2024年3月17日日曜日

二・二三リンドルフ事件 新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』2月23日(金祝)~25日(日)







更新と感想がだいぶ遅くなりましたが2月23日(金祝)〜25日(日)、新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』を計4回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/hoffmann/

速報と重複する箇所もございますが悪しからず。いつのまにかバレエ団の来シーズン演目発表も大阪府の枚方公演も(当方は出向かず)、エトワールへの道程も、
日本バレエ協会『パキータ』もスタダンのオール・ビントレーも終演してしまい、東京は桜の開花日も近づいている頃でございますが
当方1週間後の今頃は本州におらず、(間に合えばバレエの饗宴は宿泊先で観るか、しかしすぐ近くは飲食店街。饗宴2022放送時に大阪滞在であったときと同様に夜遊びに勤しむか笑)
急ぎ目で更新していく予定でおります。


ホフマン:福岡雄大(23日、24日夜)  井澤駿(24日昼)   奥村康祐(25日)

リンドルフ/スパランザーニ/ドクターミラクル/ダーパテュート:
渡邊峻郁(23日、24日夜)  中家正博(24日昼、25日)

オリンピア:池田理沙子(23日、24日夜)  奥田花純(24日昼、25日)

アントニア:小野絢子(23日、24日夜、25日)  米沢唯(24日昼)

ジュリエッタ:柴山紗帆(23日、24日夜)   木村優里(24日昼)  米沢唯(25日)




渡邊リンドルフさんが通る。(はいからさんかい笑)天国と地獄の曲にのせて、4変化を遂げながらご通行中です。
特に2役目、白鬘スパランザーニでの両手をヒタヒタ動かしながらの歩き方にご注目を。見るからに怪しい笑。



福岡さんのホフマンは幕開けは自信たっぷりなモテる男性ぶりで、客やメイド達ともにこやかにテーブルで語らう様子もこなれている人気者。
初演時は特に気になっていた、ウッチャンナンチャンのコントかと見紛う老けメイクはすっかりなくなって今回はナチュラルな中年男であったのも安堵です。
※初演、再演はやや抑え目になったものの全ホフマンのあの老けメイクは疑問でしかなかった。
1幕の黄色メガネ姿はのんびりとしたお坊ちゃんで、あとにも述べるがホフマンの行動に対してあれこれ口煩い
世話焼きママ(オカン!?)なスパランザーニを避けようともがく様子もいじらしい。
オリンピアへの恋が止まらない衝動を、メガネ越しでも分かる弾ける表情や踊りで体現なさっていました。
2幕、アントニアとの恋は混じり気のないピュアな愛情を交わして ピアノを弾いているときに現れたアントニアとの視線の通わせが微笑ましく、まさかこの後、医師免許所有すら怪しい医者によって(無免許診察!?)
何もかもを破壊される修羅場の到来なんて知る由も無い場面でございます。
後ほどまた述べますが、ドクターミラクルに力技でも抗えず、魔力で封じ込まれる攻防の激化からのアントニアの死はこの公演期間中のハイライトであったかと思います。
3幕はダーパテュートからの膝お触りに耐えながら(こんなシーンがあったとは)
ジュリエッタを目にしたときの衝撃に混乱し、快楽と理性の間で苦しそうにしながらも次々とアクロバティックなパ・ド・ドゥを展開。
リンドルフにステラを掻っ攫われた上に指差されながらの悲しい結末にて、
魔力からは離脱できぬ恐ろしさを思い知らされて悔しそうに悲嘆に暮れる最後も焼き付いております。

井澤さんは初演時は本当に若く、プロとしてのキャリアも非常に浅い段階での抜擢であった2015年から早9年。2018年の再演でも主演されていますが
今回は格段に3世代分を雄弁に語るホフマンであった印象です。幕開け、カフェの常連客として楽しそうにワインを飲みながら寛いでいる様子や
店主とのやりとりもごく自然に映り、ピンクジャケットの世間知らずそうな青年ぶりも宜しく
オリンピアとのダンスで不意打ちのビンタをくらいながらも笑、輪郭美しい踊りで喜びを明示。
2幕は殊に冴えるテクニックと芝居で世代を跨ってのホフマン披露されました。
米沢さんアントニアとの舞い上がるような幸せを一緒に歌うかの如く踊るパ・ド・ドゥも息がぴたりと合って見応え十分。

初役の奥村さんは実に綺麗に年齢を重ねている感のあるホフマンで、冒頭終盤は朗らかな交流の中心で
晴れやかに会話している姿から若者達に人気なのも大いに頷ける中年男性。見かけは哀愁感よりも若々しさがまさっていましたが、
飲み方はちょいと猫背でリラックスしたりとやさぐれた感じで中年風。
ただリンドルフからの突如のおびき寄せには即座に不安そうに反応し話の展開は分かっていてもただならぬことを予期させました。
1幕ピンクの上着に黄色メガネは想像を更に上を行くアイドル超越な似合いっぷり。
2幕にて小野さんアントニアと組む幻影は2021年の『ライモンダ』全幕を思い出し、騎士に見えたか否かはさておき(失礼)
あのときの夢の場における小野さん奥村さん組のいたく幻想的な浮遊感は未だ頭に刻まれており
再びコール・ドを従えての純クラシックな場面での2人を目にできたのは幸運に思えました。

池田さんのオリンピアはカクカクとした動きがより人形らしさを後押しして、しかもオリンピア自身は意図していなくても
無意識のうちにホフマンを不幸へと落としてしまう可愛らしくも残酷な無機質感もあって強靭な軸から繰り出すステップも思わず凝視。
奥田さんは軽やかで仕草や脚先も上品で、音楽が聴こえてきそうな踊りにも着目。

小野さんのアントニアはピアノに打ち込むホフマンの姿を見ようとカーテンから覗く姿からして生き生きと恋する可憐な少女。
ピアノ弾くホフマンが後ろを向いたときの目との見つめ合いを始め、無邪気で愛らしく喜ぶ様子に蕩けてしまうほどでした。
父親に叱られるときの悲しみには少々反抗心も見えかける強さもあり、病弱に負けまいと闊達に生きようと日々懸命に過ごしていたと推察。
対してドクターミラクルからの魔術には一旦ぐっと堪えるも抗えぬ誘惑にからどうにか脱出しようと試みる姿ですら気高くしたたかで美しや。
幻影の場では誰も寄せ付けない崇高な出で立ちで、悲哀が込められた静かなソロは2021年のライモンダ3幕思い起こさせる物音一切許されぬような神々しさで場を支配なさっていました。

米沢さんは儚い透明感を覆いながらの登場で井澤さんホフマンとの抱擁や顔の寄せ合いもいたく優しげに映り、澄み切った美がすっと通る抜ける踊り方にも惚れ惚れ。
ドクターミラクルからの催眠術迫りでは今にも全身から涙がこぼれそうな不安感が漂い、弱っていくさまがまた哀れこの上ない様子でした。
バレリーナに変貌するとまずアームスの大らかさ、優雅さに包み込まれこの日は上階末端席におりましたが舞台に摩訶不思議な力で吸い寄せられそうな心持ちに。
この場面のパ・ド・ドゥは3組とも大変な息の合い方で、音楽とゆったりと呼応しながら高々と持ち上げるトーチリフトや
平行四辺形のように重なり合う最後のポーズ含め、互いの手脚の伸びやかさも十二分。
コール・ドとの調和も実に綺麗に取れていて、上出来な場であったと思います。

初挑戦柴山さんのジュリエッタは、初日は少し抑え目な気もいたしましたが2日目はこれ見よがしでない
内側からの色気も香って気づくと誘いに乗ってしまいそうな高嶺の花なヒロイン。
これまで柴山さん渡邊さんによる幕物作品ペアと言えば、シンデレラと王子、淑女と騎士、妖精の女王と王、といった不健全とは無縁な配役同士でしたから
ダーパテュートと行うホフマンに対する共謀誘惑作戦における迫りでの弄るようにホフマンを追い詰めていく危うい2人に仰天。

前回残念ながら鑑賞叶わずであった(前回の千秋楽日は管理人、京都で観劇)木村さんは
光も美術もカラフルな魔窟の中であっても出の瞬間から艶かしい華やぎを与えるインパクトで支配。
思えばジュリエッタは女性客人達とさほど変わらぬデザインの衣装であるはずが、
スモークに同化しないどころか益々自身の色で染め上げて行くオーラで満たす誘惑も濃密でございました。
男性客人達にリフトされたときにスカートの裾から覗く脚の線も高らかな美を空中にて描画。
中家さんとの悪どい共謀作戦も余りに楽しそうでホフマンには申し訳ないと思いつつ笑、2人してうねっての誘惑にホフマンも目を覆いたじろぐしかないのも納得。

米沢さんはかけ持ちのアントニアの影はすっかり消え去り、鋭い怖さと色っぽさを放つジュリエッタ。
ホフマンを誘い込む序盤のソロからして手脚が描く大きなフォルムやダイナミックされど乱れぬポーズの連続にも感嘆でございました。

早速ですが長くなります。小休止をどうぞ。

渡邊さんのリンドルフ(他計4役)は恐怖の圧、剽軽、怪奇、妖しさ、と色が異なる4役を踊り分けてホフマンを追い詰め、敵役の食品成分表を隈なく網羅。
天井を貫通するような狂気で全幕を支配なさっていて、何度背筋に戦慄が走ったことか。
国際バレエアカデミア『シェヘラザード』に続き変わり者を承知で申すと、『ホフマン物語』再演があるならば
渡邊さんはホフマンではなく、敵役として4役変化するリンドルフを務めて欲しいと懇願しておりましたので、
発表時にホフマン役欄にお名前明記が無いと確認したとき、もしやと期待。そして万歳した私でございます。
あの腰掛けて視線を真剣に送り続ける箇所も、素っ頓狂な人形師も、後半での大胆な誘い込みも、いかにして静動のメリハリを効かせていかれるか楽しみでなりませんでした。

そして初日。まず、2月23日のキャストにお名前があった、これだけでもう我が寿命が伸びた汗。
そして幕が開いた、舞台上にいらっしゃる。これでまた我が寿命が伸びた。大袈裟な言い方をしていると思われるでしょうが1年前がそれだけ悲しみに包まれていたのです。
カフェの客として下手側の椅子に腰掛けた姿が、頭が少し動く程度で極力身動きせずあとはぴたりと静止そして冷徹な空気をぴりりと放ち、
プログラム解説文に書かれているとおり邪悪な議員である設定にも納得。上手側の椅子に腰掛け、客やメイド達との睦まじく語らうホフマンを
穴でも空ける気でいるかのように目を凝らしながら見つめ、額に死守、瞳に奪還、後頭部に独占、頭上に執念と、
太い筆字による熟語が見えてくるほどにホフマンに対する屈折した愛が感じ取れる腰掛け姿でした。
カフェの主人とは顔馴染みなようでワインもおかわりなさっていたが険しい表情は変わらず、
客として身を置いているだけでゆったり味わうよりもホフマンの独占作戦をひたすら練っていると思われます。
ところで昨今の国内の報道を見聞しているとリンドルフの設定「邪悪な議員」の定義が気になるところ。
ラ・ステラのお付きを財力で揺さぶろうと企み背後からそっと手渡す金銭は自腹なのかそれとも今話題の(話題でも困るんだが汗)裏◯なのか。
邪悪とは言ってもこれまで手を染めてきた悪事の内容を探ってみたい深掘りしたいと欲を突かれるのは、会計文書の虚偽記載どころではなさそうな闇が覗けてくる
或いは所属派閥もなく懇親会にも行かず、孤独に議員職に従事していそう等と想像が膨らむのは、幕開けから数分経過しただけでも
リンドルフが放つ異様で不気味なオーラに鷲掴みされる心持ちになったからこそでしょう。
全身黒っぽい格好で顔の表情はほぼ変わらぬ強面のままであっても立ち居振る舞いが雄弁で、
ステラお付きへの唆しからの身を翻してカフェの奥へ入って行く立ち去り姿がカフェのほんわかした雰囲気を一気に切り裂くような変化をもたらす存在感でした。

そこから数分後にはおてもやんメイクな顔立ち、実験に失敗した感のある爆発白頭での人形師スパランザーニとして登場され、
オリンピア人形製作真っ只中。腕部分を差し込む工程からして目が何処かへ行ってしまいそうな狂おしい視線で取り組み、召し使い達の取り仕切りも楽しく忙しそう。
しかしただのヘンテコキャラクターにはならず、踊り出すと爪先から手先まで神経行き届いてコントロール力も抜群で
特に針のように先端がシュッと伸びた爪先を突き出しての音楽を隅々まで掴むようにして披露する美しいアレグロに驚嘆。
やがてホフマンが登場すると、愛情が過剰に出てしまって行く手をいちいち阻んではあれこれ口煩く指示するオカン状態となり
福岡ホフマンの初心な造形も見事だった点も合わさって2人が一時親子関係にも見えたほどです。
ホフマンがオリンピアの沼に嵌っていくところを見る度に見せるガッツポーズも、
遂にはオリンピアが人形と知って落胆するホフマンを見下ろしながら高笑いする顔も憎めず笑。

ハイライトと思えたのは2幕で、医者として歩いての登場から近寄り難いおっかないオーラを醸し出し、鞄を置く所作も恐ろしや。
そして何と言っても昨年2月に叶わずであった全幕において主役級の役同士として
小野さん渡邊さんが組む共演を「客席から」目にでき、うう感激。『コッペリア』と違ってカップルではなく敵同士な関係性ではあったものの
怯えるも我を通そうと藻掻くアントニアと、黒く冷たく呑まれそうな色気を宿す魔力で静かにされど強引にアントニアを封じ込め
やがて水晶玉を近づけながら迫って催眠術の罠に嵌めらせるドクターミラクルとの間に生じる、美と緊迫感が凝縮する危うい化学反応に凍傷しかけたほど。
替え玉アントニア(本物のアントニアは早替え中のため)と後方に立ち、アントニアの夢世界が始まるまでを待つ翳りある佇まいもまた危険な香りを残し
のちに待ち受ける悲劇を予感させる恐ろしさを匂わせたまま幻影の場へと繋げて行くお姿でした。
※ちなみに3年前の今日この発表があり、大勢の方から祝福をいただきました。
いつまでも引き摺るなと指摘を受けるかもしれませんがこのとき有観客上演していたら、と今でも思ってしまいます。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_019814.html

2幕の中でも舞台熱量が最高潮へと達したのは福岡ホフマンとの攻防戦。抗うホフマンを魔力で押さえ込んで
鋭く高く跳び上がりながら後方へ押し切ったかと思えばピアノに投げ飛ばして座らせ、
アントニアを踊り狂いの果てに死へ至らせるためにホフマンの肩掴んで力づくで演奏をさせる誘惑展開で、
勢いで落ちかけた楽譜を手で押さえながらホフマンに顔に一層寄せて執念深く極限まで追い詰める行為がそれはそれは悍ましや。
その横では恋人と医者が繰り広げる修羅場の事情も知らずに幸せを噛み締めながら激しく踊るアントニアの姿がありますから、幸福と争いが同時進行で展開。
音楽もいよいよ重厚さを帯びて恐怖の極致に到達し、ドクターミラクルが発光する
相手の身体をも貫通するようなダークな狂気に射抜かれて魂を根刮ぎ奪われそうな残酷さがございました。
この場面における福岡さんと渡邊さんの真っ向勝負、私の中では今回の『ホフマン物語』公演の中で、ハイライトの中でも最頂点の場面であったと捉えております。

3幕は幕開け、ダーパテュートとして下手側の寝台で仰向けに寝そべりながらのお寛ぎ姿に、(顔にマントの布をふわりとかけていたかも)
そして花籠頭に乗せた奇怪な少年ぽいお小姓を侍らせながら戯れる光景に仰天。このシーンの記憶は初演再演ともに残っておらずでした。
マリインスキーのシェヘラザードの金の奴隷をスキンヘッドにして半魚人化したような摩訶不思議な頭飾りや衣装であってもコスプレ大魔王にならず
露出した筋骨隆々とした肉体美の刺激の強さに骨抜きにされた私でございます。
妖艶でカラフルな衣装や万華鏡のような照明に溢れる魔窟の空間であっても身体の使い方や手を差し出す振り上げる仕草1つで
場を瞬時に取り仕切り、空気を潔く一変させる支配力にまたもや呑まれそうになりました。
ホフマンの信仰を捨てさせようと隣に座らせてホフマンのお膝をすりすり撫でている行動も恐ろしくもありながら
1幕のオカンなスパランザーニ、2幕の悍ましいドクター、と通して観るとそう容易には諦めがつかない、物流梱包用強力ガムテープを超える粘着質な性格と窺え納得。
柴山さんジュリエッタとはホフマンの身を滅ぼしそうな勢いでの共謀誘惑のパ・ド・ドゥもリフト多彩な振付を遠心力を繰り出してぎりぎりの淵まで大胆に魅せていて
ジュリエッタは長いスカート、ダーパテュートは魚風の頭飾りやマントで衣装の都合上リフトしづらい、動きづらい作りであっても
舟歌の盛り上がりと呼応しながら駆け抜け、腰の入れ方も深々としていて益々ホフマンから理性を失わせようと企む2人に心臓がぞわぞわと衝撃を受けた思いがいたします。

エピローグではプロローグの終わり頃に向かった店内の奥から戻ってすぐさま再びリンドルフ議員に。元のお席に腰掛けて気難しい表情でホフマンを眺めるも、
何食わぬ顔でラ・ステラを攫って最後の最後までホフマンから幸運を奪っては取り憑く悪魔な姿に、
また絶望して1人取り残されたホフマンに対して指差しで冷徹に追い詰め、地獄まで追っかけていきそうな闇に落とすほどの怨念に震え上がるしかございませんでした。
黒い衣装や黒手袋、シルクハットも絵になっていて、ドイツの歴史ホラー映画に登場しそうな自然味であったのも忘れられません。

このあとにも述べますが、前回の再演時に中家さんが踊られた舞台を観て踊りも芝居も見応えある役と印象が変わったわけですが
渡邊さんの場合更に凄みや内側から放つダークな色気に圧倒され、また悪役とは言っても品を損なわず
品格と悪のせめぎ合いをすれすれの箇所まで引き伸ばした状態で描写。
可愛らしいお茶目な要素で楽しませるときもあれば、怖いときは徹底して猛毒のような棘を眼光に宿し身に纏いながらの攻撃もあり、
踊りはそこまで無いながら場を持たせる難易度が高そうな2幕での鋭く冷徹な色気といい、全編通して振り幅の広さにも期待を遥か上をいく造形でした。
急速にキャンバスに色付けして仕上げるように1本の作品の中で全く異なる役への4変化を魂を丸々変えて生き、
幕ごとに様々な人物の橋渡しをする司令塔な存在に今回は一段と思えました。配役されて欲しいとはずっと願っていたものの正直ここまで魅せられるとは思わず。
絶えず人々に囲まれてる人気者なホフマンに嫉妬を募らせ、何十年にも渡って人生を賭けてあらゆる人物に変身しながら
ホフマンを脅かし続ける運命共同体な存在に身を焦がされるような多幸なる衝撃が止まらぬ、2024年の二・二三リンドルフ事件でした。

2018年の再演時に初役で登板され、俊敏に畳みかけるテクニックや様々な主役級女性と組むパートナーリングもスムーズで作品全体を掻っ攫っていた印象すら持たせ
リンドルフ(他)のイメージを一新された記憶が今も残る中家さんは、パワーの押し出しが強く、
また今回は強面な場面であっても仄かに愛嬌宿り、ホフマンの横取りが一段と楽しそうで、プロローグで腰掛けているときはじっと見据えて真剣に作戦を練っている様子。
召し使い達と踊るスパランザーニの踊りは豪快に刻んで素早く、太い線で急速に軌跡を描いてはふと茶目っ気たっぷりに召し使い達にあれこれ指示。
オリンピア人形に差し込む腕部分の扱いも滑らかで、そして案外几帳面なのか人々が大勢入ってくる間は横に
置いたオリンピア人形のスカートの裾を入念に整えていて細かい箇所まで目が離せず。
2幕では対抗してくるホフマンをガシッとねじ込み、ただピアノ椅子に座らせたホフマンに嫌々ピアノを弾かせる下りは立ち姿勢を保ちながら押さえ込む作戦で、
ホフマンの肩を掴む手先から伝っていく握力の強さでみるみるとホフマンは追い詰められていった印象です。
後にも述べますが、お小姓2人と怪しく戯れる冒頭から未成年禁制な世界まっしぐらであった3幕は
ジュリエッタと組むと先程のお小姓達とのおふざけな様相は消え去り、複雑なリフトも易々と披露して華麗にジュリエッタを見せ、
理性を失うまいと奮闘するホフマンを叩きつけるように誘惑。井澤ホフマン、奥村ホフマンともに
泣き出しそうになるのは無理もなく、可哀想な姿が更に助長された場面でした。

何度か申し上げているように私はこの作品、2015年のバレエ団初演時から好きで
当時は新国立劇場観劇歴史上最も初台に情熱を注いでいない時代であったにもかかわらず(失礼。元祖王子は西側に拠点を移され、新鋭王子は出現前)
つまり作品自体がすぐさま気に入ったのです。新国立での一新上演における作品印象底上げに貢献したのが2002年に鑑賞した、
既にレパートリー入りして旧ソ連公演でも上演していた牧阿佐美バレヱ団公演での鑑賞でしたが、
とにかく全体が暗鬱としていて記憶にあるのは舟歌の曲が流麗だったくらい。衣装はもっとゴテゴテしていたかと思いますが(記憶が彼方)
当初新国立バレエがレパートリー入りすると聞いたときはぞっとしまして、
2002年サッカー日韓W杯の年に観たあの暗いバレエの新国立での上演決定に口あんぐりしたものです。
しかしいざ初演舞台を観てみると印象一変、衣装はお洒落で明るい色使いな場面も増えて
幻影や魔窟も通して観ると全体が洗練された統一感で纏まったと安堵したのでした。
3幕の魔窟男性衣装はちょいと横に置くとして笑、前田文子さんデザインの衣装効果や照明、美術の影響は印象を大きく左右。
それでも、新国立初演時の不人気は否めず。周囲からも、バレエ名場面貼り合わせ作品やら、好意的な意見が聞こえづらかったのは事実です。
再演も客入りは非常に伸び悩んでいたかと思いますし、売れ行き伸び悩みを見越して回数も少なめの3回にとどめておいたのではと思うくらいです。

ただ今回大幅に印象を良い方向に変えた要素もあり、最大の1点はプロローグとエピローグにおけるホフマンの描き方。
これまでだいぶ老けメイク老け髪型(加えて初演時は浮浪者な雰囲気が汗)であったのがとてもナチュラルな風貌に変更。
思えば若い友人がいて、客達やメイドさん達からも人気者なモテ男ホフマンで常に誰かに囲まれているのですから清潔感は必須で
幕開けのカフェシーンからしてこれまでと全く異なる張りの良さでございました。青年期から年齢を綺麗に重ねた延長にあることがよく窺える造形です。

コール・ド・バレエや群衆の描き方も幕ごとに味付けがらりと変わって面白く、1幕若きホフマンとオリンピアの場面は
女性男性共に1人1人デザインが異なる明るく色鮮やかで瀟洒な衣装に身を包んでパレード或いはショーダンスな賑やかさで登場。
上から見ると斜め対角線上にシャキシャキ歩いていたかと思えば縦2列になって交差しながら隊列を変化させたり、
椅子にお行儀良く腰掛けて見物真っ只中のちゃっかりスパランザーニと挨拶交わす人もいたり笑
これといって創意工夫な振付ではなくてもワクワクと胸躍らせてくれる場面です。
新国立初演時この場面を初めて観たとき、暗鬱なだけの作風ではないとどれだけ胸を撫で下ろしたことか笑。
1人1人異なる衣装を眺めてはお気に入りの1点を見つける楽しさもございました。

2幕アントニアの夢の場面はトリプル・ビル等で抜粋にて上演して欲しいほどにコール・ドと照明美術の完成度が高し。
シックでクラシカル且つ男女ペアがしっとりと紡ぎ、ただ揃っているだけでなく
全員の優しい息遣いが徐々に射し込んでくる光と調和して、溜息がこぼれる幻想美な空間が出現。アントニアやホフマンを迎え入れる導きも息を呑む美しさです。
女性チュチュの膨らみにボリュームある丈や繊細な黒に流線形の模様で彩ったデザインも、
光に当たるたびに色彩が変わるように見え、よく練られた色味であると唸らせます。
今回気づいたのはコーダの途中、曲変化とともに照明が変わり、カタカナのコの字から鳥居型へ拡張する床照明の凝りようで、演出の細かさに再度驚かされました。
アントニアがバレリーナ姿になって現れる夢の場面への遷移がぶつ切りにならぬよう
ドクターミラクルによる呪いの催眠術でドクターとアントニアが一瞬袖へ引っ込むもすぐさま舞台にアントニアが現れ(実は別人が扮していて本物のアントニアは早替え中)
俯き或いは後ろ姿で立つのみならず、極力顔を上げないようにしつつドクターと踊りながら暫し場面の移り変わりを待つなかなかスリルある演出で
最初観たときは仕掛けが把握できず。いつ何処でアントニア着替えたのか理解するまで時間を要したほどで、
単なるアントニア着替えの時間稼ぎのための止むを得ない演出ではありません。それだけ夢の場面への移り変わりがスムーズなのです。

3幕は有名な舟歌で始まり、音楽も振付も小舟に乗ってゆったり揺らぐような情緒深さがあり、全体を覆うスモークも神秘的。
青や紫、オレンジ色もあったか、ステンドグラスや万華鏡を彷彿させる照明がひときわ綺麗で、そのまま迷い込みそうな不思議な色彩美でございました。
町中華風なランタンも吊るされていてダーパテュートは東洋趣味があるのだろうと脳内を巡らせつつ
照明やぼんやり眺める全体の光景にほろ酔いになったのも束の間、男性客人衣装にはこの度も度肝を抜かれ、勝手気ままに付けた名称をそのまま書き綴ると
当ブログはお若い層の読者様もいらっしゃいますため青少年の健全な人格形成に支障が出そうですので控えるものの笑
誰一人として恥じらい出している人がおらず、堂々とアピールしていましたからこちらもどんと構えて観るしかございません。
中家さんダーパテュートとお尻を突き出しての小姓2人の戯れ方にぎくりとするも、
令和のコンプライアンスが通じぬサロンと想像笑。決して不適切な描写ではないのでしょう。
まあ、令和のつい4、5日前だったか、どこかの議員さん達が踊り手達を宴に呼んで文字化も躊躇するサービスやら行為やらを多様性云々口実にして行っていた件とは違って
ダーパさんの魔窟はあくまで物語の世界での出来事でございます。

オペラのホフマン物語は一部分しか観ておらず勉強不足であるのはお許し願いたいところですが
歌無しであってもキャラクター達の声が明瞭に聴こえてきそうな編曲で、オリンピア登場のワルツでの星屑が舞い落ちるように節々でキラリと輝く軽やかな旋律もあれば
3幕では快楽まっしぐらにホフマンの理性をかき乱す熱量充満な曲もあり、
2幕でのホフマンがアントニアとの時間を互いに愛おしみながら歌うように展開する曲調も毎度聴き惚れておりました。
ピアノの音色が前半は幸せに満たされた潤いの粒が流れ落ちるように聴こえるも、
幻影の後はドクターミラクルが踏み切った暴挙からのホフマンへの追い詰め、アントニアの死の押し迫りに恐怖を思わすものへと変わり
アントニアの静かな最期が重たく引き摺られたまま3幕へと繋がっていた気がいたします。
ホフマンにとっては、アントニアと交わす愛情の象徴でもあったピアノが結果彼女を死へ至らせる残酷な楽器となってしまったのは悲運としか言いようがありません。

どうも劇場の広報不足なのかSNS等も発信はしていたものの、作品の取っ付きにくいイメージを払拭する勢いは感じられず。
1点1点見つめたくなるお洒落な衣装や『白鳥の湖』ロットバルトとは大違いの、見た目も魂も丸ごと4変化しながらホフマンを追い詰めるリンドルフの存在、
幻影の場面とはいっても女性のみの『ラ・バヤデール』や『眠れる森の美女』と異なって女性男女ペアで紡ぎ、装置照明との溶け合いに息を呑む幻影コール・ド・バレエ等
過去の映像や写真と説明付きで詳細に告知する等もう少しアピールできることはあったろうにと思います。
千秋楽は恐らくはこれまでのホフマン史上最も客入りが良かった印象で、残席の少なさに一安心いたしましたが
次回の再演時は公演回数も増やせるよう(くるみがドル箱であるのは分かるが)、望みが繋がりますことを切に願います。




キャスト表。お名前あります!!!



マエストロにて。今回のメニューはホフマンとリンドルフのサイン入り。この2役、運命共同体だからでしょう。



ベルリン風田舎オムレツホッペルホッペル。



鰯と新玉ねぎのアーリオオーリオ。しっかり渋めの赤ワインが進みます。リンドルフさんはカフェで何杯お飲みになっていたのでしょうか。



バイエリッシュクレーム  フルーツ添え。1幕のイメージでしょうか、可愛らしいパフェです。



2幕、幻想的な光景写真。とても好きです。



夜公演前のマエストロ。前菜の盛り合わせ、いつも明るい色合いです。



ペンネ。唐辛子が効いています。しかしこのあとはこの唐辛子以上に猛烈な刺激で襲いかかる悪魔にお目にかかるのでございます。



赤ワインも味わいました。



いつまでも胸に刻まれる舞台にダンケー!!バレエ版ホフマン物語の評価が前回より上がっていて(気のせいではないはず)、
新国バレエ初演時から作品好きな者としては喜ばしい限り。



そしてオアシスへ。また赤ワイン。



友人が選んでくれたケイジャン枝豆がスパイス効いていて益々ワインが進んでしまった。友人は何かのソフトドリンク。
今年は昨年とは大違いで、このお店で笑みが咲き誇る2月になって宜しうございました。
この作品中で最も観たいと思っていた役に配されて、出演もされて、
従来の役のイメージ打ち破る衝撃を心の奥底まで走らせてくださって。
2024年は私の2月、無事且つ幸せに終わりました。
ちなみに2月24日からちょうど1ケ月後は今度は異なる悪魔さんの魔術にかかる予定でおります。(もう来週やないか)
2ヶ月連続、悪魔な月になりそうです。

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