2021年8月20日金曜日

同一のテーマでもラテンからAIまで  大和シティー・バレエ  SUMMER CONCERT 2021 想像 × 創造 Vol.2『追う者と追われる者』  8月14日(土) 《神奈川県大和市》




8月14日(土)、大和シティー・バレエ SUMMER CONCERT 2021 想像 × 創造 Vol.2『追う者と追われる者』を観て参りました。
https://www.ycb-ballet.com/s
プロデューサー佐々木三夏さんによる大和シティーの紹介や、作品解説、リハーサル動画も掲載。ララの詩は使用曲も明記されています。https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000293.000013972.html


福田紘也さんへのインタビュー。作品に思わず興味を持ってしまう福田さんの感性の面白さを始めとするお話や
これまでの振付の逸話や師匠矢上恵子さんの音楽作りの裏話など満載です。
https://spice.eplus.jp/articles/289861



「ララの詩」振付 / Braulio Alvarez

東京バレエ団でも何本もの作品を発表していらっしゃるブラウリオ・アルバレスさんによる
故郷メキシコにゆかりある音楽を集め振り付けた作品。知識不足でアグスティン・ララの名前も初めて耳にいたしました。
弾ける系からしっとり甘美系まで多彩な音楽構成で、また曲によって大人数もあれば男女のパ・ド・ドゥや女性2人組もあり変化に富んで振付も飽きさせず。
中でも一昨年のアステラスでのショルツ作品で初鑑賞以来また観たいと願っていた石崎双葉さんと
佐々木アカデミー卒業生で昨年は情勢の関係上、帰国しての出演が叶わなかった大谷遥陽さんの凛とした力が光るデュオ
盆子原美奈さんの濃厚な色気と振付が染み込んでいると窺わせるしなやかな躍動感が誠に宜しく
そして五月女遥さんと渡邊峻郁さんによる喜びが弾け飛ぶパ・ト・ドゥに晴れ晴れした気分でおります。

  渡邊さんは前週の佐々木アカデミー発表会におけるBTSの曲にのせたフィナーレに比較すると格段に明るく(じわりと弾けていくフィナーレも勿論大歓迎であったが笑)
昨年のしっとりしたノクターンの調べに引き続き、五月女さんとも良きペアを構築され
風変わりなリフトからの突如の跳躍もぱっと描き出すフォルムが美しく、満面の屈託ない笑みにも癒された一夜でした。
ラテンとはいっても多岐に渡りますが、トゥールーズ時代に踊られた土の上で披露するタンゴ作品Valserのようなシリアスな作風
或いは濃密さと揉み上げが伝説化している一昨年1月の藤原歌劇団『椿姫』闘牛士のようなギラギラ押し迫り系のみならず
海岸で戯れているような(解釈大違いでしたら失礼)ルンルンとした振付も意外にもいけると発見でき収穫です。
さて発表会もまとめて大和でもやります髪型観察、今回も二重丸。前髪も程よく残し、ぺったりにならぬ自然な纏め具合で一安心。

ただ作品全体で約20分は非常に短く感じてしまい、振付自体の中身が濃かったかと聞かれたらそうでもなく
大塚卓さんや玉川貴博さん、南江祐生さんら東京バレエ団からも期待の若手男性ダンサーが何名も出演していながら、存分な魅力が伝わらず終いだったのは正直なところ。
何より周囲の観客において異口同音であったのは衣装についての意見で、女性は色違いで淡い色と黒を重ね照明に反射しキラリと光るドレープ状スカートに
花の刺繍で彩られた黒のノースリーブがお洒落で好評でしたが、問題は男性衣装。上は光沢のオーシャンブルー?で胸元は大きく開き
不思議なベルト付き下は白いパンツ。万博メキシコ館にいる日本人係員か、リゾートホテルのフロント、
また男性全員が横に揃うと一見24時間テレビにも思え、ならばフィナーレはサライだ、マラソンも追う者と追われる者に当て嵌まるか、そういう問題ではない笑。
他にもイーグリング版眠りに並ぶであろう様々な呼び名が誕生するほどたまげる衣装でございました。

ただ思い出したのは、話は逸れますが20年以上前にメキシコにホームステイした方の帰国報告会を聴講する機会があった際、メキシコに対するイメージを問われ
サボテンの前でドンタコスな服を思い浮かべる人が多いと思うが違いますと一石を投じるまでとは言わずとも
大半を多感な青少年が占めていた出席者達に先行しがちな印象に注意喚起をなさっていて、当たり前ではあるが海に面した国で海洋貿易も栄えている国であるはずが
即座にサボテンを浮かべる勝手な思い込みは宜しい傾向でない。今回ララの故郷港町のベラクルスを描いた「Veracruz」も
バレエとともに味わえたのは良き事であったと当時の自身(既に青少年でもなかったか、想像にお任せいたしますが)にも伝えたいと思った次第です。



「Disconnect」振付/宝満直也

新国立劇場でのDance to the Futureで発表され、大和の地へ。何度か観ておりますが、その度に寂しさや愛おしさ、悲しさが混在した内面を
静かな曲調と溶け合った宝満さん五月女さんのお2人が身体で訴えかけ、踊り重ねて欲しいそして定期的に鑑賞したい作品です。
今回は初の生演奏で、リヒターの曲を生で聴ける機会はそうそうなく、演奏者が後方の高さの異なる台に1人ずつ並ぶユニークな配置でした。
紺色のワンピース衣装の五月女さんが色っぽくも可愛らしい姿で、しかし身体は強靭。お見事でした。



「最後の晩餐前」振付/ 竹内春美

美術の教科書にも必ず載っている名画を捻ってバレエ化する大胆発想にまず驚き。幕が開くと横長のテーブルが置かれ、絵の通りな構図を立体再現。
そして私の中ではNHK番組『ふるカフェ系 ハルさんの休日』https://www.nhk.jp/p/furucafe/ts/W6Z2W3826N/
ハルさんの印象が強い渡部豪太さんのダンス披露も他の出演者とも遜色ないレベルに失礼ながらびっくりでございました。
フィリップ・グラスの終わりが見えぬ曲調にも謎が多々潜んでいそうな絵の人物達の個性が嵌っていたと見受けましたが
突如のジーザスクライスト スーパースターの歌は唐突であったかもしれません。これは偶々家族にこのミュージカル好きがおりまして、
先月下旬にはコンサートまで行っており事前には散々曲を聴いていた様子で我が耳にも入っていた影響があるのも一因とは思いますが
可能な限り声ではなくダンスで表現して欲しかった気はいたします。
余談ですが、『最後の晩餐』ではないものの似た絵のモザイク画が管理人が嘗て通っていた水泳教室のプールの目の前に飾られていて
呑気な性分の子供も優しく受け入れてもらい水との戯れ及びレベル毎のワッペンが魚介類のため(初級は蟹や蛸で上達すると秋刀魚やトビウオ等)
魚好きにはなったが水泳そのものは不得意なまま終わったのはさておき水面から顔を上げる度にモザイク画が視界に入り
食卓を囲む人々の幸福とは言い難い表情を不思議に眺めていたことは今もよく覚えております。
大和へ行く際に必ず通る登戸駅近くに今もあり、新百合ケ丘や大和のシリウスへ出向く度に懐かしさを募らせておりますが変わらず盛況のようです。



「オペラ座の怪人-地下迷宮-」振付/ 池上直子

アンドリュー・ロイド・ウェバーのミュージカル曲とバッハの曲を組み合わせての作品で、ファントムの心理に焦点を当てた描写。
昨年『牡丹灯篭』和尚役に続き登場の瞬間から渡邊拓朗さんファントムの支配感に驚嘆。耳に馴染みあるテーマ曲の仰々しさに負けぬ妖しい魅力をパワフルに放ち
上背やしっかりとした体格が黒く裾の長い衣装姿をより近寄り難い人物へと押し上げていたと思わせます。床を使った素早い振付も多々ありましたが
四肢を持て余さずむしろ全身から観るモノを仰け反らせる重厚な怖さの放出に目を見張るばかりでした。
一方ファントムの心の闇に迫る場面では葛藤や孤独感をも滲ませ、ソファに腰掛けた姿だけでも暗い過去を背負っての人生が覗き見える様子で
子供時代の回想では子役のダンサーの好演もありますが、過去を愛おしむも戻れぬ苦しさの表現も胸を突き、強さと脆さの隣り合わせに生きていると窺わせるひと幕です。
木村優里さんのクリスティーヌの空気をぱっと一変させる清純な雰囲気も作品にピュアな美しさを吹き込み、
ただ綺麗なだけでなく底知れぬ力を秘めていそうで好奇心旺盛な性格が、人々が寄り付かないファントムにも臆することなく近づけたと納得できます。
ファントムの心理を表す黒い衣装のアンサンブルも迫力を備え、激しいうねりを見せたり
ファントムに吸い付いてクリスティーヌを脅かしたりと運命共同体のような存在にも感じさせ、ファントムの屈折した心の内を集合と離散の変化を持たせての表現でした。

最大の見せ場であろうクリスティーヌがファントムの仮面を剥がす禁じ手に走る瞬間は、ファントムの憎悪に燃える怒りと
後方に下がり怯える後ろ姿でも語るクリスティーヌの呼応の緊迫感が極致へ到達。逃げ惑うクリスティーヌと
見られたくない面を露にさせられたファントムの切迫するパ・ド・ドゥから目が離せずでした。

1点惜しまれるのは、音楽の使い方。ウェバーの音楽が既に完成されていますから極力は他の作曲家の作品を使わぬ構成であって欲しかったと思っております。
中でも先程にも挙げた仮面を剥がしたときの場面こそ、ウェバーの曲をそのまま合わせて聴きたかったものですが、バッハのトッカータとフーガの後半部分を使用。
状況としては、また追う追われるの関係の表現においてはしっくりくる曲調ですが、『オペラ座の怪人』作品中と考えると違和感が否めずでした。
ただこれも我が感性の柔軟性の乏しさが起因とも思われ、これまた家族2名が2005年頃に公開されたこのミュージカル映画を好んでおり各々サウンドトラックまで購入。
休日を始め在宅中はどちらかが延々と聴いていたため自然と刷り込まれ、嘗て週2回程度勤務していた家電量販店の店内曲ですら脳内旋回でしたから
勧められ映画を観る前から劇中曲だけは刷り込まれ、映画館へ行っても自宅にいる感覚となり非日常空間に身を置いた気分にはなれなかったほどでした。
そんな事情から、特別作品好きではなくても劇中曲は覚えてしまい、生来の頭の硬さも一因で今回の音楽は違和感を与えられてしまったように思います。



「Life-Line」振付/ 福田紘也

『ペトルーシュカ』の音楽が人形ではなくロボットに置き換わった作品の根幹にぴたりと嵌った感あり。
川口藍さんの冷静な美女は地球防衛団な白いジャケット風衣装効果もあって他を寄せ付けぬオーラが強く、髪を銀にしての夜会巻もお似合い。
淡々と介護を行うも無残にも食器を投げ飛ばされてしまい、しかし動揺せず静かに片付け始める様子が
現代の何処でもあり得る起こり得る状況と思わせ序盤から鋭い筋運びです。
八幡さんの縦横無尽に駆ける軽快な踊りも健在で、想像もつかなかった川口さんと組んでの逃亡劇も面白く映りました。

上から落ちてくるケーブル線がキーポイントのようで、そして後半は謎のサングラス男・福岡雄大さんが猛スピードで2人を追い詰めていき
マトリックス或いは黒装束となった十字軍といった姿です。スリリングな展開に現代社会を風刺する要素を多数盛り込んだ作品と受け止めましたが
ただ我が理解力不足も承知で申すと難解であった点が気にかかりました。訓練されたアンサンブルは振付の語彙もよく咀嚼し
呑むような勢いで踊り繋いで作品の土台をしっかり支えていたと思いますが
昨年の『死神』が隙なく息つく暇もない、また解説を仮に読まずに鑑賞しても分かりやすい展開でしたから
今作品にももう少し締まりがあればと勝手な欲が出てしまったのかもしれません。

大和シティーの夏公演はここ最近はプロデューサー佐々木さんより毎回お題があり、振付家は皆要望に応えて制作して複数作品が集って披露し公演として成立。
『かぐや姫』の物語より難題且つ壮大な企画であり、しかも似たり寄ったりな作品が無い点も、佐々木さんの見抜く力には再度唸るしかありません。
今年は昨年の『怪談』に比較すると大枠で捉えての作品が集まった気はいたしましたが、
それでもある程度の人数から成るオリジナル作品が一挙に集結なんぞそう容易には実現できぬこと。来年も今から楽しみにしております。






今回で大和は4度目の訪問ですが今回は初のゆったり訪問。初回2019年夏公演は福岡から帰京して自宅に荷物を置いたのちに向かい
出発地の福岡、到着空港の位置する千葉、自宅のある東京、そして大和の会場の神奈川、と1日で1都3県に足を踏み入れる慌ただしい行動。
2度目2020年夏公演と3度目2021年発表会は早退した職場から直行。そんなわけで初めて心身に余裕ある状態で大和入りです。
せっかくですので、大和らしくない!?リゾートなお店で食事してから会場へ。
まさかのララの詩男性陣がこのノンアルコールオーシャンカクテルと同色衣装しかも光沢系とはこのときは想像もせず。
そして管理人、何十年も前に遡りますが米国のご家庭に1ヶ月間お世話になり、その間日本人にも会わずされど英語は今も喋れぬままであるのは如何なものかと思うものの
それは横に置き、当時は国内で食する機会が少なかったタコスがその頃から好物で
ご近所でタコスの好きな日本人が来ていると話題になっていたとかいなかったとか。おかげさまで食べる機会も多々あり、
英語の代わりに皮をこぼさずに完食する術が身につきました。
もし当時、国内でタコスを綺麗に食べる選手権なんぞ開催されたら、東京都代表にはなれたかもしれません。(そんな大会まず存在しませんが笑)



我が家にございます。映画版『オペラ座の怪人』パンフレットとサウンドトラックそして先月鑑賞した者がおります『ジーザスクライストスーパースター コンサート』。



帰宅後、スペインのカバを開栓して乾杯。申したいことはあれど、『ララの詩』堪能です。

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