2020年5月14日木曜日

【お茶の間観劇】デンマーク・ロイヤル・バレエ団 ニコライ・ヒュッベ版『ライモンダ』

デンマーク・ロイヤル・バレエ団が配信中のニコライ・ヒュッベ版『ライモンダ』を鑑賞いたしました。
配信関係はそう多くは観ておりませんが時代設定を変えた演出に興味を持ち
またデンマーク・ロイヤル・バレエの全幕舞台は生でも映像でも観たことがなく、鑑賞した次第でございます。
※ネット配信映像をテレビ画面で視聴する環境が整い、携帯頼みであった以前よりは格段に快適に。
衣装製作現場の映像もアップされ、手作業で仕上げに臨むスタッフの姿や試着するダンサーの姿も。色とりどりのデザインにうっとりです。





※キャストやスタッフは動画サイトに掲載されていましたが、デンマーク語での転記の自信がなく、気になる方は恐れ入りますがご自身でお調べください。

振付や物語展開は他の版とそう変わりはないものの、ヒュッベ版の大きな特徴の1つが設定を中世十字軍時代ではなくロココ時代にしている点。
コルセットが入っているであろう腰部分が絞られどっしりと膨らみがあるドレス姿の貴族たちの衣装や鬘、小道具からもはっきりと見て取れます。
主要人物の衣装はあくまでクラシカルで、膝丈のふんわりとしたチュチュがお洒落。
ライモンダにおいては1幕は爽やかな青と白に眩い金色で輝き、2幕でのはっとさせられるルビー色も目に残る色彩で
クレメンスとヘンリエットの1幕では一方は白と水色、もう一方は淡い黄色(判別が付かず失礼)、2幕では金系で揃え品良くゴージャスな装いです。
ベルナールとベランジェや1幕ワルツの男性たちは髪をリボンで束ねて柔らかなシャツと薄い色合いベストで整えられており、ワルツの女性たちは白い膝丈チュチュ。
陽光射し込む庭園を背景に、1幕は全体を通して明るい爽やかさが漂っていました。

それからもう1つ、アブデラクマンはジャンとの決闘で絶命せず握手して和解。しかも仲裁に入るのはライモンダ自身で
白の貴婦人が背後にいたものの、ただ待っているだけ怯えているだけの姫では全くなく臆せず行動に移す性格として描かれています。
世界情勢に配慮しての設定かそれとも他の理由か分かりかねますが例えばアブさんが2幕で登場し、率いる軍団の余興を見せる際も
ライモンダの近くに大人しく腰掛け、ライモンダはいたく楽しそうに見物しているためあたかも『くるみ割り人形』クララとドロッセルマイヤーと見紛ったほど。
順番前後して1幕で突如ライモンダの前に現れたときもライモンダは戸惑いも少なそうでジャンとはタイプが異なる男性に興味津々な様子でしたし
婚約者の留守を良いことにクレメンス、ヘンリエットと共に女学生の会話の如く魅惑的な男性に出会えた喜びを共有していたと推察。
2幕でのアダージオでは心配して引き離そうとする友人らを横目に、ライモンダが視線を下から上へとじっくり送りアブさんを誘惑している構図とも見て取れ、
悪人ではなく綺麗なアラブの騎士として捉えたとされる牧阿佐美さん版に比較しても、
これまでに観たアブさんの中ではライモンダへの接し方においては最もノーブルで物静かな人物でした。
しかし、ジャンを前にすると本能を露わにして一歩も引かず、肩を掴んでは押し倒すか投げ飛ばす勢いでただ大人しいだけではないようで
基本敬意を払って人に接するが、いざ競争心に火が付くと抑えられなくなる気質なのかもしれません。
また夢の中では露出度の高い服装で出現、野性味や官能美を押し出していたこのときばかりはジャン以上に!?勇敢そうなライモンダも戸惑いを隠せずにいたのは納得です。

ロマネスクを始め中世をイメージした音楽が連なりながら意外にもロココの世界にも違和感なく嵌っていた点にも驚き、
中でもユニークな使い方であったのは幕開けの吟遊詩人の曲。ボリショイのグリゴローヴィヂ版ではいつの頃からかカットされてしまった
いかにも中世の宮廷音楽らしいリュートあたりを想像させる(実際はヴァイオリンであると思われる)
繊細な旋律で始まる、聴くと一気に中世ロマンの世界へと入り込む曲調です。
しかしヒュッベ版では使用人らしき女性たちが一旦仕事の手を止めて整然と戯れながら踊る振付で
溌剌と軽快で跳躍も多く舞台全体を覆いながら踊るうち、ライモンダ登場の合図がなされると花並べを行って準備完了。
主人公いきなりの登場よりは一呼吸置いて宮廷の様子を見渡せる情景場面が挿入されている方が
舞台の世界に引き込まれますし、主人公の登場にも一層華やぎを持たせる効果があると思わせます。

3幕はマズルカは無し、但し他の版では省略されがちな子供たちの踊りが用意されており、グリゴロ版ではジャンが3幕で踊るヴァリエーションでの使用曲に乗せて披露。
元々は子供用に作曲されたと聞いた覚えがあり、原典に忠実な演出といえるでしょう。
チャルダシュはポワント・バレエシューズチームとブーツチームの2構成で、中盤に差し掛かると後者が登場。
グラン・パ・クラシックは概ね基本通りでしたがライモンダ含めて5ペアであったため寂しい気もいたしました。
ライモンダの衣装が黒と金色基調であるためオディールに見えかけたりもしましたが、重厚な色味と装飾で結婚式には相応しいと感じさせます。
群舞は揃っているとは言い難いのが正直なところですが、女性は筋肉がしっかりと備わり上背のあるダンサーが多数。
パワフルで威勢の良い、されど1幕のワルツや夢の場は呼吸も合っていて調和も取れていた印象です。

どうしても把握に至らなかったのはジャンの設定で十字軍時代でもなく、夢の場で初めて登場。
1幕ではハンガリーの御使いがやって来て内股ステップを踏み、ジャンの動向を説明して本日は帰還せずといった内容を伝えた途端
その場にいた全員が落胆する大袈裟なコントの如き光景が広がってはいたものの長期出張なのかそれとも他の事情があるのか分からぬままでした。
バレエ団のホームページにはあらすじ解説が記載されているとは思いますので、デンマーク語及び英語に自信のある方は各自でお調べ願います。(無責任ですみません)

現在のデンマーク・ロイヤルのダンサーについては失礼ながら全く存じ上げず、未だオーゼ・ガッドゥで止まったまま。
書籍での『ゼンツァーノの花祭り』作品解説といえばブルノンヴィル本家本元として必ずと言って良いほど登場していたと記憶しておりますが
そういえばアナニアシヴィリと親交が深かったのか、東京で開催され映像化もされたデビュー10周年ガラにも出演。
また先日紹介した1992年モスクワ赤の広場での野外ガラにも出演がカーテンコール映像からは確認できますが
副題としてロシアバレエのスターたちと名付けられているためか映像化においては出番はカットされたもよう。
やや濃いめのエメラルドグリーン村娘衣装からして『ゼンツァーノの花祭り』と思われます。
(だからこそジゼルのパ・ド・ドゥを披露したカロル・アルボとカデル・ベラルビの
パリ・オペラ座ペアが収録されたのは判断基準が謎でございます。大トリのドン・キホーテで
アナニアシヴィリと組んだベラルビの株がロシア国内で急上昇したのか、何れにしても収録は今思うと私としては嬉しかったが)

さて管理人、これまでの人生においてデンマーク人との接点は1度だけあり。昨年の10月大阪へ行く新幹線の自由席車内で隣りに掛けたのがデンマーク人の女の子でした。
家族旅行での来日で、席がある程度埋まっていたためご両親やご兄弟とは離れて座ったようで
富士山の写真を一生懸命撮影しようとしていたため手伝うといたく喜んでくれて私にとっても嬉しい記念となりましたが、今頃どう過ごしているか気にかかっております。
当時はまさか1年も経たぬうちに地球規模の大変な事態に見舞われるとは思いもせず、平穏な日々に戻るよう願ってやみません。



ニューヨーク・シティ・バレエ団時代アポロを踊るヒュッべ、ワシントンD.C.のケネディ・センターの案内パンフレットに登場。
2008年の新国立劇場バレエ団ワシントンD.C.公演先でいただきました。

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