2024年3月29日金曜日

生死を考えるトリプル・ビル   スターダンサーズ・バレエ団  オール・ビントレー 3月16日(土)





3月16日(土)、スターダンサーズ・バレエ団オール・ビントレーを観て参りました。
https://www.sdballet.com/blog/20240130/



雪女


The Dance House



Flowers of the Forest


Flowers of the Forest
音楽 マルコム・アーノルド、ベンジャミン・ブリテン
美術 ジャン・ブレイク

スコットランドの明るく朗らかな面と悲しみが入り乱れてきた面の双方を描いた作品で、
バレエ団初演時やNHKバレエの饗宴、吉田都さんの引退公演など何度か観ております。
序盤から早乙女愛毱さんが闊達な脚技を魅せ、キルトや帽子姿も可愛らしい。徐々に人数が増えてお祭りな喜び溢れる光景と化していく、
そしてウイスキーを飲み過ぎて泥酔しながら千鳥足で歩行するほろ苦くも笑ってしまう流れも毎回心を浮き立たせてくださいます。
何組もが一斉にリフトされたり、ポーズを作り出して行く様子もきりっとシャープで輪郭くっきり。
忙しいステップてんこ盛りながら、慌ただしさを感じさせず寧ろ脚先からもみるみると歓喜が紡がれていく踊りの連続で、スタダンの鍛錬が窺えました。
中間部のスコットランドのバラードの主軸は塩谷綾菜さん林田翔平さん。お2人とも明朗系な場面の印象があり、悲哀を帯びた陰鬱な場への登場はなかなか新鮮で
戦争の影が忍び寄る中で重々しくも必死に光を見出そうと丹念に情感を寄せ合いながら踊る姿が目に残っております。
昨今の情勢を思うと、これまで以上に心身に重たく覆い被さる場面でした。
フィナーレは再び颯爽と明るい場面へ。明暗明の対比がはっきりと色付いていた今回のフラワーでした。


The Dance House

音楽 ドミトリー・ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲第1番
美術 ロバート・ハインデル
ピアノ 小池ちとせ
トランペット 島田俊雄

スタダンのブログによれば、<中世ドイツの “死の舞踏”からインスピレーションを受け、
エイズにより若くして亡くなった友人への哀歌としてビントレーが振り付けたバレエ>とのこと。
初演は1995年サンフランシスコ・バレエ団で、ビントレー版『カルミナ・ブラーナ』英国初演と同年でございます。
スタイリッシュで奇抜な色味の組み合わせがありつつも、ソリストも群舞も音楽もトリッキーなテクニック炸裂の連続で
少数の出演者だけでなく大人数群舞で立ち位置を変形させながら難解なステップでひたすら踊り続ける光景に感嘆。
序盤はバーから始まるため基礎力を誤魔化せず、中間部からは東真帆さんの目が眩むような身体の艶かしい使い方や真っ直ぐ伸びた脚線の美しさ、
冨岡玲美さんの精密機械のように刻んでいく踊り方もヒリヒリとした刺激に満ちた展開でした。

ロビンズ振付『コンサート』では演者の1人して舞台上に設置されたピアノで活躍された小池ちとせさん、
トランペット島田俊雄さんの演奏と踊りが競い合うように畳み掛けるめまぐるしさも興奮を強め
死の恐怖や哀感、そしてスパイスの効いた要素が混ざり合った追悼作品と受け止めております。

※作品解説、詳しく掲載されています。
https://www.sdballet.com/blog/20240216/


雪女

音楽 イーゴリ・ストラヴィンスキー 妖精の接吻 美術 ディック・バード

雪女/お雪   渡辺恭子
巳之吉   池田武志
太郎(2人の子供)  山田成輝
巳之吉の母  井後麻友美
茂作   大野大輔
シャーマン(祈祷師)   鴻巣明史


池上直子さん振付では2年前に大和シティー・バレエで観ており、ビントレーさんの手にかかるとどう調理されるか、また日本を題材にしているため
日本で生まれ育った者からすると違和感を覚える箇所発生の心配もしつつ鑑賞に臨みました。
渡辺さんが触れると凍りつきそうな幽玄な雪女で、顔から首にかけての細い筋もただならぬ存在感を後押し。
儚くも冷たい風情を漂わせ、白い布をさらりと纏っての振る舞いや恐々とした目元、僅かに口角を変化させるだけで喜怒の変わりようがはっきりと伝わる表現も見事でした。
お雪のときは親しみやすいチャーミングな女性で、村の人々に愛される人懐っこさも備えていてとても正体が雪女とは思えず。

池田さんの巳之吉は素直そうな若者で、暴風雪の中を凍えながら歩く様子や雪女とのやりとりにおける心の震えや静かな衝撃を丁寧に体現。
祭りの中で繰り広げるお雪とのパ・ド・ドゥやソロは物語のイメージを覆す高度なテクニックなステップ満載で
縦に横に移動も多いながら渡辺さん池田さんともに揺るぎない技術を次々に披露して沸かせてくださいました。ただやや長く感じて冗長に思えてしまったのは否めず。
雪達がおどろおどろしく駆け抜けながら冷たく吹き荒ぶ場面と、朗らかな村の対比をしっかりと出し、
お雪と巳之吉の間に生まれた子供達との戯れはほのぼのと快活。また巳之吉の母親役の井後さんが渋い味を出し、
突然愛息子に舞い降りた幸福を手放しに喜べず何処か不安げに見つめる姿も目に残っております。
舞台後方に設置された、上手側に向かって登り道である大きな坂は、最後効果的に作用。
巳之吉が約束を破ってしまったためにお雪が雪女に姿を変え、巳之吉を許すまいと登っていく拒絶の儀式にも見え、
バヤデールとよく似た構図と見て取れた演出です。静かに沁み入る結末でした。

お雪の服が梅柄のワンピースで、しかし子供がこいのぼりを持ってはしゃぐ姿も描かれ、
『パゴダの王子』と同様にビントレーさんが抱く日本文化のイメージに疑問を持つ箇所もあったものの
ストラヴィンスキーの曲が雄弁に語り、雪女と巳之吉の出会いから命懸けな別れまで
場面ごとに踊りの見せ場も用意して色付けして繊細さと賑わいを交互に描いて飽きさせない演出に纏めたビントレーさんの手腕を讃えたい思いでおります。








借りてきた雪女の本。訳文の執筆者が異なると趣も大きく変わり、骨太にはっきりと綴っていらっしゃる高村忠範さんに対して
平井呈一さんは静謐に線が細い印象。読み比べが面白く感じた次第です。



終演後はスコッチウイスキー。瓶が重厚。



ロックです。

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