2021年10月19日火曜日

城のシルエットの出現と力強い入城 Kバレエカンパニー『シンデレラ』10月9日(土)昼





10月9日(土)、Kバレエカンパニー『シンデレラ』昼公演を観て参りました。2013年の荒井祐子さん遅沢佑介さん主演舞台以来8年ぶりの鑑賞です。
https://www.k-ballet.co.jp/contents/2021cinderella

シンデレラ:小林美奈
王子:堀内將平
仙女:日髙世菜
シンデレラの義姉:戸田梨紗子  辻梨花
継母:ルーク・ヘイドン



小林さんは以前『ドン・キホーテ』キトリやドラマ『カンパニー』等にて勝気な女性役の印象が強く、シンデレラは果たしてと思っておりましたが
後にも述べますがかなりきつめのいじめにもひたすら耐えるもやがて立ち上がって幸せを掴み取るヒロインに嵌り、
無理に可愛らしい少女にせず、少し大人びた造形もまた自然に映った気もいたします。
城に到着し、馬車から降りて背中を向けて一歩一歩門へと近付いていく様子からはただ仙女に導かれて
ふわふわとなすがままにではなく自らの意思で踏み出していく力強さすら感じさせる1幕の幕切れでした。
内側から放つ輝きと溶け合って銀色のスパンコールが散りばめられたポワントも違和感なく、
摩訶不思議に煌めくお姫様そのもの。王子の堀内さんの穏やかなサポートに身を委ねて幸せ一杯な姿がまた、心を和ませてくださいました。
思えば小林さんは当初はシンデレラ役での登板は予定されておらず、矢内千夏さんの代役。Kバレエ情報に詳しくはない私でも矢内さんの突如の退団は驚愕の一報で
東京公演ファーストキャストでの全幕主演が復帰舞台として用意されていただけに退団の真相は分からぬままですが
矢内さん目当てでチケットを購入した方も多かったであろうこの日も堂々たる華麗な舞台を届けてくださいました。

堀内さんの主演舞台は初見で、昨年『海賊』にてプリンシパル任命のニュースや今年のダンスマガジンでの日本の美しい男特集でも目にしており
好きな食べ物の質問で、今春に熊川さんのご出身研究所での記念公演シンデレラに王子役でゲスト出演も果たされたダンサーを始め
ラーメンや唐揚げと回答なさる人もいる中(素朴なご回答で好感を持ったのだが笑)
堀内さんは随分とお洒落なサンドイッチメニューを挙げていらした点も忘れられずにおりますが
表情も踊り方も全身から温厚な香りが広がる王子。今は何かと話題ですが皇族のような柔和な表情、ゆったりとした落ち着きや風格が備わっていた印象です。
踊りは柔らかさと勇壮さ双方があって常時余裕を感じさせ、靴の持ち主探しではなかなか見つからぬ
もどかさをはっきり示し、シンデレラの義姉達に囲まれたときの彼女達への優しい目線を向けつつも困惑する表情も笑いを誘いました。

仙女の日髙さんは長くしなる手脚が雄弁で、杖を一振りするだけでも動きに余韻が残り、空気の色を瞬時に変えてしまいそうな魔法をかけていらっしゃいました。
初鑑賞時に驚いた白いショートカット鬘も華やぐ表情にぴたりと合い、 また背が高く長い手脚でも速いテンポでのソロも音楽に乗って
そのまま客席まで浮遊すらしてきそうなほど。熊川版『シンデレラ』初挑戦で主役との兼任も頷けました。

義姉のいじめがなかなかきつく、(スタダンの鈴木稔版やビントレー版もなのだが、女性が務めると
時折観ていて辛いものが生じてしまうもよう。男性がやると何処かまろやかソフトになる傾向)
シンデレラを床に転倒させたり、布を用いて身体を巻いて追いやっては嘲笑したりと辛辣で激しい行為が多し。
ただ展開には気を配っていて、義姉達の踊りではスピーディーに跳躍や脚技を駆使するてんこ盛りな場面も用意された振付を戸田さん、辻さん共に難なくこなし
意地悪しているばかりではない、義姉達の戯れも踊りの見せ場として披露。また舞踏会ではマカロンのスタンドを手から離さずモリモリと食欲旺盛な面も見せ
マナー違反とは分かっていても食べたくなる気持ちは痛いほど理解できると気持ちを寄せてしまった次第。(西洋甘味とシャンパンやスパークリングワインは相性抜群笑)
ヘイドンさんによる継母の、目にしただけでも背筋を伸ばしたくなる威厳あるお姿、必要最小限のマイム1つで物語が動かしていく様子も何度も見入りました。

熊川さん版の大きな特徴の1つがシンデレラを導く妖精達が四季ではなく身の回りにある物が変身する演出。
四季の移ろいやそれぞれの季節の特徴が音楽に描かれていますし当初は戸惑いましたが、いきなり四季の贈り物と言われるよりは
日頃大事にしている品々や身近な物が変身して助けてくれる存在になったと考えると親しみやすくそして愛着も一層沸くであろうと考察です。
バラの塚田さんは花を模した大胆な柄の衣装や濃いピンクの鬘も可愛らしく、活発に踊る姿がとても軽快。
トンボ岩井さんの、大きな羽を彩った緑色チュチュで空をのんびりと飛んでいるような大らかさや、キャンドル高橋さんの熱く火照らせる点火を彷彿させる鋭い持ち味も目に残ります。
他日主演もされた成田さんのティーカップは、しっとりとした情緒に溢れ、青い陶磁器な模様のチュチュや青いおかっぱ鬘もユニーク。
4人の妖精達はこの場では実にモダンな衣装、髪型に感じる姿でこのまま舞踏会にも登場していたか記憶を辿るうちに、1幕終盤には正装版であろうよりクラシカルな装いで登場。
頭はティアラ、チュチュはきらりとした模様で統一感があり、お城の舞踏会に適している上に、早いお色直し演出にもびっくりです。

またシンデレラと仙女の交流も丁寧に描かれ、不気味な老婆として現れるも優しいシンデレラは頬に触れてきた老婆の手を臆することなく握り
感触は温かであると気づく瞬間を描写。後に老婆が仙女として現れて同じく仙女が再び頬に触れ
あのときのお婆さんの温もりと同じであるとシンデレラの脳内で一致したのであろう様子も示して
ごく短い関わりがいかにして繋がってきたかを事細かに表現されていると思える演出です。
そしてシンデレラはただ導かれるだけでなく、仙女が次に変身させる物探しで困りシンデレラに相談するとすかさずティーカップを差し出したりと
共同作業に参加して妖精達に巡り合う能動的なシンデレラ、崇高なだけではなく助けが必要なときは遠慮なく求める仙女の一面も引き出した面白さも感じさせるひと幕でした。

8年前にも感激した、到着時に舞台後方に出現するお城のシルエットは圧巻。馬車から降り、決意までもが背中から滲む
しっかりとした足取りで歩き出すシンデレラを背中を押すような壮大な音楽とも調和した、荘厳な力が降臨してくる入城です。
時間軸は戻りまして、馬車の走行は頭からすっぽり鹿の顔を被った4頭の雄鹿で、2幕の王子の友人がそのまま兼任。妙にすらりとしているわけですが
徐行運転ののち、少しずつ速度を上げつつ舞台をジグザグもあったか何度か旋回するも安全運転には変わりなく
2008年12月末における初台でのかぼちゃの馬車横転事故の目撃者としては一安心。(この場面はどの版でも心配しながら観てしまいます)
12時の鐘の仕掛けからも目が離せず、帰らねばならぬ不安に駆られるシンデレラが時計に手を伸ばして跳躍するうち
何時の間にかボロ服に変わり靴を落としていく流れで、何時何処で変わったか把握できぬスリル感がありました。

大玉送り思い出す、巨大なオレンジを掲げるオレンジマンとオレンジガールの活躍や、黒や白でシックに決めた星達のめくるめくコール・ドと
4人の妖精たちと王子の友人の4ペアが合わさり舞台を埋め尽くして光り輝いていく舞踏会の見所も尽きず
流線を生かした不思議且つ壮麗な美術も迷宮のようなデザインで眺めているだけでも吸い込まれそうに。
王子がガラスの靴持ち主探しの一報聞いて偽物の靴を作って騙そうとしたのか(違っていたら失礼)
継母が処罰されそうになったところに助け出そうと飛び込んできたシンデレラがぽろっと靴を落として全てが明らかになって
継母を許して欲しいと懇願するシンデレラの優しさが救いとなって一件落着となり
今度は王子と馬車に乗って1人ではなく2人で入城する終盤も胸がじんわり。ヒロインの優しさと強さをしっかりと描き
キャラクター達の行動1つ1つが後々に繋がり、関連の意味を持たせた展開と捉えております。

次回は『くるみ割り人形』を2006年以来15年ぶりに鑑賞予定。以前福岡市の田中千賀子バレエ団の舞台で拝見した、昨年アプレンティスで入団されたのちアーティストに昇格し
大抜擢された世利万葉さんのクララが目的でございます。また15年も経てば演出にも改訂も入っていると思いますが
いかんせん年月が経過している為忘れ掛けている箇所多数。(前回鑑賞時の主演は松岡梨絵さんと輪島拓也さん)定評のある熊川さん版、堪能して参りたいと思います。




東京公演に先立って行われた10月初旬の熊川監督の故郷北海道公演成功も祝し、そして今春熊川さんのご出身研究所の記念公演も『シンデレラ』で
札幌にて鑑賞いたしましたので渋谷駅そばのスープカレー店にてニッカハイボールで乾杯。
すすきののニッカおじさん看板周辺もまた行きたいものです。



季節限定秋鮭入りカレー。大きなかぼちゃも覗いています。Kバレエ版の、斜めに切った感のあるオープンカーかぼちゃの馬車も素敵な形です。
都内にも、北海道発のスープカレー店が随分と増えました。
お店はヒカリエの並びに位置し、帰宅後の夜に放送されたNHKブラタモリの特集が渋谷で
まさにヒカリエ近くの工事現場からは渋谷粘土と呼ばれるものが出てきていると知りました。
それにしても向こう10年程度は続くのでしょうか、来る度に変容する渋谷駅前。
ちなみに、この翌日も別会場にて『シンデレラ』を鑑賞。今年はシンデレラ年なのか、半年で4団体鑑賞でございます。

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