2021年10月28日木曜日

牧阿佐美さんご逝去





既に各メディアでも報じられていますが、日本のバレエ黎明期を支えられ、牧阿佐美バレヱ団、新国立劇場バレエ団を率いて
新国立劇場バレエ研修所所長としても活躍され、日本バレエ界に大変な貢献をされた牧阿佐美さんが10月20日に逝去されました。
https://natalie.mu/stage/news/450435

https://mainichi.jp/articles/20211021/k00/00m/040/275000c

https://www.sankei.com/article/20211022-F3C2TZBMXFNRFCO7OWBBWNPNWE/

https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_021439.html

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211022/k10013317221000.html
新国立劇場バレエ団アラジン初演リハーサル映像も。

https://www.asahi.com/sp/articles/photo/AS20211026000350.html
文化勲章受章の発表



余りに偉大なお方で牧さんの功績を私がここに述べるのも畏れ多く、また牧バレヱの公演には
たくさん足を運んでいるとは言い難いのですが、拙劣な文ながら牧バレヱ初鑑賞から振り返り綴って参りたいと思います。

私が牧バレヱの舞台に初めて出向いたのはバレエ鑑賞に関心を持ってから既に7年が過ぎた遅い時期で1996年、創立40周年記念『ドン・キホーテ』でした。
主演は草刈民代さんとゲストの張衛強さん。セキジリアには上野水香さん、他日の子役キューピッドには日高有梨さんのお名前もあり。
舞台そのものは賑やか且つオーソドックスな路線のドン・キホーテ、といった印象を抱きましたが
舞台よりも気に留めたのはプログラムに掲載されていた過去の上演記録。日本を題材にした作品を橘秋子さんと共に数多く発表され、
1992年初演の『北斗」はバレエ雑誌でも目を通した記憶がありましたが『戦国時代』や『角兵衛獅子』等はこのときが初耳作品。
特に題名がいたく簡潔な『戦国時代』の内容について調べたくなったものです。芥川也寸志の音楽を使用した『トウリプティーク』もこのとき初めて知り
お恥ずかしい話、芥川也寸志さんのお名前も知らずにおりましたが
和の趣が重々しくも歯切れ良く響く曲に惹かれ、のちに牧バレヱや新国立研修所の舞台を通して好きな作品に入るとは思いもいたしませんでした。
日本を題材、或いはオリジナル創作作品の上演は1950年代頃から日本の各地で行われてきたことと思いますが
牧さんの場合はバレエ団の牽引やバレエ教育の整備も担いつつも振付を発表されたりと身体がいくつあっても足りぬ業務をこなしてこられたと察します。

1996年はちょうど映画「Shall We ダンス?」公開された年で、のちの書籍『バレリーナを生きる 草刈民代のすべて』であったか
映画出演は迷ったが阿佐美先生が背中を押してくださったと(細かな語弊は異なるかもしれません)草刈さんは明かしていらっしゃり
今思えば草刈さんの人生の転換期にもなった作品を牧さんは逃さなかったのか、慧眼に平伏す思いでおります。私が1番好きな邦画の1本でございます。

牧さんの慧眼といえば、バレエ団の底上げに適したレパートリー選択のセンスは抜群であったと思われ
牧バレエが1990年代初頭には男性達が主役として大活躍する『三銃士』を取り入れ、私が初めて作品を目にしたのはこれまた遅く2017年のこと。
わくわく胸躍る冒険物で音楽も明快、キャスト問わず上演の際には観たい作品の1本です。
また日本のバレエ団としては初めてプティ作品に挑戦し、1996年に『アルルの女』を上演。その後2001年に世界初演した『デューク・エリントン・バレエ』にも当時足を運び
思えばこのときが初の新国立劇場での鑑賞となりましたが、フィナーレにはプティさんも登場しA列車で行こうを団員達と楽しげに踊るお姿が今も記憶に刻まれております。

新国立劇場バレエ団芸術監督任期中にも幅広くレパートリーを拡充され、中でも私個人として嬉しかったのがビントレー作品第一弾の『カルミナ・ブラーナ』、
そしてエイフマンの『アンナ・カレーニナ』。前者は合唱団も入り、冒頭には巨大な十字架が何本も降下して始まる大掛かりな作品で
英国独特の風刺やユーモアも含まれていながらこれをやりたいと欲を示されたセンスに再度驚きを覚えます。
後者は大胆で狂おしい展開を見せて行くコンテンポラリー寄りな作品で、2010年に初めて観たときの衝撃は今も忘れられず。
群舞特に男性陣が大忙しで、めまぐるしい踊りの連鎖に口があんぐりとしてしまったものですが
あたかもこの為に書き下ろされたとしか思えぬチャイコフスキーの音楽を集めた構成や人間関係の歪みを群舞が畳み掛けて表現していく振付にも心酔するばかりでした。
古典の改訂では6月に全幕上演としては12年ぶりに実現した、繊細な色彩美に惚れ惚れする『ライモンダ』が私は特に好きで
新国立バレエ初鑑賞が牧さん版のこの作品で良かったと今も心から感じております。
牧さん振付の作品の全てが好みに合うわけでは決してありませんが(なかなか不思議な始まりのくるみ割り人形や
2008年のニューイヤーで上演したきりと思われるアンド・ワルツは難解であったか)
全幕オリジナルながら国内では2007年の初演以降2010年の夏の再演、同年1月に兵庫県三田市で開催のクラシックバレエハイライト公演におけるパ・ド・ドゥ抜粋披露にとどまっている
『椿姫』は衣装や装置を1から製作していますが倉庫で眠ったままのはず。絶賛な作品とは言い難かったかもしれませんが、今後行く末が気になるところです。

大変偉大な牧さんに対して、素人がつらつらと失礼いたしました。新国立監督任期中には牧バレヱ関係者が
主要キャストの多くを占めたときもあった現象に私も不満を募らせたこともございましたが
しかしお若い頃から人生を懸けてバレエ教育向上、バレエの普及に貢献されてきた功績は計り知れず。とても全ては把握できておりませんが、感謝の思いしか込み上げてきません。
本当にありがとうございました。現在『白鳥の湖』上演中の新国立劇場のロビーには
緑色のスーツをお召しになったお写真とお花が飾られ、多くの方が立ち止まり手を合わせていらっしゃいます。




牧阿佐美バレヱ団初鑑賞時の『ドン・キホーテ』チラシとプログラム。プロ野球にてオリックスが前回リーグ優勝した四半世紀前です。
ところで牧バレヱのレパートリーで、恐らくは1990年頃に上演して以来ご無沙汰状態気になる作品が1本あり。何処かの機会で綴るかもしれません。

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