2021年2月14日日曜日

バレリーナを夢見る新解釈 NBAバレエ団 ヨハン・コボー版『シンデレラ』 2月6日(土)




2月6日(土)、NBAバレエ団 ヨハン・コボー版『シンデレラ』を観て参りました。世界初演の初日です。
https://www.nbaballet.org/performance/2020/cinderella/

スパイスイープラスにコボーさんへのインタビューが掲載されています。
https://spice.eplus.jp/articles/281838

シンデレラ:高田茜
ピアニスト(シンデレラの継母):関口祐美
2人の姉(シンデレラの義理の姉):
ホワイト 岩田雅女
ブラック:浅井杏里
教師:峰岸千晶
王子:宮内浩之
ヴァイオリニスト:大森康正
男子生徒:刑部星矢
3人の女子生徒:井上優紀/白井希和子/向山未悠
ドリームポスター:竹田仁美
スワンポスター:佐藤圭
レッドポスター:鈴木恵里奈



高田さんの舞台は2018年のバレエ・アステラスにおける大トリ『ジュビリー』パ・ド・ドゥ以来の鑑賞で、
友人に代わって足を運んだ一昨年の来日公演『ドン・キホーテ』に主演予定でしたが怪我で降板され、待望の国内公演全幕初主演です。
空間を大きく使い芯ある柔らかな踊りを繰り出し、バレリーナ志望の少女の物語設定においてヒロインの変貌をいじらしく華々しく表現。
ピンク色の古めかしいワンピース姿は純朴で愛らしく、しかし隠しきれない華は内側から表れ、隅っこにいても、水撒きしたり
譜めくり係を担当していても目を惹くオーラが眩いこと。

岩田さんと浅井さんによるシスターズが大胆な笑いを与え、時には身体を思い切り張っての王子への言い寄りも濃厚。
シンデレラに対しては意地悪ではあっても陰湿にはならず、目立ちたい願望を募らせて前へ出しゃばったりとシンデレラへのいじめはさほど多くなく
その分絡むときは遠慮なしに絡んで関係性をはっきりとさせ、 またいじめる場面よりもお姉さん同士のバトルに焦点を当てたスカッとする演出も好印象。
バーレッスンでの悪戯し合う様子もやり過ぎず、されどここぞのときには足を技と激突させて思い切りずっこける鉄板なコンビぶりも
作品をより楽しいものへと引き上げてくださいました。レッスンでのお団子2つの髪型も憎めぬ可愛らしさで、岩田さんがホワイト、浅井さんがブラックと名付けられ
各々白鳥と黒鳥の衣装を纏っても登場。早替えが抜群に早く、チームの結束力を思わせるひと幕です。

じわりと毒々しさを放っていたのは関口さん。シンデレラを譜めくり係として座らせるときも冷たい表情で接し、胃が縮み上がりそうでございます。
しかし黒く長めの丈の衣装がきりっと決まっていて、同時に惚れ惚れいせずにいられず。

シンデレラに、舞台全体に安心感をもたらしていたのは峰岸さんの教師。(仙女な役割)
踊りはダイナミックで優雅ながら毅然とした立ち振る舞いでシンデレラを見守って導き、初日でまだ全体がやや硬めであった舞台の序盤を
ビシッと纏め上げる頼もしさに、ベテランの誇りを見せていただいた思いがいたします。

役柄の設定の捉え方が難しいと感じたのは王子で、王族の生まれではない設定(恐らく)で、しかしレッスン場での皆の憧れのスターであり
2幕では宮殿な雰囲気の中でシンデレラをパートナーとして踊るため、立ち位置が掴みづらいと思えたところ。
宮内さんのパートナーリング、ソロ共に安定しただけに「女性の理想を結晶化した究極の王子」として刷り込まれている役柄の新解釈の難しさとして捉えております。

仕掛けで面白かったのはポスターで、レッスン場に3枚掲示。それぞれに白鳥、ドリーム(恐らくタイターニア)、レッド(火の鳥らしい絵)が描かれ
シンデレラがひとりぼっちになったふとした瞬間にビリビリと音を立ててまずはドリームポスターから絵そのままの衣装でタイターニアなキャラクターが登場。
ドリフの障子破りコントと同級の音量で(生での鑑賞経験はございませんが)、一瞬何事かと落ち着かなかったほどです。
四季の精として描かれる演出が多い場面に3人を当てはめてドリームにはバッタとトンボの曲で軽快に跳ねるテクニックが竹田さんの持ち味によく合い、
秋がレッドで吹き荒ぶ曲調と鈴木さんの豪快な踊りの噛み合いも宜しく、冬がスワンで白がそのまま従来のイメージを引き継いで
優美な羽ばたきがしんしんと降る雪の旋律に溶け合い、3役それぞれ曲との調和が取れていた印象です。

1幕前半は踊りの箇所が少なくやや話の進展がゆっくりと感じられてしまい、これまで『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲』『ケルツ』『海賊』『11匹わんちゃん』など
身体能力が高いNBAダンサーの魅力を十二分に引き出すテクニック満載な、踊りでぐいぐいと進展させていく作品を鑑賞してきたため
尚更思えてしまったのかもしれません。ただ後半は色とりどりの衣装姿をした舞踏会のカップル達や
流星群を散りばめたような背景と似た模様で彩られた星々達のコール・ドの大掛かりな見せ場がふんだんにあり満足度の高い振付でした。
高田さんのソロも豊富で、途中からは金に近い黄色いチュチュに着替えて夜空を背景に軽々と舞い、弧を描く長い手脚も美しく魅せていました。

最後はしんみりと、しかし寂しさは無くかねてからシンデレラに思いを寄せていたヴァイオリニスト(舞踏会では道化であった!?)と
手を取り合いレッスン場をあとにして幕。静かで堅実さのある幸福な結末でした。

新規入国制限により当初シンデレラ役に予定されていたフランチェスカ・ヘイワードの招聘が不可能になってから高田さんの出演決定発表まで非常に早く
何よりこの状況下にコボーさんが来日され隔離期間を経て指導を続け、 全幕世界初演の実現に心より拍手を送りたいと思います。
上演前にはコボーさんのプレトークあり。喋り過ぎないよう気を配りながら一生懸命語るお姿から、NBAとの初仕事が幸せな時間であったのであろうと想像。

コボーさんとシンデレラで思い出すのは。13年前の新国立劇場『シンデレラ』客演。パートナーが怪我で途中降板してしまい
舞台監督が指揮者に事情を伝える時間もなかったのでしょう。順番からして先に披露するはずのシンデレラヴァリエーションのときに突如登場して
舞台の上から自ら指揮者に穏やかに語り掛けて王子の曲の演奏を促して2人でオレンジ持つお小姓と並び歩く場面はお1人でこなし
2幕中盤以降当日はアンダーのペアが続投した初日。カーテンコールでは私服姿で控えめに登場して深々と一礼し、
てんてこ舞いな出来事があったとは思えぬほど落ち着いたお姿であったのは今も忘れられません。
他日代役を務めたさいとう美帆さんとの共演もぎこちなさが無く、当時の光景を思い出しつつ困難を乗り越えて実現したNBAシンデレラ全幕世界初演を讃えた初日夜でした。




上野も飲食店は20時終わりのため真っ直ぐ帰宅後、レシピを参考に
シンデレラカクテルを作りホワイトベルグビールを入れてアルコール増しにしてみた。1秒で完飲。

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