2022年8月14日日曜日

3年越しの夢も叶ったバレエ年代記を捲る構成  バレエ・アステラス2022 8月6日(土)7日(日)




8月6日(土)7日(日)、新国立劇場にて毎年恒例のバレエ・アステラス2022を観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/asteras2022/




終演後の集合写真



昨年のカーテンコール写真もあり。格調高くも逞しい質感も備えた愚直騎士、懐かしい。他投稿に池田さん渡邊さんインタビューや写真も。


『海賊』パ・ド・ドゥを控えた新国立劇場の池田さん渡邊さん。
映像に向かって何度手を振ったか数知れず笑。うう、腹筋が眩しうございます。



今年からか、出演ダンサーと所属の劇場を背景にした顔写真付き画像と共に紹介する投稿がされていました。
せっかくですので、夜景版新国立劇場がいたく綺麗な映りですので(真の理由は別にあるのでしょうがと言われるのは承知しておりますが)1つ紹介。
ああ、夜空にも美しく神秘的に映えますのう見返り美男。



※プログラム、キャスト等は新国立劇場ホールページをほぼ参照。順序は初日に沿って綴って参ります。

※作品の詳細、是非お読みください。出演者による紹介文も掲載されています。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_023799.htmlああ


『トリプティーク~青春三章~』
振付:牧 阿佐美
音楽:芥川也寸志
出演:新国立劇場バレエ研修所 第18・19期生、予科生
作品ゲスト:仲村 啓 (新国立劇場バレエ団・研修所第14期修了)、石山陸(牧阿佐美バレヱ団)※渡邊拓朗さんから変更
賛助出演:服部由依(研修所第16期修了)、菅沼咲希(研修所第17期修了)、根本真菜美(研修所第17期修了)

前日に渡邊拓朗さん降板が発表され、石山さんが急遽投入。身のこなしも無駄がなく滑らかで、仲村さんの余裕のあるクリーンな優雅さも大変好印象でした。
女性は膝丈で整えたシンプルなワンピース型衣装、男性はふわりとしたシャツのクラシカル系。
芥川さんのこの和洋折衷な物哀しい調べを帯びた曲が好きで、何度も観ていながら生で音楽を聴けたことも大きな喜びでした。
森山開次さん振付NINJAの一員に抜擢され話題を呼んだ中川さんの物怖じしない堂々たる踊り方も良き発見。
牧さんの初期の頃の作品ながら整然とした並びからの変形フォーメーションを眺めていると今も古さを思わせず。
そして今回ようやく気づいたのは、牧さん版『くるみ割り人形』での葦の精の振付にあったややこしい一斉フェッテはこの頃から牧さんのお好みであったもよう。



『コッペリア』第3幕よりパ・ド・ドゥ
振付:アルチュール・サン=レオン
音楽:レオ・ドリーブ

『サタネラ』よりパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ
音楽:チェーザレ・プーニ

出演:ムーセーニュ・クララ(パリ・オペラ座バレエ)、アクリ・瑠嘉(英国ロイヤルバレエ)

ムーセーニュさんはコッペリアではだいぶ緊張されていたご様子でしたがとても丁寧なパで初心で可愛らしいスワニルダを踊られ、紹介文にもある通りパリ・オペラ座で新調したロマンティックチュチュお披露目も嬉しい限り。
アクリさんもやや硬さが見られながらも、結婚式に臨む幸せな青年らしくムーセーニュさんとの目の交わしも微笑ましく、ソロやコーダの力強い疾走感も宜しい印象。
お2人の掛け合いがより花開いたのは『サタネラ』で派手な誇示はせずとも安定した技術から繰り出す
色づく笑みで魅了するムーセーニュさんと、みるみると虜となっていくアクリ青年のパートナーリングがとてもお茶目に映りました。



『Walk the Demon』
振付:マルコ・ゲッケ
音楽:アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ
出演:刈谷円香(ネザーランド・ダンス・シアター1)、ルカ=アンドレア・テッサリーニ(ネザーランド・ダンス・シアター1)

よくぞ取り入れてくださったと唸った作品。恥ずかしい話NDT公演は16年前に鑑賞したきりでレパートリーの知識皆無で鑑賞するも
刈谷さんの肉体の高速躍動に驚愕し、テッサリーニさんと一緒に発する息遣いですら空間や音楽を精密に包んで不思議な面白みを拡張。



『ジゼル』第2幕よりパ・ド・ドゥ
振付:ジャン・コラリ/ジュール・ペロー
音楽:アドルフ・アダン

『La Pluie (the Rain)』
振付:アナベラ・ロペス・オチョア
音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ

出演:ジェシカ・マカン(ピッツバーグ・バレエシアター)、中野吉章(ピッツバーグ・バレエシアター)

マカンさんのジゼルはやや貫禄があり過ぎたか、されど脚捌きは鮮やかで目を見張り、中野さんアルブレヒトは懺悔が指先からも伝わる熱演。
La Pluie (the Rain)のほうがお2人の本領発揮な作品で、至極簡素な衣装だからこそ削ぎ落とされた状態からゆったりと紡がれる愛情がぽっかりと浮き立ち
マカンさんの斜めに傾けた身体や支える中野さんの体勢に至るまですっと透き通るような美が備わっていた印象です。音楽はバッハのゴルトベルク変奏曲。



『カルメン』よりパ・ド・ドゥ
振付:ローラン・プティ
音楽:ジョルジュ・ビゼー
同名オペラより編曲・オーケストラ編成:デヴィッド・ガルフォース
出演:石崎双葉(バレエ・アム・ライン)、ダミアン・トリオ(バレエ・アム・ライン)

欧州のバレエ団で日本のダンサーがこの役を踊っていることにまず驚き(勉強不足で失礼)、蠱惑的なパワーが前面に出過ぎている感も否めずでしたが
気づけば石崎さんの有無を言わせぬ色気に見入り、トリオさんのスラリとした体躯もなかなか宜しく絵になっていたと思います。
生ではフェリで、写真ではラカッラ、カルフーニ、ジャンメールと歴史に残るであろう名ダンサーの写真も過ってしまうため厳しい見方にはなってしまいましたが
バレエ・アム・ラインのレパートリーにあることを知り、石崎さんによる披露を目にできたのはアステラスだからこそ。



『エスカピスト』よりクラシカル・パ・ド・ドゥ
振付:アレクサンダー・エクマン
音楽:ミカエル・カールソン
出演:佐々晴香(スウェーデン王立バレエ)、アンドレア・マリーノ(バイエルン国立バレエ)
チェロ独奏:岡本侑也

マリーノさんを探す佐々さんのよく通る美声から奇抜な展開になるかと思いきや、巨大な白いカーテン中央から顔を覗かせる佐々さんが誠にチャーミング。
黒チュチュと黒く長いゆったりめパンツの組み合わせが粋で、マリーノさんと共にチェロの音色に溶け入る踊りにも釘付けでした。



『On the Nature of Daylight』
振付:デヴィッド・ドウソン
音楽:マックス・リヒター

『グラン・パ・クラシック』よりパ・ド・ドゥ
振付:ヴィクトル・グゾフスキー
音楽:フランソワ・オーベール

出演:奥村 彩(ベルリン国立バレエ)、アレクサンダー・カニャ(ベルリン国立バレエ)

今や大人気なリヒターの曲に振り付けられたOn the Nature of Daylightは何処かで聴き覚えのある曲調でしたが
光を纏いながら組み立てられていく奥村さんとカニャさんの肉体の展開が飽きさせず。
グラン・パ・クラシックは様々なダンサーで観ているせいか、また表現云々よりも卓越した技術が不可欠で
ガラでやるなら一切の揺らぎも許されぬ作品と思い込んでいるせいか辛口評価ではございますが
奥村さんはびしっと決めるべきところは決め、群青色なグラデーションチュチュもお洒落。



『ライモンダ』より夢の場のパ・ド・ドゥ
改訂振付:牧 阿佐美
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
出演:奥野 凜(ブカレスト国立歌劇場バレエ)、ロベルト・エナケ(ブカレスト国立歌劇場バレエ)

今年4月にブカレスト国立歌劇場で牧さん版『ライモンダ』初演は喜ばしく、雑誌『クララ』2022年7月号でも特集がなされ
奥野さんや芸術監督のインタビュー、指導として西川貴子さんが現地入りしていたレポート等写真も豊富に掲載されていました。
監督によれば、ルーマニアでのライモンダ全幕上演は初と語っていたかと記憶。
抜粋ではあっても牧さん版初演地でのお披露目に最も喜んでいらしているのは空から見守っていたであろう牧さんかと思います。
衣装はだいぶ異なり、ライモンダは薄いブルーに金色の模様、ジャンの上半身は青のベルベット。
奥野さんの全身がよく伸びる踊りで、いつ観てもしっとりと叙情的な振付です。



『ロメオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
出演:平田桃子(英国バーミンガム・ロイヤルバレエ)、平野亮一(英国ロイヤルバレエ)

バーミンガムとロイヤル、国は同じでも違う団に所属するペアはいかに表現するか楽しみでございました。
平田さんは折れそうに華奢であってもロメオへの愛が充満して突っ走る勢いが恋に恋する少女、
平野さんはロメオにしてはだいぶ濃さが目立ってしまったか、ただロメオやアルブレヒトもそうですが
自身の好みがはっきりとしている役柄ですとなかなかしっくり来るのは困難なのかもしれません。
(爽やかロメオが好みな管理人。咄嗟に浮かぶのは2人限定でございます。身勝手で失礼)
2日目はリフトで上がり切らなかった箇所があり円熟期に差し掛かり踊り込んでいるお2人でも非常に高難度な振付であると再確認です。
それよりも2日目は序盤から演奏が迷走してしまい、私ですら冷や汗でしたから演奏者の方々はどれだけ不安な心境であったかと推察。



※以下、非常に長くなります。水分補給をどうぞ。

『海賊』よりパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ
音楽:リッカルド・ドリーゴ、レオン・ミンクス
出演:池田理沙子(新国立劇場バレエ団)、渡邊峻郁(新国立劇場バレエ団)

2019年に武蔵野市(会場最寄駅は三鷹)と浦安市の発表会で渡邊さん海賊を鑑賞以来、武蔵野市ではヒヤリ箇所がありましたが
浦安市での単なる超絶技巧お披露目大会にならずメドーラへの忠誠ぶりや視線の運び方、腕の使い方と言いソロでのギラリとした射抜く眼つきといい全幕の厚みを思わせ
これは浦安市の発表会限定では勿体無い、いつか必ず初台での披露を!と夢見ておりました。
この日平日も行列が絶えなかったであろう浦安市の会場にも近い東京夢の国にて人気を誇る某乗り物目当ての乗客を、
カリブではなくギリシャだがジャック・スパロウより素敵ですぞと、こちらの海賊へどうぞと引き連れてきたかったほどでございました。
渡邊さんは新国立では王子貴公子系の役が多かったためか『海賊』を観た、野性味や色気のバランスも絶妙であったと周囲に話しても時には信じてもらえず笑
トトロやネコバスの目撃主張では無く鑑賞した事実説明が納得に至らないのは私の信頼度が欠乏していると悟ったものですがそれはさておき
しかし翌年2020年のニューイヤー・バレエに『海賊』があったものの3日間全て同じキャストで配役されず、しかもNHKBSで放送。
オペラパレスの夢は諦めるべきかと項垂れるもいつかは必ずと願い、発表会から早3年。
世の中、日本が、世界がこんな危機的状況になっているとは当時は知る由もありませんでしたがそんな最中においても遂に叶いました。
今年のアステラス概要発表が5月で、何しろ3回連続出場も驚き嬉しいことで(紅白歌合戦か笑)
更には『海賊』の文字に、遂に3年越しの願いが叶う日が到来すると思うと体内の細胞が大暴れして発表当日の夜はサインはV状態となり、
仕事帰り都内の駅のホームに立っていても目の前が線路ではなくエーゲ海にしか見えていなかった管理人でございます。

池田さんの出演も喜んだものの、2018年の『シンフォニー・イン・C』第三楽章において共演されていましたが最も溌剌とした楽章ながら
正直パートナーシップに幸福ぶりが感じられず、2人の間には今や何処にでも目にする仕切り板があるかと見紛う舞台でしたからやや心配があったのは事実です。
しかし年月を経てキャリアも積み重ねられ、今回はそれはそれは壮大な物語を思わすペアとして出現。作品紹介記事でもよく話し合いながら作るとお2人口を揃えていらっしゃいましたから
方向性もぴたりと合致していたのでしょう。特に視線の交わし方がインC時と同じお2人とは思えずでした。
池田さんのメドーラ技術が冴え気品も湛え、幸せな表情のみならず2日目はより色っぽさも香らせ、これまでに観た池田さんの中で最も美しい瞬間に触れた気分。
涼やかなエメラルドブルーの衣装も似合い、パ・ド・ドゥのメドーラは(全幕ではトロワか)は基本クラシック・チュチュ派ですが、
今回に限っては風に乗って靡くスカートが目にも歓喜さえ与え、太陽に照らされて反射光のように輝く金色の装飾にもうっとり。
新国立劇場嘗てのニューイヤーでも使用されていながら響かなかったのは何故であろうかと自問自答の日々が続いております。

渡邊さんは今回も単なる超絶技巧大会になっていない点やひたすら深々お仕え度の深さも花丸な、品格から野性味や色気も滲ませ全幕の世界を体感させるアリ。
登場時の舞台袖からの滞空時間と飛距離長き跳躍や客席4階隅々まで見渡しながら駆けていくさまからしてスケールが大きく、
ただガンガン飛ばすのではなくきちんと纏め上げつつも時折大技も含ませそういえばこれまた3年前の夏の八王子発表会での魔王役以来であろう
当時は床スレスレで大冷や汗であった540も余裕の尺度で一安心。順番諸々前後いたしますが
ソロの低姿勢からの下克上狙っていそうなギラリと射抜く野心も覗く視線や豪胆さを秘めた色気に
ああこれが観たかった初台の観客の皆様にもご覧いただきたかったと我が興奮の制御は最早不可能でございました。
よく歴史浪漫小説でも題材とされやすいか、私が読んだ書籍に限ってか分かりかねますが
滅亡した王家の末裔が復讐心を秘めて奴隷として海賊船に乗り込んだ、或いは奴隷として売られた高貴な血が流れる海賊に見て取れ、
私の周囲の方も仰っていましたが浪漫や幻想を掻き立てるアリでした。
品位はあっても弱々しさはなく、鋼のような強さや不屈な逞しさがあっても荒っぽさは抑えた、奥行きある人物造形をなさっていたと見て取れます。

それからもう1つ、不安材料であったのが衣装。歴代新国立ニューイヤーを辿っていくと恐らくは皆胴体に網網付きで、昭和のコンクール云々不満を漏らしておりました。
ミケランジェロが生きていたら彫刻刀或いは絵筆を持たずにいられぬだろうせっかくの肉体美の持ち主に網網は不要と願ったものの
前日公開されたご来場促進映像に、ああ網網、と肩を落としかけたのも束の間。よく見ると、ただの網網ではなく
騎士の鎖帷子とまではいかずとも随分と精巧な作りで似合うではありませんか。人間とは誠に身勝手な生き物であると再確認です。
そして頭飾りの中央には水晶のように、いや、呪文を唱えたときに輝く飛行石のような物の装着も初めて知り、そうか高貴な血を引いている証であろうと
先日金曜ロードショーで放送された管理人が全台詞ほぼ暗記の映画『天空の城ラピュタ』を視聴し
塔に閉じ込められていたときに発した長い呪文も、バルスのタイミングも心得て唱えつつ再度解釈した次第でございます。



〈フィナーレ〉出演者全員
恒例のグラズノフのポロネーズ。格調高く高揚する旋律にのせて出演者達がひと踊りするこのフィナーレもアステラスの楽しみの1つです。
刈谷さんらがポロネーズにもゲッケ振付を嵌め込んで挑んできた様子に思わずニンマリ。
昨年初日のような開演直前に書類持った職員入場もなく作品何本もカット状況にはならず、無事全作品上演できたのは幸運でした。
降板された渡邊拓朗さんも、その後は無事復帰できそうでその点も安堵でございます。
帰国系ガラが増えてきた今、置いてきぼりにされる心配も募っていたアステラスですがこれまでで最も様々な時代の作品や振付家を取り入れた見応えある構成でした。




いざ、初台の海へ出航。浪漫の旅へ。



さあ、この後もスプマンテ以上に爽やかなアリを観るのだ。



気持ちだけはメドーラなカクテルで余韻に、お許しください。燕よりもふわっと助走もほぼなく飛翔するアリを、つば九郎も観たがっていたようです。

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