2020年2月10日月曜日

座長の怪我で急ごしらえ救済プロジェクト アリーナ・コジョカルドリームプロジェクト2020 Aプログラム 2月5日(水)




2月5日(水)、お世話になっている方の代理でアリーナ・コジョカルドリームプロジェクト2020
Aプログラム初日を観て参りました。コジョカルが座長のガラは初鑑賞、
出演者と演目双方直前に大幅変更が生じ波乱な幕開けでした。
https://www.nbs.or.jp/stages/2020/cojocaru/


※キャスト表はNBSホームページから抜粋

演奏:シアターオーケストラ トーキョー
※ABC、エディットは録音音源


― 第1部 ―

「バレエ・インペリアル」
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
指揮:井田勝大
ピアノ:今泉響平


ヤスミン・ナグディ - フリーデマン・フォーゲル

中川美雪
宮川新大 - 生方隆之介
金子仁美 - 秋山 瑛
東京バレエ団


作品の鑑賞はマラーホフの贈り物ファイナル以来7年ぶり。ヤーナ・サレンコとマラーホフ主演でした。
「インペリアル」の響きからすると、数あるバランシン作品の中でも特段豪華絢爛かと思いきや
曲調は明快でもなく、フィナーレを予期させつつもその後にアダージョが続いたりと終わりが見え辛く
掘り起こす限り想像以上に地味めな作品であったと記憶。久々に観ても印象は変わらずでした。
恐らくは1989年のABT来日公演プログラムで度々目にした、赤系の模様やラインストーンをも散りばめた
ゴージャスな写真の印象が刷り込まれているからでしょう。(モノクロ写真の主役女性は恐らくスーザン・ジャフィー)
ピンチヒッターのナグディは最初こそ緊張な様子はあったものの品位ある姿で主軸を務め、見事な代役。
ナグディは昨夏の英国ロイヤル来日公演で祖国凱旋全幕主演公演となるはずであった高田茜さんの代役を務め
何の縁なのか昨夏の英国ロイヤルも今回のコジョカルガラも、私がともに知人の代理で観に行ったNBS公演で
日本国内で絶大な人気を誇るダンサーに代わっての主演に居合わせ、
きちんと務め上げる舞台を鑑賞すると応援したくなるダンサーでございます。

大きな作品の主演で組むパートナーは変更し、パ・ド・ドゥも1本加えて踊った
今回のプロジェクト最大功労者であろうフォーゲルはナグディへの語りかけるような視線や誠心誠意のサポート、
そして中盤にてコール・ドに訴えかけるも拒絶されるジゼルへの敬意が込められていると思わせる場面においての
ふわっと匂い立つロマンチックな風情といいまさに別格でした。序盤、まだまだ空気が重たかった会場が
徐々に柔らかくなったのはフォーゲルの力が大きかったと捉えております。


― 第2部 ―

「海賊」
振付:マリウス・プティパ
音楽:リッカルド・ドリゴ

菅井円加
オシール・グネーオ

急遽の出演菅井さんはテクニックは申し分なく、派手なことはせずともちょっとした繋ぎの部分もクリアに描き出され
ぐらつきが微塵も感じられぬ盤石ぶり。ただ直前の依頼で急ピッチな来日であったのは承知の範囲だが
明るいターコイズブルーのチュチュが似合っていたとは言い難かったのは正直なところです。
そうは言ってもパワーと鮮やかさが合わさった菅井さんの魅力が発揮されていたと見受け
昨夏大和市で鑑賞した『ドリーブ組曲』よりも遥かに好印象。
グネーオはバランスを取ったポーズからそのままの跳躍を始め小技大技をとにかく盛り込んで
沸かせようと張り切ってはいた様子でしたが、詰め込み過ぎてかえって窮屈に映ってしまったもよう。
スーパーでよく見かける、野菜や果物詰め放題で無理やり押し込んだ結果
袋をテープで留められずにんじんや茄子がはみ出た状態を彷彿です。
音楽のテンポはこれまでに聴いたアリのヴァリエーションの中で最速でした。
『海賊』に関しては、繰り返しになるが我が脳内は昨夏8月末におけるセクシーで野性味も醸して強さとしなやかさが共存し
視線や腕の運び方更には決めポーズでの間の取り方云々全ての要素がバランス良く備わっていた浦安伝説が色褪せず
綴り出すと当時の会場近くの夢の国の乗り物待ち時間並みに当分前に進めそうにないため次行きます。


「エディット」 - 新作世界初演 -
振付:ナンシー・オスバルデストン
音楽:エディット・ピアフ

ナンシー・オスバルデストン

初見のオスバルテストン、ピアフに扮しての粘り気のあるパワフルな踊りで
ピアフの歌声と持ち前の身体能力が響き合い、「バレエ」とはまた趣きは違ったが
近年観た自作自演の中では許容の良作に入る出来栄えと感じます。
大きな声では言えないが、随分前に観た自作自演で駄作(失礼)としか思えぬ舞台にお目にかかった経験あり。


「ABC」
振付:エリック・ゴーティエ
音楽:フィリップ・カニヒト

ヨハン・コボー

2018年のマリインスキー・バレエ来日公演にて私が観た日にはザンダー・パリッシュが踊った
基本ポジションを繰り出していくバレエ101のアルファベット版。
Aならアラベスク、アルブレヒト、アリ、とABCDE…のアルファベット順に
次々と言葉が音声で案内され、意外と言ったら失礼だがコボーが切れ味宜しく言葉通りに再現。
古巣デンマーク王立バレエでの活躍を思い起こすブルノンヴィルネタまであり
そういえば新国立劇場でラ・シルフィード初演時は吉田都さんとゲスト出演なさっていたのでした。


「マノン」より 第1幕のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ

アリーナ・コジョカル
フリーデマン・フォーゲル


やっとこさ座長コジョカル登場。入魂(しなければ観客に目も向けられないであろう)のパ・ド・ドゥで
無邪気でされど危ういふわふわ感でデ・グリューを蕩けさせ、傾けるバランスを始めこのパ・ド・ドゥを観る限りは
怪我を思わせず。何よりフォーゲルのデ・グリューが手紙にペンを走らせる姿やマノンに向き合った際の喜びようからして
物語に没入し、後脚が伸びやかで美しいポーズの数々に頼もしいサポートと至れり尽くせりのパートナーリング。
全幕を観ている気持ちにさせられました。30分以上にも及ぶ主演作品ではパートナーが直前に変更して初共演のナグディを支え
更にはパ・ド・ドゥも1本追加で踊って座長を守り切ったフォーゲルは先にも触れた通り今回最大の功労者でしょう。


「ドン・キホーテ」 ディヴェルティスマン
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス

ナンシー・オスバルデストン、菅井円加
オシール・グネーオ、キム・キミン、玉川貴博

〈東京バレエ団〉
木村和夫、森川茉央
中島理子、瓜生遥花、長谷川琴音、花形悠月、本村明日香、吉江絵璃奈、前川琴音、米澤一葉


座長不在のドンキ。オスバルデストンがグラン・パ・ド・ドゥのキトリとカスタネットのヴァリエーション(早過ぎる着替えに驚嘆)、
菅井さんがキトリの扇子のヴァリエーション、グネーオが1幕トロワと一風変わったヴァリエーションのバジル、
キムがグラン・パ・ド・ドゥとヴァリエーション(確か)バジル、
玉川さんがサンチョ・パンサの布陣。玉川さんはキャピトル・バレエやルーマニア国立バレエ、オーストラリア・バレエなど
各地で活躍された経緯をお持ちで現在はフリーのダンサーでいらっしゃるとのこと。
東京バレエ団の木村さん(おかっぱのガマーシュ?)、森川さん(ドン・キホーテ)と3人仲良く中央後方にて腰掛け
にこやかに舞台を見守っているかと思えば踊り出すと実に身軽なサンチョ・パンサ、ぱっと明るく沸かせてくださいました。

一点の曇りのない且つコントロールしつつダイナミックな技術を披露したキムを始めとして
世界各地から集結した主役級のダンサーたちですから個々の実力は申し分ないレベルでしたが
ぶつ切りな印象が残ってしまったのは惜しいところ。
誰かが登場しては踊ってはい次、と個々のパフォーマンスで手一杯な構成に問題があったかと思われます。
加えて当初は主演予定であった座長コジョカル不在の影響も大いにあるでしょう。
急遽の出演者も含め心をこめて全員一丸となって最大限の力を発揮していたのは紛れもない事実ですが
音頭を取る座長が直前降板により舞台上に不在、及び急ごしらえの粗が露骨に表れてしまっていたのは明らかでした。
また近年はアナニアシヴィリのガラや世界バレエフェスティバルでも『ドン・キホーテ』よりハイライト集なる演目は披露機会も増え
観客も見慣れている企画なだけあり、本番数日前に出演決定者がいた点や
全体練習の時間は実質1日程度しか確保できなかったであろう事情を加味しても物足りなさは変わらず。
世界バレエフェスティバルガラではないためコジョカルが後方で花売りする、フォーゲルが給仕を務めるなど
過剰なおふざけ企画は無理であったとしても構成にもう一工夫あったら、
特に場面と場面の繋ぎの部分に一捻りあればと思えてなりませんでした。

幾らか不満も書き連ねましたが、座長コジョカルが『マノン』寝室のパ・ド・ドゥのみの出演であっても
全幕を思わせる舞台披露。そして何と言っても、パートナー変更にパ・ド・ドゥ追加のフォーゲルの尽力を筆頭に
企画当初から出演予定であったダンサーも直前に依頼を受けたダンサーも急遽の事態に即対応。
コジョカル救済プロジェクトの無事完了を見届け安堵した公演でした。





帰りは当ブログレギュラーであるコジョカル好きな大学の後輩とオーチャード近くのお店へ。
コジョカルのインペリアル観たさにチケットを購入したそうで、肩を落としていないか心配であったが
『マノン』だけでも鑑賞できて良かったと話していて一安心。
舞台近く席であったそうで、キムのサポートの特徴など近距離ならではの感想に先輩は興味津々でございました。
先輩管理人は後輩が購入したコジョカルファイルを眺めつつコジョカルの母国ルーマニアの赤ワインで乾杯。
見た目は薄めの色ですが味はしっかり強さがあり。
もしコジョカルを知らなければルーマニアに対する印象と聞かれても
挙げるのはコマネチ、ドラキュラぐらいであったことでしょう。

そういえば、譲ってくださる方よりチケットを引き取ったのは公演5日前の都内の主要ターミナル駅。
その後駅ビル内の中華料理店にて一緒に食事をしていたときのこと、
クラシック音楽が流れていて心地良いとは感じていたのだがふと耳をすませてみると
何とピアノソロバージョンの『白鳥の湖』ジークフリート王子のヴァリエーション。
同じ駅ビル内の飲食店にて以前『白鳥の湖』パ・ド・トロワが流れていたときも驚いたものだが
情景でもなくワルツでもなく王子のヴァリエーションしかもピアノソロとは、
レッスンCDでもなかろうにと互いに興奮を隠せず。ここザンレールなどと口走りつつ
目の前に置かれた炒飯定食、そして何処へ行ってもバレエと縁がある喜びを噛み締めた一夜でございました。



さて以下は余談。ご多忙な方はお飛ばしください。
今回は代役登板続出公演であったため振り返って印象に残っている代役登板の舞台をいくつか。
予定通りの出演が望ましいものの生身の芸術である以上怪我や体調不良は時に生じるもので、これまで観た舞台でも
当初の予定と異なる演者が登場した舞台は何本もありました。中には本番中に変更が生じたときもあり。
3本挙げるなら
◆2006年4月パリ・オペラ座バレエ団来日公演ヌレエフ版『白鳥の湖』
プロローグでオデット役のダンサーが怪我、湖畔の場面で登場したのは別人で
いくら鑑賞時のマナーとして話し声を立てないのは常識とは言えこのときばかりは客席のあちこちから
明らかに体型が違う、別人ではないか、と動揺がの声が広がっていました。
当日は別の役を踊る予定であったダンサーが急遽着替えて登場までは良かったが衣装がぶかぶかで気の毒でした。
そして王子役のダンサーともペアを組むのは初だったとか。
救いはヌレエフ版特有の王子とロットバルトが近距離でくっつきそうになりながら踊る振付が用意され
その場面の際に降板の詳細や代役について2人で話し合って策を練っていたらしいと風の噂で聞いたが
何処までが真実かは未だ分からず。いずれにしても意味合いは違えど映画『会議は踊る』が浮かばずにいられぬ降板登板劇でした。

◆2008年12月新国立劇場バレエ団『シンデレラ』
2幕にてシンデレラは登場しワルツは踊ったが、モロッコの子供に2人が手を添えて行進しオレンジを贈る場面にて
シンデレラが不在で王子しかおらず。そういえば王子はヨハン・コボーでした。
何かあったに違いないと観客の予測の通り、シンデレラ役のダンサーが怪我。
ひとまずコボーが王子のヴァリエーションだけ踊ってそのあとパドドゥの音楽が流れ出した途端幕が下りて舞台監督登場。
事の経緯を説明して15分程度の休憩を挟み、大急ぎで準備した新国立ダンサーのペアが登場し最後まで務めました。
カーテンコールには私服姿のコボーが控えめに登場して挨拶、笑みを絶やさず新国立ダンサーを立てていた姿は今も忘れられぬ姿です。

◆2019年9月新国立劇場バレエ団こどものためのバレエ劇場『白鳥の湖』
本番前日に会場ホームページにて告知があり、地元凱旋公演及び現地でも知名度の高く
宣伝にも力が入れられていた主演ペアが双方降板。
翌々日に長野で同演目に主演するダンサーが急遽大阪入りして主演。
開演前こそ「誰や??」と掲示板を目の前に呟く観客は多かったが幕間にはお2人への賞賛も多々聞こえ
大阪でお世話になっている方々からも溢れるお褒めのお言葉の数々に管理人、目が潤う寸前でございました。
我ながら、よくもまあ代役を知ってすぐにチケット確保し翌日には気づけば東京駅から新幹線で大阪入りしていたと
好きなダンサーの応援に都道府県境は関係ないと言わんばかりの行動をすぐさま取っていたと今も思い出す出来事です。

それから、今回偶然にも『バレエ・インペリアル』、作品の写真で脳裏に刻まれているジャフィー、『海賊』、と要素が揃ったため
過去に遡って観てみたい代役登板劇について。40年近く前のABTオープニングガラにて
バリシニコフと『海賊』を踊る予定であったゲルシー・カークランドが薬物の影響で踊れず当日降板。
(楽屋で倒れていたと確か記されていた)
代役を務めたのは偶々お手伝いに来ていたまだ無名の10代であったジャフィーだったそうで
15年ほど前のダンスマガジンインタビューにてジャフィーが語っていたのだがその書籍が見つからず
記憶と正確性が欠けている点は悪しからず。ただ舞台は大成功を収めたそうで、時空旅行が可能なら居合わせたい舞台の1本です。

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