2021年11月11日木曜日

31日を境に好みに転じた荘重な版  新国立劇場バレエ団ピーター・ライト版『白鳥の湖』 10月23日(土)〜11月3日(水)





10月23日(土)〜11月3日(水)、新国立劇場バレエ団ピーター・ライト版『白鳥の湖』を計7回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/swanlake/




10月23日(土)
オデット/オディール:米沢 唯
ジークフリード王子:福岡雄大
王妃:本島美和
ロットバルト男爵:貝川鐵夫
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、飯野萌子
ハンガリー王女:廣田奈々
ポーランド王女:飯野萌子
イタリア王女:奥田花純

2021年10月24日(日) 14:00
オデット/オディール:小野絢子
ジークフリード王子:奥村康祐
王妃:本島美和
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:福田圭吾
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):飯野萌子、廣川みくり
ハンガリー王女:細田千晶
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥

2021年10月30日(土) 13:00
オデット/オディール:米沢 唯
ジークフリード王子:福岡雄大
王妃:盤若真美
ロットバルト男爵:貝川鐵夫
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、池田紗弥
ハンガリー王女:廣田奈々
ポーランド王女:飯野萌子
イタリア王女:奥田花純

2021年10月30日(土) 18:30
オデット/オディール:小野絢子
ジークフリード王子:奥村康祐
王妃:盤若真美
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:福田圭吾
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):飯野萌子、廣川みくり
ハンガリー王女:細田千晶
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥

2021年10月31日(日) 14:00
オデット/オディール:木村優里
ジークフリード王子:渡邊峻郁
王妃:本島美和
ロットバルト男爵:貝川鐵夫
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):飯野萌子、廣川みくり
ハンガリー王女:細田千晶
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥

2021年11月2日(火) 14:00
オデット/オディール:柴山紗帆
ジークフリード王子:井澤 駿
王妃:本島美和
ロットバルト男爵:中島駿野
ベンノ:福田圭吾
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):奥田花純、広瀬 碧
ハンガリー王女:中島春菜
ポーランド王女:根岸祐衣
イタリア王女:赤井綾乃

2021年11月3日(水・祝) 14:00
オデット/オディール:木村優里
ジークフリード王子:渡邊峻郁
王妃:盤若真美
ロットバルト男爵:貝川鐵夫
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、池田紗弥
ハンガリー王女:廣田奈々
ポーランド王女:飯野萌子
イタリア王女:奥田花純


※速報でもない速報と重なる箇所も複数ございますが悪しからず。


米沢さんは整った踊りが美しく連なるオデットで、内側から滲む悲哀が更に切なさを誘う姫。
状況明示のマイムははっきりとしていながらも、王子に心を開きつつ支えられてのポーズの際には一層背負った重い運命をぶつけるように身を委ね
短時間で心情の起伏を巧みに表現していらっしゃいました。オディールは見るからに悪女ではない、ほんのり黒い魅力を放つ造形。
その分、少しでもニカッと笑みを見せるだけでもゾワっとさせられる姫でございます。
王子への許しは共に悲しみを分かち合うように接し、包み込む優しさに触れた思いでおります。

小野さんは崇高なオデット。傷が微塵もない陶器のように滑らかな踊りで魅せ、且つ冷たさも帯びた姫。
抑えた中から少しずつ哀切さを帯び、王子へは静かに経緯を語り、ソロでの静寂な湖に神々しく佇む姿から音楽と溶け合っての四肢の繰り出し に恍惚と惹かれた次第です。
オディールは日によって造形が異なり、1回目は序盤から魔力炸裂で目も瞳もギラリと光る毒を撒くような悪女。
2回目はしばらくは無邪気な笑みを湛え、アダージオ中盤以降怖さ沸々と醸し、いずれにしても
仮にオデットではないと気づいたとしても罠に嵌ってしまうのも頷ける棘を宿す艶かしさでした。
4幕での詫びに来る王子に対しては悲運を見せず毅然としていて胸を打つ気丈な接し方。これまでに幾多の困難な運命に翻弄されてきた強さをも感じさせる場面でした。

柴山さんは端正で悲劇性強いオデットで、持ち味である正確な技術が光り、閉ざされた心を丁寧に表出。
オディールは決してあからさまな悪女にならず、しかし進行するうちにアダージオに入ってからは王子の耳元での囁きで
みるみると不気味な笑み、鋭い視線を見せつけ、王子も益々大混乱であったことでしょう。
全幕においてはライモンダやニキヤ、シンデレラといった耐え忍ぶ要素が描かれる役柄がぴたりと嵌るタイプと思っており
オデットは初挑戦の2018年時に比較し、心の底から悲しみを訴える表現の色もはっきりと出てきて、されど強みである崩さぬ型は維持。
中でも激しい羽ばたきの振付においても首から肩にかけての線を綺麗に見せている折り目正しい踊り方にはっとさせられます。

木村さんはNHKバレエの饗宴での『パキータ』から更に型がカチッと整い、技術も冴え、気高く生命力のあるオデットを造形。
止まる箇所やキープする箇所もぐらつきや変にしなってしまうことも無く、それらをクリアした上で王子への訴えや白鳥達を守ろうとする強さを見せていた印象です。
以前は明快に毒気を放っていたオディールでは今回は序盤はクールに作り、表情もきりり。
その分折り目正しさが増した踊り方で進め、格高く仕上げていた点も好感を持ちました。

福岡さんは宴への登場時から堂々とした姿の王子で、この時点では将来の国王の片鱗を思わすも、この後に待ち受ける運命の恋の嵐を彷徨うとは人生分からぬものです。
昂る感情を前面に出す王子で、3幕ヴァリエーションを踊っている最中は微笑む程度であった表情が
最後は両手を胸に当ててありったけの心を捧げるような終わり方で締め括る脳裏に残っております。
4幕では過ちを悔いて深い悲しみを切々と訴え、前述の通り気持ちを共有するように包む米沢さんオデットと寧ろ愛が強まったかにも見て取れる2人でした。
米沢さん、福岡さんはお2方揃って申し分ない技術の持ち主で2013年の『ドン・キホーテ』では超絶技巧炸裂ペアとして大盛り上がりな舞台が今も記憶にありますが
時を経て今年の『ライモンダ』では優雅さが加わり、そして今回の白鳥では物語を紡ぎ上げる力も増幅。
特に4幕パ・ド・ドゥでの重々しい悲しみを引き摺りながら謳い上げるように踊る姿に、もっとお2人が組む舞台も観てみたいとも思えたのでした。

奥村さんはやるせなさとあどけなさの配分がいたく自然に映る王子で宴を眺める様子のやや冷めた視線が、気分の乗らぬ心境が淡々と伝わりました。
宴の最中に王妃が訪れたときは曇顔にはそこまでならず、大好きなママ笑に対して示す愛嬌もまだ残る可愛らしさもあり。
またオディールとの結婚をすぐさま決意し伝えるときも、歓喜の声が聞こえそうで笑、王妃の頬が緩むのも分かるひと幕でした。
4幕の懺悔っぷりは真骨頂で、太字の字幕がそのまま頭上に現れてもおかしくない、涙浮かべて全身から謝罪の言葉を叫び放つような状況に。
喜劇では全くないはずが余りの懸命な姿に笑ってしまうこともあったほどです。

小野さんとの相性は6月の『ライモンダ』以上に良好で、互いから魅力を出し高め合う印象。
『ライモンダ』においては夢の場での終わりが見え辛いテンポも取りにくいふにゃふにゃしたアダージオとは感じさせぬ
小野さんを水晶のように輝かせて高難度リフトであっても2人の呼吸が合い遊泳するように踊る様子に舌を巻いたのは記憶に新しいところ。
2幕も含めればいかにもな騎士、な外見とは言い難かったものの(そうは言っても夢の場の幻想的な世界観の描画は断トツであった)
今回の純粋でまだ未熟さも残る王子と凛とした美のオデットの組み合わせのほうが、役柄や筋運び両方においてぴたりと嵌っていました。

井澤さんはおっとりお人好しそうな温厚王子で、大らかな性格の余り王妃が危機感を抱くのも無理はないとこれはこれで説得力あり。
宴の開催がばれそうになると俯いてわなわな震える様子も、常日頃から母親には一切抵抗できぬ状況を想像させます。
珍しくヴァリエーションはスピード感宿るテクニックも見せ、恋に恋して周囲が見えなくなっている王子のはやる心がそのまま全身から表れていたもよう。
柴山さんと井澤さんは新国立劇場における全幕でペアを組んでの主演は初。ただ同じスタジオご出身で発表会等ではよく組んでいたのでしょう。
劇的ではなく抑え目に内側を表していく波長が合っていると見受け、背丈バランスも良い具合。なかなか宜しいペアでございました。


※以下、長くなります。東京都においては季節外れな温暖気候が続いたのち、今度は寒波到来とか。水分補給及び小休止をどうぞ。

渡邊さんの王子は幕開けの葬列から視線をちょこっと逸らしたり真っ直ぐ見据えたりと悲壮と将来の不安の両方滲ませる歩き姿で
紗幕も黒、衣装もマントも黒一色で数秒の横切りでも闇状態と化した王家の悲劇に引き込まれたほどです。
そして渡邊さん初登場まで初日から計4回鑑賞していながら、葬列場面では王子がマント着用と初意識。
勿論それまでも気づいてはいたものの、さまになっている云々考えながらの鑑賞ではなかった為、国葬から始まる演出も宜しいかもと
憂え翳りある歩き姿や例え黒系で統一の舞台でもくっきりと絵になるマント姿が視界に入り、31日は即座に思えたのでした。
人間とはかくも身勝手な生き物であるとこの度も1回目の再確認です。

最も驚かされたのは1幕や3幕での着席中の様子。重圧と常に向き合い、心配事も多き心の鬱々とした波動を目線や仕草
また友人らの戯れに対し微かに喜びを見せるに至るまで緻密に示して伝え、感情の空模様描写の名手です。
しかも1幕も3幕も椅子が映画監督が腰掛けていそうな黒い簡素なものであっても手にメガホンは見えず笑、カットの声も聞こえず(当たり前だ)。
少し時間軸戻って、冒頭の宮廷にてめでたい賑やか音楽に鬱鬱とした王子の登場に違和感を感じていたが、直前に葬列があるので納得できた上に
渡邊さんの場合葬列にて将来を案ずる様子が分かりやすく伝わり沈痛な悲壮感と将来の不安両方滲む歩き姿であったので一層説得力あり。
更には王子はもとより王妃や貴族達も黒系衣装、背景はくすんだグレーな色彩で、内面の闇をいかにして立体的に浮かばせ伝えるかが肝で
物語の色付けを左右する鍵であると思いますが、渡邊さんはそれが抜群に長けていたと見受け
だからこそ宴は開催で周囲は楽しく興じているため覆い尽くすような単調な暗さはないが、その中でも喪中の身分をはっきりと示しているのでろうと繋がりました。

踊りも頗る好調で品位と力感備わる踊りで先導され、中でも3幕ヴァリエーションはただ跳躍が伸びやかで高いのみならず(牧版と異なり、最初から演奏も振付も飛翔度強し)
周囲の心配をよそにオディールをオデットと信じ込んで奥底から沸き上がる最高潮に達した幸福と一体となっての披露。
ジークフリート王子にしては満面過ぎる笑みかとも思ったのも束の間で、ロシアの版では重きを置かれているのであろう王子としての格式美も大事だが
単に闇や陰の部分にのみならず内面の未熟さやうぶな部分もうやむやにせずごっそりありのままに描いているのがライト版の特徴、魅力であろうと考察。
だからこそ、オデットと思い込んだら疑いもせずにこやかにまっしぐらで、結婚相手が決まったと王妃へ報告の際も嬉々とした声が鳴り響くようにも感じたのでした。
この場面、特に奥村さんと渡邊さんがあからさまに嬉しさを表し、「ママー!!」との声が聞こえてきそうに駆け寄る奥村さんに対し
一応城主であろう王妃の前のためか渡邊さんはほんのり抑制が効いて振る舞いが一瞬大人になり、「母上ー」と叫んでいるように思えた次第です。
王妃への呼び方想像はさておき、重圧の苦悩や恋の歓喜と絶望、ロットバルト兜奪取の猛然豹変まで渡邊さんは王子の物語を終始明示され
立ち居振る舞いやサポート、ソロも更に磨かれ、記者会見でのご発言通り「踊り方改革」の実行と成功にも心より拍手を送りたい思いでおります。

初日から同じ布陣でいけばもしやと期待していた1幕中盤における、ワルツの男性から王子への弓贈呈担当と握手の交わしを
渡邊拓朗さんが全日程(恐らく)務め、舞台中央での兄弟接触も実現いたしました。拓朗さんの、仲間達からの贈り物であることを振り向きながら示すマイムや
贈呈する仕草も風格と品があり、重要儀式における代表任務をこなすに相応しいお姿はたいそう頼もしく映った次第。王子、殊更嬉しそうでございました。
余りの微笑ましさと念願叶っての並びに、一部の客席からは笑いも漏れていたほどです。

さて、2021/2022シーズンもやります恒例の髪型考察。今回は二重丸。リハーサルの映像から前髪がやや長くなられたようで
赤い鉢巻(ではなく実際はバンダナだが笑)で使用なさっていたため本番での纏め方に注目し、ほぼ中央での分け目で不自然さ無し。
前回2018年5月の初台での本公演全幕白鳥ではトロワの日はふわっと自然であったはずが主演日はハーフアップと申すべきか
古式ゆかしい髪型へ変化を遂げていらっしゃいましたが、今回は2回ともナチュラル且つさっぱりと整えた感もあり。安堵でございます。
2018年5月公演当時のプログラムやキャスト表にすら明記されていない、ルースカヤの付き人役での
渋い容姿と護衛官並みに鋭い表情にも惹かれた懐かしさが思い出されます。
万一ファーストソリスト時代にこのライト版が取り入れられたならば、王子の他、枢機卿なり大使あたりも精魂込めて演じていらしたのだろうかと妄想です。

木村さん渡邊さんはこれまでに全幕で何度も組まれパートナーシップには定評ですが、どっしりと重たい悲劇で一層の強みを発揮。
中でも4幕は人間に戻れぬ運命を背負ったオデットと、過ちを犯した王子の崖っぷち状態にいる2人の危うさを表していると推察できる
オデットが斜めギリギリの体勢で王子のサポートを受ける箇所での美しさもさることながら
悲嘆と絶望がずしっと交錯する心が静かに、されど刻一刻と雷鳴の如く重々しく鳴り響くパ・ド・ドゥの音楽と調和し
身体中の細胞が痙攣を起こしているかのような身震いを見た思いがいたします。
当初2020年秋上演時に組む予定であった小野さん渡邊さんペアですと化学反応はいかに、とも興味津々。いつか実現を切望いたします。

終幕、セルゲイエフ版の羽捥ぎ取りの結末が好きな者としては嬉しい、王子によるロットバルトの兜奪取も迫力もの。
意外にもこうも潔い場面があるとは、ワールドバレエデーでの4幕舞台稽古配信にて驚き、ほんの少しライト版に対して前向きな印象も持ち始めるきっかけとなりました。
福岡さんは威勢良く奪い猛然とした様子を見せ、悲劇にも幸せにも両方に取れる結末へまっしぐら。
奥村さんは全身から懺悔の感情を吐き出し、渾身の力を振り絞っての奪取。叫び声が聞こえるかのようにオデットのもとへと突っ走る劇的展開を見せていました。
井澤さんは力で押し付けながら奪い、両手で上から投げる様子でサッカーのスローインなフォルム。
渡邊さんは目をギラギラにして狂気沙汰の如く大豹変し、ほんのりと6月のジャンを再想起。
下から転がすように投げるボウリング状態で、四者四様で面白みある結末の一端に思えたのでした。

ロットバルトも個性が活きた布陣で、貝川さんは恐怖感の中にも剽軽なおどろおどろしさが潜む掴みどころがない男爵。
最期兜を奪われたときのホラー映画を彷彿させる、みるみると崩壊する表情には寒気すら覚え、ロットバルトの絶命に残酷な一節を添えていらした印象です。
中家さんは支配力が悍しく、閻魔大王系のおっかなさ。中でも初回の小野さんオディールとの共演は毒気最強クラスで(褒め言葉)、威圧感も恐ろしや。
中島さんは兜の内側からも美形な容貌が覗き見える男爵で、3幕でのオディールと示し合わせを行う際の
不気味な笑みへの急変は、背筋が冷たいもので撫でられるような感覚を引き起こしました。

そして主演と同等に重要なベンノ。話には聞いていたものの道化が不在な分、この役がいかに作品の鍵となるか7回通して思い知らされました。
特に木下さんは代役を含めれば多数日程をこなされ、しかも他日はワルツにチャルダシュに枢機卿も兼任。ひょっとしたら今回の新プロダクション最大の功労者かもしれません。
葬列から城の広間へと舞台が移り、誰もいないところに登場されただけで宴の幕開けがピリッと引き締まり
更には常日頃から宮廷に出入りしている人間らしい振る舞いも優雅で上品。
王子に対しては仲良しな友人、理解者でありつつも立場の違いを弁え、1歩引いた様子が絶妙な距離感でした。
3幕での王女のソロが終わるたびに王子へ一生懸命推薦したりと王子思いでお見合いに付き添ってくる保護者のような面も端で見せ
その甲斐もなく王子は上の空。そのあげく待ち受ける悲劇の第一発見者と思うとやるせないばかりです。
福田圭吾さんは場をほっと和ませるベンノで、にこやかな表情、気遣い細やかな性格に、王子は毎度救われていたと想像いたします。
王子を元気付けようとクルティザンヌを連れてくるときの朗らかな様子や、トロワでの大らかな踊りもほっとさせる魅力が零れました。
国王が急死して王家は財政再建真っ只中なのか事情は分かりかねますが、人件費抑制のためか召使いや給仕係もおらず、ベンノは宮廷御用達便利屋も兼任か。
中央後方のテーブルに置かれた飲み物の管理も行っていて、今でいうホテル宴会場スタッフのような働きぶりにも驚かされました。
返す返すも、王子に、王家にこれだけ尽くしていながら王子の遺体第一発見者になるとは、やりきれない思いに駆られます。

暗いだけではない演出と徐々に思えたきっかけの1つが王子とベンノのやりとりで、そこが決まらないとただの闇深い王子がじっと居座る暗い物語と化。
ベンノ次第で舞台進行全体をどうにでも左右する、予想以上に大事な役柄であると分かり、木下さん福田さん共に貢献なさっていました。

3幕に登場する花嫁候補達であるハンガリー、ポーランド、イタリアの3王女も見所。各々の王女にその土地の舞踊団が応援隊として
付き添っている設定でNBAバレエ団の版も踏襲している演出かと記憶しております。
王女達では高貴で艶っぽい細田さんのハンガリー王女がそれはそれは美しく、指先脚先から余韻をふわりと漂わせつつメリハリに富むポーズで決めて見せ
絹のような質感、肌触りを思わす優雅で格式高い踊りに恍惚と魅了されるばかりでした。
頭全体を覆う太い線のティアラもお似合いで、パリ・オペラ座のライモンダに似通ったゴージャスなデザイン。まさに高嶺の花なる王女でございました。
贔屓目がベンノの心持ちと重なり、渡邊さん王子にお辞儀する最初にソロを披露した細田さんハンガリー王女の構図が視界に入ると
王子のすぐ後ろに腰掛けて儀典長と一緒にしきりに王女を推薦するベンノにすっかり感情移入し
エントリーNo.1の王女と結ばれて良かろうにと見守ってしまいました。

イタリア王女の奥田さんの柔らかでクリアな脚運びにも見入り、根岸さんの肩の使い方1つではっと唸らせる粋な魅力やスケールある踊りと
衣装負けせぬ貫禄、流し目からの晴れやかな顔の付け方も太陽な輝きを持つポーランド王女にも仰天。
押しの強さからか大きな羽根つきの頭飾りが兜にも見えかけ、貴い女戦士にも感じられる姫君でした。
花嫁候補の王女達の、1人1人デザインは異なれど古美術風なゴールドの色調で揃えた豪奢な衣装も双眼鏡で繰り返し観察。
最初の登場では3人が並ぶため静かな修羅場と化し、火花の散らし合いも見ものでした。
3幕全体が壮麗な衣装行列の連続で、貴族女性陣の小林幸子風(お世話になっている方のご発言を拝借)巨大衣装や
各国の枢機卿や大使達の歴史絵巻やゲーム彷彿な大掛かり衣装も見どころで、目が足りないほどです。
牧さん版では至極シンプルで物足りなさがあったオディール  衣装は複雑な流線形状のティアラに黒系グラデーションを重ねた見栄えするデザインも嬉しく
約10年前だったか雑誌クララにて掲載された佐久間奈緒さんのオディール写真を目にしたときから引き寄せられた衣装です。

民族舞踊団の衣装が絢爛ながら私の認識の甘さからかお国柄が読み取りづらく、広々大きな頭飾りからしてハンガリーがロシアにしか見えず
赤と茶色、金で彩られルネサンス期のイタリア貴族かと思えたポーランド、女性の黒い帽子とスタイリッシュなスカートが時代先取りパリジェンヌ及び
男性の帽子がは浦安市の夢の国主人公にしか見えずであったスペイン、と理解までに時間を要したのでしたが我が感知力に問題ありと考察。
儀式も重んじていて大使や王女と共に一団となって次々と現れては王妃に挨拶してそのまま王子に向き直り
重圧のうねりが一点集中。王子が益々結婚をためらうのも無理ありません。

尚、ファンファーレが流れては各国の一団が現れまたファンファーレ、の順序にはラッパのマーク正露丸の宣伝映像を
延々再生されている気分にもなりかけましたが最も胃腸を落ち着けたい心境にあったのは王子でしょう。
王女達の人数も程よく、例えば6人位が各々全員ソロを披露となると冗長な流れに転じてしまう可能性は高く
初演時やいくつかの版では花嫁候補たちのワルツと全員のソロ、コーダが挿入されている振付もあり
(現在では改訂されていそうだが、キエフバレエ団がタチヤナ・ボロヴィク主演でフィリピエワがパ・ド・トロワや花嫁候補を踊っていたNHKの映像ではあったかと記憶)
また昔の日本バレエフェスティバルでは10代の頃の草刈民代さんや藤井直子さんら当時の新鋭ダンサーらが集結し
『グラン・パ・ド・フィアンセ』としての披露が恒例だったようで、2010年には衣装はそのまま変えず
新国立のニューイヤー・バレエにて更には同年同月末の兵庫県三田市における新国立クラシックバレエハイライトでも披露されましたが東京も兵庫も案の定盛り上がらず。
いつの時代の日本バレエフェスティバルであろうかと私なんぞ首を傾げっぱなしでございました。
そんな経緯から、だれない展開維持のためにも3人に絞っての披露は適度な人数であろうと考えております。仮に6人もいて全員ソロありならば
王子の緊張の増幅が目に見えており、それこそ王子はファンファーレの度に正露丸服用が必須となりそうです。

そして作品の核をなしているのはコール・ドの白鳥達。一人一人が囚われて魔法に掛けられ、重い運命を背負った王女の設定だからか
牧さん版に比べるとより翳りと立ち向かう強さの両方を備え、放っているように思えました。中でも霧の中から現る4幕白鳥達の幻想美にも釘付けとなり
嘆き悲しみを重く引き摺るように踊りつつTの字や左右対称半円形からの整列等に至るまで変化に富む進行を見せていく術も見事。
2羽の白鳥での、ダイナミックな横山柊子さん、しっとり物憂げな中島春菜さんの大型コンビも魅せ
従来のライト版よりも人数大幅増強してに総勢30羽が羽ばたく姿やロットバルトを集団で固まった状態で攻めていく様子や
現れたベンノに王子が飛び込んだ湖を一斉に指し示す姿も壮観で、新版に変えてもコール・ドの強みを生かした演出です。

リアリティを求めているとは言え1幕においてはトロワが娼婦であったり、めでたい曲調で喪に服す設定に当初はしっくりといかず、また喪に服しているからと
黒を基調とした美術や衣装に首を傾げておりました。しかし物語の背景を事細かに分解し辿っていけば国王の死後すぐの段階でお祭りわっしょいな平和な成人の祝宴こそ
違和感を覚えるのかもしれないとも捉え、時間軸を追うと腑に落ちてきたものです。
また娼婦も一見王女風な衣装で、金色のティアラにオペラ型チュチュであった点も安心材料となり、宮廷に似つかわしかったのは好感を抱きました。
1幕ワルツは前半は男女計12人、後半は少人数となりワルツも貴族も男性祭りで女性はクルティザンヌ2名のみとなる構成に
まさかグリゴローヴィヂ版でないクラシックの白鳥で女性少数の幕があるとは想定外で男祭りでつまらん、暑苦しいとまでぼやいたこともございましたが(失礼)
将来を見据えてはいると同時に危機感もあるが、結婚よりまだまだ男友達と遊びたい盛りな王子の一面を描写しているのであろうと思うと弓を贈られた王子が
喜び勇んで皆で狩へ行こうとする流れも自然。また「日によって」は前列で王子が杯手にして男性陣を率いて決然と踊る様子にうっとりでございました。

暗い、陰鬱な印象が先行していた為ウエストモーランド版を除く英国系の白鳥はこれまで避けて通り、2019年夏の吉田都さん引退公演時に発表されて以来
ライト版白鳥導入には反対派で葬列の幕開けやトロワの娼婦設定なんぞ受け入れ難い云々とぼやき、苦手意識が止まらず。
2019年夏以降これまでの移転前の記事を含めざっと振り返ってみても、ライト版受け入れを不安視する内容が度々あり。それだけ拒絶反応を起こしていたのでしょう。
しかし「2021年10月31日」を境に、ただ暗いだけではなく王子の未熟な部分含め内面をとことん掘り下げ明暗双方にじっくり焦点を当てた名演出であると魅力に気づき
王子とベンノを主軸に細かなやりとりが自然且つ鬱屈した感情描写に長け表現に立体感があればいくらでも面白くなり、今は好きな白鳥の演出の一つに仲間入り。
これまでの偏屈な思い込みを覆され、凝り固まった幼稚な我が思考を渡邊さんは打ち砕いてくださいました。
まさかライト版白鳥が荘重な趣で好きときっぱり言える日が到来するとは予想もせず。人間とはかくも身勝手な生き物と再確認です笑。


※米沢さん福岡さん主演日のテレビ放映も予定されていますので是非ご覧ください。





ダブルキャストであった王妃役で、艶のある美が凝縮していた本島さんとは全く違うタイプの
威厳や険しさを醸し女帝の如き存在感で舞台に厚みを加えてくださった盤若さんのプロフィール。
(新国立劇場バレエ団初期のプログラムより)
大阪府生まれで法村友井のご出身であるのは中家さんの、そしてモナコ王立バレエ学校に留学され、渡邊(峻)さんの先輩にもあたるお方です。
新国立開場当時からシュタルバウム夫人やベルタ役で活躍されてきたそうです。



今回11月2日、3日の幕間にレストランではなくまずはテラスにてデザートとソフトドリンク販売を再開。白鳥黒鳥シュークリームが登場です。
以前こども白鳥のときは三羽の可愛らしい小さな白鳥シューでしたが今回は黒鳥さんも登場。
それぞれクリームが2種入り、作りも精巧。マエストロさん渾身の作でしょう。



千秋楽開演前、大人は黙って黒ビール。昭和45年頃、三船敏郎さんによる男は黙ってサッポロビール、の宣伝が一世を風靡しました。



2018年の牧さん版白鳥の帰りに立ち寄ったお店と同系列の店舗にてこの度も白鳥ビールで乾杯。
グラスとコースターデザインがお洒落です。しかも創業は新国立劇場と同じ1997年である点も嬉しい。



秋季限定パンプキンエール。ほのかな甘さが伝う味です。これまたグラスが白鳥さん!
この日は11月2日でしたが、話の大半は10月31日の内容に偏ってしまい、ご一緒してくださった方、すみません笑。
加えて中世ドイツを舞台にした作品を観た帰りのはずが、近郊地帯が所縁の地域である京王線沿線にポスターが多数貼られ宣伝されている映画『燃えよ剣』の話にもなり
電車内で流れるコマーシャルだったか私も何度か予告映像を目にし、道場の場面のでも何処かしらに現れても全くおかしくない等々語り出してしまい
そうこうするうちにこの日のオデット/オディール役の柴山さんの話になりつつも、5ヶ月前に遡って『ライモンダ』に移り
あの淑やかで奥かしそうな姫君には、性格に軽さやチャラさが微塵も無さそうな愚直騎士、ぴったりであった云々振り返り。そして武士と騎士、両方絵になると再結論。
しかも白鳥の期間中にはジャンと浦島太郎の写真が売店に並び、再納得!

次行きます。



前半日程にて、当ブログレギュラーで薔薇(しかも棘抜きで心優しい)の花束の如き華やかな容姿の後輩とオペラシティへ。
(彼女が薔薇ならば、私は切り落とされ人目につかなくなった棘といったところでしょう。まあ人生そんなモンダ)
後輩は昼のみ鑑賞、私は昼夜鑑賞のため近辺で乾杯。全編通して楽しめたようで安心。



マエストロにて、この日の主演ダンサーサイン入りでございます。かれこれ2年以上、偏屈な思い込みと幼稚な思考で好みとは到底言えずにいた私に
ライト版を好きな演出にさせたこの日の王子、只者ではございません。喜ばしい記念です。



前菜。魚介類が豊富です。前世は恐らくアザラシである管理人、食が進みます。



浅利と生海苔のクリームソースペンネ。まろやかでお出汁も効いていて白ワインが進みます。



無花果と柿のミルフィーユ。カスタードクリームもたっぷり、カットした柿も挟まっていて日本の秋の風情が盛り込まれています。
法隆寺の鐘も鳴っていたことでしょう。奈良も歴史ある都ですが、この4日後は中世パリへ行き(正確には東京タワー近辺)ノートルダム大聖堂の鐘も響き渡りましたのでまた後日。



1989年、私が人生で初めて手にしたバレエ書籍。32年前にサドラーズウェルズの団員として来日し、オデット/オディールを踊る吉田監督の姿がございます。
他ページにはオーロラ姫の写真もあり。
本のページを開いてそのまま載せるのは宜しくないのは承知しておりますが
是非ご覧いただきたい且つだいぶ年月も経過しているためお許しください。
尚切り抜きがありましてオディール写真の下部は前ページのハンブルク・バレエ団の写真が覗いておりますが悪しからず。
管理人、まだまだバレエの知識が皆無に近い段階でしたが素敵な日本人バレリーナがイギリスで活躍なさっていると尊敬の目で見入った記憶がございます。
同時期に様々なバレエ関連書籍を眺めるようになり、映像にも触れるうち白鳥はソビエト系を好むようになりましたが
今思えば人生初の目にしたバレエ書籍しかもカラー掲載で出会ったライト版白鳥。いずれは好きになる演出となる予兆であったのかもしれません。
まさかこの平成が始まって間もない時期に写真で目に焼き付けたオデット/オディールの日本人バレリーナが
のちに率いる国内のバレエ団による上演の鑑賞がきっかけで、しかも最大の契機が本を入手して以降毎日のように目を通すうちに早1年が過ぎた頃の夏に産声を上げられた
現在では華々しい活躍をなさっているお方の主演によって心底好む演出になるとは、人生不思議なものです。



当時の記者会見写真記事、ライト卿のお姿も。迫力あるシンシア・ハーヴェイ(恐らく)の隣で嬉しそうにはにかむ吉田監督、
母国で踊れる喜びを満面の笑みで表していらっしゃるように見受けます。舞台写真での孤高な姿とはまた違った
親しみやすそうなご様子にもすっかり心惹かれていた、バレエ鑑賞が趣味となって間もない頃であった32年前の管理人でした。



ご発言、似ていらっしゃる。しかも記事の題名や見出しに用いられていますから、王子の物語である点にも重きを置いて捉え、造形なさっていたのでしょう。
思えば今年はこのDVDが収録された、牧さん版白鳥初演の2006年以来、新国立バレエが2つの版の全幕白鳥を同じ年に上演した年となりました。
(2006年は1月にセルゲイエフ版、11月に牧さん版。2021年は4月に山形で牧さん版、そして10月11月にライト版)

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