2023年8月20日日曜日

優美典雅な『ライモンダ』と大木満里奈さんのヴァリエーション  令和5年度全国合同バレエの夕べ   8月11日(金)




8月11日(金)、令和5年度全国合同バレエの夕べを観て参りました。
意外と思われるかもしれませんが、伝統あるこの企画公演の鑑賞は初でございます。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/r5zenkokugoudouballet/

バレエ協会の全国各地の支部が東京に集結しての公演で、第一線で活躍するプロと上手なアマの境界線が混在曖昧な様子も魅力なのかもしれません。
発表会ではなく最安値席でも4000円はする公演であり、また私は公演の関係者でもなければ親族身内でもありませんから
見る側として目をそれなりに尖らせておりましたが秀作と唸らせる作品もあり、予想以上に楽しめた印象です。
(そもそもバレエ協会とな何ぞや、とは昔からの疑問ではあるが)

特に面白味があったのがまず中部支部の川口節子さん振付選曲『マダム・バタフライ』。元のオペラはオペラ通では全くない私でも知っている作品であり、
近年バレエではKバレエカンパニーの再演による練り直しが好評であったのは記憶に新しいところ。
川口さんがいかにして1幕物の舞踊として振り付けされたか想像がつかずにおりました。
音楽はプッチーニのオペラ曲やロベルト・シューマンの曲も取り入れ、蝶々夫人がピンカートンとの別れの場面における心理に焦点を当てた作と捉えております。
オペラにしてもKバレエの熊川さん版にしても、別れや命を絶つ場面は本来は残酷な行為でありながらも生々しくなり過ぎないように演出されている印象がありましたが
川口さん版は正反対。ピンカートンが他の女性と結婚した現実を突きつけられた蝶々夫人は大きなショックを受けるも
それでも尚思いを訴え、ピンカートンにしがみ付きながら、時には上着をずり降ろすほどに力強くもがきながら重たく引き摺る情念を露わにして
響き渡る波の音も心の虚しさを膨らませ、蝶々夫人の内面に宿る憎悪や恨みをも時間をかけ、抉り出すように描き出していました。
オペラですとここまで生々しくは描かず、見捨てられても一途な思いを貫く健気な面に重きを置いた描写であろうと思いますが
考えてみれば夫が子供も置いて別の女性のもとへ行ってしまった、復讐心を募らせてもおかしくない展開なわけですから、川口さん版の演出にも大いに納得です。
2人を隔てる海を群舞で表す手法や振付も効果をもたらし、抗えない距離感、大海原が眼前に出現するとどうにもできぬもどかしさや悔しさを後押し。
蝶々夫人は川瀬莉奈さん、ピンカートンは市橋万樹さんで、重たい悲しみを背負いながら息詰まる修羅場を造形されていました。
スズキ、息子、ピンカートン夫人も配され、蝶々夫人の心理をより浮かび立たせるように静かに関係性や状況を明示。客席の集中度の高さも肌を伝う秀作でした。
川口節子バレエ団の定期公演では創作も積極的に上演しているようで、興味を持つきっかけとなりました。

もう1つは東京地区岩田守弘さん振付『ライモンダ』。歯切れ良い序曲が流れ幕が上がると出演者全員が集合した光景をまず観客に見せ、壮観さは抜群。
鑑賞前は3幕をほぼ丸々上演かと思いきや、グラン・パ、クラシック以外の方々の衣装を見るとチャルダッシュではなさそうで
もしやと思ったら1幕のグラン・ワルツを組み込み、ライモンダが踊るピチカートはカットしてそのまま続きのワルツ、その後はグラン・パ・クラシックへと繋がっていく演出でした。
『眠れる森の美女』でいうオーロラの結婚、『コッペリア』でも1幕のマズルカを取り入れた結婚式の『ライモンダ』版といった演出でしょう。
チャルダッシュ無しは少々寂しく感じたものの、世界で最も好きな1幕のワルツを目にできると思うと
こちらのほうがお披露目機会が滅多にない場面ですから胸が高鳴りっぱなしでした。
ワルツは膝丈のチュチュで花のロープな小道具もあり、優美で典雅な趣を重視した振付であった印象です。

グラン・パ・クラシックはライモンダが蛭川騰子さん、ジャン・ド・ブリエンヌが清水健太さん。
蛭川さんは所属の国際バレエアカデミアで拝見したことはあれど、今回は透明感と艶やかさのバランスが絶妙に合わさった美しさと端正な技術で魅了。
白地に大きな模様が描かれた衣装や豪華な頭飾りも絵になるお姿でした。
清水さんはまずまず騎士に見え(失礼、抜粋でも重視してしまう私です汗)、カチッと折り目正しく厚みある踊りも好印象。
そして今回初台に来た最大の目的、来期から新国立劇場バレエ団に入団される大木満里奈さんのヴァリエーションが絶品で
長い手脚のコントロールが美しく、脚捌きの切れ味や角度の示し方も惚れ込む味付けで魅せてくださいました。
グラン・パ・クラシック後に披露される、お馴染みのカエルぴょんぴょこな振付の踊りで
お1人で踊っていても舞台が一気に狭く感じられ、それだけ空間の取り方の大きさや見せ方を心得た踊りだったからこそでしょう。
先日届いた会報誌アトレに新入団員インタビューが掲載され、ラ・バヤデールがとてもお好きな作品とのこと。
3幕では影コール・ドに入ったとしても、すぐに見つけたい心持ちでおります。
大木さんを最初に注目したのは2021年3月、バレエ協会のクラシックとコンテンポラリーの眠り2本立て公演にて2日目の古典眠りにて
リラの精を気高くダイナミックに踊られたお姿は忘れられず。この公演ではコンテンポラリー眠りではカーテンコールは撮影可能で、
訳あって2日間とも1階最前列で観ていた私は後頭部から執念を発しながら撮影していたと後方席にいた知人に指摘された思い出がありますが汗、
もし2部古典眠りも撮影可能だったならば、大木さんを懸命にカメラに収めていたに違いありません。

グランパの精度も高く、全体の技術は大変良い仕上がりでした。コーダの後に賑やかギャロップも入り、
ワルツ陣も出演。更にアポテオーズも付いて壮麗優美な幕切れとなりました。
2点欲を申すならグランパ女性の衣装が黄色や黄緑も含まれていて一見『ラ・バヤデール』パ・ダクションな色彩デザインであった点と
頭飾りがドロップ型輪っか1つで、もう少し重厚なティアラもあれば良かったかと観察。
公演前に劇場レストランマエストロにて初めてインドカレーをいただいたせいもあるかもしれませんが中世フランスの宮廷には感じづらかった衣装デザインでした。
もし胸元が平たいカットであれば中世の時代性(中世と言っても長い期間に及んだが)はより前面に出たかもしれません。
岩田さんの振付と知ったときは、長くボリショイで活躍されたキャリアからしてグリゴローヴィヂ版のような勇壮堅固な雰囲気を色濃く出すかと思いきや
優美典雅な路線であったのは意外でしたが、品ある纏まりと華やぎのある『ライモンダ』抜粋でした。

関東支部の松下真さん振付『アルル』は柔らかなチュチュの女性と上下黒で整えた男性も絡むクラシカルな作品で
関西支部の磯見源さん振付Woman et femme à nouveauxは女性のみで踊られる暗闇から繰り出すパワーに包まれたコンテンポラリー。
ミストレスと出演者名に、2009年大阪のKバレエスタジオ公演にて矢上恵子さん振付『カルメン』にて
虐待を受けた設定の幼少期の歪んだカルメンを踊られた衝撃が今も脳裏に残っている桑田彩愛さんのお名前があったのも嬉しい発見でした。

東北支部の『コロンバイン』は一昨年新国立劇場バレエ団Dance to the  Futureにて上演された、
当時は団員として在籍されていた高橋一輝さんの作品で男女ペア6人に子供のアンサンブルを追加。少々長いかなとも思えたものの、
くっついたり離れたりして展開を見せていく振付やレトロ調な衣装が風に吹かれ雨に打たれながらもしぶとく咲く花々に見えました。
甲信越支部の『畔道にて~8つの作品』は金森穣さんの演出振付。パッヘルベルのカノンやホフマン物語の舟歌等聴き馴染みあるクラシックの名曲を繋げ
群舞が道なりを描きながら進行。金森さんの演出ノートによれば新潟市洋舞踊協会から依頼を受けて新潟の子供たちのために作った完全オリジナル作品とのこと。
郷愁感や懐かしさがふと込み上げてきそうな構成で、暗闇からであっても瑞々しさが放出されていくと見て取れました。
終盤、井関佐和子さんと子供が出てくると雰囲気は一変し、厳かさのある空気を押し上げ包み込まれた気分になったものです。

観客の大半は関係者と思わしき層で、当日券売り場も簡素なセッティングでしたが、
各地からの作品の中でも思いがけず面白い作品との出会いもあり、新国の中劇場であった為2階席からも観易く、堪能いたしました。



公演前に、早めに着いて知人と昼食。マエストロでは初めてビールで乾杯。



ランチ限定のバターチキンカレーを初めていただきました。そこまで辛くはなく、しかししっかりスパイシー。パクチーも少々のっています。



涼やかなパンナコッタ。


帰り、毎度のオアシスで白ワインで乾杯。あちこちの劇場でお目にかかる常連さんと3名で
何故だか地元の高低差地形や坂の話題となりタモリさんにお越しいただきたい自慢な内容から、暫しお盆時点での夏の総決算です。
全国合同バレエの夕べは初鑑賞である旨を申し上げると驚かれ、新国立に入団される大木さん目当てに来たことついても伝えました。
カウンター角には千葉ロッテマリーンズのマーくんと幕張の海に住む謎の魚とされるキャラクター。
あれ、MarinaさんとMarines、並びが似ている気がするが気のせいか。
3名とも何かしら鑑賞梯子する日々で、お1人は身体が2つあるとしか思えぬ回数を短期間でご覧になっているご様子!
複数の公演が短期間に集中して客の奪い合いが起こり、特にガラは飽和状態になった今夏の東京でございます。
私は今夏のガラはオペラ座ガラ、ウクライナ国立、アステラスの3本行きましたが3本全て、目の前の列や左右が10席以上空いている客入りでした涙。
ウクライナ国立やアステラスはプログラム内容も良かっただけに心残りでございます。

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