2021年8月24日火曜日

奔走が実を結んだ宣言下でのフェス   第16回 世界バレエフェスティバル Aプログラム 8/15(日)




8月15日(日)、第16回 世界バレエフェスティバル Aプログラムを観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2021/wbf/index.html


※例年よりは少ないながら演目多々あるため、長短まちまちな感想ですが全て綴って参ります。

※キャストや演目はNBSホームページより
指揮: ワレリー・オブジャニコフ、ロベルタス・セルヴェニカス
  管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

ピアノ: 菊池洋子(「ル・パルク」、「瀕死の白鳥」、「ライモンダ」)
チェロ: 伊藤悠貴(「瀕死の白鳥」)


─ 第1部 ─

「ゼンツァーノの花祭り」

振付:オーギュスト・ブルノンヴィル
  音楽:エドヴァルド・ヘルステッド
 
オニール八菜、マチアス・エイマン

パリ・オペラ座の2人がブルノンヴィルしかもゼンツァーノ⁈と意外な選択に思えたものの、エイマンの脚捌きやにこやかさに作品そのものの格が上がった印象。
オニールさんは純朴な村娘よりももう少し勝ち気そうな役の方が合っていそうでしたが
淡いトーンで整えた衣装姿が可愛らしく、何よりエイマンと幸福一杯に踊っていた幕開けでしたからそれで良し。


「ロミオとジュリエット」より 第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:レオニード・ラヴロフスキー
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
 
オリガ・スミルノワ、ウラジーミル・シクリャローフ

良い意味で驚かされたバレエ団の枠を超えたパートナーシップその1。ジュリエットのイメージが全く沸いたこともなかったスミルノワが
落ち着きがありつつもピュアで優しいヒロインを造形。そしてシクリャローフのロミオが情熱を前面に出しての求愛っぷりで
こんなに全身から熱きものを醸す人であったかと驚愕。ロミオの止まらぬ勢いに引っ張られ
ジュリエットもみるみると心を開いていく様子を上品にされど愛情を凝縮して描くお2人でした。
ラヴロフスキー版ですからさほど疾走感も派手なリフトもないものの品ある古風な格式高さが合っていた印象です。


「パーシスタント・パースウェイジョン」

振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ

渋めのシンプルなブルーのワンピース姿の菅井さんがしっとりと丁寧に紡いでいく踊りが舞台に広がり観ていて気持ち良く
トルーシュとも息がよく合い、決して華麗な作品ではないながら内側から光を発して眩しいほど。
力強く超絶技巧系も得意な菅井さんですが、こういった流れるようなコンテンポラリー(ネオクラシック?)ももっと観たくなります。


「オネーギン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・クランコ
音楽:ピョートル・チャイコフスキー

ドロテ・ジルベール、フリーデマン・フォーゲル

コロナ渦前最後の来日ガラであったコジョカル・プロジェクトに続き、NBS公演本番直前に困ったときの救世主フォーゲル再び参上。
入国規制でAプロに間に合わなかったユーゴ・マルシャンの代役且つ急遽演目変更で登場です。小柄で華奢なジルベールはまだ夢見がちな少女であるタチヤーナに嵌って
鏡に触れて不穏な胸騒ぎを覚える戸惑いの表現も上手く、そして鏡から出てくるオネーギンのやや不敵な笑みの楽しそうなことよ笑。
後半にかけて曲調もじわっと盛り上がりスライディングな振付もスムーズ且つ速さもあり、タチヤーナの束の間の幸福の絶頂を描き出していました。


─ 第2部 ─

追悼 カルラ・フラッチ、パトリック・デュポン(映像)

今年逝去した大スターを追悼。フラッチは確か1988年の『ラ・シルフィード』。愛くるしく戯れるこれ見よがしでなくても頬が緩んでしまう可愛らしさでした。
そしてデュポン。東京バレエ団との共演『白鳥の湖』(幕ごとに主役が代わる豪華版だった気がいたします)
1幕道化にて、ブンブン回るわ弾けるわ、しかし観客や家庭教師との対話も申し分なく、会場全体を沸きに沸かせていました。
更に噂には聞いていた『ドン・キホーテ』。次々と繰り出すド派手テクニックの連続でただバレエの品からはぎりぎりはみ出ない程度には抑えていたためか批判なんぞできず
もはや黄色い歓声か悲鳴か笑いか、混在した賛辞や仰天の声がウェーブのように響いていました。映像であっても、2021年の客席から笑いも多々発生。
1985年の舞台であったようで、私がバレエ鑑賞に興味を持つ4年前。あと何年か早かったならば鑑賞できたかもしれないと悔やみつつも
ほんの少しだけ、当時の客席に居合わせた気分を味わえました。


「白鳥の湖」より 第1幕のソロ

振付:パトリス・バール
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
ダニール・シムキン

シムキン、ソロで登場。昨年7月にNBAバレエ団『ジゼル』客演予定が中止となり、王侯貴族の役は初見です。
歴史に刻まれる大スター追悼直後に憂鬱な場面からの開始は容易ではなかったでしょうが
品もあり伸びやかであってもどこか内向きな様子が全幕の中の一コマであると伝わって好演。
シムキン=レ・ブルジョワの印象を長年引き摺っておりましたがそろそろ刷新せねばと反省。


「ジュエルズ」より "ダイヤモンド"

振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・チャイコフスキー 

アマンディーヌ・アルビッソン、マチュー・ガニオ

バレエフェス鉄板演目ですが男性がサポートのみで少々寂しい気も。私の中ではロパートキナやルテステュ、スミルノワ、
写真でしか見ておりませんがファレルといった近寄り難い女王然としたダンサーによる披露が咄嗟に浮かびますが
アルビッソンはより大らかで体温を感じさせ、脚先でゆったりと語り紡いでいく踊り方でまた違った魅力。ガニオは恭しく仕え、歩く姿もエレガント。


「マノン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:ケネス・マクミラン
  音楽:ジュール・マスネ

金子扶生、ワディム・ムンタギロフ

急遽初登場金子さんのマノンは毒気や小悪魔度は抑えめでいじらしい視線の向け方にどきりとさせられ引き込まれ、
ムンタさんデ・グリューのマノンに翻弄され首ったけな姿、マノンによるサポートでの回転してからの後脚もよく伸びて身体で恋を高らかに歌っていました。
ペアを組む機会は少ないのか無防備な飛び込みや受け止めはなかったように思えましたが、
先々の試練どころか全幕ならばもうドアの辺りに修羅場の原因となる人物が忍び寄っているとは知る由も無いカップルの歓喜が伝わる寝室でのパ・ド・ドゥでした。


「ル・パルク」

振付:アンジュラン・プレルジョカージュ 
音楽:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

アレッサンドラ・フェリ、マルセロ・ゴメス

フェリが来日してフェス参加、これも恐ろしや。以前観たガラのときよりも若さが増している気さえするほどで
淡々とした中から情感をそっと滲ませていき、ゴメスに身を委ねて抱きつき空中遊泳するような回転も安堵に浸っているような快感が見て取れました。
ゴメスも隅々まで行き届いた踊りで、ゆったりとした曲調に合わせ心を砕くように視線や心の通わせ方から懐の深さを思わせます。ベテランの味わいに触れた思いです。


「海賊」

振付:マリウス・プティパ 
音楽:リッカルド・ドリゴ 

エカテリーナ・クリサノワ、キム・キミン

良い意味で驚かされたバレエ団の枠を超えたパートナーシップその2。ボリショイとマリインスキーの混合ペアが炸裂です。
お2人ともバレエ団きってのテクニシャンかと思いますが決して乱雑にも大味にもならず、ガラであっても派手さを優先させず
しかしエネルギッシュで随所に光るアクセントが絶妙で、何度膝を打ったことか。互いを立てながらの幸福感たっぷりな表情も宜しうございました。
クリサノワは来日公演にてコール・ド時代に『ラ・バヤデール』影のトリオに抜擢された
かれこれ15年前から注目しており、追加決定でフェス初参加と知った際には心から歓喜。華麗なタイプではないかもしれませんが
歌うような開放感ある踊りにうっとり。このパ・ド・ドゥはチュチュのほうが好みですが淡いターコイズブルーのシンプルな膝丈の衣装もとてもお似合いでした。
キムは全身が曲の抑揚と共に躍動するかのような音楽の捉え方やポーズが微塵も崩れず隙も全く見当たらず
ときめきは全くしないのだが(失礼)ダイナミックでありつつ折り目正しさも備わった踊りの質感やきちんとお仕えしている姿勢はたいそう好みでございました。
スミルノワとシクリャローフ組に続き、ボリマリ混合ペアを満喫です。そして『海賊』パ・ド・ドゥの理想及び基準値がまたもや上昇。



─ 第3部 ─

「スワン・ソング」

振付:ジョルジオ・マディア 
音楽:モーリス・ベジャールの声、ヨハン・セバスティアン・バッハ
ジル・ロマン

当初は団員ではなく監督がご出演はどうかと思いましたがBBL芸術監督を同時平行で今も踊る回数は豊富なのか身体も動き方も若々しく、失礼を詫びた次第。
少し取り入れたシックな映像?を最小限に抑えていた点もバレエを邪魔せず効果的でした。(バレエでもオペラでも映像演出は下手すると作品が薄くなってしまいがち)
10月にBBL来日公演が予定されており4度目の正直か、開催できますように。


「オネーギン」より 第3幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・クランコ
  音楽:ピョートル・チャイコフスキー

エリサ・バデネス、フリーデマン・フォーゲル

フェスの定番で本家シュツットガルトペアによる披露。このパ・ド・ドゥ1本の抜粋でもタチヤーナの解釈は皆それぞれで
バデネスは後悔は一切なくきっぱり拒絶、立ち去りを毅然と命じるタチヤーナ。フォーゲルは写真で観た限り(2018年のシュツットガルト来日公演、オネーギンは鑑賞できず)
白髪も入れていなかったのか全幕のときよりも見た目に若さを残した役作り。悲しみを帯びて縋る哀れな様子で、タチヤーナによるタイヤ引きなる
引き摺りながらのくるりと客席に背を向けて反る箇所における、オネーギンの目から僅かな希望も消え失せていくさまが
タチヤーナに完全拒絶される劇的幕切れをより重々しくさせていました。

「瀕死の白鳥」

振付:ミハイル・フォーキン 
音楽:カミーユ・サン=サーンス

スヴェトラーナ・ザハロワ

空気を静謐に一変させながらザハロワ登場。ザハロワが中途代役であるとは、今回の特異な状況下でのフェスの試行錯誤を物語ります。
野性味は薄めでひたすら気高く滑らかな腕運びで惹きつけ、死に際にいる感じではなかったが(失礼)静かに生から離れていくパタリと座り込む最期まで美が宿る白鳥でした。


「ライモンダ」
  振付:マリウス・プティパ 
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
 
マリーヤ・アレクサンドロワ、ヴラディスラフ・ ラントラートフ

紅白歌合戦で言うならば石川さゆりさんの『天城越え』、北島三郎さんの『祭り』にあたるであろう『ドン・キホーテ』が無い2021年プログラム。
大トリの行方に注目が集まっていたことでしょう。締めに相応しいベテランのお2人です。
『ライモンダ』は2018年のフェスAプログラムでも披露していたようで、Bプログラムしか観ておらず同じ曲構成であったかは分かりかねますが
夢の場のアダージオ、ジャンはジャンの3幕ヴァリエーション(グリゴローヴィヂ版のためトランペットの主旋律で始まる曲ではない
本来は子供の踊りとして作られたほうの曲)、ライモンダ3幕ヴァリエーション、
コーダは2幕のライモンダと友人の踊りの部分を使用する混在版。そういえばアナニアシヴィリとファジェーチェフが何かのガラで披露した際は
決闘後のアダージョ、各々のヴァリエーション、2幕のライモンダと友人コーダの曲構成であったと記憶しております。

さて2021年に話を戻します。アレクサンドロワはクラシックの技術面は全盛期を過ぎていると認めざるを得ないかとは思うものの
1つ1つのステップがより丁寧に連なり、そして豊かな情感を放ちボリショイのプリマとして長年踊っている誇り高さに手を合わせたい思いに駆られました。
白い衣装に銀色で縁取られたラインやきらりと光を帯びた細かなレースの装飾、ティアラは無しでもボリショイ特有なのか
リボンと編み込んで耳上に弧を作る髪型を目にでき感激です。今回もバレエフェス鑑賞の決め手であり
好きな海外の女性ダンサーを聞かれたら、ボリショイ来日公演にて 初めて観てニキヤのグラチョーワ、ザハロワにも引けを取らぬ
堂々たる美しい、知性も備えたガムザッティに魅せられて以来15年以上経った今も変わらずアレクサンドロワと答える管理人でございます。
ラントラートフは薄い水色の特に胸元が騎士らしいデザインの衣装でアダージオではマント付き。随分と優男に見えなくもなかったが(失礼。夢の場だから良いか)
威厳ある姫に優しく忠実にお仕えしている構図としては申し分なく、技術も盤石で着地や跳躍も柔らかく無駄のない踊り方で気品もあり。
マント姿に関しては元々理想基準が妙に高く、しかも2021年はライモンダ年なのか(実は今月末も来月もでございます)
今年6月11日(金)16時少し前の約15秒間における失神級に絵になる姿を渋谷区の某劇場内で眼前にした体験を機に
どうしても目を光らせてしまうのは致し方なく、それはさておきドンキではなくても大トリに納得なお2人でした。

カーテンコールは恒例の『眠れる森の美女』アポテオーズで女性のアルファベット順に登場。最初は、アルビッソン、アレクサンドロワ、と続きました。
そして今回からの演出、プロジェクションマッピングによる花火の打ち上げ。舞台背景のみならずもっと上の方や、
舞台のサイドも使用しての大掛かり演出で出演者達も後ろを向いて喜びを体現。(連日であっても毎度興奮しそうだ)
すっかり寛いでいる人もいればシムキンだったか、手で花火の弾けようを表現していたりと様々な反応で面白く、
昨年同様に花火大会の開催が困難な今年
映像駆使によるしかも種類も多彩な花火の打ち上げは出演者も観客も関係なく会場が一体化して祝祭を喜び合ったように思えます。

決行それとも中止の可能性がむしろ高いなど噂や憶測もまちまちで、次々と来日公演も中止に追い込まれる中
NBSも対応疲弊に限界が近づく日もあったのは想像に難くなく賛否両論あらゆる意見が届いているであろうと察します。
現在だけでなく、遡ればぎりぎりで開催した2020年3月のパリ・オペラ座来日公演からずっと悩まされていたと思うと
予定出演者数は減ったとはいえここまで各地のバレエ団やダンサーが来日して隔離にも協力して勢揃いした舞台が目の前に広がり
出演者にも、奔走したNBSにも頭が下がるばかりです。運営にあたってはまた課題も出てきたとは思いますが
秋以降の芸術関連の来日公演も中止や延期が続いて不安な時期が続く中、全日程予定通り終了できたことにまずは拍手を送りたいの一言に尽きます。
Aプロに関しては上演時間が以前より格段と短くなり、3部構成休憩2回で約3時間15分。このぐらいがちょうど良いと感じましたので
今回は中止になりましたがガラはともかく次回以降も継続を。













午前中にはクラスレッスンを見学。ゴメス宴会部長健在!(レッスンの様子は記憶を辿り、明日あたりここに追加して書いて参ります。宜しければ、お越しください)
会場内の装飾は空いていたこの時間に撮影。



※クラスレッスン
別日に公演鑑賞する知人が譲ってくれましたので、朝から行って参りました。以下、情報曖昧不正確箇所も多々ありますが悪しからず。
参加者はフェリ、ゴメス、ロマン、スミルノワ、シクリャローフ、金子さん、菅井さん、フォーゲル、バデネス、
オニール、ガニオ、エイマン、アルビッソン、ジルベール、トルーシュ、あとマルシャンも?(オペラ座Tシャツであったと記憶)だったか。
センターからはフェリとロマンは抜けていたと思いますが、団や国籍、キャリアの垣根を越えた、世界レベルのレッスンを存分に楽しみ隈なく観察。
バーにて、最後にライモンダの手を頭の後ろに当てるポーズで締め括ったり、突如面白い歩き方を披露したりとゴメスが相変わらず宴会部長笑。
近くのジルベールとトルーシュが笑いを堪えていました。シクリャローフとエイマンはセンターレッスンの合間に後方でバジルポーズごっこ?を楽しそうに行い
晴れやかに腕を掲げるシクリャローフに対してエイマンは優雅。身体に染み付いたスタイルが瞬時に窺えました。
バデネスとが黒鳥の腕の動かし方について金子さんに声をかけていたり、ジルベールとフォーゲルは当日踊るオネーギン第1幕パドドゥの
スライディングさせてからの抱き起こし?箇所を何度も確認し、ゴメスが立ち会っていたりとバレエフェスならではの光景を度々目にできたのは大きな喜びでした。
そういえばセンターにて、入るタイミングを間違えたのかオロオロ右往左往しながら一目散に抜けた、一瞬大人の初級クラスかと思わせる光景も。ガニオでした笑。




お手紙ポスト。立ち会いスタッフがおらず、形状からして中学校や高校の生徒会投書箱を思い出す素朴な箱で
お花お届けサービスに比較すると目立ってはいなかったようだが、活用いたしました。
若き日の不勉強が原因である怪しい文法祭りの内容、通じたであろうか。



帰りは上野駅近くにて、ロシアのデザート盛り合わせとロシア紅茶で乾杯。
メレンゲがさくさくとしたパブロワやジョージアのヨーグルト松ぼっくり蜂蜜入りなど一口サイズで集結です。
ロシアといっても広くメソッドも異なるが、 やはり私は昔から旧ソ連時代を含んでロシアバレエが好きであると再確認。

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