2020年2月16日日曜日

指揮者福田一雄先生による「ピアノで奏でるバレエ講義」「海賊・ライモンダ大研究」



2月9日(日)、バレエスタジオAngel R 表参道校にて指揮者福田一雄先生による講座
「ピアノで奏でるバレエ講義」「海賊・ライモンダ大研究」受講して参りました。
2月11日(火祝)Angel R MIXED PROGRAMでの『ライモンダ』3幕上演を前にした予習も兼ねて開講されたようですが
バレエ作品で最も好きな『ライモンダ』、そしてちょうど日本バレエ協会『海賊』鑑賞翌日でしたのでいたく旬な心持ちで受講。
今回もこれまでの常識を覆される逸話が次々と飛び出し、喫驚仰天の連続でした。
新国立劇場でも活躍されていた井口裕之さんが前回に続き、進行助手としていらっしゃいました。
https://www.angel-r.jp/whats-new/workshop/other-workshop/26559/


前半は『ライモンダ』から。福田さんが取り出された、年季の入ったロシア語のピアノスコアに
管理人、この時点で胸熱し。ご入手経路は失念してしまいましたが遡れば東京バレエ学校関連だったか。
ロシア語表記ですのでRはP、未だロシア語アルファベットはとっつきにくい印象がございますが誤読要注意です。
曲目はセルゲイエフ版のCD収録リストを元に解説してくださった点も嬉しく、
何しろ所有しているCDで愛聴しているため、話の進みが早い場合でも
どの曲を指していらっしゃるか瞬時に分かり助かったのでした。

先述の通り、噴水のごとく溢れ出る仰天話や音楽知識の宝庫な福田さんだからこその独自のコンクール選曲斬りに
参加者一同笑いの渦と化したのも1度や2度ではありませんが、何度も耳にしている曲ながら特に驚いたのは
ライモンダによる1幕夢のヴァリエーションの挿入。マズルカと同様、
元々はグラズノフが『ライモンダ』とは別に発表していた『バレエの情景』の中の1曲であるのは知っておりましたが
ライモンダの踊りに相応しいと自身が判断して取り入れたのではなく
セルゲイエフが改訂振付時に勝手に挿入してしまったそうです。
意図せぬ挿入にグラズノフそして肩を組んで振付にあたったプティパはどう考えているか
アルコール依存症が死因であったとされるグラズノフは生前の行いにも懲りず、納得いかんと言わんばかりに
天上でもどっぷり酒浸り生活を送っていた可能性は重々あり得そうですが
セルゲイエフの身勝手な行動はさておき、後からの挿入とは思えぬほど場面にも調和し
ジャンに恋い焦がれ心を寄せるライモンダの感情を優雅に表現した振付、音楽と捉えております。

3幕のマズルカも『バレエの情景』からの挿入ですが、この曲で思い出すのは一昨年2018年のバレエ・アステラスで鑑賞した
英国ロイヤル・バレエ団の高田茜さん、平野亮一さんが披露されたリアム・スカーレット振付「ジュビリー・パ・ド・ドゥ」。
ライモンダのマズルカの音楽を用いつつも古典のパ・ド・ドゥな仕上がりに胸を躍らせて観ておりましたが
プログラムの曲紹介ではライモンダについては触れずあくまで『バレエの情景』を強調していたかと記憶しております。

それから昔からの疑問がようやく解決でき喜ばしかったのは、グリゴローヴィヂ版での3幕で踊られるジャンのヴァリエーション。
他の版では管楽器が高らかに奏でる曲が大半であるため、(グリさん版では1幕で披露)何処の曲か長年謎でおりましたが
元来は子どもの踊りとして作曲されたとのこと。金田一少年の如く、謎は全て解けたの一言に尽きます。

またグラズノフはハンガリーの伝統楽器ツィンバロに出会った経緯もありハンガリーに造詣が深かった点や
牧阿佐美バレエ団による全幕日本初演で男性4人のヴァリエーションが揃わずの笑いエピソード等々
ひっくり返るようなお話も沸き出て楽しい学びとなる時間でした。
確かに男性4人のヴァリエーションで揃っている姿を観た回数は少なく、先月の英国ロイヤルシネマにおいても斜め発射と着陸不成功多発。
これまで観た最もきちんと揃っていたのは2009年大阪にて鑑賞したKチェンバーカンパニー(Kバレエスタジオ)公演で
4人の中には現在新国立劇場バレエ団所属の福岡雄大さん、福田圭吾さん、福田紘也さんのお名前も。揃うのも当然か。

福田一雄さんが疑問視なさっていたことで私も長年同じ思いを抱いてきた点は
コンクールにおいて、ライモンダのヴァリエーションとして夢の場の踊りばかりが選ばれる傾向にある点。
先述の通り本来プティパやグラズノフが意図して作ったものではなくセルゲイエフの好みで挿入されてしまった事情に
複雑な感情を持たずにはいられないと察しますが、他にも美しいヴァリエーションがふんだんにあるにも拘らず踊る人は殆どおらず
ローザンヌでの影響であろうと仰っていました。(この日もコジョカル救済隊員の1人として
講座会場から一駅の場所で踊っていらしたハンブルグバレエ団の菅井円加さんが2012年のローザンヌで1位受賞した際のことかと推察)
極めて同感で、キトリやオディールに比較すると振付と音楽ともにシンプルで見栄えがしないためか不人気な様子。
私個人としては、2幕で披露される前半はホルン主旋律によるゆったりめながらも空間を切り裂くようなヴァリエーションは
脚力の強さに自信のある方にはぴったりかと思いますし終盤にピケターンもありますので
ライモンダの中では見栄えする振付に類する気もいたしますがそもそも知名度が低いのかもしれません。
他、独断と偏見なるヴァリエーション解剖をしていきますと1幕ワルツの合間のピチカートは
これは簡素過ぎてコンクールには不向きかもしれぬが、寂しさと可憐さが同居した魅力ある振付でございます。
夢の場の前のヴェールを持った踊りも繊細で素敵な場面ですが短時間であり
加えて扇子やタンバリンは可でもヴェールはコンクールで許されるか、主催者次第かもしれません。
夢の場はもう割愛で、3幕はさすがに重厚感があり過ぎる且つパ・ド・ブレ中心は辛いか。
1つ1つ考えていくと、夢の場ばかりが脚光を浴びるのも頷ける気もして参ります。(ホルンのところはどなたか踊ってくださることを期待)

さて長くなって参りましたの後半は短めに。『海賊』は作曲者混在でヴァリエーションの作者はもはや暗記不可能なほどですが
バレエ協会『海賊』初日に酒井さんが踊られた、マリインスキーの来日公演ではロパートキナも披露していた
可愛らしくも歌えない曲調のヴァリエーションは元々はシェル男爵が作曲した『シンデレラ』の中の1曲であったそう。
どうやら海賊のパ・ド・ドゥ(パ・ド・トロワ)はアダージオとコーダはドリゴが作り
ヴァリエーションは各々好みの曲を持ってきていたとか。
そんなわけで、『海賊』上演の際は作曲者として誰の名前を挙げるべきか主催者を悩ませ続けるのでしょう。

日本で初めてパ・ド・ドゥ部分が披露されたのはフォンティーンとヌレエフだったとのこと。
当時フォンティーンが踊った曲についてもお話しくださり、原曲の題名と作曲者も分かってこれまた謎が解けた金田一少年の気分。
確かロンドンで収録した1960年代頃の映像がのちに『華麗なるパ・ド・ドゥ』として纏められテレビ放送されたのは
録画して何度も視聴いたしましたが(フェリとイーグリングのロミオとジュリエットや
コルパコワとベレジノイの眠れる森の美女、ハーヴェイとバリシニコフのドン・キホーテといった王道のみならず
バッセルとコープのパゴダの王子やAMPの白鳥などマニアックなものも収録)
フォンティーンが踊ったヴァリエーションが『ドン・キホーテ』森の女王で少々不思議であったものの
エレガントで上品な持ち味にはよく合っていると見入ったものです。長袖のふわりとしたチュチュも記憶に残っております。

記事のボリュームに偏りがあった点や話が二転三転した点は失礼。
今回もバレエ音楽の仰天話を多々知ることができたのは大きな収穫でしたが、これまでと違ったのは
会場がバレエスタジオであった点。こういったバレエ作品関係の講座受講の度に感じていたのは
舞台で踊る方や指導者にこそ参加いただきたいこと。中でも指導している方々は
例えば教え子が発表会やコンクールでヴァリエーションを踊る際、その役柄の全幕における位置づけや設定のみならず
果たして本当にこのキャラクターのために作曲されたのかそれとも実は作曲者自体異なっているのか、
歴史や経緯に至るまで調べ上げておく必要があると思うのです。
そうは言っても増え続けるコンクールとその需要も高まっているらしく
通っていたバレエ教室ではコンクールのコの字も話題にならず、プロを目指す人のみに関係すると受け止めていた
管理人が子供の頃の時代とは大違いである模様。近年は出場者の低年齢化も著しく(小学校低学年での出場は早過ぎる気もするが…)
先生方も休む間もなく指導続きであるのも分かりますし、そして踊らぬ踊れぬ私のようなド素人が
あれやこれや口走るのは実に不躾であるとも承知しておりますが、基本バレエを踊る方々が集まるバレエスタジオでの定期開催は
一鑑賞好きとしても大変嬉しく思えた次第です。私1人だいぶ浮いた受講者であったものの
切り口を変えれば受講者の恐らくは9割以上が普段から踊っていらっしゃる方々であったのはむしろ喜びにも感じたAngel Rさんでの講座でした。
帰りがけ、受付前の画面で流れていたのは10周年記念発表会『ドン・キホーテ』全幕の3幕冒頭のワルツ。
仕事と両立させながら通い、晴れの日を迎えた友人の舞台姿を再びじっくり眺め、殊更清々しい気分でスタジオを後にいたしました。


※もしグラズノフが誠にお好きな方がいらっしゃいましたら、機会があれば
深川秀夫さんの作品『グラズノフ・スイート』を是非ご覧ください。
2017年12月に川上恵子バレエスクールの舞台で鑑賞し、大勢の女性で踊られる
『ライモンダ』や『四季』の曲が随所に散りばめられたお洒落な作品で
ハンガリアンポーズを多く含んだ振付、デザインは同じながら色とりどりの膝丈の衣装
多色が柔らかに入り混じった万華鏡のような照明、そして音楽、と全ての要素の美しさにうっとりいたしました。
記憶している限りではありますが使用曲は『ライモンダ』より夢の場のパ・ド・ドゥ音楽で幕開けして全員出演し
(2017年から18年にかけての東急ジルベスターカウントダウンでザハロワとロヂキンが踊った曲)、
夢の場の第1ヴァリエーション、第2幕クレメンス(多分)のヴァリエーション、第3幕グラン・パ・クラシック女性のパ・ド・トロワ
夢の場のワルツ、1幕の夢に入る前に友人4人が踊る曲、グリゴローヴィヂ版では3幕でジャンが踊るヴァリエーション
同じく深川さんの振付で2017年に新国立劇場バレエ団にもレパートリー入りし
ソワレ・ドゥ・バレエでも使われた『四季』より秋などです。
フィナーレは2幕のライモンダと友人4人のコーダに乗せて全員が登場する壮大な幕切れで
通常2人で踊られる曲を群舞で踊る光景や男性ヴァリエーション曲を女性が踊る姿は新鮮でしたが不自然さがなく
ダンサーの技術、そして振付と音楽双方の魅力に触れた思いがいたします。
グラズノフ好き、『ライモンダ』オタクにはたまらぬ作品でした。


※変り種では、吹奏楽で聴くライモンダも面白味あり。定期演奏会や普門館でのコンクールでも人気は高いようです。
曲目や編曲は多種存在し、アブさんの誘惑アダージオを1曲まるごと演奏するところもあれば
序奏とフィナーレ、アポテオーズと至極シンプルな展開もあり、まちまちです。
私が聴いた中で最もすっと耳に入ってきたのは15年ほど前に図書館で借りたCDに収録されていた演奏で
楽団など失念してしまいましたが序奏、スペイン(打楽器出番増やしのためか取り入れている編曲多し)、
ピチカートヴァリエーション(弦楽器の代わりにクラリネット主旋)、フィナーレ、アポテオーズ。
バレエとは多少順序入れ替えはあるもののスムーズそして変化に富んだ構成で妙な違和感は無し。
ご興味のある方は色々お探しになってみてください。



セルゲイエフ版ライモンダCD。こちらの解説書を辿りながらの説明でした。
但し、踊るテンポでは収録されていないため曲によっては非常に遅い笑。
特に1幕ライモンダの登場、2幕アブさんの登場は随分ゆったり。
ペテルブルクの雰囲気を帯びているのかスペインはやや品が良過ぎる感があり、この曲に関しては
ボリショイ劇場管弦楽団以上にドカンと一発な勢いのあるモスクワ放送交響楽団の演奏が一番気に入っております。
(図書館で借りて何度も聴き比べてしまった)前半にはシェヘラザードが収録されています。


帰りはスタジオすぐ近くに位置する、以前から気になっていたハンガリー料理店ジェルボーへ。
どっしりとしたチョコレートが織り成すジェルボーセレトケーキととハンガリー産のチャペルワインで乾杯。

思えば、先月の英国ロイヤルシネマでの『ライモンダ』3幕でのバッセルによる
ロシアとハンガリーを混在させながらの解説に耳を疑ってはしまったが
決して聞き心地が宜しくないとは言い切れなかったのは、私が11年前に新国立劇場バレエ団ボリショイ劇場公演鑑賞で
モスクワ公演へ行った際に宿泊したホテルがブダペストホテル、だったためかもしれません。(ホテル名の由来は不明)
ビザ代行発行に伴いホテルは旅行会社が提示した宿泊施設限定、選択の余地もない状況でひとまず劇場から徒歩圏内
且つ一番安価(私からすると目が飛び出る価格だったが仕方ない)だからと申し込みましたが
大手とは違い機能的ではない点がむしろ気に入り、赤を基調とした温もりと古めかしさのあるロビーや重厚な外観
淡いグリーンで整えた広過ぎない朝食ルームといった内装や従業員の穏やかな対応も好印象。
ロビーはジェルボーの内装ともどこか似ており、来店し腰掛けた瞬間から懐かしさが込み上げました。

ところで、Angel Rさんの敷居を跨いだのは2度目。1度目は表参道校でのレッスンを受講している友人のクラス見学のため
2度目は友人も出演していた10周年記念発表会『ドン・キホーテ』2日目の回に足を運んだ際にいただいたプログラムに付いていた
無料体験レッスンチケットを利用して体験レッスンを受講。入門、チャレンジ、初級等初級者向けのクラスのみでも多種用意され、
自身のレベルに当てはまるクラス選択に迷いそうになったものの、申し込みの電話口にてスタッフの方が
大変親身になって案内してくださり安堵。Angelへ行くのも、平日仕事終わりにレッスンへ行くのも初体験でしたが
担当の先生のゆっくり進めてくださりバレエ用語を多用せず噛み砕くように教えていただけて
レッスンは年数回である私も緊張が解れ、リラックスして受講できたことは今も覚えております。
今や年1回にとどまりつつあるレッスンを先月中旬、再開以降お世話になっているスタジオにて受講して参りましたので
その話はまた次回。

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