2022年3月9日水曜日

両家の和解がもたらす救いと重み   NBAバレエ団『ロミオとジュリエット』3月6日(日)





3月6日(日)、NBAバレエ団『ロミオとジュリエット』を観て参りました。マーティン・フリードマン版は5年ぶりの鑑賞で
プロコフィエフ音楽の全幕作品が揃う今春の関東のバレエ界。春のプロコフィエフ祭り第一弾です。
https://www.nbaballet.org/official/romeo_and_juliet/


ジュリエット:小野絢子
ロミオ:刑部星矢
マキューシオ:大森康正
ベンヴォーリオ:新井悠汰
ティボルト:三船元維
キャピュレット公:高岸直樹
キャピュレット夫人:関口祐美
モンタギュー公:佐藤崇有貴
モンタギュー夫人:吉川風音
ジュリエットの乳母:宗遼香
パリス:本岡直也


急遽の代役登板、新国立劇場より招かれた小野さんのジュリエットはスター性は頭一つ飛び抜けていながら
NBAダンサー達とのやりとりがとても自然で作品、そしてカンパニーにも溶け込んでいらした印象。
登場時は活発でドレスも思い切り放り投げてしまう、慣例に縛られてなさそうな意思の強い少女っぷりを体現し
きっと静かな読書よりも森を駆け回るほうが好きだったのであろうと想像ができ、乳母はこのお転婆な令嬢に長いこと手を焼いていたに違いありません笑。
マイムがテンポ良く進む箇所も無駄なく且つ生き生きとリードされ、舞踏会でロミオとの別れのときに
からかうマキューシオ達から乳母が素早く名前?を聞き取り、ジュリエットに伝えたときの
名前を反芻するように噛み締めたかと思えばはっとする様子を恋の熱が一気に上昇する乙女心を表現。上階席から観ていてもときめきの1粒1粒が伝わるひと幕でした。

驚きを覚えたのはロミオの刑部さんとの相性の良さで初顔合わせとは思えず、若いカップルの甘酸っぱさや純粋な恋を
花々が咲く庭を眺めるバルコニーにてお互いを優しく吸い寄せるようなパートナーシップで描画。
序盤にてロミオが直立の格好でジュリエットをリフトさせた状態における両腕を大らかに広げていくジュリエットが、まさに恋の蕾を開花させるような喜びに溢れ
派手でもなければ疾走感がまだあるわけでもない、この直立リフトのポーズだけでも心にじわっと響き昇華していったのでした。
舞踏会での、シニヨン全体を覆う黄金色の髪飾りやピンク色を帯びた衣装もそれはそれはお似合いで、絵本から出てきたようなヒロインでございました。

3幕で繰り広げる父親であるキャピュレット公との火花の散らし合い対立も緊迫感が充満し、上背に加え威厳と熱さの迫力に身も縮みそうな
高岸さんキャピュレット公にも刃向かう、伝統や慣習に背こうとするジュリエットの勇ましいことよ。
2人が目を目を交わす行為1つで、静かに怒りを燃やすジュリエットと、閻魔大王もたじろぐであろう
ギロリとしたキャピュレット公の視線に生じる化学反応には誰も寄せ付けぬ境界線を張っていたかと思えたほどです。
小野さんは驚きの客演でしたが、あどけない少女から禁断の恋をして死へと進むジュリエットを鮮やかな凄みを宿して踊られ
何より、NBAの皆さんとの共演を心から楽しんでいらっしゃる印象でした。

静かな怖さといえば、本岡さんのパリス。一見おっとり穏やかそうなお坊っちゃまな風貌でキャピュレット公とは舞踏会の最中に
後方でにこやかにお酒を酌み交わす仲であるほど既に良き関係性を築き、決して傲慢そうな人物ではなさそうな印象。
しかしジュリエットとの婚約が破棄に向かいつつある3幕では平静を装いながらも冷たい怒りや戸惑いを募らせ、触れると指先に冷静が走りそうな怖さを表出。
よくよく考えてみれば、騒動に巻き込まれ婚約は取り消しになり婚約者は亡くなり、そして最後は墓場で刺殺されてしまうパリスの運命にも悲しみを寄せるしかありません。
関口さんのキャピュレット夫人の艶やかな立ち居振る舞いや狂おしい嘆きっぷり、
宗さんの愛情深くも終盤には両親の言うとおりにするよう苦し紛れにジュリエットに促す乳母も心を持っていかれ
からかってくるロミオ達に団扇のような物を手に追いかけお仕置きする箇所は思わず笑いが毀れてしまいました。
ロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオの仲良しトリオもバランスが取れていて二重丸。
純情で誰からも愛されていそうな刑部さんロミオ、頭も身体もキレが俊敏そうな大森さんマキューシオに、
中和剤な存在されど要所でのさりげないフォローや橋渡しが毎度楽しい新井さんベンヴォーリオの冴え渡る踊りも
怖いもの知らずな若者達らしいスピード感のある流れを作り出し、堪能いたしました。

街の賑わいも忘れられず、ジプシーの浅井さん岩田さんコンビはいつも何かしら笑わせてくださる安心感とワクワク感を与えてくださり、集団を力強く牽引。
色が濃いめのカラフルな衣装で整えられた全体の配色にも負けぬ賑やかなお祭りらしい空気感が全員から放出され
だからこそ舞踏会の厳粛やバルコニーでの澄み切った恋の美しさが引き立ち、場面ごとの色味の大変化もどっぷり満喫できました。

1幕の争いの場で、男性陣の剣術の力強さや斬り込むスピードは申し分ありませんでしたが、それよりも今回いたく目に焼き付いたのは
私の見間違いでなければ犠牲者の中に女性も含まれていたこと。気づいたときには倒れ込んでいたため争いに参加していたか否か
詳細が把握できずであったのは心残りですが、争いの中での街の女性の死は他の版では目にしたことがない演出と記憶。
直接は関わっていなくても巻き込まれて命を落としたと思うと、現在のウクライナ情勢の報道が脳裏を過ぎり、胸に詰まるものがありました。
最後はロミオとジュリエットが身体を重ねて倒れて息を引き取った墓場にキャピュレット家、モンダギュー家の両家が訪れ、
キャピュレット公とモンタギュー公が握手を交わして和解。これまでの諍い、過ちを2人とも心から悔いるように手を握り締め、ほんの少し救われる幕切れでした。
ドネツク生まれのプロコフィエフの目には現在の故郷がどう映るか、8年前以上に悲惨な状況に胸を痛めているのは想像に難くありません。
8年前に読んだ書籍『プロコフィエフその作品と生涯』によれば、生まれはドネツクのソンツォフカ村で新しい農業技術が導入された拓けた村であり
果樹園や畑に恵まれた豊かな地域だったとのこと。故郷の風景を記した文中には
夜半には、きらきら瞬く星くずをちりばめられた黒いビロードの天空が、とあり
ロミジュリバルコニーやシンデレラの星の精達が導く場を彷彿させる美しい景色が目に浮かぶ村です。

舞踏会での古典交響曲の部分や大概は2幕冒頭で流れる、変更がなければ大阪の長堀鶴見緑地線の発車メロディーに似た歯切れ良い曲のカットは
少々物寂しい気もしておりますが(記憶違いならば失礼)、ジプシーや街の人々のパワフルな持ち味の発揮はNBAならではでしょう。
大掛かりな装置は控えめではあれど、下から覗き上げるような視覚効果をもたらす広場の背景や
深みのある赤茶色を基調としたキャピュレット家の舞踏会の美術も気に入っております。フリードマン版、また観たい演出です。
開演前の名物⁈久保監督の挨拶は今回は地元談義。池袋愛が伝わる楽しいプレトークで気持ちを解してくださいました。
次回池袋でのNBA公演鑑賞時には、公演事務局からのメールにも掲載されていた
ブリリアすぐ斜め向かいの「そば うどん ならや」も訪れたいと思っております。




帰りは池袋駅すぐそばの池袋ワイン倶楽部へ。まずは甘めなランブルスコのロゼワインで乾杯。



炭火焼のお肉、ぎゅっと味が詰まり美味しうございます。



おつまみサイズも用意されたピザ、たっぷりチーズにアンチョビの塩気、薄くもふわりとした生地で2杯目の赤ワインが進みます。並々注いでくださいます。
土日とも1人赤ワイン宴を行った週末でございました。

2 件のコメント:

aruyaranaiyara さんのコメント...

ロミジュリにワインですか、いやはや贅沢の極みですね。
小野さんにフロコフィエフの音楽は相性が良いと思います、観たかった!
レポートご馳走様でした。

管理人 さんのコメント...

aruyaranaiyara様

こんばんは。コメントお寄せいただきありがとうございます。
はい、ロミジュリの後は赤ワインが飲みたくなってしまいます。
NBAロミジュリ舞踏会の後方の長テーブルには美味しそうなお肉料理や果物も並んでいて、観察も楽しんでおりました。

小野さんの益々磨き上げられた、ドラマを語るような踊りとプロコフィエフの音楽、とてもよく合っていましたね。
新国で採用しているマクミラン版と全く違う振付でのジュリエットを観る機会に恵まれ、幸運でした!