2021年8月13日金曜日

センスに驚倒実力も高水準   佐々木三夏バレエアカデミーPerformance 2021  8月6日(金)



※ご訪問いただきありがとうございます。翌年2022年大和シティーバレエ 続・怪談、4作どれも見応えあり、特に雪女は振付演出キャスト衣装、全て秀逸でした。
https://endehors2.blogspot.com/2022/09/2022-814.html



8月6日(金)、神奈川県大和市にて佐々木三夏バレエアカデミーPerformance 2021を観て参りました。
https://www.sba-ballet.com/performance

大和シティー・バレエは去年、一昨年と2度鑑賞しておりますが大和シティーの監督佐々木三夏さん主宰の佐々木アカデミーさんの発表会は初鑑賞。
噂には聞いておりましたがレベルがいたく高く、特にキャラクターダンス作品の豊富さ、水準の高さには驚倒いたしました。
上演時間約4時間で、古典からキャラクターダンス、コンテンポラリー、ジャズまで盛りだくさん且つ
よく練られた、斜めから入っているとも思える意表を突く順序構成。佐々木さんのセンスが随所に表れ、瞬く間の終演です。
また好み或いは久しく耳にしていないながら思い入れのある曲やいつかバレエの舞台で鑑賞してみたいと思い続けていた演目、使用曲の連続で
ツボを押されっぱなしな心持ちとなり大和市へマッサージも兼ねて行ってきた気分でおります。
全て綴りたいところですが途方もない量になってしまいそうですので、中でも印象に刻まれた演目をいくつか。

トップバッターは『エスメラルダ』よりパ・ド・シス。ガラで馴染み深い独立系グラン・パ・ド・ドゥではなく版によっては全幕の中で繰り広げられるもので
しっとりとした悲哀が込められたこのパ・ド・シスのほうが好みのため、幕開けから気分上々。
正確に申せば、仕事を早退してまで平日夕方の大和へ駆け付けた最大の理由及び目当てであった渡邊峻郁さんがこの作品にご登場と到着後のプログラム確認時に判明。
ドラマ性が濃く表現も問われる作品であり、人物の心理描写と体現に長けていらっしゃいますから期待も高まっていった次第です。
いざ開演し、役に没入したお2人とエスメラルダの友人達が登場。エスメラルダは涙を枯らしたように内向きな心情が俯いた姿からも伝わり
エスメラルダ役の小形さくらさんはまだお若いながらひたひたと伝う悲しみが身体中から溢れさせ
安定感のあるテクニックもさることながら役の表現にも魅了されました。次の土曜日の公演でも注目いたします。
語りかけようと立ち止まった姿の背中から哀愁漂う渡邊さんは想像はしていたものの物哀しくほんのりと翳ある風情を湛えた作品にはぴったり。
実のところ、恥ずかしいながらこの場面設定の詳細をよく覚えておらず、エスメラルダが愛するフェビュスを救うために
詩人のグランゴワールと仮結婚して披露する踊りであったかと思いますが、
(すぐそばでフェビュスが婚約者と2人でエスメラルダ達を眺めている、静かな修羅場なる状況であるはず)
滴る雫のように嘆きを滲ませ訴えているエスメラルダと、仮結婚?であっても支えになろうと心を解し、救いの手を差し伸べようとする青年
(グランゴワールか。解釈等違っていたらご指摘を)のやりとりは、やや演歌調な音楽の起伏とも調和して全幕鑑賞を錯覚させるほどにドラマティックでございました。
求愛の設定ではないはずが自然と生じるのでしょう。エスメラルダの肩から肘、手首にかけてそっと摩るように触れて手を取る仕草も、一連の流れに美しさが宿り眼福でございました。

何しろこのパ・ド・シス、青年が実にキーパーソンであり、彼女のヴァリエーションの最中にも青年がエスコートして登場しては
後方を歩いて移動し佇んで時折慰めたりじっと見つめたり、コーダも跳んで回っての振付ではなくエスメラルダの友人達1人1人と
タンバリン叩き合って絡んでいきますから青年に芝居心や表現力がないとエスメラルダの背後を右往左往する人止まりとなり観客は苦行の時間と化すでしょう。
しかし心の変化や機微の表現、ちょっとした間の取り方にも優れた渡邊さんですから申し分なく、心が決して通い合っている状況ではない
されど拒絶し合っている風でもない描写が難しいパ・ド・ドゥであっても奥底に潜む微細な感情の襞を丁寧に体現なさり、聖堂を模した背景の効果も加わって
幕開けから教会の絶対支配下にある、抑圧された空気に苦しむ人々も大勢であっただろう中世のパリへと足を踏み入れた気分でおります。
タンバリンを手に大らかなヴァリエーションでは哀愁(これ大事)と余韻をふわりと残しながらの美しい品ある踊りで拍手。

このパ・ド・シス、上演頻度はまずまずあるようですが記憶の限りこれまで2回しか観ておらず。初回は大阪で、2度目が4年前の7月の愛媛。
この愛媛での舞台が恐ろしくドラマが凝縮した印象深きもので、翌日の海の日、しまなみ海道自転車横断時に
疾走感あるコーダの曲を延々と歌いながら漕いでいた覚えがございます。
それだけ心に刻まれていた証であり同時に作品に対する理想や基準も高くなりましたが、
当方の鑑賞人生においての度々の12年の法則がここでは3分の1に縮まり4年後の2021年夏。
反芻してはしみじみ思い返ほど余韻に今も浸っております。管理人、背中から哀愁が漂い零れる男性ダンサーに弱いらしい笑
ちなみに新国立劇場バレエ研修所では何度か上演していて、渡邊さんの弟で明日の公演では『オペラ座の怪人』にてファントムを務める渡邊拓朗さんが研修生時代に踊っています。
http://www.nntt.jac.go.jp/enjoy/record/detail/25_008089.html

お次は子供の生徒さん達による『どんぐりころりん』。グレーを帯びた毛並みがリアルなリスさん達が登場し、思い起こすのは生きもの地球紀行。
木の根元に置かれたなぜかフカフカの大きめのドングリをバケツリレーのように渡していくところが何とも微笑ましく
途中失敗してしまってどんどんずれてしまうハプニングがむしろ自然に映って思いのほか興奮。
フカフカドングリ、手に持ちたい更には欲しいと思ったのは私だけではないはずです。

『グラズノフのポロネーズ』との題名からひょっとしたらと胸躍らせていると予想的中でバレエの情景の中の1曲。
近年ではバレエアステラスでのフィナーレ曲として定着しており、アステラス鑑賞の大きな楽しみの1つです。
キャラクター用のシューズを履き、折り目正しくも緩急をきちんとつけて丁寧に踊る姿にじっと見入ってしまいました。
発表会開催概要にも掲載され、文字の並びが目に留まった瞬間喜びのあまり作曲者の名を絶叫してしまったのが『ガイーヌ』より薔薇の少女達。
昨夏にハチャトリアンの映画を観て以来、少し風変わりで、一段一段踏み締めて階段を上るような曲調に聴き惚れ
公演発表会問わずバレエの舞台で鑑賞する機会が生涯のうちにあればと願っておりました。下村由理恵さんも在籍されていた
福岡の川副バレエ学苑では川副恵躬子さんの振付で随分と前から定期的に披露しているようですが、ようやく関東でお目にかかる日が参りました。
ロシアの民族衣装(赤い色彩だったかと記憶)の生徒さん達も可愛らしく、郷愁感も色濃く、じっくりと鑑賞です。

古典では『ライモンダ』3幕をパ・ド・ドゥ形式に構成し、ブルーと白を重ねたライモンダのチュチュや、ボリショイ彷彿の袖がふわっとしたジャンの衣装も宜しく
唯一林田翔平さんのメイクが濃過ぎた点だけ心残り。生来の華のあるお顔立ちが生かされず、素人が申すのもおかしいでしょうが次回は薄目に。
ドニゼッティの音楽でグラン・パ・ド・ドゥ形式に振り付けられたLa Favoritaも久々に鑑賞できて嬉しく、
2006年の世界バレエフェスティバルにてオーストラリアバレエのルシンダ・ダンのペアによる披露を観て祝祭感に満ちた作風で今も脳裏に残っております。
振り付けは所々異なり、また私だけでしょうがルグリが振り付けたドニゼッティパ・ド・ドゥと時々混在いたしますが、
サポートされながらの大開脚リフトは今回なし。それでも女性は赤、男性は黒い衣装でかっちりと決めつつ晴れやかなテクニックの展開を楽しく鑑賞です。

スパニッシュダンス作品も2本あり、1本はCarmen。有名なアラゴネーズにのせて大人数で激しく晴れ晴れと踊り
ポーズやステップを見る限りクラシックに近い振付であったかもしれません。
そして度肝を抜かれたのはJota Aragonesa。ギター主旋律なテンポの速い音楽で全員両手にカスタネットを持ち、
脚捌きもカスタネット使いも巧みにこなしつつ急転換フォーメーションもお手の物で
バレエスタジオの発表会でこれほど本格的なキャラクターダンスを目にできるとは驚愕の一言では尽くせず。
しかもただ成果を発表するのではなくしっかり魅せ、観客を心底から楽しませる点にも重きを置いていて好印象です。

プログラムの中では異彩を放ちながらも客席が一体となって盛り上げを見せていたのはSing,Sing,Sing!で
会場が神奈川県大和市ではなくニューヨークのブロードウェイの一角かと見紛う、我が血も騒ぐショータイムでございました。
生徒さんと男性ゲストも交えた大人数構成で、横からのなだれ込みもあれば静かに刻む箇所もあり縦横無尽に駆け巡る展開から目が離せず。
特に真ん中を踊られた高岸直樹さんの若いこと!10代、20代のダンサー達に混ざっても衰えなんぞ皆無で
高い上背を自在にコントロールなさり福田圭吾さんの変調していく音楽への反応も機敏で目を惹きました。
高校時代吹奏楽部でテノールのサックスを担当していた(一応)管理人は、昔からこの曲への憧れを抱いており、
一概には言えぬが吹奏楽においてクラシック系の曲ではアルトサックスはクラリネット等と主旋律を吹いて目立つが
テノールは休みや伸ばし音が多く指揮者からも忘れられがち。対するジャズではほぼ全編で主役。
残念ながら演奏は叶いませんでしたがこうしてバレエの舞台鑑賞にて一緒に堪能でき、しかもミラーボール演出まで付くゴージャスな舞台に居合わせ歓喜な時間でした。

コンテンポラリーも高水準でどれも洗練された作品ばかりでしたが、題名からして興味津々であった『あの三人とディアヴァルたち』の曲構成や振付がユニークで
『眠れる森の美女』幻影の場のコーダとオーロラが目覚めるファンファーレを繋げ、3人の赤、青、黄色?であったかソリストと
魔物が潜んでいそうな黒い衣装に身を包んだコール・ドを従えて踊る振付。
設定がはっきりとは把握できずではあっても、セットした大量の目覚まし時計が一斉に鳴り出したかの如きけたたましいまでに賑わう目覚めの曲を好んでいながら
偶々なのか近年観る全幕眠りでは目覚めのパドドゥ挿入版が増え、パンパカパーンな目覚めから遠ざかりつつある中、大迫力な踊りと共にじっくり聴き入り感激。
また希望の光が差し込んでくるように喜びが集結し一気に昇華していく振付も観ていて爽快。パワー充電なるコンテンポラリーでした。

子供時代を思い出し今も古さを感じさせぬ、子供の生徒さん達による『ひょっこりひょうたん島』主題歌にのせた作品も
パワフルで楽しく、水兵さん対海賊達の踊り勝負といった展開でショーを観ている気分に。
仮にドン・ガバチョやサンデー先生、博士を始め実際のキャラクター扮してのコスプレ系舞台も勿論歓迎ですが
音楽からのイメージと推察する2役に絞っての人数多めの構成も見応え十二分でした。
ちなみに管理人はこの番組に熱中していた世代で、東洋の魔女を筆頭に東京オリンピック開催真っ只中でも自宅のテレビはまだ白黒家庭が多く
ドン・ガバチョの声は初代の藤村有弘さんが務めていたテレビ創成期で時代であったか
それともリメイク版放送のインターネット普及期時代か想像はお任せいたしますが
懐かしさと現代でも若い方々の心を捉える名曲であると感じながら鑑賞いたしました。

約4時間の上演を締め括る大トリは『パピヨン』よりパ・ド・ドゥ。ラコット振付とありますから久しく上演されていないロマンティックバレエ復刻作品或いは
題名を目にしてすぐさま浮かんだのは20年弱前に島谷ひとみさんがジャネット・ジャクソンの曲をカバーしたもの。後者であるわけはないのだが笑、耳に残る曲ではございます。
結果前者でしたが、つま先を駆使する女性ヴァリエーションや、意外と言っては失礼だが男性の跳躍や回転技も満載で
速水さんのスプリンクラー回転を目にできたのは幸運か。パ・ド・ドゥの振付自体は変化に富んではおらず面白みがあるとは言い難いものですが
古式ゆかしいロマンティックバレエの趣を感じながら蝶々(パピヨン)と青年の戯れの描画を目に留めて本編終演です。

フィナーレは韓国の人気グループBTSのパーミッショントゥーダンス。公演翌日以降出演者の方によるご投稿を拝見して知った次第で
気持ちが上向きになる明るい曲調でフィナーレによく合った選曲でした。
管理人、韓国の流行に疎くきちんと聴いたのは初で、TRFのサバイバルダンスなら知っておりますが古いか。
(色褪せぬ名曲であると思うのだが。若人の皆様にもおすすめ)
普段聴く機会が少ない鬼滅の刃やクイーンの音楽もどっぷり聴いたのはバレエの舞台がきっかけで(しかも双方には福田圭吾さんが関わっていらっしゃる)
バレエ関連曲でない作品もバレエで立ち会うと良作に思えてきますから不思議でございます。
出演者陣の殆どが遊びを入れたパフォーマンスで盛り立てたり笑わせたりと楽しい終幕で、ゲスト陣も魅せました。
関西や四国ではこの手の面白フィナーレはよく目にする気がいたしますが、関東での舞台では珍しいかもしれません。
本編とは打って変わってノリノリであったエスメラルダ小形さんを暫くじっと見守ったのちに気合い入れて腰を振っていらした渡邊さん、
じわりと弾けていくご様子が我がツボ押しにおいてもフィナーレを飾りました。露骨な軽さが出にくいところもまた魅力なのです。
そして東でもお祭り男・福田圭吾さんが腰を落とし両腕をだらんと下げた状態で『タリスマン』での美しいパートナーと揃って前進し、全部持っていきました笑。
大和市でも1人飛び抜けたエンターテイナーでしたから、来月の毎度の愛媛はどうなることか期待も既に高まっております。

大和シティー・バレエ監督の佐々木三夏さんが主宰となればセンスも間違いないとは思いつつも、発表会にして狂喜乱舞しそうな演目揃いに今も高揚が抑えられず
足を運ぶきっかけはゲストのお1人であっても、上演の4時間に渡って身体中の理想の箇所のツボを畳み掛ける勢いで次々と押されて行った心持ちでおります。
そしてキャラクターダンスを子供の頃からしっかりと身につける重要性にも触れた思いです。

帰りは小田急線の事件で向ケ丘遊園と新宿間が見合わせとなり大迂回して帰宅いたしましたが、
もし終演がもっと早かったらと思うと方向からしてあの電車に乗り合わせていた可能性が高く
余韻に浸る余裕もなく帰途につかざるを得ませんでしたが、命あっての鑑賞と身に沁みて感じた一夜でもありました。
明日の公演も今から楽しみでおります。




会場の大和シリウスホール前の横断歩道の掲示板にて発見。サッカークラブの案内ですが、バレエも融合されています。クラブ関係者にバレエ好きがいるとしか思えぬが。
サッカーを取り入れたバレエでは牧阿佐美バレヱ団『アビアント』がありますが、我が理解力欠如のため今ひとつ面白さが見出せず終演。
それよりも思い出すのは、新国立劇場にて牧さん版『くるみ割り人形』上演時、クララと王子の出会いの場で
客席からはよく見えぬ正体不明な落下物が舞台上に転がり、対処を見届けていたところ、雪の王国の場面となって雪の1人が
アラベスクで飛び上がる振付に上手く溶け込ませて後ろ足で蹴って舞台袖へゴール!な出来事がございました。
どうやら細田千晶さん(現ソリスト)だったようで、なでしこジャパンな細田さんと話題になった当時でございました。



エスメラルダの余韻に浸って、10年ほど前に神保町で見つけた大聖堂のカードを立てて撮影。仮結婚な設定であるとしても
渡邊さんによる青年の、悲嘆に暮れた相手の心を解す優しさが伝わる心に沁み込むパ・ド・シスであったと思い返して乾杯です。

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