2020年7月5日日曜日

【お茶の間観劇】パリ・オペラ座バレエ団ヌレエフ版『白鳥の湖』

パリ・オペラ座バレエ団ヌレエフ版『白鳥の湖』を鑑賞いたしました。今年4月頃に期間限定で配信されていましたが
アップの主や経緯は謎ながら映像が残っておりましたため、また2006年の来日公演の白鳥には足を運びましたが
本番中の主役降板もあり場内騒然で落ち着いて臨めず、今のオペラ座ダンサーで全編じっくり観てみたいと思い鑑賞した次第です。

オデット/オディール:レオノール・ボラック
ジークフリート王子:ジェルマン・ルーヴェ
家庭教師/ロットバルト:フランソワ・アリュ
パ・ド・トロワ:セウン・パク、オニール八菜、ポール・マルク



ヌレエフ版『白鳥の湖』歴史。アマンディーヌ・アルビッソンとマチュー・ガニオの主演映像あり。


ボラックのオデットは力強くも不安げな心境を右往左往しているような姫。
滑らか細やかな腕捌きではなく上体もたっぷり使いダイナミックでパワーを思わせつつも王子に向ける目は潤みが宿り
危なっかしさもまた王子を惹きつける理由の1つであったのだろうと想像いたします。
オディールは小悪魔な魅力全開で、手のひらで王子を自在に転がす行為を心底満喫している余裕もあり
パ・ド・ドゥでの大胆な誘惑も嵌っていた印象です。2017年のバレエ・スプリームでは絶不調であったと耳にしたフェッテも
少し冷や汗であったとはいえ回り切って一安心。

ルーヴェは甘い甘いお菓子を彷彿とさせる瞳きらりの甘美な容貌で、好みは別として(失礼)青く、我儘で幼さが残る王子は絵になると好印象。
ヌレエフ版では王子の陰の部分をとことん描き、密接な関係を持つ家庭教師/ロットバルトに操られるままに終幕へ向かい
闇部分が余りに濃いとそれはそれで観ている側も陰鬱になる一方になりそうですがその手前止まりであったのは
醸される瑞々しさが上手く調和して良い方向に作用した効果と捉えております。華と陰のバランスが丁度良い塩梅でした。
1幕の終盤辺り、他の版では道化が急ピッチで踊る箇所でのソロでは顔の傾け方や不安を募らせる伏し目がちな表情と
明るい曲調がかえって急ぎ足で闇へと突き進む危うさを孕んでいるようにも聞こえるほど引き込まれるものがありました。

豪胆な怪しさで魅せたのはアリュの家庭教師/ロットバルト。黒と玉虫色を合わせた厚みある衣装やマントにも負けぬ体躯で場を攫って王子を意のままに操り
王子の両肩に手を置いたり、耳元で囁く仕草だけでも不吉な予感を持たせていました。
この役といえば2006年の来日公演で観たカール・パケットの光を帯びた色気が圧巻でしたがアリュはまた違ったタイプで
より剛健、更には温厚そうな場面と鋭さを見せるときの落差がはっきりとしていて双方とも魅力ある造形であった印象です。
トゥールーズのキャピトル・バレエ団でのヌレエフガラにおけるダイジェスト映像でも黒鳥トロワが含まれており何度も観ておりますが
ロットバルト、ちょいと弱そうでございました笑。

舌を巻いたのは白鳥たちの群舞の振付。三角形を3箇所に作る配置や縦横の列に戻る際も左右対称にせずあえてずらしながら形作る流れ、
向かい合って片手を繋ぎながら鎖状に連なったりとユニークなフォーメーションで、嬉しいことに上からもふんだんに撮影されており
群舞観察がこれほどまでに面白いとは予想外でした。ヌレエフの全幕作品の群舞の振付にも誠に今更ながら注目して参りたいと思います。

1点1点手の込んだ衣装にも目を奪われ、決してボリュームのあるデザインではないものの
胸元の刺繍やビーズ装飾のきめ細やかさ、殆どの役を抑えたピンクの同系色で整えながらも
一見簡素なグレーの装置との相性も宜しく、物寂しさを感じさせぬ色彩感でした。
見事な統一感に感心し、ふと手がけた人物を確認すると美術はエツィオ・フリジェリオ、衣装のフランカ・スクァルチャピーノ、照明はヴィニチオ・シェリ で
ヌレエフ版『ラ・バヤデール』やボリショイの新装こけら落としからの『眠れる森の美女』と同じ布陣。
お馴染みの方々なのか、勉強不足で存じ上げずですが手にかかれば間違いない絶大な信頼を寄せられている3人組なのでしょう。

1990年前後のヌレエフ黄金世代ばかりを未だイメージとしてすぐさま浮かべがちな時が止まった状態の管理人。
旬のパリ・オペラ座ダンサーたちにも注目していきたいと思えた、予想外に集中し見所満載な『白鳥の湖』2019年公演映像でした。
過剰な嗜好偏重にならぬよう、引き続きパリ・オペラ座博士にも学びながら視野を広げていきたいと思っております。

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