2021年10月15日金曜日

各団体の自負心が伝わる4本構成 NHKバレエの饗宴2021 in 横浜 10月3日(日)《横浜市》





10月3日(日)、NHKバレエの饗宴2021を観て参りました。今年は異例の神奈川県民ホールにて開催です。
来年2月のEテレクラシック音楽館にて放送が予定されていますので、簡潔に綴って参ります。8Kでは中継放送がされたそうです。
https://www.nhk-p.co.jp/ballet/



新国立劇場バレエ団『パキータ』

木村優里
井澤駿
パ・ド・トロワ:池田理沙子  奥田花純(柴山紗帆さんが怪我のため変更)   中島瑞生
ヴァリエーション:原田舞子  中島春菜  飯野萌子  五月女遥
廣川みくり  益田裕子  朝枝尚子  岸谷沙七優  北村香菜恵  木村優子
多田そのか  徳永比奈子  中島春菜   土方萌花  廣田奈々  吉田朱里


今年のニューイヤー・バレエにてセカンドキャストとして配されていた布陣が初台を飛び出して横浜へ。
ニューイヤーで上演予定が直前に公演中止が決定し、ファーストキャストは無観客無料配信がなされたもののセカンドキャストは披露すらできず
約9ヶ月越しで叶ったお披露目です。しかも有観客舞台での上演更には日曜日のゴールデンタイムに放送されますから寧ろ喜ばしい運びとなりました。
2年ぶり開催である饗宴のトップバッターであり、しかも異例の横浜上演加えて洗練されているとは言い難いやや古めかしい趣味の衣装ながら(失礼)
踊る嬉しさが光と化して全身から零れる溌剌な舞台で饗宴の幕開けを飾り、ファーストに比較するとソリスト、コール・ド共に若手を中心とする構成でしたが
何ら遜色なく、より明るく朗らか。素早くも粗さがない腰の捻り方やメリハリをつけた踊り方も宜しく、めでたい心持ちとなりました。
所々に中堅やソリストも投入して粋で美しい朝枝さんや、ヴァリエーションも踊られた飯野さんが頼もしく引っ張っていらした印象です。

木村さんのパキータは驚くほどに軸が強くなり、踊りも余裕たっぷりで鮮やか、回転も安定。顔の付け方や身体の角度、見せ方も膝を叩きたくなるばかりでした。
品を保ちつつ、顔ではなく身体全体でドヤっと魅了させる姿も好印象。
井澤さんリュシアンはやや長めの髪のまとめ方に目を疑いかけたものの(パーマをかけていらっしゃるのか遠目で横や斜め後方から見るとちびまる子ちゃんのお母さん風)
華やかな貫禄十二分で、対角線登場も合格ライン。(勝手に失礼)
そして舞台姿の変化に思わず目を留めたのが、パ・ド・トロワ抜擢の中島瑞生さん。
2年前3月のインプロビゼーションにて実は感性も身体能力も抜群なものを秘めていたと衝撃を受けておりますが古典となると今一つ印象に残らずにおりました。
しかし今回はまず自信に溢れた姿でいたく伸びやか。踊りの線がしっかりとした気がいたし
決してときめきはしないが(失礼)、少女漫画を彷彿させる生来の美形が踊りと共に舞台でも益々活きていた様子です。
思えば中島さんは8月のバレエ・アステラスも出演演目が当日になってから上演見合わせとなり、より一層歓喜が体内から沸き起こってきたのかもしれません。
またヴァリエーションではアルミードの館の曲(冒頭にて鉄琴?でポロンと始まる曲)での飯野さんの輪郭のはっきりとした豊かな身体の語りや
連続跳躍で突っ切るも勢い任せにせず、滑らかで雑味ない職人芸を見せた五月女さんがとりわけ脳裏に刻まれております。


牧阿佐美バレヱ団『アルルの女』

フレデリ:水井駿介
ヴィヴェット:青山季可

茂田絵美子  佐藤かんな  田切眞寿美  三宅里奈  塩澤奈々  西山珠里  高橋万由梨  今村のぞみ
中島哲也  坂爪智来   石田亮一   米倉大陽  石山陸  近藤悠歩  正木龍之介  小池京介


これまで何度も饗宴に登場するも、手堅く纏めた2019年『ドン・キホーテ』3幕以外は首を傾げる出来であった牧バレエですが
今回は1996年に日本のバレエ団としてローラン・プティ作品初挑戦及び本作初上演を遂げた誇り高さを感じさせる仕上がりでした。
主演の水井さん、青山さん共に初挑戦と思いますが、既に何度も踊り込んでいるかと思わす役への没入ぶりで終始身震いさせたほど。
水井さんは悩んだ末に徐々に壊れていくフレデリを、力強さと脆さの強弱を濃く描き、最後ファランドールでの狂おしさへの突入も
ただ闇雲にではなく、次第に沸き上がる昂りを1つ1つ明晰に踊りに表しつつ音楽の抑揚ともぴたりと溶け合って壮絶な最期へ繋げていました。
手の差し出し方や立ち姿でもうっすらされど恐れおののきそうな執念がじわりと伝わる青山さんのヴィヴェットも魅惑的な女性として存在し
2人を見守るかと思えばフレデリを狂気へと後押しするように静かにうねって迫り来る 群舞にも見入り
序盤の行進からしてにこやかな祝宴ではあってもどこか無機質な怖さすら滲み出る空気感も、悲劇の予期に説得力十二分。
主役2人から場面ごとに役割が変化する群舞、そして牧歌的な穏やかさと狂おしい興奮と隣り合わせな音楽どの要素も共鳴し合った舞台でした。


東京シティ・バレエ団『Air!』

<第1曲>松本佳織  斎藤ジュン  馬場彩  新里茉利絵  石井日奈子  西尾美紅
玉浦誠  福田建太  吉留諒  土橋冬夢  杉浦恭太  渡部一人

<第2曲>佐合萌香  土橋冬夢  
中森理恵  濱本泰然

<第3曲>松本佳織  新里茉利絵  石井日奈子  西尾美紅
玉浦誠  福田建太  吉留諒  杉浦恭太  

<第4曲>土橋冬夢
松本佳織  馬場彩  石井日奈子

<第5曲>松本佳織  斎藤ジュン  馬場彩  新里茉利絵  石井日奈子  西尾美紅
玉浦誠  福田建太  吉留諒  土橋冬夢  杉浦恭太  渡部一人

バッハの管弦楽組曲第3番にショルツが振り付けた作品で、ヴヴェ・ショルツ23歳での振付デビュー作。今年1月公演ショルツ・セレクションでのバレエ団初演に続く再演です。
そのときは録音音源であったため、今回は生演奏である点も嬉しい限り。全員茶色系の一見地味なレオタード衣装ですが、音楽を身体中から響かせ
特に第5曲では音の粒がぱっと弾け飛ぶ踊り方が引き立ち、瑞々しい魅力全開でした。
全編通して、音楽を自在に身体で表現していくシティのショルツは幸福を与えてくださると今回も再確認。


谷桃子バレエ団『ジゼル』第2幕

ジゼル:馳麻弥
アルブレヒト:今井智也
ヒラリオン:三木雄馬
ウィルフリード:土井翔也人
ミルタ:山口緋奈子
ドゥヴィリ:前原愛里佳  星加梨那
ヴィリ:永井裕美  森本悠香  塚田七海  荒川みなみ 島亜沙美  北浦児依
古澤可歩子  篠塚真愛   佐藤舞  白井成奈  手塚歩美  石川真悠
島倉花奈  渡部栞  中川桃花  嶌田紗希  奥山あかり 梶原芽衣


この場面をプログラム最後に持ってくる、しかも2幕まるごと上演で饗宴全体の長丁場に貢献な披露に当初は眠気の襲いも予感すらしておりましたが心配無用。
音楽の編曲が妙に明るめであった点が気にかかりましたが、永橋さんの代役で登場した馳さんがまだ人間の体温が微かに残り、アルブレヒトを優しく包むジゼルを好演。
今井さんは久々に観ましたが感情をすっと出して悔いる姿やミルタに怯えながらの死に際の跳躍でも魅せ、
そしてヒラリオン三木さんが前半にて張りと高さのある踊りで恐怖感や絶望を劇的に展開させ、ウィリ達との呼応も強い緊迫感で覆い尽くし躍動していらっしゃいました。
ところでジゼルのお墓、十字架の手前が緩やかな坂付きの芝風の板でパターゴルフに見えてしまったのはご愛嬌笑。
創設者谷桃子さんの十八番であった作品への深い敬意が込められた上演でした。


紅白歌合戦を想起させる全出演者が舞台上に集合してのフィナーレは無しとなり、レヴェランス付きリハーサル映像使用での演出となったのは
寂しかったものの、状況思えば致し方なく次回は復活しますように。有料プログラムも製作されず無料配布冊子のみで規模縮小な異例開催でしたが
日本のバレエ団として初演した振付家の作品や創立者の十八番、中止を乗り越えての披露等、各団体の自負心が伝わる4本構成でした。
テレビ放送を今から心待ちにしております。尚、来年は場所をNHKホールに戻して8月の開催予定です。





開演前に会場上の階のレストラン英一番館にて昼食。メニューの紹介文によれば
「横浜スタジアム、神宮球場にプロ野球9球団のケータリングサービスをしております」とのことで、
ちなんだプレマッチランチを選択。カレー味のスープが芳醇でスパイシー。ホットサンドに唐揚げに温野菜にヨーグルト、と
大変なボリュームである上に、これら以外にもランチ用のスープとゼリー、飲み物が付く、謎の大盤振る舞い。
美味しくさらには窓際ではなくても大窓から横浜港が見渡せる空間でした。



帰り、会場近くにてカウンセラー友人と夕食。遂に首都圏の飲食店でもアルコール解禁!東京近郊においては久々にお店にてワインで乾杯再開記念日。
友人はオレンジジュースを注文したところブランデーグラスのような形、しかも大きなサイズでびっくり。
トマトソースのふわふわオムライス、チキンがたっぷり入っています。日中ならば、窓辺の席では海を見渡しながら食事可能です。まずはささっと食べてマスク着用。
『パキータ』の話題になってもこの日の横浜ではなく前月の白河リュシアンの話につい持っていってしまい
軍服、詰襟だ、白に金色、肩輪っか、ヴァリエーションは勇ましい曲調の音楽であった云々と説明する管理人の話に耳を傾けてくださりこの日も深謝。



帰り道、電車で渋谷まで移動し乗り換えのため降車すると仰天。
目の前に現れたのは、『くるみ割り人形』の舞台が写った新国立劇場看板。しかも王子がこのダンサー!駅によっては異なるダンサー版もあるようです。
(数年前、水道橋駅ではイーグリング版眠り初演時のコーダ写真看板が掲示されていました)
くるみのシャンパンゴールドな衣装も好きですが、白地にかちっとした金ベルトの不思議なデザインが妙にお似合いな
『ライモンダ』ジャンのお姿もいずれは看板化の機会を願います。甲冑を模したブルーグレーな色味も絵になるプロローグや夢の場
マントで帰還(看板化は不可能に等しいでしょうが、これが良い笑)も歓迎。今思い返しても、美しく勇ましく凛然とした騎士であったと再度目が心臓印状態です。
それはそうと、管理人の饗宴2021は神奈川県境を越えて東京都内に入ってもまだ終演しておりませんでした。ヒャッホー!!

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

バレエの饗宴、素敵な公演でしたね。
優里さん、この夏、たくさんの舞台で、大きく深化した様に思います。
帰り道、そんなことがあったのですね。ヒャッホー!!ですね~
優里さんも素敵です♪(笑)
Aki Ogawa

管理人 さんのコメント...

Aki様

おはようございます。華やかに派手路線はだいぶ控えめにはなっても、どのバレエ団も質の高い舞台を届けてくださいましたよね。
木村さんの今夏の舞台出演数の多さに体調も心配にもなりましたがむしろ強味に変えて、饗宴にて表していらっしゃいましたよね。見事でした!
そうなんです、渋谷駅で降りましたらこの看板がお目見えで笑
木村さんのパキータにも心の中で再度賛辞を送りつつ眺めましたよ!