大きかったか、その反動が強まっていたかと推察いたします。

水井さんはこぶしの花を持ち春日野すがる乙女へと近づく憧憬の眼差しやすっと伸びた踊り方からも、会いたい欲望が沸いて止まらぬ様子が伝わり
嘗ては妹同然に可愛がっていた存在から手の届かぬ人となってしまう、逆らえぬ宿命を静かに悲しんでいるようにも見て取れました。
水井さんは決して手脚がいたく長い方ではないと思うものの抜けるように柔らかく伸びた手脚が雄弁に訴えかけ
つい目で追ってしまう不思議な魅力の持ち主でいらっしゃるとこの度も確認です。

田切さんの黒竜は黒い総タイツな衣装が身体の線を魅せ、長身から繰り出す鋭いエネルギーにびっくり。
春日野すがる乙女や竜神に対する執念深さの押しの強さも物語を力強く突き動かしていました。

日本を舞台にした飛鳥時代の物語をいかにして全幕バレエとして成立させるか演出も気になっておりましたが
春日野すがる乙女が岩足とは微笑ましく、竜神とは激しい怒りや不穏さを帯びたパ・ド・ドゥもあり、中盤には竜神や黒竜の嫉妬も挿入。
儀式での厳かな舞もあり、バレエの要素を上手く組み込んでの工夫をあちこちに含ませていた印象です。
着物とモダンな趣の合体型衣装にも着目し、胸元の形は和風、ビーズらしき装飾をふんだんに使いスカートはふわっとソフトな素材といった組み合わせ次第で
和洋折衷な面白い味わいのあるデザインに見え、艶やかな数々の衣装観察も楽しみの1つでした。

演出の目玉でもある映像は、古の都の世界へと吸い込まれ予想以上に鮮明。これまでに観た映像付きの作品によっては
ミハイロフスキー・バレエ『パリの炎』のように、宮殿へと攻め寄り門を無理矢理開けて突入する重要局地な場面が
映像で済まされて肩透かしを食らった気分となった経験もあり、物語の進行を映像で容易に賄ってしまう手法に走らぬか心配も抱いておりましたが
あくまで背景を映すことに集中していたためか気にならず。それどころか堅固な建造物から
竜や空模様をも鮮やかに映し出し、時空の旅人な心持ちとなる効果までもをもたらしていました。
冒頭で映されていたのは吉野山の山並みか、上空から見て描いたような絵図が登場。
(解説には生駒山について触れていて、違っていたら失礼。吉野山へ行ったときに目にした、金峯山寺が描かれた地図と背景がよく似ていたのです)

牧さんが振り付け1957年に初演した、飛鳥時代の日本を舞台にした作品を改訂を重ね、更には先端技術を用いて一層スケールのある作品へと変貌させ上演に漕ぎ着けた
絶えず新しい感覚を持ち続けた牧さんの情熱に手を合わせたい思いに駆られました。
上演前には牧さんの追悼映像が上演。これまでの軌跡を辿っていくと日本のバレエ創成期からのご活躍、日本バレエ界底上げへの奔走
海外の一流の芸術家達との繋がりを生かしての日本のダンサー達のレベルを高める作品の取り入れまで、功績は計り知れません。
11月公演のダンス・ヴァンドゥ Danse Vingt-Deux ~牧阿佐美の世界~も楽しみにしております。



後日、追悼文集『牧阿佐美』を購入。
https://www.ambt.jp/https-www.ambt.jp-2022-09-08-追悼文集「牧-阿佐美」100名の執筆者が綴る牧阿佐美の思い出-限定300部-販売のお知らせ/

牧さんの教えや逸話を100名が執筆され、まずは山本隆之さん、清水洋子さん、吉田都さん、米沢唯さんらの文を拝読。
牧さんがお若い頃も年齢を重ね新国立劇場舞踊芸術監督就任後も、張り巡らせたアンテナと国境なき繋がりを駆使してのレパートリー拡充や
例えば視線の向け方のコツをさらっと、されど結果として見違える或いは踊り手が腑に落ちる指導をなさってきた等功績は計り知れず。
幅広い世代に慕われた牧さんについてどんなお話が飛び出すか、読み進めが楽しみでなりません。購入して良かったと思える文集です。

山本さんが紹介された、牧先生の肝が据わり過ぎな人柄を偲ばせる大胆な逸話には失礼ながら思わず笑ってしまいました。



帰り、まずは奈良の日本酒風の森で乾杯。



おばんざい盛り合わせ。もしや2人で分けて丁度良い量かもしれませんが、胃袋の大きな管理人は全種美味しくいただき完食いたしました。
色が鮮やかな食器の模様も目に飛び込み、食べ終えた後は料理で隠れていた中央部分もじっくり観察。何処か『飛鳥』の美術に通じる色彩美を思わせます。



鴨つくね。香ばしいふわっとした焼き上がりです。


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