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2021年12月1日水曜日
未公開新作から成熟したシアタージャズまで 新国立劇場バレエ団 DANCE to the Future: 2021 Selection 11月27日(土)28日(日)
11月27日(土)28日(日)、新国立劇場バレエ団「DANCE to the Future 2021 Selection」を観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/dtf/
※キャスト等は新国立劇場ホームページより
【照明】眞田みどり
【音響】仲田竜太
【Choreographic Group アドヴァイザー】遠藤康行
第1・2部 新国立劇場バレエ団 Choreographic Group 作品より
『Coppélia Spiritoso』
【振付】木村優里
【音楽】レオ・ドリーブ 他
【出演】木村優子 木村優里
木村優里さんの振付デビュー作で想像力の逞しさが光り、W木村で初披露。一見可愛らしくもコッペリアの奇怪な部分に焦点を絞り
明かりを抑えめにした空間に置かれたテーブル上の砂時計が不気味に流れ
横に座って読書をしていた木村優里さんが未完成の人形を組み立てようと奮闘するところから始まりました。
テーブルの下からクロスが動くともしや木村優子さんが隠れているのだろうかと、仕掛けにわくわくとさせられ、冒頭から想像を掻き立てられます。
木村優子さんが瓜二つまではいかずとも目がぱっちりとした可愛らしい表情が何処か似ていて、時には滑稽な踊りも見事にこなし
木村優里さんの独創性豊かな感性を受け止め体現する力量にまずびっくり。私の解釈力不足で細かな設定までは理解できずであっても
2人がお揃いに近い白いブラウスのふわりとした形状のワンピースを(木村優子さんはスカートの骨組みが装着したユニークな形。説明下手で失礼、ポスターご参照を)
着用してスワニルダ登場のワルツを踊る姿が、慌てふためいたり膨れっ面になってもとびっきりキュート。
コッペリア裏側ドラマのような趣きもあり、明暗の変化もくっきりと描いた面白い作品でした。
『人魚姫』
【振付】木下嘉人
【音楽】マイケル・ジアッチーノ
【出演】米沢 唯 渡邊峻郁
出演者だけでなく作品含めて今回の白眉。プログラムによれば人魚姫が人間に恋をし、声と引き換えに魔女から飲み薬を貰った後のお話とのこと。
米沢さんは儚く純粋無垢な人魚姫で、陸に上がりおぼつかない足取りで懸命に歩こうとする姿や
声にならぬ思いを訴える苦しさと王子に近づけた幸福を胸に抱く様子が健気でいじらしく
王子(青年?)に包まれると戸惑いと安堵の双方が混ざった乙女な愛らしさが蕩け、頬が緩まずにいられず。
白地のワンピースドレス風な衣装で複数種類の青色で彩られたスカートの襞部分が魚の鰭を思わせ、人魚と人間どちらにも見て取れる装いでした。
渡邊さんは幕開け、下手側手前の椅子に座り空想に耽る姿からしてこれから始まる神秘的な物語へとすっと引き込み
陸に上がりまだしっかりと歩けない人魚姫を支え抱き止める序盤から澄んだ恋物語が展開。
この度も目線の使い方にどきりとさせられ、人魚姫の表情をしっかりと捉えつつも羽を抱くような
滑らか柔らかなリフトで姫を愛おしむ深い眼差しがいたく優しく沁み入り、米沢さんからは終始清らかな雫が伝うかの如くきらりとした輝きを秘めていた印象です。
さてDTF2021でもやります髪型観察、今回も丸。純真な内面が見て取れる王子らしいナチュラルな分け方で、宜しうございます。
前より黒めな色合いに戻った気もいたしますが照明の関係でそう見えただけかもしれません。
照明の演出も秀逸で、淡い光が海の揺らめく水面らしい質感にも思えれば、2人が交わし合う愛情の昇華にも見て取れたりと
場面によって様々な顔を表して淀みなく美しい世界観を隈なく後押し。
最後は人魚姫が泡となって消えて行く(恐らく?)切ない幕切れであっても重たい悲しみにはならず、穏やかな余韻が残る作品です。
外部のガラ公演等でも上演が叶えば好評を得そうな完成度の高さですし、同じキャストで前後の物語も観たいと思わせ、拡大版の制作披露も希望いたします。
人魚を題材にしたバレエは2015年に福島県いわき市にて鑑賞した、オスカー・ワイルド原作『漁夫とその魂』を下敷きにした
篠原聖一さんの振付にてキャスト、選曲、照明、衣装、舞台転換どの要素もぴたりと噛み合う
人魚と漁夫のやがて危うく生々しい展開を見せていく恋物語に心底感激いたしましたが、それから5年。
原作は別の話であっても再び人魚の物語を題材にした、漁夫にしても王子にしても
人魚(姫)を愛らしい乙女にさせてしまう点は共通項であるバレエに巡り合い、至福なひとときでございました。
『コロンバイン』「DANCE to the Future 2020」未公開作品
【振付】髙橋一輝
【音楽】ソルケット・セグルビョルンソン
【出演】池田理沙子 渡辺与布 玉井るい
趙 載範 佐野和輝 髙橋一輝
2020年3月における、出演者による無観客未公開舞台終了後の投稿写真からしても、誰1人として似たり寄ったりなタイプがいない
例えば全幕作品では同じ役を踊る機会はまず無さそうな階級もばらばらである個性様々なメンバーをいかにしてまとめたのか最も気になった作品です。
写真では面白可愛らしい印象であった衣装達が実際に観ると旧ソ連系作品を彷彿させ、特に極上農場エンターテイメント『明るい小川』での
かぼちゃやヘチマを担ぐ農民達の行進を思い出してはショスタコーヴィチの音楽が
続いていかにもなプロパガンダ風の絵の連続であったプロローグが脳内を旋回し嬉し懐かしいデザインを凝視してしまった次第です。
話を戻します。ペアごとに次々と繰り広げていく構成で、主軸の池田さん髙橋さんの水色ペアは軽快なスキップも豊富で軽快な様子を描写。
渡辺さん佐野さんの黄色ペアは天真爛漫、玉井さん趙さんの赤色ペアはは哀愁帯びてしっとりとした雰囲気を出して、夕日を照らしているかのような照明効果も丸。
ただ全体が長い印象を持たせてしまった点だけ惜しく、もう少し尺を縮めての構成でも良かったかもしれませんが
それぞれのペアの持ち味を生かした振付をバトンを繋ぐように落とし込んだ、風変わりな味わいのある作品でした。
『≠(ノットイコール)』
【振付】柴山紗帆 益田裕子 赤井綾乃 横山柊子
【音楽】渡部義紀
【出演】益田裕子 赤井綾乃 横山柊子 柴山紗帆
珍しいであろう女性4人構成のコンテンポラリー。黒い柴山さん益田さんペア、白い赤井さん横山さんペアが
暗闇にぽかりと灯される光の中で浮遊したり絡まったりしながら織りなしていく流れで
渡部さんによるどんよりと重々しくも摩訶不思議な空気感のある音楽と溶け合う味のある作品でした。
中でも赤井さんが音楽をごく自然に身体で放つような踊りに引き込まれ、おっとりとしていそうな外見からは予想がつかぬ強靭なテクニックに惚れ惚れ。
『神秘的な障壁』「DANCE to the Future 2020」未公開作品
【振付】貝川鐵夫
【音楽】フランソワ・クープラン
【出演】米沢 唯(27日)/木村優里(28日)
振付経験は豊富な貝川さんでいらっしゃいますが、女性ソロ作品の披露は初かもしれません。
ベージュに近い羽衣のようなシンプルな衣装で、風に優しく靡く光景もまた美しや。
米沢さんは音楽にとことん忠実で、表情は抑えめにしつつ身体で強弱や緩急の変化を取りこぼしなく正確に
裾が翻るさまに至るまで計算し尽くして奏でているような印象。対する木村さんは音楽がもたらす情景に身体が自由に揺らめき、
顔の表情からも曲の抑揚が香り立っていて、どちらが良いか否かではなく各々の魅力がはっきりと出ていて見比べが実に楽しく映り、堪能いたしました。
『Passacaglia』
【振付】木下嘉人
【音楽】ハインリヒ・ビーバー
【出演】小野絢子 福岡雄大 五月女遥 木下嘉人
職人4人集団に木下さんの振付でプログラムを目にしたときから最早安心感の塊にも思えましたが期待以上。
まず日頃お世話になっているバロック音楽精通者の方が教えてくださったビーバーの音楽に当日朝から聴き惚れてバレエと合わさって生じる化学反応に胸を高鳴らせ
鋭さのある曲調と、4人が内側から秘めやかな情感をほんのり滲ませ繰り出していく踊りの双方が研ぎ澄まされて調和する、隙を見せぬ緊迫感が広がる作品でした。
全員白で整えた近未来風な衣装もセンス良く、宇宙空間を彷彿。とりわけ小野さんが手脚を少し動かしただけでも
内包された妖しい色気を醸す踊りから目が離せずにおりました。題名の由来の通り、光が照らされた道に小野さん福岡さん、五月女さん木下さんそれぞれのペアが
交互に映されたり一斉に踊りだしたりと照明演出を存分駆使した振付の展開の語彙も豊富で
『コンタクト』では互いに翳す手を押し合っている印象程度しか残らなかった(失礼)木下さんの振付に
こうにも魅せられるとは、第1部の『人魚姫』に続き驚きを覚えるばかりです。
第3部 ナット・キング・コール組曲(DANCE to the Future 2011にて初演)
【振付】上島雪夫
【音楽・歌】ナット・キング・コール ほか
【照明】杉浦弘行
【衣裳】有村 淳
【出演】
本島美和 寺田亜沙子 奥田花純 細田千晶 益田裕子 今村美由起
貝川鐵夫 福田圭吾 小野寺 雄 福田紘也 中島瑞生 渡部義紀
赤井綾乃 朝枝尚子 徳永比奈子 廣田奈々
10年ぶりの再演。宝塚を始めミュージカルにお詳しい方々からするとさほど目新しい風味は無いようですが、
普段全く観ていない者からすると(管理人、これまでのミュージカル鑑賞回数は5回程度の大素人でございます)
ナット・キング・コールの音楽にも包まれる効果もあってかここはブルックリンかと見紛う展開にすっかり見入ってしまったものです。
前回上演から10年が経ち、相変わらずミュージカル鑑賞は殆どしていない事情もあってか
或いは前回に続いての出演者達の成熟度にも魅せられたのか今回は前回以上にどっぷり満喫できた思いがいたします。
そしてニューヨークの夜景がすぐさま目に浮かび、ウイスキーも引っ掛けたくなったのは私も老いてきたせいか。
幕開けまで伏せられていた、前回福岡さんが務めた最初から1人登場し帽子を手に粋に踊る箇所は、アーティストから大抜擢の中島さん。
NHKバレエの饗宴『パキータ』パ・ド・トロワや上田公演『白鳥の湖』ベンノ、そしてこれまで主役級以外での担当は前代未聞であった
公演ポスターでのメインまで務め(2月公演の吉田都セレクション。一緒に写る女性はアーティストの廣田奈々さん)
いずれは主役を張る人材として吉田監督が本気で育成したいダンサーの1人であるのは明らかな勢いを見せていますが
洒落っ気たっぷりな空気を纏い踊る振付がたいそう似合っていると思えた次第。踊りの精度はもう一歩かもしれませんが
魅せる角度や、帽子を手に持ちつつの振る舞いにおいて、少し外れると途端に映画『男はつらいよ』寅さんになりかねない(ならないか)振付も
スタイリッシュで堂々たる身のこなし。中島瑞生オンステージ状態でございました。
L-O-V-Eの曲では2日目にソロを務めた渡部さんが大変印象に刻まれ、音楽の抑揚を身体全体で表現し、喜びをたっぷり振り撒く踊りに心浮き立って明るい気分。
今回初めて気づいた、L、O等アルファベットが歌われるとさりげなく腕で文字を作る振付も、はっきりキビキビとやり過ぎると
途端に西城秀樹さんのヤングマンになりかねませんが(ならないか)、音楽と一体となりながら晴れやかに優雅なポーズを描いていた点も好印象でした。
尚この曲における、前回は客席を駆け上がって来て投げ接吻等していた振付は最前列からやや離れたところからの呼びかけに変更。こればかりは仕方ない。
そして初演に続く出演のベテラン勢の活躍も嬉しく、特に本島さんは登場の瞬時から
色めく世界を作り出し艶めかしくも凛とした踊りや脚運び、視線の送り方にもうっとり。
古典では嫋やかな印象が残る細田さんの何処かボーイッシュな潔さもはっとさせる魅力が詰まり、本島さんも細田さんも素敵な年齢の重ね方をなさっていて
10年前の初演時よりも現在の方が容姿そして踊りも美しさに磨きがかかっている気がいたします。
お2方に限らず、4曲目に登場された全員(入団10年以上のベテラン女性ダンサー構成)の皆様にも当て嵌まり、日々の鍛錬の賜物なのでしょう。
貝川さんは古典の主役を務めていた頃より若返っているとしか近年思えず笑、本島さんとの息の合ったパートナーシップに
王様王妃様コンビ以外でももっと踊る場面で観たいと願って止まずでございます。
最後は全員黒系で整えたフォーマルな装いで登場。バレエ団のレパートリーにこの手のジャズを取り入れた
ミュージカル風な振付作品は恐らくなく、埋もれず10年ぶりに再演され安堵いたしました。
全プログラム心から楽しみ、ダンサーの感性の計り知れない面白さや、久々の再演での成熟とフレッシュ感両方が合わさっての舞台も満喫いたしましたが
気になるのは2020年3月のDTFで一般公開されずそのままとなっている作品。会場が小劇場から中劇場へと変わり
作品の内容を考慮すると今回は見送りになってしまったのかもしれませんが、せっかく作り上げ上演作品に選ばれながら観客未公開のままでは勿体無い。
来シーズン辺りには公開の機会が到来するよう願うばかりです。
初日の帰り、人魚姫を思わす色彩のカクテルで乾杯。海に住む人魚姫に、陸に住む青年が出会った、と氷が溶けてきたところで混ぜ合わせ
世界ウルルン滞在記風にこじつけた管理人の身勝手さをお許しください。
2日目の帰り、またもや海を思わす色彩のカクテルで乾杯。但し名称は桃太郎だそうで理由は分からぬが
それはそうと木下さん版『人魚姫』の王子、桃太郎も間違いなく似合うと昨年の『竜宮』初演鑑賞後の帰り道の話題が再度脳内を巡り
髷姿で鉢巻して正義感強く、いざ鬼退治。
いつの日かどなたか作ってくださいますように。
結局締めが和物想像の飛び飛びな話で失礼。
後出しにて失礼。鑑賞は叶わずでしたが、出演者や内容には関心を持ち後年プログラムとVHSビデオを購入した、上島雪夫さんも振付を手がけられた20年前の作品
シアター・ドラマシティ ダンス・アクト・シリーズ vol.1『ジャン・コクトー 堕天使の恋』。
ビデオは行方不明になってしまったが、2001年の初演プログラムは手元にございます。
チラシは2002年の再演、その頃の何処かのバレエ会場での配布物の中にありました。
豪華キャストが集結していて、初演は平野兄弟が揃って出演なさっていたようです。
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