2022年3月11日金曜日

3度目の正直でようやく開催   東京シティ・バレエ団トリプル・ビル2022 3月10日(木)




3月10日(木)、東京シティ・バレエ団トリプル・ビル2022を観て参りました。2度の延期を経ての上演に漕ぎ着け
日程も場所も変更が生じ当初は休日2日間の予定が平日1日開催となりましたが、ようやく披露の日が訪れ、胸を撫で下ろしております。
https://tokyocityballet.com/triplebill2022/


『火の鳥』
音楽:ストラヴィンスキー
振付:山本康介
映像デザイン:笹口悦民

火の鳥:中森理恵
イワン:濱本泰然
カッチェイ:内村和真

振付はクラシックが基盤ですが演出が予想以上に斬新。冒頭から背景にて映像が流れ、鬱蒼とした森の中を旅する心持ちとなりました。
工場のような建物が気にかかり、だいぶ近代寄りの設定と捉えております。

中森さんの火の鳥は硬質できりっとした踊りでストラヴィンスキーの難解に絡む音楽を巧みに表現され、羽ばたく腕使いは指先に至るまで細やかに躍動。
技術達者な踊り手の印象があるだけに出番数の少なさが惜しまれ、欲を言えばカッチェイ達の急展開な曲調に合わせて混沌とした中での周囲を引っ張り上げるような踊りの披露や
フィナーレでもご登場願いたかったものの、朱色に金色や黄色の羽が大きく彩られて煌々とした、まさに燃え盛る炎の如き衣装の着こなしも違和感なし。
出番は短時間であっても、孤高に輝く火の鳥の飛翔をくっきりとした線で描き出していらっしゃいました。

イワンの濱本さんは、薄い青に銀色の装飾の付いたアイドル風の衣装に度肝を抜かれながらも(一瞬、東京文化会館ではなく横浜アリーナに身を置いていた気分に)
火の鳥におっかなびっくりしつつも興味を惹かれて行くイワンを悠然と踊られ、王女の清田さんは可愛らしさの中に女王然とした貫禄もあり
カッチェイの奇襲からイワンと逃れるときの、怯えるだけでなく正義のヒロインな強気の表情も魅力に映りました。

先述の通り斬新な要素が色濃く、中でも衣装はユニークなデザイン大集合。イワンの薄い青のスーツに始まり、
王女や侍女は南国リゾート風な白いワンピースで、これまでに観てきた『火の鳥』の印象を覆されました。
それから和の趣も取り入れられ、カッチェイの魔法が解けると皆で羽織のようなものを上から着用して行進し、再生の象徴なのかもしれません。
イワンがカッチェイ退治のときには日本刀らしき刀を振るっていましたが、意味付けの理解には至らず申し訳ございません。
また前半の照明が明るめで白っぽい光が照らされ、りんごの木はあれど赤ではなく青りんごと思われる色味で
民話の絵本でもフォーキン版やそれを踏襲した演出における全体が赤系で埋め尽くされた舞台とは大違いで、珍しい演出を目にした思いでおります。

『火の鳥』の音楽はたいそう好きでこの曲聴きたさに私にしては珍しく 演奏会にもプロアマ問わず複数回通っておりました。
ストラヴィンスキーの子孫マリウス・ストラヴィスンキーが指揮するロシア国立交響楽団も聴きに行きましたが
最も印象深かったのは2018年3月半ばに来日し、季節外れな降雪の中で足を運んだトゥールーズキャピトル国立管弦楽団による演奏で、指揮者はソヒエフさん。
指揮者に注目することは少ないのですが、強弱や抑揚の出し方に品がありつつもパワーがぐっと舞い上がるような演奏に聴き惚れ
また来日して指揮していただけたらと願っておりました。しかしウクライナ侵攻の影響が及んで
ボリショイとトゥールーズ両方のポストを退くとの報道を読み、残念でなりません。
来日公演時はまさか4年後、パンデミックのみならずこんな事態になっているとは想像もしておりませんでした。今後の活動が気がかりです。



『Octet』
音楽:メンデルスゾーン  弦楽八重奏曲  変ホ長調  Op.20
振付:ウヴェ・ショルツ

清水愛恵
濱本泰然
斎藤ジュン
福田建太

シティお得意演目の1本で、かれこれ鑑賞4回目。これまで主軸を務めてこられた中森さんや平田さん、佐合さんらが不在で新しい顔ぶれが揃っていた気がいたします。
美しく且つ限界まで伸ばすポーズの連鎖であっても盤石な展開であったこれまでに比較すると僅かにひやっとする箇所や粗もあったかもしれませんが
ショルツ作品を踊りこなすシティは特にこれからも観て行きたいと思わせる、音楽に身体を乗せて自在に操る踊りの数々は観ていて爽快。
アダージオ部分はすっかり板に付いている清水さんで曲の哀楽を益々艶めかしく体現され、濱本さんとの物哀しくも流れるようなパートナーシップにもうっとりです。
また初挑戦?の斎藤さんの元々の柔らかほんわかした持ち味にピシッと締まりある魅力も加わり、黄色集団を頼もしく率いていた点も好印象でした。



『WIND GAMES』
音楽:チャイコフスキー   ヴァイオリン協奏曲   ニ長調  Op.35
振付:パトリック・ド・バナ

植田穂乃香
キム・セジョン
吉留諒
   
平田沙織  名越真夕  馬場彩  朴智善  折原由奈  石塚あずさ
石井悠和  岡田晃明  土橋冬夢  渡部一人

大変困難であろうこの状況下において海外振付家による新作初演がやっと実現。バナ作品を生で観るのは初でございます。
チャイコフスキーの有名曲であるヴァイオリン協奏曲と舞踊がどう融合する か楽しみにしておりましたが
振付も衣装もクラシックとコンテンポラリーが混ざり合う面白い溶け合い方。黒ベースのタンクトップと長いパンツでカチッと決めた女性もいれば
ロマンティックチュチュを着けた女性が衣装からは想像がつかぬ激しい動きで次々と風を吹かせて疾走するように踊る場面もあり。
主役を張られた植田さんが1人濃いピンクのロマンティックチュチュで狂いなくスピード感たっぷりに
時にはヴァイオリンソロでの伸びのある演奏と身体を絡ませながら機敏に反応して踊る姿が鮮烈でした。

そして今回1番の話題でしょう、三浦文彰さんのヴァイオリン演奏との共演。生での演奏は初鑑賞ですが、何かのテレビ番組にて
ストラディバリウスとそれに近づけた楽器の音の聴き比べクイズに出演されたお姿を目にしており私でも存じているほどですから
プロフィールに目を通し、世界規模でのご活躍に仰け反りそうになってしまいました。
我が身体と違ってまだまだ耳は肥えておりませんため演奏の感想まではあれこれ申せませんが、三浦さんの演奏でシティのダンサー達が喜び溢れる反応を見せながら踊る舞台に胸躍り
今回の音楽の宴な3本構成を締め括るに相応しい共演でございました。そして来日が叶ったバナさんがいたく嬉しそうで
リモート指導を経てようやく本番に辿り着けた歓喜をずっと表していらっしゃいました。

この協奏曲も以前から好んでおりましたが、きっかけは映画『オーケストラ!』。(周囲でご覧になった方がいないため、あまり流行らなかったのかもしれません)
仕事を失った嘗てのボリショイ交響楽団の名指揮者がメンバーを集めて演奏会を再び開くまでをモスクワとパリを舞台に描いた笑いもたっぷりな痛快映画で
いつかモスクワでこの曲を聴いてみたいと夢見たものですが、12年後こうにも混乱真っ只中な情勢になるとは思いもいたしませんでした。

公演概要を知ったときから好みな音楽構成に期待を膨らませ、3度目の正直でやっと実現でき安堵。
残念ながら今回は上演できなかったバランシン振付『アレグロ・ブリランテ』もいつの日かの披露を心待ちにしております。




終演後は食事処も閉店してしまうため、また開演まで余裕ある時間を取れず、近場最優先で検討したところ
駅は何度も利用していながら人生初、上野駅構内の店舗にて食事。たいめいけんに参りました。
600円以上のメニューを注文すると50円でボルシチが追加できるお得感なメニューがあり、注文。
50円とは思えず、具もよく入っていて満足。好物の1つです。これまでならば好物を美味しく味わう喜びばかりが募っておりましたが
ルーツである国の現在の悲惨な状況を思うと、また今回のストラヴィンスキー、チャイコフスキーの使用曲を始め元々ロシア音楽やバレエ、
絵画や文学、建築そして料理といったロシア文化全般は昔から好み関心を抱き続けてはいても
一部の政治主導者達の暴挙には理解に苦しみ、悲しみや疑問ばかりが沸いてきます。



お店の名物オムライス。粗のない綺麗な卵がしっかりと包んでいます。 エビスさんが描かれたビールで乾杯。
次回から、上野にて平日18時半開演のときはエキュートで食事処探しをする予定でございます。



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