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2023年7月9日日曜日
踊り継がれる冒険記 牧阿佐美バレヱ団『三銃士』7月1日(土)
7月1日(土)、牧阿佐美バレヱ団『三銃士』を観て参りました。1993年のバレヱ団初演から今年で30年を迎えます。
https://www.ambt.jp/pf-sanjushi2023/
ダイジェスト映像。歯切れ良い音楽と冒険心に満ちた作風が短い映像であっても伝わってきます。
ダルタニヤン:水井駿介
コンスタンス:阿部裕恵
ミレディ:青山季可
アンヌ王妃:三宅里奈
ポルトス:大川航矢
アトス:清瀧千晴
アラミス:正木龍之介
バッキンガム公爵:石田亮一
ロシュフォール:塚田渉
リシュリュー枢機卿:保坂アントン慶
国王ルイ13世:中島哲也
ダルタニヤンの水井さんは、冒頭はまだまだ純朴な青年ながら踊り方は実に瞬発力がある上に無駄が力みがなく
ロバ(2人体制と思わしき人間が被り物して歩く)を連れての登場はロバとのやりとりが軽快で、歩調を合わせてもらえず素直でない相棒ロバに困り果てる部分も含め
客席にクスリとした笑みを広げ、共に冒険に旅立つ気分にさせてくださいました。
これまでは水井さんの底抜けに明るい剽軽な主役級の役柄は観たことがなく、綺麗な踊り方の印象が先行しておりましたが
持ち味を生かし、頭ひとつ抜けたしなやかさで魅せつつ俊敏に駆け回る 広場での争いで活躍を示し、エンジン全開な楽しさに満ちていました。
コンスタンスとの恋の芽生えはほんわか微笑ましく、何時の間にか彼女の虜になってしまい仲間からの呼びかけにも気づかぬ夢中な様子も昂りが自然と伝わり
ミレディを騙しながら首飾り奪還作戦を着々と進めるパ・ド・ドゥの黒々とした怪しさも、展開は分かっていてもスリル満点な面白味を与えてくださいました。
アトスの清瀧さんは賑やか個性軍団をきっちり纏め上げるリーダーらしいシャキッとした踊りで気持ち良く、
アラミスの正木さんは優雅をも香らす雰囲気で、人物紹介にある惚れっぽさもあれど笑、
ダルタニヤンの恋愛の成り行きを見守る様子がとても優しく、誰かの恋となれば手助けせずにいられぬ性分なのでしょう。
鋭い剣の音が鳴り響く場面が多いながら、銃士の身内の中からふと花がふわりと零れてくる不思議な魅力が備わっていました。
この作品の初鑑賞時の2017年3月公演から訳あって毎度注目しているポルトス役に今回は大川さんが初挑戦です。
持ち味からしてぴったりであろうと想像しておりましたがまさに嵌り役で、全身を大きく使っての立ち回りが余裕綽々の身のこなしで
決して大柄ではなくても豪快なテクニックが炸裂し舞台姿が大きい。しかも重々しさは皆無で、人を飛び越えたり階段を用いたスピード移動もお手の物。
王宮におけるダルタニヤンの立ち振る舞い指導係も頼もしく、厳しくも愛と情熱が詰まったやりとりが典雅な宮廷の空気感と一線を画するものがあり
立ち位置が端であってもつい目がいってしまい笑いも止まらない光景でした。
近年『アルルの女』や『ア・ビアント』パ・ド・ドゥ等にて味がしっとりと出てきた青山さんのミレディも注目の役どころで、
スターダンサーズ・バレエ団に移籍された中川郁さんがこれまで踊ってこられた、ぎょっとするような毒てんこ盛り悪女(褒め言葉)とはまた違った
チラリと黒い光が覗くスパイ。ポーズの運びは端正さを保ちつつもふとした瞬間にゾクッとする闇部分が見え、
青山さんの良さが更に拡張された造形であったと捉えております。バッキンガム公爵とのバトルは何だか心底楽しんでいそうでつい応援してしまい
最後ダルタニヤンの作戦に屈してしまったときにはテーブルに両手を置いて俯き悲しむ姿が可哀想に思えてしまう、憎めぬキャラクターです。
首飾りの扱いは少々難度が高そうに感じる箇所はありながらも、唐突の足蹴りや、首飾りをバッキンガム公爵から奪ったときの高らかな喜びようといい
観ていて痛快な気持ちになってしまったのは、内側に抱えた感情が沸々と踊りに表れ、単なる悪人とは呼ばせぬ誇り高さも持ち合わせていたからこそでしょう。
一見嫋やかそうでも実はしたたかで怖いもの知らずなアンヌ王妃の三宅さんは華麗な雰囲気を纏った近寄り難い王妃様。
その分コンスタンスの阿部さんがおっとりとしたまろやかさが引き立ち、身分は違えど互いを慕い合っている関係性がはっきりと映って見えました。
命の危険をかえりみずに禁断の恋に走る王妃を侍女の立場からコンスタンスは正直どう感じていたか聞いてみたいものですが
阿部さんコンスタンスの健気で大胆な行動が胸を打ち続け、声援感情に駆られたのは明らか。
ダルタニヤンと恋に落ちたパ・ド・ドゥでの愛くるしさや、手紙を持ってのポーズの取り方も
どの場においてもくっきり美しく、奔走が実を結んで良かったと一安心いたしました。
主役、三銃士ら各人物の位置付け配役が適材適所である上に、作品の最大の特色でもあろう広場での銃士達と枢機卿の護衛隊達の争いが
痛快な楽しさを後押ししていた点も好印象。ちょうど奇しくも公演と同時期に上野では英国ロイヤル・バレエ団が『ロミオとジュリエット』を上演中で
舞台設定は異なっても抗争の場面が繰り広げられますが、完全悲劇なロミジュリに対して『三銃士』はあくまで喜劇で、
運動会の徒競走で流れそうな急速テンポな曲にのりながら敵同士で剣を激しく交えていても
高速剣術漫才と思わす絶妙なタイミングでの素早い倒れ込みや身を起こしての復活、
また階段やテーブル、椅子をフルに生かしての大胆な立ち回りの中でも軽快な笑いが不可欠。しかも複数人数が踊りながらスピーディーに大移動しつつ行いますから
舞台空間の使い方が全員巧みでないと大事故にも繋がりかねないリスクもある中終始わくわくとさせる展開でお見事。
2幕では倒れてきた樽の中から捕獲されたロシュフォールが出てきたり、ダルタニヤンがドアを突き破って前転してきたりと、
下手すれば往年のコント番組状態になりそうな演出が散りばめられたベタな仕掛けかもしれません。
しかし三銃士達の勢揃いテーマやダルタニヤンとコンスタンス、アンヌ王妃とバッキンガム公爵、ダルタニヤンとミレディといった
物語を動かして行く要所のパ・ド・ドゥの振付の骨格がしっかりしている点や、倒れた隊員を使用人が箒で掃きながら袖へと転がす等出演者も絡めた装置転換も工夫に富んでいて
冗長なところが見当たらず。幕開き前から幕全体に登場するフランスとイングランドの大地図(航海図?)は冒険心や旅情を誘い、
ヴェルディの音楽の取り入れ方も秀逸でそれぞれの場面にぴたりと合致。三銃士達のテーマ曲がまたしても『インディー・ジョーンズ』を彷彿させ、耳に残る旋律でございましたが
牧阿佐美バレヱ団で最も好きな作品であるとこの度も再確認いたしました。またの再演を心よりお待ちしております。
尚、毎度牧バレヱのプログラムが無料である上にオールカラー。写真付きキャラクター紹介や過去の舞台写真付きのあらすじ、
音楽や原作の解説まで非常に詳しい内容で、休憩中に小さなお子さんが親御さんから絵本の読み聞かせを楽しんでいるかのように各キャラクターの魅力に見入っている光景や
解説文を懸命に読む大人まで、とても読み応えある構成となっています。
私も誠に重宝しており帰宅してからも読み返す回数が多く、何重にも満喫している気がいたします。
帰りは日頃からお世話になっている、牧バレヱ古株の鑑賞者の方とまずは爽やかビールで乾杯。7月始まったばかりであってももう夏本番な気候でございます。
お願いが、と幕間に恐る恐る口を開かれ、何事かと思いきや、六角精児の呑み鉄本線・日本旅の番組を最近視聴して
どうしてもソーセージが食べたくなり、時間が許せば一緒に行ってもらえないか、とのことでした。はい、喜んで!!!
念願ソーセージの盛り合わせ。数日前から召し上がりたかったとのこと。喜びを共有できて私も幸福でございます。
ダルタニアンと三銃士なおつまみ。どれが誰の剣であろうかと位置や色から想像巡らすと楽しい。
パテとワイン。ワインが進みます。
ワインとロック。ポルトスには及ばずとも、我々も酒呑みである。
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