2021年1月8日金曜日

【お茶の間観劇】キャピトル・バレエ団(トゥールーズ) ヌレエフ・プログラム

久々のお茶の間観劇記事でございます。遅ればせばがら、大晦日と元日に
フランス、トゥールーズのキャピトル・バレエ団によるヌレエフ・プログラムを鑑賞いたしました。
バレエ団名を聞いて、一昨年に放送されていたNHKフランス語会話にて東京バレエ団の柄本弾さんが訪ねた街でのレッスンにも登場したバレエ団
或いは新国立劇場の渡邊峻郁さんが2016年夏まで在籍されていたバレエ団と思い浮かべる方も多くいらっしゃることと存じます。
配信期限がいつまでかは分かりかねますが(仏語で何かしら記されているかもしれません)現在も視聴可能で
文字通り全てヌレエフが改訂振付した古典からの構成です。
キャピトル・バレエでは随分前からヌレエフの作品を取り入れていますが、どの演目においてもきちんと、粗無く、流さずに踊り
その中から華や品が薫る大変上質な舞台でございます。是非ご覧ください。





中でも『ライモンダ』第3幕グラン・パ・クラシックの完成度は見事なまでに高く、序盤から驚き止まらず。
男性2人によって踊られる元は子供の踊りとして作曲された(確か)アレグロ曲にややこしい足技満載な振付も伸びやか鮮やかなこなしぶりで
身体の角度を変えながらの移動もお手の物。2人の呼吸の合い方、全身を使っての楽しい掛け合いにも注目をです。
グランパ名物とも言える男性カトルにおいてもしばしばお目にかかる斜めロケット発射及び着陸失敗もなく
エレガントな纏まりで、音楽を大事に端正に踊っている印象。男性舞踊手陣の充実が窺えました。
尚、連続ザンレールに入る前の箇所は 横並びで相手に順々と譲り促していく優雅版ダチョウ倶楽部のような振付ではなく
両腕を上に掲げたポーズから徐々に広げていきながら前進して立ち止まり。これはこれで美しいが、どうぞどうぞと言わんばかりの
譲りリレー振付が毎度我がツボを刺激される身としては少々寂しい気もしております。
三角形フォーメーション維持が難しい女性パ・ド・トロワの調和も宜しく、少しずつ脚を差し出しながら
身体の向きを変化させる箇所における指先や脚先から零れる余韻に至るまで優美さが凝縮。
特に真ん中を務めていらした恐らくは中里佳代さんのすらりとした四肢、淑やかでコントロールの効いた踊りに魅せられました。

この後もヌレエフ名作選が続き、『ロミオとジュリエット』バルコニーパ・ド・ドゥは集中して終始観たのはひょっとしたら初かもしれず
(エトワールガラのテレビ放送で視聴した気もするが覚えておらず失礼) 初めの部分からアラベスクで追いかけっこするようにときめきを胸に駆け抜けたり
口あんぐりして驚倒したのはロミオの長いソロ。マクミラン版にもあるものの
ヌレエフ版では途中の要所要所でジュリエットをサポートしたりと大忙し。しかも脚を出して伸ばしては素早く畳み込む振付も多くこれはロミオ大難役ですが
全身から恋の喜びを一杯に表して踊っているのですから恐れ入りました。

『眠れる森の美女』第3幕グラン・パ・ド・ドゥもこれまたコーダ冒頭にて王子の軸足変えずに次々と回転技を繰り出す振付に驚愕し、
これまでパリ・オペラ座含むフランスのバレエ団映像をしっかり観ていない我が知識不足を猛省。ルグリとデュポンの全幕眠りは
近年にDVDで観ているのだが、記憶が彼方。こればかりは好み先行で、ソビエト時代のボリショイやキーロフ映像の方が脳裏に残っている点、お許しください。
そういえば、パリでのヌレエフ版眠り衣装の転換期が気になっており、ムハメドフがゲスト出演してゲランと踊ったときや
ポントワとイレールが日本バレエ協会公演に客演した時代は足利義満も仰天であろうキンキラキン色彩でしたが
いつの頃からか姫の3幕衣装は白地に赤い模様の可愛らしいものへ変わり全体も一新。著しくフランスバレエ知らずな管理人、学習も兼ねて調べたいと思います。

『シンデレラ』は初演から数年経った頃に森英恵さんによるデザインでも話題沸騰と知ったのは覚えておりましたが、集中して凝視したのは初かもしれません。
日本、オランダ、英国、ポーランドと今や『くるみ割り人形』で世界を席巻中の某振付家と異なり(失礼)リフトが程よく盛り込まれたアダージオで
夜空な照明を背景にリフトされたシンデレラが王子に芽生えた恋心を益々露わにするかの如く空中自転車漕ぎのように脚で浮遊する姿も印象深くユニーク。
(夜空で自転車の組み合わせにスピルバーグ監督のE.T.を思い浮かべた方がいらしたら嬉しいが笑)
派手な技巧が入っていないながら、音楽を全身でたっぷり、空間を大きく使った踊り方も気持ち良く、このパ・ド・ドゥがこうにも魅力が詰まっているとは
目を見開いて食い入るように鑑賞してしまったほど。6年前の世界バレエフェスティバルにてジルベールとガニオによる花形ペアで観ているはずなのだが
またもや記憶が薄らいでおり、パリ・オペラ座愛好家に両手と額を床に付けて詫びとうございます。

大トリは『白鳥の湖』より黒鳥パ・ド・トロワ。ここまで予想以上に上質な会席料理を堪能した気分になってしまい堅実過ぎてやや地味にも見て取れましたが
よく見ると音楽がゆったりめながら持て余すことなく、コーダでのオディールと王子の連続回転も単なる競争にならず滑らかに繋いでいく様子も好印象。
ロットバルトもヴァリエーションでたっぷりと見せ場があり、パリ・オペラ座バレエ団来日公演でにパケットの名演が即座に浮かびましたが
パケットは兜無く、その辺りはバレエ団に任されているのかと推察です。

一見して華やぎや麗しさが迫ってくるパリ・オペラ座とは一味も二味も異なり、多国籍集団から成りルーツも様々なカンパニーですが
全ダンサーがヌレエフの振付の意図を汲み取り身体の隅々まで神経を行き渡らせながら踊ると極上の統一感や
振付を一切流さず忠実に踊る職人気質から華が咲き、広がって行くように生まれる醍醐味を満喫した心持ちでおります。

冒頭はライモンダ3幕の壮大な前奏曲に合わせ、準備中ダンサー達の姿が幻影のようにも映し出され
配信映像への期待感を膨らませる効果も大きいセンス抜群な作りにも感心いたしました。
指導は芸術監督のベラルビに加え、ルディエール、ジュドといった往年のエトワール達も担当。
着実に継承されていくキャピトル・バレエ団によるヌレエフ作品もより多く観たいと思わせます。



※2015年の中里さんへのインタビュー。ルディエールから受けた感銘についても触れていらっしゃる内容で、写真も豊富です。
舞台上で集合した写真はベラルビ監督版『海賊』、渡邊さんがスルタンではなく海賊役として中央に写っていらっしゃるため、中国公演終了後かもしれません。
https://odoritai.exblog.jp/24345455/



『パキータ』2016年6月公演予告映像で、中里さん(恐らく)がヴァリエーションを踊る姿が開始56秒から1分辺りまで映っていらっしゃいます。
回転が軽やかポーズも晴れやかで、初めて見たときからはっとさせられる魅力がありました。
パキータはマリア・グティエレス、リュシアンは配信の『ライモンダ』3幕にてジャンを務めたダヴィット・ガルスティアン。
音楽は後半の演目『火の鳥』中間部分ですが、パキータの振付にも驚くほどに違和感なく溶け込んでいる映像です。
勿論、渡邊さんがタイトルロールを務め、革命軍の青年が敢然と火の鳥へと変身する後半のベジャール版『火の鳥』もご覧ください。
大変雄々しく、射るような視線もご堪能ください。
ガルスティアンは数多くのレパートリーで主演を務めていてDVD化されたベラルビ版『海賊』では主役の海賊を踊っています。
しかしいかんせんこのソフトでは渡邊さんによる、当時20代前半とは思えぬおっかな過ぎる豪胆な暴君スルタンの怪演ばかりが刷り込まれてしまっておりますが
シンプル且つ美しい照明や装置に加え、海賊、奴隷の女、スルタン、愛人に焦点を絞った関係性と言い秀逸な作品です。
ラロ作曲『ナムーナ』よりモロッコ舞曲がエキゾチックな味わいを漂わせているダイジェスト映像だけでもどうぞご覧になってみてください。




トゥールーズのパキータ、こちらもどうぞ。『レ・シルフィード』華麗なる大円舞曲に合わせた映像です。
2016年の火の鳥ほどは曲と調和しているとは言い難いものの、映像編集の名手がいるのでしょう。



ついでに、『パキータ』はプロの公演や発表会問わずあちこちで観ておりますが
衣装が頗る絶品と思えたのが国内では幕開けにどよめきまで聞こえてきたゴージャスな小林紀子バレエシアター、
海外のカンパニーでは写真のみですがキャピトル・バレエ団のデザインでした。
誠にお洒落で装飾も細やか、華美になり過ぎず上品で美しい色彩です。 振付はオレグ・ヴィノグラードフ版のようで、
フランスではなくロシアよりマリインスキーのプロダクションを取り入れているもよう。


2016年の予告
http://www.forum-dansomanie.net/forum/viewtopic.php?p=106640&sid=cdc95ab9f5254bdf86dca9ee2e52b2d0

2016年舞台写真
https://www.dansesaveclaplume.com/en-scene/45200-grand-pas-de-paquita-loiseau-de-feu-ballet-du-capitole/>


ちなみに衣装において一番地味に感じたのはNHKの放送や情報センター、雑誌記事で目にした新国立劇場バレエ団。(大きい声で言えないがもう遅い笑)
主役2人は白で整えられて気品もあり良いのですが、ソリスト、コール・ド陣が真っ赤一色で発表会以上に華やぎ感欠如と思ったものです。
→私は18年前テレビ放送にて何を見ていたのか、今回配信を視聴したところ見違えるほどに華やぐ舞台でした。失礼な物言いをお許しください。

しかし、まもなく到来する1月11日(月祝)成人の日は、その『パキータ』を18年ぶりに上演する
新国立劇場バレエ団ニューイヤー・バレエが無観客ライブ無料配信されます。(アーカイブ無しとのこと)
衣装が当時と変わっているか否かは分かりかねますが、新年を飾るに相応しい祝祭感溢れる舞台になるのは確実でしょう。
パキータは米沢さん、そしてリュシアンは渡邊さんです。観客動員の公演中止は残念ですが、全国の方にも、しかもビントレーに深川秀夫さん、
貝川さん木下さん作品含む多彩なプログラムを全編配信を楽しんでいただけると思うと嬉しさも更に募ってきます。背筋を伸ばして鑑賞する予定でおります。

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