2021年12月8日水曜日

【妄想ではない】【26年前に管理人は観た】江戸時代の日本に置き換えたコッペリア『唐繰人形和蘭競舞宴』


今年も残すところ早1ヶ月。時節柄1年を振り返る報道も増えて参りました。2021年もマスク生活から脱せず、それどころかまたもや不安な要素も舞い込んできました。
さてバレエ界を振り返ると、今年は『コッペリア』の上演が目立っていた気がいたします。
新国立劇場、関西を拠点に置くカンパニーでこぼこ、貞松浜田バレエ団、スターダンサーズ・バレエ団、井上バレエ団、と春から夏場に上演が相次ぎました。
また緊急事態宣言発令による突如の中止から一転しての無料配信で話題をもたらしたり
スエズ運河の事故により装置等の運搬が大幅に遅延し何度目の正直か分からぬ状態で遂に延期本番を迎えたり
感染者が急激増加する状況下にて中止は回避したいと対策を入念に練っての開催と
どのバレエ団もあらゆる大ピンチを乗り越えての上演であった点も共通。関係者の方々には頭が上がりません。
新国立の『コッペリア』は、どうか同じキャスト上演を観客席で鑑賞したいとの願いは今も消え失せませんが
全キャスト無料配信は本当に思い切ったご決断であったと敬意を表すばかりです。

さて本題。『コッペリア』が立て続けに上演され、また12月に入り原作者は同じホフマンである
『くるみ割り人形』の上演も始まってきましたので、遡りますが26年前に観たユニークな『コッペリア』を紹介いたします。
ただプログラムが行方不明になってしまい、また26年前当時はこういった鑑賞録も全く付けておらず、会場で語り合う交友関係も構築前の段階であったため
舞台の様子を人に話したり伝えることもなく1人黙って思い返していたのみ。メモも一切取っておらず
四半世紀以上前の断片的な記憶を頼りにするしかないため大雑把な紹介しかできぬ点は悪しからず。

その『コッペリア』とは設定を江戸時代の日本に置き換えた、『唐繰人形和蘭競舞宴』(コッペリア)と題した作品でした。
上演したのは世田谷区に本部を置くスタジオのエトアール・バレエ。(類似名のスタジオ多数ですが、「ワ」ではなくエトアールと記載されています)
主宰の吉田芳子さんが毎回オリジナル創作や全幕古典の改訂をなさって発表会で上演し
思えば小品集やヴァリエーション、グラン・パ・ド・ドゥ抜粋のプログラムは目にしたことがなかったかと思います。
当時は勿論ですが現在もホームページが見当たらず今の活動状況は分からずですが、何度か発表会には足を運んでおりました。

お江戸に舞台を移した演出ですから当然登場人物達の名前も変わり、スワニルダはお美祢(もしかしたら美弥かも)、フランツはど忘れいたしましたが(失礼)
オランダ商人のお供の女性2人組の名前がお鶴とお紀美であったのは確かです。長らく続いた江戸時代の中で
オランダとの交易や、町人文化が一気に栄えて技術や芸術も花開いた頃を背景にした演出と思われます。
衣装は2幕までのお美祢や友人らは着物、商人の館にいる人形達は和洋折衷様々なお国を反映した衣装で、ポルトガル人形の衣装がかぼちゃパンツであったのは覚えております。

名前をど忘れしたフランツにあたる主人公の青年はからくり人形作りの若き職人であったか
大概は描かれる浮気性で軽い、お調子者なモテ男要素はなく、技術者として日々真面目に腕を磨く青年として描写され
衣装は着物なデザインで藍色か黒に近い渋めの色調で、まさに時代劇や歴史番組での
再現映像に登場する若旦那そのもの。鉢巻のようなものも頭に巻いていた気がいたします。
生真面目で妥協せず真剣な目つきで人形作りに精を出す江戸の若旦那な職人、髷は無しでも着物に加え頭には鉢巻。
現在であれば、絵になるお方が「光速」で思い浮かびますが(ここは妄想)いかんせん26年前。1995年の出来事ですから
江戸の庶民達の騒動を喜劇で描いた舞台と、その後は出演者達が江戸風俗研究家の杉浦日向子さんを囲んでの江戸豆知識座談会にも
関心を寄せずにいられなかったNHKの『コメディお江戸でござる』はほぼ毎週、或いは偶に時代劇は視聴していたものの
和服や髷が似合う男性の渋い魅力なんぞまだ分からなかった頃。もし今このお江戸版コッペリア鑑賞に臨んだならば
間違いなく脳内変換して堪能する自身が目に見えており同時に26年前の自身にも語ってやりたい気分です。
尚、結婚式の場面はお美祢も青年も洋装となりお美祢は白いチュチュ、青年も上下白で整えて平和のグラン・パ・ド・ドゥが披露されました。
背景の美術は簡素ながらも確か江戸情緒漂う街並みが描かれ、中央には富士山もお目見えして浮世絵の名画を想起。

そしてもう1つ大きな特徴が音楽。ドリーブの旋律はそのままに、堀部望さんが手掛けた
コンピュータ音楽による三味線や尺八、琴、太鼓と生演奏の管弦楽と融合させた音楽で彩られました。
※参考資料  1999年発表会『真夏の夜の夢』プログラム
全編通してであったか否か、細部までは記憶曖昧ですがただ中でも強烈な印象に刻まれたのは三味線マズルカ。
幕開けや要所で流れる威勢の良く力強いマズルカが三味線主体の音楽となり、豪快で粋な調べからお江戸の日本に置き換えた面白さが瞬時に広がる場面でした。
イメージとしては、日本の正月に家電量販店で流れる、和楽器使用の編曲版テーマ曲に通ずるものもあるかと年始の時期も含めての勤務時に考察。
景気づけに百貨店での初売りにて流せば、福袋の売り上げ増加にも繋がる予感すらいたします。それだけ弾むようにめでたい曲調だったのです。
三味線マズルカは4年後の1999年の発表会で『真夏の夜の夢』上演の際に、3幕の結婚行進曲に続くお祝いの踊りの場で再披露され、
真夏をもって吉田さんの創作を一区切りなさることも関係したのでしょう。
これまでにエトアールで上演してきた吉田さんの創作、改訂作品を何本か抜粋披露する、ディヴェルディスマンの場を生かしてエトアールの歴史を辿る構成でした。
日本国内においては、作品輸入が困難であった戦後のバレエ黎明期からオリジナル創作は盛んに行われ、桧垣バレエ団や京都バレエ団のように日本を題材にした作品を多数制作し
海外公演でも度々好評を得ている団体もあります。発表会でも日本の昔話のバレエ上演は決して珍しい話ではありません。
しかしプロのバレエ団ではない、所謂バレエ教室の発表会で西洋を舞台にした全幕作品を丸々日本にしかも江戸時代に置き換えての上演を実現させ、
更には和楽器のコンピュータ音楽と管弦楽の生演奏を組み合わせての舞台を26年前には行っていた吉田さんの大胆で斬新な企画は今になって再度唸ってしまいます。

ところで、お江戸コッペリアはユニークで楽しい余韻は残りましたが人生初の全幕『コッペリア』鑑賞がこのお江戸版でしたので
事前に図書館へ走り新書館発行の作品ガイド『バレエ101物語』にて予習したはずが、心底満喫できたかと聞かれたら首を潔くは縦に振れず。
加えて怪談の読み物の影響でからくり人形が私の中で恐怖の対象となっていた当時の事情もあり
冷たさを帯びた画像処理だったのかお茶を運ぶ江戸からくり人形に纏わる話にて掲載されていた写真もいたく不気味でございました。
1995年を振り返ると、テレビドラマでは『金田一少年の事件簿』や『木曜の怪談』といった怪奇物や重ためのミステリー物が次々と放映開始となり
小泉八雲ではなく学校や身近な場所を題材にした怪談の書籍があちこちで出回っていた頃で、本好きでもなければ民放ドラマを熱心に視聴する若年層でもなかった私は
そこまで見聞きする機会もなかったものの偶々見つけた怪談関連の書籍で目にした江戸のからくり人形の写真に寒気を覚えてしまったのでした。

しかしつい最近、歴史番組にて江戸から明治にかけて発明家、技術者として活躍した田中久重が取り上げられ、からくり人形とは言っても実に多様で
お茶運びや弓矢を扱う所作や仕掛けも実に精巧で、他にも精密な時計など多岐に渡る発明品の数々に興味を持ち
人形と時計でコッペリアに繋がると夜に1人で興奮。今であればお江戸コッペリア再度観たいと欲が募り、また人形と時計と言えばくるみ割り人形の重大要素でもあり
今月半ばには田中久重の縁の地域にて鑑賞予定であるため、26年の時を経てこの場を借りて紹介したいと思い立った次第です。
四半世紀以上前の話をお読みいただきありがとうございました。




管理人が新幹線から撮影した富士山。お江戸版コッペリアでは祝福の象徴のように堂々と聳えた背景が現れました。
今年は窓からこの景色を再度眺める予定でおります。晴天でありますように。 今年も残り約1ヶ月。今月の新国立劇場卓上カレンダー写真を飾るねずみ王を凝視しては
頭を外したお姿を愛でたいのが正直な心境であると、小さく明記された演者名を読んでは思いつつ月日が過ぎる早さに感じ入る2021年12月でございます。

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