2020年5月22日金曜日

【お茶の間観劇】韓国国立バレエ団 グリゴローヴィヂ版『ラ・バヤデール』

韓国国立バレエ団が配信していたグリゴローヴィヂ版『ラ・バヤデール』を鑑賞いたしました。初めて観るバレエ団の映像です。



バレエ団の映像チャンネルより、影の王国リハーサル映像


書籍に掲載された来日公演や評論記事にて、『白鳥の湖』『くるみ割り人形』共にグリゴローヴィヂ版を取り入れ
バレエ団の持ち味に合っていると読み、一概には言えないもののサッカーW杯などの応援やテレビドラマの宣伝で目にする熱さ迸る国民性や表現力、
舞台写真を一目見て女性は細身で恵まれた体型、男性は筋骨隆々で上背のあるダンサー揃いである印象から何処となく想像はついておりましたが
今回初めて舞台映像を全幕で観て納得。どのダンサーも技術は揺るぎなく、表現は熱くされど荒々しくはならず優雅さとダイナミックな魅力双方を備え
何よりバヤデールの重大要素である陰謀渦巻く愛憎劇を繰り広げるに相応しい心の底から沸き上がる感情を火傷しそうなほどに強く表現し
修羅場はどのバレエ団よりも恐ろしや。また容姿からして役柄が明確で、ニキヤは慎ましく薄幸ながらも伏し目がちな表情ですら情念を滲ませ
ガムザッティはいかにも勝ち気そうな美女。蛇の仕込みの疑いをニキヤに名指しされても澄ました顔であしらい、犯人確定です笑。
グリゴローヴィヂ版のガムザッティはソロルの前に歩み出てヴェールを捲られ姿を現わす溜めに溜めてからの登場ではなく
1幕第2場の行進曲が始まって早々にガムザッティが踊りながら登場するため、何時の間にかの登場にもなりかねない振付ですが
そんな心配何処吹く風で一気に目を惹く艶やかなオーラを放散。同じ版つまりは本家ボリショイでも瞬時にインパクトを与えるのは難しく
2006年と2014年の来日公演で計6回観ている中でもいたく凛然としたマリーヤ・アレクサンドロワと
ゴージャスな輝きに満ちたアンナ・ティホミロワぐらいであったと記憶しております。

男性の見せ場もふんだんに用意され、とにかく兵士たちも登場しながらの跳躍多し。
演出によっては女性の役の活躍に比較するとひたすら行進してはお仕えするにとどまりがちになるわけですが
ガムザッティのお披露目にしても婚約式にしても、上背があり筋骨隆々体型のダンサーが揃いも揃って跳びながら舞台を横切る光景は大迫力で
婚約式コーダでのブロンズ像も兵士も太鼓もお祭りわっしょいな勢いで交互に登場する流れはボリショイよりも強烈なパワーを放っていた気もいたします。
レパートリー入りしているグリゴローヴィヂ版『スパルタクス』も観たくなりました。

男性のみならず婚約式での女性のコール・ドや壺の踊りも熱く、一歩の一歩の移動距離が長く上半身もコントロールを効かせつつ大きく動かし
端正さはそのままに全身が高揚してうねるような力強い印象をも与えていました。コール・ドは扇隊とオウム隊の2編成で壮麗豪華。
きらりとした頭飾りも付けずシンプルに削ぎ落とした衣装効果もあって幽玄この上なく、すらりと美しい四肢が映える統制のとれた影たちにも息を呑みました。

衣装の抑えた色彩や太めの縁取り、ティアラの耳上部分の湾曲具合からしてもしやと思ったら予想的中ルイザ・スピナテッリが手がけたとのこと。
婚約式でのガムザッティはより煌々とした黄金な装いのほうが好みではあるものの、品のある青と白を組み合わせた華やぎのあるデザインも目に宜しく
ソロルは平たいヘアバンドのようなものを装着。新国立の丸みのある輪っか(装着者によってはねじり鉢巻)によく伸びた羽飾りも懐かしく思い出しますが
主役からコール・ドに至るまで、徹底した訓練が生み出す隙や斑のない上質な全幕バレエを堪能できました。
ダンサー名は全てハングル表記表示で管理人には一切分からず、把握できなかった点は惜しまれます。

韓国国立バレエ団の最後の来日は記憶が正しければ2002年のサッカーW杯日韓共催大会直前の4月。『白鳥の湖』と『ジゼル』の2作品上演でダンスマガジンを捲ると
グリゴローヴィヂ版『白鳥の湖』の写真が大きく掲載され、ボリショイの専売特許また外部のバレエ団に上演許可を下すとしても
ヨーロッパ圏に限ると思っていたため、顔立ちの系統は日本に似ていながら特徴や強みは全然違ったものを持っているのバレエ団であろうと読み進めたものです。
同年5月には新国立劇場バレエ団2002年日韓国民交流年記念事業公演『ドン・キホーテ』に
来日公演でも主演したキム・ジュ・ウォンとジャン・ウン・ギューがゲスト出演。
新聞の宣伝記事で目にはしておりましたがまだ新国立の公演を頻繁に鑑賞する前の時期で、足を運ばず終いであったのは悔やまれます。
2005年頃には康村和恵さんが渡韓して何度かゲスト出演され、朝日新聞にも旅立ち前のインタビューが報じられ
言葉を覚える手段として韓国ドラマも活用していると語っていらしたかと思います。
康村さんがクララ役で出演されたグリゴローヴィヂ版『くるみ割り人形』現地レポートは桜井多佳子さんがダンスマガジンにて詳しく執筆されていました。
写真はモノクロでしたが2幕で棒状の蝋燭を手にする花のワルツ男性たちの坊主な鬘がどうしても僧侶の行列に見えてはしまったものの
雄々しさは写真でも伝わり、長い手脚を持ち華もあり表現も豊かな康村さんはコール・ドを従えても一際見栄えする容姿と
ボリショイバレエ学校仕込みの技術でバレエ団に溶け込みつつ舞台を牽引なさっていたと想像いたします。
矢上恵子先生(2019年逝去)は日本人振付家としては初めて招聘され、振付作品も上演されたそうです。

以下は余談ですが、家電量販店にて電子辞書販売を担当していた頃にちょうど『冬のソナタ』といった韓国ドラマが大流行し
スマートフォンがない時代も関係したのかコリア語を学ぶために電子辞書を購入しようと多くのお客様にお越しいただいた光景は今も覚えております。
そしてペ・ヨンジュンさんのキーホルダーやチャン・ドンゴンさんの写真などグッズを嬉しそうに見せてくださる方もいらっしゃり
年齢を重ねてもときめく心の維持は大切であると学んだ次第。(バレエにおいてもこれ大事)◯◯ダ電機某店へのご来店の皆様、誠にありがとうございました。
お客様の好みを理解しようと当時の韓流四天王を暗記し、ドラマは私も視聴はいたしましたが
二体の雪だるまを近寄せての接吻を始め純愛過ぎる展開に気恥ずかしさが募ってしまい早々に断念。
歴史物においては身内同士での陰謀やら身分差による禁断の恋など事件が凝縮し、ありとあらゆる箇所にて嘆きや憎悪の声が響き渡る流れに
これまた心が付いていかず。しかし思えば『ラ・バヤデール』に通ずる要素満載で、ドラマは苦手でも(韓国にも喜劇や刑事物など多種のドラマは存在すると思いますが)
韓国国立バレエ団によるバヤデールのような愛憎劇バレエは一癖あって面白い、しかも舞台の質も高し。他の作品にも着目して参りたいと思っております。

※そういえばニキヤは元新国立劇場バレエ団の楠元郁子さん、ニキヤの奉納時に中央寄りの立ち位置にいた扇隊の1人が米沢唯さん、
そしてソロルの肖像画がムンタさんに似ていた気がいたします。再配信の機会があればどうぞご注目ください。

2 件のコメント:

ひふみ さんのコメント...

こんにちは。
私は先日、テレビのBSプレミアムシアターで、ナチョ・ドゥアトの『ラ・バヤデール』を鑑賞しました。
彼は、「古典は長すぎる」という意見の持ち主のようで、壺の踊りもなく、アレアレなんて思いました。
管理人さまが注目されていたトロラグヴァの役もおりませんでした(笑)。
ダンサーの名前などはあまり興味がないので覚えておりませんが、ソロルの肖像画だけはとても素敵でした(笑)。
また、新国立劇場の『ラ・バヤデール』も観たいですね。

管理人 さんのコメント...

ひふみ様

こんにちは。コメントお寄せいただきありがとうございます!
ドゥアト版のバヤデール、見逃してしまいましたためご感想伺えて嬉しく、感謝いたします。
長過ぎるのは現代の感覚には合わないのでしょうが、壺もないのは寂しいですね涙。
トロラグヴァ、昨春の初台にて日程によっては大注目でしたが笑
ドゥアトは主要人物も必要最小限にしたかったのかもしれませんね。
ちらりと写真で見た限り衣装は随分と洗練されていた印象を持ちました!
ソロルの肖像画、大事ですよね笑。新国立のバヤデールもまずまず容姿端麗に描かれていて合格点でしたが
ライモンダは要描き直しを笑。

はい、新国立の壮麗なバヤデールも観たいですよね。舞姫たちの涼やかな場面も思い起こされます。
男性の活躍場が少ない振付のため、太鼓の踊りも追加して
エネルギーが有り余っているであろう苦行僧たちにそのまま登場願いたいと思っております笑。