2023年7月17日月曜日

3本より多い祝祭企画   東京シティ・バレエ団創立55周年記念公演「トリプル・ビル」7月15日(土)




7月15日(土)、東京シティ・バレエ団創立55周年記念公演「トリプル・ビル」を観て参りました。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000887.html

https://tokyocityballet.com/triplebill55th/


『Allegro Brillante』
音楽:P.I.チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第3番」
振付:ジョージ・バランシン
振付指導:ベン・ヒューズ
バレエミストレス:信田洋子
衣裳制作:Costumiere


今年3月のバレエ団初演から7ヶ月でのスピード再演。その成果は大きく、全体における風を切るような勢いとぴたりと止まる箇所の対比がより強まっていた印象です。
キャストは変わって飯塚さんは軽やかな中でスパスパと決まるポーズが爽快な一方でお花畑を駆け抜けるような可愛らしさもあり
吉留さんは男性アンサンブル率いる様子が想像以上にパワーも持ち合わせ
コロコロと転がるピアノの音の粒と一体化したアンサンブルにおける急速なフォーメーション転換も見事。
この日も暑さに悩まされましたが、幕開けのパステル調の水色やシルバーホワイト等の冷涼感ある色味の衣装で突っ走る作風が避暑なひとときを与えてもらえた気分。
翌日は40度近い気温に達する予報が出ており、ご覧になる方はまずはブリランテでお涼みください。


日韓バレエ文化交流事業【日本初演】『Quartet of the Soul』
音楽:アストル・ピアソラ
振付:パク・スルギ(韓国国立バレエ団プリンシパル・ダンサー)
出演:韓国国立バレエ団ダンサー

ピアソラの音楽にのせたコンテンポラリーで、一度観てみたいと思っていた韓国国立バレエ、と期待に胸を膨らませて鑑賞すると
振付も技術レベルも予想遥かに上回り、舌を巻きました。幕が開くと4人それぞれが椅子に腰掛けているのはコンテンポラリーでもよくある光景と思ったも束の間、
全員が楽器を模したポーズ、踊り出しでまずそのしなやかさに驚嘆。ソロやパ・ド・ドゥ様々な形態が組み込まれていました。
照明演出もよく練られ、規則正しいタイミングで映し出されるときもあればふとした瞬間思いがけぬ場所からの照らしもあり、
不規則な面白さも含んだ光との相乗効果でスリルと美が連鎖。シャープに奏でる肢体にヒリリとした感覚が呼び起こされる4人でした。
韓国国立バレエでは振付家発掘活動にも力を注いでいるのかもしれませんが、外国公演でも堂々とお披露目できる作品が生み出されている状況には再度びっくりです。
韓国国立バレエのイメージとしてはグリゴローヴィヂ版作品をいくつも上演していて、
『白鳥の湖』と『くるみ割り人形』、『スパルタクス』はダンスマガジンでの写真で目にしておりますが
3年前には配信でグリゴローヴィヂ版『ラ・バヤデール』を視聴し、ボリショイに引けをとらない迫力、情感、プロポーション、技術にも驚かされ
来日公演が叶って欲しいと願っているところでございます。


<シティ・バレエ・セレクション>
『挽歌』
音楽:J.シベリウス「トゥオネラの白鳥」
振付:石田種生
バレエミストレス:長谷川祐子

黒い総タイツな女性のみで踊られ、静かにずっしりと後を引く余韻が残る作品。
終盤鎖のように繋がっては解かれる儀式のような展開や腕が秘めやかに語る艶っぽさも目に残りました。


『カルメン』よりパ・ド・ドゥ
音楽:G.ビゼー「カルメン」
振付:中島伸欣
衣裳:桜井久美

前奏曲やハバネラ等数曲組み合わせたパ・ド・ドゥ。元の全編は現代の日本の企業に舞台を置き換え、女性会社員と純朴なビル警備員との不穏な恋を描き、
確かエスカミーリオは有能なシステムエンジニア、の設定であった記憶あり。私もですが、システム系の企業に勤務経験のある方からしたら
実際に現場でこんな情事が発生したら困ったものですが(目撃しても衝撃のあまり総務部にも通報できないでしょう笑)あくまでバレエの世界。安心でございます。
カルメンの志賀さんは姿を見せずにホセを後方から立ったまま抱く序盤から摩る腕の魔力に襲われた心持ちとなる、奔放なヒロイン。
濱本さんはあとのベートーヴェンでも思ったがリフト職人で、志賀さんカルメンを高い位置から何回転もしながら降ろしていく過程も
ぶつ切り感なく、誘惑の渦に呑み込まれていく生真面目ホセにお似合い。
大胆な脚色に初演記事で仰天し、全幕で観たいと思いながらも先に抜粋で鑑賞する機会に恵まれた今回です。


『四季』より「春」
音楽:A.ヴィヴァルディ「四季」より春
振付:石井清子
バレエミストレス:吉沢真知子、草間華奈
衣裳:君野美恵子

打って変わって春のほんわかな森が出現。庄田さんと吉留さんが主軸で春の精として登場。
庄田さんはお花の妖精さんそのものな可憐な愛らしさ、吉留さんがピーターパン風で、ソリストの風の精、春の妖精達の群舞や子供も多数登場。
ただ子供のみの長々した場面はなく、あくまで団員と少し調和しながらの活躍にとどめたのは公演用としては好印象。
鳥さん達が頭飾りのデザインからかキョロちゃんに見えなくもなかったが笑、
羽ばたきながら移動したり踊るのは子供にとって難易度高い振付である旨は5歳でひよこをやった管理人からも申し上げておきます。


『ベートーヴェン 交響曲第7番』
音楽:L.V.ベートーヴェン「交響曲第7番」
振付:ウヴェ・ショルツ
バレエマスター(ゲスト):ジョヴァンニ・ディ・パルマ
バレエミストレス(ゲスト):木村規予香
バレエミストレス:山口智子、加藤浩子
衣裳協賛:チャコット株式会社

シティの十八番とも言える作品でしょう。第1楽章から第4楽章まで兼任者はいるものの
(キム・セジョンさんがほぼ全編出演なさっていたが、1人のダンサーにここまでの負担を今までかけていたかどうかやや疑問も)
相当な出演者人数を要するため大宇宙を思わせ、おかしな体勢でパートナーをリフトしながら登場してはすぐさま踊り出したりと男性パートも大忙し。
風変わりなリフトをも易々とこなすサポート力、大人数で息を合わせながらハイテクニックを披露する巧みさといい、全員に双方の力量が問われる作品とも思えます。
再演を重ねているだけあって全員の息がカチッと合い、三角隊形や斜めからの一斉突っ切りもパワーも増して胸躍りっぱなしな約45分でした。
作品には初登場、2楽章率いる大久保さんが暗闇から光が見えるかのように音楽をたっぷり使って描出。
ゆったりとした曲調のため勢い任せにできず、下手すれば冗長な印象も与えかねない場面であっても
身体全体で大らかに歌うように舞台空間を支配し、脚の差し出し方1つとっても艶かしさもが醸される美しさの連続に息をするのも忘れかけた私でございます。
実は数あるベートーヴェンの曲の中で最も好きな曲がこの第2楽章で、新国立劇場バレエ団の『ベートーヴェン・ソナタ』2007年初演時といいシティ55周年といい
重々しい響きから希望を見出すも哀感が漂う旋律部分に、虜になっているダンサー(しかも同じバレエ学校ご出身で同期⁈である)が配されたことに再度喜びを覚えます。
そういえば、この3連休の2日間は神戸の貞松・浜田バレエ団が『ベートーヴェン・ソナタ』を初演。細かい配役も気になるところです。

話を戻します。毎度思わずニンマリとしてしまう場の1つが、皆で輪になって舞台中央の円形の光を囲み佇む箇所。特に踊るわけでもないのだが
衣装デザインからしてもウルトラマンの隊員達を思い出してしまい、宇宙との交信に明け暮れる防衛団に見えて仕方ない場面です。

時間軸戻りますが、第1楽章での幕開けを空を突っ切るようにスケール大きく体現されていた佐合さん
小柄であっても踊り方が大きく、機敏でクリアな職人芸を見せてくださった松本さん、
盛り上がりがおさまらぬ所から更に壮大に押し上げ、全身で音楽をリードされていた清水さん、と主要パートの女性ダンサーのレベルの高さにもこの度も痺れた次第です。

そして特別フィナーレが用意され、オペラ『エフゲニー・オネーギン』のポロネーズにのせて総登場。
四季の妖精達が集合して赤い団扇を手に55の数字を作り、石井清子さんや安達監督始めバレエ団スタッフ陣から
今回の出演者も続々と舞台に現れ、再度眺めるとこの公演のどこがトリプル・ビルであろうかと疑問が沸くわけです笑。
シティの歴史から躍進の大きなきっかけとなった作品、交流のあるバレエ団からの招聘、と創立55周年記念に相応しいプログラムでした。

ゼロの節目ではなく5の節目ではそこまで盛大な祝宴公演はあまり見かけないかと思いきや(25周年は四半世紀の意味もあって何処も盛大に行う傾向があると感じますが)
5と5の並びは祝福感に満ちるのか。偶然にも翌日鑑賞した団体も創立55周年記念の舞台でございました。
この3連休私が住む関東を始め多くの方が生命を脅かす災害級の暑さに悩まされながらの生活であった中、
最高気温が30度に達しない、夜は肌寒く冷房不要な気候の地域へ出向き鑑賞して参りました。
それはまた後日。




帰り、住吉銀座商店街へ。オレンジ色に輝くスカイツリー。



ソウル市場へ。韓国国立バレエをよくぞ呼んでくださった、ありがとうございます。



マッコリ(どぶろく)と冷麺。ココアのようなまろやかな甘みのマッコリと、ワイルドな刺激多し冷麺とよく合います。


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