2021年1月26日火曜日

日独交流160周年記念 何度でも観たいシティのショルツ作品 東京シティ・バレエ団 ウヴェ・ショルツ・セレクションⅡ 1月23日(土)





1月23日(土)、東京シティ・バレエ団 ウヴェ・ショルツ・セレクションⅡを観て参りました。
https://tokyocityballet.com/uwescholz2/

カンフェティに、安達悦子芸術監督、佐合萌香さん、中森理恵さん、清水愛恵さんへのインタビューが掲載されています。
安達監督がショルツ作品をレパートリー入りさせた経緯や音楽との向き合い方の変化など、興味をそそられる内容です。
ダンスマガジン1996年12月号に掲載された安達監督のカラー記事にて、優れた音楽性について賛辞の評が綴られ、ピンク色の目が覚めるような衣装は恐らくスワニルダかと思いますが
現役時代のご様子からもシティを音楽的なバレエ団にしようと率いていらっしゃることに納得。
ウラジーミル・デレビヤンコ、一時期はしばしば来日してノエラ・ポントワやエリック・ヴ=ヴァン達とのガラも日本で開催された記憶があるが、
チューリッヒにも在籍し活躍していたとは今更ながら初耳です。
https://s.confetti-web.com/sp/feature/article.php?aid=820&


『Air! 』エアー!
音楽:J.S.バッハ「管弦楽組曲第3番」ニ長調 bwv1068
初演:シュツットガルト・バレエ団(1982年)

<第1楽章>
松本佳織 馬場彩 新里茉利絵 石井日奈子 三好梨生 西尾美紅
玉浦誠 濱本泰然 土橋冬夢 杉浦恭太 渡部一人 西澤一透

<第2楽章>
佐合萌香 土橋冬夢
中森理恵 濱本泰然

<第3楽章>
松本佳織 石井日奈子 三好梨生 西尾美紅
玉浦誠 杉浦恭太 渡部一人 西澤一透

<第4楽章>
土橋冬夢
松本佳織 馬場彩 石井日奈子

<第5楽章>
松本佳織 馬場彩 新里茉利絵 石井日奈子 三好梨生 西尾美紅
玉浦誠 濱本泰然 土橋冬夢 杉浦恭太 渡部一人 西澤一透

バッハの品位と重厚さのある曲調を立体的に浮かび上がらせるように序盤からダンサー達が快活に躍動。手先脚先からも瑞々しさを放ち
フォーメーションの変動が多いにも拘らず忙しさを感じさせないのは 風変わりなポーズからの移り変わりも機敏にこなせるほどの
卓越した技術集団であるからこそでしょう。 途中G線上のアリアの呼び名で知られる楽章に入ると、身体が描くラインはくっきりと保ちつつも
途端に柔らかくそよぐ風のような靡きを全身から表し、浄化された気分。
衣装は全員レオタードで体型を誤魔化せぬ手強いデザインですが、シュッと締まった体型のダンサー揃いであることや、
茶色や白っぽい一見地味な色合いで整えていながら不足感皆無であるのは
踊りこなす技術は勿論のこと、振付と音楽がしっかりと落とし込まれた身体から終始鮮烈さと歓喜が繰り出されている証です。
地味どころか全ダンサーの身体から音楽と共鳴して祝砲を放っているかのようで、加えてショルツ23歳のときの振付デビュー作品と知って
更に驚くばかり。脳内構造を覗いてみたいと思わずにはいられません。


『天地創造』よりパ・ド・ドゥ
音楽:J.ハイドン オラトリオ「天地創造」Hob.XXI-2
初演:チューリッヒ・バレエ団(1985年)

佐合萌香 キム・セジョン

一昨年新国立劇場で開催されたバレエ・アステラスにてハンガリー国立バレエの石崎双葉さんペアが披露されたものと同じかと記憶。
再度鑑賞したいと願っていたため大変嬉しい上演です。
歌声と溶け合う荘厳な包み込みに癒され、佐合さんとキムさんが舞台全体を使ってダイナミックに、
ときに絡みながらしっとりと織り成す体温を感じる穏やかな触れ合いが優しく映りました。


『Octet』オクテット
音楽:F.メンデルスゾーン「弦楽八重奏曲」変ホ長調 Op.20
初演:チューリッヒ・バレエ団(1987年)
日本初演:東京シティ・バレエ団(2017年)


<第1楽章> 中森理恵 キム・セジョン
平田沙織 飯塚絵莉 渡邉優 植田穂乃香 斎藤ジュン
内村和真 土橋冬夢 吉野壱郎 吉岡真輝人
福田建太

<第2楽章>
清水愛恵 濱本泰然

<第3楽章>
吉留諒
岡田晃明 渡部一人 栄木耀瑠

<第4楽章> 中森理恵 キム・セジョン
吉留諒
平田沙織 飯塚絵莉 渡邉優 植田穂乃香 斎藤ジュン 山本彩未
内村和真 土橋冬夢 吉野壱郎 吉岡真輝人 杉浦恭太
福田建太

締めはシティお得意作品。2017年の初演は見逃してしまいましたが、2018年の『ベートーヴェン交響曲第7番』とのダブル・ビル
2019年のNHKバレエの饗宴にて鑑賞し、長身ダンサー達が次々と晴れやかに繰り出すポーズの美しさに最初の3分で虜となりました。
今回は饗宴時より格段にパワーも盤石さも上回り、一音一音を幸福感一杯に身体で彩っていた印象です。
高音から更に高らかな音色を響かせる箇所もふんだんにあり、女性ダンサー達による、両腕を天へ掲げる作品象徴なるポーズを
更に上へ上へと引き上げて一斉に最高潮へと導く身体能力にも天晴れです。
高身長且つ身体がきびきびと動くダンサーばかりを揃えた精鋭集団で、特に平田さんの長い手脚を持て余さず巧みに制御しながらの踊りは眼福でした。

第2楽章は以前は岡博美さんと石黒善大さんペアで鑑賞しておりますが今回は清水さんと濱本さん。
侘しさを妖しくも細やかに紡いでいた岡さん石黒さんに対し、清水さん濱本さんはより大胆でゴージャスで、
清水さんの四肢から昂ぶる感情が露となって受け止める濱本さんとの呼応もドラマティックに感じさせる場面でした。

音楽の視覚化と聞いて思い浮かべる振付家にバランシンも挙げられるかと思いますが、
ショルツの振付はバランシンとはまた大きな異なる特徴を備えていると捉えており時々不可思議なポーズからの駆け出しも度々あり。
男性が屈指運動のような状態が続いたところへ女性を迎え入れてサポート再開といった振付も用意され
下手にやれば怪しいラジオ体操と化すわけですが、相当な訓練が積まれているのでしょう。
クラシックを少し捻ったユーモアに富んだ振付と見て取れます。
そして男性のみの見せ場も入れ替わり立ち替わり披露され、一気に横移動したかと思えば捻りあげるような回転をしたのちすぐさま静止に至るなど
めまぐるしい展開満載。男性ダンサーの技術の高さ層の厚さが伝わり、中でも第3楽章の真ん中を務めた吉留さんの軸の強さに驚きを覚えました。

急速転換能力不可欠なサポートもたっぷりあり、女性を斜めに傾けた奇形リフトをし、下ろしてから走って袖へ向かうのではなく
持ち上げたまま捌ける振付には思わず驚嘆。しかも2組ずつ足並みを揃えながら捌ける必要も生じたりと危険度難度高し。
しかしいとも簡単そうに、音楽と戯れながら明朗にこなしていく光景の広がりに目を丸くするしかありません。
出演者全員の身体の隅々にまで染み渡った振付語彙を自在に操る切れ味やコントロール力に見入り、シティの看板演目と唸らせる舞台でした。
女性の黄色いドレス形衣装やオレンジ色の背景幕も眩しく、翌日の積雪予報を控えた極寒な夜ながら、
サーモグラフィに引っ掛からない程度に急上昇した体感温度で帰途についた次第です。

バレエ団の発信によれば、今回の公演はドイツ大使館後援のもと開催し公演2日目のちょうど160年前にあたる1861年1月24日こそが日普修好通商条約が締結し、
日本とドイツの交流が始まった日であったとのこと。締結実現に奔走した当時のプロイセン外交官オイレンブルク伯爵も
記念交流事業にさぞ喜んでいるに違いありません。ドイツが生んだ偉大な振付家ショルツの作品で構成し、上演作品の使用曲もドイツ色濃厚。
シティでのショルツ作品初演時からの指導者でいらっしゃる、ショルツが監督を務めたライプツィヒ・バレエ団にて活躍なさっていた木村規予香さん、
今回は待機期間でのリモートも合わせての指導にあたったジョバンニ・ディ・パルマさんお2人の熱意と
応えようとするダンサーの気概も伝わり、日独交流160周年記念に相応しい公演でした。




レモネードカクテルの色合いがオクテットの衣装と似ている気がした当日の昼下がり。



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