2020年8月18日火曜日

盆に贈る怪談4作と月夜に現れた新生ペア 大和シティーバレエ SUMMER CONCERT 2020 想像×創造 8月14日(金)《神奈川県大和市》





8月14日(金)、神奈川県の大和市文化創造拠点シリウス芸術文化ホールにて大和シティーバレエ SUMMER CONCERT 2020 想像×創造を鑑賞いたしました。
毎年様々なバレエ団の枠を超えたダンサーが集結して行われる夏の風物詩で昨年に続き、2度目の鑑賞でございます。
https://www.ycb-ballet.com/performance


スパイスイープラス記事、プロデューサー佐々木三夏さんへのインタビュー。大和発の公演の目的や上演作品選定のコンセプトなど語ってくださっています。
また、コンテンポラリーがよく分からなくても何かしら印象に残るものがあれば十分でそれが大切であり
見たり感じたりするものは人それぞれで良いとの言葉に救われます。
https://spice.eplus.jp/articles/273802


今回は佐々木三夏バレエアカデミー出身で海外で活躍するハンブルク・バレエ団の菅井円加さんやスペイン国立ダンスカンパニーの大谷遥陽さんら
卒業生達が帰国できず当初とは異なるプログラムやキャストによる上演でしたが、全て日本発の作品が揃い且つ夏にぴったりな怪談4作も上演。
意欲的で面白味ある構成を堪能いたしました。怪談に関しては私の知識教養欠如が原因で魅力の理解に至らぬ点が多々あったのは心残りで
週末に書籍を読むなりして学ぶ予定でおり、お許し願います。



「NYX」よりルナティック
振付:中原麻里 曲:ショパン

新国立劇場バレエ団の五月女遥さんと渡邊峻郁さんが組んだ珍しいペア。
プログラムによれば、満月の夜に眠れぬ男性が見た夢と現実の間の世界と、月に魅かれ自身の世界に閉じこもった女性の関係を描写しているとのこと。
白っぽいワンピースの五月女さんが可愛らしくも色っぽさが香り、黒いシャツっぽいナチュラルな衣装の渡邊さんの双方の全身から
しっとり感情の雫が滴る神秘的なパ・ド・ドゥでした。窓から覗く満月が輝く夜空が自然と目に浮かび、
最後は正面上手側の壁に架けられた長い梯子を渡邊さんがゆっくりと登り、数段登りかけたところで幕。
てっきり出初式の如くするすると登り切るかと思いきやそんなわけはなく
(バレエで梯子なら大概はコッペリアのフランツでしょうが、いくら和を当て嵌めたくお方とはいえなぜここで出初式が咄嗟に過ったのか笑)
背中からも何かをじっくり語りかけるよう静かな余韻を残しての幕となりました。
事前に読んだ演奏者大滝俊さんのブログによれば、曲はノクターンOp.27 No.2。

中原さんからの指示で綺麗でないショパン、左右のズレ発生を意識しながらの演奏は
作品解説にも記されていた現実と夢を彷徨う男性の狂惑した状況を示しているのかもしれないと想像。
今回一番の目当て作品であり中原さんの振付作品を観るのも初で前週の満月の夜を思い出しつつ新生ペアなるお2人の姿を重ね、誠に嬉々たる幕開きでした。


CONTACT
振付:木下嘉人 曲:E.Bosso

元々は今年3月新国立劇場でのDANCE to the Future 2020にて米沢さん木下さんの2人によって披露予定だった作品を6人構成にしての上演。
題名の通り、接触したりそうかと思えば離れ離れになったり、リフトされた体勢での米沢さんの指の先端までもが柔らかくしなるフォルムは凝視したくなる美しさ。
空間の作り方も絶妙で、小原流生け花の傾けるかたちを思わせました。


怪談『耳なし芳一』
原作:小泉八雲 振付:熊谷拓明

薩摩琵琶と和太鼓の演奏により、押し出しの強い作風であった印象。
頭巾と口元も布で覆っていたアンサンブルは霊たちと思われ集団になって追い詰めたり積み重なったり、
おかしくも不気味な行動から目が離せず。平一族の話に薩摩琵琶の組み合わせ、次回のお茶の間観劇に関わるため話をしっかり勉強決意。


『雪女』
原作:小泉八雲 振付:中原麻里 曲:P.Glass

ひょっとしたら主要な役で組むのは2009年の新国立公演『プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ』以来かもしれぬ小野絢子さんと福田圭吾さんペアが鮮烈。
肩に手を添える仕草からも穏やかさが伝わる福田さんの巳之吉と、美しくも何処か不気味で真っ赤な唇が危険な展開を孕む小野さんの雪女が
束の間であっても心を通わせる新婚生活を送ったのちに雪女は去ってしまいますが
互いを慈しんでいたからこそ哀切な別れと映り、ただ冷たい怖い話には終わらせぬ物語を描出していたと捉えております。
白く長い裾を翻しながら舞う小野さんの嫋やかな踊りにも釘付けとなり、丸みを帯びた段々の襞状チュチュに雪玉を手にしたアンサンブルのモダンな衣装が可愛らしい。


『死神』
原作:三遊亭圓朝  振付:福田紘也 曲:P.Glass

福田紘也さんの畳み掛ける振付で息をもつかせぬ展開、配役、音楽どれも出色。
顔を白く塗り、目周りを黒く縁取り黒いドレスに身を包んだ本島美和さんの死神が圧巻で
福岡雄大さんとのせめぎ合いに身震いし、中でも驚かされたのは近年は芝居中心の役柄が増えている本島さんの舞踊技術が衰えなんぞ微塵もなく
斬れ味鋭い踊りで魅了。手下役らしき福田さん五月女さんの激しいダンスとユニゾンの箇所の統率力もずば抜けていて
ホラー映画を思わせるグラスの重たく仰々しい音楽にも負けぬ呪い殺しそうなオーラを全身から放ち
福岡さん扮する青年を最後の最後まで苦しめる、観ているだけでも悪夢に魘されそうな(褒め言葉)造形には恐怖を募らせるばかりでした。
天井から吊るされた古めかしい燭台や置かれた蝋燭も大きな効果をもたらし、悶えの感情をそのまま踊りで爆発させる福岡さんも見事。
福田さんの本島さんに対する敬意が伝わる、構成も隙がない会心の作で再演祈願です。


牡丹灯篭
原作:三遊亭圓朝 振付:池上直子

米沢さんのお露の薄幸さ、消え入りそうな儚さが絶品。霊となっても指先から新三郎を求め訴えるいじらしい仕草も胸に刺さり、
薄衣の着物と共にふわりと舞う姿も誠に雅やかでした。調べたところ元々は明時代の中国の小説が起源だそうで
前髪を短めに揃えて目の辺りを紅くしたメイクもしっくり。
宝満直也さんの純情な新三郎、突如飛び込んで不穏な空気を吹き込む伴蔵の八幡顕光さん、と
繊細且つ奇怪な物語ながら各々キャラクターが生き生きと盛り立て、中でもインパクトが強かったのは渡邊拓朗さんの和尚。
暗めの藍色に近い色合いの和服で髪型は坊主ではなくそのままの姿で登場した瞬間からどっしり重厚な存在感に驚愕でした。
ひょっとしたら今までに観た役の中で最たる衝撃と印象であったかもしれず、大渦の如く力強く舞台に引き込む貫禄とオーラに目を丸くせずにはいられませんでした。
キャスター車輪付きのいくつもの障子を用いた手法も面白く、登場人物の移動風景や場面転換を分かりやすく伝える演出で
お露の女中と思われるアンサンブルの方々があちこちで手に持ちぽっかりと浮かび上がる灯篭の灯りも舞台を幻想的に後押し。もう一度じっくり観たい作品です。

そして拍手を送りたいのは大変な状況下においても舞台を取りまとめて成功に導いた佐々木さんや出演者、舞台スタッフのみならず
今年は特にチケット担当の方々にも心より賛辞。一度チケットを通常通りの席割りで販売してから1席置きの要請が行政からあったようで席割りをやり直し
気が遠くなるような作業に連日見舞われていたと察します。また私のようにプログラム変更による追加演目発表後の2次販売での申込者もいたはずで
チケット担当の方々は度重なる対応に迫られていたでしょうに実に丁寧に案内してくださり、隅々まで行き届いた配慮、電話メール問わず丁重な案内は
公演前から、また当日も話題となっていました。次回も楽しみに通いたいと思っております。
海外の作品無し、全て日本の振付家の作品による構成で第二部では日本の夏にぴったりな怪談4作を一挙連続上演した
秀作名演揃う大和の夏の風物詩、今夏も堪能いたしました。




追記、図書館で借りて参りました。絵本にも頼り、要勉強です。



シリウスホール前の広場の街灯にはアートフラッグが靡き、こちらには貝ではなくシリウスであろう大きな星を抱えたラッコ!炎天下でしたが迷わず短時間で撮影。



余韻に浸りつつ2019年の新国立ニューイヤー・バレエのときにも立ち寄ったノクターンへ。
ニューイヤーでの『レ・シルフィード』と同様、店名に惹かれずにいられず。



1人バーボンでしっとり静かに乾杯。公演を思い起こし、幕開けから美しうございました。
見えづらい写りですが、右上にはト音記号のフックそして左側には骸骨の置物がございます。本島さんの死神も嗚呼、感激。



さて昨年の大和のシティーバレエ夏季公演を振り返ると、前日に滞在先の福岡を出発の予定が悪天候のため飛行機が欠航し当日朝の飛行機で帰京。
LCC利用でしたので滞在先であった福岡、到着空港の位置する千葉、自宅のある東京、そして大和の会場の神奈川、と1日で1都3県に足を踏み入れていた管理人でした。
自宅到着後荷物を置き、シャワーを浴びてチコちゃんに叱られる勢いでぼうっと30分小休止したのち再び自宅を出発、自転車をゆっくり漕ぎながら最寄り駅へ。
まさか1年後、当時の行動が今や到底考えられぬ状況となるとは知る由も無くまた14年ぶりに首都圏から出ぬ夏を過ごし
行動範囲が狭まった現在、旅の体力も落ちていそうな気もしております。
今年は夕方職場を早退しての会場入りで昨年に比較したら随分と楽な行程でしたが、
バレエ鑑賞も先月末に復帰したばかりであるためか良い意味でエネルギーを存分に吸い取られた思いです。

それから、月夜の晩と言えば我が脳内では決定的場面があったと考えを巡らしているとそうです。
帰宅後にちょうど放送中であった、怪談とは異なり怖くはないが日本のお化け映画の傑作『となりのトトロ』。終盤以降を視聴しエンディングテーマ曲に耳を傾けつつ、
満月の光を浴びながらオカリナを吹く姿を思い出した次第です。
これからは、月夜と言えばルナティックとトトロでございます。

2 件のコメント:

さくらもち さんのコメント...

五月女さんと渡邊さんのルナティック、このお二人の共演をぜひ見たかったので大変満足です。
動きなどとくに派手なものもなく、抑えた大人の表現でしたが妙に観客をひきつけていましたよね、拍手が盛り上がっていました。
毎年超満足の公演ですが、また参加してくれると嬉しいですね。

管理人 さんのコメント...

さくらもち様

大変お待たせしまして申し訳ございません。
この度もありがとうございました!
とても上質な公演でしたし、五月女さんと渡邊さんのペアは新鮮で超絶技巧など派手さはなくても
醸す情感の深さが大変胸に沁み入りましたよね。
はい勿論ですとも、また出演していただけたらと願います!
プログラムに記載されていた、中原さんのコンセプトも想像を掻き立てました。

昨年のシリアスなコンテンポラリーから宝満さんの冷ややかコメディタッチな小品もあれば
2部ではラフマニノフのピアノ協奏曲をバレエ化した大人数のシンフォニック作品も素敵でしたが、
今年の怪談攻めは天晴れで、日本の夏を恐れつつも楽しんだひとときでした!