2021年8月2日月曜日

コッペリウスを気遣う新郎新婦   井上バレエ団『コッペリア』7月31日(土)




順番前後いたしますが7月31日(土)、井上バレエ団『コッペリア』を観て参りました。
http://inoueballet.net/information/


振付:関 直人
再構成・振付:石井 竜一

スワニルダ:源小織
フランツ:清水健太
コッペリウス:森田健太郎


源さんは容姿や踊りの持ち味はほんわかおっとりながら中身は男前なスワニルダ。フランツへの嫉妬も湿度が低く、放って立ち去る行動もさっぱりしていて
コッペリウスにも人形たちに怖気づく様子もなく何事も堂々とこなしていく頼もしいヒロインでした。
清水さんはお調子者且つ怖がり屋なフランツで、コッペリウス宅から聞こえてくる人形作りの音に気づくや否や人目も憚らずスワニルダに縋り付く小心者。
(対するスワニルダ、動じずさっさか家に近寄り、音の正体を掴むとフランツに事の経緯説明を冷静沈着に行う度胸あるしっかり者でやりとりが面白い)
コッペリウス宅侵入前の梯子持っての登場は一旦出てきたかと思いきやコッペリウスの姿を発見してそのまま戻り
タイミング見計らって再度同じ持ち方歩き方で登場する流れが出方を間違えたわけでもないながら笑いを誘い、2幕以降の侵入騒動に期待を高める効果大でした。
1幕前半でのマズルカでも中央で皆を率いて踊る見せ場もふんだんにあり、盤石のテクニックで舞台を締めて全体を勢いづけに貢献。

3幕フランツのソロは珍しい曲で、プログラムに挟んであった機関紙あまりりすによれば、依頼を受けた音楽監督冨田実里さんが
ドリーブの音楽の中から探し、オペラコミック『ムッシュー・グリフォー』モティーフを元に作・編曲しポロネーズ風のヴァリエーションになったとのこと。
花火のように煌びやかに弾ける曲調で祝祭感も高まり、定着すると嬉しい振付と音楽でした。

源さん、清水さんともに驚かされたのはマイムの上手さ。下手な人が行うと途端に冗長な印象がまさってしまい
ましてや私が座っていたただでさえ舞台から遠い新宿文化センターの2階席後方鑑賞者からすれば退屈にもなりかねないわけですが
音楽に乗って自然と溶け合うマイムで進行し、ちょっとした角度や目線の運び方、顔の表情の付け方も工夫が行き届いて退屈どころか展開をわくわくとさせたほど。
中でも、先にも触れましたが1幕にて家の中から響く謎な音はコッペリウスの人形作りであろうとスワニルダが技術者と人形を交互に演じ説明する場面や
家に忍び込み、一瞬コッペリウスに見つかるも彼を人形と思い込み油断を続けるフランツの能天気ぶりのマイムは分かりやすい伝わり方であったと思っております。

1990年の井上バレエ団『コッペリア』初演時にフランツ役を務め(スワニルダは藤井直子さん)、久々の復帰となった森田さんのコッペリウスは
若々しくも静かに感情を滲ませる人物で、お爺さんメイクもなく森田さんの自然な風貌を生かしての造形。
喜怒哀楽が抑えめな分、近寄り難さを増幅しコッペリアに対しても愛情を露骨に出さず、そっと慈しむように接してコッペリウスが内包する優しさを表していた印象です。
フランツへの薬入りの酒の成分が気になるところで、一度アルコール欲を敬遠させてコッペリウスがグラス底に手を添えて飲ます
強引飲酒を行ったのち今度はアルコール欲が止まらなくなり、遂にはコッペリウスから瓶ごと奪うまでに暴飲。結果、すぐさま熟睡でございました。

演出でひときわ魅力的に光っていたのは、スワニルダとフランツのコッペリウスに対する優しい気遣い。
3幕、めでたく新郎新婦が堂々と入場するかと思いきや慌てふためいて手放しでは喜んでいない様子を見せ
コッペリア人形を壊してしまった後悔を2人とも引き摺っていたのでしょう。祝い金も受け取らず辞退し、呼び寄せたコッペリウスに渡すよう市長に訴えていたのでした。
するとコッペリウスは許しているのか拒絶。やや曇りがかった空気を消し去ったのは中尾充宏さん演じる陽気な市長で
市民の輪にも気さくに入っていく、親しみやすく場を和ませる長として活躍。
隠し持っていたもう1袋をコッペリウスに渡して一件落着。更には市長、コッペリウスを誘って一度は断られても説得させて一緒に着席し
2人でワインを飲みながら結婚の宴を眺め、最初は気乗りしなかったコッペリウスも徐々に心を許してスワニルダとフランツのパドドゥでは
手を掲げて祝福を示したりと、内面の変化を表していく過程も森田さん、お上手でした。
思えば森田さんの牧阿佐美バレヱ団入団は1998年で、それ以前は井上バレエ団や小林紀子バレエシアター等あちこちのバレエ団公演に客演なさっていたのかと追想。

淡い色味中心のピーター・ファーマーの衣装美術、柔らかなタッチの風景や建造物も絵本を覗いている気分にさせ
マズルカやチャルダシュは濃い目の色を配してバランスの図り方も宜しく、また決して大人数な舞台ではなくても工夫が光る振付で前後左右への移動距離が豊富で
踊りと衣装両方の鮮やかな広がりが視界に入り、舞台上の隙間を気にさせませんでした。
管理人が太古の昔に発表会にて踊った「仕事の踊り」での手のポーズが一瞬ウルトラマンのシュワッチに見えたのは気のせいか笑。
透明感のある青い村娘な衣装も可愛らしく映った軽快な3人構成です。

関直人さんが振り付けて石井竜一さんが手を加えて優しさがじわりと馴染む、朝昼夕と照明の色味変化も時間軸を明確にさせる
絵本のような『コッペリア』でした。村を舞台にした、元祖な版も良いものです。
いつもロビーで立ち、挨拶をなさっている藤井直子さんのお姿も変わらず美しく、目を惹きました。




鑑賞前、行ってみたかった下北沢のカレー店へ。鰹のアチャール(スパイス漬けのようなもの)が疲労回復に嬉しい。
これでビールがあれば尚爽快だが、店主が試行錯誤して開発したスパイスピーチラッシーも甘さが程良く美味しい。ドリンクも色々あり。




4種盛り。目にも綺麗な配色です。酸っぱい印象が強いラッサムを用いたカレーが隠し味の工夫でまろやかに。ご馳走様でした。
偶々ギター近くの席で、妹は確か弾けるはずでサウンド・オブ・ミュージックのマリア先生目指すと口走っていたかと記憶。カレーとギター、お洒落な組み合わせです。

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