2021年10月22日金曜日

じっくりと仲を深めていく2人  バレエシャンブルウエスト『シンデレラ』  10月10日(日)





10月10日(日)、八王子市にてバレエシャンブルウエスト『シンデレラ』を観て参りました。2日連続、異なる団体にて同じ作品を鑑賞でございます。
シャンブルの公演は清里フィールド・バレエの配信視聴を除けば恐らくは2006年の『タチヤーナ』以来15年ぶり2回目の鑑賞です。
http://www.chambreouest.com/

※概要はこちら


シンデレラ:川口まり
王子:藤島光太
王子の友人:江本拓   染谷野委
道化:井上良太
継母:深沢祥子
父親:正木亮
姉娘オデット:松村里沙
妹娘アロワナ:斉藤菜々美
老婆(妖精の女王):伊藤可奈
春の精:荒川紗玖良
夏の精:柴田実樹
秋の精:石原朱莉
冬の精:河村美希


川口さんのシンデレラは純朴で内気そうな少女で、かなりおっかない(シャンブルは義姉、継母共に女性が担当)継母や姉妹達からの
仕打ちにも日々耐えながら粛々と過ごす日々を想像。ふと顔を上げて母親の肖像画を眺めたり、父親に抱きつく姿がとても健気で懸命な性格が窺えました。
当初はヒロインにしてはやや地味かとも思っておりましたがとんだ間違いで、舞踏会に現れると1幕で見せていた慎ましい品にきらっと光が当たって
反射させるかのように優美な空気を纏って登場。ゴージャス過ぎないすっきりとしたチュチュやティアラが川口さんの愛らしい持ち味をより引き出していた印象です。
ピュアで軽やかな踊りもとても可愛らしく、ついつい頬がニンマリ。
藤島さんは今年6月の井脇幸江さん舞踊生活35周年記念公演にて拝見し、大変なテクニシャンで、また『トスカ』冒頭での警備員役の制服姿が自然で
まさに美術館なり会場近くの伊勢丹あたりの正面玄関が担当位置であっても何らおかしくない、なかなか屈強そうなお姿で王子のイメージが浮かびづらかったのですが
堂々としていて王族らしい威厳もあり、国の将来を任せて安心な王子。(もうじき選挙ですが笑)ソロでは空気を切るような迫力も見せ
シンデレラに対して、優しく接しつつも頼もしいリードもあり。また王子による靴の持ち主世界大捜索が描かれる昨今は減りつつある演出において
世界各地旅していても体力が持つ力強さもありそうで、スペインやらアラビア周辺まで捜索範囲を拡大しての長旅でも無事帰還する説得力十分でした。

継母と姉妹達は恐ろしい女性陣で、容赦ない仕打ちに耐え忍ぶ内気なシンデレラが実に哀れ。
ただ前日のKバレエと同様、縦横無尽に踊りながら騒動を起こしていくため余程の技術達者でないと務められぬ役でもあり
素早い切り返しも見事で、ドレスや宝石試着での浮き浮き感も全身で表し次第に憎めず楽しんでしまう役柄です。
継母がシンデレラの実の母親の肖像画を暖炉へ投げ捨てる場面は心がずしっと痛みましたがその後安堵の展開も待ち受けていて、胸を撫で下ろしました。

妖精の女王と四季の精達のレベルの高さにも驚愕。妖精の女王は登場の仕方にも驚かされ、老婆の姿のまま暖炉から出てきて(確か)
継母に投げ込まれた母親の肖像画を元どおりに復活させて手渡しシンデレラが何事かと戸惑う最中、薄紫の膝丈チュチュ姿に変身して登場です。
そして四季の精達全員の華やぐ美しさには仰天し、春はピンク、夏は薄緑、秋はオレンジ、冬は白の
東洋人には着こなしが難しそうなパステルカラーに煌めく装飾でふんだんに彩られた、背中には羽付きデザインながら全員容姿と調和。
更には不安定な隙が一切見当たらぬ職人集団で四季の特色を体現し、中でも夏の柴田実樹さんは目も眩むオーラを放っていて異次元な美しさが目に刻まれております。
四季それぞれのソロでも星の精達のコール・ドが付き、水色の衣装で統一されていながら
1人1人が身体を巧みに使い、春の軽やかさからしんしんと降り積もる雪景色に包まれている気分となった冬の静けさまで
フォーメーションの組み替えたりと春夏秋冬それぞれの特徴を見せていた点も見事でした。
中盤にはコオロギも登場。勢い良く跳ねる曲調で、挿入されない版もありますが弾けるアクセントな音楽で、披露されると嬉しくなります。

珍しい演出ながら展開が自然と思わせたのは、シンデレラと王子の仲の深め方。出会ってすぐ悠々とワルツを踊り出すのではなく
惹かれ合うもののお互い緊張してちょこっとぎこちない関係から始まり 、そこで活躍するのが道化。
2人の仲介役をこなしてはあれやこれや助け舟をさりげなく出したりと結婚相談所職員並みの働きぶりで
まずは仲睦まじく隣同士並んで腰掛けるよう促し、暫し見守っていくのでした。奥ゆかしさのある川口さんシンデレラと奥手そうな藤島さん王子の持ち味からすると
じっくり時間をかけて愛を育んでいく関係の流れがいたく自然。そして道化の井上さんが技術も芝居も達者で、
個性的な継母軍団の受け入れ対応もにこやかにささっと行い、実は宮殿の総務或いは広報課職員かと見紛う捌き方。
白塗り奇抜メイクはせずナチュラルな風貌で、また上背もあり手脚が長く、技巧を見せつけることはせず
跳びはねても丁寧な身のこなしで王子も十分できそうな、端正でエレガントな魅力が光る道化でした。
また、シンデレラと王子が腰掛けてからは舞台中央の展開はいかに、と思うところ。そこで躍動するのが四季の精達と星の精達で
1幕のとき以上に舞台を目一杯使って大掛かりなフォーメーション変化を見せ、春夏秋冬それぞれの精達が入れ替わり立ち替わり登場しては踊り
見せ場を作っていきました。尚カバリエは不在の為その分四季の精達がダイナミックに踊り続けるわけで
体力を消耗するどころか益々パワーを増していき、スタミナの維持力にも平伏すばかり。
継母や姉妹達も妖精達の出現と浮遊に現実を把握しきれぬ状態と化し、魔法が充満していくのでした。

昨今の『シンデレラ』演出では短縮化事業仕分けの第1候補に挙がりやすいと捉えているガラスの靴の持ち主探し世界捜索スペイン、アラビア編もカットせず丸々挿入。
捜索道中のハイライトがなぜこの2地域であるのか、真相未だに分からずですが(プロコフィエフの時代は
そこまで東洋文化への憧憬が強まっていた時代ではないと思うため、初演時の振付家の根強い希望か)
友人も引き連れて一生懸命に探し回る旅路を眺めるのも旅情に浸れてなかなか良いものです。

父親にも焦点を当てているのも特徴で、1幕では気弱で妻や義理の娘達に対抗できず、いつもシンデレラの優しさに助けられている状態でしたが
ガラスの靴の持ち主探しで家にやってきた王子達には紛れもなく末っ子の娘であると伝えアピールし、反抗し騒ぎ立てる妻達を毅然と一蹴。父親も変化を遂げたのでした。
その後シンデレラが持ち主であると判明すると、シンデレラ、王子、父親の短いパ・ド・トロワな場面も用意され
僅かな尺ではあっても若い2人の結婚の決意と、受け止める父親の愛情がじんわりと交わる清々しさがありました。

結婚式は再びお城へと場所を移し、家族も舞踏会での招待客も大集合。中央の階段には形状を生かして上から妖精の女王、星の精達も並んでクリスマスツリーのように描画し
柔らかな照明、色彩の装置効果も抜群。ここで継母や姉妹達がシンデレラに詫びて許しを求め、シンデレラがにっこりと励ますやりとりにも安堵です。
そんな家族の和解を見守り後方から声をかけているのはもはや宮殿の総務部長なる仕事ぶりの道化でした。
父親が再度シンデレラと抱擁し別れを惜しむ姿には思わず同情してしまい、最愛の娘が王家に嫁ぐのですから喜びと不安は隣り合わせでしょう。
ましてや逆パターンはより心配も募らせるであろうと昨今の皇室報道を見聞きして思うわけですが、それはそうと
実の娘に愛情を注ぎたいが最初は気弱で妻達に何も言えず、されど遂には毅然とした態度で振る舞うまでとなり
最後は王子にしっかりと娘を託した父親の変化の過程を正木さんは丁寧に、細やかに表現なさっていました。
尚、舞踏会そして靴探しの旅も共にする王子の友人には江本さん、マズルカやアラビアには吉本さん、と
新国立劇場を初期から支えてこられた方々のお顔も見え、変わらずのご活躍が嬉しい限り。
全体を通して柔らかな色調で整えられ、人間関係の変化を丁寧に描写し荘厳な中にも人々の穏やかな息遣いで
満たされて祝福される結婚式で締め括る上品に仕上げられたシャンブル版『シンデレラ』でした。

JCOMホール(旧オリンパスホール)は初訪問でしたが、2階端の席でも見切れが殆どないゆったりとした構造で座り心地も良く
木目調の内装も綺麗で大変観易いホールでした。2階は正面席でも上手側と下手側のブロックは斜めの席配置で、舞台が近くに見える造りとなっています。
JR八王子駅からはアーケード通路を歩いてすぐの場所で、下の階にはスーパーや他に市民窓口の案内もあり
一見バレエを上演する劇場併設が疑わしかったものの笑、エスカレーター或いはエレベーターで上っていくとありますのでご心配なく。




帰り、会場最寄りのJR八王子駅から徒歩で京王八王子駅に向かう通り道のカフェにてかぼちゃのモンブランとスパークリングワインで乾杯。
朝から営業し、食事メニューも多数あるようです。カラメルが効いているのかほんのり苦味もあり、スパークリングワインともよく合います。
時節柄かぼちゃのお菓子もあちこちで見掛けますが管理人、仮装大会には興味沸かず(欽ちゃんの仮装大賞ならば時々テレビ視聴していたが)
かぼちゃといえばシンデレラ、冬至、ほうとうでございます。大きなかぼちゃをささっと運搬するシンデレラ、やはり怪力少女だ。
それは置いて、お店でケーキとお酒の組み合わせも復活です。
さて2月から10月にかけ、今年だけでも5団体鑑賞(NBAバレエ団、久富淑子バレエ研究所、小林紀子バレエシアター、Kバレエカンパニー、シャンブルウエスト)に至り
思いがけずシンデレラ年となった2021年でございますが管理人の人生唯一の全幕バレエ経験も『シンデレラ』で、その年から今年でちょうど◯◯年。
40年か、50年か、もっと昔か現代寄りかは想像にお任せいたしますがせっかくのシンデレラ年となりました為
年末までの何処かの機会に鑑賞感想ではない「不要不急記事」として綴りたいと思っております。

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