2025年5月28日水曜日

熊川さん版の伝統作品17年ぶり!  K-BALLET TOKYO『白鳥の湖』5月24日(土)




5月24日(土)、K-BALLET TOKYO『白鳥の湖』を観て参りました。Kバレエの白鳥は17年ぶりの鑑賞で、
前回鑑賞時はリーマンショックの数ヶ月前。主演は松岡梨絵さん宮尾俊太郎さんでした。
Kバレエの白鳥は3月上演が多く、初台と重なっていてなかなか観に行けずであったのかもしれません。
https://www.k-ballet.co.jp/performance/2025swanlake.html








オデット/オディール:日髙世菜
ジークフリード:石橋奨也
ロットバルト:栗山廉
王妃:戸田梨紗子
ベンノ・王子の友人:栗原柊
家庭教師:ビャンバ・バットボルド
パ・ド・トロワ:木下乃泉  武井隼人  岩井優花
4羽の白鳥:塚田真夕  辻梨花  梅木那央  大坪明日香
2羽の白鳥:岩井優花  小林美奈
6人の姫:大久保沙耶  弟子丸智絵  長尾美音  木下乃泉  島村彩  海老原詩織



日髙さんのオデットはしっとり艶かしい羽ばたきが絶品で、弧を描くしなるラインを生かしつつも過剰な仕草に走らず
あくまで品を保ちながらの踊り方であったのも好印象。視線や表情の付け方も明確で、
王子と出会ったときに弓に恐怖を感じてすぐさま顔を背けて走り出す流れもごく自然に映りました。
オディールはもっと悪女になるかと思いきや、企みの声が美しく響いてきそうな気高い姫。スペインの最中に姿を現すときもこれ見よがしにアピールせず、
さらりとしかし撫でられているような不思議な感覚に襲われて背筋ゾクゾク。
それでいて視線や踊りは妖艶な魅力を纏っていて、これは王子も罠に引っかかってしまうのも無理ありません。
説得力があると思わせたのは、舞踏会後の湖畔の場で、王子の謝罪に対して怒りは見せないもののすぐには許しを示さず、
その後も目線を合わせぬよう顔を横に向けていて、終盤近くの飛び込みの辺りまでは心をすっかり閉ざしていたと見えたこと。
大概のオデットは王子の過ちをすぐに許して包容していますが、考えてみれば世紀の大失態を王子はやらかし、
しかも20人以上はいる侍女達の運命も背負っているオデットの立場からしたら、即座の受け入れは困難な事柄でしょう。
重たいワルツにのせたパ・ド・ドゥが、もう僅かな希望の光すら見えずずっしりと悲しみを引き摺る効果をより強めていた気がいたします。

石橋さんの主役は恐らく初めて拝見。能天気坊ちゃんではなく、少し翳があり皆と騒ぐタイプではなさそうな王子で、家庭教師とも終始落ち着いた会話を披露。
オディールに騙されていたと知ったときの絶望時も王妃に泣き縋ることなく(熊川さんはなさっていたのでしょうか。機会あればDVDで確認いたします)、
自力で何としてでも助けに行きますと言わんばかりに切り替えての全力疾走で湖畔に向かっていきました。
Kには珍しい明快なゴージャス感は控えめ系かもしれませんが、踊りもサポートも着実に決め、
日髙さんのラインをより大きく華々しく見せて舞台を彩ってくださっていた印象です。
そうでした、最後の決死の飛び込みのとき、身体にドラマティックな血が充満し過ぎたのか、
片脚を反るようなフォームで飛翔していたのは思わず笑ってしまいました笑。脚も愛を叫ばずにいられなかったのでしょう。

他日の王子と兼任でロットバルトを務められた栗山さんの敵役は恐らく初見。好みは別として容姿からして王子様な雰囲気が真っ先に浮かびますが
スッと抜けるような妖しい魔力で支配し、目の辺りも隠れる装飾もありながら、眼光もなかなか鋭く、黒い役もよく似合うと思えました。
(ひょっとしたら、ご贔屓の観客からしたら敵役系のほうが良いとか?)
ただ思い起こせば2023年の新制作『眠れる森の美女』王子にて、カラボスの罠にかかって黒いオーラを漂わせながらオーロラに迫るローズ・アダージオにおける
オーロラと惹かれ合いながらも冷たい不気味な物質に身体中が弄られかき乱される感覚がもたらされた衝撃が強烈で、ダーク陰鬱路線な役柄はお得意なのかもしれません。

それからキーパーソンと今回気づかされたのは家庭教師。国の繁栄のために常時カリカリ神経質な王妃と異なる、
亡くなっているであろう王子の父親代わりにも見て取れる会話の温かさ、弓で遊んでしまうお茶目な魅力、
麦茶の如くお酒を立て続けに飲み過ぎて泥酔してしまうおっちょこちょいな愛嬌、
また王妃に花束贈呈を終えたワルツの女性のためにさりげなく道を開けて導いたりと、引き締めと和ませ役として大活躍でした。
実は第1幕からロットバルトの存在に誰よりも早くに気づくも信じてもらえず、オディールとの結婚の誓いにもストップをかけたりと
怪しさを早期の段階把握していた人物として描写されているのは初めて知りました。
8月の国際バレエアカデミアの『シェヘラザード』では再び宦官役にお目にかかれますように。

全体を通してテンポ速いスペクタクル展開で特にベンノが大忙しな踊り祭り。栗原さんの身体が捥げないか心配になるほどで、
舞踏会の始まりも幕が開くと既にブンブン回転を続けていて、しかしコントロール力が切れず常に場を沸かせる技量に天晴れでした。
1幕のワルツも激しいステップやフォーメーションの交差てんこ盛りで、若き日の団長のギラギラとした魂が吹き込まれた演出でしょう。
団員達の食らいつきが目に浮かびます笑。
トロワも身体の捻りをシャープに効かせる振付が多く、それでもいとも易々とこなしていて
木下さんの端正な中から長く美しい四肢を自在に操る踊りや岩井さんの軽やかで音楽にぴたっと吸い付くような見せ方、腕の使い方の優雅さも目の保養。
謎のヘアバンドだけが疑問であったが笑、秋のドンキでは主役デビュー?の武井さんのパワーや淀みないキレ味も宜しうございました。

舞踏会の民族舞踊はどれもグイグイと押しが強く、マズルカでは小柄と思わせぬ世利さんの上体の使い方の雄弁さが目を惹いて全体を力強く統率。
チャルダシュには小林美奈さんもいらして華々しくリードされ、肩の使い方の粘りも麗しや。
スペインはオディールの見せ場を盛り上げて支える謎めいた集団の設定なのか全員仮面付き。
ロットバルトの仮面にも似ているため、手下までとは言わずとも関係性はありそうです。
スペインの途中、曲調が落ち着いたところでオディール出現やコーダの使用曲や振付はブルメイステル版と似通っていますが
ロットバルトのヴァリエーション終盤にリフトされながら対角線上を走る振付は熊川さんオリジナルでしょうか。オディールが終始罠をし掛け続けて王子を眩ませているようで
ヴァリエーション間もぶつ切り感がなく、これはこれで面白みがあると思え、隙なく畳み掛けるコーダも興奮を誘いました。

1幕の幕開け、流線状の装置の迫力に、そしてスピーディーに踊りながら駆け抜ける振付に初めて観たかのように圧倒され、17年の歳月の長さを再確認。
そこへ登場する1幕王子のブルーとシルバーで彩られた衣装もきらっと華やいで見えました。
それから怪我で舞台から離れていらした杉野さんの、全体に目を配る儀典長の存在感も光り、少しずつ復帰してくださいますように。
オデットや白鳥達の頭飾りの向きが後ろ側に向いていてよく見る形とだいぶ違っているのはきっと理由があるのでしょう。
湖畔の場面だったか、ロットバルトのお腹の素肌が見える点も含めて 色々疑問が沸いており、
詳しい方や熊川さんの過去のインタビューで知識を得られたらと思っております。
羽が立体的にたっぷり付けられた、黒一色ではないチュチュの作りも独創的なオディール衣装はデザインに負けてしまいそうな、着こなしが難しい衣装ですが
今回の日髙さんも、前回観た松岡さん共に一層姿がゴージャスに映えて、主役オーラの輝き十二分でした。

振付が詰め込み急速テンポ過ぎに見える箇所もあり、白鳥達はチュチュ派であるため
好みにぴったりと嵌まる作風では決してありませんが、しかしまた観たくなる魅力を感じており
次は17年と時間を空けず笑、再演も足を運びたいと思っております。















秋公演『ドン・キホーテ』衣装も展示。バルセロナに行ったことがある親族曰く、熊川さん版はどの版よりも街並みを忠実に再現しているとのことです。










頭飾りも凝っています。







帰りはオーチャード向かいのお店にて、ドイツビールで乾杯!緻密な紋章なラベルもじっと眺めてしまいます。
肌寒い日でしたが、美味しくいただきました。



ウォッカもあります。

2 件のコメント:

aruyaranaiyara さんのコメント...

昔は、女性ダンサーにしか観てませんでしたが。
管理人さんの話を伺う内に、段々と男性ダンサーにも視線が向かうようになりました。
熊哲さんは王妃に泣き縋るタイプではなかった記憶があります。
豚骨ラーメンは、基本、細麺バリカタです。

管理人 さんのコメント...

aruyaranaiyara様

こんばんは。大変お待たせいたしました!
ご感想と熊川さん王子の造形についてもお寄せいただきありがとうございます!
泣き縋るタイプではなかったご記憶とのこと、今回の白鳥を思い出すと納得です。

そして豚骨ラーメンの硬さについてもありがとうございます!
細麺バリカタ、基本なのですね。
また食べたくなってしまいます〜。