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2020年2月23日日曜日
行き届いたレジュニナの美意識 東京シティ・バレエ団『眠れる森の美女』2月16日(日)
2月16日(日)、東京シティ・バレエ団『眠れる森の美女』を鑑賞して参りました。
シティでの眠り全幕は40年ぶりの上演だそうです。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000532.html
特設サイト https://tokyocityballet.com/sleepingbeauty/
構成:振付[マリウス・プティパ原振付による]:安達悦子
振付指導:ラリッサ・レジュニナ
演出:中島伸欣
オーロラ姫:斎藤ジュン
デジレ王子:福田建太
リラの精:平田沙織
カラボス:石黒善大
フロレスタン国王:青田しげる
王妃:若林美和
カタビュット:浅井永希
優しさの精:春風まこ
元気の精:渡邉優
鷹揚の精:大内麻莉
カナリア:新里茉莉絵
勇気の精:且股治奈 ※3幕:山本彩未
フロリナ姫:飯塚絵莉
青い鳥:吉留諒
ダイヤ:石井日奈子
金:島田梨帆
銀:且股治奈
サファイア:三好梨生
白猫:庄田絢香
長靴をはいた猫:岡田晃明
赤ずきん:宮井茉名
狼:濱本泰然
斎藤さんの主役は初見。決して抜群のスタイルやラインを持っているわけでないながら
最も緊張するであろう1幕登場時からおっとり優しい空気を作り出し、ほんわかとしたオーロラ姫を好演。
ピンク色の小さなバラをあちこちに振り撒いているかの如き初々しさにも頬が緩まずにいられぬ魅力がありました。
2幕の消え入りそうな幻影、3幕での結婚式に臨む姿まで変化の色付けも明確で技術も安定。
福田さんの王子は登場の姿からは一見主役なオーラは控えめに思えてしまい
全てを備えたおとぎ話の究極な王子様像へやパートナーシップの盤石ぶりはもう一歩であった気もいたしますが
フレッシュ感のある踊りやオーロラの幻影を目にすると会わせて欲しいと
懸命にリラへ胸の内を全身で訴える表現も届いて好印象。経験を重ねていけば堂々たる主演を務められると感じさせる
全幕デジレ王子デビューでした。
特筆すべきは平田さんリラ。包容力と強さを備え、カラボスに対峙する凛然な立ち姿には
宮殿の人々にとってどれだけ救いになったか想像に難くなく、長い手脚と高い背丈をコントロールする力も見事。
腕を大きく広げたり例えば1つアラベスクポーズを取るだけでも空間が柔らかなリラ色に染まり
妖精たちを背中で統率するリーダーらしい格にも惚れ惚れいたしました。
圧倒する存在感で場を攫っていたのは石黒さんのカラボスで男性形マレフィセントといった趣き。
下手すればデーモン小暮さんと美川憲一さんを足して2で割った感のある妖精に至ってしまう装いやメイクでしたが
マイムや所作が雄弁且つ品も宿り、悪の精であっても惹きつけてしまう妖しさ。手振りだけでも覆い尽くす迫力で
勢い良く舞い上がるマント捌きも魔力を倍増させる立ち振る舞い。
何より、ご自身が楽しそうに演じていて敵役にも拘らず舞台が一気に締まって盛り上がったのは明らか。
これまでに観た石黒さんの役柄の中で最も見入った舞台でした。
昔でもないが、2007年には北海道厚生年金会館(のちにニトリホールに名称変更後2018年閉館)にて開催された
全道バレエフェスティバルサッポロ『ドン・キホーテ』全幕にてエスパーダ役も鑑賞しておりますが
今回のカラボスの方が遥かに強烈な印象です。
振付指導にはマリインスキーやオランダ国立バレエでも活躍されていたラリッサ・レジュニナさんが入り
基盤はセルゲイエフ版。レジュニナさんが10代の頃にファルフ・ルジマトフと組んで踊られた映像を度々鑑賞していた者としては
しかも私にとって初めて触れた、『眠れる森の美女』の基礎要素を知る契機となった映像や
手引き書として今も愛読している昭和の時代に出版された書籍の舞台写真にて主役として写っている
イリーナ・コルパコワから学ばれた経緯を綴られた挨拶文を読み、尚のこと感慨深し。
プロローグでのカヴァリエ不在やリラの精のコーダ部分、女性のみ4人の宝石や
フィッシュダイブのないオーロラ姫と王子のグラン・パ・ド・ドゥの振付からして
見て取れる、セルゲイエフ版の香り漂う演出でした。
ただ丸ごと踏襲ではない点は嬉しく、1つは衣装。東洋人のダンサーに合うよう配慮が行き届いた色彩で
特に息を呑むセンスの良さに驚嘆したのはリラの精、リラのお付きの妖精たち、プロローグ妖精ソリストで
パステルカラーを用いつつぼやけて見えぬよう同系色の渋めの色を胴部分に組み合わせ
体型がより綺麗に締まって見えるデザインでした。模様や装飾も、頭飾りの形も役柄毎に異なる凝りようで
双眼鏡を通しての観察も楽しく、遠目で眺めても全体が淡さと濃さがバランス良く共存している光景が広がっていたく眼福。
宝石もシックな色と淡い色、そして派手になりすぎずされど各々の宝石で彩られて華やぎも十二分にありました。
またセルゲイエフ版では4人の求婚者が同デザインの色違いの衣装である点に対し、シティではお国柄が分かる衣装を導入。
太陽が描かれて分かりやす過ぎるフランス、タータン模様のイギリス(スコットランドかと思うが)、ロシア、インドの構成でした。
濃いめのメイクに髭面であったロシアの濱本さんが誠に立ち姿が美しく長身も映えていた上に
お顔が新国立劇場バレエ団の井澤駿さんにそっくり笑。メイク効果か定かではありませんが
瓜二つに近く何度も双眼鏡で観察してしまったほどです。アポテオーズではリラや宝石のみならず、プロローグの妖精たちも総登場。
貴族の人数は少なめであったものの舞台面積を考えれば程よい数で、
中でもつい先日スタジオカンパニー生からアーティストに昇格された櫻井美咲さんのデコルテの見せ方や隙のない歩き方は目を惹く姿でした。
面白みのあった場面の1つが、2幕終盤カラボスとは直接交わっての対決が殆どない王子に代わって
率先して前に出ていたのはリラの精とリラの妖精たち。妖精たちが囲い込みしながらカラボスや手下たちを追い詰めていく展開で
つまりはリラの方が王子よりも格段と勇ましや。俄然平田さんの威厳やダイナミックな強さが生かされたリラに繋がっていたわけです。
舞台背景は恐らくは全編通してグリーンの同じベルベット地のカーテンが掲げられていて
後方にカーテンといえば現在NBAバレエ団芸術監督の久保紘一さんやキエフの至宝エレーナ・フィリピエワが入賞した頃の
80年代のモスクワ国際バレエコンクールが脳裏を過ぎり、チャイコフスキー三大バレエ全幕では如何なものかと
当初は首を傾げておりましたが心配は無用。照明によって自在に色が変化し、予算云々な勘ぐりをさせぬ立派な舞台背景でした。
マリインスキーのセルゲイエフ版を踏襲しつつもシティの持ち味であろう階級問わず高い技術レベルや
カラッとした明るさを生かした、そして型やラインをしっかりと魅せるよう心を砕くレジュニナさんの美意識が行き届き
熟慮を重ねてデザインされたと窺える凝った衣装効果もあって上質なおとぎ話の全幕バレエを鑑賞。
カーテンコールではレジュニナさんも登場されて歓喜したシティの新制作全幕眠りでした。
昭和に出版された、我が眠り手引き書。求婚者たちにリフトされているのはコルパコワさん。
この本に目を通し、青い鳥や赤ずきんといったバレエにおける眠れる森の美女の特殊な展開、キャラクターの知識を蓄積。
セルゲイエフ版の全容を辿れる書籍です。後半ページにはソビエト(当時)の新鋭からスターダンサーまでが紹介され
コルパコワ、アナニアシヴィリ、アンドリス・リエパ、ベスメルトノワ、ムハメドフ、ルジマトフ、
タランダ、アスイルムラトワといったバレエ史に刻まれる方々を掲載。
うっとり眺めてソビエトバレエを憧憬しておりましたが瞬く間にソ連崩壊。
報道番組が連日赤の広場とゴルバチョフ一色になっていたと記憶しております。
もう少し余韻に浸りたいと思い、こちらのバーその名もライラックへ。
注文したのはFourRoses、シティ眠りでは求婚者たちが持つ薔薇は赤色である
ローズアダージオを彷彿させるバーボンのロックで平田さんリラ
そしてシティでは40年ぶりとなる眠り全幕に乾杯。
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