2021年8月27日金曜日

想定以上に高かった三部門連携の壁    子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラSuper Angels スーパーエンジェル   8月21日(土)と22日(日)





8月21日(土)と22日(日)、新国立劇場にて子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラSuper Angels スーパーエンジェルを観て参りました。
1年の延期を経てのオペラ、舞踊、演劇の新国立劇場三部門初の連携企画公演です。
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/super_angels/


※新国立劇場ホームページより抜粋

【総合プロデュース・指揮】大野和士
【台 本】島田雅彦
【作 曲】渋谷慶一郎

【演出監修】小川絵梨子
【総合舞台美術(装置・衣裳・照明・映像監督)】針生 康
【映 像】WEiRDCORE

【振 付】貝川鐵夫
【舞踊監修】大原永子
【演出補】澤田康子
【オルタ3プログラミング】今井慎太郎

【ゴーレム3】オルタ3 (Supported by mixi, Inc.)
【アキラ】藤木大地
【エリカ】三宅理恵
【ジョージ】成田博之
【ルイジ/異端1】小泉詠子
【異端2】込山由貴子
【異端3】北村典子
【異端4】上野裕之
【異端5】長野礼奈
世田谷ジュニア合唱団
ホワイトハンドコーラスNIPPON
新国立劇場合唱団

渡邊峻郁、木村優里、渡辺与布
中島瑞生、渡邊拓朗
(新国立劇場バレエ団)

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
[新国立劇場三部門 連携企画]
芸術監督
大野和士(オペラ)
吉田都(舞踊)
小川絵梨子(演劇)



※日頃オペラや演劇を観ていない、また先端技術を取り入れた芸術を許容する器の不足及び作品理解に至らぬすっからかん我が脳みそが一因であるとは
重々承知しておりますが消化不良な印象に終わってしまい、四川料理以上に辛口かもしれません。
ただ本年中に無料配信があるそうで、管理人と違って柔軟な感性と観る目を持つ鑑賞者にとっては世紀の傑作大プロジェクトであると
賛辞を送る方もいらっしゃると思いますので大雑把短めでもない感想でございます。長々言い訳して、結局話が頭に入らず
途方に暮れているのが正直なところですが、宜しければ以下お読みください。

※2回鑑賞したはずがあらすじは未だに頭に入っておらず、各自新国立劇場の公演ホームページをご参照ください。

※舞台の様子も写真公開されています。
https://ebravo.jp/archives/97859
https://theatertainment.jp/japanese-play/85737/



主人公アキラとエリカの冒険を軸に、ゴーレム3も加わり、そして新国立劇場合唱団や世田谷ジュニア合唱団、ホワイトハンドコーラスNIPPON、
新国立劇場バレエ団ダンサーも出演。総合プロデューサーに大野和士さん、作曲は近年では『ミッドナイトスワン』の音楽を手がけられた
渋谷慶一郎さん、台本は島田雅彦さん、と一流どころが集結した大掛かりなプロジェクトでした。

藤木さんと三宅さんの歌声はオペラ素人からしても伸びやかで聴き心地が良く、合唱団は人数は少なめであっても
地底から響くような歌声で会場を覆って人の声による表現に圧倒されながら鑑賞。
ハンドコーラスは初めて知りましたが手話にのみならず顔の表情も豊かで、世田谷ジュニア合唱団の生き生きとした歌声も会場を明るく包んでいました。

バレエダンサーはアキラとエリカ、ゴーレム3が揃ったややひっそりとした場面から少しずつ登場。
渡邊(峻)さんがアキラの恋い焦がれや異端児扱いされ苦悩する内面をくっきり舞踊描写し、青髪ボンバーヘアにはびっくらこいたが
(この時点でまだ特撮謎衣装博覧会の序章に過ぎなかったとは知る由も無かったが)黒系全身タイツもすっきりとしたラインに救われた感もあり。
最たる驚きは渡辺与布さんで、舞台近くの席から観ても金属のような質感で人間離れした姿。
カクカクと動かす関節隅々までロボットと化し嵌まり役で、SFアニメに登場しそうなキャラクターにも見えたほどです。
木村さんは支配するマザーにあたる役だったようで(この辺りからして私の理解度はだいぶ危うい。参考にならず申し訳ございません)
黒メガネに黒系のスカート、太い縞模様のタイツを纏ったなかなか奇抜な衣装で登場。
脚の部分は20年ほど前に流行した西川貴教さん(T.M Revolution)のHot Limitの衣装を思わせる模様であった気もいたします。
途中で大きな布を翼のようにして踊る箇所もあり、衣装の見た目も含め、1980年代に人気を博した特撮の美少女仮面ポワトリンが
ジュディ・オングさんの『魅せられて』を踊る場面にも見えましたが気のせいか。
衣装はともかく、不思議な近未来空間を力強く支配して映像演出にも負けぬ存在感を示していたのはお見事です。
木村さんの従者なる2人組として活躍したのが中島さんと渡邊(拓)さん。水戸黄門で例えるならば助さん格さんで、主人に仕える頼もしいコンビなのでしょう。
ただこれまた衣装が、良く言えばバットマン、そうでなければ健康番組での虫歯の仕組み説明に登場するキャラクターで、武器なのか防衛用なのか
やや太めの黒い棒を手にしていましたが、形状からしても細身になった卒業証書の筒にしか見えず。

この勢いで終盤のダンサー衣装にも触れて参りますが、土偶から生まれた天使達?だったようで、大玉送りサイズの白く淡い球体を上半身から被りまるで人体ぼんぼり。
それぞれ色違いの全身タイツで、無地のデザインのスピードスケート選手スーツ或いはアニメ『キャッツ・アイ』長袖版、
戦隊物レンジャーといったところ。(もうどう例えたら良いのか分からん笑)
とどめは髪型で、一見黒い水泳帽でも被っているかと思いきや、渡辺与布さんのご投稿によれば
鬘を被る前のネットを被った状態だったとのこと。鬘装着が本番に間に合わず、未装着で登場するハプニング発生のコントですか笑。
そういえば初日よく目を凝らしてみるとネットにも見えかけ、渡邊(峻)さんに限ってはこれから化粧に臨む歌舞伎俳優にも思え、
ああ着物と髷がお似合いであるのはつい先月も再度証明されたばかりであったと思い起こしては暫し回想に耽ったわけですがそういう問題ではない。
今回は実に奇抜でしたので、髪型観察はお預けです。

振付は工夫に富んでいて、歌手やオルタ3の妨げにならぬよう配慮し狭いスペースでもしなやかな肢体を駆使し身体の線までが美しく見えるよう行き届かせ
制約が多々あったであろう、またバレエ音楽ではない新制作曲に溶け込ませての振付を編み出した貝川さんには頭が下がるばかりです。
そして、ジーパン刑事も仰天なんじゃこりゃ衣装も着こなし三部門連携企画におけるバレエ団代表陣も讃えずにはいられません。

オルタ3の声質が響きにくかったのも難点で、感情を有し表情も変化するロボットの開発は容易ではなく、技術者達の努力の結晶であるのは分かりますが
せっかくの歌声が聴き取りづらかったかと思います。仮にもう少し小さな空間、小劇場や中劇場ならば問題無かったかもしれませんが
いかんせん普段は『アイーダ』や『ワルキューレ』を始めオペラの大作を上演しているオペラ劇場では声が割れて響いてしまうのか字幕無しには聴き取れず。
例えは決して良くはありませんが、プライバシーのために音声は変えていますのあの声でオペラ劇場で歌っている印象を持ってしまいました。
また映像駆使がふんだんにあり、現代では舞台での映像演出も珍しいことでは全くなく効果的に用いている作品もいくつもあります。
ただ今回は多用し過ぎている感があり、冒頭から街中を空中疾走するシーンは自身も飛行している気分となって
中盤には立体カーテンの中を飛行し辿っていく映像もありましたが、自宅にゲームを所有した経験はなくてもなぜかシミュレーションゲームは好きな(滅多にやる機会ないが)
またジブリの飛行系作品を筆頭に高所や空飛ぶ行為に昔から憧れを抱き、浦安市の夢の国では姫や王子はバレエで事足りているからかおとぎ話の人物達よりも
スターウォーズをテーマにした、座席が揺れて宇宙飛行している心持ちとなるアトラクションを好み
何年か前には遊園地での絶叫マシンの実験参加経験もある管理人は本来喜々とする、全身が吸い込まれそうな映像ではあるものの
オペラの舞台で度々目にしたいかと聞かれたら複雑。時折登場するマザーの顔も、脳科学の番組での説明に出る映像を想起させ、オペラの世界観には入り込めずでした。

歌、舞踊、音楽、とそれぞれの部門は一流どころが集結していただけあり、延期後の方がむしろ世間の状況は悪化している最中に上演できたのはまず喜ぶべきこと。
だからこそ渋谷さんの音楽は葛藤しながらもバレエダンサーを目指す心閉ざした少女の
孤独な内面も覗き取れる、昨年公開され話題となった『ミッドナイトスワン』テーマ曲が素敵であっただけに、噛み合っての昇華があればと惜しまれます。
コロナ渦による制約だらけで入念な合同稽古の開催も困難であった実情は理解できますが。

どうしても気にかかったのは、初の三部門連携企画と謳っていながら初日は芸術監督お三方揃ってのカーテンコール登場もなかった点。
オルタ3のレベランスには沸きましたが、舞台転換や幕切れの中途半端な印象に終わってしまい、そもそも本当に連携していたのか疑念を持たざるを得ませんでした。
舞踊部門は昨年中に大原永子さんから吉田都さんに変わったため吉田さんはそこまでこの企画に携わっていないとは思われますが
周囲の方々も仰っていましたが大きくお名前も掲載された演劇の小川絵梨子さんの登場がなかったのは物足りず。
あれこれ勘繰るのは宜しくありませんが、責任者人事変更や本番においても各出し物?のぶつ切り感により
内部分裂や無茶ぶりがこりゃ明らかであろう感が本番でも押し出されてしまった今夏の一大スポーツ開会式がどうしても思い浮かんでは消えず。
素人がとやかく言えることではありませんし、私が単に見る目が無いならばそれまでですので、今年中を予定されている配信を是非ご覧ください。



※バレエダンサーの皆様の衣装。秋葉原か、それともコミケ会場の東京ビッグサイトを想像させます。








思うところはあったが、天使ビールで乾杯。



ロボットと人間の共生は先代の偉人達から憧れ続けてきたテーマで、遡れば『鉄腕アトム』、『ドラえもん』
そして管理人が好きな映画上位5本に入る『天空の城ラピュタ』もそうでしょう。ビントレーの『アラジン』を観て以来ラピュタこそ舞台化、バレエ化できそうに思えます。
写真は管理人、ジブリの美術館にて昨秋撮影。
ムスカは中家さん?あっ、もっと観たいダンサーも。終盤小野絢子さんシータ(既に妄想が)と命を削り合っての対峙場面、たいそう緊迫感が沸きそうでございます。
現在5分にまとめた今年配信千秋楽日の『コッペリア』は勿論、一触即発の火花を散らせていたパリスとジュリエットの組み合わせやマノンとレスコー、
シェイクスピア・ソネットでの翳りある美しいペアが忘れられぬお2人、そして本日夜の時点で書店に並んでいたファッション雑誌でのパール特集グラビアでも美の共演。
人体ぼんぼり球体以上に妄想が膨らむ一方です。


※いつも以上に全くまとまりが無い感想で申し訳ございませんでした。

2021年8月24日火曜日

奔走が実を結んだ宣言下でのフェス   第16回 世界バレエフェスティバル Aプログラム 8/15(日)




8月15日(日)、第16回 世界バレエフェスティバル Aプログラムを観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2021/wbf/index.html


※例年よりは少ないながら演目多々あるため、長短まちまちな感想ですが全て綴って参ります。

※キャストや演目はNBSホームページより
指揮: ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス
  管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

ピアノ: 菊池洋子(「ル・パルク」、「瀕死の白鳥」、「ライモンダ」)
チェロ: 伊藤悠貴(「瀕死の白鳥」)


─ 第1部 ─

「ゼンツァーノの花祭り」

振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
  音楽:エドヴァルド・ヘルステッド
 
オニール八菜、マチアス・エイマン

パリ・オペラ座の2人がブルノンヴィルしかもゼンツァーノ⁈と意外な選択に思えたものの、エイマンの脚捌きやにこやかさに作品そのものの格が上がった印象。
オニールさんは純朴な村娘よりももう少し勝ち気そうな役の方が合っていそうでしたが
淡いトーンで整えた衣装姿が可愛らしく、何よりエイマンと幸福一杯に踊っていた幕開けでしたからそれで良し。


「ロミオとジュリエット」より 第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:レオニード・ラヴロフスキー
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
 
オリガ・スミルノワ、ウラジーミル・シクリャローフ

良い意味で驚かされたバレエ団の枠を超えたパートナーシップその1。ジュリエットのイメージが全く沸いたこともなかったスミルノワが
落ち着きがありつつもピュアで優しいヒロインを造形。そしてシクリャローフのロミオが情熱を前面に出しての求愛っぷりで
こんなに全身から熱きものを醸す人であったかと驚愕。ロミオの止まらぬ勢いに引っ張られ
ジュリエットもみるみると心を開いていく様子を上品にされど愛情を凝縮して描くお2人でした。
ラヴロフスキー版ですからさほど疾走感も派手なリフトもないものの品ある古風な格式高さが合っていた印象です。


「パーシスタント・パースウェイジョン」

振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ

渋めのシンプルなブルーのワンピース姿の菅井さんがしっとりと丁寧に紡いでいく踊りが舞台に広がり観ていて気持ち良く
トルーシュとも息がよく合い、決して華麗な作品ではないながら内側から光を発して眩しいほど。
力強く超絶技巧系も得意な菅井さんですが、こういった流れるようなコンテンポラリー(ネオクラシック?)ももっと観たくなります。


「オネーギン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー

ドロテ・ジルベール、フリーデマン・フォーゲル

コロナ渦前最後の来日ガラであったコジョカル・プロジェクトに続き、NBS公演本番直前に困ったときの救世主フォーゲル再び参上。
入国規制でAプロに間に合わなかったユーゴ・マルシャンの代役且つ急遽演目変更で登場です。小柄で華奢なジルベールはまだ夢見がちな少女であるタチヤーナに嵌って
鏡に触れて不穏な胸騒ぎを覚える戸惑いの表現も上手く、そして鏡から出てくるオネーギンのやや不敵な笑みの楽しそうなことよ笑。
後半にかけて曲調もじわっと盛り上がりスライディングな振付もスムーズ且つ速さもあり、タチヤーナの束の間の幸福の絶頂を描き出していました。


─ 第2部 ─

追悼 カルラ・フラッチ、パトリック・デュポン(映像)

今年逝去した大スターを追悼。フラッチは確か1988年の『ラ・シルフィード』。愛くるしく戯れるこれ見よがしでなくても頬が緩んでしまう可愛らしさでした。
そしてデュポン。東京バレエ団との共演『白鳥の湖』(幕ごとに主役が代わる豪華版だった気がいたします)
1幕道化にて、ブンブン回るわ弾けるわ、しかし観客や家庭教師との対話も申し分なく、会場全体を沸きに沸かせていました。
更に噂には聞いていた『ドン・キホーテ』。次々と繰り出すド派手テクニックの連続でただバレエの品からはぎりぎりはみ出ない程度には抑えていたためか批判なんぞできず
もはや黄色い歓声か悲鳴か笑いか、混在した賛辞や仰天の声がウェーブのように響いていました。映像であっても、2021年の客席から笑いも多々発生。
1985年の舞台であったようで、私がバレエ鑑賞に興味を持つ4年前。あと何年か早かったならば鑑賞できたかもしれないと悔やみつつも
ほんの少しだけ、当時の客席に居合わせた気分を味わえました。


「白鳥の湖」より 第1幕のソロ

振付:パトリス・バール
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
ダニール・シムキン

シムキン、ソロで登場。昨年7月にNBAバレエ団『ジゼル』客演予定が中止となり、王侯貴族の役は初見です。
歴史に刻まれる大スター追悼直後に憂鬱な場面からの開始は容易ではなかったでしょうが
品もあり伸びやかであってもどこか内向きな様子が全幕の中の一コマであると伝わって好演。
シムキン=レ・ブルジョワの印象を長年引き摺っておりましたがそろそろ刷新せねばと反省。


「ジュエルズ」より "ダイヤモンド"

振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・チャイコフスキー 

アマンディーヌ・アルビッソン、マチュー・ガニオ

バレエフェス鉄板演目ですが男性がサポートのみで少々寂しい気も。私の中ではロパートキナやルテステュ、スミルノワ、
写真でしか見ておりませんがファレルといった近寄り難い女王然としたダンサーによる披露が咄嗟に浮かびますが
アルビッソンはより大らかで体温を感じさせ、脚先でゆったりと語り紡いでいく踊り方でまた違った魅力。ガニオは恭しく仕え、歩く姿もエレガント。


「マノン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:ケネス・マクミラン
  音楽:ジュール・マスネ

金子扶生、ワディム・ムンタギロフ

急遽初登場金子さんのマノンは毒気や小悪魔度は抑えめでいじらしい視線の向け方にどきりとさせられ引き込まれ、
ムンタさんデ・グリューのマノンに翻弄され首ったけな姿、マノンによるサポートでの回転してからの後脚もよく伸びて身体で恋を高らかに歌っていました。
ペアを組む機会は少ないのか無防備な飛び込みや受け止めはなかったように思えましたが、
先々の試練どころか全幕ならばもうドアの辺りに修羅場の原因となる人物が忍び寄っているとは知る由も無いカップルの歓喜が伝わる寝室でのパ・ド・ドゥでした。


「ル・パルク」

振付:アンジュラン・プレルジョカージュ 
音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

アレッサンドラ・フェリ、マルセロ・ゴメス

フェリが来日してフェス参加、これも恐ろしや。以前観たガラのときよりも若さが増している気さえするほどで
淡々とした中から情感をそっと滲ませていき、ゴメスに身を委ねて抱きつき空中遊泳するような回転も安堵に浸っているような快感が見て取れました。
ゴメスも隅々まで行き届いた踊りで、ゆったりとした曲調に合わせ心を砕くように視線や心の通わせ方から懐の深さを思わせます。ベテランの味わいに触れた思いです。


「海賊」

振付:マリウス・プティパ 
音楽:リッカルド・ドリゴ 

エカテリーナ・クリサノワ、キム・キミン

良い意味で驚かされたバレエ団の枠を超えたパートナーシップその2。ボリショイとマリインスキーの混合ペアが炸裂です。
お2人ともバレエ団きってのテクニシャンかと思いますが決して乱雑にも大味にもならず、ガラであっても派手さを優先させず
しかしエネルギッシュで随所に光るアクセントが絶妙で、何度膝を打ったことか。互いを立てながらの幸福感たっぷりな表情も宜しうございました。
クリサノワは来日公演にてコール・ド時代に『ラ・バヤデール』影のトリオに抜擢された
かれこれ15年前から注目しており、追加決定でフェス初参加と知った際には心から歓喜。華麗なタイプではないかもしれませんが
歌うような開放感ある踊りにうっとり。このパ・ド・ドゥはチュチュのほうが好みですが淡いターコイズブルーのシンプルな膝丈の衣装もとてもお似合いでした。
キムは全身が曲の抑揚と共に躍動するかのような音楽の捉え方やポーズが微塵も崩れず隙も全く見当たらず
ときめきは全くしないのだが(失礼)ダイナミックでありつつ折り目正しさも備わった踊りの質感やきちんとお仕えしている姿勢はたいそう好みでございました。
スミルノワとシクリャローフ組に続き、ボリマリ混合ペアを満喫です。そして『海賊』パ・ド・ドゥの理想及び基準値がまたもや上昇。



─ 第3部 ─

「スワン・ソング」

振付:ジョルジオ・マディア 
音楽:モーリス・ベジャールの声、ヨハン・セバスティアン・バッハ
ジル・ロマン

当初は団員ではなく監督がご出演はどうかと思いましたがBBL芸術監督を同時平行で今も踊る回数は豊富なのか身体も動き方も若々しく、失礼を詫びた次第。
少し取り入れたシックな映像?を最小限に抑えていた点もバレエを邪魔せず効果的でした。(バレエでもオペラでも映像演出は下手すると作品が薄くなってしまいがち)
10月にBBL来日公演が予定されており4度目の正直か、開催できますように。


「オネーギン」より 第3幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・クランコ
  音楽:ピョートル・チャイコフスキー

エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル

フェスの定番で本家シュツットガルトペアによる披露。このパ・ド・ドゥ1本の抜粋でもタチヤーナの解釈は皆それぞれで
バデネスは後悔は一切なくきっぱり拒絶、立ち去りを毅然と命じるタチヤーナ。フォーゲルは写真で観た限り(2018年のシュツットガルト来日公演、オネーギンは鑑賞できず)
白髪も入れていなかったのか全幕のときよりも見た目に若さを残した役作り。悲しみを帯びて縋る哀れな様子で、タチヤーナによるタイヤ引きなる
引き摺りながらのくるりと客席に背を向けて反る箇所における、オネーギンの目から僅かな希望も消え失せていくさまが
タチヤーナに完全拒絶される劇的幕切れをより重々しくさせていました。

「瀕死の白鳥」

振付:ミハイル・フォーキン 
音楽:カミーユ・サン=サーンス

スヴェトラーナ・ザハロワ

空気を静謐に一変させながらザハロワ登場。ザハロワが中途代役であるとは、今回の特異な状況下でのフェスの試行錯誤を物語ります。
野性味は薄めでひたすら気高く滑らかな腕運びで惹きつけ、死に際にいる感じではなかったが(失礼)静かに生から離れていくパタリと座り込む最期まで美が宿る白鳥でした。


「ライモンダ」
  振付:マリウス・プティパ 
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
 
マリーヤ・アレクサンドロワ、ヴラディスラフ・ ラントラートフ

紅白歌合戦で言うならば石川さゆりさんの『天城越え』、北島三郎さんの『祭り』にあたるであろう『ドン・キホーテ』が無い2021年プログラム。
大トリの行方に注目が集まっていたことでしょう。締めに相応しいベテランのお2人です。
『ライモンダ』は2018年のフェスAプログラムでも披露していたようで、Bプログラムしか観ておらず同じ曲構成であったかは分かりかねますが
夢の場のアダージオ、ジャンはジャンの3幕ヴァリエーション(グリゴローヴィヂ版のためトランペットの主旋律で始まる曲ではない
本来は子供の踊りとして作られたほうの曲)、ライモンダ3幕ヴァリエーション、
コーダは2幕のライモンダと友人の踊りの部分を使用する混在版。そういえばアナニアシヴィリとファジェーチェフが何かのガラで披露した際は
決闘後のアダージョ、各々のヴァリエーション、2幕のライモンダと友人コーダの曲構成であったと記憶しております。

さて2021年に話を戻します。アレクサンドロワはクラシックの技術面は全盛期を過ぎていると認めざるを得ないかとは思うものの
1つ1つのステップがより丁寧に連なり、そして豊かな情感を放ちボリショイのプリマとして長年踊っている誇り高さに手を合わせたい思いに駆られました。
白い衣装に銀色で縁取られたラインやきらりと光を帯びた細かなレースの装飾、ティアラは無しでもボリショイ特有なのか
リボンと編み込んで耳上に弧を作る髪型を目にでき感激です。今回もバレエフェス鑑賞の決め手であり
好きな海外の女性ダンサーを聞かれたら、ボリショイ来日公演にて 初めて観てニキヤのグラチョーワ、ザハロワにも引けを取らぬ
堂々たる美しい、知性も備えたガムザッティに魅せられて以来15年以上経った今も変わらずアレクサンドロワと答える管理人でございます。
ラントラートフは薄い水色の特に胸元が騎士らしいデザインの衣装でアダージオではマント付き。随分と優男に見えなくもなかったが(失礼。夢の場だから良いか)
威厳ある姫に優しく忠実にお仕えしている構図としては申し分なく、技術も盤石で着地や跳躍も柔らかく無駄のない踊り方で気品もあり。
マント姿に関しては元々理想基準が妙に高く、しかも2021年はライモンダ年なのか(実は今月末も来月もでございます)
今年6月11日(金)16時少し前の約15秒間における失神級に絵になる姿を渋谷区の某劇場内で眼前にした体験を機に
どうしても目を光らせてしまうのは致し方なく、それはさておきドンキではなくても大トリに納得なお2人でした。

カーテンコールは恒例の『眠れる森の美女』アポテオーズで女性のアルファベット順に登場。最初は、アルビッソン、アレクサンドロワ、と続きました。
そして今回からの演出、プロジェクションマッピングによる花火の打ち上げ。舞台背景のみならずもっと上の方や、
舞台のサイドも使用しての大掛かり演出で出演者達も後ろを向いて喜びを体現。(連日であっても毎度興奮しそうだ)
すっかり寛いでいる人もいればシムキンだったか、手で花火の弾けようを表現していたりと様々な反応で面白く、
昨年同様に花火大会の開催が困難な今年
映像駆使によるしかも種類も多彩な花火の打ち上げは出演者も観客も関係なく会場が一体化して祝祭を喜び合ったように思えます。

決行それとも中止の可能性がむしろ高いなど噂や憶測もまちまちで、次々と来日公演も中止に追い込まれる中
NBSも対応疲弊に限界が近づく日もあったのは想像に難くなく賛否両論あらゆる意見が届いているであろうと察します。
現在だけでなく、遡ればぎりぎりで開催した2020年3月のパリ・オペラ座来日公演からずっと悩まされていたと思うと
予定出演者数は減ったとはいえここまで各地のバレエ団やダンサーが来日して隔離にも協力して勢揃いした舞台が目の前に広がり
出演者にも、奔走したNBSにも頭が下がるばかりです。運営にあたってはまた課題も出てきたとは思いますが
秋以降の芸術関連の来日公演も中止や延期が続いて不安な時期が続く中、全日程予定通り終了できたことにまずは拍手を送りたいの一言に尽きます。
Aプロに関しては上演時間が以前より格段と短くなり、3部構成休憩2回で約3時間15分。このぐらいがちょうど良いと感じましたので
今回は中止になりましたがガラはともかく次回以降も継続を。













午前中にはクラスレッスンを見学。ゴメス宴会部長健在!(レッスンの様子は記憶を辿り、明日あたりここに追加して書いて参ります。宜しければ、お越しください)
会場内の装飾は空いていたこの時間に撮影。



※クラスレッスン
別日に公演鑑賞する知人が譲ってくれましたので、朝から行って参りました。以下、情報曖昧不正確箇所も多々ありますが悪しからず。
参加者はフェリ、ゴメス、ロマン、スミルノワ、シクリャローフ、金子さん、菅井さん、フォーゲル、バデネス、
オニール、ガニオ、エイマン、アルビッソン、ジルベール、トルーシュ、あとマルシャンも?(オペラ座Tシャツであったと記憶)だったか。
センターからはフェリとロマンは抜けていたと思いますが、団や国籍、キャリアの垣根を越えた、世界レベルのレッスンを存分に楽しみ隈なく観察。
バーにて、最後にライモンダの手を頭の後ろに当てるポーズで締め括ったり、突如面白い歩き方を披露したりとゴメスが相変わらず宴会部長笑。
近くのジルベールとトルーシュが笑いを堪えていました。シクリャローフとエイマンはセンターレッスンの合間に後方でバジルポーズごっこ?を楽しそうに行い
晴れやかに腕を掲げるシクリャローフに対してエイマンは優雅。身体に染み付いたスタイルが瞬時に窺えました。
バデネスとが黒鳥の腕の動かし方について金子さんに声をかけていたり、ジルベールとフォーゲルは当日踊るオネーギン第1幕パドドゥの
スライディングさせてからの抱き起こし?箇所を何度も確認し、ゴメスが立ち会っていたりとバレエフェスならではの光景を度々目にできたのは大きな喜びでした。
そういえばセンターにて、入るタイミングを間違えたのかオロオロ右往左往しながら一目散に抜けた、一瞬大人の初級クラスかと思わせる光景も。ガニオでした笑。




お手紙ポスト。立ち会いスタッフがおらず、形状からして中学校や高校の生徒会投書箱を思い出す素朴な箱で
お花お届けサービスに比較すると目立ってはいなかったようだが、活用いたしました。
若き日の不勉強が原因である怪しい文法祭りの内容、通じたであろうか。



帰りは上野駅近くにて、ロシアのデザート盛り合わせとロシア紅茶で乾杯。
メレンゲがさくさくとしたパブロワやジョージアのヨーグルト松ぼっくり蜂蜜入りなど一口サイズで集結です。
ロシアといっても広くメソッドも異なるが、 やはり私は昔から旧ソ連時代を含んでロシアバレエが好きであると再確認。

2021年8月20日金曜日

同一のテーマでもラテンからAIまで  大和シティー・バレエ  SUMMER CONCERT 2021 想像 × 創造 Vol.2『追う者と追われる者』  8月14日(土) 《神奈川県大和市》




8月14日(土)、大和シティー・バレエ SUMMER CONCERT 2021 想像 × 創造 Vol.2『追う者と追われる者』を観て参りました。
https://www.ycb-ballet.com/s
プロデューサー佐々木三夏さんによる大和シティーの紹介や、作品解説、リハーサル動画も掲載。ララの詩は使用曲も明記されています。https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000293.000013972.html


福田紘也さんへのインタビュー。作品に思わず興味を持ってしまう福田さんの感性の面白さを始めとするお話や
これまでの振付の逸話や師匠矢上恵子さんの音楽作りの裏話など満載です。
https://spice.eplus.jp/articles/289861



「ララの詩」振付 / Braulio Alvarez

東京バレエ団でも何本もの作品を発表していらっしゃるブラウリオ・アルバレスさんによる
故郷メキシコにゆかりある音楽を集め振り付けた作品。知識不足でアグスティン・ララの名前も初めて耳にいたしました。
弾ける系からしっとり甘美系まで多彩な音楽構成で、また曲によって大人数もあれば男女のパ・ド・ドゥや女性2人組もあり変化に富んで振付も飽きさせず。
中でも一昨年のアステラスでのショルツ作品で初鑑賞以来また観たいと願っていた石崎双葉さんと
佐々木アカデミー卒業生で昨年は情勢の関係上、帰国しての出演が叶わなかった大谷遥陽さんの凛とした力が光るデュオ
盆子原美奈さんの濃厚な色気と振付が染み込んでいると窺わせるしなやかな躍動感が誠に宜しく
そして五月女遥さんと渡邊峻郁さんによる喜びが弾け飛ぶパ・ト・ドゥに晴れ晴れした気分でおります。

  渡邊さんは前週の佐々木アカデミー発表会におけるBTSの曲にのせたフィナーレに比較すると格段に明るく(じわりと弾けていくフィナーレも勿論大歓迎であったが笑)
昨年のしっとりしたノクターンの調べに引き続き、五月女さんとも良きペアを構築され
風変わりなリフトからの突如の跳躍もぱっと描き出すフォルムが美しく、満面の屈託ない笑みにも癒された一夜でした。
ラテンとはいっても多岐に渡りますが、トゥールーズ時代に踊られた土の上で披露するタンゴ作品Valserのようなシリアスな作風
或いは濃密さと揉み上げが伝説化している一昨年1月の藤原歌劇団『椿姫』闘牛士のようなギラギラ押し迫り系のみならず
海岸で戯れているような(解釈大違いでしたら失礼)ルンルンとした振付も意外にもいけると発見でき収穫です。
さて発表会もまとめて大和でもやります髪型観察、今回も二重丸。前髪も程よく残し、ぺったりにならぬ自然な纏め具合で一安心。

ただ作品全体で約20分は非常に短く感じてしまい、振付自体の中身が濃かったかと聞かれたらそうでもなく
大塚卓さんや玉川貴博さん、南江祐生さんら東京バレエ団からも期待の若手男性ダンサーが何名も出演していながら、存分な魅力が伝わらず終いだったのは正直なところ。
何より周囲の観客において異口同音であったのは衣装についての意見で、女性は色違いで淡い色と黒を重ね照明に反射しキラリと光るドレープ状スカートに
花の刺繍で彩られた黒のノースリーブがお洒落で好評でしたが、問題は男性衣装。上は光沢のオーシャンブルー?で胸元は大きく開き
不思議なベルト付き下は白いパンツ。万博メキシコ館にいる日本人係員か、リゾートホテルのフロント、
また男性全員が横に揃うと一見24時間テレビにも思え、ならばフィナーレはサライだ、マラソンも追う者と追われる者に当て嵌まるか、そういう問題ではない笑。
他にもイーグリング版眠りに並ぶであろう様々な呼び名が誕生するほどたまげる衣装でございました。

ただ思い出したのは、話は逸れますが20年以上前にメキシコにホームステイした方の帰国報告会を聴講する機会があった際、メキシコに対するイメージを問われ
サボテンの前でドンタコスな服を思い浮かべる人が多いと思うが違いますと一石を投じるまでとは言わずとも
大半を多感な青少年が占めていた出席者達に先行しがちな印象に注意喚起をなさっていて、当たり前ではあるが海に面した国で海洋貿易も栄えている国であるはずが
即座にサボテンを浮かべる勝手な思い込みは宜しい傾向でない。今回ララの故郷港町のベラクルスを描いた「Veracruz」も
バレエとともに味わえたのは良き事であったと当時の自身(既に青少年でもなかったか、想像にお任せいたしますが)にも伝えたいと思った次第です。



「Disconnect」振付/宝満直也

新国立劇場でのDance to the Futureで発表され、大和の地へ。何度か観ておりますが、その度に寂しさや愛おしさ、悲しさが混在した内面を
静かな曲調と溶け合った宝満さん五月女さんのお2人が身体で訴えかけ、踊り重ねて欲しいそして定期的に鑑賞したい作品です。
今回は初の生演奏で、リヒターの曲を生で聴ける機会はそうそうなく、演奏者が後方の高さの異なる台に1人ずつ並ぶユニークな配置でした。
紺色のワンピース衣装の五月女さんが色っぽくも可愛らしい姿で、しかし身体は強靭。お見事でした。



「最後の晩餐前」振付/ 竹内春美

美術の教科書にも必ず載っている名画を捻ってバレエ化する大胆発想にまず驚き。幕が開くと横長のテーブルが置かれ、絵の通りな構図を立体再現。
そして私の中ではNHK番組『ふるカフェ系 ハルさんの休日』https://www.nhk.jp/p/furucafe/ts/W6Z2W3826N/
ハルさんの印象が強い渡部豪太さんのダンス披露も他の出演者とも遜色ないレベルに失礼ながらびっくりでございました。
フィリップ・グラスの終わりが見えぬ曲調にも謎が多々潜んでいそうな絵の人物達の個性が嵌っていたと見受けましたが
突如のジーザスクライスト スーパースターの歌は唐突であったかもしれません。これは偶々家族にこのミュージカル好きがおりまして、
先月下旬にはコンサートまで行っており事前には散々曲を聴いていた様子で我が耳にも入っていた影響があるのも一因とは思いますが
可能な限り声ではなくダンスで表現して欲しかった気はいたします。
余談ですが、『最後の晩餐』ではないものの似た絵のモザイク画が管理人が嘗て通っていた水泳教室のプールの目の前に飾られていて
呑気な性分の子供も優しく受け入れてもらい水との戯れ及びレベル毎のワッペンが魚介類のため(初級は蟹や蛸で上達すると秋刀魚やトビウオ等)
魚好きにはなったが水泳そのものは不得意なまま終わったのはさておき水面から顔を上げる度にモザイク画が視界に入り
食卓を囲む人々の幸福とは言い難い表情を不思議に眺めていたことは今もよく覚えております。
大和へ行く際に必ず通る登戸駅近くに今もあり、新百合ケ丘や大和のシリウスへ出向く度に懐かしさを募らせておりますが変わらず盛況のようです。



「オペラ座の怪人-地下迷宮-」振付/ 池上直子

アンドリュー・ロイド・ウェバーのミュージカル曲とバッハの曲を組み合わせての作品で、ファントムの心理に焦点を当てた描写。
昨年『牡丹灯篭』和尚役に続き登場の瞬間から渡邊拓朗さんファントムの支配感に驚嘆。耳に馴染みあるテーマ曲の仰々しさに負けぬ妖しい魅力をパワフルに放ち
上背やしっかりとした体格が黒く裾の長い衣装姿をより近寄り難い人物へと押し上げていたと思わせます。床を使った素早い振付も多々ありましたが
四肢を持て余さずむしろ全身から観るモノを仰け反らせる重厚な怖さの放出に目を見張るばかりでした。
一方ファントムの心の闇に迫る場面では葛藤や孤独感をも滲ませ、ソファに腰掛けた姿だけでも暗い過去を背負っての人生が覗き見える様子で
子供時代の回想では子役のダンサーの好演もありますが、過去を愛おしむも戻れぬ苦しさの表現も胸を突き、強さと脆さの隣り合わせに生きていると窺わせるひと幕です。
木村優里さんのクリスティーヌの空気をぱっと一変させる清純な雰囲気も作品にピュアな美しさを吹き込み、
ただ綺麗なだけでなく底知れぬ力を秘めていそうで好奇心旺盛な性格が、人々が寄り付かないファントムにも臆することなく近づけたと納得できます。
ファントムの心理を表す黒い衣装のアンサンブルも迫力を備え、激しいうねりを見せたり
ファントムに吸い付いてクリスティーヌを脅かしたりと運命共同体のような存在にも感じさせ、ファントムの屈折した心の内を集合と離散の変化を持たせての表現でした。

最大の見せ場であろうクリスティーヌがファントムの仮面を剥がす禁じ手に走る瞬間は、ファントムの憎悪に燃える怒りと
後方に下がり怯える後ろ姿でも語るクリスティーヌの呼応の緊迫感が極致へ到達。逃げ惑うクリスティーヌと
見られたくない面を露にさせられたファントムの切迫するパ・ド・ドゥから目が離せずでした。

1点惜しまれるのは、音楽の使い方。ウェバーの音楽が既に完成されていますから極力は他の作曲家の作品を使わぬ構成であって欲しかったと思っております。
中でも先程にも挙げた仮面を剥がしたときの場面こそ、ウェバーの曲をそのまま合わせて聴きたかったものですが、バッハのトッカータとフーガの後半部分を使用。
状況としては、また追う追われるの関係の表現においてはしっくりくる曲調ですが、『オペラ座の怪人』作品中と考えると違和感が否めずでした。
ただこれも我が感性の柔軟性の乏しさが起因とも思われ、これまた家族2名が2005年頃に公開されたこのミュージカル映画を好んでおり各々サウンドトラックまで購入。
休日を始め在宅中はどちらかが延々と聴いていたため自然と刷り込まれ、嘗て週2回程度勤務していた家電量販店の店内曲ですら脳内旋回でしたから
勧められ映画を観る前から劇中曲だけは刷り込まれ、映画館へ行っても自宅にいる感覚となり非日常空間に身を置いた気分にはなれなかったほどでした。
そんな事情から、特別作品好きではなくても劇中曲は覚えてしまい、生来の頭の硬さも一因で今回の音楽は違和感を与えられてしまったように思います。



「Life-Line」振付/ 福田紘也

『ペトルーシュカ』の音楽が人形ではなくロボットに置き換わった作品の根幹にぴたりと嵌った感あり。
川口藍さんの冷静な美女は地球防衛団な白いジャケット風衣装効果もあって他を寄せ付けぬオーラが強く、髪を銀にしての夜会巻もお似合い。
淡々と介護を行うも無残にも食器を投げ飛ばされてしまい、しかし動揺せず静かに片付け始める様子が
現代の何処でもあり得る起こり得る状況と思わせ序盤から鋭い筋運びです。
八幡さんの縦横無尽に駆ける軽快な踊りも健在で、想像もつかなかった川口さんと組んでの逃亡劇も面白く映りました。

上から落ちてくるケーブル線がキーポイントのようで、そして後半は謎のサングラス男・福岡雄大さんが猛スピードで2人を追い詰めていき
マトリックス或いは黒装束となった十字軍といった姿です。スリリングな展開に現代社会を風刺する要素を多数盛り込んだ作品と受け止めましたが
ただ我が理解力不足も承知で申すと難解であった点が気にかかりました。訓練されたアンサンブルは振付の語彙もよく咀嚼し
呑むような勢いで踊り繋いで作品の土台をしっかり支えていたと思いますが
昨年の『死神』が隙なく息つく暇もない、また解説を仮に読まずに鑑賞しても分かりやすい展開でしたから
今作品にももう少し締まりがあればと勝手な欲が出てしまったのかもしれません。

大和シティーの夏公演はここ最近はプロデューサー佐々木さんより毎回お題があり、振付家は皆要望に応えて制作して複数作品が集って披露し公演として成立。
『かぐや姫』の物語より難題且つ壮大な企画であり、しかも似たり寄ったりな作品が無い点も、佐々木さんの見抜く力には再度唸るしかありません。
今年は昨年の『怪談』に比較すると大枠で捉えての作品が集まった気はいたしましたが、
それでもある程度の人数から成るオリジナル作品が一挙に集結なんぞそう容易には実現できぬこと。来年も今から楽しみにしております。






今回で大和は4度目の訪問ですが今回は初のゆったり訪問。初回2019年夏公演は福岡から帰京して自宅に荷物を置いたのちに向かい
出発地の福岡、到着空港の位置する千葉、自宅のある東京、そして大和の会場の神奈川、と1日で1都3県に足を踏み入れる慌ただしい行動。
2度目2020年夏公演と3度目2021年発表会は早退した職場から直行。そんなわけで初めて心身に余裕ある状態で大和入りです。
せっかくですので、大和らしくない!?リゾートなお店で食事してから会場へ。
まさかのララの詩男性陣がこのノンアルコールオーシャンカクテルと同色衣装しかも光沢系とはこのときは想像もせず。
そして管理人、何十年も前に遡りますが米国のご家庭に1ヶ月間お世話になり、その間日本人にも会わずされど英語は今も喋れぬままであるのは如何なものかと思うものの
それは横に置き、当時は国内で食する機会が少なかったタコスがその頃から好物で
ご近所でタコスの好きな日本人が来ていると話題になっていたとかいなかったとか。おかげさまで食べる機会も多々あり、
英語の代わりに皮をこぼさずに完食する術が身につきました。
もし当時、国内でタコスを綺麗に食べる選手権なんぞ開催されたら、東京都代表にはなれたかもしれません。(そんな大会まず存在しませんが笑)



我が家にございます。映画版『オペラ座の怪人』パンフレットとサウンドトラックそして先月鑑賞した者がおります『ジーザスクライストスーパースター コンサート』。



帰宅後、スペインのカバを開栓して乾杯。申したいことはあれど、『ララの詩』堪能です。

2021年8月18日水曜日

足立さんと大塚さんの主役デビュー   東京バレエ団子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』午前の部  8月8日(日)




8月8日(日)、東京バレエ団子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』午前の部を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2021/meguro/

※キャストはNBSのホームページより
◆ 主な配役 ◆

オーロラ姫:足立真里亜
デジレ王子:大塚卓
リラの精:平木菜子
カラボス:二瓶加奈子
カタラビュット(式典長):岡崎隼也
王さま:ブラウリオ・アルバレス
王妃さま:富田紗永

【プロローグ・第1幕】

優しさの精:瓜生遥花
やんちゃの精:安西くるみ
気前よさの精:本村明日香
のんきの精:工 桃子
度胸の精:長谷川琴音
4人の王子:樋口祐輝、生方隆之介、玉川貴博、後藤健太朗
オーロラの友人:菊池彩美、花形悠月、松永千里、中島映理子

【第2幕】
フロリナ王女と青い鳥:中島映理子-生方隆之介
白い猫と長靴をはいた猫:安西くるみ-海田一成
赤ずきんとおおかみ:最上奈々-山田眞央
シンデレラとフォーチュン王子:上田実歩-山下湧吾
白雪姫:菊地彩美

協力:東京バレエ学校


足立さんは、1幕では薔薇の飾りが散りばめられたピンクの衣装姿が実に愛らしいオーロラ姫。
お姫様が可愛いと周囲の子供達が休憩時に連呼していて(子供は正直!)ポーズ1つ1つも揺るぎなく
両親から結婚相手を見つけるよう促され恥ずかしがる表情からのローズ・アダージオも堂々たるもの。立派な初主役です。
ピンクを多用した、玩具売り場にも並んでいそうなアニメ調なお城の美術にも自然と調和するダンサーは珍しいと思え
目がくりっとした、少女漫画にヒロインとしてそのまま登場しそうな容貌も姫らしさを後押ししていた気がいたします。
結婚式では目線の配り方が多方向へと変わって風格を備え、ロイヤル・ウェディングに相応しい姫となっていました。
7月のベジャール版『ロミオとジュリエット』パ・ド・ドゥでの短時間で歓喜から悲嘆まで一気に駆け抜ける振付における
迸る感情を乗せての体現に仰天したばかりでしたがおとぎ話の姫でも魅力を開花です。

大塚さんは背がすらりと高く線も綺麗でノーブルな魅力もあり、出番が少ないながら(こればかりは演出上仕方ない)誠実そうなデジレ王子で好印象。
リラとのやりとりでも意思表示をはっきりと示し、舟にも乗らず(確か)リラに導かれひたすら徒歩移動な場面でも気品を崩さずであったのは立派でございます。
東京バレエ団の応援歴が長い方より注目株とは聞いておりましたが納得で、これから次々と主役を任されていくであろうと思わせ
王侯貴族系も良さそうですが、そうでない役柄で大化けし驚かせそうな予感もしております。
そういえば、ダンスマガジンでの美しい男特集の表紙?ページ担当をなさっていて
所謂往年の少女漫画風なる目がお星様な容貌ではあらずともジーパンにTシャツでも華が伝わる容姿ではございました。

足立さん大塚さんペアは美しい絵にもなり、パートナーリングも滑らかで何より品も香って初々しさもまだ残る点も今だからこその魅力。
子供バレエとは言え古典中の古典である眠りのおとぎ話な世界観によく似合い
『くるみ割り人形』でも組んで主演ですから衣装はあまり好みでないものの足を運びたいところですが現時点では香川と鹿児島公演のみのもよう。
お近くの方、その時期四国や九州南部に滞在中の方、どうぞご来場ください。お出汁も麺も美味しいあまり1日に2回もうどんを食した香川、
桜島を眺めながら温泉に浸かったのち強烈な焼酎を試飲した鹿児島、と管理人も嘗てバレエ鑑賞で出向きいずれも思い出深く且つ1度しか行っていない県でございます。

話が逸れました。最近入団された平木さんのリラはゴージャスな風格で妖精達を統率し、何事にも動じない度胸も据わっていそうなリーダー。
カラボスと対峙しても愛らしいお顔立ちからは想像がつかぬ毅然とした立ち姿で、柔らかな線を描いて行くヴァリエーションもたいそう麗しく映りました。
二瓶さんカラボスの妖気やガツンと押し出す怖さも十二分で、ただ怖いだけでなく黒や茶色、金色が混じったグラデーション調のドレス衣装もさまになり
踊る箇所が少ないのは寂しくも裾さばきや立ち居振る舞いが凛とした美を連ねていくさまに惚れ惚れです。

そしてカタラビュットによる語りと導きは子ども眠りの名物でしょう。オーロラ姫誕生会前夜での招待客対応に関する苦悩までもが描かれ、
めでたい会の裏側の真相に迫る演出。昨年に引き続き岡崎さんで鑑賞し、観客の導き方が上手く、2階席の奥までしっかりと目線を送りながら誘ってくださいました。
子役3人を起用してのオーロラの成長過程を通常は糸紡ぎを行う村娘達の曲に合わせて見せて行く花のワルツ前の場面も工夫が光り、
ボール遊びや読書など姫の楽しい行為には常にカラボスの罠か仕掛けられていて、カタラビュットは毎度危機をいち早く察知してカラボスから姫を救出。
実はオーロラ姫にとっては、デジレ王子よりも正義のヒーローであろうカタラビュットの活躍物語も同時進行と見て取れる演出です。

昨年はさほど意識せずに観ていたのか、子ども向けであっても私が眠りを観る上で長年疑問視していた点を
遂に納得の方向にもたらした演出もありました。結婚式での招待客達の配置です。
恐らくは、眠りのどの版でも結婚式にて青い鳥やフロリナ、赤ずきんちゃん等童話の招待客達が
オーロラ姫とデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥを見守っている図は無いと思われ、少なくとも私が観てきた限りは東京バレエ団の子ども眠りが初。
せっかく招待された方々は主賓の踊りをいったい何処で観ているのか疑問だったわけです。
時代を大幅に先取りして機材を開発及び数百年後の地球規模で流行する病を見越し、密を避けるため皆別室でモニター鑑賞、
なんぞ考えられず或いは控室で勝手に親睦会、であるはずもない。ですから、後方に勢揃いして腰掛け
新郎新婦をにこやかに見守っている光景が儀式ではなく心からの祝福感が伝わってとても幸せな気持ちに包まれる一幕と思えます。
時には狼と長靴を履いた猫が離れた場所同士で少々小競り合いを起こしては赤ずきんちゃんが母親のようにたしなめたり(狼さん、意外と気弱なのかすぐ反省顔に)
そうかと思えば白雪姫とフロリナ(多分)が仲良く見つめ合って喜びを分かち合いつつ友情が芽生えてそうであったりと童話を超えた交流が静か且つ盛んに行われ
本公演と異なり舞台上の人数は多くはなくても寂しいどころかむしろ一体感が強まっている気さえいたしました。

時間軸は戻りますが、王子によるカラボス退治もなかなかよく練られ、最後蜘蛛の巣止めの一突きでは幕が上がるのではなくペロンと引き裂かれ垂れる演出。
ほんの一瞬の出来事ではあっても王子が本当に蜘蛛の巣を破った感が短時間に伝わり、他のある版ではちょいとツンツンで幕が上がって
いつの間にかカラボス退陣な流れになっている演出よりは良かろうと捉えております。

パ・ド・シスの妖精達の衣装のパステルカラーやふわっとしたボリュームのあるチュチュも可愛らしく、色違いのエッグスタンドを持ち寄って祝福もカラフル。
4人の王子はターバンとターメリック色のタイツでカレーの箱のモデルかと見紛うインドの王子意外はお国がよく分からずでしたが笑
シンデレラのトリックも子供の観客の皆様と一緒にびっくり箱を開けたかのように目を見張る早替わり。
家事に明け暮れる灰色の衣装で俯きながら登場するやいなや瞬時に全身から布が外れて頭にはティアラ、白と金で彩られたドレス型衣装に切り替わり
シンデレラの変身手助け係を始め赤ずきんでの木の運搬をも行い式の最中働きづめであったお小姓達にも拍手です。

背景の美術には目が慣れぬところですが随所に工夫を凝らした大人も楽しめるメルヘン眠りで、
今回は足立さん大塚さんの主役デビュー日ともあって舞台上も客席からも応援熱が充満。
子供の観客の皆様もとても満喫していたようで、夏休みの感想文に書いてくれたら太古の昔に子供時代を過ごした管理人も嬉しい限りです。

ご参考までに前回の感想です。東京バレエ団の本公演眠りを知ったきっかけである勝又まゆみさんと当時10代であった首藤康之さんの記事や
実際の衣装は突っ込みどころ満載と分かった16年後(時の流れはオーロラか笑)の衝撃も含めて綴っております。
https://endehors2.blogspot.com/2020/09/913.html



4人の王子のうちインドの王子衣装を観ていたら暑さもあってカレーを欲し、乗り換え駅にて2種盛りをいただきました。
ほうれん草カレーと麻婆カレー、暑い日には冷やし中華よりもカレー派です。(春夏秋冬いつでも好きですが)



帰宅後ピンク色のアルコールで乾杯。足立さん、舞台をぱっと照らす姫オーラが今思い返してもたいそう煌めいていました。

2021年8月16日月曜日

城と廃墟で恐怖体験 NBAバレエ団DRACULA 8月9日(土)夜




8月7日(土)、NBAバレエ団DRACULA夜公演を観て参りました。第1幕は2020年2月のホラーナイトにて上演されましたが全幕版は2014年の初演以来、7年ぶりの上演です。
https://www.nbaballet.org/official/official-3788/


ドラキュラ:宝満 直也
ミーナ:竹内 碧
ジョナサン・ハーカー:大森 康正
ルーシー:竹田 仁美
ヴァン・ヘルシング:刑部星矢
レン・フィールド:佐藤史哉
クインシー:新井悠汰
アーサー:三船元維
3人の女ヴァンパイア:猪嶋沙織 阪本絵利奈  須谷まきこ


宝満さんのタイトルロールは2020年2月のホラーナイトに続き鑑賞。恐怖感を前面には出さずすっと背筋に凍る冷たさが走る感覚をもたらすドラキュラで
真っ直ぐな姿勢で静かに歩く登場から不気味さを包む冷気を放出。命からがら逃れようと地を這うハーカーと
追い詰めるドラキュラのパ・ド・ドゥの手に汗を握る展開がその後ドラキュラが次々と人々を脅やかしていく筋運びを彷彿させました。
生きた心地がしないであろうミーナのパニックぶり、どうにか冷静さを保ち夫を助けようと懸命な妻を竹内さんが好演です。

濃度抜群であったのは竹田さんのルーシー。ホテルでのパーティーに登場し、階段を下りてくる姿からして全身から星が瞬いているような華やぐ美女で
色とりどりな衣装を着けた人々の中にいても埋もれず。持ち前の卓越したテクニックも光り、身体の表情の付け方にも引き込まれるばかりでした。
ドラキュラと会い、ルーシーにだけは見える不可思議な状況をスポットライトを浴びて強調する演出効果もあって
徐々に呑まれ狂わせられていく様子を空虚な眼差しで表現。そしていよいよヴァンパイアと化すと、
身体の底側からおどろおどろしい感情を沸騰させ、酷薄な顔つきも恐ろしや。身体能力と女優魂共存な圧倒する舞台姿でした。

儀式に臨みながら踊る村人達が暗闇から発する魔力も沸々と奇怪な空気を作り出し、廃墟のアンデッド達によるホラー映画のハイライトのような踊り狂いも恐怖度の頂点。
十字を手に取り囲む打倒ドラキュラな構図も押し迫る命の危険を分かりやすく演出で
城や廃墟(恐らく)の堅固な装置に不穏な音響、煙の仕掛けも多数で、ホテルの洒落た内装もまた凝った作り。パーティーに相応しいデザインでした。

序盤でハーカーを襲う3人の女ヴァンパイア達の危うい艶かしさも強烈で、大きめのティアラに白いタイトなドレス、襷のような装飾もあって
一見帝政ロシアの皇帝一家の女性を思わせる品を備えた衣装。しかし本性はヴァンパイア。赤い薔薇の棘よりも恐ろしいのは言うまでもありません。

初演はゆうぽうとで鑑賞し、今回は新国立の中劇場でしかも舞台に近い席から鑑賞でき、ハーカーと共にドラキュラの城へ足を踏み入れ
身の毛もよだつ体験をし生還した気分でおります。ホラーな物語バレエはそうそう無く、NBAのレパートリーとして上演を多く重ねて欲しい作品です。




鑑賞前に訪問したドイツ料理店にて、アルコール提供が不可の代わりとして帰りにお土産にいただいたビールを帰宅後に開けて乾杯。

2021年8月13日金曜日

センスに驚倒実力も高水準   佐々木三夏バレエアカデミーPerformance 2021  8月6日(金)



※ご訪問いただきありがとうございます。翌年2022年大和シティーバレエ 続・怪談、4作どれも見応えあり、特に雪女は振付演出キャスト衣装、全て秀逸でした。
https://endehors2.blogspot.com/2022/09/2022-814.html



8月6日(金)、神奈川県大和市にて佐々木三夏バレエアカデミーPerformance 2021を観て参りました。
https://www.sba-ballet.com/performance

大和シティー・バレエは去年、一昨年と2度鑑賞しておりますが大和シティーの監督佐々木三夏さん主宰の佐々木アカデミーさんの発表会は初鑑賞。
噂には聞いておりましたがレベルがいたく高く、特にキャラクターダンス作品の豊富さ、水準の高さには驚倒いたしました。
上演時間約4時間で、古典からキャラクターダンス、コンテンポラリー、ジャズまで盛りだくさん且つ
よく練られた、斜めから入っているとも思える意表を突く順序構成。佐々木さんのセンスが随所に表れ、瞬く間の終演です。
また好み或いは久しく耳にしていないながら思い入れのある曲やいつかバレエの舞台で鑑賞してみたいと思い続けていた演目、使用曲の連続で
ツボを押されっぱなしな心持ちとなり大和市へマッサージも兼ねて行ってきた気分でおります。
全て綴りたいところですが途方もない量になってしまいそうですので、中でも印象に刻まれた演目をいくつか。

トップバッターは『エスメラルダ』よりパ・ド・シス。ガラで馴染み深い独立系グラン・パ・ド・ドゥではなく版によっては全幕の中で繰り広げられるもので
しっとりとした悲哀が込められたこのパ・ド・シスのほうが好みのため、幕開けから気分上々。
正確に申せば、仕事を早退してまで平日夕方の大和へ駆け付けた最大の理由及び目当てであった渡邊峻郁さんがこの作品にご登場と到着後のプログラム確認時に判明。
ドラマ性が濃く表現も問われる作品であり、人物の心理描写と体現に長けていらっしゃいますから期待も高まっていった次第です。
いざ開演し、役に没入したお2人とエスメラルダの友人達が登場。エスメラルダは涙を枯らしたように内向きな心情が俯いた姿からも伝わり
エスメラルダ役の小形さくらさんはまだお若いながらひたひたと伝う悲しみが身体中から溢れさせ
安定感のあるテクニックもさることながら役の表現にも魅了されました。次の土曜日の公演でも注目いたします。
語りかけようと立ち止まった姿の背中から哀愁漂う渡邊さんは想像はしていたものの物哀しくほんのりと翳ある風情を湛えた作品にはぴったり。
実のところ、恥ずかしいながらこの場面設定の詳細をよく覚えておらず、エスメラルダが愛するフェビュスを救うために
詩人のグランゴワールと仮結婚して披露する踊りであったかと思いますが、
(すぐそばでフェビュスが婚約者と2人でエスメラルダ達を眺めている、静かな修羅場なる状況であるはず)
滴る雫のように嘆きを滲ませ訴えているエスメラルダと、仮結婚?であっても支えになろうと心を解し、救いの手を差し伸べようとする青年
(グランゴワールか。解釈等違っていたらご指摘を)のやりとりは、やや演歌調な音楽の起伏とも調和して全幕鑑賞を錯覚させるほどにドラマティックでございました。
求愛の設定ではないはずが自然と生じるのでしょう。エスメラルダの肩から肘、手首にかけてそっと摩るように触れて手を取る仕草も、一連の流れに美しさが宿り眼福でございました。

何しろこのパ・ド・シス、青年が実にキーパーソンであり、彼女のヴァリエーションの最中にも青年がエスコートして登場しては
後方を歩いて移動し佇んで時折慰めたりじっと見つめたり、コーダも跳んで回っての振付ではなくエスメラルダの友人達1人1人と
タンバリン叩き合って絡んでいきますから青年に芝居心や表現力がないとエスメラルダの背後を右往左往する人止まりとなり観客は苦行の時間と化すでしょう。
しかし心の変化や機微の表現、ちょっとした間の取り方にも優れた渡邊さんですから申し分なく、心が決して通い合っている状況ではない
されど拒絶し合っている風でもない描写が難しいパ・ド・ドゥであっても奥底に潜む微細な感情の襞を丁寧に体現なさり、聖堂を模した背景の効果も加わって
幕開けから教会の絶対支配下にある、抑圧された空気に苦しむ人々も大勢であっただろう中世のパリへと足を踏み入れた気分でおります。
タンバリンを手に大らかなヴァリエーションでは哀愁(これ大事)と余韻をふわりと残しながらの美しい品ある踊りで拍手。

このパ・ド・シス、上演頻度はまずまずあるようですが記憶の限りこれまで2回しか観ておらず。初回は大阪で、2度目が4年前の7月の愛媛。
この愛媛での舞台が恐ろしくドラマが凝縮した印象深きもので、翌日の海の日、しまなみ海道自転車横断時に
疾走感あるコーダの曲を延々と歌いながら漕いでいた覚えがございます。
それだけ心に刻まれていた証であり同時に作品に対する理想や基準も高くなりましたが、
当方の鑑賞人生においての度々の12年の法則がここでは3分の1に縮まり4年後の2021年夏。
反芻してはしみじみ思い返ほど余韻に今も浸っております。管理人、背中から哀愁が漂い零れる男性ダンサーに弱いらしい笑
ちなみに新国立劇場バレエ研修所では何度か上演していて、渡邊さんの弟で明日の公演では『オペラ座の怪人』にてファントムを務める渡邊拓朗さんが研修生時代に踊っています。
http://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/record/detail/25_008089.html

お次は子供の生徒さん達による『どんぐりころりん』。グレーを帯びた毛並みがリアルなリスさん達が登場し、思い起こすのは生きもの地球紀行。
木の根元に置かれたなぜかフカフカの大きめのドングリをバケツリレーのように渡していくところが何とも微笑ましく
途中失敗してしまってどんどんずれてしまうハプニングがむしろ自然に映って思いのほか興奮。
フカフカドングリ、手に持ちたい更には欲しいと思ったのは私だけではないはずです。

『グラズノフのポロネーズ』との題名からひょっとしたらと胸躍らせていると予想的中でバレエの情景の中の1曲。
近年ではバレエアステラスでのフィナーレ曲として定着しており、アステラス鑑賞の大きな楽しみの1つです。
キャラクター用のシューズを履き、折り目正しくも緩急をきちんとつけて丁寧に踊る姿にじっと見入ってしまいました。
発表会開催概要にも掲載され、文字の並びが目に留まった瞬間喜びのあまり作曲者の名を絶叫してしまったのが『ガイーヌ』より薔薇の少女達。
昨夏にハチャトリアンの映画を観て以来、少し風変わりで、一段一段踏み締めて階段を上るような曲調に聴き惚れ
公演発表会問わずバレエの舞台で鑑賞する機会が生涯のうちにあればと願っておりました。下村由理恵さんも在籍されていた
福岡の川副バレエ学苑では川副恵躬子さんの振付で随分と前から定期的に披露しているようですが、ようやく関東でお目にかかる日が参りました。
ロシアの民族衣装(赤い色彩だったかと記憶)の生徒さん達も可愛らしく、郷愁感も色濃く、じっくりと鑑賞です。

古典では『ライモンダ』3幕をパ・ド・ドゥ形式に構成し、ブルーと白を重ねたライモンダのチュチュや、ボリショイ彷彿の袖がふわっとしたジャンの衣装も宜しく
唯一林田翔平さんのメイクが濃過ぎた点だけ心残り。生来の華のあるお顔立ちが生かされず、素人が申すのもおかしいでしょうが次回は薄目に。
ドニゼッティの音楽でグラン・パ・ド・ドゥ形式に振り付けられたLa Favoritaも久々に鑑賞できて嬉しく、
2006年の世界バレエフェスティバルにてオーストラリアバレエのルシンダ・ダンのペアによる披露を観て祝祭感に満ちた作風で今も脳裏に残っております。
振り付けは所々異なり、また私だけでしょうがルグリが振り付けたドニゼッティパ・ド・ドゥと時々混在いたしますが、
サポートされながらの大開脚リフトは今回なし。それでも女性は赤、男性は黒い衣装でかっちりと決めつつ晴れやかなテクニックの展開を楽しく鑑賞です。

スパニッシュダンス作品も2本あり、1本はCarmen。有名なアラゴネーズにのせて大人数で激しく晴れ晴れと踊り
ポーズやステップを見る限りクラシックに近い振付であったかもしれません。
そして度肝を抜かれたのはJota Aragonesa。ギター主旋律なテンポの速い音楽で全員両手にカスタネットを持ち、
脚捌きもカスタネット使いも巧みにこなしつつ急転換フォーメーションもお手の物で
バレエスタジオの発表会でこれほど本格的なキャラクターダンスを目にできるとは驚愕の一言では尽くせず。
しかもただ成果を発表するのではなくしっかり魅せ、観客を心底から楽しませる点にも重きを置いていて好印象です。

プログラムの中では異彩を放ちながらも客席が一体となって盛り上げを見せていたのはSing,Sing,Sing!で
会場が神奈川県大和市ではなくニューヨークのブロードウェイの一角かと見紛う、我が血も騒ぐショータイムでございました。
生徒さんと男性ゲストも交えた大人数構成で、横からのなだれ込みもあれば静かに刻む箇所もあり縦横無尽に駆け巡る展開から目が離せず。
特に真ん中を踊られた高岸直樹さんの若いこと!10代、20代のダンサー達に混ざっても衰えなんぞ皆無で
高い上背を自在にコントロールなさり福田圭吾さんの変調していく音楽への反応も機敏で目を惹きました。
高校時代吹奏楽部でテノールのサックスを担当していた(一応)管理人は、昔からこの曲への憧れを抱いており、
一概には言えぬが吹奏楽においてクラシック系の曲ではアルトサックスはクラリネット等と主旋律を吹いて目立つが
テノールは休みや伸ばし音が多く指揮者からも忘れられがち。対するジャズではほぼ全編で主役。
残念ながら演奏は叶いませんでしたがこうしてバレエの舞台鑑賞にて一緒に堪能でき、しかもミラーボール演出まで付くゴージャスな舞台に居合わせ歓喜な時間でした。

コンテンポラリーも高水準でどれも洗練された作品ばかりでしたが、題名からして興味津々であった『あの三人とディアヴァルたち』の曲構成や振付がユニークで
『眠れる森の美女』幻影の場のコーダとオーロラが目覚めるファンファーレを繋げ、3人の赤、青、黄色?であったかソリストと
魔物が潜んでいそうな黒い衣装に身を包んだコール・ドを従えて踊る振付。
設定がはっきりとは把握できずではあっても、セットした大量の目覚まし時計が一斉に鳴り出したかの如きけたたましいまでに賑わう目覚めの曲を好んでいながら
偶々なのか近年観る全幕眠りでは目覚めのパドドゥ挿入版が増え、パンパカパーンな目覚めから遠ざかりつつある中、大迫力な踊りと共にじっくり聴き入り感激。
また希望の光が差し込んでくるように喜びが集結し一気に昇華していく振付も観ていて爽快。パワー充電なるコンテンポラリーでした。

子供時代を思い出し今も古さを感じさせぬ、子供の生徒さん達による『ひょっこりひょうたん島』主題歌にのせた作品も
パワフルで楽しく、水兵さん対海賊達の踊り勝負といった展開でショーを観ている気分に。
仮にドン・ガバチョやサンデー先生、博士を始め実際のキャラクター扮してのコスプレ系舞台も勿論歓迎ですが
音楽からのイメージと推察する2役に絞っての人数多めの構成も見応え十二分でした。
ちなみに管理人はこの番組に熱中していた世代で、東洋の魔女を筆頭に東京オリンピック開催真っ只中でも自宅のテレビはまだ白黒家庭が多く
ドン・ガバチョの声は初代の藤村有弘さんが務めていたテレビ創成期で時代であったか
それともリメイク版放送のインターネット普及期時代か想像はお任せいたしますが
懐かしさと現代でも若い方々の心を捉える名曲であると感じながら鑑賞いたしました。

約4時間の上演を締め括る大トリは『パピヨン』よりパ・ド・ドゥ。ラコット振付とありますから久しく上演されていないロマンティックバレエ復刻作品或いは
題名を目にしてすぐさま浮かんだのは20年弱前に島谷ひとみさんがジャネット・ジャクソンの曲をカバーしたもの。後者であるわけはないのだが笑、耳に残る曲ではございます。
結果前者でしたが、つま先を駆使する女性ヴァリエーションや、意外と言っては失礼だが男性の跳躍や回転技も満載で
速水さんのスプリンクラー回転を目にできたのは幸運か。パ・ド・ドゥの振付自体は変化に富んではおらず面白みがあるとは言い難いものですが
古式ゆかしいロマンティックバレエの趣を感じながら蝶々(パピヨン)と青年の戯れの描画を目に留めて本編終演です。

フィナーレは韓国の人気グループBTSのパーミッショントゥーダンス。公演翌日以降出演者の方によるご投稿を拝見して知った次第で
気持ちが上向きになる明るい曲調でフィナーレによく合った選曲でした。
管理人、韓国の流行に疎くきちんと聴いたのは初で、TRFのサバイバルダンスなら知っておりますが古いか。
(色褪せぬ名曲であると思うのだが。若人の皆様にもおすすめ)
普段聴く機会が少ない鬼滅の刃やクイーンの音楽もどっぷり聴いたのはバレエの舞台がきっかけで(しかも双方には福田圭吾さんが関わっていらっしゃる)
バレエ関連曲でない作品もバレエで立ち会うと良作に思えてきますから不思議でございます。
出演者陣の殆どが遊びを入れたパフォーマンスで盛り立てたり笑わせたりと楽しい終幕で、ゲスト陣も魅せました。
関西や四国ではこの手の面白フィナーレはよく目にする気がいたしますが、関東での舞台では珍しいかもしれません。
本編とは打って変わってノリノリであったエスメラルダ小形さんを暫くじっと見守ったのちに気合い入れて腰を振っていらした渡邊さん、
じわりと弾けていくご様子が我がツボ押しにおいてもフィナーレを飾りました。露骨な軽さが出にくいところもまた魅力なのです。
そして東でもお祭り男・福田圭吾さんが腰を落とし両腕をだらんと下げた状態で『タリスマン』での美しいパートナーと揃って前進し、全部持っていきました笑。
大和市でも1人飛び抜けたエンターテイナーでしたから、来月の毎度の愛媛はどうなることか期待も既に高まっております。

大和シティー・バレエ監督の佐々木三夏さんが主宰となればセンスも間違いないとは思いつつも、発表会にして狂喜乱舞しそうな演目揃いに今も高揚が抑えられず
足を運ぶきっかけはゲストのお1人であっても、上演の4時間に渡って身体中の理想の箇所のツボを畳み掛ける勢いで次々と押されて行った心持ちでおります。
そしてキャラクターダンスを子供の頃からしっかりと身につける重要性にも触れた思いです。

帰りは小田急線の事件で向ケ丘遊園と新宿間が見合わせとなり大迂回して帰宅いたしましたが、
もし終演がもっと早かったらと思うと方向からしてあの電車に乗り合わせていた可能性が高く
余韻に浸る余裕もなく帰途につかざるを得ませんでしたが、命あっての鑑賞と身に沁みて感じた一夜でもありました。
明日の公演も今から楽しみでおります。




会場の大和シリウスホール前の横断歩道の掲示板にて発見。サッカークラブの案内ですが、バレエも融合されています。クラブ関係者にバレエ好きがいるとしか思えぬが。
サッカーを取り入れたバレエでは牧阿佐美バレヱ団『アビアント』がありますが、我が理解力欠如のため今ひとつ面白さが見出せず終演。
それよりも思い出すのは、新国立劇場にて牧さん版『くるみ割り人形』上演時、クララと王子の出会いの場で
客席からはよく見えぬ正体不明な落下物が舞台上に転がり、対処を見届けていたところ、雪の王国の場面となって雪の1人が
アラベスクで飛び上がる振付に上手く溶け込ませて後ろ足で蹴って舞台袖へゴール!な出来事がございました。
どうやら細田千晶さん(現ソリスト)だったようで、なでしこジャパンな細田さんと話題になった当時でございました。



エスメラルダの余韻に浸って、10年ほど前に神保町で見つけた大聖堂のカードを立てて撮影。仮結婚な設定であるとしても
渡邊さんによる青年の、悲嘆に暮れた相手の心を解す優しさが伝わる心に沁み込むパ・ド・シスであったと思い返して乾杯です。

2021年8月8日日曜日

世界発信願う海のユーモアと四季折々の美  新国立劇場こどものためのバレエ劇場2021 「竜宮 りゅうぐう~亀の姫と季の庭~」 7月25日(日)昼27日(火)昼夕


新国立劇場バレエ団竜宮をこの夏も観て参りました。今回は2キャストを計3回鑑賞です。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/turtle-princess/

※キャストはそのままホームページより抜粋
7月25日(日)昼
プリンセス 亀の姫:木村優里
浦島太郎:渡邊峻郁
時の案内人:中家正博
フグ接待魚:五月女遥/飯野萌子
サメ用心棒:井澤 諒/福田圭吾
タイ女将:本島美和
イカす3兄弟:原 健太/小柴富久修/趙 載範
織姫と彦星:五月女遥/福田圭吾
竜田姫:細田千晶


7月27日(火)昼
プリンセス 亀の姫:柴山紗帆
浦島太郎:速水渉悟
時の案内人:中島駿野
フグ接待魚:奥田花純/渡辺与布
サメ用心棒:木下嘉人/小野寺雄
タイ女将 :本島美和
イカす3兄弟:清水裕三郎/福田紘也/山田悠貴
織姫と彦星:奥田花純/木下嘉人
竜田姫:細田千晶


7月27日(火)夕方
プリンセス 亀の姫:木村優里
浦島太郎:渡邊峻郁
時の案内人:中家正博
フグ接待魚:五月女遥/飯野萌子
サメ用心棒:井澤 諒/福田圭吾
タイ女将 :本島美和
イカす3兄弟:原 健太/小柴富久修/趙 載範
織姫と彦星:五月女遥/福田圭吾
竜田姫:細田千晶


※産経新聞にて美しい写真と共に記事が掲載されています。渡邊さんの違和感皆無な髷姿をどうぞご覧ください。
https://www.sankei.com/article/20210729-SYMJZJPFOZKJTEHZN64SXISKU4/

上記記事は当然ですがプロによる優れた内容ですので、そちらで満足された方は、ご訪問ありがとうございました。次回更新をお待ちください。
現在の猛暑酷暑における生活以上に、或いはIOC会長スピーチの聞き取り以上に辛抱に自信のある方は以下どうぞ。初演時の反省をふまえ、短めにしてはおります。


木村さんは摩訶不思議な質感に満ち、太郎の目の前に出現時は目線から手の向け方、首のゆったりとした曲げ伸ばしまで亀さん。太郎が目をパチクリさせ戸惑うのも納得です。
特に初演時よりぐっと良さが増していたのが竜宮城連れてきた太郎の前で披露する奉納の舞と2幕での別れで
前者は太郎を慕う心がより入っていただけでなく城を司る誇り高さも込められていた印象。
後者では引きちぎれそうな悲観が胸に迫り、ただやみくもに感情的になるのではなく慈しむような四肢の使い方も雄弁でした。
その後の幸福な結末は分かっていても、切なさを帯びたやりとりが目に残ります。最後、眩むような麗しい輝きも満点。

※長くなります。早速ですが小休止をどうぞ。
渡邊さんの浦島太郎は心優しさ広がる登場のソロから魅せられ、童謡『うらしまたろう』編曲にのせた、
さりげなくバランスの取り方が難しいふわふわと流れてしまいそうな振付であっても
伸びやかさと静止の対比がはっきりとした出来栄え。浜辺での亀さんへの慰めも丁寧で、心配そうに語りかけながら甲羅の砂を払い落とす仕草や
いじめられている亀をぎゅっと抱き止めて他人に渡すまいとわっぱ兄弟達へと視線で訴える箇所もツボでした。
再度驚きを覚えたのは、観客に対して後ろ向きで立っている場面が多々ありながら呆然と突っ立っている感がなく、背中からも感情が滲み出ていること。
夢か現実か不思議な感情に駆られる亀の姫の出現や、後にも述べますが2幕での四季折々の美に触れ懐かしんでいく郷愁感と言い
先日8月6日(金)神奈川県大和市での発表会でも感じ入った点の1つですが、佇まいや歩く姿で語れる人は稀で、僅かな所作や視線の向け方による状況描写が上手いと再確認。
ましてやこの作品において太郎は舞台にいる時間が長く、時の案内人と同様に場面展開の繋ぎや牽引も重要な任務で
作品の中身を鮮やかに引き出していらしたと思っております。

1幕、寝床についてから起き上がって障子越しに映し出す鶴になっての影の美は驚嘆もので、すっと伸びた首筋や長い手脚から繰り出す羽ばたきが
シルエットのみでもまさに鶴。某大手航空会社の機体に描かれていても何ら不自然ではありません。
2幕での四季の庭に足を踏み入れていく中で募らせていく望郷の念の体現も見事で、うららかな春でのうっとりと見入る喜びから
七夕での星空の瞬きや織姫と彦星の逢瀬に後方にて静かに心を寄せる姿、取り囲む祭り男達との交遊での興奮ぶりや、
どんぐりの速度についていけず少々不貞腐れて諦めが早いのはご愛嬌か笑。竜田姫とは禁断の密会とも思える脆く危うい絡みで
細田さんの儚さもあって背筋を摩られるような身震いする思いがいたしました。
移ろいと共に最初は浮き浮きと眺めていた様子から次第に寂しさのほうがまさっていく様子が見て取れる展開で、亀の姫に別れを切り出す葛藤に繋がる説得力大です。
鶴への変身では内側に火が灯ったか更には眼の奥から矢を放っているかの如き凛々しい豹変が打ち震わせ、額赤塗の横顔や立ち姿が厳粛な儀式を彷彿。
純朴で優しい漁師と同一人物には到底思えぬ変わり様でした。
さて、子どもバレエでもやります髪型観察今回は嗚呼花丸。何しろ髷が似合うを超越してその時代(江戸かもっと昔か定かではないが)での
生活者やタイムスリップしてきた人物にしか見えず、或いは太秦撮影所にいても何らおかしくない風貌でございました。
ああ、これで袴と刀もあれば完璧。友人の名言が今宵も脳裏を過ぎります、「渡邊さんは武士にも騎士にもなれる」。

柴山さんに亀の姫はゆかしい鷹揚な所作が目を惹き、おっとり優雅なお姫様。生来のお顔立ちが和風でたおやかな雰囲気を湛えている分、
風貌はそのままに小舟を懸命に引こうと頑張る姿がいたく健気に映り、太郎が不安そうに落ち着かぬ表情で見守るのも無理はありません。
羽織を着た姿も絵になって踊りながら裾が靡く形も随分と綺麗に見えました。

速水さんは天真爛漫な太郎で、金魚舞妓の扇や鮫にも好奇心一杯。(この辺りの表現は各々に任されているのか、渡邊さんは一緒に舞妓達の扇を真似ていた)
もっと大衆演劇俳優のような太郎、或いは軽い太郎になるかと思いきや(毎度失礼)、『ライモンダ』に続いて意外にも純情派。
亀の可愛がり方も言葉が聞こえてきそうで、亀の姫に関心を持ち手を差し伸べようとする際や
寄りかかったエイボン越しに姫と見つめ合う場面も心臓音が響いていそうな、ピュアな青年でした。
チャラ島太郎になりそうなんぞ言うておりました当初を悔いており、申し訳ございません(一礼)。

話は少しずれますが、昨年の初演時終演後。もしこどもバレエで他にも日本物を作るなら何が良いかあれやこれや話題となり、桃太郎の案が浮上。
鉢巻締めた正義感の強い桃太郎は渡邊さんで、鬼の頭は速水さん、鬼の人数を多めにしてパワフルな群舞にすれば面白くなりそうと桃太郎での対決妄想が懐かしい。
役増やしも兼ねて途中で森で動物達に会う設定にして、『しらゆき姫』から借りる案もあり。それより先に対決は『ライモンダ』で実現したのでした。

話を戻します。中島さんの時の案内人の場面の橋渡しの安定感が増し、前回よりも見せ方が大きくなった印象で身体の動かし方はすっと滑らか。
対する初挑戦の中家さんはどっしりとした貫禄ある存在感で、例えば腰の落とし方はぐっと深く、力強く物語を引っ張る案内人でした。千秋楽序盤釣り糸ヒヤリはご愛嬌。

本島さん鯛の女将は実質竜宮城の支配人であろう威厳もあり、幕が開いて竜宮城が出現し、中央で正座しての一礼は大奥を思わす迫力。
着物とドレスを融合させた、ピンクに近い赤地に目玉を彩る衣装もお似合いです。
キビキビ且つはんなりな金魚舞妓の扇使いもはっとさせ、丈の短い着物衣装も粋。イカす三兄弟の巨大な頭をゆらゆら動かしつつ
大真面目にキレキレに踊るタンゴは今年も笑いを誘い、後方で金魚舞妓達が音頭を取っている光景も面白く太郎の浮き浮き感も宜し。
涼やかに流れる床照明も秀逸で、寄せては返す穏やかな波から、太郎がいよいよ海底へと向かう箇所では鳴門海峡並の渦潮を描いて一緒に潜っていく気分を演出。
四季の部屋での祭り終盤での花火や竜田姫の登場に合わせた紅葉絨毯の広がりも毎度息を呑みます。
順番前後して、海底での大団円は何度観ても胸躍る展開で、音楽の盛り上がりに合わせて太郎、イカす三兄弟、と徐々に加わって増えて一斉に舞台を1周する流れがいたく壮大。
海底世界の序盤から様々な個性の海の生き物達が次々と登場しても混沌とした印象はなく、
整理されながら隙なく登場して太郎と何かしら絡んでいくため、切り貼りした感も皆無な点も交換を持てます。
渡邊太郎はタコへの可愛がりが半端なく、頭を渾身のなでなでクシュクシュをしてあげていました。
太郎へのお酌係のサザエとウニのアシスタントとしても活躍していたタコさん達。盃をささっと片付けていて、脚多く長いながら器用な立ち振る舞い笑。

涼しげなボディータイツにゴーグルを付けたスタイリッシュで変幻自在に太郎を導いて行く波達の活躍も忘れられず。
幕開けに漣のように現れたかと思えば、亀との出会いでもちょこっと手助けしたり、亀とうさぎの競争では亀側の応援にまわり、
そして竜宮城へ向かう亀の姫と太郎を大波と化して後押しし、エイボンやウニ、サザエ、マンボウ始め波のダンサーが衣装はそのままで被り物等で変身し踊る役も多数です。

音楽もこの度も聴き惚れ、海の神秘をスケール感ある曲調で、一方和楽器もふんだんに取り入れて日本の美を繊細に表現したりと飽きさせぬ曲の連続。
ほんの僅かではありますが、太郎が海底を訪れた際にマンボウの横切りで流れる荘厳で重厚な旋律もいたく気に入っております。
冬の庭での雪の花嫁花婿達の物哀しさを含ませた重々しい曲調も耳に残り、太郎の故郷への恋しさを一段と募らせ亀の姫への元へ一旦戻る心の内とも重なる場面です。

そして、森山さんのセンスには舌を巻くばかりで、西洋発祥の芸術に能、歌舞伎、鳥獣戯画、祭り、七夕、等々と多種の日本文化の要素や
プロジェクションマッピングといった現代のテクノロジーも盛り込んでいながらカオスとはならぬどころかすっきり整頓、洗練された舞台を演出しています。

昨年も今年も状況が状況だっただけに来年も是非再演を。昨年夏は都内にて唯一訪問可能な接待を含む飲食店なんぞ皮肉を込めてしまった覚えがございますが
今回はマンボウの出迎えに都内ながら宣言ではなく「まん防」が脳裏通過。
状況脱出までは当分時間を要しそうですがそれはさておき、日本文化の要素が適度なユーモアと溶け合って舞台に現れて
海の神秘と四季折々の美が次々と展開するこの作品は子どもバレエの枠を超え、世界のためのバレエ劇場としてもっと多くの方にご覧いただきたいと願ってやみません。
先程の五輪閉会式にて披露ないしはそのまま映像上映して欲しかったほどで、願はくは毎夏の風物詩化を。


※9月には大阪フェスティバルホールでも上演がございます。関西近郊の皆様、どうぞご来場ください。観て損はありません!!!
https://www.festivalhall.jp/program_information.html?id=2537



オペラシティ内にて、人生節目後最初の鑑賞を前に、まずは1人乾杯。



昼から竜宮城の太郎気分。但し『竜宮』とは異なり、サザエさんとウニさんからのお酌はございません。手酌でいただきます。
ノンアルコールでも呑んだ気分にはなります。



今回は写真撮影タイムもありました。まずは7月25日(日)昼、斜め上の角度から。



続いて7月27日(火)昼、全体写真。



千秋楽7月27日(火)夕方、同じキャストのドアップばかりやん、とのご指摘は受け流します点ご了承を。
太秦映画村にいそうです、こちらの太郎さん。「拙者は」との話し出しでも違和感ありません。



手を合わせて


恥じらい亀の姫


手を腰に


手を広げ


また会いましょう!


ホワイエにて浦島伝説ゆかりの地域を特集展示。


2014年4月に大阪での舞台鑑賞前日に日本酒ナビゲーターの資格取得も兼ねて天橋立を訪れ、徒歩で横断している途中に撮影した浜辺。
浦島太郎伝説についてはさほど意識することなく歩いており偶然な撮影場所でしたが
左に松の木、右には寄せては返す穏やかな波で、今思えば幕開けの太郎の登場場面を彷彿する構図。
訪問当時はまさか、6年後と7年後に新国立劇場にて浦島太郎のバレエを鑑賞する日々が到来するとは
そもそも2人目の男性ダンサー出現日の到来も、しかも髷や着物が似合い過ぎまさにこの風景が絵になる
何かと和物に当て嵌めたくダンサーであろうとは、このときは知る由も無かったわけで人生分からぬものです。
前ブログの容量確保のため一部削除した写真もございますが、天橋立散策日記はこちらをどうぞ。地酒や魚介類を中心とした食事も美味しうございました。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/4-0288.html



次回はライト版白鳥。



最新号のダンスマガジンでの特集「日本の美しい男たち」に渡邊さんが掲載されています。ファッション誌から飛び出したような
お洒落なグラビア、では決してなく(そこが魅力)実直そうなお人柄が写真とインタビュー双方から伝わる記事です。
嘗てダンスマガジンでは男性ダンサーに焦点を当てた連載があり、1993年前後辺りに花と男たち、
その後2003年から2005年頃までは新藤弘子さん執筆で「踊る男たち」の
見出しであったかと記憶。後者は単行本でも出版されています。(他の時期にも折々似た特集が組まれていたかもしれませんが)
ただ日本のダンサーで取り上げられた方は少なく、熊川哲也さん、首藤康之さん、小林十市さんのお三方のみであったかと思います。
当時はマラーホフやウヴァーロフ、ルグリにル・リッシュにカレーニョと海外のスターダンサー隆盛期及び来日公演も多数開催できた事情もあるでしょうが、
日本のダンサーが少人数しか入っておらず寂しい気もしておりましたので今回の特集は嬉しうございます。
4年前にはあるファッション雑誌で同様の特集があり渡邊さんも掲載されていましたので購入もいたしましたが、顔と筋肉美の話が中心で首を傾げる内容でしたので
ダンスマガジンですから当然ではあるものの外見だけでなく踊り方にもきちんと触れている記事ですから喜びもひとしおです。

カフェラテは内容には関係ございません。
マウントレーニエ、昔シアトルへ行った際にこの目で見たと思い出しつつ鳥羽水族館のラッコのメイちゃんの写真に惹かれ入手。

2021年8月2日月曜日

コッペリウスを気遣う新郎新婦   井上バレエ団『コッペリア』7月31日(土)




順番前後いたしますが7月31日(土)、井上バレエ団『コッペリア』を観て参りました。
http://inoueballet.net/information/


振付:関 直人
再構成・振付:石井 竜一

スワニルダ:源小織
フランツ:清水健太
コッペリウス:森田健太郎


源さんは容姿や踊りの持ち味はほんわかおっとりながら中身は男前なスワニルダ。フランツへの嫉妬も湿度が低く、放って立ち去る行動もさっぱりしていて
コッペリウスにも人形たちに怖気づく様子もなく何事も堂々とこなしていく頼もしいヒロインでした。
清水さんはお調子者且つ怖がり屋なフランツで、コッペリウス宅から聞こえてくる人形作りの音に気づくや否や人目も憚らずスワニルダに縋り付く小心者。
(対するスワニルダ、動じずさっさか家に近寄り、音の正体を掴むとフランツに事の経緯説明を冷静沈着に行う度胸あるしっかり者でやりとりが面白い)
コッペリウス宅侵入前の梯子持っての登場は一旦出てきたかと思いきやコッペリウスの姿を発見してそのまま戻り
タイミング見計らって再度同じ持ち方歩き方で登場する流れが出方を間違えたわけでもないながら笑いを誘い、2幕以降の侵入騒動に期待を高める効果大でした。
1幕前半でのマズルカでも中央で皆を率いて踊る見せ場もふんだんにあり、盤石のテクニックで舞台を締めて全体を勢いづけに貢献。

3幕フランツのソロは珍しい曲で、プログラムに挟んであった機関紙あまりりすによれば、依頼を受けた音楽監督冨田実里さんが
ドリーブの音楽の中から探し、オペラコミック『ムッシュー・グリフォー』モティーフを元に作・編曲しポロネーズ風のヴァリエーションになったとのこと。
花火のように煌びやかに弾ける曲調で祝祭感も高まり、定着すると嬉しい振付と音楽でした。

源さん、清水さんともに驚かされたのはマイムの上手さ。下手な人が行うと途端に冗長な印象がまさってしまい
ましてや私が座っていたただでさえ舞台から遠い新宿文化センターの2階席後方鑑賞者からすれば退屈にもなりかねないわけですが
音楽に乗って自然と溶け合うマイムで進行し、ちょっとした角度や目線の運び方、顔の表情の付け方も工夫が行き届いて退屈どころか展開をわくわくとさせたほど。
中でも、先にも触れましたが1幕にて家の中から響く謎な音はコッペリウスの人形作りであろうとスワニルダが技術者と人形を交互に演じ説明する場面や
家に忍び込み、一瞬コッペリウスに見つかるも彼を人形と思い込み油断を続けるフランツの能天気ぶりのマイムは分かりやすい伝わり方であったと思っております。

1990年の井上バレエ団『コッペリア』初演時にフランツ役を務め(スワニルダは藤井直子さん)、久々の復帰となった森田さんのコッペリウスは
若々しくも静かに感情を滲ませる人物で、お爺さんメイクもなく森田さんの自然な風貌を生かしての造形。
喜怒哀楽が抑えめな分、近寄り難さを増幅しコッペリアに対しても愛情を露骨に出さず、そっと慈しむように接してコッペリウスが内包する優しさを表していた印象です。
フランツへの薬入りの酒の成分が気になるところで、一度アルコール欲を敬遠させてコッペリウスがグラス底に手を添えて飲ます
強引飲酒を行ったのち今度はアルコール欲が止まらなくなり、遂にはコッペリウスから瓶ごと奪うまでに暴飲。結果、すぐさま熟睡でございました。

演出でひときわ魅力的に光っていたのは、スワニルダとフランツのコッペリウスに対する優しい気遣い。
3幕、めでたく新郎新婦が堂々と入場するかと思いきや慌てふためいて手放しでは喜んでいない様子を見せ
コッペリア人形を壊してしまった後悔を2人とも引き摺っていたのでしょう。祝い金も受け取らず辞退し、呼び寄せたコッペリウスに渡すよう市長に訴えていたのでした。
するとコッペリウスは許しているのか拒絶。やや曇りがかった空気を消し去ったのは中尾充宏さん演じる陽気な市長で
市民の輪にも気さくに入っていく、親しみやすく場を和ませる長として活躍。
隠し持っていたもう1袋をコッペリウスに渡して一件落着。更には市長、コッペリウスを誘って一度は断られても説得させて一緒に着席し
2人でワインを飲みながら結婚の宴を眺め、最初は気乗りしなかったコッペリウスも徐々に心を許してスワニルダとフランツのパドドゥでは
手を掲げて祝福を示したりと、内面の変化を表していく過程も森田さん、お上手でした。
思えば森田さんの牧阿佐美バレヱ団入団は1998年で、それ以前は井上バレエ団や小林紀子バレエシアター等あちこちのバレエ団公演に客演なさっていたのかと追想。

淡い色味中心のピーター・ファーマーの衣装美術、柔らかなタッチの風景や建造物も絵本を覗いている気分にさせ
マズルカやチャルダシュは濃い目の色を配してバランスの図り方も宜しく、また決して大人数な舞台ではなくても工夫が光る振付で前後左右への移動距離が豊富で
踊りと衣装両方の鮮やかな広がりが視界に入り、舞台上の隙間を気にさせませんでした。
管理人が太古の昔に発表会にて踊った「仕事の踊り」での手のポーズが一瞬ウルトラマンのシュワッチに見えたのは気のせいか笑。
透明感のある青い村娘な衣装も可愛らしく映った軽快な3人構成です。

関直人さんが振り付けて石井竜一さんが手を加えて優しさがじわりと馴染む、朝昼夕と照明の色味変化も時間軸を明確にさせる
絵本のような『コッペリア』でした。村を舞台にした、元祖な版も良いものです。
いつもロビーで立ち、挨拶をなさっている藤井直子さんのお姿も変わらず美しく、目を惹きました。




鑑賞前、行ってみたかった下北沢のカレー店へ。鰹のアチャール(スパイス漬けのようなもの)が疲労回復に嬉しい。
これでビールがあれば尚爽快だが、店主が試行錯誤して開発したスパイスピーチラッシーも甘さが程良く美味しい。ドリンクも色々あり。




4種盛り。目にも綺麗な配色です。酸っぱい印象が強いラッサムを用いたカレーが隠し味の工夫でまろやかに。ご馳走様でした。
偶々ギター近くの席で、妹は確か弾けるはずでサウンド・オブ・ミュージックのマリア先生目指すと口走っていたかと記憶。カレーとギター、お洒落な組み合わせです。