2023年3月29日水曜日

興奮作用注入の年度末  新国立劇場バレエ団 DANCE to the Future 2023  3月25日(土)〜26日(日)




※2023年3月29日をもって、当ブログは開設からちょうど10年を迎えました。
テレビ番組で例えるならば視聴率下降が止まらず打ち切りになってもおかしくないブログに日頃よりお越しいただき、誠にありがとうございます。
10年を振り返る華々しい計画もいたしましたが先月の二・二三事件の影響もまだございまして、来月どこかの機会に小規模にでも行いたいとは思っております。
20周年はもう気持ち大規模にできるか、それ以前に管理人の生存状況も分からずですのでそのときに考えます。
開設後の初回記事は新国立劇場バレエ団DANCE to the Future 2013で公演名で一目瞭然。奇しくも開設10年の今回と同じバレエ団、企画シリーズ公演です。
更には、(ここから大事です)最大のお目当ての出演者は10年前と今回とは異なれど、衣装の系統が全く同じではありませんか!!!
10年前につきましては、こちらの公演記録をご覧ください。
単なる偶然でしょうかこの節目なタイミングでの共通項。まあそれは良いとして、写真付の短文投稿全盛期において私自身と同様に余計な脂肪分多めの
時代錯誤なブログではございますが、今後とも皆様どうぞ宜しくお願い申し上げます。




新国立劇場バレエ団DANCE to the Future 2023を3回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/dtf/


※珍しく作品紹介映像も制作されました。




※千秋楽、福田紘也さんの退団公演。晴れやかに別れを告げる紘也さん、彼を立てる団員達に観客の喝采。とてもほっこりするカーテンコールでした。



福田圭吾さん振付Resonance





新国立劇場バレエ団 Choreographic Group 作品より

『Ray of light』
【振付】池田理沙子
【音楽】イルマ
【演奏(pf)】蛭崎あゆみ
【出演】五月女遥 池田理沙子


白い衣装の五月女さんと黒い衣装の池田さんが対比を浮かび上がらせながら描いていた作品。最初観たときは失礼ながらあまりピンと来ずでしたが
2回目に2階席から観たときに万華鏡のような優しい赤色を帯びた円形の照明の動きと同化した光景が視界に入り、
光との連動やピアノの音色との溶け合いがしっとりとした感触を覚える印象を残しました。



『echo』
【振付】福田紘也
【音楽】トム・ティクヴァ
【出演】小野寺雄 川口 藍 上中佑樹 横山柊子 渡邊拓朗 福田紘也

全員白い衣装で統一され、ゆったりしたシャツとパンツで涼やかでピュアな色彩が広がり
デュエットもあれば全員で一斉に円を描きながら放射状に散ったりと滑らかに紡がれて膨らんでいく展開から目が離せず。
横山さんと拓朗さんはダイナミックな趣きで魅せ、小野寺さんと上中さんだったか、
背中に乗せてくるっと回してからの流れもスムーズでボテッとならず、今更ながらお2人の体幹の強さもびっくりです。
川口さんのSFに登場する地球防衛団の女性隊員の如く近寄り難い美しさから繰り出す
四肢のしなやかな動きも益々魅せられ、年齢を重ねる毎に味わいが一層増していると感じます。
対角線に突き進んでくる紘也さんのソロを眺めているとまだまだ踊れる気がして退団は寂しく感じますが
新国立劇場の舞台に本番中のコーラ飲み干しや落語を取り入れたバレエを誕生させ、DTFの振付家の顔としての貢献度は非常に大きいと再確認。
また新作旧作問わず作品を上演して欲しいですし、バレエ団とのご縁は繋がったままでありますように。



『L'isle Joyeuse 喜びの島』
【振付】柴山紗帆
【音楽】クロード・ドビュッシー
【出演】赤井綾乃 徳永比奈子

赤井さんの無邪気に弾ける身体と徳永さんの冷静ぶりが嵌まり、仲良く戯れたりときには仲違いしたり、
起伏に富んだ行動と心理の描写も、ピアノの鍵盤上でビー玉の転がり落ちを彷彿させる急速な曲調とぴったり。
舞台を目一杯使い、カウントが実に取りづらそうな曲であっても次々と噴水のようにステップが刻まれていく光景に、
まずは振付者の柴山さんのセンスに天晴れでした。赤井さんは以前からコンテンポラリーでもスルリと自在に操る身体能力を披露されていましたが
徳永さんの何の前触れもなく突如ひっくり返ってはすぐさま起き上がって表情はクールなお姉様な様子のまま踊り続ける技術にも驚かされ
続編も観てみたくなった作品です。



『After the show』
【振付】福田圭吾
【音楽】ルイ・アームストロング 他
【出演】石山 蓮 福田圭吾

石山さんと圭吾さんは昨年板橋区でのDAIFUKUにおいてもデュエットを組まれましたが、瑞々しい石山さんと渋味が一層出てきた圭吾さんが更に好相性な揺らめきを披露。
黒いジャケットに黒パンツでシンプルな姿であってもクールビズ推進運動ポスター状態にはならず笑
2人揃って音楽の中を気持ち良さそうに遊泳しているかのように見せる舞踊センスがあるからこそでしょう。
途中からは平本正宏さんによるオリジナルの音楽が流れ、ゆったり快楽に身を任せるようなアームストロングの曲から一変。
不穏やひずみが生じ始め、世の中うまく行くこと思い通りになることの方が困難であるとのメッセージとも受け取れました。




『Resonance』
【振付】福田圭吾
【音楽】ミカエル・カールソン
【出演】渡邊峻郁 池田理沙子 柴山紗帆 五月女遥 宇賀大将 中島瑞生 奥田花純(25、26日) 上中佑樹


2019年と2016年であったか、圭吾さん振付の「beyond the limits of ...」と同様に音楽が脳内を延々再生。家でも度々聴いております。
良い意味で中毒症状になるほど耳に残る選曲で、ピアノの音色が網の目の如く絡み競い合っては突っ走る感のある曲調。ピアノを5台使って演奏される曲のようです。
衣装は女性が黒と一部にベージュが入ったボディに黒一色のチュチュ風スカート(ワイヤーが入っている平たい布?)、男性は黒く長いパンツに上半身は裸体(わお)。
暗がりに赤色の太陽を思わす照明が映されて1組ずつペアによる見せ場から始まり、
クラシックをベースに捻りも効かせた箇所や素早いリフトにすり抜けるようなパートナーリングも多数で
最初は池田さん宇賀さんが佇むシルエットで始まり、スパスパと駆け抜けていく2人が爽快。
その後は順番の記憶があやふやだが、奥田さん渡邊さんがダーク&アダルトな翳を纏い、そのペアから引き継いで五月女さんがパドブレで出てくると中島さんと組み、
柴山さんと上中さんが珍しい顔合わせながら抜群な呼吸の合い方で急速にポーズを切り替えながら踊り繋いでいく姿も目に残り
柴山さんのポーズやラインが崩れぬ安定性にしっかりと備わった基礎が再度見て取れました。
終盤は向かって左側に女性4人、右側に男性4人で(逆かも)一斉に機敏に踊り出し、畳み掛けの連鎖は鳥肌もの。
やがて音圧が弱まり、1ペアが残って小刻みな足運びで幕、であったかと記憶。

今回何が嬉しいかって、短き我が首を(私に会われたことがある方は頷くと思いますが本当に短い汗)麒麟並みに長くして待っていた渡邊さんの舞台姿をようやく拝見!
仰け反るほどに攻めセクシー且つ複雑な振りも吸い寄せられるように滑らかでシャープ、ただお1人にだけ当てられたソロでのご登場で
上手側から身体ごと斬り込むように出現。そして急遽の代役奥田さんとの翳りを帯びた色気の火花を交わすパ・ド・ドゥも刺激が充満し、
所謂ドラマティック・バレエでは全然ないはずがクラシックを捻り上げた緻密に盛り込まれた振付を盤石に踊りこなしつつ
危うさが香り立つ駆け引きが2人で出来てしまうとは、感激を超越し恐れ入るしかありませんでした。
復帰記念に久々に行います髪型観察。気合いの表れか耳の上部分がくっきり刈り上げで目元がよく見えるような前髪のまとめ方でただでさえ鋭い眼力が一層力強し。
更には背中や肩から腕にかけて身体つきが随分と逞しくなられ、バルコニー席から観ると
山脈と海辺の距離が近い、高低差が目に見える精巧な地形図を眺める気分でございました。

奥田さんと渡邊さんといえば、バレエ団公演ではそこまでペアを組まれたことがなく、
すぐさま浮かぶのは2021年6月に開催された井脇幸江さんリサイタルでの『サタネラ』グラン・パ・ド・ドゥ。
妖艶なお姉様と、健気に追いかける初心な青年といった趣きでこれはこれで何度緩んだか分からぬ微笑ましいパ・ド・ドゥだったわけですが
あれから約2年。急遽の組み合わせではあっても先述の通り余裕綽々と踊りこなす上にダークでアダルトな世界観を描出し、思いがけず鑑賞が叶い喜びに浸りました。
尚、当初の予定は廣田奈々さんで初日は踊られたようで、渡邊さんとの珍しい組み合わせだっただけに興味は尽きず。(写真レポートには掲載されています)
それにしても、2月の件から約1ヶ月。目も身体も、全身ギラついて燃え盛っていたとしか思えぬ渡邊さんの自信漲る、
しかも美しく逞しい方向へ肉体改造もなされたお姿も目にでき、即効性興奮作用が今も駆け巡ります。



3 in Passacaglia(招待作品)

【振付】遠藤康行
【音楽】ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
【出演】
米沢 唯 仲村 啓 渡邊拓朗(25日18:00)
小野絢子 石山 蓮 山田悠貴(25日13:00,26日)

過去に小池ミモザさん、柳本雅寛さん、遠藤さんご自本人が出演され踊られた作品とのことですが私は初見です。
プログラムの音楽欄には坂本龍一さんのお名前もあり、どの部分を手掛けられたかは私の耳では理解に至らず失礼。
前半に我が大の苦手な無音部分が多めであるのは想定範囲で、お腹が鳴らぬ対策していったのは大正解でしたが
ただ無音であっても米沢さん、小野さんが日替わりで女王として君臨しポーズを決めるまでの床を摩る音もが尊く感じたのは
お2人のスター性及び違った味の仕上がりであったからこそ。米沢さんは弾けるように伸びやか、小野さんは秘めた中で凛と立ち上がるような強さを思わせました。
米沢さん組の仲村さん、拓朗さんはやや身体を持て余してしまったか圧倒的女王についていくのに必死な様子が目立っていた気がいたしましたが、
踊り込めば精度がぐっと増しそうな予感。小野さん組は石山さん、山田さんともに絶対的女王に食らいつくどころか同志として密に調和する2人で
運命共同体なトライアングルを描画。石山さんは身体の動かし方が深々と自由自在、山田さんは吸い込むようにパワフルで
小野さんのスターぶりにも臆せぬ大胆さも持ち合わせた2人です。『夏の夜の夢』ではダブルキャストでパックを務める山山コンビ、楽しみでございます。
衣装がなかなか不思議なもので、女性はターコイズブルーのノースリーブ肩出しゆったりめのカットソーに紺色のベロア生地らしきショートパンツ。
男性は下手したら部屋着にも見えかねない、グレーの長袖長ズボン。着用者、限られてきそうなデザインです。

今回苦手な曲の使用予定等もあり、即日完売でもありましたので全日程鑑賞見合わせ或いは鑑賞するにしても1回行ければ良いかと考えておりました。
しかし初日観ずに帰宅していると買い足し推奨の連絡が続々。本当にその通りで、結局3回鑑賞。
圭吾さん、シャープで大人なシックな作品振付をありがとうございました。何より、今回は渡邊さんが予定通りにご出演。興奮作用が止まらぬ年度末になりました。
来期のDTFは新国立劇場バレエ団 Choreographic Group 作品の披露は無いようで残念。久々のナチョ・ドゥアト振付作品『ドゥエンデ』上演は喜ばしいが。
代わりに若手パ・ド・ドゥ集を上演するそうで、主役キャストの固定化が不安視される昨今、
また年明けせっかく競合他社とも手を取り合う行動への歩み出しがありましたから
こうなったら世界バレエフェスティバル並の長さでも、王道パ・ド・ドゥ何でも取り入れてプーニ、ドリゴ、ミンクス三昧でも歓迎でございます。
オープニングはマイヤベーアの戴冠式行進曲で出演者紹介もどうぞ。(それはいかんか)




※既にお読みになった方が大多数かと存じますが、小説家の恩田陸さんと渡邊さんの対談が実現。前編後編の2部構成で大変読み応えがあります。
中でもコンテンポラリーの踊り方の深淵まで迫ったお話が面白く、恩田さんの鑑賞眼の鋭さや渡邊さんの知性も掛け合いの膨らみから
益々一気に読み進めてしまう箇所でした。それから振付家のエピソードにて、トゥールーズ時代の『美女と野獣』についてを挙げていらっしゃいます。
これまで入団してすぐの頃の新国立劇場会報誌アトレやウェブメディアのスパイスイープラス、
ダンサーズウェブマガジン等いくつかの媒体でも語ってくださっているお話ですが
厳しく大変であったリハーサルについて毎回異なる表現で語られ、プレッシャーがあった、精神的に鍛えられた、根性が付いた、
確かダンサーズウェブマガジンであったかと思いますがどうしたら良いか戸惑い叫ぶように口語的な描写を載せた記事もあり。
そして今回は振付者であり監督であったベラルビさんをドSと表現!落ち込み続けた日々の様子も詳しく綴られています。
同じリハーサルについて語るにしても表現する言葉が多彩で、それが舞踊の幅にも表れていると想像いたします。

ベラルビさんといえば、2019年秋頃にNHKフランス語会話にて登場され、キャピトル・バレエ団を訪れていた
東京バレエ団の柄本弾さんを出迎え指導する姿が放送されましたが、過去の渡邊さんのインタビューを読んだ上で視聴すると
お茶の間用とは言えベラルビさんが別人のように優しく愛想が良く笑、若手であった渡邊さんの素質に惚れ込んでの厳しい指導であったのでしょうが
ご本人からすればさぞ辛い毎日であったであろうと察するばかりです涙。よくぞ耐えて乗り越え、頭が上がりません。
舞台映像はDVD化もされていて、歪んだ心がじわりじわりと滲み出て不気味な雰囲気を醸しながらも不思議と惹きつけられてしまう野獣でございます。
衣裳は前半はスーツのようなスタイリッシュな格好ですが後半は殆んど上半身裸で、大掛かりなバレエをここまで簡素な姿で主役が踊り続ける作品は
恐らくは他にそうないと思いますが、叫び声が聞こえそうなダイナミックな表現と研ぎ澄まされた集中力を持続させながら
自在に動く身体に圧倒され、身震いいたしました。恐らくは現在も購入可能かと思いますのでご興味持たれましたら是非ご覧ください。
『海賊』『死せる女王』とのベラルビ振付3本セットもまだ販売中かもしれません。
ダンソマニDVD紹介には写真も多数掲載されています。衝撃度、強しです。








休憩が2回



渡邊さんの舞台復活に乾杯!プログラム変更に伴いチケットを手放した方から買い取った土曜日昼のみの鑑賞予定が、結局夜そして翌日も鑑賞。
赤のスパークリングワインはメニューによればジラモンドという名称と思われ、
解説によればヴェネト州やその周辺でしか栽培されていない品種マルツェミーノで作られた唯一無二のワインとのこと。
唯一無二と言えば、渡邊さんが愛する拓朗さんと中島瑞生さんに振り付けながらも
観客前での披露が中止になってしまった作品のテーマのはず。お蔵入りは厳禁です涙。御披露目の機会が訪れますように!!



2月は4回訪れたもののひたすら慰めてもらってばかりであったこのお店、
今回は外は暗雲であっても心には陽光が差し込む中での1杯。
年度末この公演で締め括れて幸せこの上なく、黒ビールが一段と美味しい千秋楽でした。

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