6月10日(土)〜18日(日)、新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』を計5回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/swanlake/
※速報でもないが記事と被る部分もありますが悪しからず。
6月10日(土) 14:00
オデット/オディール:米沢 唯
ジークフリード王子:福岡雄大
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、飯野萌子
ハンガリー王女:飯野萌子
ポーランド王女:根岸祐衣
イタリア王女:奥田花純
6月14日(水) 13:30
オデット/オディール:吉田朱里
ジークフリード王子:渡邊峻郁
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:小柴富久修
ベンノ:中島瑞生
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):廣川みくり、広瀬碧
ハンガリー王女:中島春菜
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥
6月17日(土) 13:00
オデット/オディール:吉田朱里
ジークフリード王子:渡邊峻郁
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:小柴富久修
ベンノ:中島瑞生
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):廣川みくり、広瀬碧
ハンガリー王女:中島春菜
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥
6月17日(土) 18:30
オデット/オディール:米沢 唯
ジークフリード王子:速水渉悟
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、飯野萌子
ハンガリー王女:飯野萌子
ポーランド王女:根岸祐衣
イタリア王女:奥田花純
6月18日(日) 14:00
オデット/オディール:小野絢子
ジークフリード王子:奥村康祐
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):奥田花純、池田紗弥
ハンガリー王女:廣川みくり
ポーランド王女:直塚美穂
イタリア王女:赤井綾乃
米沢さんのオデットは登場時から腕や背中にかけて背負う悲しみが伝い、
水面がすっと揺らぐように音楽と静かに呼応しながら切々と訴えてかけてくる嘆きに震え思いがいたしました。
ヴァリエーションでの全身を隅々深々と操りつつも力みのない美しさ、空間を大きく使っての削ぎ落とした踊り方にも目を奪われ、じっと観察。
福岡さんは序盤から風格がある立ち姿で一見王位に就く準備は整えていそうな姿からは想像つかぬ、弓を貰って嬉々とする様子に内側に潜む幼さを覗き見た気分。
普段ベンノ以外の前では気を張っての生活続きであろうと思わせます。
以前の記事でも触れた通り、お2人の間から生じるドラマティックな情感が心を誘い、
技術は万全盤石である状態を超越して特段派手なことをしていなくてもじんわりと通わす熱が高まり
特に4幕での引き裂かれそうな苦しさをかちっとしたポーズは維持しつつも全身で深々と歌い上げたり
互いを慈しむような抱擁といい、しみじみとした味わいがあった印象です。
小野さんは他人を寄せ付けない近寄らせない威厳のあるオデットで、心を開かせるのにだいぶ時間を要しそうな高嶺の花。
水晶を思わせる硬質な魅力を秘め、今回観た中では最も女王然としていたヒロインでした。
しかし決して冷たいのではなく、ふと見せる表情に儚さが宿り王子を完全拒絶せず少し隙を与えている姿に吸い寄せられます。
オディールは明快な悪女であった前回とは方向を変えてにっこりとした晴れやかさからの弄るような恐怖感を見せ、これはこれでおお怖し。
速水さんは意外と言ったら大変失礼なのだが、最初からきっちり王子な出で立ちにまず驚き。
いたく思い詰めた様子で、ベンノに呼ばれたからどうにか出てきたが心は空虚なままである様子や
王族の身分に恥じない実直な人生を送ってはいても不安真っ盛りな雲行きが怪しい内面と見て取れ、
開演してから期待度が高くなった次第です。(失礼極まりない客である)。技術も安定し、以前よりも全体の余韻が大きくなった印象でございました。
特に面白かったのは3幕で、まず米沢さんオディールが大攻めで、但し派手な事はせずとも摩る魔力や繰り出すお手本のようなポーズの連鎖に首っ丈になる踊りで魅了。
ふとしたところで肩をしならせたり、アダージオが終わり、捌ける前にそっと王子に触れて艶かしい感触を残して立ち去って行き
4階隅で観ていた私や近場の観客も思わず呻き声を出しそうになったほど。速水さんが触れられた手を見つめて戸惑う反応を細かく表していて、
例えるならばジーパン刑事の王族版と言ったところでしょう。(お若い世代の皆様、ご自身でお調べください)
アダージオでのスケールの大きさも十二分で2人が醸すものがみるみると増幅し、
思えば双眼鏡を余り用いていなかったと記憶。それだけ迫り出しの強さがあるアダージオだったのです。
速水さんのようやくのジークフリード王子デビューで周囲も盛り上げていた点も効果をもたらしていたとは思いますが
オディールが仕掛けては王子が罠に嵌っていく展開にパワーが宿って何十にも重なり
圧迫感のある装置に囲まれていても目に飛び込む迫力があったのは間違いありません。
奥村さんはどこかやさぐれ感ある、世の中を冷めた目で見つめるような表情での登場から国王である父親の死以降、投げやりな生活を送ってきたのであろうと想像。
ベンノがあれやこれや切り出してもなかなか反応を示さないのも納得で、人生の過渡期真っ只中と窺えます。
前述の通り小野さんオデットが誰も寄せ付けない雰囲気を湛えていたため慎重に近づいていて、
オデットとの出会いやアダージオも一見淡々とした安全運転に見えかけたときもあったものの
振り向かせるだけでも難攻不落そうな姫ですから、時間をかけてじっくりな愛の育みであったと推察。
その分、4幕では何もかも振り切ったように決然としたパ・ド・ドゥで心の寄せ合いが伝わり、身を投げる最後は大加速しての幕引きに思えたのでした。
2016年『シンデレラ』池田理沙子さん以来約6年半ぶりに女性の全幕主役デビュー者(長かった)となった吉田さんは
純粋無垢で清純なオデットとして鮮烈に登場。つい高い背丈や手脚が長い点ばかりが注目されてしまいがちですが、単にプロポーションが良いだけではなく
変にくねくねとした動きが皆無であくまですっきり滑らかなフォルムを描きながら踊っていた点にも息を何度も呑みました。
とにかく透き通るように繊細で美しく、登場してバランスを取った瞬間から私は吉田さんのオデットが好みだ、と繰り返し心の中で唱えていた管理人でございます。
初心な部分が残る姫であったのも今だからこその魅力で、まだ重たい悲しみを背負っているよりも
事態を呑み込めずにいるまま白鳥に変えられて間もない頃で、王子に救いを求めているのであろうと勝手に推察した私でございます。
オディールは毒盛り悪女ではなく何処か可愛らしい面を持ち合わせ、ロットバルトに対して素直そうな姫。
王子がのぼせている間にパパのもとへ行き、次の作戦指示を仰ぐときの可愛らしさよ笑。(そしてベンノと儀典長の心配も最高潮になった構図が面白かった汗)
ただ踊り方はダイナミックな美を放っていて、空間移動も大きく爪先が随分と遠い場所に、されどコントロールはしっかりできていて
怖かったり愛くるしかったりと王子を狂わす誘惑も十二分。オデットと同様に大事に触れたくなる王子の気持ちにも頷ける姫でした。
※以下まだまだ続きます。英国ロイヤル祭りで既に疲労困憊な方、ロミジュリ東京後半戦に体力温存なさりたい方は後日どうぞ。
渡邊さんは前回2021年よりも作品の中で幼い部分と成熟した部分の対比がより色濃く描き出されていた印象で
冒頭の葬列での将来を案ずる引き裂かれるような表情での重たい歩みからの1幕の登場では
頭から脚先まで動き方に乱れがなく格式ある王族な佇まいながら心は不安で一杯そうな
まさに父親の葬儀を終えて間もない感が漂い、プロローグからの流れに違和感がなく思えました。
中島さんベンノと並んだときの、太陽に対して月のような翳ある雰囲気もしっくり。
王子お気に入りの監督椅子(よく映画監督やプロデューサーが撮影中に座っていそうな折り畳み式椅子の黒色堅固版といった作りのためこう呼んでおります)に腰掛けても
休憩中にならず、友人達を眺めているときのすっきりした顔からふと鬱屈そうになるときの変化もぶつ切りにならず
前回以上に常に円を描くように自然な流れで心理を描写されていて、暗がりが少しずつ差し込んでいく空模様を刻一刻と微細に醸していらした印象です。
椅子に立て掛けた弓がいつも気になって触れては嬉しそうにしていたのも、まだまだ仲間と遊びたい
男同士で気兼ねなく出かけたい盛りなお年頃と見て取れて微笑ましいひと幕。
3幕での花嫁選びのやる気ございませんたる姿もベンノの前では露わで、
押し寄せる大使達や使節団の圧に耐えつつ取り繕うも、つい本音がポロリと出てしまう、心許せる愛おしい存在と再確認でございました。
今回ようやく気づいたのが3幕にて、登場後玉座への着席を拒否する王子のために、ベンノがわざわざ王子お気に入り監督椅子を持ってくる経緯があった点で
ベンノは宮廷の物置まで把握しているとは驚きで、それだけ常時出入りしていて内部見取り図も頭に入っていると推察。
そして王子はどれだけ椅子がお気に入りなのだ笑。職場でいう、席替え時や引っ越し時に椅子を取り替えたくなけえば名前書いた付箋を貼っておくイメージであろうかと
私自身実際に行っている状況を(職場で使用の椅子、漢字で付箋に姓名明記してセロテープで貼り付けております汗)重ねたのはさておき
堅苦しさや王室からの束縛を拒否したい王妃から離れたいせめてもの意思表示なのかもしれません。
しかしいざオデットではなくオディールヘ愛を誓ってしまったと発覚した直後に駆け寄るのはママの元。皮肉なものです。
全編通して重厚な装置に負けぬ、品格と厚みの双方宿る踊りにも脱帽で1幕の憂鬱なソロのいよいよ暗闇が忍び寄ってくる感傷を帯びていて
柔らかくもすっと抜けるようなしなやかさもあり
3幕ソロは張りのある跳躍やきりっとした見せ方、オディールにのぼせた喜びを品良くも高らかに、
ベンノ達の心配から逆行しての歓喜の飛び散りようを全身で表していました。
今回最たる驚きであったのは吉田さん渡邊さんのペアの魅力で、当然未知数だったわけですが
渡邊さんが吉田さんのフォルムの美しさを引き立てる術や、パ・ド・ドゥも音楽と連動して呼吸も合い、
初心でピュアな姫と成熟した王子でおとぎ話の絵本捲って現れたようなお2人が出現。
ライト版は全体が暗がり覆う色彩や重厚な美術装置が特色ではあれど、2人だけは場面にもよりますが
何処か水彩画な色彩美も放っていて、それはそれは高純度な物語が成立していたと捉えております。
また2人の語らいがしっかり見えていたのも大変響き、出会ったときの逃げ惑うオデットと追いかける王子の鼓動や
白鳥達を前にするとリーダーとして君臨し、弓矢で打たないよう懇願するオデットの強さと、
願いを受け止めて恐ろしい形相で友人達に立ち去るよう命じる王子の豹変等やりとりの流れも実にスムーズ。
2幕の肝であろうアダージオも吉田さんの伸びやかな四肢がしっとりと訴え、そして背が非常に高いはずの吉田さんが
すっぽりと渡邊さんに包み込まれていた印象も潤いで満たされ、今まで組んだどの女性よりももしかしたら背丈のあるパートナーであったとは思えず。
どの瞬間も吉田さんの大きく優雅なフォルムが立体的に羽ばたくように見せる渡邊さんの愛情深さや
安全且つ最大級に魅力が開花するよう、そして渡邊さんご自身も美しく見えるよう
立ち位置やタイミングを考え抜いての職人級のサポート術に今回ほど天晴れと思ったことはないかもしれません。
静謐でゆったりとした曲調の中で、音楽をたっぷり使いながら粗も冗長さも一切感じさせず
ただ綺麗なだけでなく信じ合う心の近づきも響き合い描き出されたアダージオでございました。
4幕のライト版名物のパ・ド・ドゥも、重たい悲しみの中でも静動のメリハリが富んでいて、
オデットが身体を思い切り斜めに引き伸ばしてからの高速回転させての瞬間抱え込みもダイナミックに展開させ一瞬一瞬の動きがいたく大きい絵と化。
最後、覚悟を決め先に湖へと飛び込んだオデットにはもう初心さもなく、
遮るロットバルトへの憎悪が猛々しい王子の後追いの呼応も凄まじく、劇的な幕切れへと繋がっていた印象です。
前の速報でもない記事でも綴りましたが吉田さんは何度か代役や抜擢でソロの役は当てられた経験はあれど、
2021年入団のまだアーティスト階級(コール・ド)ながら本番まで1ヶ月切った段階でプリンシパル代役として登板での全幕主役デビュー。
更には重厚な趣が前面に出た大作の主役で、眠りやドンキのような皆ににこやかに出迎えられる登場場面も無し。胃に穴があきそうな重圧あったのは想像に難くありません。
しかし2日間鑑賞すると清純なオデットも、パパを慕う可愛らしくちょこっと悪女なオディールも、特に2回目には相手と美しく語り合えるまでに大成長。
身体も感性も素直で吸収力がありこれ以上にないくらいに練習を重ねたであろう吉田さんの努力は勿論のこと、
不安や心配が塵1つ残らぬよう拭き取って安心感を与えながら主役デビュー成功へと導いた上に
自身の役どころも万全にこなした渡邊さんを吉田監督、褒めちぎってくださっていることを願います。
新主役誕生や、17日夜公演カーテンコールに吉田都監督が登場して舞台上での速水さん柴山さんプリンシパル昇格発表がどうしても華々しく報じられがちですが
弓が気になる幼さからの恋の目覚めから最後決死の兜投げまで、王子としての心理描写や基盤を整えつつ吉田さんを支えた渡邊さんこそ大功労賞に値するご活躍でした。
そういえば最後のロットバルトから奪った兜投げといえば、王子の皆様投げ方は任されていたのかそれぞれ異なり
両手でスローインもあればボウリング、フォークボールもあったか。
特段ユニークな投げ方であったのが2回目の渡邊さんでソフトボールっぽく下側から投げたと思われますが飛距離が伸びず汗
ゆったりと縦型の放物線を描いたのちにあろうことかぎりぎり白鳥達の後ろ側あたりの半端な場所に落下。
飛んできたファウルボールを近くの観客がメガホンを上に向けて手に待機して見事すっぽりゴールさせた、
私が嘗て神宮球場で居合わせた事態を彷彿させたのも束の間、殺気立った表情で果敢に奪い取ったまでは勇猛な立ち向かいであったのに
兜が白鳥達に激突したらどうなっていたであろうかと考えると可笑しくなってしまったのは目を瞑ってやってください。
吉田さんの抜擢については意見様々で、主役経験豊富なプリンシパル木村優里さんの代役である上、新人のサポート尽くしで大変そうであるから
渡邊さん好きな側からすると今回不満ではないかと聞いてきた方もいらしたのですが、私としては一切なし。
30代半ばに差し掛かる頃にはパートナーのデビューの支えと自分の役どころ両方こなす力量を問われ
こういう役目も巡ってくる気がしておりましたし、(しかも両方こなせる結果を出した!ファンとして誇らしい!!)新人指導に向いていそうな予感もしましたから
寧ろ私としては嬉しい組み合わせにも思えた次第です。このペアならではの清らか高純度な空気感、たいそう好みでした。
山本隆之さんも現在の渡邊さんのご年齢の頃、寺島まゆみさんの全幕デビュー『くるみ割り人形』マーシャや
本島美和さんのマーシャ、さいとう美帆さんのジゼルといった役デビューの心強いパートナーをなさっていて、色々思い起こした私でございます。
ロットバルトも個性色々で、中家さんは太く切り裂くような豪胆なおっかなさが噴出。目をカッと見開いて湖畔の覇者のような登場で脅かし、
王子を遮るときも全身から発する剛力でねじ伏せるように圧力をかけての封じ込めで恐ろしさを強調していました。
毎度思うが、中家ロットを倒せる王子がいるのか2幕の時点では疑問なわけで
しかし演出上の都合とはいえ断末魔に襲われるように苦しみ悶える最期に、
強力なロットバルトであっても抗えないオデットと王子の愛の力の存在に気づかされるひと幕でございます。
3幕では帝王を思わす貫禄で、オディールとの共謀作戦も、適宜出す指示もおどろおどろしい魔力が炸裂。
カーテンコールでの、兜を外してニッと不気味且つ愛嬌ある笑みを浮かべながら去って行くサービスには笑わされました。
小柴さんは一直線に怖いとはまた異なる摩訶不思議な風貌で、何者であるのか知りたい衝動に駆られるロットバルト。動き方が鋭い時もあれば
突如まろみと品ある仕草もあったりと緩急が引き立ち、男爵と明記された旨をふと思い出させる造形でした。
3幕は子煩悩なパパの魅力全開で、吉田オディールが初々しくパパを慕っていたこともあって毎回指図も優しく
王子がのぼせている間に笑、今のうちに囁きにいくよう助言や所作も丁寧で愛情たっぷり。
きっとオディールも舞踏会デビューだったのかもしれません、パパに促されると自信を持って王子に擦り寄り、一段と堂々と黒さを放つ娘と化していたのでした。
ベンノも性格様々でベンノに始まりベンノで終わる演出ですから、オデットと王子と同様主役といっても過言ではない重要役でしょう。
木下さんは敏腕マネージャーといった頭脳明晰で動きにも一切無駄のない 現代でいう、大企業のCEOのすぐ横に常時いる秘書のような存在で、既に王としての未来が見えかけている貫禄ある福岡さん王子には仕える、
まだまだ遊びたい盛り甘えたい盛りな笑、奥村さん王子には面倒を見る様子でアプローチを変えていた点にも拍手でございます。
宴の仕切りも出過ぎずされどここぞというときにはすぐさま案内を行い、雰囲気が重たくなったときの王子の機嫌を晴天へと変えようと導いて行く行動
どれも説得力を持たせ、かといって夏場に体育館に臨時設置される巨大扇風機のようにただブンブンと換気するわけでない、
場の空気や王子の心の内を自在に細やかに読み取り上昇気流に乗せる術に長けた、多機能装備の人力高性能空気清浄機な働きでした。
加えて踊りも盤石でテクニックも冴え渡り、明るい語りかけもぐっと引き締め度も抜群で、どの舞台でもいえますが
木下さんの舞台から粗を探すのは繁華街で落としたコンタクトレンズの捜索よりも困難そうです。
中島さんは心優しいお友達か幼馴染といった様子で、ほんわか優美な穏やかさで心を寄せているベンノ。
宮中の人前では機嫌を保ってはいてもベンノの前ではとことん本性露わにして不機嫌なときは誰も寄せ付けないオーラすら発する
そんな王子にどんな不機嫌な顔をされても常ににこやかに包む対応力及び精神力の強さ、寛大さが感じられました。
それだけ宮廷の生活が窮屈で、ベンノが心の拠り所であり唯一心を開ける存在だからこそと渡邊さん王子との関係性から見て取れます。
一昨年の長野県上田公演は未見のため中島さんベンノは初鑑賞でしたが、
中央の絵を邪魔しない崩さない身の置き方や行動に配慮が行き届いていて、花嫁候補選びにしても1幕のお見合い肖像画の並びを前にしたときも王子に懸命に勧めつつも
行き過ぎた行動は取らない匙加減が絶妙。王子がオディールにのめり込んでいるときは儀典長と共に本気で心配しやめるよう催促の信号を送っていたり
加えて宮廷の文化に育まれた感のある品の良さもあって、とても好感が持てる造形でした。
以前はだいぶ冷や汗ものであった踊りも(失礼)、非常に安定感が増して張りも出てきて宜しうございました。
花嫁候補として登場する三ヶ国の王女達も花が咲き競い、ほんわかな印象ある飯野萌子さんがハンガリー王女での視線や腕の色っぽさにもゾクゾク。
中島さんの、ソロでの登場してすぐの両腕を音楽をたっぷり使って王子にアピールしながら広げてのハンガリアンポーズからして自信たっぷりで艶やかで
前回よりも押しの強さも踊り全体に出ていて、新風直塚さんポーランドの強靭な軸と広がりのある踊り方や高い跳躍移動も衝撃ものでした。
3王女の似たり寄ったりながら渋めのゴールドで揃えた重厚な膝丈チュチュ衣装デザインも好きで、特にハンガリーは赤い宝石を散りばめた冠で頭を覆う作りも気に入っております。
民族舞踊では赤井さん池田紗弥さん小野寺さん佐野さん組のナポリにおける花火大会の如き弾け散る光り具合や
ソロではひょっとしたら初役の関優奈さんチャルダッシュの堂々とした衣装捌きも見事。
戻りまして、2羽の白鳥は花形さんの歌い上げるような身体能力の高さや躍動感の強さ、
中島さんのバネのあるしなやかさ、金城さんのすらっと伸びる長い腕が翼に見える羽ばたきも目に刻まれ
オデット不在時のリーダーとして湖畔を守っていたであろう纏め上げる統率力も良き印象でした。
白鳥コール・ドの1人1人の芯が感じられる統一感も毎度うっとり見入り、
隊列が次々と変化する場においても移動や配置に無駄がなく誇り高さを思わす美の連鎖。
4幕の霧の中から徐々に現れる幕開けの幻想性や、変わって集団で固まりながらロットバルトを追い詰める鋼のような強さも
観る度に息するのも忘れかける集中をもたらす美しさです。1幕のシルバーグレーで纏めた
曇り空によく調和しつつもきらりとした品が光る男女のワルツも格式高さがあり、堅固な調度品や立派な葡萄が置かれた食器も気に入っております。
国葬から始まり、喪に服した設定の鬱屈した趣ある特徴は最初なかなか好きになれませんでしたが
一昨年の公演期間途中あたり、つまりは渡邊さんの登板以降は好きになり、但し王子がよほど表現達者でないと場が持たない難しさがあると再確認。
3幕の壮麗重厚な装置衣装の圧迫感も、大応援団率いての王女達の登場も王子の重圧に一層試練与える効果もあり。
繰り返されるファンファーレの唐突な連続に最初は正露丸の宣伝垂れ流しと思えてならなかった私も
王子こそ国運を担わされ体調がおかしくなりそうな状況で早う飲ませねばと勧めたくなったのはさておき
オディールを見つめるときの絨毯の寿司詰めな状態と化す堅固な壁はオディールへの敵意強まりも思わせ、ただ豪華にしただけではない説得性が感じられます。
連日完売或いはほぼ完売な売れ行きで、初演時より団の総合力も大幅に高まり、公演中止日も無し。
波乱の連続であった今シーズンでしたが、思い残すこともありますが(二・二三事件は生涯忘れませんから)、無事に大入りで終了。
シーズン締め括りに相応しい公演で幕を閉じました。
※英語版新国立劇場インスタグラムにも舞台写真掲載。特に4枚目、吹っ切れて勝利確信な吉田さんオディールと、
その手に顔を乗せて温泉に浸かっているかの如く幸せで気持ち良さそうな渡邊さん王子にご注目ください。
改めてのマエストロ14日振り返り。吉田さんと渡邊さんのサインの並び、新鮮!清らかで美しいペアでございました。
刷り直されたチラシ。
桐生のハムロールといった名称だったか、胚芽パンにチーズもたっぷり挟まっています。赤ワインともぴったり。
この日は暑かった、夕刻前のビール。
他日に再びマエストロへ。前菜は海老と帆立貝のカクテル。大きなお皿に迫力です。
サーモンとパプリカ ケッパーのアーリオオーリオパスタ。塩加減丁度良く、ワイン進みます。
氷温熟成黒豚のソテーレモンソース。ぎゅっと旨み凝縮、そして後味さっぱり。
彩りが14日と異なりラズベリーやキウイが入ったメロンのスープ仕立てとドライシェリー。お洒落な組み合わせ!
ライト版白鳥を観ると、ギネスビールが飲みたくなります。再演時も大人は黙って毎度のオアシスで黒ビール。
入団2年目にして、プリンシパルの代役での全幕主役デビューしかも重厚な大作であるライト版『白鳥の湖』オデット/オディール役に挑む吉田さんが不安を抱かぬよう、
誠心誠意尽くして心配事を塵1つ残すまいと拭き取っては道標を照らし、魅力を引き出してくださっていた渡邊さんの功績は非常に大きく
加えてご自身の役どころも万全にこなされて、王子の心の移りようも陰陽自在に事細かに描画。
虜になって良かった、心から誇らしいと再度思えた2022/2023シーズン最終演目の公演でした。
虜になった最初の半年、2017年年始から6月下旬にかけては季節は過ぎてもヴァレンタイン・バレエだの、双眼鏡目に押し付けてコッペリア衛兵さん探しだの
ベートーヴェン・ソナタでは私が1番好きな交響曲第7番2楽章に配され、レントゲン風な衣装や福岡さんの後方で眩しがる振付が面白いだの
眠りは全幕であっても全日出演しかも日によっては1公演の中で寺田亜沙子さんとも組んでのプロローグカヴァリエ、韃靼風なロシア王子、ゴールド、とトリプルビル状態で
そうかプリンシパルではなくソリスト好きになるとこんな楽しみがあるのかああ万歳!だのこっそりときめき応援していたはずが
2017年6月25日の『ジゼル』を境に周囲に事情をボジョレー並みに大々と、とは当然いかず
何名かずつに徐々に解禁してからちょうど6年経ちました先日の6月25日。
まさかご本人と同じスタジオの中に立つ日が到来するとは6年前当時は知る由も無かったわけですが、
本記事をアップした頃には再びのズンドコドッスンを既に管理人は行った頃でございます。
それはまた後日。
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