
1月5日(日)、ウクライナ国立バレエ団『ジゼル』を観て参りました。 当初はアリーナ・コジョカルがゲスト出演してジゼル役を予定していましたが怪我で降板。
代役をハンブルクバレエ団の菅井円加さんが務めました。
2006年以来であろう、日本でのバレエ界における『ジゼル』公演が続く大当たり年の2025年。トップバッターはウクライナ国立のヤレメンコ版でございます。
https://www.koransha.com/ballet/ukraine_ballet/#enmokuArea-gisele
ジゼル:菅井円加
アルブレヒト:アレクサンドル・トルーシュ
ミルタ:アナスタシア・シェフチェンコ
ハンス:ヴォロディミール・クツーゾフ
ペザント・パ・ド・ドゥ:カリーナ・テルヴァル ダニール・パスチューク
アルブレヒトの従者:オレクサンドル・ガベルコ
バチルド:エリーナ・ビドゥナ
クールランド公爵:ルスラン・アヴラメンコ
ベルタ:クセーニャ・イワネンコ
ドゥ・ウィリ:カテリーナ・デフチャローヴァ ディアナ・イヴァンチェンコ
菅井さんは一昨年の来日公演『シルヴィア』を始め強靭なコンテンポラリー、現代作品のイメージが強いためか鑑賞前は失礼ながらジゼルが想像できず。
一方で2022年のNHKバレエの饗宴『パ・ド・カトル』では誰よりも慎ましく端正な踊りでピンクのロマンティックチュチュを纏い、
中村祥子さんにお仕えしていた姿を思い出すと今回心臓の弱い少女をどう造形するか興味が尽きずでした。
結論、とてもお似合い。病弱、心臓が弱そうには見え辛かったものの、持ち前の技術を誇示せずさらりと織り込んでの細やかな踊りでいたく愛らしい娘に映りました。
アルブレヒトへの恋も混じり気や飾り気がなく純朴そのもので、話かけるときもそっと触れたり、
恥じらいも変にかわい子ぶらず、即座に笑顔にならずに素朴な反応であったりと恋のこの字も分からぬ少女っぷり。アルブレヒトが色々試したくなってしまうのも納得です。
ヴァリエーションではアラベスクからのパンシェを爪先立ちのまま悠々且つさらっと愛らしく空気を優しく吸い込むように披露され、客席がどよめきました。
私も長年生きておりますし『ジゼル』は何度も様々なバレエ団で観ておりますが、初めて目撃するテクニックでございました。
ちなみにお詳しい方曰く、往年のバレエ漫画に同じ様子が出てくるとか。当方バレエ漫画は目を通しておらず、気になる方はお探しください。
狂乱では剣で傷ついた手から痙攣の波動が徐々に全身を伝っていく震えを緻密に体現。
2幕はウィリーとして登場すると乱れが一切ない大高速回転で沸かせ、精霊らしい無重力でふわふわと高く舞う姿も圧巻でした。
トルーシュのアルブレヒトは登場から喜び全開、はみ出し貴族の笑みブレヒト。
ジゼルに会いたい欲望を抑えられず思わずジゼルの家のドアを開けかけて突入を試みる胡散臭い行為を従者に止められ、この時点で客席から笑いがこぼれていたほどです。
衣装が『マノン』にて、3幕ルイジアナに到着してすぐさま装着物を洗濯できたデ・グリューなデザインで、つまり上は白いシャツのみ。
ベストなり何かしら着用していないと寧ろ村人への溶け込みも難しそうに思えますが異端児な村人だから良いのかもしれません。
それはそうとジゼルへは接する度に全力で愛情を注ぎ、軽そうにも見えつつ純愛ではなさそうであったが貴族としての人生の枠を一気に取り払っていたと捉えております。
狂乱にてジゼルが息絶えると強力ガムテープよりも粘着質な性格なのかジゼルから離れようとせず従者によって力ずくで連行される始末。
意外と言ってはこれまた失礼だが、古典の振付もきっちり綺麗に纏めていて、2幕では空間を切り裂くようにミルタへの許しを訴えていました。
厚みを効かせていたのはクツーゾフのハンスで、花をさっさか背後に隠しながら何事もなかったかのように繕って村人と挨拶を交わしていたりと恋が健気。
お花はジゼル家の外テーブルの花瓶に生けていて、その花を束ごと取り出して占いに使い、
挙句の果てには地面に置き去りにするジゼルとアルブレヒトの行動はなかなか残酷に映っていたに違いありません。
技術芝居共に舞台を締め、2幕でのウィリー達からの追い詰められた状況における
恐怖感を身体中に充満させながらの張りのある跳躍やバネのある回転を伴いながらの移動も目を惹きつけました。キャラクターの名手と思わせます。
それからシェフチェンコのミルタの研ぎ澄まされたコントロール力ある美しさ、統率力、ウィリーのコール・ドもよく整っていてふわりとした柔らかさも見事。
そうかと思えば追い詰めて倒れ込んだハンスをそのままドゥ・ウィリー達が2人がかりで引きずりながら運搬して舞台袖へ入れる力技からの
任務完了!と言わんばかりの一斉勢揃いポーズへの瞬時の加わりには笑い起きていたほどです笑。
1幕の収穫祭の場面は活気があり、ペザントパ・ド・ドゥの2人がお祭りの中で執り行われる結婚式の新郎新婦である設定も微笑ましい演出。
パ・ド・ドゥはお祝いとして仲間達に披露する流れとなり、ブーケトスもして
それを受け取ったのがジゼルであるのが今後の展開を分かっているだけに悲劇を増幅させました。
演奏が全体的に明るめで悲壮感は抑えめで、悲劇ではあっても悲劇でない独自演出な結末を序奏から想起。
また2幕ウィリー達の森も陰鬱で鬱蒼とした雰囲気よりもお清めが行われそうな淡いブルーで統一され、死後の世界を過剰に恐怖に描かない手法が取られていました。
独自の結末については賛否両論ありそうですが、今のウクライナの情勢を考えると
死後の世界にも希望を見出したい救いへの願いが込められているとも捉えられる演出で、死を伴う悲劇については慎重に扱っているのは想像に難くありません。
2幕冒頭、命を落とした娘のお墓を探し回るベルタの引き裂かれそうな悲しみの描写から、少しでも主人公が救われる路線に転換にしたのも頷ける気がいたします。
ダンサーもオーケストラも戦時下の困難を思わせぬ上質な完成度で、基礎力の高さと芸術家としての誇りが感じられる公演でした。
ウクライナに平穏な日々が戻るよう願ってやみません。
改訂振付をされたヤレメンコさんが手掛けた作品としては、日本バレエ協会が2020年に上演した『海賊』がとても素敵で
2時間弱に纏めながら要所は押さえ、プロローグとエピローグにバイロンが登場する洒落た演出も印象に残っております。是非再演してくださると嬉しうございます。

門松

『ジゼル』舞台写真も展示されていました。


ミルタ、美しく崇高です。

カーテンコールは撮影可能でした。


讃え合う菅井さんトルーシュ。

帰りは白ワインで乾杯です!
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