2024年3月31日日曜日

マリインスキー版踏襲の磨き上げ  東京シティ・バレエ団『眠れる森の美女』3月23日(土)







3月23日(土)、東京シティ・バレエ団『眠れる森の美女』を観て参りました。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000965.html


オーロラ姫:清田カレン
デジレ王子:キム・セジョン
リラの精:植田穂乃香
カラボス:濱本泰然


清田さんはカラッと晴れやかなパワーに満ちたオーロラ姫。バレエ団にもよりますがシティでは登場曲が響くと同時にすぐさま姿を見せる振付のため
私個人としてはもう少し溜めて引っ張って待たせてからの出現の方が好みではあるものの
現れた瞬間からぱっと華やぐ香りを全身から放ち、全幕オーロラ初役が信じ難いほどに伸びやかでエネルギッシュなステップで喜びを弾けさせての登場でした。
部屋でおとなしく刺繍や読書よりもお城の庭を駆け回っては侍女達を困らせていたであろう活発な幼年期を過ごしていたお姫様を想像いたします。
4人の王子達とのローズアダージオも堂々たるもので、手を取ってのバランスも危うさ無く、初々しくも既に座長な風格すら備えていた印象。
薔薇の花を両親に渡したり、床へ一旦投げる仕草も丁寧で、王妃が芳しそうに持っていたこともあって
薔薇の匂いが客席まで香ってきそうな幸福に満ち足りたアダージオでした。

2幕は表情は抑えつつも身体が音楽と一緒に豊かに語って、場合によっては姫ではなく観客側がリラの睡眠魔法にかかりがちな(失礼)場面であっても
オーロラと、彼女をゆったりと受け止め恋焦がれながらリラの指示を仰ぐキムさん王子の行く末を見守りたい心持ちにさせられ
3幕はとことん絢爛な踊りが続いた最後の最後の登場で祝宴のバロメーターを頂点に引き上げる貫禄の姫君として
グラン・パ・ド・ドゥを厳粛且つ祝福感を溢れさせながら披露。ヴァリエーション冒頭のアチチュードのポーズも空間を大きく捉えるような大らかさと安定感にうっとり。

リラの植田さんは確固たる守り神な佇まいでプロローグの登場から安心感を持たせる妖精。
背中がとても強く、ソロにおける盤石な軸から繰り出す上体の柔らかな動きや腕のキープ力にも目を見張り
カラボスと対峙しても迫力負けしない威風堂々とした振る舞いにも感嘆。まさに妖精のリーダーらしい城内を取り仕切る存在感でした。

エレガントなゴージャス感で楽しませてくださったのは濱本さんのカラボス。力で押し出すタイプとは異なる、
すっと美しく静かな身のこなしから急に目をギラリとさせながらの表情一変が恐ろしく、指先も綺麗な動かし方で城の人々を脅かしていらっしゃいました。
前回観た力強く豪快なゴージャス感で物語を動かしてくださっていた石黒善大さんとは全く違ったアプローチで、お2人ともそれぞれに魅力的です。

小栗菜代子さんデザインの衣装のセンスの良さも挙げずにはいられず。オーロラ姫の1幕の小花で彩られた淡いピンク色、2幕の白、3幕の白とシルバーを合わせた婚礼衣装どれも目に響き
またプロローグの6人の妖精とリラの妖精達のきらりとしたパステルカラーとやや渋みある色を組み合わせた落ち着いた品のある色彩美の並びには何度心が雫で潤ったことか。
勿論妖精ソリストは皆さん色違い(これ大事!!)
ただでさえ音楽や振付共に眠りで最も好きな場面であるパ・ド・シスの冒頭部分で、興奮と歓喜が噴水の如き沸き上がっていた管理人でございます。
ダイヤ、金、銀、サファイアの宝石達のぱっと目を惹く、しかしゴテゴテし過ぎないカチッとした豪華さも輝きを放ち、しかも全員が美しい技術の持ち主。
特にダイヤの石井日奈子さんがコントロール力が抜群で素早い振付であっても長い手脚を持て余すことなく、
ダイヤのカラットの煌めきを音楽と共鳴しながら体現なさっていた印象です。

上演時間は約3時間15分に及ぶ長大作品ながらダレる部分が見当たらず、時間の経過が随分と速いと思えたほど。
近年は省略されがちな鬼と親指小僧は子役も登場するも、あくまで鬼の超絶技巧を前面に出して見せるよう意識がなされていたのか、
また衣装もなかなかお洒落で突如世界観が台無しな事態にもならず、王宮の美意識が途切れず流れていた気がいたします。
鬼役土橋冬夢さんがキレキレテクニックで空中を切っていらっしゃいました。
猫の松本佳織さん林高弘さんの軽妙な踊りのやり取りも可愛らしく、時間戻りまして狩猟の場面にて伯爵夫人に岡博美さんが出演され
洗練された優雅な身体の使い方が頭1つ抜けた感もあり、ぐっと引き締める効果大でした。

今回もラリッサ・レジュニナさんが来日されて直接指導。2020年時以上に全体が磨き込まれ、優雅さや精度の統一感も格段に上昇。
マリインスキーで長年上演されているセルゲイエフ版を踏襲しつつシティらしい爽やかな味付けがなされた、総力結集な大掛かり公演でした。
カーテンコールにはレジュニナさんも登場。映像化もされた、キーロフ(当時)の新星として18歳にして眠り全幕でオーロラ姫を踊られた
きらきら愛らしく初々しいお姿な写真はソ連時代の当時からよく見ておりました。
可愛らしい品が香るお顔立ちやすらりと綺麗な立ち姿は今もお変わりなく、脳裏に刻まれております。

前回公演も頗る評判が良く、今回新国立中劇場で2回のみの公演回数であったため完売も早く、可能であればもう1公演打っていただけたらと思えてならず。
次回上演時はご検討願えたら幸いです。




帰りは瑞々しいピンク色の春限定カクテルで乾杯。私には不似合いですが笑。
1幕オーロラ姫の衣装は、シティで採用しているような淡いピンク色が好みです。

0 件のコメント: