2020年2月13日木曜日

花盛りの酒井はなさん 日本バレエ協会『海賊』2月8日(土)



2月8日(土)、日本バレエ協会『海賊』を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2020都民芸術フェスティバル参加公演「海賊」全幕/

※スタッフ、キャストは日本バレエ協会ホームページより抜粋

指揮:オレクセイ・バクラン
演奏:ジャパン・バレエ・オーケストラ
原振付:マリウス・プティパ改変版による
再振付/演出:ヴィクトール・ヤレメンコ
振付補佐:タチヤナ・レべツカヤ
音楽:アドルフ・アダン
バレエ・ミストレス:テーラー麻衣、角山明日香、奥田慎也
総監督:岡本佳津子

※素人が重箱の隅をつつくようで恐縮だが、音楽はアダンの作品以外にも多々入っています。


メドーラ:酒井はな
コンラッド:橋本直樹
アリ:高橋 眞之(NBAバレエ団プリンシパル)
ギュルナーラ:瀬島 五月
ビルバント:川村海生命
ランケデム:ヤロスラフ・サレンコ
セイード・パシャ:イルギス・ガリムーリン
オダリスク:佐々木夢奈、清水あゆみ、古尾谷莉奈


酒井さんのメドーラは登場の瞬間からほっそりとした肢体が紡ぐ清らかな輝きが絶品。
タイトなデザインの上下薄いブルーで揃えた衣装がよくお似合いで
膝丈のスカートが翻るさまに至るまで美しさが宿っていたと見受けます。
脚を差し出すときには床に語りかけるような丹念さに、仕草1つにしてもエレガントな空気がふわっと香り立ち
音楽を慈しみながらのステップは繊細で緻密。音と音の間の静寂さですら
華やぎと優美さが舞い上がっているかのようで、芳醇な世界で満たされるばかりでした。
追加された、コンラッドと出会ってから洞窟へ逃げ込んだ際に披露する
『シルヴィア』パ・ド・ドゥアダージオの曲に振り付けられたしっとりしたパ・ド・ドゥでは
旋律と呼応しながら身体が自在に伸び、喜びを体現。
橋本さんの豪胆且つ品もあるコンラッドとは息も外見バランスも合い
安心して思い切りコンラッドのもとへと飛び込んでいく姿も印象に刻まれた場面の1つです。

優しく頼りになるかと思いきやまんまと罠に嵌って居眠りしてしまうちょびっと間抜けな笑
コンラッドを起こそうと懸命に揺すって慌てふためきながら奮闘する場面はいたく健気に映り、
変わって花園では白地に銀色模様で彩られたチュチュをまとって大らかに踊られ、香しい百合を彷彿。
そして極めつけはパ・ド・トロワで、他の版と異なり花園のあとに踊る演出で物語も終盤に差し掛かり
体力分配が非常に難しい流れのはすですが、疲弊なんぞ些かも感じさせず
何とも伸びやかそして艶やかさにも仰天するしかありません。
フェッテに至ってはご年齢を考えれば、そして古典全幕を踊られる機会の頻度を考慮すれば
ピケターン或いは省略版でも十二分に満足であるとの勝手な思い込みは誠に失礼であったと詫びたくなるほど
滑らかで美しい32回転且つ後半になるにつれてぐらつきを不安にさせるどころか観客と会話するかのように笑みが益々零れ余裕綽々。
最後は観客の反応を愛おしく両手で掬って胸に手を当て、アリの旋回が控えていたとはいえ心を込めて素早くレヴェランスして袖へ。
研ぎ澄まされた身体のしなやかなラインに加え深まる表現力、衰えとは反比例で更に磨き上げられた技術を目にし
仮に現在の新国立の公演で全幕主演しても何ら違和感なく、
酒井さんは令和の怪物ではなかろうかと圧倒され続けたメドーラでした。

奴隷としての生き様を貫いていた高橋さんのアリも登場のたびに自然と目が向き
ドラマ性を濃く描写するメドーラとコンラッドを主軸に展開するためどうしても出番は少なめでしたが
感情を抑えての忠誠ぶりや、ヴァリエーションにおいても規範を厳守して妙な小技も入れず
コントロールしながらの踊り方でありつつ決めポーズや音楽の高揚と調和して迫力を出すべきところではとことん出し
メリハリがあって好印象。物語と品を大事にするヤレメンコさんの方針なのでしょう。

見せ場はふんだんに組み込まれており、序盤での海賊の男女たちによるキャラクターダンスは張りがあって生命力に溢れ
後半の花園前に持ってきたオダリスクは渋めの金と水色を合わせた独創的な色調にも見入り
3人とも恵まれた体型で着こなしもしっくり。中でも佐々木さんは一際華やぎオーラを放っていた印象です。

上演時間は休憩1回の全2幕2時間で実にコンパクトな構成でしたが見せ場の要部分は残し、
しかしある人物が絶命して物語が急展開する箇所やマイム部分はスピーディーに明快に繋いで行く振付。
そして最たるオリジナル振付はロンドンにて回想する『海賊』作者である
詩人バイロン(コンラッドが兼任)をロマンティックに描いたプロローグとエピローグで、
予習不足で実のところ当初は理解に至らず終いでしたが後から知ると確かに
紳士淑女然としたシックで上品な服を着用した男女が行き交い、中にはメドーラの姿も。
現実と夢世界を往来しているのであろうバイロンが浸るロマンに思いを馳せたくなる場面で
設定を把握した上で再度観たい場面でございます。

尚、メドーラやギュリナーラはダンサーによって衣装デザインも異なっていたとのこと。
例えばパ・ド・トロワでのメドーラは酒井さんは藤色の膝丈スカート、上野水香さんは濃いブルーのチュチュ、と
形状も色彩も様々。(加治屋さんのデザインが気になるところ)
写実的で陽光降り注ぐ、モスクも眺める爽やかな港風景の背景美術も序盤での賑わいを引き立てる効果大でした。

感慨深かったのはヤレメンコさんとレベツカヤさんのプレトーク。
何しろ私が最初に触れた『くるみ割り人形』の王子がヤレメンコさんで、
昭和の時代に書籍で、そしてNHKで放送された昭和女子大学人見記念講堂での来日公演映像で何度も見たキエフのスター。
ときめいたかは横に置き、当時はまだ若手で大先輩リュドミラ・スモルガチョーワに恭しくお仕えする初々しい王子でした。
この書籍と映像を通して知ったキエフのくるみが基盤となり、翌年頃には
心からのめり込んでしまったアルヒーポワとムハメドフが踊るボリショイのグリゴローヴィヂ版に越されてしまったとはいえども
くるみのあらすじや登場人物、音楽構成といったいろはを学ぶきっかけになったのは
紛れもなくヤレメンコさん主演のキエフバレエ公演だったのです。

バレエ協会のチラシを手に取り、当時の面影を求めるにはやや難しくはあったものの
そしてヤレメンコさんの話題が通じる人が果たして周囲にいるか不安もございましたが1桁人数はいましたため安堵。
体型は随分とふっくらされていましたが(自身も人をどうこう言える立場及び外見ではないが)
バレエ愛に溢れたお話にじっくり耳を傾け、思えばプロローグの設定と似通ったのか
約30年前に遡って若き日のヤレメンコさんの姿を脳裏に浮かべながら話に聞き入ったプレトークでした。
度々来日されコンクールでも訪れたため日本は大変愛着のある国で
一番お好きな役は試験やコンクール、そして公演でも幾度も踊ったバジルとのこと。
実際の映像を幕間のロビーで流して見せてくださった企画には感謝するばかりです。




バレエに興味を持ち始めた頃から愛読しているキエフ・バレエ『くるみ割り人形』書籍。
写真と解説ともに豊富でシェフチェンコ劇場の内部やバレエ団のリハーサル密着の記事もあり、
今や振付家として大活躍中であるラトマンスキーが将来を嘱望された新鋭として紹介されています。
アンナ・クシネリョーワのレッスン写真が載っているのも嬉しく
お好きだった方、いらっしゃいましたらご一報くださいませ。姫がよく似合う典雅な雰囲気に惹かれておりました。
NHKで放送された『眠れる森の美女』でヒロインを務め、年始に最後の全幕白鳥を踊ったフィリピエワが妖精ソリストの1人だったと記憶。



写真左:『ドン・キホーテ』は若き日のヤレメンコさんとレベツカヤさん。幕間には嘗てお2人が踊られた映像が流れ、ロビーにて鑑賞、
今見てもスタイル宜しく品格と情熱を合わせ持った正統派キトリとバジルで
奇を衒わぬ、お手本のようなクラシック・バレエの技術に驚嘆した次第です。
写真右:向かって右側のスタンドはバレエ協会2018年公演『ライモンダ』。十字軍の時代にふわふわ羽飾りの兜など
時代考証の面では疑問符が付く衣装が何点かあったが、全幕上演の機会は少ない中での新制作上演に歓喜。



酒井はなさんファンの方々、生徒さんたちが贈られたフラワースタンド。
ハート型とピンクがまさに生ける花園での温もり溢れるメドーラのイメージにぴったりです。



帰りは当ブログレギュラームンタ先輩と上野駅の文化会館反対側の魚介料理店にて乾杯。
海賊ですので、海の幸をたっぷりいただきました。ボリュームも鮮度も文句無しでディルの香りも爽やかに効いたカルパッチョ、
塩加減も絶妙なグリルの鯛でワインも進みます。
一昨年のバレエ協会『ライモンダ』にて酒井さんの虜になったムンタ先輩、今宵もご満悦でした。

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